最新最高裁判例

最高裁判所第二小法廷決定平成21年09月29日

【事案】

1.被告人Aに対する公職選挙法違反被告事件に係る再審請求事件の弁護人に選任された申立人が,再審請求のための記録確認を目的として,上記被告事件に係る刑事確定訴訟記録(以下「本件保管記録」という。)の閲覧請求をしたのに対し,名古屋地方検察庁検察官が,本件保管記録中,被告人の戸籍,関係人の身上,被告人の姉名義の口座の番号及び現在高等に係る部分(以下,併せて「本件記録部分」という。)について,刑事確定訴訟記録法(以下「法」という。)4条2項5号に当たるとして,閲覧を不許可とした(以下「本件閲覧一部不許可処分」という。)ので,申立人が準抗告を申し立てたという事案。

2.原決定は,本件記録部分につき同号所定の閲覧制限事由が認められるとした上で,申立人は,法4条2項ただし書にいう「訴訟関係人」にも「閲覧につき正当な理由があると認められる者」にも該当しないとして,準抗告の申立てを棄却した。

(参照条文)

●刑事訴訟法53条

 何人も、被告事件の終結後、訴訟記録を閲覧することができる。但し、訴訟記録の保存又は裁判所若しくは検察庁の事務に支障のあるときは、この限りでない。
2  弁論の公開を禁止した事件の訴訟記録又は一般の閲覧に適しないものとしてその閲覧が禁止された訴訟記録は、前項の規定にかかわらず、訴訟関係人又は閲覧につき正当な理由があつて特に訴訟記録の保管者の許可を受けた者でなければ、これを閲覧することができない。
3  日本国憲法第八十二条第二項 但書に掲げる事件については、閲覧を禁止することはできない。
4  訴訟記録の保管及びその閲覧の手数料については、別に法律でこれを定める。

●刑事確定訴訟記録法4条2項

 保管検察官は、保管記録が刑事訴訟法第五十三条第三項 に規定する事件のものである場合を除き、次に掲げる場合には、保管記録(第二号の場合にあつては、終局裁判の裁判書を除く。)を閲覧させないものとする。ただし、訴訟関係人又は閲覧につき正当な理由があると認められる者から閲覧の請求があつた場合については、この限りでない。
一  保管記録が弁論の公開を禁止した事件のものであるとき。
二  保管記録に係る被告事件が終結した後三年を経過したとき。
三  保管記録を閲覧させることが公の秩序又は善良の風俗を害することとなるおそれがあると認められるとき。
四  保管記録を閲覧させることが犯人の改善及び更生を著しく妨げることとなるおそれがあると認められるとき。
五  保管記録を閲覧させることが関係人の名誉又は生活の平穏を著しく害することとなるおそれがあると認められるとき。
六  保管記録を閲覧させることが裁判員、補充裁判員、選任予定裁判員又は裁判員候補者の個人を特定させることとなるおそれがあると認められるとき。

【判旨】

 再審請求人により選任された弁護人が,再審請求のための記録確認を目的として,当該再審請求がされた刑事被告事件に係る保管記録の閲覧を請求した場合には,同弁護人は,法4条2項ただし書にいう「閲覧につき正当な理由があると認められる者」に該当するというべきであり,保管検察官は,同項5号の事由の有無にかかわらず,保管記録を閲覧させなければならない。そうすると,原裁判所は,本件閲覧一部不許可処分を取り消し,本件記録部分を申立人に閲覧させるよう命ずる裁判をすべきであったのであり,原決定には決定に影響を及ぼすべき法令の解釈適用の誤りがあって,これを取り消さなければ著しく正義に反するものと認められる。
 よって,法8条2項,刑訴法411条1号,434条,426条2項により,原決定を取り消した上,更に本件閲覧一部不許可処分を取り消し,本件記録部分を申立人に閲覧させることとする。

 

最高裁判所第二小法廷決定平成21年09月30日

【判旨】

 非嫡出子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1と定めた民法900条4号ただし書前段の規定が憲法14条1項に違反するものでないことは,当裁判所の判例とするところであり(最高裁平成3年(ク)第143号同7年7月5日大法廷決定・民集49巻7号1789頁),憲法14条1項違反をいう論旨は,採用することができない。

【竹内行夫補足意見】

1(1) 法定相続分を決定するに当たっては,相続発生時において有効に存在した法令が適用されるのであるから,本件における民法900条4号ただし書前段の規定(以下「本件規定」という。)の憲法適合性の判断基準時は,相続が発生した平成12年6月30日(以下「本件基準日」という。)ということになる。したがって,多数意見は,飽くまでも本件基準日において本件規定が憲法14条1項に違反しないとするものであって,本件基準日以降の社会情勢の変動等によりその後本件規定が違憲の状態に至った可能性を否定するものではないと解される。

(2) 本件基準日以降も,本件規定の憲法適合性について判断をするための考慮要素となるべき社会情勢,家族生活や親子関係の実態,我が国を取り巻く国際的環境等は,変化を続けている。
 民法施行後の社会経済構造の変化に伴い,農業を営む家族に典型的にみられるような,家族の構成員の協働によって形成された財産につき被相続人の死亡を契機として家族の構成員たる相続人に対してその潜在的な持分を分配するといった形態の相続が減少し,相続の社会的な意味が,被相続人が個人で形成した財産の分配といった色彩の強いものになってきているといえることに加え,本件基準日以降に限っても,例えば,人口動態統計によれば,非嫡出子の出生割合は平成12年には出生総数の1.63%であったのが,平成18年には2.11%に増加していることは,我が国における家族観の変化をうかがわせるものといえるし,平成13年にフランスにおいて姦生子(婚姻中の者がもうけた非嫡出子)の相続分を嫡出子の2分の1とする旨の規定が廃止され,嫡出子と非嫡出子の相続分を平等とすることは世界的なすう勢となっており,我が国に対し,国際連合の自由権規約委員会や児童の権利委員会から嫡出子と非嫡出子の相続分を平等化するように勧告がされていることなどは,我が国を取り巻く国際的環境の変化を示すものといえよう。

(3) そして,非嫡出子に相続権を認めることがさほど一般的ではなかった時代においては,非嫡出子にも一定の法定相続分を認める本件規定は,法律婚の尊重と非嫡出子の保護の調整を図るものとして,その正当性を肯定できたものの,以上のような社会情勢等の変化を考慮すれば,本件規定が嫡出子と非嫡出子の相続分に差をもうけていることを正当化する根拠は失われつつある一方で,本件規定は非嫡出子が嫡出子より劣位の存在であるという印象を与え,非嫡出子が社会から差別的な目で見られることの重要な原因となっているという問題点が強く指摘されるに至っているのである。そうすると,少なくとも現時点においては,本件規定は,違憲の疑いが極めて強いものであるといわざるを得ない。

2(1) ところで,本件規定は,相続制度の一部分を構成するものとして,国民の生活に不断に機能しているものであるから,これを違憲としてその適用を排除するには,その効果や関連規定との整合性の問題等について十分な検討が必要である(前記大法廷決定における大西勝也,園部逸夫,千種秀夫,河合伸一各裁判官の補足意見,最高裁平成11年(オ)第1453号同12年1月27日第一小法廷判決・裁判集民事196号251頁における藤井正雄裁判官の補足意見及び最高裁平成14年(オ)第1963号同15年3月31日第一小法廷判決・裁判集民事209号397頁における島田仁郎裁判官の補足意見参照)。
 しかるに,最高裁判所が,過去にさかのぼった特定の日を基準として,本件規定は違憲無効となったと判断した場合には,当該基準日以降に発生した相続であって相続人中に嫡出子と非嫡出子が含まれる事案において,本件規定を適用した判決(最高裁判所の判決も含む。)や遺産分割審判,本件規定が有効に存在することを前提として成立した遺産分割調停,遺産分割協議等の効力に疑義が生じ,新たな紛争が生起し,更には本件規定を前提として形成された権利義務関係が覆滅されることにもなりかねない。かかる事態は,本件規定に従って行動した者に対して予期せぬ不利益を与えるおそれがあり,法的安定性を害することが著しいものといわざるを得ない。特に,本件においては本件基準日から既に9年以上が経過しているという事情があるので,本件規定が違憲無効であったと判断した場合にその効力に疑義が生じる判決等は,相当な数に上ると考えられるのである。
 前記大法廷決定における5名の裁判官の反対意見は,本件規定の有効性を前提としてなされた従前の裁判,合意の効力を維持すべきであると述べるが,違憲判断の効力を遡及させず,従前の裁判等の効力を維持することの法的な根拠については,上記反対意見は明らかにしておらず,学説においても十分な議論が尽くされているとはいい難い状況にある。また,上記反対意見に従えば,同じ時期に相続が発生したにもかかわらず,本件規定が適用される事案とそうでない事案が生ずることになるという問題も生じかねない。

(2) これに対し,立法府が本件規定を改正するのであれば,相続をめぐる関連規定の整備を図った上,明確な適用基準時を定め,適切な経過規定を設けることで,容易にこれらの問題や不都合を回避することができる。そして,平成8年には法制審議会により非嫡出子の相続分を嫡出子のそれと同等にする旨の民法改正案が答申されているのである。これらのことを考慮すると,私は,前記1(2)のような社会情勢等の変化にかんがみ,立法府が本件規定を改正することが強く望まれていると考えるものである。

(3) なお,私が以上に述べたところは,立法による解決が望ましいという考えであって,立法による解決が望ましいことを理由に最高裁判所は違憲の判断をすることを差し控えるべきであるという趣旨でないことはいうまでもない。

【今井功反対意見】

 わたくしは,非嫡出子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1とする本件規定は,憲法14条1項に違反すると考えるので,これを合憲とした原決定を破棄し,本件を原審に差し戻すべきものと考える。その理由は次のとおりである。

1.多数意見の引用する前記大法廷決定は,本件規定は合理的理由のない差別といえず,憲法14条1項に違反しないとしている。その理由として,同決定は,本件規定の立法理由は,法律婚の尊重と非嫡出子の保護の調整を図ったものと解されるとした上で,このような本件規定の立法理由にも合理的な根拠があるというべきであるから,非嫡出子の法定相続分を嫡出子の2分の1としたことが,立法理由との関連において著しく不合理であり,立法府に与えられた合理的な裁量判断の限界を超えたものということはできないとしている。

2.憲法13条は,「すべて国民は,個人として尊重される。」と規定し,憲法24条2項は,「相続,(中略)及び家族に関するその他の事項に関しては,法律は,個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して,制定されなければならない。」と規定している。
 憲法14条1項は,法の下の平等を定めており,この規定は,事柄の性質に即応した合理的な根拠に基づくものでない限り,法的な差別的取扱いを禁止する趣旨であると解すべきである。
 本件規定は,相続分につき嫡出子と非嫡出子との間に差別を設けている。この差別は,被相続人の子が嫡出子であるか非嫡出子であるか,換言すれば,婚姻関係から出生した子であるかそうでないかということを理由として,相続分に差を設けたものである。その立法目的は,前記大法廷決定の述べるように,法律婚の尊重ということにある。しかし,法律婚の尊重という立法目的が合理的であるとしても,その立法目的からみて,相続分において嫡出子と非嫡出子との間に差を設けることに合理性があるであろうか。憲法24条2項は,相続において個人の尊厳を立法上の原則とすることを規定しているのであるが,子の出生について責任を有するのは被相続人であって,非嫡出子には何の責任もない。婚姻関係から出生するかそうでないかは,子が,自らの意思や努力によってはいかんともすることができない事柄である。このような事柄を理由として相続分において差別することは,個人の尊厳と相容れない。法律婚の尊重という立法目的と相続分の差別との間には,合理的な関連性は認められないといわざるを得ない。
 最高裁平成18年(行ツ)第135号同20年6月4日大法廷判決・民集62巻6号1367頁は,日本国籍の取得について定めた国籍法の規定について,同じく日本国民である父から認知された子であるにもかかわらず,準正子は国籍が取得できるのに,非準正子は国籍が取得できないとした当時の国籍法3条1項の規定を,合理的な理由のない差別であって憲法14条1項に違反すると判断したのであるが,このことは,本件のような相続分の差別についても妥当するといわなければならない。

3.非嫡出子の相続分を嫡出子の2分の1とする規定は,明治の旧民法当時に設けられたものであり,太平洋戦争後の民法の改正においても維持されて現在に至っている。その当時においては,合理的なものとして是認される余地もあったことは認めざるを得ないが,その後の社会の意識の変化,諸外国の立法の動向,国内における立法の動き等にかんがみ,当初合理的であったとされた区別が,その後合理性を欠くとされるに至る事例があることは,国籍法についての前記大法廷判決からも明らかである。
 まず,我が国における社会的,経済的環境の変化等に伴って,夫婦共同生活の在り方を含む家族生活や親子関係に関する意識も一様ではなくなってきており,今日では,出生数のうち非嫡出子の占める割合が増加するなど,家族生活や親子関係の実態も変化し,多様化してきていることを指摘しなければならない。また,ヨーロッパを始め多くの国においても,非嫡出子の相続分を嫡出子のそれと同等とする旨の立法がされている。我が国においても,後に述べるように,非嫡出子の相続分を嫡出子のそれと同等とする旨の民法の改正意見があり,平成8年には,法制審議会総会が,その旨の改正案要綱を決定し,法務大臣に答申したが,未だ改正が実現していないという状況にある。

4.本件規定は親族相続制度の一部分を構成するものであるから,これを変更するに当たっては,これらの制度の全般にわたっての目配りや関連する諸規定への波及と整合性の検討が必要であり,また,本件規定による相続関係の処理は,永年にわたって行われてきたものであるから,本件規定を変更する場合には,その効力発生時期等についても慎重な検討が必要であり,これらのことは,本来国会における立法によって行われるのが望ましいものというべきである。このことは,上記大法廷決定における千種秀夫,河合伸一裁判官の補足意見で述べられ,その後の本件規定を合憲と判断した最高裁判所の小法廷判決における補足意見においても指摘されているとおりであり(前記平成12年1月27日第一小法廷判決における藤井正雄裁判官の補足意見,前記平成15年3月31日第 一小法廷判決における島田仁郎裁判官の補足意見参照),わたくしもこれらの意見に共感を覚えるものである。
 このように本来立法が望ましいとしても,裁判所が違憲と判断した規定について,その規定によって権利を侵害され,その救済を求めている者に対し救済を与えるのは裁判所の責務であって,国会における立法が望ましいことを理由として違憲判断をしないことは相当でない。
 なお,本件規定を違憲無効と判断したとしても,そのことによって本件規定を適用した確定判決や確定審判について再審事由があるということにはならないし,本件規定が有効に存在することを前提として成立した遺産分割の調停や遺産分割の協議の効力が直ちに失われるものではない。遺産分割の調停や協議は,当事者の思惑や譲歩など様々な事情を踏まえて成立するものであるから,本件規定が無効であることによって当然に錯誤があるということにはならない。本件規定を違憲と判断することによって,法的安定性を害するおそれのあることは否定できないが,その程度は補足意見が述べるほど著しいものとはいえないと考える。

5.非嫡出子の相続分が嫡出子のそれと差があることの問題性は,古くから取り上げられ,昭和54年には,法制審議会民法部会身分法小委員会の審議を踏まえて,「非嫡出子の相続分は嫡出子のそれと同等とする」旨の改正要綱試案が公表されたが,改正が見送られた。さらに平成6年に同趣旨の改正要綱試案が公表され,平成8年2月の法制審議会総会において同趣旨の法律案要綱が決定され,法務大臣に答申されたが,法案の国会提出は見送られて,現在に至っている。前記大法廷決定の当時は,改正要綱試案に基づく審議が法制審議会において行われており,改正が行われることが見込まれていた時期であった。ところが,法制審議会による上記答申以来十数年が経過したが,法律の改正は行われないまま現在に至っているのであり,もはや立法を待つことは許されない時期に至っているというべきである。

6.以上のような理由から,わたくしは,本件規定は憲法14条1項に違反すると考えるので,これと異なる原決定を破棄して本件を原審に差し戻すべきであると考えるものである。

戻る