平成21年度旧司法試験論文式
刑法第1問参考答案(その2)

【問題】

 甲及び乙は, 路上を歩いていた際, 日ごろから仲の悪いA と出会い,口論となったところ,立腹したA は甲及び乙に対し殴りかかった。甲は,この機会を利用してA に怪我を負わせてやろうと考えたが, その旨を秘し, 乙に対し,「一緒に反撃しよう。」と言ったところ, 乙は甲の真意を知らずに甲と共に反撃することを了承した。そして, 甲は, A の頭部を右拳で殴り付け, 乙は, そばに落ちていた木の棒を拾い上げ, A の頭部を殴り付けた結果, A は路上に倒れ込んだ。この時, 現場をたまたま通りかかった丙は, 既にA が路上に倒れていることを認識しながら, 仲間の乙に加勢するため, 自ら別の木の棒を拾い上げ, 乙と共にA の頭部を多数回殴打したところ, A は脳損傷により死亡した。なお, A の死亡の結果がだれの行為によって生じたかは, 明らかではない。
 甲, 乙及び丙の罪責を論ぜよ( ただし, 特別法違反の点は除く。)。

【参考答案】

第1.犯罪事実

1.甲は、Aに対し、乙と共謀の上、甲において右拳で、乙においては木の棒で、こもごもAの頭部を殴打して路上に転倒させる暴行(以下「第1暴行」という。)を加えた。

2.上記1の後、丙は、路上に倒れていたAに対し、乙と暗黙のうちに意思を相通じて、こもごも木の棒でAの頭部を多数回殴打する暴行(以下「第2暴行」という。)を加えた。

3.乙は、殴りかかってきたAから自己ないし甲の身体を防衛するため、防衛の程度を超えて、甲と共謀の上、Aに対し第1暴行を加え、その後、丙と暗黙のうちに意思を相通じて、Aに対し第2暴行を加え、第1暴行又は第2暴行のいずれかによって、Aを脳損傷により死亡させた。

第2.法令の適用

1.罰条

(1) 甲及び丙について

 刑法60条、208条。

(2) 乙について

 傷害致死の点は刑法60条、208条。暴行の点は同法60条、208条。

2.包括一罪の処理

 乙について、法益の共通性から暴行罪と傷害致死罪を包括して評価し、重い傷害致死罪1罪として処断する(刑法10条)。

3.法律上の減軽

 乙について36条2項。

第3.補足説明等

1.実行行為の解釈

 本問の暴行は、法益の共通性及び場所的時間的近接性を有するものの、第1暴行が殴りかかってきたAに対する反撃としてなされたのに対し、第2暴行は路上に倒れ込んで無抵抗と思われるAに対してなされたもので、性質を異にする以上、別個の実行行為として評価すべきである。

2.乙丙間の共謀の肯否

 乙丙間には明示の共謀はないが、乙と丙は仲間であり、丙は乙に加勢するため第2暴行に加わったもので、乙においてもAの頭部を共に殴打する状況の下においてこれを認識・認容していなかったはずはないから、黙示の共謀があったと認められる。

3.正当防衛及び過剰防衛の成否

 共同正犯も共犯である以上、基本的に制限従属性説の考え方が妥当する一方で、正犯として結果への直接的因果性を有することから従属性は緩和され、少なくとも正当防衛及び過剰防衛の成否に関しては、個々の共同正犯者につき個別に検討すべきである。

(1) 甲はAに対する反撃として第1暴行を行ったものであり、Aの攻撃自体を予測していたわけではないから急迫性を欠くとはいえない。しかし、この機会を利用してAに怪我を負わせてやろうと考えていたのであり、積極的加害意思があるから、防衛の意思を欠き、正当防衛も過剰防衛も成立しない。

(2) 他方、乙には積極的加害意思はないが、Aが武器を持っていた事実はないにもかかわらず、木の棒で反撃しているから質的に過剰であって、「やむを得ずにした」とはいえない。よって、過剰防衛となる。

4.死亡結果の帰責

(1) 刑法207条の適用の可否

 同条の趣旨は、集団暴行等の事象において共犯類似の外形があるのに立証の困難等の理由でこれを処罰し得ない不合理性に対処すべく個人責任原則の例外を定めた点にあるから、外形上共犯類似のもの、すなわち、少なくとも数人による暴行が同一機会における一連の行為と評価できることを要するところ、本問では、前記1のとおり、第1暴行と第2暴行は性質の異なる別個の行為であるから、同条の適用によってAの脳損傷による死亡の結果を帰責することはできない。

(2) 甲及び丙への帰責の可否

 甲は第1暴行にのみ加功しており、第2暴行は第1暴行と別個の行為である以上、第2暴行について共同正犯を認めるには新たな共謀を要するところ、そのような事実は認められないから、甲に第2暴行から生じた結果を帰責することはできない。
 また、丙は第2暴行にのみ加功しており、先行する第1暴行は第2暴行とは別個の行為である以上、いわゆる承継的共同正犯の肯否の問題は生じず、第1暴行から生じた結果を丙に帰責することはできない。
 以上から、Aの脳損傷による死亡が第1暴行と第2暴行のいずれから生じたか不明である本問において、甲及び丙にこれを帰責することはできない。

(3) 乙への帰責の可否

 乙は、甲及び丙の両者とも共同正犯の関係にあり、第1暴行及び第2暴行のいずれにも加功しているから、両暴行のいずれから生じた結果についても責任を負うべき地位にある。
 そうすると、第1暴行及び第2暴行のいずれかによってAの脳損傷による死亡結果が生じたことは確実である以上、乙に死亡結果を帰責しうる。

以上

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