最新下級審裁判例

東京高裁決定平成21年02月06日

【事案】

 申立人らの申立ての趣旨及び理由は別紙1(略)記載のとおりである(なお,建築確認において処分の執行は観念できないから,申立人らは建築確認処分の効力の停止を求めるものと理解される。)。要するに,申立人らは,当裁判所で東京都新宿区建築主事がA株式会社及び株式会社Bに対して平成18年7月31日付けでした別紙1の物件目録記載の建築物(以下「本件建築物」という。)に係る建築確認処分(以下「本件処分」という。)を取り消すとの判決が言い渡されたが,本件建築物が完成すると本件処分の取消しを求める訴えの利益がなくなるから,本件処分により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があるというものである。

【判旨】

1.(1) 申立人らは,平成19年5月26日,本件処分等の取消しを求める訴えを東京地方裁判所に提起したところ,平成20年4月18日,同裁判所は申立人らの請求を棄却する旨の判決をした。これに対し,申立人らが控訴し,平成21年1月14日,当裁判所は,原判決を取り消すとともに,本件処分を取り消す旨の判決をした。これに対し,相手方は同月27日に上告受理の申立てをしたが,訴訟記録はなお当裁判所に存する。

(2) 一件記録によれば,以下の事実が一応認められる。

ア.本件建築物と申立人らの居住地及び申立人C所有に係る「α」との位置関係は別紙図面のとおりである。したがって,申立人らは,火災その他の災害時に,本件建築物の倒壊,炎上等により直接的な被害を受けることが予想される。

イ.本件建築物の建築工事は,平成19年4月ころ着工され,現在は仕上工事がされており,平成21年4月末に完了検査,同年5月末に引渡しが予定され,完了間近の段階にある。

(3)ア.上記(2)アによると,申立人らは,本件処分の取消しを求める原告適格を有するから,本件処分の効力の停止を求める申立人適格を有するというべきである。

イ(ア) 上記(2)アによると,このまま建築工事が続行され,本件建築物が完成すると,本件建築物の倒壊,炎上等により,申立人らはその生命又は財産等に重大な損害を被るおそれがあるということができる。
 しかも,上記(2)イによれば,本件建築物の建築等の工事は完了間近であるところ,本件建築物の建築等の工事が完了すると,本件処分の取消しを求める訴えの利益は失われるのである(最高裁昭和59年10月26日第二小法廷判決・民集38巻10号1169頁参照)。そうすると,上告審において本件処分の取消しを求める訴えは不適法なものとして却下されることになって,申立人らにおいて建築確認に係る本件建築物の倒壊,炎上等により損害を被ることを防止することができなくなる(他の手段,例えば民事訴訟により建築続行禁止の仮処分を求めることなども考えられないではないが,認容されるための要件が異なるのであり,建築確認取消訴訟と同じように損害の防止を図ることが可能であるとは必ずしもいえないものである。)。このような事態は,法が,申立人らに対し,建築確認取消訴訟の原告適格を認め,同人らが当該建築確認に係る建築物により損害を被ることを防止する手段を与えていることと実質的に適合しない結果をもたらすものである。

(イ) このような点を斟酌すると,申立人らは,本件処分により生ずる重大な損害(本件処分に係る本件建築物の倒壊,炎上等による自己の生命,財産等の侵害)を避けるため,本件処分の効力を停止する緊急の必要があると解するのが相当である。

ウ.上記(1)によると,本件申立てが本案について理由がないとみえるときに該当しないことは明らかである。

2.以上によれば,本件申立ては理由がある。

 

仙台高裁判決平成21年04月28日

【事案】

 本件は,1審原告が,1審被告に対し,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成13年法律第140号による改正前のもの。以下「情報公開法」という。)に基づき,外務省在外公館である在フランス日本国大使館,在イタリア日本国大使館及び在ホノルル日本国総領事館における平成11年度の報償費の支出に関する一切の行政文書(原判決別表1(略)記載の各文書であり,以下「本件各行政文書」という。)等の開示を請求(以下「本件開示請求」という。)したところ,1審被告が,平成13年6月1日付けで,情報公開法5条3号及び6号の情報に該当するとして,本件各行政文書の全部について不開示とする決定(以下「本件不開示決定」という。)をしたことから,1審原告が,その取消しを求めた事案である(なお,本訴提起後,1審被告は,本件不開示決定を一部変更する決定(以下「本件変更決定」という。)をし,本件各行政文書の一部を部分開示したことから,1審原告は,原審において,当該開示部分に対応する訴えを取り下げ,本件変更決定による変更後の本件不開示決定の取消しを求めた。)。
 原判決は,開示を求められた本件各行政文書(合計1401通)のうち,交渉の準備あるいは交渉結果を踏まえた対応の検討のための会合の経費に係る文書(合計175通)について,請求書,支払先又は支払予定先関係者が独自に作成した領収書,並びに,これらの書面以外の書面の支払予定先及び支払先の記録部分を除く部分には,情報公開法5条3号及び6号所定の不開示情報は記録されていないとして,その範囲で,本件不開示決定を一部取り消し,その余の範囲については,同各号に該当する情報が記載されているとして,1審原告の請求を棄却したことから,1審原告及び1審被告が,それぞれ敗訴部分を不服として控訴した。

(参照条文)情報公開法5条

 行政機関の長は、開示請求があったときは、開示請求に係る行政文書に次の各号に掲げる情報(以下「不開示情報」という。)のいずれかが記録されている場合を除き、開示請求者に対し、当該行政文書を開示しなければならない。

一  個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)又は特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの。ただし、次に掲げる情報を除く。
イ 法令の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報
ロ 人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報
ハ 当該個人が公務員等(国家公務員法 (昭和二十二年法律第百二十号)第二条第一項 に規定する国家公務員(独立行政法人通則法 (平成十一年法律第百三号)第二条第二項 に規定する特定独立行政法人の役員及び職員を除く。)、独立行政法人等(独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律 (平成十三年法律第百四十号。以下「独立行政法人等情報公開法」という。)第二条第一項 に規定する独立行政法人等をいう。以下同じ。)の役員及び職員、地方公務員法 (昭和二十五年法律第二百六十一号)第二条 に規定する地方公務員並びに地方独立行政法人(地方独立行政法人法 (平成十五年法律第百十八号)第二条第一項 に規定する地方独立行政法人をいう。以下同じ。)の役員及び職員をいう。)である場合において、当該情報がその職務の遂行に係る情報であるときは、当該情報のうち、当該公務員等の職及び当該職務遂行の内容に係る部分

二  法人その他の団体(国、独立行政法人等、地方公共団体及び地方独立行政法人を除く。以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、次に掲げるもの。ただし、人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報を除く。
イ 公にすることにより、当該法人等又は当該個人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの
ロ 行政機関の要請を受けて、公にしないとの条件で任意に提供されたものであって、法人等又は個人における通例として公にしないこととされているものその他の当該条件を付することが当該情報の性質、当時の状況等に照らして合理的であると認められるもの

三  公にすることにより、国の安全が害されるおそれ、他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報

四  公にすることにより、犯罪の予防、鎮圧又は捜査、公訴の維持、刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報

五  国の機関、独立行政法人等、地方公共団体及び地方独立行政法人の内部又は相互間における審議、検討又は協議に関する情報であって、公にすることにより、率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ、不当に国民の間に混乱を生じさせるおそれ又は特定の者に不当に利益を与え若しくは不利益を及ぼすおそれがあるもの

六  国の機関、独立行政法人等、地方公共団体又は地方独立行政法人が行う事務又は事業に関する情報であって、公にすることにより、次に掲げるおそれその他当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの
イ 監査、検査、取締り、試験又は租税の賦課若しくは徴収に係る事務に関し、正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし、若しくはその発見を困難にするおそれ
ロ 契約、交渉又は争訟に係る事務に関し、国、独立行政法人等、地方公共団体又は地方独立行政法人の財産上の利益又は当事者としての地位を不当に害するおそれ
ハ 調査研究に係る事務に関し、その公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれ
ニ 人事管理に係る事務に関し、公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれ
ホ 国若しくは地方公共団体が経営する企業、独立行政法人等又は地方独立行政法人に係る事業に関し、その企業経営上の正当な利益を害するおそれ

【判旨】

1.行政機関の保有する行政文書の開示請求権(以下「行政文書開示請求権」という。)の性質と1審被告の裁量の範囲等

 1審原告の請求について判断する前提として,まず,行政文書開示請求権の性質と,1審被告が,本件各行政文書には主として情報公開法5条3号所定の不開示情報が記録されていると主張することにかんがみ,行政文書の記載内容が同号所定の不開示情報に該当するか否かについての判断手法等について検討する。

(1) 行政文書開示請求権を規定する情報公開法は,国民主権の理念にのっとり,民主主義国家における政府の責務として,政府の諸活動を国民に説明するという観点から制定された法律であるが,憲法上,行政機関の保有する行政文書の開示に関する具体的な規定はなく,憲法の諸規定や情報公開法1条の文言等にかんがみれば,行政文書開示請求権は,上記の趣旨により制定された情報公開法によって具体的な内容が定められた権利であり,したがって,不開示情報の内容,さらに,事後的な司法審査の在り方についても,このような行政文書開示請求権の性質に沿った解釈をすることが求められる。

(2) そして,情報公開法5条3号は,「公にすることにより,国の安全が害されるおそれ,他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報」を不開示情報としているが,これは,情報公開によって政府の諸活動を国民に説明することとする一方で,国の安全や我が国の外交上の利益にも十分に配慮する必要性があることから,公にすることが,これらの利益等を損なうことに繋がるおそれがある情報を不開示としたものであるが,その開示・不開示の判断に当たっては,一般の行政運営に関する情報とは異なり,その性質上,諸外国の政治的,経済的,社会的諸情勢や特質等係る事実についての正確な知識に基づく高度な政策的判断(なお,かかる政策的判断の基礎としては,これらの利益が実際に損なわれた場合の影響の重大性や回復困難性等と損なわれる可能性との比較考量の結果等も当然に含まれるものである。)を伴うとともに,我が国の安全保障上又は対外関係上の将来予測についての専門的・技術的判断が必要とされる特殊性があり,そのため,情報公開法5条3号においては,同条4号とともに,他の号の不開示情報と区別して,「行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報」を不開示とする旨規定されたものであって,このことにかんがみれば,司法審査の場において,同条3号所定の不開示情報に該当するか否かの判断をするに当たっては,裁判所は,行政機関の長による第一次的な判断と並行して,当該行政文書に記録された情報が,公にすることにより国の安全を害するなどのおそれがある情報に当たるか否かについて,直接,実体的な判断を行うのではなく,行政機関の長による第一次的な判断を尊重し,その判断が合理性のある判断として許容されるものであるかどうか,すなわち,行政機関の長による判断の基礎とされた事実に誤認があるなどのためにその判断が根拠を欠くか否か,あるいは,事実に対する評価が合理性を欠くことなどによりその判断が妥当性を欠くことが明らかであるか否かといった,裁量権の逸脱又は濫用があると認められる点があるかどうかについて,審理判断することが求められるというべきである。

(3) そして,訴訟において,行政文書に情報公開法5条各号所定の不開示情報が記録されているかが争点となった場合,その該当性判断のために当該行政文書の内容を具体的に明らかにすべきものとすると,その過程を通じて本来不開示とすべき情報が公となり,そのため,一定の情報を不開示情報として規定した情報公開法の趣旨が没却されることとなるから,このような判断対象の性質上,行政機関の長に,当該行政文書に記載されている個別具体的な文言を明らかにして不開示情報が記録されていることを主張立証すべきということはできないが,更に,1審被告が主として本件各行政文書に記録されていると主張する情報公開法5条3号所定の不開示情報については,上記(2)において説示した審理判断の手法にかんがみれば,1審被告は,情報公開法5条3号所定の不開示情報が記録されていると主張する行政文書の外形的事実等から判断される一般的類型的な文書の性格を主張立証することによって,その判断の合理性を基礎付け,他方,1審原告は,事実に対する評価が合理性を欠くことなどにより1審被告の判断が妥当性を欠くことが明らかであることを基礎付ける事実の主張立証により,上記(2)で説示した裁量権の逸脱又は濫用があることについて主張立証することを要するものというべきである。

2.一部開示の可否等

(1) 次に,一部開示を命じることの可否について検討する。
 情報公開法6条2項の規定に係る「当該情報のうち,氏名,生年月日その他の特定の個人を識別することができることとなる記述等の部分を除くことにより」との文言によれば,同法は,「情報」と,その一部である「記述等の部分」とを区別して定めていることが明らかである。そして,同法は,6条1項において,開示請求に係る行政文書の一部に不開示情報が記録されている場合,一定の条件の下に,当該部分を除いた部分を開示しなければならないとして,情報については,他の情報との区分を認めて,部分開示の義務を定めているものの,情報のうちの特定の記述等の部分(又は,特定の記述等の部分を除いた残りの記述等の部分)につき,その部分だけでの開示を義務づける規定は,上記6条2項のほかには設けられていない。そうすると,同法は,6条2項により,5条1号所定の個人に関する情報のうちの特定の個人を識別することができる情報についてのみ,特定の個人を識別することができることとなる記述等の部分を切り離して不開示とし,その余の記述等の部分のみにつき開示すべきものとして,情報を細分化した記述等の部分のみの部分開示を義務付けているものの,6条2項に当たる場合以外は,情報公開法5条各号所定の不開示情報に該当する独立した一体的な情報を更に細分化し,その一部である記述等の部分のみを不開示とし,その余の記述等の部分のみを部分開示することを義務付けているということはできないというべきである(大阪府公文書公開等条例に関する最高裁判所平成13年3月27日第三小法廷判決・民集55巻2号530頁参照)。

(参照条文)情報公開法6条

 行政機関の長は、開示請求に係る行政文書の一部に不開示情報が記録されている場合において、不開示情報が記録されている部分を容易に区分して除くことができるときは、開示請求者に対し、当該部分を除いた部分につき開示しなければならない。ただし、当該部分を除いた部分に有意の情報が記録されていないと認められるときは、この限りでない。
2  開示請求に係る行政文書に前条第一号の情報(特定の個人を識別することができるものに限る。)が記録されている場合において、当該情報のうち、氏名、生年月日その他の特定の個人を識別することができることとなる記述等の部分を除くことにより、公にしても、個人の権利利益が害されるおそれがないと認められるときは、当該部分を除いた部分は、同号の情報に含まれないものとみなして、前項の規定を適用する。

 この点に関し,1審原告は,独立した一体的情報論については,様々な問題点が指摘されているとし,最高裁判所平成19年4月17日第三小法廷判決(集民224号97頁)では,結果的に,文書の中の一部分のみを開示したり,不開示としたりする手法を採用している旨の主張をする。
 しかし,上記判決は,愛知県公文書公開条例に基づき公文書の開示が請求された事案において,複数の情報についての記述等の部分に重なり合いがある場合に,その共通部分自体には何ら非公開とすべき部分が含まれていないのに,非公開情報の一部をなすとの理由により,上記共通部分を有する他の公開すべき情報のすべてが非公開情報とされるべき理由はないことから,この場合において,結果的に,非公開情報のうちの上記共通部分が開示されることになったとしても,上記条例に反するものではないとする趣旨のものであり,情報公開法も含め,行政機関の長に開示義務があるのは,記述等の部分のみではなく,それが複合された1つの情報であることを何ら改めるものではない。

(2) そして,独立した一体的な情報に当たるか否かについては,社会通念に従うべきことになるが,特定の個人等の氏名・名称のみであったり,また,金額のみのような,各記述等の部分だけでは,それが何を意味しているのかは正確には把握し得ず,社会通念上,有意な内容をもったものということはできないし,情報公開法6条2項が,「当該情報のうち,氏名,生年月日その他の特定の個人を識別することができることとなる記述等の部分を除くことにより」と規定して,氏名,生年月日その他の特定の個人を識別することができることとなる部分を「記述等の部分」とし,それだけでは,独立した情報とはしていないことに照らせば,情報公開法5条各号所定の情報とは,上記記述等の部分が複合した一定のまとまりのある概念というべきである。
 この点につき,1審原告は,いわゆる独立した一体的情報論を無批判に採用し,情報の重畳的構造に配慮せず,あらゆる要素を一体的なものとして取り込むと,不当に部分開示を阻害するという弊害が大きいとして,仮に,いわゆる独立した一体的情報論を採用するとしても,情報の重畳的構造に配慮し,部分開示を認めるべきである旨主張する。
 しかし,上記のとおり,特定の個人等の氏名・名称のみや,金額のみのような,各記述等の部分だけを開示したところで,それが何を意味しているのかは正確には把握し得ず,有意な内容をもった,社会通念上「情報」といい得るものに当たるということはできず,情報公開法6条2項の規定からも,その主張のような内容の部分開示は導き得ないところである。さらに,実際にも,このような記述等の部分のみを開示する有益性の程度に比して,その開示のために行政機関に必要とされる事務作業の程度等を比較勘案した場合,開示を義務付けられることによる弊害の方がむしろ大きいという場合も少なくないと考えられるものである。
 上記1(1)で説示したとおり,行政文書開示請求権は,情報公開法によって具体的な内容が定められた権利であり,また,上記(1)で説示したとおり,その情報公開法では,独立した情報の開示のみならず,6条2項の場合を除いては,情報の一部である記述等の部分のみを開示することまで,行政機関の長の義務として規定していない以上,1審原告の主張は採用の限りではない。

3.情報公開法5条3号及び6号所定の不開示情報該当性

(1) 本件各行政文書のうち,情報収集の対価及び非公式の二国間の外交交渉等を進めるに当たっての協力の対価に係る文書に記載された情報につき,情報提供者が情報提供等の対価の支払を受けたことに関する情報が明らかとなると,情報提供者の我が国の秘密保持に対する信頼が低下し,今後,当該情報提供者のみならず,他の情報提供者も含めて,内々の情報提供,率直な意見交換,他国政府等に対する働きかけなどの協力に応じなくなり,あるいはこれを躊躇し,そのために情報収集等が困難となる可能性があって,ひいて他国や国際機関との交渉の際における我が国の立場が不利となることが考えられ,また,場合によっては,情報提供等を受けていた事実が明らかとなれば,関係する他国等との関係が損なわれる事態も想定し得るから,前記情報が情報公開法5条3号所定の不開示情報に当たるとした1審被告の判断は裁量権を逸脱又は濫用したものということはできない。

(2) 本件各行政文書のうち,情報収集のための会合の経費,非公式の二国間の外交交渉等を進めるに当たっての会合の経費又は国際会議等において非公式の多国間交渉等を進めるに当たっての会合の経費(以下、これらを総称して「会合経費」という。)であって,情報収集等又は二国間若しくは多国間の交渉の相手方と直接接触した会合の経費に係る文書に記載された情報につき,特定の情報提供者等との会合であることが明らかとなる可能性がある情報を開示すること自体,情報提供者等の立場を損ね,これらの者との信頼関係を失うこととなって,以後,我が国において,これら情報提供者等から,内々の情報提供,率直な意見交換,他国政府等に対する働きかけなどで積極的な協力を得ることができなくなるおそれがあり,また,我が国の秘密保持に対する信頼が著しく低下し,そのため,以後,他国等から我が国への協力的な対応はもとより,我が国との接触,交渉すら得ることができない事態につながることが想定されるし,同様に,他の情報提供者,協力者一般にも影響し,これらの者の協力も得られなくなるおそれがあり,さらに,他国等が,各種の情報の分析を通じて,我が国の情報収集等の目的,外交政策の意図,関心,懸念の程度,情報収集や外交工作の方法等も知り得ることになり,その結果,他国等が,我が国のこのような事実を踏まえ,その情報提供者等に対して我が国在外公館職員との接触を制限したりするなどの外交政策上の対抗措置を講ずるおそれもあり,そうなると,我が国が適切な外交政策上の政策決定をする上で,その基礎となる正確で十分な情報が収集できなくなり,他国への外交的な働きかけが不調となったり,又は,他国が我が国に対してより強硬な立場をとるなどの事態が生ずるおそれがあるから,前記情報が情報公開法5条3号所定の不開示情報に当たるとした1審被告の判断が裁量権を逸脱又は濫用したものということはできない。

(3) 本件各行政文書のうち,交渉の準備あるいは交渉結果を踏まえた対応の検討(以下「間接接触」という。)のための国会議員,我が国政府とは異なる公的団体の関係者及び自治体関係者との会合経費に係る文書に記載された情報につき,同文書が開示されると,前記国会議員等の氏名が直接明らかになる場合のみならず,前記国会議員等の氏名が記載されていない場合であっても,他の情報等とあわせて特定の前記国会議員等との会合であることが明らかとなる可能性も考えられ,それによって,相手国関係者が,特定の前記国会議員等とのこのような打合せの事実を知ることになれば,当該特定の前記国会議員等の言動が自らの独自の立場に基づく見解等ではなく,我が国外交当局の意を受けて,いわばその代弁をするにすぎないものではないかとの疑念を抱くこととなる可能性は考えられないわけではなく,その結果,前記打合せに係る前記国会議員等を通じた働きかけの効果が減殺され,その後,前記国会議員等に関しては,同様の働きかけが功を奏しなくなって,外交交渉上の不利益が生ずるおそれがあり,我が国が行おうとする外交上の意図,動向,方針も明らかとなり,他国が,あらかじめ対策を講じたり,我が国の情報収集活動に対する妨害又は対抗措置を講じたりするおそれがあり,今後,同様の案件を処理する際に,同様の働きかけが功を奏しなくなるという外交交渉上の不利益が生ずるおそれがあるから,前記情報が情報公開法5条3号所定の不開示情報に当たるとした1審被告の判断が裁量権を逸脱又は濫用したものということはできない。

(4) 本件各行政文書のうち,間接接触のための政府関係者,総理大臣,外務大臣等との会合経費に係る文書に記載された情報につき,同文書が開示されると,在外公館職員と政府部局関係者等との会合がもたれた事実が直接明らかになる場合のみならず,そのような事実が直接記載されていなくても,他の情報等とあわせて在外公館職員と政府部局関係者等との会合がもたれた事実が明らかとなる可能性も考えられ,それによって,相手国政府等が,外交当局と政府の関係部局の間での意見の不一致を察知した場合に,その後の当該外交交渉に支障を来すおそれがあり,事後的に明らかとなった場合であっても,我が国政府部門の内情や協議の際の準備のパターンを外国政府に読まれることになり,今後,関連分野や同態様の案件を処理する際に不利となるおそれがあり,総理大臣が外交交渉の準備のために在外公館職員と会合を行う場合も同様であるから,前記情報が情報公開法5条3号所定の不開示情報に当たるとした1審被告の判断が裁量権を逸脱又は濫用したものということはできない。

(5) 本件各行政文書のうち,間接接触のための外務大臣及び在外公館職員以外の外務省職員との会合経費に係る文書に記載された情報につき,外務当局内部の関係であれば,仮に意見の不一致が生じたとしても,外務大臣を頂点とする職制に従った指揮命令によって解消されるはずのものであり,外務大臣及び在外公館職員以外の外務省職員が在外公館職員と相当程度の時間をかけて会合をもったとしても,それは業務上の指揮命令その他の業務に係る諸事項の伝達や復命報告等のためであったと見られるのが通常であると考えられ,前記会合がもたれたことの一事をもって,相手国政府関係者から,外交当局内部の意見の不一致を解消するためのものであると勘ぐられるとするのは,いかにも不自然不合理であるから,前記情報が情報公開法5条3号所定の情報に当たるとした1審被告の判断は明らかに妥当性を欠くものであって,裁量権を逸脱したものというべきであるが,前記会合が在外公館以外の場所でもたれる場合のその会合場所や,前記会合が在外公館内でもたれる場合にその会合に供するための料理等の調達先の業者に関する情報が明らかになれば,その後,我が国に関する情報を不正に入手しようとする者,我が国への情報提供者や我が国関係者に危害を加えようとする者等が,それらの業者やその従業員等に働きかけて不正な工作をし,あるいは当該会合場所を襲撃等の標的とするなどの行為に及ぶ可能性が考えられ,外交事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるから,前記情報は,同条6号所定の不開示情報に当たる。

(6) 本件各行政文書のうち,会合経費であって,自動車借料経費等の事務経費の支出に係る文書に記載された情報につき,自動車の調達先が,情報公開法5条3号所定の「他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれ」が生ずるいかなる内部情報を有しているのか判然とせず,前記調達先に働きかけることによって,どのような,「他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれ」が生ずる可能性があるのかも判然としないから,前記情報が情報公開法5条3号所定の情報に当たるとした1審被告の判断が妥当性を欠くことは明らかであって,裁量権を逸脱したものというべきであるが,自動車の調達先が明らかとなると,調達に係る自動車等が関係国や本邦関係者に危害を加えようとする者によるテロ行為等の標的となる可能性があり,我が国の在外関係者の安全確保を困難にするなどの外交事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるから,前記情報は,同条6号所定の不開示情報に当たる。

(7) 本件各行政文書のうち,大規模レセプション経費に係る文書に記載された情報につき,同文書を公開せずとも,大規模レセプションの開催自体によって,もてなしの内容や招待者の氏名等は自ずから明らかとなり,それによって,相手方等はもてなしの程度等を理解し得るのであるから,前記文書を公開することによって初めて,どのような基準で招待者を選定し,どの程度のもてなしを行ったかを判断することが可能になったり,我が国の当該相手方に対する評価,見方が相手方の予想よりも低い評価と受け止められることが生じうるとは考え難いから,前記情報が情報公開法5条3号所定の情報に当たるとした1審被告の判断が妥当性を欠くことは明らかであって,裁量権を逸脱したものというべきであるが,大規模レセプションに提供する料理その他の物品やサービスを調達する業者に関する情報が公にされると,本邦関係者等に危害を加えようとする者が,テロ行為等の標的としたり,当該業者を悪用して不法に在外公館に侵入するなどの可能性があり,在外公館の安全確保を困難にするなどの外交事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるから,前記情報は,同条6号所定の不開示情報に当たる。

(8) 本件各行政文書のうち,酒類購入経費に係る文書に記載された情報につき,ワイン等の酒類の銘柄や価格は,酒類購入経費に係る文書に記録された情報に頼らずとも,当該酒類の提供を受けた者には自ずから明らかとなり,前記文書を開示することによって初めて,我が国の当該相手方に対する評価,見方が相手方の予想よりも低いと受け止められる事態が生ずるものとはいい難いから,前記情報が情報公開法5条3号所定の情報に当たるとした1審被告の判断が妥当性を欠くことは明らかであって,裁量権を逸脱したものというべきであるが,酒類を調達する業者に関する情報が公にされると,本邦関係者等に危害を加えようとする者が,テロ行為等の標的としたり,当該業者を悪用して不法に在外公館に侵入するなどの可能性があり,在外公館の安全確保を困難にするなどの外交事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるから,前記情報は,同条6号所定の不開示情報に当たる。

(9) 本件各行政文書のうち,本邦関係者が外国訪問した際の車両借上げ等の事務経費に係る文書に記載された情報につき,情報公開法5条3号所定の「他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれ」が生じるいかなる内部情報を有しているのか判然とせず,前記調達先に働きかけることによって,どのような,「他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれ」が生じる可能性があるのかも判然としないことから,前記情報が情報公開法5条3号所定の情報に当たるとした1審被告の判断が妥当性を欠くことは明らかであって,裁量権を逸脱したものというべきであるが,本邦関係者が外国訪問した際の借上げ車両等を調達する業者に関する情報が公にされると,本邦関係者等に危害を加えようとする者が,テロ行為等の標的としたり,当該業者を悪用して不法に在外公館等に侵入するなどの可能性があり,在外公館や本邦関係者の安全確保を困難にするなどの外交事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるから,前記情報は,同条6号所定の不開示情報に当たる。

4.結論

 よって,1審原告の請求はいずれも理由がないから,1審被告の控訴に基づき,原判決中1審被告敗訴部分を取り消した上,1審原告の請求をいずれも棄却し,また,1審原告の控訴は理由がないからこれを棄却する。

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