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最高裁判所第一小法廷決定平成21年10月20日

【判旨】

 所論は,本件においては公訴時効が完成している旨主張するが,犯人が国外にいる間は,それが一時的な海外渡航による場合であっても,刑訴法255条1項により公訴時効はその進行を停止すると解されるから,被告人につき公訴時効は完成しておらず,これを前提とする原判決の判断に誤りはない。

 

最高裁判所第一小法廷決定平成21年10月21日

【事案】

1.事実関係

(1) 被告人は,中学校の教員として勤務していた者であるが,平成16年1月25日から平成17年5月29日までの間,前後20回にわたり,当時の被告人方ほかにおいて,犯行開始当時に被告人が勤務する中学校に生徒として在籍していた被害児童(被害当時14から15歳)が満18歳に満たないことを知りながら,同児童をして,被告人を相手に性交させ,又は性交類似行為をさせ,もって,児童に淫行をさせる行為をするとともに,上記20回の淫行の機会のうちの13回において,同児童をして,性交等に係る姿態をとらせ,これをデジタルビデオカメラで撮影して,それら姿態を視覚により認識することができる電磁的記録媒体であるミニデジタルビデオカセットに描写し,もって同児童に係る児童ポルノを製造した。

(2) 被告人は,上記事実により児童福祉法違反,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下「児童ポルノ法」という。)違反として札幌家庭裁判所小樽支部に起訴され,同支部は,上記事実を認定し,両罪の罪数関係について観念的競合の規定を適用して,被告人に有罪判決を言い渡し,被告人が控訴したが,原判決はこれを棄却した。

(参照条文)

●児童福祉法

34条1項 何人も、次に掲げる行為をしてはならない。
1号から5号まで略。
六  児童に淫行をさせる行為
7号以下略。

60条1項 第三十四条第一項第六号の規定に違反した者は、十年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

 

●児童ポルノ法

2条  この法律において「児童」とは、十八歳に満たない者をいう。
2項略。
3  この法律において「児童ポルノ」とは、写真、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に係る記録媒体その他の物であって、次の各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいう。
一  児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態
二  他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
三  衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの

7条 児童ポルノを提供した者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。電気通信回線を通じて第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を提供した者も、同様とする。
2  前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。同項に掲げる行為の目的で、同項の電磁的記録を保管した者も、同様とする。
3  前項に規定するもののほか、児童に第二条第三項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ、これを写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより、当該児童に係る児童ポルノを製造した者も、第一項と同様とする。
4項以下略。

 

●少年法(平成20年法律第71号による改正前のもの)37条
 次に掲げる成人の事件については、公訴は、家庭裁判所にこれを提起しなければならない。
1号から3号まで略。
四  児童福祉法第六十条 及び第六十二条第五号 の罪
5号略。
2  前項に掲げる罪とその他の罪が刑法 (明治四十年法律第四十五号)第五十四条第一項 に規定する関係にある事件については、前項に掲げる罪の刑をもつて処断すべきときに限り、前項の規定を適用する。  

【判旨】

 所論は,上記両罪は併合罪の関係にあるから,児童ポルノ法違反の事実については,平成20年法律第71号による改正前の少年法37条によれば,上記家庭裁判所支部は管轄を有しない旨主張する。そこで,検討するに,児童福祉法34条1項6号違反の罪は,児童に淫行をさせる行為をしたことを構成要件とするものであり,他方,児童ポルノ法7条3項の罪は,児童に同法2条3項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ,これを写真,電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより,当該児童に係る児童ポルノを製造したことを構成要件とするものである。本件のように被害児童に性交又は性交類似行為をさせて撮影することをもって児童ポルノを製造した場合においては,被告人の児童福祉法34条1項6号に触れる行為と児童ポルノ法7条3項に触れる行為とは,一部重なる点はあるものの,両行為が通常伴う関係にあるとはいえないことや,両行為の性質等にかんがみると,それぞれにおける行為者の動態は社会的見解上別個のものといえるから(最高裁昭和47年(あ)第1896号同49年5月29日大法廷判決・刑集28巻4号114頁参照),両罪は,刑法54条1項前段の観念的競合の関係にはなく,同法45条前段の併合罪の関係にあるというべきである。そうすると,児童ポルノ法7条3項の罪についても上記改正前の少年法37条により家庭裁判所の管轄を認めて審理,判決した第1審判決を是認した原判決は,法令に違反するものである。
 しかしながら,被告人については,いずれにしても児童福祉法34条1項6号違反の罪の成立が認められ,児童ポルノ法7条3項の罪についても家庭裁判所が判断したことによって被告人に特段の不利益があったとはいえないことなどに照らすと,上記法令違反を理由として原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものとは認められない。

 

最高裁判所第二小法廷判決平成21年10月23日

【事案】

1.上告人の本訴請求は,被上告人らが情報提供して新聞に掲載された記事により上告人の信用及び名誉が損なわれたとして,損害賠償を求めるものである。
 被上告人らの反訴請求は,上告人の被用者が上記情報提供等をした被上告人らに対し数々の嫌がらせ行為をした上に上告人が上記のような本訴を提起したことが不法行為に当たるとして,損害賠償を求めるものである。

2.事実関係の概要

(1) 上告人は,特別養護老人ホーム「a」(以下「本件施設」という。)を設置・経営する社会福祉法人であり,被上告人らは,平成16年当時,本件施設に勤務していた介護職員である。

(2) 本件施設は,職員の入所者に対する虐待行為の疑いがあるとして,平成16年6月8日に札幌市の立入調査を受けた。本件施設では,これを受けて同月11日に緊急職員会議が開かれ,同月29日には職員からの投書を受け付ける投書箱が設置されるなどし,以後施設として上記虐待の有無についての調査が継続して行われることとなった。
 本件施設の施設長であるA(以下「A施設長」という。)は,平成16年6月30日,被上告人Y から職員の入所者1 に対する暴行についての報告を受けた。A施設長は,被上告人Y1に,その具体的内容を記載した文書を上記投書箱に投書するよう指示した。
 平成16年7月中旬までにあった投書の中に,本件施設の介護職員であるBの入所者に対する暴行を指摘する複数人からの投書が存在した。

(3) A施設長は,平成16年7月28日,副施設長らに,虐待に関してBからの聞き取り調査を行わせ,その結果,虐待の事実を全面的に否定するBの供述を得た。しかし,それ以上に,被上告人Y1のものと思われる投書の内容を指摘するなどして,具体的にBの弁解を聞くことはなかった。
 A施設長は,平成16年8月11日から,担当者を決めて本件施設の全職員を対象とした個人面談を実施した。A施設長は,被上告人Y1に対する面談を同月25日に実施した担当者から,Bの入所者に対する暴行の目撃状況についての報告を受けたが,同年6月30日に被上告人Y1から聞いた報告内容や投書の内容と違いがあると感じてこれを不審に思った。
 A施設長は,平成16年8月26日に,被上告人Y1同席の下で,Bに事実の有無を確認したが,同人の上記供述は変わらなかった。
 上記の全職員に対する個人面談によって,被上告人Y1以外の複数の職員からもBの入所者に対する暴行を目撃したとの供述が得られたものの,入所者の身体に暴行のこん跡があったとの確たる記録がなかったことから,A施設長は,そのことを主たる理由として,虐待の事実はないと確信した。

(4) Cは,被上告人らの情報提供行為等を端緒として,平成16年8月27日から同17年2月24日にかけて,本件施設における入所者に対する虐待行為等に関する各記事を,その発行する日刊新聞「b新聞」に継続的に掲載した。

(5) 被上告人Y1は,平成16年9月28日に開かれた入所者家族説明会において,Bによる虐待の事実をA施設長に申し出たことなどを話し,A施設長は,虐待を目撃した第三者がいないことなどを説明した。また,Bは,暴行行為はしていないと弁明した。

(6) A施設長らは,平成16年8月26日以降,同年12月28日までの間,被上告人らに対して,怒鳴ったり緊急職員会議に出席させなかったりするなどの多くの嫌がらせ行為を行った。また,上告人は,同年10月1日,本訴を提起し,被上告人らが本件施設において入所者に対する虐待が行われている旨の虚偽の事実について報道機関に情報提供した結果,上記各記事が掲載されたとして,被上告人らに対し,不法行為による損害賠償請求権に基づき,連帯して1000万円の慰謝料等を支払うよう求めた。

(7) 実際には,B等の複数の介護職員が入所者への暴行行為を行っていた。

(8) 前記の札幌市の立入調査等では,最終的には,個別の虐待事例について,行為者やその行為を証拠等により特定するには至らなかったとされた。

(9) A施設長らの前記の嫌がらせ行為や上告人の本訴の提起は,上告人の被上告人らに対する計画的な嫌がらせ行為として組織的に行われたものではなかった。

3.原審は,上記事実関係の下において次のとおり判断し,反訴請求を認容すべきものとした。

(1) 本訴の提起は,被上告人らの報道機関に対する情報提供の内容が虚偽のものであることを前提とするものであるところ,その内容はいずれも主たる部分において真実であると認められる。また,上告人は,Bから虐待の事実を全面的に否定する旨の簡略な回答を事情聴取によって得ていたものの,虐待の事実に係る投書の内容等を指摘するなどして同人から具体的に弁解を聞くことはなかったものであり,同人からのより詳しい事情聴取等当然行うべき調査を行わないまま,虐待に関する複数の供述等を合理的な根拠もなく虚偽と決め付けて,本訴の提起に及んでいる。本訴は,権利の存在につきわずかな調査をしさえすれば理由のないことを知り得たにもかかわらずこれを怠って提起されたものということができ,違法性が認められるから不法行為に当たる。

(2) 上告人による本訴の提起は,A施設長らによる前記嫌がらせ行為と一体として不法行為を構成し,上告人は,これによって被上告人らが被った精神的苦痛につき慰謝料の支払義務を負うところ,その慰謝料の額は,少なくとも反訴請求額の全額である各100万円である。

【判旨】

 原審の判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

1.法的紛争の当事者が当該紛争の終局的解決を裁判所に求め得ることは,法治国家の根幹にかかわる重要な事柄であるから,訴えの提起が不法行為を構成するか否かを判断するに当たっては,いやしくも裁判制度の利用を不当に制限する結果とならないよう慎重な配慮が必要とされる。このような観点からすると,法的紛争の当事者が紛争の解決を求めて訴えを提起することは,原則として正当な行為であり,訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは,当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くものである上,提訴者がそのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起したなど,訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当である(最高裁昭和60年(オ)第122号同63年1月26日第三小法廷判決・民集42巻1号1頁,最高裁平成7年(オ)第160号同11年4月22日第一小法廷判決・裁判集民事193号85頁参照)。報道により信用又は名誉が損なわれたとして救済を求める場合,訴えの提起は,紛争解決のための数少ない手段の一つであるから,報道の自由等に配慮する必要があることは当然としても,訴えの提起が不法行為を構成するか否かを判断するに当たっては,上記のとおり,慎重な配慮をもって臨むべきである。

2.これを本件についてみるに,Bの入所者に対する暴行については複数の投書や目撃供述が存在していたものの,A施設長は,簡略なものとはいえBから虐待の事実を全面的に否定する供述を得,被上告人Y1同席の下で,Bに事実の有無を確認するなどしたが,その供述は一貫してこれを否認するものであったほか,A施設長は,被上告人Y1のBが行った暴行の目撃状況についての報告内容自体にも矛盾する箇所があるように感じており,本件施設の入所者の身体に暴行のこん跡があったとの確たる記録もなく,後に公表された札幌市の調査結果においても,個別の虐待事例については証拠等により特定するには至らなかったというのである。そうすると,上告人が,特段の根拠もないまま入所者に対する虐待がなかったものと思い込んだということはできず,その主張する権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くものであることを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たのにあえて本訴を提起したとまでは認められないというべきである。なお,本訴の提起は,被上告人らに対する計画的な嫌がらせ行為として組織的に行われたものともいえない。
 以上によれば,本訴の提起は,いまだ裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くものとはいえず,被上告人らに対する違法な行為とはいえないというべきである。

 

最高裁判所第二小法廷判決平成21年10月23日

【事案】

 上告人が設置する公立中学校の教諭の体罰によって生徒が受けた損害を国家賠償法1条1項,3条1項に従い賠償した被上告人が,同条2項に基づき,上告人に賠償額全額を求償する事件。

【判旨】

 市町村が設置する中学校の教諭がその職務を行うについて故意又は過失によって違法に生徒に損害を与えた場合において,当該教諭の給料その他の給与を負担する都道府県が国家賠償法1条1項,3条1項に従い上記生徒に対して損害を賠償したときは,当該都道府県は,同条2項に基づき,賠償した損害の全額を当該中学校を設置する市町村に対して求償することができるものと解するのが相当である。その理由は,次のとおりである。
 国又は公共団体がその事務を行うについて国家賠償法に基づき損害を賠償する責めに任ずる場合における損害を賠償するための費用も国又は公共団体の事務を行うために要する経費に含まれるというべきであるから,上記経費の負担について定める法令は,上記費用の負担についても定めていると解される。同法3条2項に基づく求償についても,上記経費の負担について定める法令の規定に従うべきであり,法令上,上記損害を賠償するための費用をその事務を行うための経費として負担すべきものとされている者が,同項にいう内部関係でその損害を賠償する責任ある者に当たると解するのが相当である。
 これを本件についてみるに,学校教育法5条は,学校の設置者は,法令に特別の定めのある場合を除いては,その学校の経費を負担する旨を,地方財政法9条は,地方公共団体の事務を行うために要する経費については,同条ただし書所定の経費を除いては,当該地方公共団体が全額これを負担する旨を,それぞれ規定する。上記各規定によれば,市町村が設置する中学校の経費については,原則として,当該市町村がこれを負担すべきものとされている。他方,市町村立学校職員給与負担法1条は,市町村立の中学校の教諭その他同条所定の職員の給料その他の給与(非常勤の講師にあっては,報酬等)は,都道府県の負担とする旨を規定するが,同法は,これ以外の費用の負担については定めるところがない。そして,市町村が設置する中学校の教諭がその職務を行うについて故意又は過失によって違法に生徒に与えた損害を賠償するための費用は,地方財政法9条ただし書所定の経費には該当せず,他に,学校教育法5条にいう法令の特別の定めはない。そうすると,上記損害を賠償するための費用については,法令上,当該中学校を設置する市町村がその全額を負担すべきものとされているのであって,当該市町村が国家賠償法3条2項にいう内部関係でその損害を賠償する責任ある者として,上記損害を賠償した者からの求償に応ずべき義務を負うこととなる。

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