最新下級審裁判例

さいたま地裁判決平成21年06月10日

【罪となるべき事実】

被告人は,

第1.略。

第2.Bと共謀の上,金品強取の目的で,平成20年6月3日午前0時30分ころ,埼玉県鴻巣市fg番地hパチンコ店「i 店」の事務所屋外出入口ドア付近路上において,出入口ドアから出てきた従業員のD(当時24歳)に対し,被告人が右手に持った自動装てん式けん銃を,Bが両手に持った回転弾倉式けん銃及びペン型けん銃をそれぞれ突き付け,結束バンドでDの両手首を緊縛するなどした上,「事務所に入る手引をしろ」などと語気鋭く言い,Dをして出入口ドアの前に立たせ,そこに設置されたインターホンを押し,情を知らない従業員のE(当時45歳)に出入口ドアの施錠を外してこれを開けさせ,店長Fが看守する上記i 店事務所内に侵入し,引き続き,事務所内において,Dほか6名の従業員に対し,上記同様に上記各けん銃3丁を突き付け,「おとなしくしろ。金さえ手に入れば殺しはしない」などと語気鋭く言った上,さらに上記6名の従業員の両手首も結束バンドで緊縛するなどの暴行,脅迫を加え,Dらの反抗を抑圧して,事務所内から,G株式会社(代表取締役H)ほか1社所有の現金合計683万4527円を強取し,

第3.Bと共謀の上,法定の除外事由がないのに,平成20年6月3日午前3時過ぎころ,埼玉県川越市jk番地l月極駐車場(以下「本件駐車場」という)において,上記第2の強盗事件につき緊急配備の発令を受け,本件駐車場で警戒等の職務に従事していた埼玉県警察本部刑事部機動捜査隊勤務のi (当時41歳)らに対し,その周囲に向けて,Bが所携のペン型けん銃で実包1発を,所携の回転弾倉式けん銃で実包3発をそれぞれ発射し,被告人が所携の自動装てん式けん銃で実包1発を発射して,本件駐車場に駐車中のJ及びK所有の各小型乗用自動車に命中させ,上記J所有の車両の運転席及び助手席の各ドアの窓ガラス等(損害額合計6万3630円相当)並びに上記K所有の車両の右フロントフェンダー等(損害額合計6万4197円相当)をそれぞれ損壊した上,本件駐車場に駐車中の捜査用無線自動車の助手席付近に立ち上記警戒等の職務に従事していた上記機動捜査隊勤務のL(当時32歳)に対し,殺意をもって,被告人が,Lから約6メートル離れた場所から,捜査用無線自動車越しに自動装てん式けん銃で実包1発を発射したが,Lには命中せず,その殺害の目的を遂げなかったものの,埼玉県所有の上記捜査用無線自動車の運転席ドアに命中させてドア等(損害額合計26万5261円相当)を損壊し,もって不特定若しくは多数の者の用に供される場所に向けてけん銃を発射するとともに,i 及びLらの職務の執行を妨害し,

第4.Bと共謀の上,法定の除外事由がないのに,上記第3の日時場所において,上記自動装てん式けん銃1丁をこれに適合する実包11発と共に,上記回転弾倉式けん銃1丁をこれと適合する実包4発と共に,上記ペン型けん銃1丁をこれと適合する実包4発と共にそれぞれ携帯して所持し

たものである。

【前提事実】

1.被告人は,平成20年4月ころ,いわゆる闇サイトを通じてBと知り合い,Bに「何かよい仕事はないか」などと依頼していたところ,Bから「100万円くらいになる仕事がある」などとの連絡を受け,Bと行動を共にしつつ,判示第2の犯行に及んだ。この犯行に使用したけん銃3丁はBが準備したものであり,被告人は,犯行の直前にBから自動装てん式けん銃と実包が入った予備弾倉を渡されていた。被告人は,10代のころからモデルガンの収集を趣味にしており,モデルガンの販売修理の店で働いたり,韓国でけん銃を発射したりした経験があって,銃には詳しく,渡されたけん銃が本物であることをすぐに悟り,Bに命じられて自ら実包を装てんした。

2.判示第2の犯行後,被告人とBは,被告人の運転するレンタカー(以下「本件レンタカー」という)で,川越市方面に向かって逃走したが,国道m号線を走行中,パトカーに追尾され,赤信号で停止した際,後方に止まったパトカーから警察官2名が降車して近づいてくると,Bは,「捕まえられるものだったら捕まえてみろ」などと言いながら,警察官に向けて回転弾倉式けん銃で実包1発を発射した。その直後,信号が青に変わり,Bが「早く出せ」などと言ったため,被告人は,本件レンタカーを急発進させて逃走し,パトカーを振り切った。パトカーに追跡されていないのを確認した時点で,Bが運転を代わると言い出し,被告人は,Bと運転を交代した。その際,Bは,「あの弾,当たったかもしんねえなあ。当たったら死んでるな」などと言った。

3.Bが運転し,被告人の同乗する本件レンタカーが本件駐車場に到着した後,程なくして,判示第2に係る強盗事件の容疑者使用車両の検索,警戒等に従事していたi らの乗車する警察車両(以下「M号車」という)が,本件駐車場に到着して本件レンタカーの後方に停車した。i が,M号車から降車して本件レンタカーの運転席側に近づくと,運転席にいたBが,回転弾倉式けん銃をゴツゴツゴツと運転席窓ガラスに突き付けて見せつけるなどした。そのため,i は,相勤者の警察官に対して「けん銃を持ってる。下がれ」などと指示しつつ,M号車の助手席付近まで退避し,上記警察官も,M号車のエンジンを切ったが,エンジンキーを抜くことはできず,両名は,キーを残したまま,更に後方に退避した。

4.そのころ,Bは,本件レンタカー内で,「おめえも撃つときは撃つんだぞ」などと言いながら,後方座席にいた被告人に自動装てん式けん銃を差し出し,受け取るよう強く促し,被告人は,これを受け取った。その際,Bは,右手でけん銃のグリップを掴み,肩越しに後ろに向け差し出し,被告人は,差し出されたけん銃の銃口に近い部分を掴んで受け取った。その後,Bは,降車してM号車に向い,被告人も,Bの指示に従い,本件レンタカー内に消火器を噴射してから,現金等が入ったバッグを持ってM号車に向かった。Bは,M号車に乗り込んだもののエンジンがかからず,被告人から警察車両なのでエンジンはかからない旨告げられて,再び本件レンタカーに向かった。そのとき,「銃を放せ」などという警察官の声が聞こえ,Bは,「うるせえ」などと言いながら,ペン型けん銃で実包1発を発射した後,本件レンタカーに乗り込んで発進させようとしたが,ぬかるみにスリップして発進できず,結局,降車した。付近は街灯もなく,雨も降っていたので視界がきかなかったが,Bは,周囲を徘徊しながら,「けん銃を捨てろ。やめろ」などという警察官の声のする方向にけん銃を向けつつ,「撃てるもんだったら撃ってみろ。おまえらのピストルはおもちゃか」などと言って威嚇した上,回転弾倉式けん銃で実包1発を発射した。

5.このころまでに,Lらの乗車する警察車両(以下「N号車」という)が本件駐車場に到着しており,複数の警察官が,被告人らの周囲を囲み,「けん銃を捨てろ」などと警告を繰り返しつつ,被告人らの動静をうかがっていた。被告人は,Bと共に,けん銃を構える素振りなどして周囲を威嚇していたところ,Bは,不意に被告人の方に銃口を向け,「おめえも撃つんだよ」と言った。その後,被告人は,本件レンタカーとM号車との間に立ち,自動装てん式けん銃で実包2発を発射した。被告人が発射した2発の実包のうち,1発は,本件レンタカーとM号車との間に駐車されていた小型乗用自動車(J所有)を貫通した上,隣に駐車されていた小型乗用自動車(K所有)のフロントフェンダーを損壊した。もう1発は,M号車の運転席ドアを貫通し,運転席横のコンソールボックス付近に着弾した。被告人がM号車に向けて発射した時,Lは,M号車の助手席付近で被告人らの動静を窺っており,被告人との距離は6メートルほどであった。そのころ,Bも,更に回転弾倉式けん銃で実包2発を発射した。

6.その後,被告人は,Bのそばに行き,一緒に投降しようと勧めたが,Bは,「逃げ道があるから待ってろ」などと言って応じなかった。被告人は,銃を構えて周囲を威嚇するなどしているBの傍らにしゃがみ,タバコを2本吸っていたところ,Bは,被告人に対し,「おまえはまだ若いから頑張れよ」などと声をかけ,被告人にひとりで投降するよう促し,その際,ペン型けん銃を持って行くように言った。被告人は,これに従い,現金の入ったバッグとペン型けん銃を持って,投降した。

(参照条文)銃砲刀剣類所持等取締法

3条の13 何人も、道路、公園、駅、劇場、百貨店その他の不特定若しくは多数の者の用に供される場所若しくは電車、乗合自動車その他の不特定若しくは多数の者の用に供される乗物に向かつて、又はこれらの場所(銃砲で射撃を行う施設(以下「射撃場」という。)であつて内閣府令で定めるものを除く。)若しくはこれらの乗物においてけん銃等を発射してはならない。ただし、法令に基づき職務のためけん銃等を所持する者がその職務を遂行するに当たつて当該けん銃等を発射する場合は、この限りでない。

31条1項 第三条の十三の規定に違反した者は、無期又は三年以上の有期懲役に処する。

【判旨】

第1.弁護人は,判示第3の事実について,被告人が自動装てん式けん銃で実包2発を発射しており,被告人の行為がけん銃発射,公務執行妨害,器物損壊及び殺人未遂の罪の構成要件に該当すること自体は争わないものの,@被告人とBとの間では,警察官等に向けてけん銃を発射することについての共謀が成立していない,A被告人は,Bが「おめえも撃つんだよ」と言いながらけん銃の銃口を自分に向けたため,言うとおりにしなければ自分が撃たれると思い,やむを得ず発射したものであって,被告人の発射行為については緊急避難が成立するから,判示第3の事実について被告人は無罪である旨主張し,被告人もこれに沿う供述をする。そこで,以下,判示のとおり認定した理由を補足的に説明する。

第2.被告人とBとの間で警察官等に向けてけん銃を発射する旨の共謀が成立したか否かについて

1.被告人は,逃走中の本件駐車場内でi らに発見され,Bがけん銃を示して威嚇した上,警察官らとのにらみ合いが続く中,Bから,「おめえも撃つときは撃てよ」などと言われるとともに自動装てん式けん銃を渡され,これを受け取っているのみならず,本件駐車場に到着する前,Bが,追尾してきた警察官に向けて回転弾倉式けん銃で実包1発を発射するのを目の当たりにし,さらに,警察官らの追尾を振り切った後,Bが「あの弾,当たったかもしんねえなあ。当たったら死んでるな」などと言うのを聞いていることなどに照らせば,被告人は,Bが,逃走するためには警察官等に向けてけん銃を発射することも辞さない覚悟であることを具体的に認識した上で,けん銃を受け取ったものと見ることができる。加えて,被告人は,現にBと共に逃走中であり,警察官とのにらみ合いが続いているという窮状を脱して逃走を続けるためには,けん銃を発射せざるを得ない事態が生じかねないことは,容易に予測できる状況にあったにもかかわらず,黙ってBの差し出すけん銃を受け取り,その後,受け取った自動装てん式けん銃で実包2発を実際に発射していること(なお,被告人は,自身のけん銃発射行為について,殺されると思ってやむなく撃った旨弁解するが,この点については後述する)などを併せ鑑みれば,被告人が,Bとの間で,成り行き次第では,警察官等に向けてけん銃を発射する旨の共謀を遂げたことは,優に認められる。

2.被告人も,検察官調書においては,Bから自動装てん式けん銃を受け取った際の心境について,「私自身,できれば撃ちたくないという思いはありましたが,こんなところで警察に捕まりたくないと思っていましたので,いざというときは,私とBが警察から逃げるために,私自身も警察官に向けて発砲しなければならないと思いました。そこで,私は,Bの言うとおりにしようと思い,トカレフを黙って受け取りました」旨供述している。その述べるところは,上記1に説示したように,事態の推移に照らして極めて自然であるばかりでなく,当時の自らの心境を率直に語ったものであって,迫真性も備えている。また,被告人を取り調べた検察官であるO及び被告人を取り調べた警察官であるPの当公判廷における各証言(いずれも,内容的に具体的かつ自然である上,弁護人の反対尋問にもまったく動揺していないのであって,その信用性に疑いを差し挟む余地はない)により認められる取調べ状況,捜査報告書2通により認められる取調べの回数や時間に照らすと,被告人に対する取調べは,被告人の言い分や体調にも配慮した無理のないものであったといえる。さらに,被告人は,本件に係る被疑事実で最初に逮捕された直後,弁護人と接見して,調書には署名,指印しないよう助言を受け,上記逮捕に引き続き勾留された日には,弁護人から被疑者ノートを差し入れられている(この事実は,被告人も,自認している)。これらの点に照らすと,被告人の検察官調書における上記供述は,証拠適格や任意性が認められるのはもとより,信用性も高いというべきであって,取調べ状況に関する被告人の公判供述は信用できず,被疑者ノートの記載を子細に検討してみても上記判断は揺るがない。被告人が,Bとの間で,成り行き次第では,警察官等に向けてけん銃を発射する旨の共謀を遂げたことは,被告人の検察官調書における上記供述によっても補強されている。

3.他方,被告人は,当公判廷において,「私は,けん銃を受け取りたくなかったので,手を出さないでいたところ,Bが,『おう,おう』というような感じで受取りを催促してきた。そのとき,Bの顔を見ると,殺気だって,目つきも変わっていたので,私は,何をされるか分からないと思い,仕方なく,促されるままけん銃を受け取った。その時点では,いざとなったら警察に発砲しなければならないとは思っていなかった」旨供述している。しかし,上記1に説示したように,事態の推移に照らすと,被告人は,Bからけん銃を受け取った時点において,逃走を続けるためには,けん銃を発射せざるを得ない事態が生じかねないことを,容易に予測できる状況にあったと認められるから,被告人の上記供述は,信用できないというべきである。

4.以上の次第で,被告人とBとの間で,警察官等に向けてけん銃を発射する旨の共謀が成立したことは優に認められる。

第3.緊急避難の成否について

1.危難の存否について

(1) 被告人は,当公判廷において,被告人がけん銃を発射する際の状況について,以下のとおり供述する。すなわち,Bは,しばらく警察官らを威嚇した後,「おめえも撃つんだよ」といいながら,私にけん銃を向けてきた。このとき,Bは,けん銃を肩よりも上に上げて,私の方へ銃口を向けていたが,「撃たないと殺す」,「警察官を撃て」,「2発撃て」などと言ったりはしていない。私は,言うことをきかないと自分がBに撃たれてしまうと思い,無我夢中で,直後にけん銃を2発発射した。

(2) そこで,検討すると,上記(1)の被告人の供述を前提としても,Bは,被告人に対しけん銃を向けただけで,「撃たないと殺す」など被告人に危害を加えるような言葉は何ら発していないばかりか,かなり近い位置からけん銃を向けてはいるものの,けん銃を被告人に突き付けたわけではない。加えて,被告人は,Bにとって,共に強盗を行って逃走中の仲間であり,終始その指示に従ってBの逃走を支援する存在であったことを併せ見れば,Bが被告人にけん銃を向けたとしても,それは,単に被告人にけん銃の発射を促す動作にすぎないものと見ることが自然であって,Bが被告人に向けてけん銃を発射するおそれなど,およそ現実的には存在しなかったというべきである。
 また,仮に被告人が,Bに撃たれるかもしれないとの恐れを抱いたのであれば,Bに注意を向けずにはいられないはずである。しかるに,被告人は,Bに銃を向けられた後,Bの位置や様子を何ら把握することなく,けん銃を発射しているばかりか,投降する前,自らBに近づいて投降を勧め,さらに,けん銃を手にしているBの傍らにしゃがみ込んで,Bに何ら断ることなく,Bの嫌いなタバコを2本吸っている(これらの事実は,被告人も自認している)のであって,このような被告人の言動に照らせば,被告人自身も,Bが被告人に向けてけん銃を発射する現実的なおそれなどないことを,十分に認識していたというべきである。
 言うことをきかないと自分がBに撃たれてしまうと思い,無我夢中でけん銃を2発発射した旨の被告人の上記公判供述は信用できない。

2.上記1に検討したとおり,被告人が自動装てん式けん銃を発射した直前,Bからけん銃を向けられた旨の被告人の供述を前提としても,被告人の生命,身体に対する現在の危難は存在していなかったことが優に認められるから,その余の点につき判断するまでもなく,被告人のけん銃発射行為について,緊急避難が成立しないことは明らかである。

第4.以上の次第であるから,弁護人の主張はいずれも理由がない。

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