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最高裁判所大法廷判決平成21年09月30日

【事案】

1.平成19年7月29日施行の参議院議員通常選挙(以下「本件選挙」という。)について,東京都選挙区の選挙人である上告人らが,公職選挙法14条,別表第3の参議院(選挙区選出)議員の議員定数配分規定は憲法14条1項等に違反し無効であるから,これに基づき施行された本件選挙の上記選挙区における選挙も無効であると主張して提起した選挙無効訴訟。

2.事実関係等の概要

(1) 参議院議員選挙法(昭和22年法律第11号)は,参議院議員の選挙について,参議院議員250人を全国選出議員100人と地方選出議員150人とに区分し,全国選出議員については,全都道府県の区域を通じて選出されるものとする一方,地方選出議員については,その選挙区及び各選挙区における議員定数を別表で定め,都道府県を単位とする選挙区において選出されるものとした。そして,各選挙区ごとの議員定数については,定数を偶数としてその最小限を2人とする方針の下に,昭和21年当時の人口に基づき,各選挙区の人口に比例する形で,2人ないし8人の偶数の議員数を配分した。昭和25年に制定された公職選挙法の参議院議員定数配分規定は,以上のような選挙制度の仕組みに基づく参議院議員選挙法の議員定数配分規定をそのまま引き継いだものであり,その後,沖縄返還に伴って沖縄県選挙区の議員定数2人が付加された外は,平成6年法律第47号による議員定数配分規定の改正(以下「平成6年改正」という。)まで,上記定数配分規定に変更はなかった。なお,昭和57年法律第81号による公職選挙法の改正により,参議院議員選挙についていわゆる拘束名簿式比例代表制が導入され,各政党等の得票に比例して選出される比例代表選出議員100人と都道府県を単位とする選挙区ごとに選出される選挙区選出議員152人とに区分されることになったが,比例代表選出議員は,全都道府県を通じて選出されるものであって,各選挙人の投票価値に差異がない点においては,従来の全国選出議員と同様であり,選挙区選出議員は従来の地方選出議員の名称が変更されたものにすぎない。

(2) 選挙区間における議員1人当たりの人口の最大較差は,参議院議員選挙法制定当時は1対2.62(以下,較差に関する数値は,すべて概数である。)であったが,その後,次第に拡大した。平成6年改正は,平成4年7月26日施行の参議院議員通常選挙当時には1対6.59にまで拡大していた選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差を是正する目的で行われたものであり,前記のような参議院議員の選挙制度の仕組みに変更を加えることなく,直近の平成2年10月実施の国勢調査結果に基づき,できる限り増減の対象となる選挙区を少なくし,かつ,いわゆる逆転現象を解消することとして,参議院議員の総定数(252人)及び選挙区選出議員の定数(152人)を増減しないまま,7選挙区で議員定数を8増8減した。上記改正の結果,上記国勢調査結果による人口に基づく選挙区間における議員1人当たりの人口の最大較差は,1対6.48から1対4.81に縮小し,いわゆる逆転現象は消滅することとなった。その後,上記改正後の議員定数配分規定の下において平成7年7月23日に施行された参議院議員通常選挙当時の選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差は,1対4.97であった。

(3) 平成12年法律第118号による公職選挙法の改正(以下「平成12年改正」という。)により,比例代表選出議員の選挙制度がいわゆる非拘束名簿式比例代表制に改められるとともに,参議院議員の総定数が10人削減されて242人とされた。定数削減に当たっては,改正前の選挙区選出議員と比例代表選出議員の定数比をできる限り維持する方針の下に,選挙区選出議員の定数を6人削減して146人とし,比例代表選出議員の定数を4人削減して96人とした上,選挙区選出議員の定数削減については,直近の平成7年10月実施の国勢調査結果に基づき,平成6年改正の後に生じたいわゆる逆転現象を解消するとともに,選挙区間における議員1人当たりの選挙人数又は人口の較差の拡大を防止するために,定数4人の選挙区の中で人口の少ない3選挙区の定数を2人ずつ削減した。上記改正の結果,いわゆる逆転現象は消滅したが,上記国勢調査結果による人口に基づく選挙区間における議員1人当たりの人口の最大較差は1対4.79であって,上記改正前と変わらなかった。

(4) 平成12年改正後の参議院議員定数配分規定の下で平成13年7月29日に施行された参議院議員通常選挙(以下「前々回選挙」という。)当時において,選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差は1対5.06であった。
 最高裁平成15年(行ツ)第24号同16年1月14日大法廷判決・民集58巻1号56頁(以下「平成16年大法廷判決」という。)は,その結論において,前々回選挙当時,上記定数配分規定は憲法に違反するに至っていたものとすることはできない旨判示したが,同判決には,裁判官6名による反対意見のほか,漫然と現在の状況が維持されるならば違憲判断がされる余地がある旨を指摘する裁判官4名による補足意見が付された。
 平成16年大法廷判決を受けて,参議院議長が主宰する各会派代表者懇談会は,「参議院議員選挙の定数較差問題に関する協議会」を設けて協議を行ったが,平成16年7月に施行される参議院議員通常選挙(以下「前回選挙」という。)までの間に定数較差を是正することは困難であったため,同年6月1日,同選挙後に協議を再開する旨の申合せをした。これを受けて,前回選挙後の同年12月1日,参議院改革協議会の下に選挙制度に係る専門委員会が設けられ,同委員会において,現行の選挙制度の仕組みを維持しつつ,@ 較差5倍を超えている選挙区及び近い将来5倍を超えるおそれのある選挙区について較差の是正を図るいわゆる4増4減案,A 4倍前半まで較差の是正を図ることを考慮し,その選択肢として14増14減まで含めて検討する案のほか,B 較差を4倍未満とするため現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを検討する案など,各種の是正案が検討されたが,本件選挙に向けての当面の是正策としては,上記の4増4減案が有力な意見であるとされ,同案に基づく公職選挙法の一部を改正する法律(平成18年法律第52号)が平成18年6月1日に成立した。同改正(以下「本件改正」という。)の結果,平成17年10月実施の国勢調査結果による人口に基づく選挙区間における議員1人当たりの人口の最大較差は,1対4.84に縮小した。また,本件改正後の参議院議員定数配分規定(以下「本件定数配分規定」という。)の下で施行された本件選挙当時の選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差は,1対4.86であった。
 なお,上記の専門委員会の報告書に表れた意見によれば,現行の選挙制度の仕組みを維持する限り,各選挙区の定数を振り替える措置により較差の是正を図ったとしても,較差を1対4以内に抑えることは困難であるとされている。また,同報告書においては,本件選挙に向けての較差是正の後も,参議院の在り方にふさわしい選挙制度の議論を進めていく過程で,定数較差の継続的な検証等を行う場を設け,調査を進めていく必要があるとされた。

【判旨】

1.憲法は,選挙権の内容の平等,換言すれば,議員の選出における各選挙人の投票の有する影響力の平等,すなわち投票価値の平等を要求していると解される。
 しかしながら,憲法は,どのような選挙制度が国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させることになるのかの決定を国会の裁量にゆだねているのであるから,投票価値の平等は,選挙制度の仕組みを決定する唯一,絶対の基準となるものではなく,参議院の独自性など,国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものである。それゆえ,国会が具体的に定めたところがその裁量権の行使として合理性を是認し得るものである限り,それによって投票価値の平等が一定の限度で譲歩を求められることになっても,憲法に違反するとはいえない。
 参議院議員の選挙制度の仕組みは,憲法が二院制を採用し参議院の実質的内容ないし機能に独特の要素を持たせようとしたこと,都道府県が歴史的にも政治的,経済的,社会的にも独自の意義と実体を有し一つの政治的まとまりを有する単位としてとらえ得ること,憲法46条が参議院議員については3年ごとにその半数を改選すべきものとしていること等に照らし,相応の合理性を有するものであり,国会の有する裁量権の合理的な行使の範囲を超えているとはいえない。そして,社会的,経済的変化の激しい時代にあって不断に生ずる人口の変動につき,それをどのような形で選挙制度の仕組みに反映させるかなどの問題は,複雑かつ高度に政策的な考慮と判断を要するものであって,その決定は,基本的に国会の裁量にゆだねられているものである。しかしながら,人口の変動の結果,投票価値の著しい不平等状態が生じ,かつ,それが相当期間継続しているにもかかわらずこれを是正する措置を講じないことが,国会の裁量権の限界を超えると判断される場合には,当該議員定数配分規定が憲法に違反するに至るものと解するのが相当である。
 以上は,最高裁昭和54年(行ツ)第65号同58年4月27日大法廷判決・民集37巻3号345頁(以下「昭和58年大法廷判決」という。)以降の参議院(地方選出ないし選挙区選出)議員選挙に関する累次の大法廷判決の趣旨とするところでもあって,基本的な判断枠組みとしてこれを変更する必要は認められない。
 そして,当裁判所は,昭和58年大法廷判決以降,参議院議員通常選挙の都度,上記の判断枠組みに従い参議院議員定数配分規定の合憲性について判断してきたが,平成4年7月26日施行の参議院議員通常選挙当時の最大較差1対6.59について違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じていた旨判示したものの,いずれの場合についても,結論において,各選挙当時,参議院議員定数配分規定は憲法に違反するに至っていたものとすることはできない旨判示してきたところである。しかし,人口の都市部への集中が続き,最大較差1対5前後が常態化する中で,平成16年大法廷判決及び最高裁平成17年(行ツ)第247号同18年10月4日大法廷判決・民集60巻8号2696頁においては,上記の判断枠組み自体は基本的に維持しつつも,投票価値の平等をより重視すべきであるとの指摘や,較差是正のため国会における不断の努力が求められる旨の指摘がされ,また,不平等を是正するための措置が適切に行われているかどうかといった点をも考慮して判断がされるようになるなど,実質的にはより厳格な評価がされてきているところである。

2.上記の見地に立って,本件選挙当時の本件定数配分規定の合憲性について検討する。
 参議院では,平成16年大法廷判決中の指摘を受け,当面の是正措置を講ずる必要があるとともに,その後も定数較差の継続的な検証調査を進めていく必要があると認識された。本件改正は,こうした認識の下に行われたものであり,その結果,平成17年10月実施の国勢調査結果による人口に基づく選挙区間における議員1人当たりの人口の最大較差は,1対4.84に縮小することとなった。また,本件選挙は,本件改正の約1年2か月後に本件定数配分規定の下で施行された初めての参議院議員通常選挙であり,本件選挙当時の選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差は1対4.86であったところ,この較差は,本件改正前の参議院議員定数配分規定の下で施行された前回選挙当時の上記最大較差1対5.13に比べて縮小したものとなっていた。本件選挙の後には,参議院改革協議会が設置され,同協議会の下に選挙制度に係る専門委員会が設置されるなど,定数較差の問題について今後も検討が行われることとされている。そして,現行の選挙制度の仕組みを大きく変更するには,後に述べるように相応の時間を要することは否定できないところであって,本件選挙までにそのような見直しを行うことは極めて困難であったといわざるを得ない。
 以上のような事情を考慮すれば,本件選挙までの間に本件定数配分規定を更に改正しなかったことが国会の裁量権の限界を超えたものということはできず,本件選挙当時において,本件定数配分規定が憲法に違反するに至っていたものとすることはできない。

3.しかしながら,本件改正の結果によっても残ることとなった上記のような較差は,投票価値の平等という観点からは,なお大きな不平等が存する状態であり,選挙区間における選挙人の投票価値の較差の縮小を図ることが求められる状況にあるといわざるを得ない。ただ,専門委員会の報告書に表れた意見(※事実関係の概要等(4)のもの)にもあるとおり,現行の選挙制度の仕組みを維持する限り,各選挙区の定数を振り替える措置によるだけでは,最大較差の大幅な縮小を図ることは困難であり,これを行おうとすれば,現行の選挙制度の仕組み自体の見直しが必要となることは否定できない。このような見直しを行うについては,参議院の在り方をも踏まえた高度に政治的な判断が必要であり,事柄の性質上課題も多く,その検討に相応の時間を要することは認めざるを得ないが,国民の意思を適正に反映する選挙制度が民主政治の基盤であり,投票価値の平等が憲法上の要請であることにかんがみると,国会において,速やかに,投票価値の平等の重要性を十分に踏まえて,適切な検討が行われることが望まれる。

4.以上の次第であるから,本件定数配分規定が本件選挙当時憲法に違反するに至っていたということはできないとした原審の判断は,是認することができる。

【藤田宙靖補足意見要旨】

1.立法府は,両院の定数配分を含む選挙制度の在り方につき法律によって定めるに当たり(憲法47条),多様な政策的要請を踏まえ,適正な裁量を行う義務を負っており,この義務に反して,例えば,変転する社会情勢等を考慮に入れ時宜に適した判断をしなければならないのに,慢性的に旧弊に従った判断を維持し続けるとか,当然考慮に入れるべき事項を考慮に入れず,又は考慮すべきでない事項を考慮し,あるいはさほど重要視すべきではない事項に過大の比重を置いた判断をしているような場合には,憲法によって課せられている義務に適った裁量権の行使を行わないものとして,憲法違反との司法判断を受けてもやむを得ない。参議院選挙区選出議員の選挙における定数配分の在り方に関していうならば,従来の我が国の立法においては,憲法により保障された基本的人権の一つである投票価値の平等についての配慮が必ずしも充分であったとはいえず,また,これを是正するためにその間行われた諸改正においても,この問題につき立法府自らが基本的にどう考え,将来に向けてどのような構想を抱くのかについて,明確にされることのないままに,単に目先の必要に応じた小幅な修正が施されて来たに止まるという憾みを否定することができないのであって,このような状態が漫然と維持されるならば,そのような状況下で行われた選挙については,議員定数配分規定が違憲であるとの判断がされる可能性は充分にある。

2.このような見地に立って,本件で問題とされている議員定数配分規定の合憲性についてみるならば,問われるべきは,平成16年大法廷判決以後本件選挙までの間に,立法府が,定数配分をめぐる立法裁量に際し,諸々の考慮要素の中でも重きを与えられるべき投票価値の平等を十分に尊重した上で,それが損なわれる程度を,二院制の制度的枠内にあっても可能な限り小さくするよう,問題の根本的解決を目指した作業の中でのぎりぎりの判断をすべく真摯な努力をしたものと認められるか否かである。そして,本件において問題とされているいわゆる4増4減案に基づく公職選挙法改正については,あくまでもそれが「当面の」是正策として成立させられたものである限りにおいては(つまり,今後の更なる改善の余地が意識的に留保されており,また改善への意欲が充分に認められる限りにおいては),その段階において許される一つの立法的選択であると評価することもできないではなく,問題の根本的解決に向けて,立法府が真摯な努力を続けつつあることの一つの証であると見ることも,不可能ではなかった。これが,平成18年大法廷判決当時の状況である。
 しかし,いうまでもなく,いわゆる4増4減による改正が,表向きはともかくとして実質的に改革作業の終着駅となり,しかもそれが,最大較差5倍を超えないための最小限の改革に止めるという意図によるものであったとするならば,問題の重要性,そしてその解決に向けての国民に対する責任につき,参議院ないし国会がどの程度真摯に考えているのかについて改めて疑いが抱かれることになることは,18年判決補足意見の末尾において既に指摘しておいたとおりである。本件選挙は,この法改正の後初めて行われた選挙であるから,現時点において改めて,上記のような見地から,この4増4減措置等についての評価がなされなければならないことになる。

3.参議院は,先の4増4減措置の導入後現在に至るまで,およそ3年間にもわたって,更なる定数是正につき本格的な検討を行っているようには見受けられない。そして,それが何故であるか,更なる定数是正にはどのような理論的・実際的な問題が存在し,どのような困難があるために改革の前進が妨げられているのか等について,参議院は,国民の前に一向にこれを明らかにしようとはしていない。

4.投票価値の平等という見地からする限り,最大較差4倍超という数字をもってなお平等が保たれているということは,本来無理な強弁というべく,それにもかかわらずこれを合憲であるというためには,それを許す合理的な理由の存在と,それについての立法府自らの国民に対する明確な説明,及び問題解決に向けての絶えざる真摯な努力が必要である。そして,このような見地からするとき,参議院における上記のような状況をもって,なおこれを立法府の義務に適った裁量の枠内にあるものと認めることができるか否かについては,正直なところ,甚だ心もとないものがあるといわざるを得ず,先のいわゆる4増4減措置についても,その導入の真意につきいささかの疑念を抱かざるを得ないところではある。こういった意味において,本件選挙当時既に本件定数配分規定が違憲というべき状態にあったと考える余地も無いではない。ただ,少なくとも本件選挙が行われた当時においては,いわゆる4増4減措置自体につき,なお,その後の本格的改正作業に向けての暫定的な措置としての位置付けを認め得るものであったこと,また,誠に遅々たる歩みであるとはいえ,参議院において,平成16年大法廷判決の趣旨等をも踏まえ選挙制度の改革に向けての前進をなお続けようとの気運が消失してしまったとまで見ることはできないこと等に鑑みるならば,参議院における上記のような検討状況についての憲法的判断は,今後の動向を注意深く見守りつつ,次回の参議院議員通常選挙の時期において改めて行うこととするのも,現時点では一つの選択肢であろう。
 多数意見は,参議院議員選挙制度の抜本的改革を行うためにはある程度の時間的余裕が必要となることを一つの理由として,本件選挙当時の本件定数配分規定を必ずしも違憲とはいえないものとしたが,いうまでもなくそれは,そのことを口実に,立法府が改革のための作業を怠ることを是認するものではない。仮に,早期の結論を得ることが困難であるというならば,その具体的な理由と作業の現状とを絶えず国民に対して明確に説明することが不可欠なのであって,それを欠くままに徒らに現状を引き摺るようなことがあるとするならば,立法府自らの手による議員定数是正措置に向けての残された期待と信頼とが遂に消失してしまう事態を招くことも,避けられない。

【竹内行夫補足意見要旨】

 憲法は,二院制を採用し,衆議院と参議院がそれぞれ特色のある機能を発揮することを予定している。憲法43条は,両議院とも全国民を代表する選挙された議員により組織されるもの(国民代表原理)と定めている。そして,投票価値平等の理念は,衆議院議員選挙のみならず参議院議員選挙においても妥当するが,憲法が二院制を採用した趣旨からして,選挙の仕組みにおける選出基盤に関する理念が両議院の間で同じでなければならないということはなく,異なって当然である。衆議院議員選挙については,「各選挙区の選挙人数又は人口数(中略)と配分議員定数との比率の平等が最も重要かつ基本的な基準とされるべき」(最高裁昭和49年(行ツ)第75号同51年4月14日大法廷判決・民集30巻3号223頁)であるとされ,厳格な投票価値の平等が求められているところであるが,他方,参議院議員選挙制度の仕組みについては,国民各層の種々の利害や考えを公正かつ効果的に吸収する多角的民意反映の考えに基づいて,厳格な人口比例主義以外の合理的な政策的目的ないし理由をより広く考慮することは,二院制の趣旨に合致するものである。
 以上は昭和58年大法廷判決以来の累次の当審判例の趣旨とするところであり,これらの判例法理が認めるように,憲法は投票価値の平等を要求しているが,それが参議院議員選挙制度の仕組みを決定する唯一,絶対の基準となるものではない。
 私は,衆議院議員の選挙においては,人口に基づいて議員定数を配分することが重視されることが当然であると考えるが,参議院も同様の厳格な人口比例原理を選出基盤とした議員により構成するとすれば,参議院は「第二衆議院」ともいうべきものとなりかねず,憲法が採用した二院制の趣旨が損なわれる結果になることを危惧する。むしろ参議院議員の選出基盤が衆議院議員のそれと異なる要素を有することによって,両院あいまって,国会が総体として公正かつ効果的に国民を代表する機関たり得ると考えられる。国民の利益は複雑で,意見は多様であるため,人口の多寡を基準にした選出基盤だけでは多様な民意が十分反映されない。一例を挙げれば,人口が集中した大都市地域と人口の少ない地方の間では,異なった問題があり,異なった解決策が求められることも少なくない。今日の日本においては,全国をカバーする交通網や情報網は著しく発達したものとなったが,大都市と地方の間の種々の面における不均衡の問題はむしろより深刻になったという指摘も見られ,国政と地方の関係に関する問題意識や地方分権に関する議論が高まっているのが現状である。多種多様の問題に対応して国土のバランスの取れた発展を期するためには,地方の実情と問題意識に通暁した者が国政に参画することが必要であるが,人口の多寡により定数配分が定められる仕組みにおいては,国会議員が国民全体の代表者であるとしても,人口の少ない地域の問題意識を国会に十分反映させることには実際上困難を伴う。単純な人口比例原理の問題点を補う仕組みを設けることには十分な合理性があり,人口比例原理により選出される議員から成る衆議院とそれとは異なる選出基盤をも併せて用いる参議院とがあいまって,多様な民意を二院制の国会に反映させることができるとされてきているのである。
 ところで,現行の参議院議員選挙制度の仕組みにおいて,比例代表選出議員の選挙に関しては,1人1票の価値の原則が実現している。投票価値の平等との関係で問題となるのは選挙区選挙についてである。多数意見が指摘するとおり,選挙区選挙に関する現行の選挙制度の仕組みの下においては,最大較差の大幅な縮小を図ることは困難な事情がある。これは,憲法46条が参議院議員の任期を6年とし,その半数を3年ごとに改選することを求めていることと関係がある。現行制度においては,半数改選を実現するため都道府県単位の各選挙区に偶数の定数配分(最小限2人)を行っているが,投票価値の平等化のための措置として,仮にこれを奇数配分(最小限1人)にして,平成12年10月実施の国勢調査による人口に基づき最大剰余方式により定数配分を行うとすると,47選挙区のうち15選挙区の定数が1人となる。この場合,これら15県の選挙人は6年に一度しか投票し得ないこととなり,これは3年ごとに選挙が行われる定数2人以上の選挙区の選挙人の半分しか投票機会がないことを意味するが,このような絶対的不平等が許容されるとは思えない。
 また,選挙区が都道府県単位とされていることには,累次の当審判決が触れたとおりのそれなりの合理性が認められる。都道府県は普通地方公共団体として地方自治を担い,我が国の政治や行政の実際において重要な役割を果たしているのであり,都道府県単位の選挙区制は,長年にわたる慣行として国民の間において定着しているといえよう。もちろん,都道府県単位の選挙区制は憲法に定められたものではなく,唯一,絶対の選択肢でもないが,国政と地域を結ぶその機能は重要であり,それに代わり得るもので国民が受け入れる選挙区制を見いだすことは,決して容易ではない。
 このように,都道府県単位の選挙区に偶数(最小限2人)の定数を配分する現行の参議院議員選挙制度の仕組みは,合理性を有しているのであるが,現行の定数配分の仕組みを前提とした場合,投票価値の平等という観点からは,較差の縮小が求められている状況にある。投票価値の平等の重要性を踏まえながら,憲法が二院制を採用した趣旨や参議院の独自性を損なうことがないような選挙制度の見直しを実現することは,容易ならない課題である。投票価値の平等の重要性については今更多言を要しないが,選挙制度自体を見直すとすれば,単なる数字上の定数配分の是正ではなく,憲法が国権の最高機関である国会につき二院制を採用している趣旨を踏まえた統治機構の在り方についての検討が求められる。それ故にこそ,参議院の在り方を踏まえた正しく高度の政治判断が必要とされるのである。
 参議院議員の定数配分については,国会においても参議院の在り方を踏まえた抜本的な検討の必要性が指摘され,何度か是正措置が執られたところであるが,参議院の在り方にふさわしい代表基盤とは何か,参議院の場合に投票価値平等の原則が譲歩を求められるとして,憲法が二院制を採用した趣旨も含め,これを正当化する他の政策的目的ないし理由として国会は何を考慮しているのか,といった基本的な諸点について,国民の理解が進んでいるとは見受けられない。これらの諸点について一朝一夕に結論を得ることは困難であろうが,国会が憲法によってゆだねられた立法裁量権を行使して選挙制度の仕組みを検討するに当たって,これらの点に関する論点を国民に広く明らかにしつつ検討を加え,衆議院とは異なった参議院の在り方にふさわしい選挙制度の仕組みの基本となる理念を速やかに提示することが望まれる。

【金築誠志補足意見要旨】

1.憲法は,両議院の議員の任期と参議院議員の半数改選制を自ら定めるほかは,議員の定数,選挙人及び被選挙人の資格,選挙区,投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項について,挙げて国会の立法にゆだねているから(43条ないし47条),これらの事項をいかに定め,どのような形態の選挙制度を採用するかに関し,国会が広範な裁量権を有していることは明らかであり,選挙制度を決定するに当たって,投票価値の平等が唯一,絶対の基準となるものではないことも当然である。
 しかし,投票価値の平等は,すべての有権者が国政選挙に対して平等な権利を持ち,その意味において国民の意見が国政に公正に反映されることを保障する憲法上の要請であるから,国会が選挙制度を決定するに際して考慮すべき単なる一要素にすぎないものではなく,衆議院のみならず参議院においても,選挙制度に対する最も基本的な要求として位置付けられるべきものである。最高裁平成6年(行ツ)第59号同8年9月11日大法廷判決・民集50巻8号2283頁が,投票価値の平等は憲法14条1項に由来するものであり,国会の立法裁量権にもおのずから一定の限界があることを指摘しているように,このことは,これまでの当裁判所判決の趣旨とするところであったと考えられる。多数意見が,投票価値の平等は,参議院の独自性など国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものであると説示している部分も,これを前提とした上で,投票価値の平等を重視する余り,他の面でバランスや合理性を欠く選挙制度となることは適当でないとの趣旨を述べたものと解される。

2.一般に,憲法の平等原則に違反するかどうかは,その不平等が合理的根拠,理由を有するものかどうかによって判定すべきであると考えられているが,投票価値の平等についても,基本的には同様の考え方が妥当する。投票価値の較差については,その限度を2倍とする見解が有力であるが,2倍に達しない較差であっても,これを合理化できる理由が存在しないならば違憲となり得る反面,例えば二院制の在り方等からする十分な理由があれば,2倍を超える較差が合理的裁量の範囲内とされることもあり得るから,2倍は理論的,絶対的な基準とまではいえない。しかし,2倍という数値は,常識的で分かりやすい基準であり,国会議員選挙における投票価値の平等といった,全国民に関係する,国政の基本にかかわる事柄について,基準の分かりやすさは重要であるから,著しい不平等かどうかを判定する際の目安としては重視すべきである。
 また,これまでの当裁判所の判例においては,議員定数配分規定の全体を不可分一体のものとしてその効力の有無が判断されてきており,私もそれが正しいと考えるが,そうした形で判断する以上,選挙区間の議員1人当たりの選挙人数の最大較差だけでなく,全国的な較差の広がりの状況も判断要素とするのが相当である。
 なお,比例代表をも加えて投票価値を算定するという,多数意見3項掲記(※判旨1の部分)の平成18年10月4日大法廷判決における那須裁判官の補足意見は,大変傾聴すべき見解であるが,選挙区選挙における投票価値の較差のみをもってしても憲法14条1項違反の問題が生ずるとしてきた従来の判例の態度には,十分な理由がある。しかし,投票価値に地域的な較差のない比例代表の存在を,1回の参議院議員通常選挙において各有権者が行使し得る権利の総体という観点から,選挙区選挙における投票価値の不平等を一定程度埋め合わせる要素として考慮することは,当然許される。

3.本件選挙当時において,選挙区間の最大較差は,目安と考えるべき2倍をはるかに超えて4.86倍にも達していた。全国的な較差の状況については,様々な指標の採り方があるが,差し当たり原判決が認定しているところによって平成17年国勢調査に基づき人口500万人以上の9大都道府県とそれ以外の38府県との比較を見ると,人口では前者が9%上回っているのに,本件改正後の議員数は前者が52人,後者が94人であって,議員1人当たりの平均人口にほぼ2倍の較差が生じていたから,本件選挙当時においても,人口ちゅう密地域とそれ以外の地域との間に大きな較差があったことが推認される。このような較差状況は,投票価値の著しい不平等状態に当たると認めざるを得ず,これを憲法上合理的範囲内として是認するためには,よほど強い明確な理由が存在しなければならない。
 半数改選制は,衆議院に比較し相対的に安定性,継続性を重んじようとした参議院に特有の憲法上の要請であり,これとの関係で奇数区を設けないこととしている点も含めて,投票価値の平等に譲歩を求めるやむを得ない理由になるが,この要請を満たしつつ,投票価値の著しい不平等を生じさせないような制度設計を行うことは,現在の参議院議員選挙の枠組みを固定的に考えなければ可能であるので,上記のような大きな較差を正当化するには足りない。
 選挙区間の平等な定数配分の実現を妨げている大きな要素として,衆議院に比べて議員総数が少ないことに加えて,そのうちの相当数を比例代表に割り当てていることと,都道府県を選挙区選挙の単位としていることがある。現行のように選挙区選挙と比例代表の2本建てとするかどうか,議員総数を何人としそれを選挙区選挙と比例代表にどう配分するか,選挙区割りをどう定めるかは,いずれも参議院の性格決定に関係するところがあり,正に立法府の裁量に属する。しかし,前述のように,この裁量には限界があるのであり,国会は,投票価値の著しい較差をもたらさないように裁量権を行使すべき責務を有している。都道府県が,その長い歴史からも政治的,経済的,社会的に独自の意義と実体を有していることは否定できず,これを選挙区選挙の単位とすることの結果として,投票価値にある程度の不平等が生じることは合理性を欠くものではないと認めてよいが,我が国の参議院は,連邦制国家における上院のような存在ではなく,組織原理を衆議院と全く異にするものではないのであるから,都道府県代表的意義という理由をもって較差を合理化することには,憲法上限度があるというべきである。
 結局,参議院議員の選挙においては,衆議院に比較すれば,投票価値の不平等を緩やかに考えてよい要素はあるものの,上記のような著しい不平等の存在を長期にわたって合理化できるほどの根拠は見いだし難いといわなければならず,大幅な較差縮小のための立法措置が不可避である。

4.多数意見が指摘するとおり,現行の選挙制度の仕組みを維持し,各選挙区の定数を振り替える措置による是正では,較差を4倍以内とすることすらできないのであって,大幅な較差縮小を実現するためには,選挙の仕組み自体の抜本的な見直しが必要とされる。そして,こうした制度の見直しは,二院制の下における参議院の役割,在り方を踏まえた,それにふさわしい,バランスの取れたものであることが求められるから,国会に対して,この判決の趣旨に沿った法改正の立案・審議のため,一定の時間的猶予を認めざるを得ず,本件選挙までの間に本件定数配分規定を更に改正しなかったことが国会の裁量権の限界を超えたものとまでいうことはできないものであり,今直ちに違憲判断をすることは相当でない。

【中川了滋反対意見要旨】

1.多数意見は次のとおり述べる。@ 憲法は,選挙権の内容の平等,換言すれば,議員の選出における各選挙人の投票の有する影響力の平等,すなわち投票価値の平等を要求していると解される。A しかしながら,憲法は,どのような選挙制度が国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させることになるのかの決定を国会の裁量にゆだねているのであるから,投票価値の平等は,選挙制度の仕組みを決定する唯一,絶対の基準となるものではなく,参議院の独自性など,国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において,調和的に実現されるべきものである。それゆえ,国会が具体的に定めたところがその裁量権の行使として合理性を是認し得るものである限り,それによって投票価値の平等が一定の限度で譲歩を求められることになっても,憲法に違反するとはいえない。
 私は,以上の点については賛成するものである。したがって,国会の定めた本件定数配分規定が国会の裁量権の行使として合理性を是認し得るものであるかどうかが問われなければならない。

2.確かに,現行法制下での参議院議員の選挙制度は,創設された当初から,都道府県を選挙区とし,半数改選制への配慮から,各選挙区につき,最小限を2人とする偶数の議員定数を配分する制度を採用してきているところ,このような都道府県単位の選挙区設定及び定数偶数配分制には上記のような一定の合理性を認めることができる。しかし,憲法は二院制と3年ごとの半数改選を定めているにすぎず,都道府県単位の選挙区設定及び定数偶数配分制は憲法上に直接の根拠を有するものではない。そして,参議院議員の定数配分については,その後当初の人口分布が大きく変わり,それに伴う人口比例による配分の改定が適宜行われなかったこともあって,最大較差1対6.59まで拡大したこともあり,そのような較差は,当審判決により,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態と判断された。ところが,その後2回にわたる定数改正があったにもかかわらず,本件選挙当時にはなお1対4.86の最大較差があったものである。上記1@のとおり,投票価値の平等を憲法の要求であるとする以上,そのような較差が生ずる選挙区設定や定数配分は,投票価値の平等の重要性に照らして許されず,これを国会の裁量権の行使として合理性を有するものということはできないと解するべきである。このような較差が生じている不平等状態は違憲とされるべきものと考える。

3.以上によれば,本件定数配分規定は違憲であるが,国会による真摯かつ速やかな是正を期待し,事情判決の法理に従い本件選挙を違法と宣言するにとどめ,無効とはしないものとするのが相当である。

【那須弘平反対意見要旨】

1.国民が議会構成員を選挙するについては,1人1票の原則を基本とすべきであるから,ある選挙人に与えられる投票の価値が他の選挙人に与えられる投票の価値の2倍以上となる事態は極力避けなければならない。この理は,憲法14条(法の下の平等),15条3項(普通選挙の保障)及び44条ただし書(議員選挙における差別禁止)の各規定から当然に導かれるものであって,憲法47条が議員選挙に関する事項を法律に委任しているからといって,特に変更を受けるものではない。多数意見が「累次の大法廷判決の趣旨とするところ」として要約する基本的な判断枠組みは適切なものであるが,この枠組み自体は上記1人1票の原則を否定するものではなく,むしろこれを当然の前提としていると解される。この前提に立つと,今回の訴訟で問題とされている選挙区間の投票価値の最大較差1対4.84ないし4.86という数値が1票の価値の不平等を示すものでこそあれ,平等を裏付けるものではあり得ないという判断に行き着くのはむしろ当然のことである。

2.それでは,選挙区間の投票価値に上記の較差があるからといって,直ちに「違憲」という結論を導き出してよいかというと,問題はそれほど単純ではない。私は,これまでの多くの訴訟の中で投票価値の較差を示すものとして用いられてきた数値が平等・不平等の実態を適正に反映しているか,また,その較差を是正する具体的・現実的な方法として何が考えられるかについて,根本に立ち戻って点検する必要があると考える。そのための一つの手法として,考察の対象を選挙区だけに限定せず,比例代表選挙の定数にも広げることが考えられる。すなわち,

(1) 参議院議員の選挙において,各選挙人は選挙区選出議員を選ぶのに1票,比例代表選出議員を選ぶのに1票と,二つの投票を行う。参議院議員選挙における各選挙人の政治的意思は,この二つの投票行動が相まって表明されるものとなっている。選挙区選挙と比例代表選挙は決して無関係な2個の選挙がたまたま同時に行われるというものではなく,被選挙人の定数(選挙区146人,比例代表96人),選出母体となる区域(選挙区は都道府県単位,比例代表は全国を通じ一つ)等についてそれなりの関係づけをし,一体のものとして設計され運用されている。選出された議員も,選挙区から選出された者であると比例代表から選出された者であるとを問わず,ひとしく参議院の構成員として何らの区別もなく立法活動に携わることになる。したがって,参議院議員選挙における投票の価値を考えるのに,選挙区における投票と比例代表における投票とを一体のものと見て,両者を総合して計算することはごく自然なことである。

(2) 比例代表選挙は全都道府県を通じて一つの単位として投票が行われるから各選挙人の投票価値に差はない。したがって,これを選挙区選挙の投票価値と合わせて計算すれば,選挙区選挙だけの場合に比べて較差はかなり緩和されたものとなる。詳細は平成18年大法廷判決(多数意見3項掲記の平成18年10月4日判決)における私の補足意見の中で指摘したとおりであるから省くとして,結論だけ見れば,前回選挙では,最も投票価値の低い東京都を1とした場合,最大較差は鳥取県の2.89であった。本件選挙について同様な方法で計算すると,最も投票価値の低い神奈川県を1とした場合,最大較差は鳥取県の2.83となる。この較差は前回よりわずかに縮小しているが,投票価値の平等という点で問題であることに違いはなく,この較差を少なくとも1対2未満に収める必要があることは前述のとおりである。

3.最大較差が1対2未満の範囲内に収まることが望ましいとしても,参議院議員選挙における現行の選挙制度の仕組みを前提とする限り,較差の大幅な縮小を図ることが難しいという問題はこれまでの参議院議員選挙をめぐる訴訟でしばしば指摘されてきた。しかし,視野を比例代表の定数にまで拡大し,最大較差についても比例代表を合わせて計算すると,状況はかなり変わったものとなる。
 例えば,比例代表の定員16名分を減じて,これを定員が過少な選挙区に順次振り替えることができれば,参議院議員の定数全体はそのままでも,選挙区と比例代表とを合わせて計算した投票価値の最大較差は一定程度縮小する。これに加えて,平成12年改正で減員となった10名を復活させこれを選挙区の定員に振り向ければ,更に事態は改善する。その際,各選挙区について最低2の定数を配分しつつ,これを超える定数については奇数配分も可能とした上で(これにより各選挙区の増員数が常に偶数でなければならないという窮屈さを回避できる),奇数定員の選挙区について偶数定員の選挙を行う回と奇数定員の選挙を行う回を交互に組み合わせ,かつ全国の選挙区を総体としてみたときに奇数選挙区選挙が一方に偏らないように分散させる等の方法を加味して,全体として憲法46条の「3年ごとに議員の半数を改選する」との要請を満たすことも可能であり,これらの策を動員することで,比例代表を合わせた投票価値の最大較差を1対2.2程度にまで縮小することが可能となる。

4.私は,平成18年大法廷判決において,比例代表を合わせて計算しても最大較差は1対2.89であり,これが違憲領域に近接していると認められることを前提としつつ,「憲法の許容する立法の裁量権の範囲内に辛うじて踏みとどまったもの」として,結論的には憲法違反を否定する多数意見に賛同した。この判断は,対象となった選挙が平成16年大法廷判決から6か月しか経たない時期に行われたこと,その間に参議院が定数較差問題に関する協議会を発足させるなど是正に向けて具体的で真摯な対応を執り結果として平成18年6月の4増4減の本件改正が実現したこと等の経緯を重視したことによるものであった。
 これに対し,本件選挙については,本件改正が平成18年大法廷判決における上記判断に織り込み済みであって再度評価の材料とすることは相当でなく,他に,国会の審議に見るべき進展があったとか,進展に向けた真摯な努力が重ねられたという形跡も見受けられない。そして,現行の選挙制度の仕組みの下でも,比例代表をも含めた全体の選挙の最大較差を相当程度縮小させる方法がないとはいえないことは,上記3に述べたところから明らかである。
 してみると,本件選挙については,適切な対応がなされることなく1対2をはるかに超えて1対3に近い大幅な較差が残されたまま実施された点において,憲法の違反があったと判断せざるを得ない。

5.本件のような選挙定数訴訟において,憲法違反と判断された場合の主文の在り方については,最高裁昭和49年(行ツ)第75号同51年4月14日大法廷判決・民集30巻3号223頁で確立された判例に倣い,主文で請求を棄却しつつ,当該選挙が違法である旨を宣言するいわゆる事情判決にとどめる考え方が有力である。しかし,事情判決といっても,請求全部を棄却するものであることに相違はなく,直接,立法府に改正を促す法的効果を持つものでもない。しかも,元来,公職選挙法204条の定める訴訟類型には本件のような違憲を理由とする定数訴訟を含むことは予定されておらず,その上,事情判決の適用も排除される中で,最高裁が法的救済の必要性を重視する立場から,あえて一般法理を適用して示した判断が上記昭和51年大法廷判決であって,同判決は実質的には違憲確認ないし違憲宣言判決に近いものであると見ることができる。以上の来歴を念頭において,本件訴訟の本質を直視すれば,事情判決から竿頭一歩を進めて,端的に主文で違憲確認をする方法を認めてもよい。その場合には,原告の主張の眼目が定数配分の違憲について判断を求める点にあることをも考慮し,違憲確認の対象を定数過少が争われている当該選挙区に関する定数配分規定に絞り,かつ,定数が過少なものにとどめられているという一種の立法不作為の限度において判断すれば足り,選挙自体を無効とするまでのことはない。定数の過少が問題とされる選挙区について,当選者に投票した選挙人のせっかくの政治的意思表示を無に帰し,いったん当選者とされた被選挙人を何の落ち度もないのに国政の場から排除することは,本件訴訟が目的とする範囲を超えて無用な混乱を来すことにもなる。そこで,選挙無効の訴えの中に含まれると解される違憲確認を求める部分に着目し,主文において本件定数配分規定のうち東京都選挙区の議員数を10人にとどめたままである点につき違憲である旨を確認するとともに,これを超える選挙無効の請求については「その余の請求を棄却する」等の文言により一部認容判決である趣旨を明らかにするのが相当であり,そうすることが違憲法令審査権を有する最高裁判所の職責を尽くす途にもつながると考える。

【田原睦夫反対意見要旨】

1.投票価値の平等の憲法上の意義

 国民が選挙権の行使によって国政に参加できることは,民主主義国家の基本原理であり(憲法前文,43条1項),その参政権は,人種,信条,性別,社会的身分,門地,教育,財産又は収入によって差別されてはならない(憲法44条ただし書)ことはもちろんのこと,その選挙権を行使する地域(居住地)によって,投票価値に較差を生じさせることは,原則として投票権の平等を侵害するものであって,憲法14条1項,15条1項,3項,43条1項,44条ただし書,47条に違反するものというべきである。国会が国権の最高機関(憲法41条)たる由縁は,国会を構成する議員が,かかる国民の平等な参政権の行使によって選出され,全国民を代表することによるものである。
 もっとも,私も,多数意見が述べるように,憲法は,投票価値の平等を選挙制度の仕組みの決定における唯一,絶対の基準としているものではないことは是認するものである。しかし,多数意見が述べる「投票価値の平等は,参議院の独自性など,国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものである」とする点には賛成できない。国民の参政権の実現たる選挙における投票の価値の平等は,選挙制度や地政学的な配慮をも加えた上での技術的な諸問題から一定の譲歩を迫られざるを得ないことはあり得るものの,それは,選挙制度を構築する上で,最も重視されるべき要素であって,他の政策的目的ないし理由との間で調和的に実現されるべきものにとどまるのではない(最高裁平成6年(行ツ)第59号同8年9月11日大法廷判決・民集50巻8号2283頁における大野正男裁判官外5名の反対意見,最高裁平成9年(行ツ)第104号同10年9月2日大法廷判決・民集52巻6号1373頁における尾崎行信裁判官外4名の反対意見,最高裁平成11年(行ツ)第241号同12年9月6日大法廷判決・民集54巻7号1997頁における河合伸一裁判官外4名の反対意見参照)。

2.参議院の組織及びその議員の選挙制度と憲法

 憲法は,参議院の構成に関しては,全国民を代表する選挙された議員でこれを組織するものとし(43条1項),任期を6年として3年ごとに議員の半数を改選する(46条)こと以外は,その定数(43条2項),議員及びその選挙人の資格(44条本文),選挙区,投票の方法その他議員の選挙に関する事項(47条)は,法律でこれを定めるものとし,その具体的な規律は,国会の合理的な裁量に委ねている。
 国会が,憲法により認められた立法上の裁量権を行使し,参議院の組織,選挙制度を構築するに当たっては,連邦制国家における二院制とは異なり,単一国家における二院制の意義,憲法上衆議院の優越が認められ,参議院には,解散がなく,その議員の半数を3年ごとに改選する制度が設けられたことの趣旨を踏まえた参議院の位置付け等の諸点を十分に考慮し,また,憲法上の要請たる国民の投票権に係る投票価値の平等を,いかなる政策的要素の下にいかなる程度まで修正することが許されるかについて厳密な較量がなされるべきものである。そして,国会は,参議院の組織,選挙制度について立法をした後においては,その後の我が国の経済構造を含む社会情勢の変化,人口動態等,その政策選択の基礎を成した社会的な事実関係の変動を常に注視し,既存の参議院の組織や選挙制度がその変動に十分に対応し得ているか否かを機会あるごとに検証し,その変動の程度が,立法当初あるいはその後の改正法制定時に想定されていた限度を超えていると認められるに至った時は,その新しい事態に対応すべく,参議院の組織や選挙制度の見直しを継続的に行っていくべき義務を憲法上負っているものと解される。そして,社会構造の変化や人口動態が,立法当初あるいはその後の改正法制定当時の想定と著しく異なるに至り,その結果,既存の組織と憲法の定める二院制の理念との間に大きな乖離が生じ,あるいは,既存の選挙制度が国民の国政への参政権の根幹を成す投票権の平等を著しく害するに至った場合には,国会は,かかる事態を解消するに足る合理的な施策を伴う立法を行うべき義務を負っているものというべきである。
 そして,国会が,上記の目的に沿う法改正を行うに必要と認められる合理的な期間を経過した後においても,何らの措置を採ることなくその事態を放擲し,あるいは,国会が採った立法措置が上記の事態を解消するには程遠い当面の弥縫策としか評し得ないものである場合には,憲法によって認められた立法権の適正な行使を,国会が正当な理由なく怠るものといわざるを得ず,そのような状態にある組織や選挙制度は違憲状態に陥っていると評価せざるを得ないのであり,そのような違憲状態にある選挙制度の下で施行される参議院議員選挙は,違法との評価を受けることとなる。

3.従前の参議院議員の選挙制度とその議員の配分

 選挙区選挙に関しては,昭和22年の参議院議員選挙法制定以後,戦後の復興,経済成長の下で,同法制定時に比して我が国の社会,経済構造は著しく変革し,また,人口動態も大きく変動し,それに伴い各選挙区間の人口基準の最大較差は,同法制定当時に比して大きく拡大し,既に昭和37年7月1日施行の参議院議員通常選挙時において4倍を超えるに至っていたにもかかわらず,その制度の見直し作業は長らく放置され,選挙区選挙制度についての改正が行われるのは,制度発足以来,実に47年を経た平成6年まで待たなければならなかった。しかも,平成6年の8増8減の改正たるや,選挙区選挙制度の根本問題に立ち入ることなく,また,投票価値の較差が4倍を超える事態が生じていることを是認し得る理由について何ら検討することなく,取りあえず最大較差を5倍以下に抑えるための施策として採用されたにすぎなかった。また,その後の選挙区選挙制度に関する平成12年,平成18年改正も,憲法の定める二院制の意義や参議院議員選挙法において選挙区選挙制度が採り入れられた趣旨について根源的な検討を加えることなく,既存の選挙区選挙制度への影響をできるだけ抑止しつつ較差を5倍以下に抑えるべく改正がされたものと解さざるを得ないのであって,それらの改正は単なる弥縫策であるとの評価を受けてもやむを得ない。

4.参議院選挙区制の抜本的見直しの必要性

(1) 選挙と投票価値の平等

 1に記載したとおり,投票権の平等の要請は,憲法の基本的な理念に基づくものであると理解する限り,選挙制度を検討するに際しては,その制度における技術的なあるいは地政学的な関係上,選挙区間に投票価値の不平等が生じ得るとしても,その較差は,でき得る限り1に近づけるよう努力すべきものであり,その較差が2を超える場合には,その較差が生じるについての合理的な理由が明らかにされなければならないものというべきである。

(2) 現行の選挙区選挙制度が設けられた趣旨

 昭和22年に制定された参議院議員選挙法が採用した選挙区選挙は,憲法43条に定める全国民を代表する議員を選出する手段として,当時の交通,通信手段の未整備を踏まえ地方の実情を国会に反映させるには,地方の実情を知悉した人材を選出する必要があるとの発想の下に設けられた制度であるから,交通,通信手段が整備され発達し,あるいは,各種の情報伝達手段が充実し,国会議員が国民の声を博く入手し,それを反映する方法が整った時点においては,その制度制定時の立法趣旨に遡って,その制度を抜本的に見直すべく検討がされてしかるべきである。
 また,参議院議員選挙法では,人口を基準とする選挙区間の最大較差は,2.62倍となっていたが,それは,上記の制度趣旨から選挙区を都道府県に割り当て,かつ,半数改選制の趣旨から偶数を割り当て,人口比例配分した結果,上記の較差を生じたというのであり,かつ,較差が2倍を超えるのは合計して12選挙区で,それ以外はすべて2倍以内に収まっていたのであって,その較差の程度は,当該選挙制度を選択した趣旨からして是認し得る範囲内にとどまっていたものといえる。

(3) 現行の選挙制度と選挙区間の投票価値の平等

 多数意見が述べるように,現行の「都道府県単位の選挙区」と「偶数配分」の制度を維持し,かつ,選挙区選出議員の総定数を現行程度に止める限り,各選挙区の定数を振り替える措置により較差の是正を図ったとしても,較差を1対4以内に抑えることは困難である。
 しかしながら,上記の各要素は,前述のとおりいずれも憲法上の要請ではなく,また,定数の点はともかくとして,その余の点は参議院議員の選挙制度を検討する上での所与の要件でもない。まず,選挙区選出議員制度自体,当初全国選出議員制度が設けられる下で,当時の通信,交通事情を踏まえれば,全国的に有名有為の人々を求めるほか,地方での有名有為の人々を求めることにも意義があるとして設けられた制度である。しかし,インターネットに代表される情報伝達手段が高度化した今日では,地方在住の有為な人材が広く全国に知られている例は,枚挙に暇がないほど存するのであって,全国区に替わって設けられた比例選出制度のほかに選挙区選出議員制度を存立する必要性は,少なくとも制度が設けられた当時に比すればはるかに小さくなっている。
 また,参議院議員選挙の選挙区が都道府県を単位として定められたのは,中央に対応する意味での地方の実情に通じた有為な人材を求める方法の一つとして定められたものにすぎず,決して都道府県の代表を選出する趣旨で設けられたものではないのであるから,選挙区制を維持するとしても,都道府県を選挙区として維持すべき必然性は全く存しないのである(選挙区制度の見直しの一環として,一部の合区案が主張されているが,従前の選挙区制に引き摺られた弥縫策的な案という側面はぬぐえない。)。また,仮に都道府県を選挙区とする制度を維持するとしても,半数改選制の故をもって必ず選挙区選出議員数を偶数にする必要はない(選挙区選出議員数を奇数にした場合の不都合については,これまでにも指摘されているが,例えば,参議院議員の定数242人中半数の121人は比例区で,残余の121人は選挙区で選出するものとし,3年ごとにその一方の議員の選挙を行うこととすれば,選挙区選出議員が奇数であっても特段の不都合は生じない。仮に,かかる方式を採れば,最大剰余法を用いると,最大較差は1対2.46(鳥取県と山口県)で,2倍を超えるのは10県にとどまる。また,かかる選挙制度を採れば,3年間の時間差が生じるとはいえ,投票価値が完全平等である比例代表選挙と選挙区選挙の較差を平均して評価することも正当化され,そうすると,上記の最大較差は2倍を下回ることとなる。)。
 参議院議員の選挙制度の抜本的見直しを行うに当たっては,今日の,選挙区間において4倍を超える人口較差が生じる最大の原因たる,選挙区を都道府県を単位とし,かつ,偶数を配分するという制度を廃止することが大前提となる。その上で,いかなる選挙制度を構築するかは,憲法の関連諸規定及びその趣旨を踏まえた上で,国会が合理的な裁量をもって定めることとなるのである。
 なお,国会がその裁量権を行使して選挙制度を構築するに当たっては,少なくとも以下の諸点につき十分に留意することが必要であろう。

@ 二院制たる参議院にふさわしい議員を,全国民を代表する者として選出できる制度であること
A 現在採用されている衆議院議員選挙制度(1人別枠方式を含む都道府県ごとに更に区割りをした小選挙区制とブロック別比例代表制の併用制)とは異なる方式であること(都道府県に1人別枠を設ける小選挙区制は,地域代表的側面をも有しているので,同制度の存在は,参議院議員の選挙において,都道府県の地域代表を選出することにつき消極の方向で機能する。)
B 今日の,インターネットを用いることによる情報の質,量を含めたその伝達の即時性,広域性,及び,全国の主要都市間はほぼ同日中に往復できるという充実した交通機関網の存在に十分配慮した制度であること
C 国民の参政権の基本たる投票権の価値は,でき得る限り平等になるように工夫し,その平等が維持できない場合にも,その較差の程度及びその範囲をできる限り限局するように努力すること。それらの工夫によっても,1票当たりの人口較差が2倍を超える場合には,2倍を超えてでも当該選挙制度を選択する理由について,国民に明示すること
D 今後の人口動態の変動を視野に入れ,新たに選択された選挙制度が比較的長期間安定的に機能し得ること

5.本件選挙における投票価値の平等

 本件選挙時点での議員1人当たりの選挙人数の較差は,最大は鳥取県と神奈川県の1対4.86であるが,それ以外に4倍を超えるのは大阪,北海道,兵庫,東京,福岡の5選挙区に及び,また鳥取県を基準として3倍を超えている選挙区は15選挙区に及んでいる。また,議員1人当たりの選挙人数較差が3倍を超える地域をみると,鳥取,島根,高知,福井,徳島の5選挙区(その選挙人数の合計は約307万人)に対し,上述の神奈川,大阪,北海道,兵庫,東京の5選挙区(その選挙人数の合計は約3387万人)に達するに至っているのである。
 このように選挙区間の最大較差はもちろんのこと,全選挙区の2割を超える選挙区間で最大較差が3倍を超えており,その3倍を超える選挙区の選挙人数の合計は全選挙人数の32.65%に達しているのである。
 これだけ多数の選挙人の投票の価値が,上記鳥取外4選挙区の投票の価値よりも3分の1以上劣位に評価される(逆にいえば,鳥取外4選挙区の選挙人(その合計は前述の約307万人で全選挙人数の2.96%)の投票の価値が,神奈川外4選挙区の選挙人(その合計は,前述の約3387万人で全選挙人数の32.65%)の投票価値の3倍に評価されることになる。)だけの合理的理由は全く見いだせないのである。
 また,選挙区選挙の定数中過半数を選出するのに必要な選挙区数とその選挙区の選挙人数を計算すると,47選挙区中最も議員1人当たりの選挙人数が少ない鳥取選挙区から数えて29位までの選挙区の定員で,選挙区選出議員の総数の過半数を選出することができるが,その選挙人数は全体の33.3%にとどまる。すなわち,選挙人全体の3分の1の投票で選挙区選出議員の過半数を選出することができるのであって,かかる点からみても,投票の価値の不平等さは顕著である。
 このように,本件選挙時点においては,各選挙区間における投票価値に著しい不平等が生じるに至っているが,その不平等が許容される合理的な理由が国会から国民に示されたことは一度もない。そして,その著しい投票価値の不平等について,合理的に説明することができない以上,その不平等は,憲法14条の趣旨に反し,違憲状態にあるとの評価を受けざるを得ないのである。

6.本件選挙の違法性

(1) 従前の最高裁判所大法廷判決による問題点の指摘

 参議院議員通常選挙において,選挙区間の議員1人当たりの選挙人数の最大較差が4倍を超えたのは,昭和37年7月1日実施の選挙からであって,その後の前記の選挙制度の改正にもかかわらず,本件選挙までの45年間,最大較差が4倍以下にとどまったことは一度もない。国民の参政権たる選挙の投票価値が4倍を超えることを合理化するに足る政策目標などは見いだすことはできず,かかる状態は,違憲状態にあるものと解さざるを得ない。
 そうした中で,昭和52年7月10日施行の参議院議員通常選挙(選挙区間の選挙人数の最大較差は1対5.26)の効力が争われた訴訟に係る最高裁昭和54年(行ツ)第65号同58年4月27日大法廷判決・民集37巻3号345頁において,団藤重光裁判官が違憲であるとの反対意見,谷口正孝裁判官が違憲状態にあるとの意見を述べるに至った。
 次に,平成4年7月26日施行の参議院議員通常選挙(選挙区間の選挙人数の最大較差は1対6.59)に係る最高裁平成6年(行ツ)第59号同8年9月11日大法廷判決・民集50巻8号2283頁の多数意見は,同選挙時における選挙区間の投票価値の不平等は,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じていたものと評価せざるを得ないとしながらも,なおその是正措置を講じなかったことをもって,立法裁量権の限界を超えるものではないとして合憲としたが,前記のとおり大野正男裁判官ほか5名の反対意見があり,その反対意見においては,選挙区間の議員1人当たりの選挙人数の最大較差の問題だけではなく,付加選挙区(定数2に人口比に応じて定数を2の倍数増加された選挙区)間の平等の確保の問題が論じられ,また,個別の反対意見において,投票価値の平等の確保の観点からの選挙区選挙の制度についての見直しを含めた検討の必要性が指摘されるに至っていた。その後も上記選挙後に施行された各参議院議員通常選挙に係る各最高裁判所大法廷判決において,上記反対意見と同様の観点からの反対意見や補足意見,殊に現行の選挙区選挙制度の抜本的な見直しを指摘する意見が,詳細に述べられている。

(2) 国会の立法不作為の違法

 国会は,憲法により認められた立法裁量権を適正に行使すべき責務を有しており,本件のごとき選挙制度に関しては,社会情勢の変化に対応して,制度自体の改変をも含めてその是正につき,常に意を払うべき責務が存する。
 殊に憲法との関係については,1に記載したとおり国会が国権の最高機関たる由縁が,国会を構成する議員が国民の平等な参政権の行使たる選挙によって選出されることによるものであることからすれば,国会は,選挙における投票価値の平等の確保については格段に意を払うべきものであるところ,前記のとおり,既に昭和37年施行の参議院議員通常選挙時において,選挙区間の議員1人当たりの選挙人数の較差が最大1対4.09と4倍を超えていたにもかかわらず,平成6年の公職選挙法の改正まで32年間,較差是正のための立法措置を全くとらなかったのであって,その不作為は責められてしかるべきである。また,上記平成6年の改正やその後の平成18年の改正は,いずれも選挙区間の投票価値の較差を若干減少させるものであったものの,前記のとおり,単なる弥縫策にすぎないと評さざるを得ないものである。
 しかも,前記のとおり平成4年の参議院議員通常選挙に係る平成8年の大法廷判決では,多数意見においても,本件選挙当時の較差は違憲の問題が生ずる程度の不平等状態が生じていたものと評価せざるを得ないとし,また6名の裁判官が違憲であるとの反対意見を表明しているのである。
 かかる最高裁判所大法廷判決がされた以上,国会は,同判決を受けて,参議院の憲法上の位置付けをも踏まえた上で,既存の選挙制度を抜本的に見直し,国民の投票価値の平等をできる限り実現し,憲法上の違法評価を受けるおそれのない制度を,立法をもって構築すべき法的責務を負うに至ったものというべきである。もちろん,4において述べたような選挙制度の抜本的な見直しを,短期間で成し遂げることは困難であって,その見直しには相当程度の期間を要するのであり,その間,見直しに係る立法がされないことは,即違法との評価を受けるものではない。しかし,上記平成8年判決から本件選挙まで10年以上の期間を経過しているにもかかわらず,その間,上記のとおり,平成18年の公職選挙法の改正では,選挙区の議員定数を一部分見直すことによって選挙区間の投票価値の較差を若干低減させる弥縫策をとったにとどまり,選挙制度の抜本的改正に着手されることなく推移してきたのであって,このように長期間,選挙制度の抜本的改正を怠り,違憲状態を放置してきた国会の対応は,国会に与えられた立法に係る裁量権を合理的に行使すべき責務を怠るものとして,違法であるとの評価を受けざるを得ないものである。

7.まとめ

 以上のとおり,何らの合理的理由もなく4倍を超える投票価値の較差が多数の選挙区において生じるという違憲状態が長期間にわたって生じ,かつ,その解消のためには選挙制度の抜本的改正が必要であることが最高裁判所大法廷判決によって指摘されたにもかかわらず,その後10年以上かかる改正がされないままの状態の下で施行された本件選挙は,憲法に反する違法な選挙制度の下で施行されたものとして無効であるといわざるを得ない。
 しかし,本件選挙によって選出された議員への影響や,本件選挙後の平成19年11月30日,参議院に参議院議長の諮問機関として参議院改革協議会が設置され,選挙制度改正を含む較差是正について抜本的に検討することとされていることにかんがみ,本件では事情判決の法理を適用して,本件選挙を違法と宣言するにとどめるのが相当である。

【近藤崇晴反対意見要旨】

1.憲法適合性の判断枠組み

 いわゆる参議院議員選挙の定数訴訟において,昭和58年大法廷判決以降の累次の大法廷判決の多数意見は,参議院議員定数配分規定の憲法適合性を判断する基本的な判断枠組みとして,多数意見の3項(※判旨1の部分)に摘記されているように判示してきた(ただし,平成16年大法廷判決においては多数意見ではなく「補足意見1」)。私は,この基本的な判断枠組みは,一般論として承認してよいと考える。@ 参議院は,第二院ではあっても,国権の最高機関である国会を構成し(憲法41条,42条),全国民を代表する選挙された議員で組織するとされる(憲法43条1項)のであるから,参議院についても投票価値の平等が要求されるのは当然であり,Aしかし,憲法が二院制を採る以上,民意を多角的に反映させるという目的を達成するために,選挙制度についても,衆議院のそれとは異なる独自性を追求することが要請されるものというべきだからである。B 要は,この両者のバランスが取れているかどうかであって,これによって憲法適合性の判断をすべきことになる。

2.本件定数配分規定の憲法適合性

 このような観点によって本件選挙について見ると,本件定数配分規定の下における選挙区間の議員1人当たりの選挙人数の最大較差は,1対4.86に及んでいた。この数値は,投票価値の平等がほぼ実現されているといえる最大2倍未満の較差を著しく逸脱するものであり,異なる選挙区間の選挙人の投票価値の平等を大きく損なうものであったといわなければならない。
 このように大きな較差を生じた要因は,参議院議員の選挙制度について,参議院議員の任期を6年とし,3年ごとに議員の半数を改選するという憲法46条の要求するところのほか,法律によって,参議院議員の総定数を242人,そのうち選挙区選出議員の定数を146人とし,各都道府県をそれぞれ1選挙区として各選挙区に偶数によって定数配分をするという仕組みが採られていることにある。このような仕組みを前提とする限りは,我が国の現在の人口分布の下では選挙区間における上記の最大較差を4倍以内とすることは不可能だからである。
 このような選挙制度の基本的な仕組み自体には,国会が正当に考慮することができる政策的目的ないし理由が備わっているものということができる。すなわち,第二院である参議院については議員総定数を衆議院のおよそ半数とし,その約6割を地域代表的性格を有する選挙区選出議員の定数に充て,残りの約4割を全国単位で選出される比例代表選出議員の定数に充てることにより,衆議院議員の選挙制度と相まって民意の多角的反映の実現に資するものとすること,現在の都道府県制には,明治22年に現在の都府県割と同じ3府43県制(北海道は別格扱いであった。また,東京府から東京都に変わったのは昭和18年である。)が確立して以来120年に及ぶ歴史があり,選挙区を都道府県単位にすることには,地方制度に関する国民の社会通念に深く根ざした一定の合理性があること,半数改選の制度は,参議院の構成を衆議院のそれに比べてより安定的なものとする機能を果たし得ると考えられることなどである。
 しかしながら,これらの政策的目的ないし理由自体は国会が正当に考慮することができるものであるとしても,これを実現しようとすれば,現状では,選挙区間における上記の最大較差を4倍以内に収めることすら不可能であって,本件選挙においては前記のとおり最大較差が実に1対4.86に達していたのである。これだけの較差があるにもかかわらず憲法の要求する投票価値の平等が実現していると評価することは到底できないし,また,他の政策的目的ないし理由との関連において投票価値の平等を調和的に実現するためには,投票価値の平等がこの程度に損なわれることになっても,これが国会による裁量権の行使として合理性を是認し得るものであるとも,考えにくいところである。
 したがって,私は,従前の大法廷判決における一般論としての基本的な判断枠組みの下においても,本件選挙当時,本件定数配分規定によって投票価値の著しい不平等が生じていたものというほかなく,本件定数配分規定は全体として憲法14条1項に違反していたものと考える。この点に関する論旨は理由がある。ただし,本件選挙のうち提訴に係る選挙区の選挙を無効とするのではなく,いわゆる事情判決の法理により,選挙無効の請求を棄却するとともに,判決主文において上記選挙の違法を宣言するにとどめることが相当である。

3.平成16年・平成18年大法廷判決との関係

 本件選挙は,いわゆる4増4減を内容とし,平成18年6月7日から施行された本件改正後の本件定数配分規定によったものであるが,本件改正前の定数配分規定によった直前2回の参議院議員通常選挙における選挙区間の議員1人当たりの選挙人数の最大較差について見てみると,平成13年7月29日施行の前々回選挙においては1対5.06であり,平成16年7月11日施行の前回選挙においては1対5.13であった。すなわち,いずれも本件選挙における前記の最大較差4.86を上回っていたのであるが,平成16年大法廷判決は前者につき,平成18年大法廷判決は後者につき,いずれも,選挙当時において定数配分規定が憲法に違反するに至っていたものとすることはできないとした。
 しかし,平成16年大法廷判決と平成18年大法廷判決は,結論は合憲ではあるが,決して国会の裁量権行使の合理性を積極的に是認したものではなく,投票価値の平等を十分に実現するための法改正を行う時間的余裕が乏しい中で選挙の直前又は直後に行われた定数配分規定の改正に一定限度の評価を与え,更に国会に対して参議院議員選挙制度の仕組みを根本的に見直すことを求めることによって,当該選挙における定数配分規定を直ちに違憲とはしなかったものということができるのである。
 前回選挙後にされたいわゆる4増4減を内容とする本件改正は,根本的な見直しには程遠い弥縫策と評するほかないものであって,平成16年大法廷判決と平成18年大法廷判決の多数意見を前提としても,本件選挙当時の本件定数配分規定を違憲とする余地は十分にあると考えられる。私は,前々回選挙についても,前回選挙についても,5倍を超える較差を生じていた当時の定数配分規定は,前記の基本的な判断枠組みの下であっても,憲法14条1項に違反していたものと考えるが,平成16年大法廷判決と平成18年大法廷判決の多数意見を前提としても,本件定数配分規定を違憲とすることが,必ずしも実質的にこれと抵触するものではないと考える。

4.抜本的改正の必要性

 参議院議員の選挙制度の上記のような基本的な仕組みは,昭和22年に制定された参議院議員選挙法において既に採用されていたものであるが,その当時においては,選挙区間における人口を基準とする最大較差は1対2.62にとどまっていた。最大較差が2倍を超えてはいたが,上記のような国会が正当に考慮することができる政策的目的ないし理由との関連において,投票価値の平等も調和的に実現していたものと評価することができる。しかし,その後の人口変動に伴い,人口ないし選挙人数が改選議員1人当たりの全国平均をはるかに下回る県が増加したことによって,最大較差を4倍以内に収めることすらできなくなったのである。すなわち,参議院議員の選挙制度の基本的な仕組みとして前記の諸点のすべてを維持する限りは,これらの政策的目的ないし理由との関連において投票価値の平等を調和的に実現することは不可能となったものというべきである。これを解決するためには,参議院議員の選挙制度の基本的な仕組みのうち,例えば選挙区割りの見直しなど,憲法の要求する点以外の点について見直しを行い,これを抜本的に改正することが不可避であると考えられる。
 なお,明年7月に施行される次回の参議院議員通常選挙までには,最小限の是正措置を講ずることは別として,上記のような抜本的な見直しを実現することは困難であろうが,国会においては,4年後に施行される次々回の参議院議員通常選挙までには,憲法の要求する投票価値の平等を他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現するために,参議院議員の選挙制度の抜本的見直しを行うことが,憲法の要請にこたえるものというべきである。次々回の選挙もこのような抜本的な見直しを行うことなく施行されるとすれば,定数配分規定が違憲とされるにとどまらず,前記事情判決の法理によることの是非が検討されることになろう。

【宮川光治反対意見要旨】

 衆議院及び参議院の各議員を選挙する権利は,国民主権を実現するための,国民の最も重要な基本的権利である。人口は国民代表の唯一の基礎であり,投票価値の平等は憲法原則である。したがって,法律により選挙区や定数配分を定めるには,人口に比例して選挙区間の投票価値の比率を可能な限り1対1に近づけなければならない。憲法が参議院の役割について示すところは,衆議院に対する抑制・均衡・補完の機能を通じて,国会の審議を慎重にし,これによって衆議院と共に,国民代表機関たる国会を万全たらしめることに尽きる。そのような参議院の役割・独自性などを十全に機能させるべく,選挙制度を構築するに際し,国会が正当に考慮できる事柄があり得るとしても,選挙区間の投票価値の最大較差が2倍を超えることがないよう,その範囲で考慮すべきものである。なお,憲法は,参議院議員に都道府県代表としての機能を求めてはいない。そうした政策目的により,投票価値の平等を上記以上に後退させることが許されるというのは,根拠のない主張である。人口の移動,都市化,産業構造の変化という戦後我が国社会が遭遇した大きな変容に対応して,国会は,小手先の弥縫策ではなく,奇数配分区の設定,行政区にとらわれず大規模な区割りを試みる等,選挙制度を抜本的に改革すべきであったのであり,そのような試みは,遅くとも,平成6年の公職選挙法改正時ころまでに実現すべきであった。国会の無為により長きにわたり続いている1票の価値の大きなゆがみは,我が国の政治の活力と時代適応能力を減殺し,また,政治の正統性への疑念をも招来している。
 多数意見は,本件改正によって,本件選挙時の最大較差は前回選挙当時の最大較差1対5.13から1対4.86に縮小し,さらに,本件選挙の後には,参議院改革協議会が設置されるなど,今後も検討が行われることとされているとし,なお存する投票価値の大きな不平等状態を解消すべく現行選挙制度の仕組み自体の見直しに向けて,適切な検討が行われることが望まれると付言した上,本件定数配分規定は,本件選挙当時,憲法に違反するに至っていたとはいえないとしている。私は,この多数意見には賛成できない。私は,本件定数配分規定は,本件選挙当時,違憲無効の状態にあったと考える。そして,事情判決の法理により,主文において本件選挙が違法である旨を宣言するとともに,将来,選挙無効請求事件において,選挙結果を無効とすることがあり得ることを付言すべきものと考える。

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