平成21年度新司法試験論文式
民事系第2問参考答案

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第1.設問1

1.本件売買契約の目的物について

(1) 契約の解釈は、取引安全の見地から合致した表示について客観的にするのが原則であるが、当事者間で一致した解釈がある場合には、当事者が不測の損害を被ることはないのであるから、当該解釈に基づいて契約内容を決すべきである。

(2) 本問において、申込みである注文書(事実5)と承諾である注文請書(事実6)の記載から客観的に理解される目的物は、型番PS122の機械である。X社は型番PS101からPS125までの機種の機械を製造しており(事実1)、「型番PS122」という記載が誤記であることは記載上明らかでないからである。

(3) もっとも、以下の事実から注文書及び注文請書に記載された「型番PS122」の意味する目的物が実際には型番PS112の機械を指すとの解釈が本件売買契約の当事者であるA社及びX社間において一致していると認められるから、「型番PS122」との記載は、型番PS112の機械を表示するものと解するのが相当である。

ア.A社とX社の各担当者によって行われた本件売買契約に関する協議は、型番PS112の機械の購入に当たっての契約条件についてのものであった(事実5)。

イ.A社及びX社のいずれの担当者においても、その上司の決裁を得るにあたり、目的物は型番PS112の機械である旨報告し、その決裁を得ている(事実5及び6)。

ウ.搬入の段階において、X社の納品担当者が型番PS122の機械を搬入しようとしたものの、型番PS112が本来の目的物であることがX社の受注事務担当者によって確認されて滞りなく型番PS112の機械の搬入が行われ、A社は同日その支払いのための約束手形をX社に交付している(事実7)。

エ.上記のとおり、本件売買契約が締結された前後の経過をみると、A社及びX社において本件売買契約の目的物は型番PS112の機械であることが前提とされており、注文書及び注文請書の「型番PS122」との記載は、実際には型番PS112を表示するものであるという理解で一致している。

(4) よって、本件売買契約は、型番PS112の機械を目的物として成立したものである。

2.型番誤記の本件売買契約の効力への影響について

(1) 本件売買契約の型番誤記により表示の錯誤として無効(民法95条本文)となるかが問題となるが、前記1のとおり、注文書及び注文請書の「型番PS122」という記載は型番PS112の機械を表示するものとして解釈すべきであるから、A社及びX社において意思と表示の不一致は生じていない。

(2) よって、本件売買契約は錯誤に該当する余地はないから、型番誤記は本件売買契約の効力に影響を与えない。

第2.設問2

1.小問(1)

(1) 事実@について

 民法192条は、「取引行為によって・・・占有を始めた者は」と規定しているから、Y社は動産甲の占有が取引行為によって開始したこと、すなわち、取引行為に基づく引渡しの事実を主張立証する必要がある。
 よって、Y社は、事実@を主張立証する必要がある。

(2) 事実Aについて

 本件売買契約に付されたいわゆる所有権留保特約(注文書備考欄@参照、以下「本件特約」という。)は、代金完済を停止条件として所有権の移転の効果を生じさせるものであるから、A社の代金未払いの事実は、本件特約と相俟って、A社の甲動産についての無権利を基礎付けるものである。そうすると、事実AはY社の善意を推認させる間接事実及び無過失の評価根拠事実となり得る。
 しかし、民法192条は善意無過失を要件としているが、このうち善意については同法186条1項によって暫定真実とされ、また、前主の占有が同法188条によって適法なものと推定されることによって無過失が推定されるから、Y社がこれを主張立証する必要がない。
 よって、Y社は、事実Aを主張立証する必要がない。

2.小問(2)

(1) 事実Bについて

 A社がX社との売買により目的物を調達する場合、A社が正常に調達できなければY社は目的物をX社から追奪されるリスクを負うのであるから、Y社としてはA社が正常に調達を行ったか否か調査すべきであり、これを怠れば特段の事情のない限り、A社が無権利であったことについて過失があると評価される。
 従って、事実BはY社の調査懈怠と併せてY社の過失を基礎付ける評価根拠事実となる。

(2) 事実Cについて

 一般に、即時取得の要件である善意無過失の判断時は、占有取得時である。
 本問において、Y社が動産甲の占有を取得したのは、動産甲がY社の工場に搬入された時点である平成20年2月15日である(事実7)と認められるところ、事実Cに係るY社の認識は、同年2月20日に生じたものである(事実8)から、Y社の過失を認定判断するにあたって事実Cは評価の対象となり得ない。

第3.設問3

1.A社は本件特約により代金完済までは動産甲の所有権を取得できず、ただ代金完済によって所有権を取得しうる期待権(民法128条)を有するにとどまるから、A社から転売を受けたY社もまた上記期待権を譲り受けた(民法129条)に過ぎず、動産甲を占有し、使用しうる権利もこのような期待権に付随して認められるものである。
 従って、X社の解除により条件成就不能が確定した時に上記期待権及びこれと付随する権利は消滅するから、Y社は解除時以後の使用利益をX社に不当利得として返還すべきである。給付利得の返還を求める場合であるから、民法189条から191条までの規定は適用されず、Y社の主観にかかわりなく、X社は返還を請求することができる。

2.他方、Y社はX社から直接給付を受けているものの、A社からの転得者であることには変わりがないから、民法545条1項ただし書の第三者に当たり、解除の遡求効(判例)に基づく解除前の使用利益の返還は認められない。なお、本件売買契約においては明示の転売授権はないが、A社はY社への転売予定をX社に告げた上で協議に入っており(事実5)、黙示の転売授権があったというべきであるから、A社からY社への譲渡の有効性には問題がない。

3.よって、X社は、不当利得返還請求権に基づき解除時からY社に対して動産甲の使用利益相当額を請求することができる。

第4.設問4

1.取締役の違法行為差止請求(会社法(以下、「法」という。)360条)

(1) 要件

ア.株式継続保有要件

 Z社はX社の発行済株式の5%を長年保有しており、六箇月の継続保有要件を充たす。

イ.法令・定款違反

 同条の趣旨は、会社ひいては株主を保護することにあるから、同条の「法令」は会社ひいては株主を保護する趣旨の法令に限られる。

(ア) 独禁法違反の点について

a.独禁法15条1項1号の趣旨は、公正かつ自由な競争を促進する点にあり、合併の当事会社やその株主を保護する趣旨ではない。
 よって、同号は法360条の「法令」に当たらない。

b.また、取締役は会社に対して善管注意義務(法330条、民法644条)及び忠実義務(法355条)を負っており、これらは会社ひいては株主を保護する趣旨であるから法360条の「法令」に当たり、独禁法違反のおそれのある合併を行うことが上記義務違反となる余地はあるものの、企業としての存立すら危うかったX社の状況(事実11)を考慮すれば、事業全体の存続や従業員の雇用の確保につながるとの考慮(事実13)の下、独禁法違反のおそれがあってもD社との合併を強行すべきとの経営判断には、独禁法違反認定の不確実性からすれば、一定の合理性があるといえるから、上記義務に違反しないというべきである。

(イ) 本件基本合意違反の点について

 本件基本合意違反を理由とするZ社による損害賠償請求(事実14)が認められればX社の損害を観念しうるから、これが取締役の善管注意義務及び忠実義務違反となるとも思える。
 しかし、D社との合併により事業全体の存続や従業員の雇用の確保につながることを考慮すればZ社に対する賠償義務を負ってもやむを得ないとの経営判断にも一定の合理性を認めうるから、善管注意義務及び忠実義務違反を構成するとはいえない。

(ウ) 合併比率の不公正の点について

 法は合併比率を規制しておらず、契約自由の原則に従い当事会社の合意にゆだねている。従って、合併比率の不公正は違法事由とはならない。

ウ.会社に回復することができない損害が生ずるおそれ

(ア) 独禁法違反の点について

 独禁法15条1項1号違反が認定された場合、同法17条の2第1項に基づく排除措置を受ける可能性があるが、それ自体によって回復不能な損害が生じると考えることはできない。

(イ) 本件基本合意違反の点について

 本件基本合意違反を理由とする損害賠償は金銭的負担に過ぎないから、回復不能な損害が生じるとはいえない。

(ウ) 合併比率の不公正の点について

 合併比率が不公正であったとしても、会社自体には何ら損害は生じない。

エ.以上から、本問では上記イ及びウの要件をいずれも充足しない。

(2) 効果

 法は360条の要件を充足した場合に、その実効性を確保するための実体法的効果や違反行為に対する罰則等を設けていない。
 従って、仮に同条の要件を充足したとしても、現実に合併契約の締結や当該合併契約の承認を目的とする株主総会の招集を阻止できるかについては疑問がある。

2.法210条類推適用による合併差止請求

(1) 吸収合併の合併対価(法749条1項2号)が吸収合併存続株式会社の株式である場合には、株式の発行を伴うと考えられるから、法210条を類推して合併の差止請求をすることも考えられる。この場合、差止めを無視して株式が発行された場合には無効事由となるとする判例法理を援用することが可能と解されるから、実効性の伴う差止めが可能となりそうである。

(2) しかし、法は略式合併においてのみ消滅株式会社株主による差止請求権を認める規定を置いている(同法784条2項)から、通常の吸収合併の場合においては差止めを認めない趣旨と解するのが自然であること、反対株主には株式買取請求権が付与されている(同法785条、797条)こと、吸収合併の対価が株式である場合においても、株式の発行をなすのは吸収合併存続株式会社であるから、同法210条の類推適用によっても吸収合併消滅株式会社株主に差止請求権を認めるのは困難であること等を考慮すると、同条の類推適用は認められないというべきである。

第5.設問5

1.@の場合について

(1) 賛否未記載の議決権行使書面の取扱い

 X社が同社株主に交付した議決権行使書面には、賛否未記載の場合は賛成票として取り扱う旨の記載がある。法はこのような取扱いにつき何ら禁止規定を置いておらず、かえって同法施行規則66条1項2号はこれを前提とする規定を置いているから、上記取扱いは有効である。
 よって、本問で、賛否未記載の議決権行使書面によって行使された2万9000個の議決権は賛成票に参入すべきである。

(2) 賛否未記載の委任状の取扱い

 Z社がX社株主に交付した委任状用紙には賛否未記載の場合は白紙委任する旨の記載がある。民法の代理一般の規定及び法における議決権の代理行使の規定には、上記のような取扱いを禁ずる趣旨のものはないから、上記取扱いは有効である。
 よって、本問で、賛否未記載の委任状による代理権に基づいてZ社が反対票として行使した1万個の議決権は、反対票として参入すべきである。

(3) 委任状明示の賛否と異なる投票の効力

ア.Z社は原案に賛成と記載された委任状による代理権に基づく議決権についても、反対票として行使している。

イ.法はこのような場合の規定を置いていないから、民法の規定が適用されるところ、代理行為は本人の付与した権限内においてのみ本人に効果帰属する(民法99条1項)から、本人の明示の意思に反する議決権の代理行使は無効である。なお、表見代理(同法109条、110条、112条)及び無権代理契約についての規定(同法113条から117条)は取引安全のための規定であるから取引行為ではない議決権の行使には適用されない。

ウ.本問では、原案に賛成と記載された委任状による代理権に基づいてZ社が反対票として行使した50個の議決権は無効である。

(4) よって、賛成票は4万票であり、反対票は2万票となる。

2.Aの場合について

(1) 書面投票と代理投票の重複の取扱い

ア.Fは、同人の有する100個の議決権について、書面による議決権行使を行う一方でZ社を代理人とする議決権行使を行っている。そこで、重複投票の効力を検討する。

(ア) 一般に、議決権行使書面を株式会社に提出したにもかかわらず、総会に出席して議場において改めて議決権を行使した場合、前になされた書面による意思表示は撤回されたものとして、議場による議決権行使が優先すると解される。

(イ) 他方、代理人による議決権の行使は、本人による議決権行使に代わるものである。

(ウ) そうすると、代理人が総会に出席して議場において議決権を行使したときは、本人の議場における議決権行使があったことと同視できるから、前記(ア)で示したことが妥当する。

(エ) よって、代理人の議場における議決権行使により前になされた書面による意思表示は撤回されたものとされるから、代理人による議決権行使が優先する。

イ.本問では、Fの書面による議決権行使はZ社の代理による反対の議決権行使によって撤回されるから、Fの有する100個の議決権は反対票として参入すべきである。

(2) よって、賛成票は3万9900票、反対票は2万票となる。

第6.設問6

1.合併の効力発生前について

(1) 承認決議不成立の場合について

 設問5のAの場合には第5の2(2)で示したとおり、出席株主議決権5万9900個の3分の2である39933.3個(少数第2位以下切捨て)以上の賛成がないから、合併の承認に必要な特別決議(法309条2項12号)は成立しない。
 このように本問の合併承認決議が成立していない場合には、承認決議自体が不存在であるから、Z社は株主総会決議不存在確認の訴え(法830条1項)を提起することができる。

(2) 承認決議成立の場合について

 設問5の@の場合には第5の1(4)で示したとおり、出席株主議決権6万個の3分の2である4万票の賛成があるから、合併の承認に必要な特別決議が成立する。
 このように本問の合併承認決議が成立している場合に考えられる手段を以下検討する。

ア.株主総会決議無効確認の訴え(法830条2項)

(ア) 決議無効確認の訴えは決議内容の法令違反を理由として提起できるところ、同制度の趣旨が会社ひいては株主の利益を保護することにあることからすれば、ここにいう法令とは会社ひいては株主の利益を保護する趣旨のものに限られるというべきであるから、決議内容が独禁法15条1項1号違反することは、決議無効の理由とすることはできない。

(イ) また、法その他の法令で合併比率自体を規制するものはないから、合併比率の不公正は決議無効の理由とすることができない。

(ウ) よって、Z社は株主総会無効確認の訴えを提起することはできない。

イ.株主総会決議取消しの訴え(法831条)

 事実19の株主総会における議長EがZ社の提出した議長不信任動議や投票数の算入方法に対する抗議を無視して合併契約の承認決議の成立を宣言した点が法令違反又は著しく不公正な方法にあたるかが問題となるが、株主総会の議長は決議の方法について合理的な裁量に基づいて決定する権限を有すると解される(法315条1項参照)ところ、結果として合併承認決議が成立するに足りる賛成票があったと解される以上は、Eが議長として承認決議の成立を宣言した点が不合理で裁量権を逸脱するものとは認められないから、法令違反及び著しく不公正な方法であるとはいえない。
 よって、Z社は株主総会取消しの訴えを提起することはできない。

2.合併の効力発生後について

 採り得る手段として吸収合併無効の訴え(法828条1項7号)が考えられるが、法は無効事由を明示していない。そこで、以下の事由が無効事由となるかを検討する。

(1) 独禁法15条1項1号違反の点

 同制度の趣旨は、株式会社にあっては当事会社及びその株主等(同条2項1号参照)並びに吸収合併を承認しない債権者の利益を保護する点にある(同項7号参照)と解され、上記の者を保護する趣旨とは異なる趣旨に基づく法令についての違反は無効事由に含まれないというべきであるから、独禁法15条1項1号違反は無効事由とはならないというべきである。

(2) 合併比率の不公正の点

 法は合併比率について特段の規制を設けておらず、契約自由の原則の下、当事会社の合意にゆだねている一方で、反対株主には株式買取請求権を与えているから、合併比率の不公正は合併の無効事由には当たらないと解される。

(3) よって、上記の点はいずれも吸収合併の無効事由とならないから、Z社は吸収合併無効の訴えを提起することはできない。

以上

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