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最高裁判所第二小法廷判決平成21年09月11日

【事案】

1.本件本訴は,貸金業者である上告人が,借主である被上告人Y1及び連帯保証人であるその余の被上告人らに対して貸金の返済等を求めるものであり,本件反訴は,被上告人Y1が,上告人に対し,上告人との間の金銭消費貸借契約に基づいてした弁済につき,利息制限法所定の制限利率を超えて支払った利息(以下「制限超過利息」という。)を元本に充当すると過払金が発生しているとして,不当利得返還請求権に基づき過払金の返還等を求める事案である。上告人において,期限の利益喪失特約に基づき被上告人Y1が期限の利益を喪失したと主張することが,信義則に反するか等が争われている。

2.事実関係の概要等

(1) 上告人は,貸金業法(平成18年法律第115号による改正前の法律の題名は貸金業の規制等に関する法律)3条所定の登録を受けた貸金業者である。

(2) 上告人は,平成15年3月6日,被上告人Y1に対し,400万円を次の約定で貸し付けた(以下「本件貸付け@」という。)。

ア.利息  年29.0%(年365日の日割計算)
イ.遅延損害金  年29.2%(年365日の日割計算)
ウ.弁済方法  平成15年4月から平成20年3月まで毎月1日限り,元金6万6000円ずつ(ただし,平成20年3月のみ10万6000円)を経過利息と共に支払う。

 被上告人Y は,平成15年3月62 日,上告人に対し,本件貸付け@に係る被上告人Y1の債務について連帯保証した。

(3) 上告人は,平成16年4月5日,被上告人Y1に対し,350万円を次の約定で貸し付けた(以下「本件貸付けA」という。)。

ア.利息  年29.0%(年365日の日割計算)
イ.遅延損害金  年29.2%(年365日の日割計算)
ウ.弁済方法  平成16年5月から平成21年4月まで毎月1日限り,元金5万8000円ずつ(ただし,平成21年4月のみ7万8000円)を経過利息と共に支払う。

 被上告人Y3は,平成16年4月5日,上告人に対し,本件貸付けAに係る被上告人Y1の債務について連帯保証した。

(4) 上告人は,平成17年6月27日,被上告人Y1に対し,300万円を次の約定で貸し付けた(以下「本件貸付けB」といい,本件貸付け@,Aと併せて「本件各貸付け」という。)。

ア.利息  年29.2%(年365日の日割計算)
イ.遅延損害金  年29.2%(年365日の日割計算)
ウ.弁済方法  平成17年8月から平成22年7月まで毎月1日限り,元金5万円ずつを経過利息と共に支払う。

 被上告人Y4は,平成17年6月27日,上告人に対し,本件貸付けBに係る被上告人Y1の債務について連帯保証した。

(5) 本件各貸付けにおいては,元利金の支払を怠ったときは通知催告なくして当然に期限の利益を失い,残債務及び残元本に対する遅延損害金を即時に支払う旨の約定(以下「本件特約」という。)が付されていた。

(6) 被上告人Y1は,本件貸付け@,Aについては平成16年9月1日の支払期日に,本件貸付けBについては平成17年8月1日の支払期日に,全く支払をしておらず,いずれの貸付けについても,上記各支払期日の後,当初の約定で定められた支払期日までに弁済したことはほとんどなく,支払期日よりも1か月以上遅滞したこともあった。

(7) 上告人は,被上告人Y1から本件各貸付けに係る弁済金を受領する都度,領収書兼利用明細書を作成して同被上告人に交付していたところ,いずれの貸付けについても,上記(6)記載の各支払期日より後にした各弁済(以下「本件各弁済」と総称する。)に係る領収書兼利用明細書には,弁済金を遅延損害金のみ又は遅延損害金と元金に充当した旨記載されており,利息に充当した旨の記載はない。

3.原審は,上記事実関係の下において,次のとおり,上告人が本件各貸付けについて本件特約による期限の利益の喪失を主張することは信義則に反し許されないと判断した。そして,本件各貸付けのいずれについても被上告人Y1に期限の利益の喪失はないものとして本件各弁済につき制限超過利息を元本に充当した結果,本件各貸付けについては,いずれも元本が完済され,過払金が発生しているとして,上告人の本訴請求をいずれも棄却し,同被上告人の反訴請求を一部認容した。

(1) 被上告人Y1は,本件貸付け@,Aについては,平成16年9月1日の支払期日に支払うべき元利金の支払をしなかったことにより,本件貸付けBについては,平成17年8月1日の支払期日に支払うべき元利金の支払をしなかったことにより,本件特約に基づき期限の利益を喪失した。

(2) しかしながら,被上告人Y1は,本件貸付け@,Aについては,その期限の利益喪失後も,基本的には毎月規則的に弁済を続け,上告人もこれを受領している上,平成17年6月には新たに本件貸付けBを行い,本件貸付けBについても同被上告人はその期限の利益喪失後も弁済を継続しており,上告人が期限の利益喪失後直ちに同被上告人に対して元利金の一括弁済を求めたこともうかがわれないから,上告人は,同被上告人が弁済を遅滞しても分割弁済の継続を容認していたものというべきである。そして,本件各貸付けにおいては約定の利息の利率と遅延損害金の利率とが同率ないしこれに近似する利率と定められていることを併せ考慮すると,領収書兼利用明細書上の遅延損害金に充当する旨の表示は,利息制限法による利息の利率の制限を潜脱し,遅延損害金として高利を獲得することを目的として行われたものであるということができる。そうすると,被上告人Y1に生じた弁済の遅滞を問題とすることなく,その後も弁済の受領を反復し,新規の貸付けまでした上告人において,さかのぼって期限の利益が喪失したと主張することは,従前の態度に相反する行動であり,利息制限法を潜脱する意図のものであって,信義則に反し許されない。

【判旨】

1.原審の上記3(1)の判断は是認することができるが,同(2)の判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 原審は,上告人において,被上告人Y1が本件特約により本件各貸付けについて期限の利益を喪失した後も元利金の一括弁済を求めず,同被上告人からの一部弁済を受領し続けたこと(以下「本件事情@」という。),及び本件各貸付けにおいては,約定の利息の利率と約定の遅延損害金の利率とが同一ないし近似していること(以下「本件事情A」という。)から,上告人が領収書兼利用明細書に弁済金を遅延損害金のみ又は遅延損害金と元金に充当する旨記載したのは,利息制限法による利息の利率の制限を潜脱し,遅延損害金として高利を獲得することを目的としたものであると判断している。
 しかし,金銭の借主が期限の利益を喪失した場合,貸主において,借主に対して元利金の一括弁済を求めるか,それとも元利金及び遅延損害金の一部弁済を受領し続けるかは,基本的に貸主が自由に決められることであるから,本件事情@が存在するからといって,それだけで上告人が被上告人Y1に対して期限の利益喪失の効果を主張しないものと思わせるような行為をしたということはできない。また,本件事情Aは,上告人の対応次第では,被上告人Y1に対し,期限の利益喪失後の弁済金が,遅延損害金ではなく利息に充当されたのではないかとの誤解を生じさせる可能性があるものであることは否定できないが,上告人において,同被上告人が本件各貸付けについて期限の利益を喪失した後は,領収書兼利用明細書に弁済金を遅延損害金のみ又は遅延損害金と元金に充当する旨記載して同被上告人に交付するのは当然のことであるから,上記記載をしたこと自体については,上告人に責められる理由はない。むしろ,これによって上告人は,被上告人Y1に対して期限の利益喪失の効果を主張するものであることを明らかにしてきたというべきである。したがって,本件事情@,Aだけから上告人が領収書兼利用明細書に上記記載をしたことに利息制限法を潜脱する目的があると即断することはできないものというべきである。
 原審は,上告人において,被上告人Y1が本件貸付け@,Aについて期限の利益を喪失した後に本件貸付けBを行ったこと(以下「本件事情B」という。)も考慮し,上告人の期限の利益喪失の主張は従前の態度に相反する行動であり,利息制限法を潜脱する意図のものであって,信義則に反するとの判断をしているが,本件事情Bも,上告人が自由に決められることである点では本件事情@と似た事情であり,それだけで上告人が本件貸付け@,Aについて期限の利益喪失の効果を主張しないものと思わせるような行為をしたということはできないから,本件事情Bを考慮しても,上告人の期限の利益喪失の主張が利息制限法を潜脱する意図のものであるということはできないし,従前の態度に相反する行動となるということもできない。
 他方,被上告人Y1は,本件各貸付けについて期限の利益を喪失した後,当初の約定で定められた支払期日までに弁済したことはほとんどなく,1か月以上遅滞したこともあったというのであるから,客観的な本件各弁済の態様は,同被上告人が期限の利益を喪失していないものと誤信して本件各弁済をしたことをうかがわせるものとはいえない。
 そうすると,原審の掲げる本件事情@ないしBのみによっては,上告人において,被上告人Y1が本件特約により期限の利益を喪失したと主張することが,信義則に反し許されないということはできないというべきである。

2.以上によれば,原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決中,上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして,更に審理を尽くさせるため,同部分につき本件を原審に差し戻すこととする。

 

最高裁判所第三小法廷判決平成21年09月15日

【事案】

1.宗教法人である上告人が,A寺の庫裏及び本堂等(以下「本件各建物」という。)を占有してA寺の境内地(以下「本件土地」という。)を占有している被上告人に対し,本件土地の所有権に基づき,本件各建物から退去して本件土地を明け渡すことを求める事案。上告人は,被上告人が,上告人を包括する宗教法人であるB(以下「包括法人」という。)の懲誡規程4条1項3号所定の「宗旨又は教義に異議を唱え宗門の秩序を紊した」との擯斥事由に該当するとして,包括法人から擯斥処分を受けたことにより,A寺の住職の地位を失い,その結果,上告人の代表役員の地位も喪失したから,本件土地の占有権原を失ったと主張している。

2.原審は,上記擯斥処分の効力の有無が本件請求の当否を決する前提問題となっており,この点を判断するために上記擯斥事由の存否を審理する必要があるところ,そのためには,包括法人の「宗旨又は教義」の内容について一定の評価をすることを避けることができないから,上告人の訴えは,裁判所法3条にいう「法律上の争訟」に当たらないとして,これを却下した。

【判旨】

 所論は,上記擯斥処分は,包括法人の宗制では管長以外の者が法階を授与することは禁じられているにもかかわらず,被上告人が在家僧侶養成講座の講師として受講者に法階を授与したことを,その理由とするものであって,被上告人の上記行為が上記擯斥事由に該当するか否かについては,宗教上の教義ないし信仰の内容について評価をしなくても判断が可能であるのに,上告人の訴えを「法律上の争訟」に当たらないとした原審の判断には,法令の解釈を誤る違法があるというのである。
 本件記録によれば,上記懲誡規程5条1号は,「宗制に違反して甚だしく本派の秩序を紊した」ことを剥職事由として定めているところ,包括法人において,法階は,管長が叙任することとされているのであるから(管長及び管長代務者規程3条1項6号,法階規程1条2項),被上告人の上記行為が上記剥職事由に該当するか否かが問題となっているのであれば,必ずしも宗教上の教義ないし信仰の内容に立ち入って審理,判断する必要はなかったものと考えられる。しかし,上告人は,被上告人の上記行為が懲誡規程4条1項3号所定の擯斥事由に該当する旨主張しているのであって,この主張及び上記擯斥事由の内容に照らせば,本件訴訟の争点である上記擯斥処分の効力の有無を判断するには,宗教上の教義ないし信仰の内容に立ち入って審理,判断することを避けることはできないから,上告人の訴えは,裁判所法3条にいう「法律上の争訟」に当たらず,不適法というべきである。これと同旨の原審の判断は,正当として是認することができる。所論引用の判例(最高裁昭和61年(オ)第943号平成元年9月8日第二小法廷判決・民集43巻8号889頁最高裁昭和61年(オ)第531号平成5年9月7日第三小法廷判決・民集47巻7号4667頁,最高裁平成2年(オ)第508号同5年11月25日第一小法廷判決・裁判集民事170号475頁)は,事案を異にし,本件に適切でない。論旨は採用することができない。

 

最高裁判所第三小法廷決定平成21年09月28日

【事案】

 大阪府警察本部生活安全部所属の警察官らは,かねてから覚せい剤密売の嫌疑で大阪市内の有限会社A(以下「本件会社」という。)に対して内偵捜査を進めていたが,本件会社関係者が東京の暴力団関係者から宅配便により覚せい剤を仕入れている疑いが生じたことから,宅配便業者の営業所に対して,本件会社の事務所に係る宅配便荷物の配達状況について照会等をした。その結果,同事務所には短期間のうちに多数の荷物が届けられており,それらの配送伝票の一部には不審な記載のあること等が判明した。そこで,警察官らは,同事務所に配達される予定の宅配便荷物のうち不審なものを借り出してその内容を把握する必要があると考え,上記営業所の長に対し,協力を求めたところ,承諾が得られたので,平成16年5月6日から同年7月2日にかけて,5回にわたり,同事務所に配達される予定の宅配便荷物各1個を同営業所から借り受けた上,関西空港内大阪税関においてエックス線検査を行った。その結果,1回目の検査においては覚せい剤とおぼしき物は発見されなかったが,2回目以降の検査においては,いずれも,細かい固形物が均等に詰められている長方形の袋の射影が観察された(以下,これら5回の検査を「本件エックス線検査」という。)。なお,本件エックス線検査を経た上記各宅配便荷物は,検査後,上記営業所に返還されて通常の運送過程下に戻り,上記事務所に配達された。また,警察官らは,本件エックス線検査について,荷送人や荷受人の承諾を得ていなかった。

【判旨】

1.所論は,本件エックス線検査は,任意捜査の範囲を超えた違法なものであり,本件において事実認定の用に供された覚せい剤及び覚せい剤原料(以下「本件覚せい剤等」という。)は,同検査により得られた射影の写真に基づき取得した捜索差押許可状により得られたものであるから,違法収集証拠として排除されなければならないと主張する。

2.本件エックス線検査は,荷送人の依頼に基づき宅配便業者の運送過程下にある荷物について,捜査機関が,捜査目的を達成するため,荷送人や荷受人の承諾を得ることなく,これに外部からエックス線を照射して内容物の射影を観察したものであるが,その射影によって荷物の内容物の形状や材質をうかがい知ることができる上,内容物によってはその品目等を相当程度具体的に特定することも可能であって,荷送人や荷受人の内容物に対するプライバシー等を大きく侵害するものであるから,検証としての性質を有する強制処分に当たるものと解される。そして,本件エックス線検査については検証許可状の発付を得ることが可能だったのであって,検証許可状によることなくこれを行った本件エックス線検査は,違法であるといわざるを得ない。

3.次に,本件覚せい剤等は,同年6月25日に発付された各捜索差押許可状に基づいて同年7月2日に実施された捜索において,5回目の本件エックス線検査を経て本件会社関係者が受け取った宅配便荷物の中及び同関係者の居室内から発見されたものであるが,これらの許可状は,4回目までの本件エックス線検査の射影の写真等を一資料として発付されたものとうかがわれ,本件覚せい剤等は,違法な本件エックス線検査と関連性を有する証拠であるということができる。
 しかしながら,本件エックス線検査が行われた当時,本件会社関係者に対する宅配便を利用した覚せい剤譲受け事犯の嫌疑が高まっており,更に事案を解明するためには本件エックス線検査を行う実質的必要性があったこと,警察官らは,荷物そのものを現実に占有し管理している宅配便業者の承諾を得た上で本件エックス線検査を実施し,その際,検査の対象を限定する配慮もしていたのであって,令状主義に関する諸規定を潜脱する意図があったとはいえないこと,本件覚せい剤等は,司法審査を経て発付された各捜索差押許可状に基づく捜索において発見されたものであり,その発付に当たっては,本件エックス線検査の結果以外の証拠も資料として提供されたものとうかがわれることなどの諸事情にかんがみれば,本件覚せい剤等は,本件エックス線検査と上記の関連性を有するとしても,その証拠収集過程に重大な違法があるとまではいえず,その他,これらの証拠の重要性等諸般の事情を総合すると,その証拠能力を肯定することができると解するのが相当である。
 したがって,本件覚せい剤等を証拠排除せずに事実認定の用に供した第1審の訴訟手続を是認した原判断は,結論において正当である。

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