最新下級審裁判例

松山地裁判決平成21年06月24日

【事案】

 被告人とAは,鹿児島県志布志から仕事を探そうとして車で松山市内を訪れたが,仕事に就けず,生活費やパチンコ代で所持金を使い果たした。事件当日,被告人らはb店の屋上駐車場で今後のことを話し合い,その際,被告人からAに対し,ひったくりでもしようと提案した。その後,行きつけのパチンコ店c前駐車場付近に移動し,Aから被告人に対し,パチンコで勝った客を狙うこと,Aが徒歩で,被告人が車で客の後をつけること,Aが客に暴行を加え,被告人が客の財布を奪い,車で逃げることなどの具体的な提案があり,被告人はこれを了承した。そして,二人がはぐれた場合には,d店で待ち合わせることも決めた。その後,Aは,パチンコ店にいた71歳の男性客(被害者)を狙うことに決め,被告人にこれを伝え,被告人も店内で相手を確認し,その人物を狙うことに同意した。被害者がパチンコを終えて換金を済ませ,歩いて帰路についたので,Aが,徒歩でその後をつけた。被告人も,車で後ろを追いかけようとして移動を開始したが,ガス欠寸前であったため,追いかけるのをあきらめ,待合せ場所のd店に行き,Aが来るのを待った。Aは,被害者の自宅前まで後をつけ,途中,被告人がついて来ないことに気付いたものの,やるしかないと思い,被害者が自宅に入ろうとするのを背後からその頸部に左腕を巻き付けて引き倒し,その顔面を路面に押し付ける暴行を加え,財布と小銭入れをポケットから取り出して奪い,その際,被害者に傷害を負わせた。Aは,現場から走ってd店に行き,被告人と落ち合った。奪った小銭入れの中に,パチンコ店で使用するICコインが入っていたので,被告人がパチンコ店に戻り,現金に換金し,財布に入っていた現金と合わせて二人で折半した。

【判旨】

1.争点

 弁護人は,Aと被告人との間で強盗の共謀はなく,Aの犯行は,被告人との共謀に基づかない単独犯行であり,被告人は無罪である旨主張するので,以下検討する。

2.被告人とAとの間の共謀の内容

 被告人とAとの間でなされたパチンコ店前駐車場付近での話合いの内容については,被告人とAとの各公判供述の間で食い違いがある。すなわち,Aは,被告人に対し,「年配のおっちゃんの方が狙いやすいんちゃうけ。」と,年配客に狙いを定めることを提案し,さらに,「どついて,押さえ込んで,抵抗できなくさせる」と,その暴行の内容を説明し,その同意を得たと述べる一方,被告人は,年配の人物を狙うという話はなかった,Aからは,「羽交い締め」をしている隙に自分が財布を取ると説明された旨述べている。
 前記客観的な事実経過からは,いずれの供述が正しいかは決し難い。しかしながら,いずれの供述が正しかったとしても,二人の間で強盗の共謀が成立していたといえる。まず,Aの供述する内容が強盗の共謀に当たることは明らかである。また,被告人が述べることが正しかったとしても,被告人とAとの間で,相手を抵抗できなくさせる程度の暴行を加えることについての認識を有していたと認められる。すなわち,話合いの場では,年配の人を狙うということまで決まっていなかったとしても,その後にAが被害者に目をつけ,被告人も店内に入り,その様子を観察するなどしているので,被害者の年格好はよく分かっていたものと認められる。また,「羽交い締め」は,相手の背後から両手を脇の下に通すなどして相手が動けなくすることを意味する言葉であり(被告人もこの点は捜査段階で認めている。),大柄(身長約177センチメートル,体重100キログラム前後)でレスリング経験もある(このことは被告人も知っていた)Aが,71歳で小柄な被害者を羽交い締めにすれば,被害者が抵抗できなくなることは容易に想像され,被告人もこれを認識していたと認められる。
 以上からすると,被告人とAとの間で,事前に強盗の共謀が成立していたことは疑いなく認められる。

3.Aの行為が被告人との共謀に基づくといえるか

 被告人とAの強盗の共謀は,上記のとおり,Aが被害者に暴行を加え,被告人が財布を奪うという役割分担を想定していたが,結果的にA一人が実行行為を行っている点をどのように考えるかが問題となる。
 弁護人は,事前の話合いで,被告人とAとの間で,はぐれたらd店で待ち合わせる旨決められていたところ,このことは,二人で一緒にできなければ,犯行自体をあきらめてd店に行くとの合意が成立していたか,少なくとも被告人はそう考えていたことの表れであると主張する。
 しかしながら,被告人は,捜査段階において,待合せ場所を決めたのは,財布を奪った後ではぐれた場合を考えたもので,犯行前にはぐれることは考えていなかった,待合せ場所をパチンコ店にしなかったのは,警察に捕まる危険があったからであるなどと述べている。この点,Aは,公判廷で,実行前にはぐれることも考えたが,その場合でも犯行を中止するつもりはなかった旨述べており,当時の二人の窮乏状況から,Aがそのように考えていたとしても不自然ではない。
 そうすると,少なくとも事前に話合いをした段階では,実行前にはぐれた場合にどうするかということについては二人の間で合意はなかったと認められる。
 そして,Aによると,Aは,もともと,はぐれても犯行を中止するつもりはなく,被告人が後をついてきていないことに気付いたものの,「ベストを尽くそう」(公判証言)と考えて犯行に及んでいる。強盗の相手は当初の予定どおりであり,Aが加えた暴行も,当初想定されていた暴行と大きく異なるものではない。そうすると,Aの被害者に対する暴行と財布の奪取行為を,従前の共謀とは異なる別個の犯意に基づくものとみることは困難である。
 他方,被告人は,Aと被害者との体格差やAにレスリング経験があることを知っていたのであるから,Aが一人で強盗を行うことが可能であることはよく理解していたと認められる。そして,捜査段階において,被告人は,はぐれた後,Aが犯行を中止して戻ってくるだろうと思っていたと述べる一方,d店でAを待っている際に,Aが警察に捕まってしまったのではないか,道に迷っているのではないかと思った旨述べていて,Aが一人で犯行を行うことが念頭にあったことがうかがえる(この点,公判廷では,被告人はAが道に迷ったとしか思わなかったと述べているが,関係証拠によると,d店は被告人らが車中泊をする際に度々利用していた場所であり,パチンコ店からそれほど離れていないのであるから,Aが犯行を中止してすぐに戻ってくるのであれば,道に迷うというのも不自然である。結局,被告人は,Aが被害者の後をつけていき,犯行に及ぶことを考えていたとみるべきである。)。そして,Aが合流後,ICコインを被告人がパチンコ店に赴いて換金し,二人で現金を山分けするなどしている。これらの事情からすると,被告人は,事前の話合いとは異なり,自らが犯行に加わることはできなかったものの,Aが一人で犯行を行うことをなお期待し,Aの犯行後にこれを受け入れたものと認められる。
 これらの事情からすると,Aによる上記犯行は,二人の事前共謀に基づくものということができる。

4.結論

 Aの被害者に対する暴行が,被害者の反抗を抑圧するに足りるものであり,その行為が強盗致傷罪に当たるものであることは優に認められるところ,上記2,3で検討したとおり,その行為は,被告人とAとの共謀に基づくものといえ,被告人は,共同正犯として,その全部について責任を負うこととなる。

 

松山地裁判決平成21年07月24日

【事案】

1.被告人が出会い系サイトで知り合った被害者(当時21歳の女性)を車中にて絞殺し,その死体を遺棄した殺人,死体遺棄の各事案。

2.本件の争点は,殺人被告事件における過剰防衛の成否である。
 弁護人は,被告人は被害者から先に首を絞められたため,同じことをやり返せば止めるだろうと思って同女の首を絞めたものの,目的を達せず,途中から殺意をもって犯行に及んだもので,過剰防衛が成立する旨主張し,被告人もこれに沿う供述をする。
 これに対し,検察官は,被害者が先に被告人の首を絞めた事実の有無は不明である,仮に被害者が被告人の首を絞めた事実があったとしても,殺害行為は過剰防衛に当たらない旨主張する。

【判旨】

1.被告人が供述する犯行に至る経緯

 被告人は,@何度も被害者から金を要求されて断った,A下山中の車内で被害者から突然,ハンドルを握っていた左腕と左肩をつかまれ,車を停車した,B被害者から車中で首を両手で絞められた,C手を放させるため,被害者の首を両手で絞め返した,D途中から,首を絞められたことなどに対する怒りが爆発し,殺意をもって首を絞めたところ,被害者が被告人の首を絞める力が弱まってきた,このときには被害者の手を首から外すことが目的ではなく,殺すことが目的になっていた,E被害者を後ろ向きにし,背後から右腕を回して首を絞めたところ,被害者は必死に両手で被告人の右腕を外そうとしていたが,腕を外されることはなかった,F車内にあった被害者のマフラーで5分から10分間首を絞め続けた,このときに被害者から抵抗されたという記憶はない旨供述する。

2.被告人供述の信用性

 被告人自身,被害者とは初対面であって,被害者を殺害しなければならないような状況になかったこと,被害者に対する攻撃やその後の死体遺棄の状況について,自己に不利と思われる事情も比較的素直に供述しており,死体の発見状況や解剖結果等の客観的な状況にも沿うことなどからすると,被害者が被告人に対して攻撃をしてきたという被告人の弁解を全く信用できないとすることはできない。
 他方で,被害者は女性であり,深夜,助けを呼ぶこともできない山中で,わずか1時間半ほど前に知り合ったばかりで性格等もよく分からない男性と車内に二人きりの状況であったことからすれば,単に被告人が金の要求を断ったというだけで,突然,首を絞めるような強い攻撃を加えるというのも余りに不自然である。被害者からの攻撃があったとすれば,それは,それ以前の被告人と被害者とのやり取りの中で,被害者を憤らせるような被告人の言動があり,これに触発された可能性が高い。
 以上によると,B被害者から車中で首を絞められるまでの経過については,被告人の供述をそのまま信用することはできないものの,少なくとも被害者が被告人に対して首を絞めるなどの攻撃をした可能性は否定できず,その後,これに被告人が激高するなどしてCないしFのような経過があったものと認められる。

3.過剰防衛の成否

 最初に被告人は,被害者から首を絞められるなどの攻撃を受け,それに対する反撃として同じように被害者の首を絞め返している(以下「第1暴行」という。)。
 しかし,被告人が途中から殺意をもって首を絞めたことで,被告人の首を絞める被害者の力は弱まり,被告人が被害者の体を後ろ向きにさせた後は,被害者は被告人の右腕を外そうとするにとどまっていたことからすると,体を後ろ向きにされた時点では,女性である被害者が,男性である被告人に対して,それ以上の攻撃を加えることはおよそ不可能であって,攻撃を継続できるような状況にはなかったことは明らかであり,被告人もそのことを認識していたと認められる。
 このような段階に至ったにもかかわらず,被告人は,専ら加害の意思をもって,被害者の背後から右腕を回し,その首を絞め上げ,車内にあった被害者のマフラーをその首に巻き付けて長時間絞め続けるなどの執拗かつ強度な暴行を加えており(以下「第2暴行」という。),被害者は,この第2暴行が原因で窒息死したのである。
 そうすると,第1暴行と第2暴行とは,時間的,場所的に接着し,連続してはいるものの,被害者による侵害の継続性,被告人の防衛の意思の有無,暴行の程度の強さや時間の長さ,結果発生への寄与という点で明らかに性質が異なり,この二つの暴行の間には断絶があるというべきである。
 したがって,第1暴行については正当防衛ないし過剰防衛の要件を満たす余地はあるものの,被告人の行為(第1,第2暴行)を全体的に考察して1個の過剰防衛の成立を認めるのは相当でない。そして,第2暴行を第1暴行から分断して考察すると,第2暴行は何ら急迫不正の侵害がない状態で,専ら加害の意思で行われたものであるから,過剰防衛を論じる余地はない。

4.結論

 以上より,被告人は,殺意を持って,被害者の背後から右腕でその首を絞め上げ,更に車内にあった被害者のマフラーをその首に巻き付けて絞め上げたことで被害者を窒息死させており,この行為は過剰防衛には当たらない。

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