最新下級審裁判例

千葉地裁判決平成21年03月19日

【事案】

1.たくぎん抵当証券株式会社(以下「たくぎん抵当」という。)が,株式会社藤田陸運(以下「藤田陸運」という。)に対し,金銭消費貸借契約に基づき10億円を貸し付けたうえ,被告旧藤田運輸との間で,藤田陸運が金銭消費貸借取引等に基づきたくぎん抵当に対して負担する債務につき5億円を限度とする保証契約を交わしたところ,その後,上記10億円の貸金債権を譲り受けた原告が,被告旧藤田運輸に対し,上記保証契約に基づく全部請求として3億円の保証債務の履行を求めるとともに,被告新藤田運輸に対し,主位的主張として,商号を続用した営業譲受人の責任(平成17年法律第87号による改正前の商法(以下「旧商法」という。)26条1項)に基づき,また,予備的主張として,法人格否認の法理に基づき,同じく上記保証契約に基づき3億円の保証債務の履行を求めた事案。
 なお,本訴係属中に,原告から上記3億円の貸金債権を含む原告の貸金債権全部を譲り受けたと主張して,参加人が訴訟参加し,原告が訴訟脱退の申出をしたが,被告らは,原告の脱退につき承諾しなかったものである。

2.事実関係

(1) 当事者等

ア.原告は,貸付金債権及びその担保の取得,運用,処分等を目的とする,ケイマン諸島法に準拠して設立された会社であり,参加人は,会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律2条の特例有限会社である。

イ.被告旧藤田運輸は,昭和40年2月12日に「株式会社藤田運輸」の商号で千葉県成田市ab番地cを本店所在地として設立された,一般貨物自動車運送事業等を目的とする株式会社であり,Dが代表取締役であったが,平成16年8月20日,本店所在地を千葉市d区ef丁目g番h号に移転し,同年9月1日,株主総会の決議により解散した。

ウ.被告新藤田運輸は,平成13年7月3日に「成田エアポートサービス株式会社」の商号で千葉県四街道市ij番地のkを本店所在地として設立された,損害保険代理業,一般貨物自動車運送事業等を目的とする株式会社であり,Aが代表取締役であったが,平成16年5月20日,商号を「株式会社藤田運輸」に変更し,同年6月15日に被告旧藤田運輸の取締役であったBが新たに代表取締役に就任したうえ,平成17年2月25日,本店所在地を千葉市d区el丁目m番n号に移転したものである。

エ.藤田陸運は,平成元年7月10日及び平成3年12月17日の各当時,被告旧藤田運輸の現在の本店所在地と同一の住所地に本店を置き,Cが代表取締役を務めていた。

オ.株式会社藤田組(以下「藤田組」という。)は,平成元年7月10日当時,被告旧藤田運輸の現在の本店所在地と同一の住所地に本店を置き,不動産等の賃貸業等を営んでいたもので,Dが代表取締役を務めていた。

カ.Dは,被告旧藤田運輸及び藤田組のほか,バイエルン(自動車販売業),藤田空港観光(観光バス事業)の代表取締役も務めていたが,成田エアポートサービス株式会社は,このバイエルンの元取締役であり,藤田空港観光の元監査役であったAが,Dと相談のうえ,被告旧藤田運輸関係の自動車を対象とする保険業務を行うことを目的として,平成13年7月3日に設立したものであり,本店所在地はAの自宅であったが,実際の事務所は,被告旧藤田運輸の本店所在地の事務所内にあり,賃料等も支払われていなかった。

(2) 本件金銭消費貸借契約の締結

 たくぎん抵当は,平成元年7月10日,藤田陸運との間で,「金銭消費貸借抵当権設定契約書」(以下「本件金銭消費貸借契約書」という。)を交わし,概ね以下の約定で10億円を貸し付けた(以下「本件金銭消費貸借契約」といい,これに基づく債権債務を「本件貸金債権」,「本件貸金債務」という。)。

最終弁済期  平成4年7月8日(元金一括)

利息利率  年6.4パーセント(但し変動金利),毎年1月,4月,7月及び10月の各月8日に3か月分の利息を前払いにより支払う

遅延損害金  年18パーセント(年365日の日割計算)

期限の利益の喪失  藤田陸運が債務の一部でも履行を遅滞したときは,たくぎん抵当の請求によって,本件貸金債務についての期限の利益を失い,直ちに同債務を弁済する

 これとともに,藤田組及びCは,たくぎん抵当との間で,本件金銭消費貸借契約書により,藤田陸運が本件金銭消費貸借契約に基づいて負担する一切の債務について,藤田陸運と連帯して保証する保証契約を締結し,更に,藤田組は,たくぎん抵当との間で,藤田組が所有する不動産(土地3筆,事務所等3棟)について抵当権を設定する抵当権設定契約を締結し,たくぎん抵当のために抵当権設定登記がなされた。

(3) 本件保証契約の締結

 藤田陸運は,平成3年10月8日,本件金銭消費貸借契約に基づく利息の支払を怠ったことがあった。そこで,たくぎん抵当は,同年12月17日,藤田陸運,C,被告旧藤田運輸及びEとの間で「根抵当権設定契約証書」(以下「本件契約書」という。)を交わし,藤田陸運を債務者とする a 金銭消費貸借取引による債権及び b たくぎん抵当が取得する手形上・小切手上の債権を担保するため,藤田陸運,被告旧藤田運輸及びEについて,同人らが各所有する合計36筆の土地(藤田陸運につき6筆,被告旧藤田運輸につき29筆,Eにつき1筆)を共同担保として,極度額を5億円とする根抵当権(以下「本件根抵当権」という。)を設定する根抵当権設定契約を締結し(以下「本件根抵当権設定契約」という。),上記abの取引によって藤田陸運が負担する一切の債務について,C,被告旧藤田運輸及びEが,藤田陸運と連帯して,5億円を限度として保証する保証契約を締結した(以下「本件保証契約」といい,これに基づく債権債務を「本件保証債権」,「本件保証債務」という。)。
 本件契約書では,本件根抵当権の被担保債権の範囲について,「a 金銭消費貸借取引による債権,…c 貴社が取得する手形上・小切手上の債権」(第1条)とする旨が,また,本件保証契約について,「a 保証人は,債務者が第1条に規定する取引によって貴社に対し負担するいっさいの債務について金5億円を限度として,本人と連帯して保証債務を負い,その履行についてはこの約定に従います。…c 保証人が保証債務を履行した場合,代位によって貴社から取得した権利は,債務者と貴社との取引継続中は,貴社の同意がなければ行使しません。もし,貴社の請求があれば,その権利または順位を貴社に無償で譲渡します。」(第13条)とする旨が,それぞれ定められていた。

(4) 本件不動産競売の申立て及び同開始決定

 たくぎん抵当は,藤田陸運が本件金銭消費貸借契約に基づく利息の支払を怠ったことから,平成4年3月6日到達の書面により藤田陸運に対して本件貸金債務の履行を請求し,もって本件貸金債務について期限の利益を喪失させた。
 そこで,たくぎん抵当は,本件根抵当権に基づき,千葉地方裁判所佐倉支部に対し,前記合計36筆の土地について,担保権の実行としての不動産競売(以下「本件不動産競売」という。)を申し立て,平成5年11月2日,不動産競売開始決定を得た(同裁判所佐倉支部平成5年(ケ)第269号,後の千葉地方裁判所平成12年(ケ)第55269号)。同決定正本は,同年12月15日,藤田陸運に送達された。

(5) 本件貸金債権の譲渡及び同通知

ア.たくぎん抵当は,平成9年11月19日午後6時45分,札幌地方裁判所により破産宣告を受け,弁護士2名が破産管財人に選任されたところ,同管財人は,平成13年10月25日,ニッポン・キャピタル・パートナーズ・スリー・エルエルシー(以下「スリーエルエルシー」という。)に対し,本件貸金債権を譲渡し(以下「本件第1譲渡」という。),平成14年3月15日,千葉地方裁判所に対し,上記不動産競売事件について申立人の地位をたくぎん抵当の破産管財人からスリーエルエルシーが承継した旨の不動産競売申立人変更届を提出するとともに,同年9月5日午後6時から同12時までの間に,藤田陸運に対し,東京中央郵便局から,東京都昭島市o町pq−rに宛てて,書留内容証明郵便により「債権譲渡通知書」を発送したが,上記不動産競売申立人の変更届及び債権譲渡通知は,いずれもハドソン・ジャパン債権回収株式会社(東京都港区st丁目u番v号w)が行った。

イ.スリーエルエルシーは,平成14年4月10日,原告に対し,本件貸金債権を譲渡するとともに(以下「本件第2譲渡」という。),藤田陸運に対し,同年9月5日午後6時から同12時までの間に,藤田陸運に対し,同じく,東京中央郵便局から,東京都昭島市o町p−q−rに宛てて,書留内容証明郵便により「通知書」を発送し,同通知は,翌6日,藤田陸運に到達した。

ウ.原告は,平成14年4月19日,コンテナー・フレイト・ステーション成田株式会社(以下「コンテナー」という。)に対し,本件貸金債権の元本のうち4億円並びにこれに対する利息債権及び遅延損害金債権を譲渡した(以下「本件第3譲渡」という。)。

エ.コンテナーは,平成15年12月25日,原告に対し,本件第3譲渡により取得した本件貸金債権の元本のうち4億円並びにこれに対する利息債権等のうち2億円並びにこれに対する利息債権及び遅延損害金債権を再び譲渡(本件第4譲渡)したうえ,藤田陸運及び被告旧藤田運輸に対し,それぞれ平成16年1月8日,同月9日各到達の「通知書」によりその旨を通知した。
 また,原告及びコンテナーは,平成14年4月23日,それぞれ本件第2譲渡ないし本件第3譲渡を原因として,藤田陸運の所有にかかる土地(6筆)につき,本件根抵当権移転の附記登記を受けるとともに,本件不動産競売につき,債権者地位承継の申立てをした。

(6) 本件不動産競売に基づく配当

 コンテナーは,平成14年7月2日,本件不動産競売において,本件第3譲渡により取得した本件貸金債権元本4億円につき,藤田陸運の所有にかかる土地から33万7452円,被告旧藤田運輸の所有にかかる土地から1億7289万5724円,合計1億7323万3176円の配当を受けたが,原告は,本件貸金債権元本6億円について配当を受けるに至らないまま,本件不動産競売手続は終了した。

(7) 本件営業譲渡

ア.被告旧藤田運輸の経営状況等

 被告旧藤田運輸は,昭和62,3年ころに約16億円もの負債を抱え,平成13年ころには上記負債に関連する金融会社であるダイキから債権差押えを受け,これについては平成14年3月28日,7600万円の支払等を内容とする和解等により解決を図ったものの,なお,その関係の負債が約8億円も残ったため,銀行借入れも困難な状況にあったうえ,平成15年9月ころからは運送業の規制緩和により売上げも減少していた。
 そのような中,藤田陸運において,平成14年9月6日,ダイキの関連会社と認識していた原告(なお,原告の日本における代表者であるTは,ダイキの元従業員である)。が本件第2譲渡により本件貸金債権を取得した旨の通知を受け,更に,被告旧藤田運輸において,平成16年1月7日,上記のとおり残存していた負債に関連して原告が債権譲渡(本件第4譲渡)を受けた旨の通知も受けるに至った。

イ.被告旧藤田運輸における労使交渉等

 被告旧藤田運輸は,平成16年3月20日ころ,同年4月1日稼働分からの乗務手当を減額ないし一時廃止する旨の「賃金見直しについて」と題する3月16日付け書面を社内に掲示したうえ,同月22日及び23日,「賃金見直しの説明会」を実施し,上記見直しのほか,同年4月1日からは調整給,勤続給も廃止する旨を発表したところ,これに反対する従業員らが「藤田運輸賃下げに反対する会」を結成して集会を催し,同年4月9日ころには,労働基準監督署に対して,賃金に関する就業規則の変更届を受理しないよう申し入れるなどに及んだ。
 被告旧藤田運輸は,平成16年4月9日,全日本建設交運一般労働組合藤田運輸分会と団体交渉を行ったが,同年6月7日,新たに組織された「交通運輸一般労働組合本部藤田運輸支部」(以下「交運労」という。)(14名)から結成通知及び賃金引下げに関する団体交渉申入書の提出を受け,同月14日,再度団体交渉の申入れを受けるに至った。
 そこで,被告旧藤田運輸は,平成16年6月21日,各労働組合の役員らを呼び出し,Dにおいて,社員宛の同日付け書面を読み上げたうえ,同年8月末をもって会社を閉鎖(休業)する旨を述べた。
 これに対し,交運労は,同日には被告旧藤田運輸に対して,同月29日には被告新藤田運輸に対しても団体交渉を申し入れ,被告旧藤田運輸とは団体交渉が実施できたものの,被告新藤田運輸との間では,団体交渉することができなかった。
 その後,交運労は,同月30日,再度,被告旧藤田運輸に対して団体交渉を申し入れているが,これは実現するには至らなかった。

ウ.成田エアポートサービス株式会社の商号変更等

 被告旧藤田運輸において上記のような労使交渉を続けていた中,成田エアポートサービス株式会社は,平成16年5月20日,株式会社藤田運輸(被告新藤田運輸)に商号を変更したうえ,役員も同年6月14日までに全て辞任し,その後,予め同年5月30日に被告旧藤田運輸の取締役を辞任していたBが代表取締役に,被告旧藤田運輸の営業部長であったNが取締役にそれぞれ就任した。
 また,被告旧藤田運輸が所有していた千葉県成田市ab番cの土地(被告旧藤田運輸の元本店所在地),同土地所在の事務所及び同def番gの雑種地につき,平成13年又は平成14年に被告新藤田運輸の所有権移転請求権仮登記がなされていたが,平成16年5月14日,同月9日売買を原因として上記仮登記に基づく被告新藤田運輸の所有権移転登記が経由された。更に,被告新藤田運輸の商業登記簿上の本店所在地は千葉県四街道市ij番地のkであったが,実際の事務所は,被告旧藤田運輸と同じく上記b番cの事務所であったものの,賃料は支払われていなかった。

エ.本件営業譲渡契約の締結

 そして,被告旧藤田運輸は,平成16年6月25日,被告新藤田運輸との間で,「一般貨物自動車運送事業の譲渡し及び譲受け契約書」を交わして,車輌,機械器具,什器備品,在庫品を含む一般貨物自動車運送事業に関連する一切の資産及び権利義務を譲渡価格1551万円で譲渡する旨の契約(以下「本件営業譲渡」という。)を締結し,これにつき,同年8月12日,関東運輸局長の認可を受けたが,同契約においては,「本件事業の譲渡し及び譲受けに関する手続きが認可となりたる前日迄に発生せる未収金及び未払金は甲(被告旧藤田運輸)の権利義務とする。」(第3条)旨が定められた。

オ.従業員の移転

 被告旧藤田運輸は,平成16年7月14日ころ,被告旧藤田運輸の従業員に対し,同日付け「社員募集について」と題する被告旧藤田運輸総務部長名義の書面により,採用条件として45歳くらいまでの者,労働条件として被告新藤田運輸の会社規定に基づき支給する旨の通知をした。これに対し,被告旧藤田運輸の労働者ら22名が被告新藤田運輸の面接を受け,うち17名の採用が内定したが,内定しなかった5名は全て交運労の組合員であった。
 また,被告旧藤田運輸は,同年8月2日ころ,被告旧藤田運輸の従業員に対し,同日付け「会社閉鎖に伴うお知らせ」と題する被告旧藤田運輸総務部名義の書面により,同社を同年8月31日付けで閉鎖する旨,就職斡旋としてアルコン及び藤田興運をあげて,希望者は履歴書等を提出する旨を通知した。

(8) 原告による本件保証債務の請求

 原告は,被告旧藤田運輸に対し,平成16年7月12日到達の「催告書」により,本件保証債務のうち本件不動産競売により被告旧藤田運輸所有にかかる不動産からコンテナーに配当された1億7289万5724円を除く3億2710万4276円の履行請求をしたところ,被告旧藤田運輸は,同年9月1日,株主総会決議により解散して清算人にDを選任し,同年10月4日,その旨を登記した。

(9) 本件仮処分事件の申立て

 被告旧藤田運輸が,平成16年8月13日ころ,同月31日をもって従業員を解雇する旨の通知をしたことから,被告新藤田運輸に採用されなかった被告旧藤田運輸の労働者ら10名は,同年9月10日,千葉地方裁判所に対し,被告らを債務者として,被告旧藤田運輸から営業を譲り受けた被告新藤田運輸が被告旧藤田運輸と全く同一の商号を使用しており,被告らは実質的には同一の会社であると主張して,労働契約上の地位確認と賃金の仮払とを定める仮処分命令を申し立てた(千葉地方裁判所平成16年(ヨ)第301号。以下「本件仮処分事件」という。)。
 被告新藤田運輸は,同月27日付け債務者としての答弁書を作成して同裁判所に提出した。

(10) 被告新藤田運輸についての旧商法26条2項の免責登記

 被告新藤田運輸は,平成16年10月15日,千葉地方法務局佐倉支局に対し「商号の譲受人が譲渡人, の債務についてその責に任じない旨の登記申請」を行い,これは,その後,申請日を同年11月8日として同日に受理された。
 これにより,同日,被告新藤田運輸につき,「商号の譲渡人の債務に関する免責」として,「当会社は平成16年5月20日商号の譲渡を受けたが,譲渡人である株式会社藤田運輸の債務について責に任じない」旨の登記がなされた(以下「本件免責登記」という。)。

(11) 本訴の提起

 原告は,平成17年1月26日,被告らに対し,本訴を提起した。

(12) 本件仮処分決定

 千葉地方裁判所は,平成17年2月23日,本件仮処分事件について,本件営業譲渡が賃金引下げに反対する被告旧藤田運輸の労働者らの排除という不法な目的をもってなされたものであるから,債権者ら従業員に対する関係では違法,無効である旨判示して,債権者らが被告新藤田運輸に対し雇用契約上の地位を有することの確認と賃金の仮払を命ずる決定をした。

(13) 藤田陸運の清算
 藤田陸運は,その後,清算手続に入ったところ,ジェイ・スリー・インベストメンツの申請に基づき,平成19年10月16日,千葉地方裁判所により,U弁護士が藤田陸運の一時清算人職務代行者に選任された(平成19年(ヒ)第22号一時清算人職務代行者選任申請事件)。

(14) その後の本件貸金債権の譲渡及び同通知

ア.原告は,平成19年8月22日,合同会社ジェイ・スリー・インベストメンツ(以下「ジェイ・スリー・インベストメンツ」という。)に対し,本件貸金債権(但し残元本8億円)並びにこれに対する利息債権及び遅延損害金債権を譲渡するとともに(以下「本件第5譲渡」という。),藤田陸運に対し,同年10月17日付け「債権譲渡通知書」により藤田陸運の清算人であったU弁護士にその旨を通知し,同月20日,同通知は藤田陸運に到達した。

イ.更に,ジェイ・スリー・インベストメンツは,平成19年10月31日,参加人に対し,本件第5譲渡により取得した債権を譲渡するとともに(以下「本件第6譲渡」という。),藤田陸運に対し,同日付け「債権譲渡通知書」により藤田陸運の清算人であったU弁護士にその旨を通知し,同年11月13日,同通知は藤田陸運に到達した。

(15) 被告らによる商事消滅時効の援用

 被告らは,本件貸金債務につき,原告に対し,平成19年3月15日の本件第5回弁論準備手続期日において,平成13年10月25日を起算日とする商事消滅時効を援用する旨,また,原告及び参加人に対し,平成20年5月13日の本件第12回弁論準備手続期日において,平成14年7月2日を起算日とする商事消滅時効を援用する旨の各意思表示をした。

【判旨】

1.本件保証債務の随伴性の有無

(1) 本件保証契約の性質

 たくぎん抵当及び被告旧藤田運輸との間で締結された本件保証契約について,原告及び参加人は,同契約の被担保債権が本件貸金債権のみであること等を理由に,本件保証契約の性質がいわゆる根保証契約ではなく通常の保証契約であり,それゆえ,本件貸金債権の移転に伴い本件保証債権も当然に随伴して移転している旨を主張しているので検討する。
 本件契約書は,本件保証契約について,「a保証人は,債務者が第1条に規定する取引によって貴社に負担するいっさいの債務について金5億円を限度として,本人と連帯して保証債務を負い,その履行についてはこの約定に従います。」(第13条)旨定めたうえ,第1条は被担保債権の範囲について,「a金銭消費貸借取引による債権,…c貴社が取得する手形上・小切手上の債権」旨を規定していることに鑑みれば,本件保証契約を交わす以前に既に藤田陸運において本件金銭消費貸借契約に基づく利息の支払を滞らせたことがあったなどの事情があったにせよ,本件保証契約が,本件貸金債務のみならず,たくぎん抵当と藤田陸運との間の継続的な取引関係から生ずる数多の債務も担保することを予定していたことが明らかであり,たくぎん抵当が破産宣告を受けるに至った時点で本件保証契約が担保していたものが本件貸金債権のみであったことは,結果にすぎないというべきであるから,原告及び参加人の上記主張は採用できない。

(2) 本件保証債務の随伴性

 次に,被告らは,本件保証契約は根保証であるところ,根保証には随伴性がないから,本件貸金債権がスリーエルエルシーや原告,更には参加人に移転していたとしても,本件保証債権は移転していない旨主張するので,この点について検討する。
 一般に,基本的な継続的取引関係から生ずる多数の債務を担保することを予定している保証契約においては,その基本的関係が正常に継続している間は,特別の定めがない限り,個々の主債務が移転しても保証債務は移転しないものの,基本的関係が終了した場合には,その時点で存していた債務のみを担保することに定まると解されるところであり,そうであれば,それ以後においては,主債務の移転に伴って,保証債務もまた移転していくものと解するのが相当である。
 原告及び参加人は,たくぎん抵当が本件不動産競売を申し立て,これについて開始決定がなされたことにより,本件根抵当権の被担保債権の元本が本件貸金債権のうち5億円に確定したのであるから(民法398条の20第1項1号),これによって本件保証契約における主債務の元本も確定した旨主張するので,この点についても検討するに,確かに,たくぎん抵当は,藤田陸運が本件金銭消費貸借契約に基づく利息の支払を怠ったため,本件金銭消費貸借契約における期限の利益を喪失させたうえ,本件不動産競売を申し立て,これにつき同競売開始決定を得るに至ったものであること,本件根抵当権設定契約と本件保証契約は同一の契約書により締結されていること,同契約書では本件保証契約の被担保債権につき独自の確定事由は定められていないことなどが認められるものの,これらの事情のみからでは,本件不動産競売の申立てとともに本件保証契約の被担保債権までもが直ちに確定すると解することはできないというべきであり,このことは,平成16年改正民法が,貸金等根保証契約について,担保権の実行の申立てをもって元本が確定する旨を新たに定めておきながら(465条の4第1号),「この法律の施行前に新法第四百六十五条の四各号に掲げる場合に該当する事由が生じた貸金等根保証契約であって,その主たる債務の元本が確定していないものについては,施行日にその事由が生じたものとみなして,同条の規定を適用する。」(同附則4条5項)旨の経過措置を設けていることからも伺えるというべきであるから,この点に関する原告及び参加人の主張も採用できない。
 しかしながら,本件金銭消費貸借契約を交わすことにより藤田陸運との間で金銭消費貸借取引を開始し,更に,被告旧藤田運輸らとの間でも本件根抵当権設定契約及び本件保証契約を交わすことにより,藤田陸運との間の取引関係を拡充する余地すら有するに至っていたたくぎん抵当そのものが,その後,経営破綻し,平成9年11月19日には破産宣告を受けて破産管財人が選任され,法的債務整理手続が開始された状況に陥ったのであるから,遅くとも,上記時点においては,もはやたくぎん抵当と藤田陸運との間の本件金銭消費貸借契約を含めた一切の取引関係も確定的に終了するに至ったものと解するのが相当である。
 そうであれば,本件不動産競売の申立てにより本件根抵当権の被担保債権は既に本件貸金債権のうちの5億円に確定するとともに,本件保証債権の被担保債権も,上記たくぎん抵当の破産宣告により,同じく本件貸金債権のうちの5億円に確定していたものと解される。
 よって,本件第1譲渡によりスリーエルエルシーに,本件第2譲渡により原告に,それぞれ本件貸金債権に随伴して本件保証債権も移転し,本件第3譲渡において本件貸金債権10億円のうち4億円がコンテナーに譲渡されたことにより,本件保証債権は,原告及びコンテナー間において本件貸金債権の額に応じて按分され,結局,原告は,本件第3譲渡の時点において,本件保証債権のうち3億円を有するに至ったものと解されるものであり,また,参加人も,上記の本件保証債権3億円が,本件第5譲渡により原告からジェイ・スリー・インベストメンツに,本件第6譲渡によりジェイ・スリー・インベストメンツから参加人へ移転したことにより,本件保証債権3億円を取得するに至ったと解されるところである。
 それゆえ,本件保証債務の随伴性に関する被告らの上記主張も,採用できないというべきである。

2.被告新藤田運輸は旧商法26条1項により本件保証債務を負うか

(1) 旧商法26条1項の適用

ア.商号の続用の有無

 被告らは,被告新藤田運輸は本件営業譲渡前に既に「株式会社藤田運輸」の商号を使用していたものである以上,本件営業譲渡に伴い商号を続用した場合にあたらないなど主張するので,この点について検討する。
 確かに,被告新藤田運輸は,本件営業譲渡契約がなされた平成16年6月25日の約1か月前である同年5月20日に,既に「成田エアポートサービス株式会社」から「株式会社藤田運輸」に商号変更をしていたのであって,本件営業譲渡の直後から被告旧藤田運輸の商号を続用した場合には直ちにはあたらないと解される。
 しかしながら,そもそも,旧商法26条1項が,商号の続用の場合における営業譲受人の責任を規定したのは,譲渡人の債権者は営業譲渡により営業の主体が交替したことを知らないか,あるいは,知っていても自己に対する債務もまた譲受人がこれを引き受けたものと信頼するのが通常の事態であることなどによるものと解されるところ,このような債権者の信頼は,営業譲渡直後から譲受人が従前の商号を新たに使用する場合と,営業譲渡の直前から予め譲受人が譲渡人と同一の商号を使用していた場合とで異ならないというべきであり,このように解しても,従前から同一の商号を使用していた譲受人は遅滞なく免責登記を行うことによりその責めを免れることができるのであるから不可避的な負担を負わせることにはならないというべきである。
 そのうえ,本件についてみるに,被告新藤田運輸は,被告旧藤田運輸の業績が悪化していたため人件費の削減を試みたところ,労働組合等から激しい反発を受けたことから,賃金引下げに反対する労働者を除いたその余の人的財産や商号,取引先,社屋,車輌,什器備品等の営業財産を含む事業全体を一体的に譲渡させるという正当とは言い難い目的のために,予め成田エアポートサービス株式会社において被告新藤田運輸に商号を変更させたうえ,これとの間で本件営業譲渡に及んだにすぎないのであるから,以上のような事情に鑑みても,本件営業譲渡については,被告新藤田運輸につき,旧商法26条1項の商号の続用があったと認めるのが相当である。よって,この点に関する被告らの主張も採用できない。

イ.同条項の趣旨との関係

 更に,被告らは,上記のとおり商号の続用にあたるとしても,原告はそもそも不良債権の回収を業とするサービサーであり,本件保証債権も既に被告旧藤田運輸の所有する物件につき本件不動産競売が申し立てられているような不良債権であることを熟知しながらこれを譲り受け,かつ,原告自身が上記競売事件の競売申立人の地位を承継して,自ら積極的に債権回収に及んでいたものであって,営業譲渡人が本件営業を継続しているかのような外観を信頼して取引を継続したり,債権の保全手続をとらずにいるような一般債権者とは到底いえないのであるから,旧商法26条1項を適用する必要はない旨を主張しているところ,確かに,同条項の趣旨は,営業譲受人が商号を続用する場合,営業譲渡人の営業上の債権者が,営業主の交替があったことを知らず,営業譲受人である現営業主が自己の債務者であると考えたり,仮に営業主の交替を知っていたとしても営業譲受人による債務の引受があったと考えるのも無理からぬことが多いことに鑑み,かかる債権者の信頼を保護しようとした面も有するものの(最高裁第一小昭和47年3月2日判決民集26巻2号183頁参照),だからといって,直ちに,不良債権であることを確知しながら債権を取得し,その債権回収に努める債権者が排除されるとは到底いえず,本件は,上記のとおり本件営業譲渡によって被告旧藤田運輸の営業財産を含む事業全体を一体的に譲渡させたものであり,商号の続用を否定すべき特段の事情も認められないから,この点に関する被告らの主張も失当であって採用できない。

(2) 本件免責登記が遅滞なくなされたといえるか

 被告らは,上記のとおり,旧商法26条1項の適用があるとしても,被告らは,被告新藤田運輸は遅滞なく本件免責登記をしているから同条2項により免責される旨主張するので,この点について判断する。
 そもそも同条項の趣旨は,営業譲受人が商号を続用する場合であっても,遅滞なく免責の登記をした場合には,商号続用による営業主の同一性の外観又は債務引受の外観がその時点で打破され,同条1項の趣旨である上記外観に対する債権者の信頼の保護を考慮する必要もなくなるため,営業上の債権者一般に対して,営業譲受人の弁済義務を免れさせることとしたものであると解され,そうであれば,「遅滞なく」免責の登記をしたか否かは,営業譲渡が行われた後,客観的に免責の登記も可能となったときを起点に考慮すべきであると解されるところ,本件営業譲渡は,平成16年8月12日に関東運輸局長に認可されているが,本件に現れた全証拠によっても,同日から相当の期間において,被告新藤田運輸において,免責登記の手続をとることが不可能ないし著しく困難であったなどの客観的な事情は何ら認められないにもかかわらず,被告新藤田運輸は,同年10月15日に至って漸く千葉地方法務局佐倉支局に対して本件免責登記の申請をしたものにすぎないこと,この間,同年9月10日には本件仮処分事件の申立てがなされ,同月27日付けで被告新藤田運輸の答弁書が作成されていること,前判示のとおり,本件営業譲渡は,賃金引下げに反対する労働者を除いたその余の人的財産や商号,取引先,社屋,車輌,什器備品等の営業財産を含む事業全体を一体的に譲渡して存続させるという正当とは言い難いものであったことなどに鑑みれば,本件免責登記が「遅滞なく」なされたと評価するには到底至らないと解される。
 それゆえ,被告新藤田運輸は,本件保証債務を免れず,旧商法26条1項により,被告旧藤田運輸と連帯して同債務を負うというべきである。

3.商事消滅時効の成否

 被告らは,本件貸金債務について,本件第1譲渡がなされた平成13年10月25日,又は,遅くとも,本件不動産競売手続においてコンテナーが配当を受けた平成14年7月2日から既に5年間が経過している旨を主張して,商事消滅時効を援用するが,原告は,本訴提起時において,本件各債権譲渡につき藤田陸運に対する対抗要件を具備していたと認められ,これが消滅時効の中断事由に該当することは明らかであるから,原告が本訴提起時に対抗要件を具備していなかったことを前提とする被告らの上記主張は,いずれも採用できない。

4.本訴の請求が信義則違反又は権利の濫用にあたるか

 被告らは,ダイキが,ダイキと被告旧藤田運輸との間の和解により,7600万円及び土地を取得し被告旧藤田運輸との間で債権債務がないことを確認する一方で,その和解直後の平成14年4月に,ダイキそのものというべき原告を傀儡として本件保証債権を取得し,同債権をもって被告旧藤田運輸の一般財産にまで責任を追及するのは,上記和解に応じた被告旧藤田運輸の予期に反し不公平であるから,本訴の請求が信義則違反又は権利の濫用にあたる旨主張するが,確かに,同年3月にダイキと被告旧藤田運輸との間で,被告旧藤田運輸がダイキに7600万円を支払う旨の和解が成立したこと,原告の日本における代表者がダイキの元従業員であることが認められるものの,本件全証拠によっても,ダイキと原告が実質的に同一であり,原告が本件保証債務の履行を請求するのが不公平であって信義則に違反し権利の濫用に該当すると認めることはできないから,被告らの上記主張は採用することができない。

5.結論

 よって,その余の争点について判断するまでもなく,参加人の請求はいずれも理由があるからこれを認容し,原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却する。

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