平成21年度旧司法試験論文式
商法第2問参考答案

第1.設問1

1.本件衣料品は、A社及びB社においてその個性に着目したという事実はないから、不特定物である。そうすると、本件衣料品には染色ムラや裁縫不良により販売に適さないという瑕疵(以下「本件瑕疵」という。)があり、A社が本件瑕疵を認識した上でこれを履行として認容したという事情もない本問においては、B社が給付に必要な行為を完了したとはいえず、特定は生じない(民法401条2項)。
 従って、A社はいまだB社に対して完全な履行を請求しうるから、その不履行を理由として解除しうるのが民法の原則である(民法541条)。

2.もっとも、商法526条2項は商人間売買について解除できる場合を制限する。本問ではA社及びB社は商人であり(会社法5条、商法4条1項)、本件衣料品の受領後、A社が遅滞なく検査を行った事実はなく、本件瑕疵は染色ムラや裁縫不良という外見上明らかなものであって、通常の検品によって発見可能と思われる瑕疵であるところ、他に「直ちに発見することのできない瑕疵」と認めうる事実はない以上、同項の適用によってA社は解除できないことになりそうである。

3.しかしながら、以下の理由により同項は債務不履行を理由とする解除には適用されないから、本問においてA社が本件衣料品の売買契約を解除することは妨げられない。

(1) 同項は目的物の瑕疵又は数量不足の場合を規定しているから、民法565条及び570条の担保責任の特則を定めたものであり、商法526条1項及び2項の定める検査及び通知の義務は、民法570条の「隠れた」の要件や同法565条及び566条1項の要件である買主の善意の要件を加重するものである。そうすると、そもそも瑕疵が隠れたものであること及び債権者の善意が要件となっていない債務不履行責任には、商法526条の直接適用の余地はない。

(2) また、商法526条の趣旨は、商人間売買の迅速性から善意(同条3項参照)の売主を長期間不安定な地位に置くことは相当でない反面、商人たる買主に検査義務を課しても酷ではないという点にあるところ、売主に故意過失があって債務不履行責任が成立する場合に、買主の検査懈怠を理由に本来的債務の履行を怠った売主を免責することは不合理であるから、同条の類推適用の余地もない。

(3) なお、判例には不特定物にも同条の適用があるとするもの、同条が適用される場合に完全給付請求が否定されるとするものがあるが、これらは履行として認容した上で担保責任を追及する場合について判示したものというべきであるから、債務不履行責任については上記判例の趣旨は及ばない。

4.以上から、A社は民法541条に基づいてB社との本件衣料品の売買契約を解除できる。

第2.設問2

1.小問(1)

(1)ア.手形上の法律関係は、高度の流通性確保の要請から原因関係により影響を受けない(無因)とされる(手形法(以下「法」という。)1条2号、75条2号)一方で、原因関係当事者間においては取引安全を図る必要性がないことから、原因関係上の瑕疵は人的抗弁とされる。

イ.本問において、本件手形振出しの原因となる本件衣料品の売買契約は合意解除されているから、A社はこれを人的抗弁としてB社に対抗できる。問題は、Cに対してもこれを対抗できるかである。

(2) ア.一般に、債権譲渡によって債務者が不利益を被ることのないよう、譲渡人に対抗できる抗弁は譲受人に対しても対抗できることが原則とされる(民法468条2項)。
 これに対し、手形の高度の流通性確保の要請から、手形債務者は手形所持人に対しその前者に対する人的抗弁を対抗できないことがむしろ原則であり、人的抗弁を対抗できるのは、所持人が手形債務者を「害することを知りて」(以下「害意」という。)手形を取得した場合に限られる(法17条、77条1項1号)。

イ.そこで、害意の意義が問題となるが、抗弁は必ず行使されるわけではないから、単なる悪意では足りず、満期において手形債務者が所持人の前者に対する抗弁を主張して支払いを拒むことは確実だという認識をいうと解すべきである。

ウ.本問では、Cが本件手形を取得した時において上記認識を有していたと認めるに足りる事情はうかがわれないから、Cに害意があったとは認められない。

(3) よって、A社は、B社に対する人的抗弁をCに対抗できないから、Cに対する支払を拒むことはできない。

2.小問(2)

(1) 手形割引は代金を支払って手形上の権利の移転を受けることであるから、その性質は手形の売買である(民法555条)。そうすると、手形割引の解除は、その遡求効(判例)によって直ちに割引人の手形上の権利を失わせるとも思える。

 しかし、物権関係とは異なり、手形上の法律関係は無因であるから、割引契約によって生じるのは依頼人が割引人に手形上の権利を移転すべき義務であって、手形上の権利自体の移転は、別途裏書をなすことによって生じる。従って、割引契約は裏書の原因関係に過ぎず、手形割引の解除は、原因関係の消滅であるから人的抗弁となる。

(2) 本問では、割引契約の解除によってAB間のみならず、BC間の原因関係をも消滅したことになる。

ア.このように、振出人・受取人間及び受取人・第1被裏書人間の原因関係がいずれも消滅している場合には、所持人たる第1被裏書人は手形金支払を求める何らの経済的利益も有しないから、法17条による抗弁切断の利益を受け得ない(判例)。

イ.よって、本問で上記第1被裏書人の地位にあるCは法17条、77条1項1号による抗弁切断の利益を受けることができないから、A社はB社に対する人的抗弁を主張してCへの支払を拒むことができる。

以上

戻る