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最高裁判所第三小法廷決定平成21年11月09日

【事案】

1.被告人Aは平成元年4月1日から平成6年6月28日までの間,被告人Bは同月29日から平成9年11月20日までの間,それぞれ株式会社北海道拓殖銀行(以下「拓銀」という。)の代表取締役頭取であったもの,被告人Cは,札幌市等で理美容業,不動産賃貸業等を営むD株式会社(以下「D」という。)及び同社から借り受けた土地上に総合健康レジャー施設を建設してこれを経営する株式会社E(以下「E」という。)の各代表取締役で,かつ,Dからホテル施設を借り受けて都市型高級リゾートホテルを経営する株式会社F(以下「F」という。)の実質的経営者であったものである(以下,D,E及びFの3社を併せて,「Dグループ」ということがある。)。拓銀は,昭和58年ころから,Dに対する本格的融資を開始し,拓銀の新興企業育成路線の対象企業として積極的に支援したが,拓銀と他行等との協調融資107億円により建設した上記レジャー施設(昭和63年4月開業)は当初見込みと違ってその売上げが減少し,また,建設費等266億円余のうち,その大半を拓銀1行からの融資により建設した上記ホテル(平成5年4月開業)は採算性が見込まれないものであり,売上高は当初見込みの半分程度にとどまっていた。さらに,Dは,上記レジャー施設の東側に位置する一帯の土地であるG地区約24万坪の総合開発を図るため,平成5年5月までに拓銀の系列ノンバンクである株式会社たくぎんファイナンスサービスから144億円余の融資を受けて土地の取得を進めていたが,未買収部分が点在し,開発計画の内容が定まらず,採算性にも疑問がある等,深刻な問題を抱えていた。このような状況の下,Dグループの資産状態,経営状況は悪化し,遅くとも平成5年5月ころまでには,同グループは,拓銀が赤字補てん等のための追加融資を打ち切れば直ちに倒産する実質倒産状態に陥っていた。平成6年3月期には,債務超過額は128億8600万円となり,借入金残高が696億3800万円で,そのうち拓銀グループからの借入金は629億2800万円を占めており,拓銀グループの借入金に対する保全不足額は358億8300万円に達し,Dグループ全体の事業の償却前営業利益は41億7100万円余の,償却前経常利益は75億8200万円余の赤字であった。その後,償却前営業利益,償却前経常利益の赤字幅は減少したものの,債務超過額,借入金残高は年々増加し,保全不足の状態が解消することはなかった。

2.被告人A及び同Bは,それぞれの頭取在任中に,Dグループがこのような資産状態,経営状況にあることを熟知しながら,赤字補てん資金等の本件各融資を決定し,実質無担保でこれを実行した。すなわち,被告人Aは,平成5年7月の経営会議でDグループが実質倒産状態に陥っていることを知ったが,経営改善や債権回収のための抜本的な方策を講じることもないまま,平成6年4月8日から同年6月30日までの間,前後10回にわたり,D及びFに対し,合計8億4000万円を貸し付け,また,被告人Bは,その路線を継承し,平成6年7月8日から平成9年10月13日までの間,前後88回にわたり,D,E及びFに対し,合計77億3150万円を貸し付けた。Dグループについては,本件各融資当時,営業改善努力によって既存の貸付金を含めその返済が期待できるような経営状況ではなかった上,貸付金の返済のために残されていたほとんど唯一の方途であったG地区の開発事業(融資額は,平成6年3月期までに162億円余に達していた。)も,同地区が市街化調整区域内にあり,その大半が農地であり,しかも,一部は農業振興地域の整備に関する法律の農用地区域に指定されていて,開発そのものが法的に厳しく制限された地域であって,許認可取得が容易でなかったこと,開発事業は対象地を地権者から漏れなく取得し,又はその同意を得ておく必要があるところ,平成5年時で約20%の,平成10年時でも約15%の未買収部分が残っていたこと,開発計画の内容が変転し,その詳細が決まらなかったことなどからその実現可能性に乏しく,仮に実現したとしてもその採算性に大きな疑問があるものであった。被告人A及び同Bは,拓銀のDグループ担当部から説明を受け,そのような状況も十分に認識していた。

【判旨】

 所論は,本件融資の際の被告人A及び同Bの行為につき,両被告人が既存の貸付金の回収額をより多くして拓銀の損失を極小化し,拓銀自体に対する信用不安の発生を防止し,さらに,融資打切りによる地域社会の混乱を回避する等の様々な事情を考慮して総合的に判断することを求められていたこと,同判断が極めて高度な政策的,予測的,専門的な経営判断事項に属し,広い裁量を認めるべきものであること等を挙げて,それが著しく不当な判断でない限り尊重されるべきであるとして,任務違背がなかった旨主張する。

1.そこで検討すると,銀行の取締役が負うべき注意義務については,一般の株式会社取締役と同様に,受任者の善管注意義務(民法644条)及び忠実義務(平成17年法律第87号による改正前の商法254条の3,会社法355条)を基本としつつも,いわゆる経営判断の原則が適用される余地がある。しかし,銀行業が広く預金者から資金を集め,これを原資として企業等に融資することを本質とする免許事業であること,銀行の取締役は金融取引の専門家であり,その知識経験を活用して融資業務を行うことが期待されていること,万一銀行経営が破たんし,あるいは危機にひんした場合には預金者及び融資先を始めとして社会一般に広範かつ深刻な混乱を生じさせること等を考慮すれば,融資業務に際して要求される銀行の取締役の注意義務の程度は一般の株式会社取締役の場合に比べ高い水準のものであると解され,所論がいう経営判断の原則が適用される余地はそれだけ限定的なものにとどまるといわざるを得ない。
 したがって,銀行の取締役は,融資業務の実施に当たっては,元利金の回収不能という事態が生じないよう,債権保全のため,融資先の経営状況,資産状態等を調査し,その安全性を確認して貸付を決定し,原則として確実な担保を徴求する等,相当の措置をとるべき義務を有する。例外的に,実質倒産状態にある企業に対する支援策として無担保又は不十分な担保で追加融資をして再建又は整理を目指すこと等があり得るにしても,これが適法とされるためには客観性を持った再建・整理計画とこれを確実に実行する銀行本体の強い経営体質を必要とするなど,その融資判断が合理性のあるものでなければならず,手続的には銀行内部での明確な計画の策定とその正式な承認を欠かせない。

2.これを本件についてみると,Dグループは,本件各融資に先立つ平成6年3月期において実質倒産状態にあり,グループ各社の経営状況が改善する見込みはなく,既存の貸付金の回収のほとんど唯一の方途と考えられていたG地区の開発事業もその実現可能性に乏しく,仮に実現したとしてもその採算性にも多大の疑問があったことから,既存の貸付金の返済は期待できないばかりか,追加融資は新たな損害を発生させる危険性のある状況にあった。被告人A及び同Bは,そのような状況を認識しつつ,抜本的な方策を講じないまま,実質無担保の本件各追加融資を決定,実行したのであって,上記のような客観性を持った再建・整理計画があったものでもなく,所論の損失極小化目的が明確な形で存在したともいえず,総体としてその融資判断は著しく合理性を欠いたものであり,銀行の取締役として融資に際し求められる債権保全に係る義務に違反したことは明らかである。そして,両被告人には,同義務違反の認識もあったと認められるから,特別背任罪における取締役としての任務違背があったというべきである。

【田原睦夫補足意見要旨】

1.銀行の取締役の善管注意義務と経営判断の原則

 銀行の取締役は,善管注意義務・忠実義務を尽くしてその職務を遂行すべき義務を負うが,その場合の経営判断の原則の適用については,一般企業の取締役に比してより限定されると一般に解されている。それは,一般企業の場合,取締役は企業収益の向上を図るべき義務を有しているところ,その過程では一定のリスク取引は不可欠であるのに対し,銀行の場合,その業務の性質上,一般企業と同様のリスク取引を行うことは許容されないという趣旨を意味するものと解される。
 銀行業務におけるリスク取引の典型例は,無担保融資であるが,以下に述べるように,相手方が正常企業の場合と実質破綻企業の場合とがあり,それに応じて経営判断の内容は異なる。

(1) 正常企業の場合

 融資先が正常企業で将来の事業の伸展が見込まれ,そのためには,一定の設備投資資金等が必要とされるが,その融資に見合う適切な担保を有しない場合などである。
 かかる事例では,その資金需要の必要性,合理性を厳しく検討するのはもちろんのこと,相手方企業の事業内容,過去の業績,将来の業績見込み,企業の物的・人的施設の状況,経営者の資質,将来の資金需要,そのうち自己資金と外部資金の調達割合等を厳しく点検し,それらが全て合理的であると判断できて初めて最低限度必要とされる資金の融資が許容されるものであり,その合理性判断の過程において経営判断の原則が適用されるのである。また,一旦融資が実行されても,その後の相手方企業の業務の状況,資金使途,業績等にかかる情報を継続的に入手したうえで分析し,その回収に不安を生じるおそれが認められるに至ったときは,相手方企業にその原因を糺し,不安を生じさせた事態を解消させる方策の如何を問い,その上で,その不安が現実化する危険が生じる場合には須くその回収を図る必要がある。

(2) 実質破綻企業の場合

 相手方が実質破綻している場合であっても,次項で検討するような既存の融資の回収の最大化と損失の極小化を図るうえで,相手方に一定の資金が必要とされ,その資金の融資の可否が問われることがある。融資取引を主要な取引内容とする銀行と企業との関係においては,回収の最大化と損失の極小化は,ほぼ同義であり,相手方企業の存続の如何は,原則としてかかる観点から捉えることができるものである(その点で,例えばメーカーの主要仕入先が実質破綻状態に陥ったが,当該企業が特殊な部品の仕入先であり,その供給が途絶えるとメーカーの製造に支障を来すような場合には状況が異なる。このような場合には,その供給体制を整えるために仕入先への支援を必要とすることがあり,回収の最大化と損失の極小化は必ずしも比例しない。)。
 かかる場合の融資に際し,一般にそれに見合う適切な担保を取得することは困難であるが,それにもかかわらず,かかる融資が肯認されるのは,それが既存の融資の回収の増大に必要な費用としての性質を有しているからである。そうすると,その融資(実質は費用)の実行に当たっては,それに伴う回収の増加が見込めるか,その投入費用(実質破綻企業に対する赤字補填を含む。)と回収増加額の関係,回収見込額の増減の変動要因の有無,その変動の生じるリスク率,そのリスクを勘案した上で,どの時点まで費用を投じるか,あるいは,どの時点で新たに生じた損失を負担してでも新規の貸付けを打ち切るのか等が詳細に検討されなければならない。そして,一旦融資(費用の投入)を決定した後においても,相手方企業の動静を常に注視し,その企業の状況,企業グループを取り巻く外部の状況変化による回収見込額の増減,予測される投入費用見込額(新規融資額)を点検するとともに,見込まれる投入費用が回収見込増加額を超える危険が生じた場合には,須くその後の費用の投入(追加融資の実行)を停止することが求められるものと言うべきである。
 そして,取締役が上記の判断をなすに当たっては,常に時機に応じて適確な情報を入手し,合理的な分析をなしたうえで新たな判断をなすことが求められるのであり,その判断過程には,経営判断の原則が適用されるものと言えるのである。

2.破綻企業または実質破綻企業に対する銀行の新規融資

 破綻企業または実質破綻企業に対する銀行の新規融資の可否が問われるのは,以下のような場合である。

(1) 清算手続に伴う必要資金を融資する場合

 清算手続に入った企業が,例えば,退職金債権等の労働債権の処理がネックになって清算手続が進捗しない場合に,その解決に要する資金を融資してでも早期解決を図ることが,既存の融資の回収の極大化に繋がると見込まれる場合等である。

(2) 再建手続に必要な資金を融資する場合

 法的再建手続に入った相手方企業に対し,新規の事業資金や事業再編に必要な資金を融資する場合である。再生会社や更生管財人がかかる借入れをなすには,監督委員の同意や裁判所の許可を要するが,それらの企業が新規借入れに伴う担保を提供することは事実上困難であり,それらの融資は,実質上は無担保融資とならざるを得ない。ただし,民事再生手続や会社更生手続に基づく再建が失敗して破産手続に移行した場合には,財団債権としての保護を受けることができる(民事再生法252条6項,会社更生法254条6項)。既に裁判所の管理下における再建手続に入っているという点において,破綻企業そのものに対する融資ではないが,しかし,正常企業とは言えない状態にあるから,かかる状況を踏まえたうえで,新規の融資を行うか否かは,銀行の取締役としての善管注意義務・忠実義務の問題であり,経営判断の原則に基づく判断が求められる。

(3) 再建,再編計画の検討期間中に必要な資金を融資する場合

 相手方企業が実質破綻状態に陥った場合,当該相手方企業の再建の可否及び再建を図る場合の手法等を検討するには一定の時間を要する。殊に,相手方企業の規模が大きかったり,企業グループを形成している場合などでは,相当の人的資源の投入が必要とされ,その調査,検討作業に必要な資金を確保する必要があるとともに,その検討期間中の運転資金を確保する必要がある。それらの資金を実質破綻企業が調達できなければ,主力銀行としてその運転資金の不足分や,調査・検討作業に必要な費用相当額を追加融資せざるを得ないが,実質破綻企業がその追加融資に見合う担保を提供することなど凡そ不可能であって,実質無担保融資とならざるを得ない。かかる融資を大口融資先の再建,再編による既存の融資の回収の極大化を図るための必要資金として位置づけるか否かは,正に経営判断の原則の適用場面である。

(4) 再編,再生計画実行中に必要な資金を融資する場合

 再編,再建計画が企画,立案されても,その実行には一定の資金が必要であるとともに,その実行に至るまでに相手方企業グループが維持存続できるための資金が不可欠であるが,その資金を相手方企業グループが新規に調達することは期待できないところから,結局,赤字補填資金としての融資の継続が必要とされる。その場合,如何なる期間,どの程度の金額まで赤字補填をするか,何時の時点で打ち切るかは,その再建,再編計画の遂行状況を見ながら流動的に対応すべき事項であって,正に経営判断の原則が適用されるべき場面である。

3.本件各融資と経営判断の原則の適用

 被告人A,同Bを含む拓銀の経営陣は,平成5年7月の時点で,Dグループが債務超過状態にあり,赤字を垂れ流している状態にあることを認識しながら,本件の各融資がなされる平成6年4月までの間,Dグループの経営改善,再建に向けての抜本的な対策には何ら着手することなく,法廷意見にて指摘するようにその実現可能性の極めて薄いG開発に意を払うのみで,Dグループに恒常的に発生する赤字の補填資金としての本件犯罪事実に係る各融資を漫然と継続していたものであって,自行の融資金の管理に意を払い不良債権の発生を抑止するという,銀行の取締役として当然の責務を果たしていなかったと言わざるを得ないのである。
 そうすると,本件各企業に対する各融資は,経営判断の原則の適用の可否を論じるまでもなく,銀行の頭取としての任務に違背していたものであることは明白である。

 

最高裁判所大法廷判決平成21年11月18日

【事案】

1.東洋町選挙管理委員会(以下「処分行政庁」という。)が,東洋町議会議員A(以下「A議員」という。)に係る解職請求者署名簿の署名について,解職請求代表者に非常勤の公務員である農業委員会委員が含まれているとして,そのすべてを無効とする旨の決定をし,さらに,請求代表者等の関係人である上告人らによる異議の申出も平成20年5月20日付けの決定(以下「本件異議決定」という。)により棄却したことから,上告人らにおいて本件異議決定の取消しを求める事案。

2.事実関係等の概要

(1) 上告人X1を含む6名(以下「本件代表者ら」という。)は,処分行政庁に対し,平成20年3月14日,A議員に係る解職請求書を添えて,本件代表者らがその解職請求代表者である旨の証明書の交付を申請し,同月17日,処分行政庁からその旨の証明書の交付を受けた。当時,上告人X1は,非常勤の公務員である農業委員会委員であった。

(2) 公職選挙法(以下「公選法」という。)89条1項本文所定の公務員は,同項ただし書所定の者を除き,在職中,公職の候補者となることができないが,地方自治法(以下「地自法」という。)及び地方自治法施行令(以下「地自令」という。)は,公選法89条1項を議員の解職の投票に準用するに当たり,「公職の候補者」を「普通地方公共団体の議会の議員の解職請求代表者」と読み替え,かつ,同項ただし書(同項2号に関する部分を除く。)の準用を除外している(地自法85条1項,地自令115条,113条,108条2項,109条。以下,地自令の上記4条項のうち,公選法89条1項を準用することにより議員の解職請求代表者の資格を制限している部分を併せて「本件各規定」という。)。したがって,本件各規定によれば,農業委員会委員は,公職の候補者となることができる場合であると否とを問わず,在職中,議員の解職請求代表者となることができないこととなる。

(参照条文)

●公選法89条1項 国若しくは地方公共団体の公務員 (中略) は、在職中、公職の候補者となることができない。ただし、次の各号に掲げる公務員(かっこ書略。)は、この限りでない。

1号略。
二  技術者、監督者及び行政事務を担当する者以外の者で、政令で指定するもの
三  専務として委員、 (中略) その他これらに準ずる職にある者で臨時又は非常勤のものにつき、政令で指定するもの
4号略。

●地自法

80条 選挙権を有する者は、政令の定めるところにより、所属の選挙区におけるその総数の三分の一(その総数が四十万を超える場合にあつては、その超える数に六分の一を乗じて得た数と四十万に三分の一を乗じて得た数とを合算して得た数)以上の者の連署をもつて、その代表者から、普通地方公共団体の選挙管理委員会に対し、当該選挙区に属する普通地方公共団体の議会の議員の解職の請求をすることができる。この場合において選挙区がないときは、選挙権を有する者の総数の三分の一(その総数が四十万を超える場合にあつては、その超える数に六分の一を乗じて得た数と四十万に三分の一を乗じて得た数とを合算して得た数)以上の者の連署をもつて、議員の解職の請求をすることができる。
○2  前項の請求があつたときは、委員会は、直ちに請求の要旨を関係区域内に公表しなければならない。
○3  第一項の請求があつたときは、委員会は、これを当該選挙区の選挙人の投票に付さなければならない。この場合において選挙区がないときは、すべての選挙人の投票に付さなければならない。
4項略。

85条1項 政令で特別の定をするものを除く外、公職選挙法中普通地方公共団体の選挙に関する規定は、 (中略) 第八十条第三項 (中略) の規定による解職の投票にこれを準用する。

●地自令

108条2項 地方自治法第八十五条第一項の規定により、普通地方公共団体の議会の解散の投票に公職選挙法中普通地方公共団体の選挙に関する規定を準用する場合においては、 (中略) 、公職の候補者 (中略) に関する部分は (中略) その解散請求代表者に関する規定とみなす。

109条 地方自治法第八十五条第一項の規定により、普通地方公共団体の議会の解散の投票に公職選挙法中普通地方公共団体の選挙に関する規定を準用する場合においては、 (中略) 第八十九条第一項ただし書(同項第二号に関する部分を除く。)、 (中略) の規定は、普通地方公共団体の議会の解散の投票には、準用しない。

113条 (前略) 第百八条第二項、第百九条(かっこ書略。)、 (中略) の規定は、普通地方公共団体の議会の議員の解職の投票について準用する。 (後略)。

115条 地方自治法第八十五条第一項の規定により、普通地方公共団体の議会の議員の解職の投票に公職選挙法中普通地方公共団体の選挙に関する規定を準用する場合においては、次の表の上欄に掲げる同法の規定中同表の中欄に掲げる字句は、それぞれ同表の下欄に掲げる字句に読み替えるものとする。

第八十九条第一項

公職の候補者

普通地方公共団体の議会の議員の解職請求代表者

(3) 本件代表者らは,処分行政庁に対し,同年4月14日,上記解職請求書に係る1124名分の署名簿(以下「本件署名簿」という。)を提出し,同月17日に受理されたが,処分行政庁は,本件各規定により農業委員会委員は議員の解職請求代表者となることができないことを前提に,同年5月2日付けで,本件署名簿の署名をすべて無効とする旨の決定をした。

(4) 上告人らが上記決定に対し異議の申出をしたところ,処分行政庁は,本件署名簿の署名は農業委員会委員を解職請求代表者の1人とする署名収集手続において収集されたものであって,すべて成規の手続によらない署名であるなどとして,同月20日付けで,異議の申出を棄却する本件異議決定をした。

3.原審は,上記事実関係等の下において,次のとおり判断して,上告人らの請求を棄却した。
 本件各規定の委任の根拠規定である地自法85条1項は,議員の解職請求に係る投票手続のみならず,これと一連の手続の中で密接に関連する請求手続についても,公務員の職務遂行の中立性を確保し,手続の適正を期する観点から,公選法の規定の準用を認めたものであって,本件各規定はその委任の範囲内の適法かつ有効な定めと解されるから,農業委員会委員を解職請求代表者の1人とする署名収集手続において収集された本件署名簿の署名は,すべて成規の手続によらない署名として無効である。

【判旨】

1.原審の判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

(1) 普通地方公共団体の議会の議員の選挙権を有する者は,法定の数以上の連署をもって,解職請求代表者から,当該普通地方公共団体の選挙管理委員会に対し,当該議会の議員の解職の請求をすることができ(地自法80条1項),選挙管理委員会は,その請求があったときは,直ちに請求の要旨を関係区域内に公表するとともに(同条2項),これを選挙人の投票に付さなければならないこととされている(同条3項)。このように,地自法は,議員の解職請求について,解職の請求と解職の投票という二つの段階に区分して規定しているところ,同法85条1項は,公選法中の普通地方公共団体の選挙に関する規定(以下「選挙関係規定」という。)を地自法80条3項による解職の投票に準用する旨定めているのであるから,その準用がされるのも,請求手続とは区分された投票手続についてであると解される。このことは,その文理からのみでなく,@ 解職の投票手続が,選挙人による公の投票手続であるという点において選挙手続と同質性を有しており,公選法中の選挙関係規定を準用するのにふさわしい実質を備えていること,A 他方,請求手続は,選挙権を有する者の側から当該投票手続を開始させる手続であって,これに相当する制度は公選法中には存在せず,その選挙関係規定を準用するだけの手続的な類似性ないし同質性があるとはいえないこと,B それゆえ,地自法80条1項及び4項は,請求手続について,公選法中の選挙関係規定を準用することによってではなく,地自法において独自の定めを置き又は地自令の定めに委任することによってその具体的内容を定めていることからも,うかがわれるところである。
 したがって,地自法85条1項は,専ら解職の投票に関する規定であり,これに基づき政令で定めることができるのもその範囲に限られるものであって,解職の請求についてまで政令で規定することを許容するものということはできない。

(2) しかるに,本件各規定は,地自法85条1項に基づき公選法89条1項本文を議員の解職請求代表者の資格について準用し,公務員について解職請求代表者となることを禁止している。これは,既に説示したとおり,地自法85条1項に基づく政令の定めとして許される範囲を超えたものであって,その資格制限が請求手続にまで及ぼされる限りで無効と解するのが相当である。
 したがって,議員の解職請求において,請求代表者に農業委員会委員が含まれていることのみを理由として,当該解職請求者署名簿の署名の効力を否定することは許されないというべきである。
 最高裁昭和28年(オ)第1439号同29年5月28日第二小法廷判決・民集8巻5号1014頁は,以上と抵触する限度において,これを変更すべきである。

(3) 処分行政庁は,本件異議決定において,本件署名簿の署名は農業委員会委員を解職請求代表者の1人とする署名収集手続において収集されたものであって,すべて成規の手続によらない署名であるから無効であると判断し,原審も前記のとおり同様の判断をしたものであるところ,上記のとおり,本件各規定は少なくとも請求手続に適用される限りでは違法,無効な定めといわざるを得ないから,これに基づいて上記署名を成規の手続によらない署名であるとすることはできない。
 なお,公務員は一般職,特別職を問わず議員の解職請求の請求手続の当初から解職請求代表者となることができないとするのが,地自法85条1項に関する従前からの一貫した行政解釈であり,前記の最高裁昭和29年5月28日第二小法廷判決も,これを是認するものであった。それにもかかわらず,本件代表者らにおいて上告人X1を含めて請求代表者証明書の交付を申請し,処分行政庁もこれを交付した理由は,定かでないが,上記の行政解釈が地自法の法文の文理とは整合しないものであり,解職請求代表者の資格制限を定める本件各規定が明確性を欠いていることも一因であることがうかがわれるところである。地自法の定める直接請求に関し請求代表者の資格制限を設けるのであれば,住民による利用の便宜や制度の運営の適正を図る見地からも,制限の及ぶ範囲は,法律の規定に基づき,可能な限り明確に規定されていることが望ましいことはいうまでもない。

2.以上によれば,本件署名簿の署名をすべて無効とした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,前記説示によれば,本件異議決定は違法であり,その取消しを求める上告人らの請求は理由があるから,本件異議決定を取り消すこととする。

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