最新下級審裁判例

名古屋地裁判決平成21年07月10日

【事案】

 新城広域事務組合(以下「本件事務組合」という。)が発注したごみ焼却施設(新城広域クリーンセンター)の建設工事(以下「本件工事」という。)の指名競争入札(以下「本件入札」という。)に際し,被告,B1株式会社(平成15年4月1日付けでB2株式会社と商号変更した。以下「B1」という。),B3株式会社(以下「B3」という。),株式会社B4(以下「B4」という。),B5株式会社(以下「B5」といい,以上の5社を「本件5社」という。)が事前に被告を受注予定者とすることを合意し,これに株式会社B6(以下「B6」という。),B7株式会社(以下「B7」という。),B8株式会社(以下「B8」といい,これら3社を「本件アウトサイダー3社」という。)が協力した(以下「本件談合」という。)結果,被告(中部支社)を代表構成員とする共同企業体(以下「被告JV」という。)が34億9650万円(税込み)(以下「本件落札価格」という。)で落札し,本件事務組合が被告JVとの間で本件落札価格で本件工事に関する請負契約(以下「本件請負契約」という。)を締結し,本件落札価格を請負代金として支払ったが,本件落札価格は,正常な想定落札価格と比較して不当に高い価格であり,被告は本件事務組合に損害を与えたとして,本件事務組合の事務を引き継いだ原告が,被告に対し,不法行為による損害賠償請求権に基づき,少なくとも,本件落札価格と想定落札価格との差額相当額分である予定価格(35億1435万円)に,本件工事の落札率(99.49パーセント)と本件5社以外の者が落札した別の工事の平均落札率(89.76パーセント)との差である9.73パーセントを乗じた金額の損害を被ったとして,3億4194万6255円及びこれに対する上記請負代金の支払が完了した日である平成12年4月10日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案。

【判旨】

1.被告は,原告の主張は,本件談合の具体的内容(日時・主体・場所・内容)を特定しておらず,不法行為に基づく損害賠償請求の要件事実の主張として不十分である旨主張する。
 しかし,まず,本件訴えの対象とされた本件事務組合の被告に対する不法行為による損害賠償請求権は,談合の対象となった工事及び当該工事の受注予定者が入札参加者間の合意により事前に決定されたこと等が主張されており,他の談合行為に関する事実と識別することが可能であるから,請求の特定に欠けるところはなく,これらの事実を主張すれば,競争原理が働かない状況下で本件工事を不正に落札したものであるということができ,請求を基礎付ける事実の主張としても十分である。
 そして,被告の主張のように,請求原因事実として,原告が,個別の工事に関する談合の日時・場所等を明確に主張することが可能な事案であれば,原告はより具体的な主張をすることができ,被告も原告の主張に対応して,防御の対象や方法がより明確になり,裁判所にとっても審理の対象がより明確になり望ましいものであるが,談合行為は入札参加者間で秘密裡に行われる性質のものであることなどに照らせば,原告が個別談合の日時・場所あるいは連絡方法を具体的に特定して主張することは極めて困難であるし,仮に上記特定がなかったとしても,被告は,個別の工事に関する諸々の状況を把握し,資料も保有しているのであって,被告において,個別の工事に関する談合がなかったことを示す間接事実などを具体的に主張立証することによって防御することが可能であるから,被告に不相当な不利益を強いるものではなく,被告の上記主張は理由がない。

2.本件工事については,本件基本合意(※@地方公共団体が建設を計画していることが判明した工事について,各社が受注希望の表明を行い,受注希望者が1名の工事についてはその者を当該工事の受注予定者とし,受注希望者が複数の工事については,受注希望者間で話し合い,受注予定者を決定する。A本件5社の間で受注予定者を決定した工事については,アウトサイダー(※本件5社以外のプラントメーカーの総称)が指名競争入札等に参加した場合には,受注予定者は,自社が受注することができるようにアウトサイダーに協力を求める。B受注予定者は,受注しようとする価格を決め,受注予定者以外の者は,受注予定者が決めた価格で受注することができるように協力する。という内容の合意)に基づき,遅くとも本件入札の実施日である平成9年12月24日以前に,被告を含む本件5社の間で,被告を受注予定者とする決定をし,被告以外の本件5社において受注予定者である被告が受注できるよう協力し,被告において本件アウトサイダー3社に協力を求め,その協力を得ることにより,競争原理が働かない状況下で本件工事を不正に落札したものであり,このような被告の行為は,本件事務組合に対する不法行為を構成するものである。

3.本件入札において,被告は,本件談合によって,本来他の指名業者との健全な競争関係を前提として決定すべき入札価格を,競争関係を意識することを全く必要とせずに,自社の利益を最大限にしながら他社との関係で最低金額となるように設定し,被告JVにおいて,最低価額で入札し,本件事務組合との間で本件請負契約を締結したことが認められる。現に,本件工事における被告JVの落札率は,99.49パーセントという著しく高い割合になっている。
 したがって,本件事務組合は,本件談合によって談合行為がなく他の指名業者との健全な競争関係を前提とした場合と比べてつり上げられた本件落札価格を前提として,被告JVと本件請負契約を締結したものと認められ,本件事務組合は,被告の前記不法行為により,公正な競争を前提とする想定落札価格と本件事務組合が本件請負契約に基づき支払った価格(本件落札価格)との差額相当分の損害を被ったというべきである。

4.本件入札において,談合が行われなかった場合に形成されたであろう公正な競争を前提とする価格(想定落札価格)は,本件入札と同一の条件の下で公正な競争を前提として入札をしないことには明らかにならないものであるところ,健全な競争入札が行われた場合における落札価格は,入札に係る具体的な工事の種類・規模・場所・内容,入札当時の経済情勢及び各社の財務状況,当該工事以外の工事の数・請負金額,当該工事に係る入札の参加者数,地域性等の多種多様な要因が複雑に絡み合って形成されるものであるから,実在しない想定落札価格を立証することは性質上極めて困難であり,談合が立証された場合の損害賠償額の予定を予め請負契約で合意しておくことが望まれるが,本件ではこのような合意はない。

5.本件においては,本件事務組合に損害が生じたことは認められるものの,仮定的事実である想定落札価格の証明は,上記のとおり極めて困難であるから,損害の性質上その額を立証することが極めて困難である場合に該当するものと認められ,民訴法248条を適用して,弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき,相当な損害額を認定すべきである。上記のとおり,健全な競争入札が行われた場合における落札価格は,多種多様な要因が複雑に絡み合って形成される上,実際に工事に要した費用など損害額の立証に役立つ証拠も被告ないし談合を行った側に偏在しているから,談合が価格形成に及ぼした影響を明らかにすることは容易なものではない。したがって,このような損害の額について高度の蓋然性を要求することは民訴法248条の趣旨を没却することになりかねない上,そもそも不法行為に基づく損害賠償請求権が,社会に生起した損害の公平な分担という見地から認められていること,民訴法248条は自由心証主義(民訴法247条)のもとにおける証明度の低減を図ったものであると解されること等に鑑みると,民訴法248条による損害額の認定に当たっては確実に発生したであろうと考えられる範囲に抑えた額に限定するのは相当でなく,訴訟上提出された資料等から合理的に考えられる中で,実際に生じた損害額に最も近いと推測できる額を認定すべきである。
 平成17年法律第35号による改正後の独禁法による課徴金の引き上げに関し,公正取引委員会が,過去の違反事例について実証的に不当利得を推計した結果によると,過去の入札談合事件における,公正取引委員会の審査開始後の落札価格の下落率を算出(公正取引委員会が立入検査を行った月に実施された入札を除いて落札価格の下落率を算出)した入札談合事件による不当利得の推計値が19パーセントであること,過去のカルテル事件を含めた場合の不当利得の推計値が売上額の16.5パーセントであり,過去の入札談合・カルテル事件の約9割の事件において不当利得の推計値が売上額の8パーセント以上であること,この推計の基となったデータは公正取引委員会の違反事件審査において発注官庁等から提供された資料等を基に作成されたものであること,それには多種多様な事件が含まれていることが認められ,前記のように不確定要素の多い中,損害額を算定するに当たっては,公正取引委員会のかかる推計結果は重要な判断資料として斟酌すべきである。これに加えて,本件においては,上記のとおり,被告は,本件談合により,競争関係を意識することを全く必要とせずに,自社の利益を最大限にしながら他社との関係で最低金額となるように設定し,また,高い情報収集能力等を駆使して,落札率を高め,被告の利益を極大化させていたこと,実際に,被告JVの落札率は99.49パーセントという著しく高い割合であったこと,本件対象期間内におけるアウトサイダーが受注した他の類似工事の平均落札率が89.76パーセントであること,本件対象期間以降に地方公共団体が指名競争入札等の方法により発注したストーカ炉の建設工事48件の平均落札率は91.9パーセントであり,そのうち本件5社が受注した工事31件の平均落札率は90.1パーセント,アウトサイダーが受注した17件の平均落札率は95. 2パーセントであること,被告は,被告JVが本件工事の受注により得た利益を原価を明らかにするなどして具体的に主張立証していないこと,その他本件に現れた一切の諸事情を考慮すれば,本件において実際に生じた損害額に最も近いと推測できる額は,契約金額の8パーセントに相当する額というべきである。
 そうすると,本件談合により本件事務組合に生じた損害は,本件請負契約の契約金額である34億9650万円の8パーセントに相当する2億7972万円をもって相当と認められる。
 そして,本件事務組合が,本件請負契約の契約代金全額の支払を終えた日については,平成12年4月10日と認めるのが相当である(被告は,答弁書(平成20年1月12日付け)2頁で平成12年4月10日までに請負金額全額の支払が完了した事実を認めていたので,同日までの支払について自白が成立しており,準備書面(1)(平成20年5月19日付け)4頁で,平成12年4月10日の支払を否認しているが,上記自白の撤回が許容される事情はない。)。
 したがって,被告は,不法行為に基づく損害賠償として,原告に対し,2億7972万円及びこれに対する請負代金の支払が完了した日である平成12年4月10日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

 

名古屋地裁判決平成21年08月07日

【事案】

 原告が発注したごみ焼却施設(弥富工場)の建設工事(以下「本件工事」という。)の指名競争入札(以下「本件入札」という。)に際し,被告,B1株式会社(平成15年4月1日付けでB2株式会社と商号変更した。以下「B1」という。),B3株式会社(以下「B3」という。),株式会社B4(以下「B4」という。),B5株式会社(以下「B5」といい,以上の5社を「本件5社」という。)が事前に被告を受注予定者とすることを合意し,株式会社B6(以下「B6」という。),株式会社B7(平成6年10月にB8株式会社を吸収合併した。以下「B7」といい,これら2社を「本件アウトサイダー2社」という。)が協力した結果,被告が249億9000万円(税込み)(以下「本件落札価格」という。)で落札し,原告が被告との間で本件落札価格で本件工事に関する請負契約(以下「本件請負契約」という。)を締結し,本件落札価格を請負代金として支払ったが,本件落札価格は,正常な想定落札価格と比較して不当に高い価格であり,被告は原告に損害を与えたとして,原告が,被告に対し,不法行為による損害賠償請求権に基づき,少なくとも,本件落札価格と想定落札価格との差額相当額分である予定価格(251億円(税込み))に,本件工事の落札率(99.56パーセント)と本件5社以外の者が落札した別の工事の平均落札率(89.76パーセント)との差である9.8パーセントを乗じた金額の損害を被ったとして,24億5980万円及びこれに対する上記請負代金の支払が完了した日である平成14年7月15日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案。
 また,原告は,これと選択的に,本件5社及び本件アウトサイダー2社(以下併せて「本件7社」という。)の上記談合行為により,本件入札は,指名競争入札の形式はとっているものの,指名競争入札の実質を全く有しない点で地方自治法234条に違反するものであり,本件入札に基づき締結された本件請負契約は無効であり,被告は,原告の損失において本件落札価格と想定落札価格との差額相当額分の利得を得ているとして,被告に対し,不当利得に基づき,24億5980万円及びこれに対する上記請負代金の支払が完了した日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている。

(参照条文)地方自治法234条

1項 売買、貸借、請負その他の契約は、一般競争入札、指名競争入札、随意契約又はせり売りの方法により締結するものとする。

3項 普通地方公共団体は、一般競争入札又は指名競争入札(以下この条において「競争入札」という。)に付する場合においては、政令の定めるところにより、契約の目的に応じ、予定価格の制限の範囲内で最高又は最低の価格をもつて申込みをした者を契約の相手方とするものとする。ただし書略。

【判旨】

 原告は,本件談合により,本件入札は,指名競争入札の形式はとっているものの,指名競争入札の実質を全く有しない点で地方自治法234条に違反するものであり,本件入札に基づき締結された本件請負契約は無効であると主張して,不当利得に基づく請求を選択的に主張しているので,上記不法行為に基づく損害賠償請求により認められる損害額を超える部分について検討するに,不当利得返還請求権の場合には利得及び損失について民訴法248条の適用ができず,また,利得及び損失の範囲が上記損害額を超えることを認めるに足りる証拠もないから,上記損害額を超える部分について,その余の点について判断するまでもなく,原告の不当利得の主張は理由がない。

 

京都地裁判決平成21年09月25日

【事案】

1.原告は,被告Aに対し,賃貸マンションの1室を賃貸し,被告Bは,被告Aの債務を連帯保証したが,被告らが約定の更新料を支払わないとして,被告Aについては賃貸借契約に伴う更新料の支払合意に基づき,被告Bについては連帯保証契約に基づき,未払更新料の支払と訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の割合の遅延損害金の支払を求めた。

2.前提事実

(1) 原告は被告, Aとの間で,平成18年3月12日,京都市a区b町c所在のdマンションe号室(以下「本件建物」という。)を下記の約定で賃貸する契約を締結し(以下,この契約を「本件賃貸借契約」という。),同年4月1日,同人に対し,本件賃貸借契約に基づき本件建物を引き渡した。

賃料  月額5万3000円(毎月25日までに翌月分を支払う。)
共益費  5000円(水道料金含む。毎月25日までに翌月分を支払う。)
契約期間  平成18年4月1日から平成20年3月31日までの2年間

(2) 本件賃貸借契約証書には,同契約が更新される場合は,法定更新,合意更新を問わず,被告Aは,原告に対し,2年ごとに更新料として賃料の2か月分を期間満了の2か月前までに支払わなければならない旨の記載がある。
 また,被告Bが,原告に対し,本件賃貸借契約に基づき負担する一切の債務につき,本件賃貸借契約に定めた契約期間のみならず,法定更新,合意更新を問わず,更新後も連帯して保証するとの記載がある。

(3) 本件賃貸借契約の契約期間は平成20年3月31日で満了するにもかかわらず,同年1月31日までに被告らから更新料の支払はなかった。

(4) その後,被告Aは,平成20年3月21日付けの「通知書」と題する書面により,借地借家法26条1項に基づき法定更新がなされたこと,更新料の請求には応じないことを告げ,契約期間満了日である同月31日を経過した後も本件建物を占有している。

(5) 被告らは,更新料10万6000円(賃料の2か月分)を支払わない。

(6) 本件賃貸借契約証書には,本件賃貸借契約に関する紛争については,京都地方裁判所を管轄裁判所とする旨の記載がある。

3.認定事実

(1) 被告Aは昭和, 56年12月13日,京都市f区で出生し,平成18年4月,C大学大学院法務研究科に法学未修者として入学した。
 本件賃貸借契約締結当時,被告Aは,法学部卒業程度の法的知識を有していた。

(2) 本件建物は,専有面積25.75平方メートル,間取り1Kである。

(3) 本件賃貸借契約証書には,「月次科目」「月次金額」として,それぞれ「家賃」「53,000円」,「共益費」「5,000円」との記載があり,その下欄に「合計」「58,000円」との記載がある。なお,「月次科目」「月次金額」の右欄には「一時科目」「一時金額」として,「保証金」「300,000円」との記載がある。
 合計欄の下欄には,「更新料」「賃料の2ヶ月分」「更新手続料15,000円(別途消費税750円)」との記載がある。更新料欄の下欄には,「敷金控除(明渡し引)」「保証金引き(150,000円)を差し引く」との記載がある。
 これらの記載の更に下部に賃料等支払方法の記載がある。
 これらの賃借人の経済的出捐については,本件賃貸借契約証書の1ページ目にすべて記載されており,一覧性のあるものとなっている。
 同3ページ目には,本件賃貸借契約の約定が記載されているが,その3条1項では賃貸借,「期間は契約期間欄記載の通りとします。期間満了の6カ月前迄に甲(貸主)より更新拒絶の通知がない場合は,契約期間欄記載の期間と同期間継続します。」,同2項では,「法定更新・合意更新を問わず,乙(借主)は頭書規定の期間毎に,甲(貸主)に対し頭書規定の更新料及び管理会社に所定の更新手続料を期間満了の2カ月前迄に支払わなければなりません。」,同3項では,「乙(借主)の契約期間内の解約であったとしても,甲(貸主)は更新料の日割り・月割り計算による返金は一切行いません。」となっている。
 原告,被告A及び被告Bは,本件賃貸借契約証書に記名・押印をしている。

(4) 本件賃貸借契約の重要事項説明書では,「2.賃貸借期間及び更新に関する事項」の中に,「更新に関する事項」として,「2年更新とし,契約期間満了の2ケ月前迄に借主は更新料を貸主に支払うものとする。」との記載が,「更新料」として「賃料の2ヶ月分」との記載がそれぞれある。
 そして,その下部の「3.賃料及び賃料以外に授受される金銭」の中には,家賃,共益費,水道料金,保証金,保険料,仲介報酬額,仲介報酬額に係る消費税の記載はあるが,更新料の記載はない。

(5) 被告Aは,仲介業者の株式会社Dから,重要事項説明書の説明を受け,「2.賃貸借期間及び更新に関する事項」についても簡単に説明を受けた。

(6) 被告Aは,本件賃貸借契約締結当時,更新料がどのような性質のものかを考えたことはなく,更新料は,契約期間が満了し,更新するときに支払わなければならない金銭と考えており,更新料が賃貸人の収入になるのか,不動産業者の収入になるのかの認識もなかった。また,株式会社Dからも更新料がどのようなものかの説明はなかった。

(7) 被告Aは株式, 会社Dに対し,平成20年3月21日ころ,本件賃貸借契約は,平成19年9月30日の経過によって法定更新されており,更新手続は不要であること,更新に関する費用の請求には応じられないことを通知した。

(8) 生活保護の住宅扶助として更新料扶助があり,また,民事調停にも更新料の条項が定められたり,判決においても賃料3か月分相当の更新料が認められた例もある。

(9) 賃貸物件情報誌の物件案内には,更新料の表示がなされているものもある。大学生を対象とした賃貸のパンフレットにも,更新料を含めた学生生活4年間の総費用を計算した上で,1年間の平均費用を算出し,年間総費用とし,また,更新料のある物件と更新料のない物件とを掲載しているものもある。
 さらに,インターネットのホームページでも,賃貸物件について更新料の表示があるものが多く,他方,更新料の表示のないものについても問い合わせ先を検索するなどして更新料の有無やその額を調べることができるようになっているものもある。
 もっとも,賃貸住宅情報誌の中にも,更新料の記載がないものもある。

(10) 総住宅数に占める空き家の割合は,昭和38年の2.5パーセントから一貫して上昇を続けており,平成15年には12.2パーセントとなっている。他方で,賃貸物件の数は,年々上昇している。

(11) 平成19年6月の国土交通省住宅局作成の民間賃貸住宅実態調査の結果によれば,家主が更新料を徴収する主な理由としては,「一時金収入として見込んでいる」「長年の慣習」が多い。また,更新料を徴収しているのは,東京及びその近郊が多く,京都でも55.1パーセントとなっている。他方,大阪や兵庫では0パーセントである。

(12) 住宅扶助のうちの契約更新料の生活保護費は,平成18年度で5万2191件,252万5334円であり,平成19年度で5万6137件,273万8566円となっている。

(13) 国土交通省作成の賃貸住宅標準契約書には,更新料条項の記載がない。

(14) 住宅金融支援機構の賃貸住宅建設融資について,入居者との契約では更新料は設定できないこととなっている。

(15) 本件建物の近隣物件の賃料について,平米当たりの平均価格は,1500円である。

【判旨】

1.まず,本件の更新が,自動更新(合意更新)であるか,法定更新であるかが問題となるが,本件賃貸借契約書3条1項の規定にかんがみれば,同項に基づく自動更新(合意更新)であると認めるのが相当である。

2.そこで,次に本件の更新料の法的性質が問題となる。

(1) 賃貸借契約において,賃料は賃貸目的物の使用収益に対する対価として支払われるものであるところ,使用収益期間に依拠して対価としての賃料が算出され,支払われるものということができる。そうすると,賃貸借契約における賃借人から賃貸人への給付が賃料と評価されるためには,賃借人の使用収益期間に対応する形で支払額が決定され,かつ,更新後に賃貸借契約が途中で終了した場合には,使用収益に至らなかった期間に対応する更新料額は賃借人に返還されるべき性質のものでなければならないというべきである。
 本件の更新料条項は,2年更新の本件賃貸借契約について,契約期間満了の2か月前までに賃料の2か月分を支払うというものであり,契約期間内の解約について更新料の日割り・月割り計算による返金を一切行わないものであるから,使用収益期間に対応する形で支払額が決定されているわけでもなく,契約が途中で終了した場合の精算も否定するものである。
 加えて,賃借人である被告Aは,本件賃貸借契約締結当時,更新料がどのような性質のものかを考えたことはなく,更新料は,契約期間が満了し,更新するときに支払わなければならない金銭と考えており,誰の収入になるのかの認識もなかったことが認められる。賃貸人である原告についても,本件賃貸借契約証書や重要事項説明書の記載の仕方にかんがみれば,これを賃料とは別の金銭の給付と捉えているものと解するのが相当である。
 そうすると,これを賃料の一部ないし補充とみることは困難といわざるを得ない。

(2) 他方,建物の賃貸借において,賃貸人に明渡の正当事由がない限り,賃借人は何らの対価的な出捐をする必要がなく,継続して賃借物件を使用することができるが,本件建物のような居住用建物の賃貸借において,賃貸人がその使用を必要とする事情は通常想定できず,正当事由が認められる可能性はあまりないといえる。また,本件において,原告・被告がこのような認識を持って更新料に関する合意をしていたとも認めがたい。よって,本件の更新料は,更新拒絶権放棄の対価や賃借権強化の対価としての性質も有するものともいえないというべきである。

(3) 以上によれば,本件の更新料の法的性質は,賃借人(被告A)が賃貸人(原告)に対して更新時に支払をすることを約束した金銭という外なく,その対価性を認めるのは困難である。

3.以上を前提に,本件における更新料条項が消費者契約法10条に違反するか否かを検討する。

(参照条文)消費者契約法

2条 この法律において「消費者」とは、個人(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるものを除く。)をいう。
2  この法律(第四十三条第二項第二号を除く。)において「事業者」とは、法人その他の団体及び事業として又は事業のために契約の当事者となる場合における個人をいう。
3  この法律において「消費者契約」とは、消費者と事業者との間で締結される契約をいう。
4 略。

10条 民法 、商法 (明治三十二年法律第四十八号)その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項 に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

(1) 被告は消費者契約法2条1項の「消費者」に,原告は同条2項の「事業者」にそれぞれ該当し,本件賃貸借契約に同法が適用される。

(2) 次に,更新料条項は,賃貸人に対し,民法601条に定められた賃料支払義務に加えて更新料という賃借人が賃貸人に対して更新時に支払をすることを約束した金銭の支払義務を課すものであるから,民法の規定の適用による場合に比し,消費者(賃借人)の義務を加重しているものとして消費者契約法10条前段に当たる。

(3) そして,前記のとおり,更新料は賃借人が賃貸人に対して更新時に支払をすることを約束した金銭であり,賃料の一部ないし補充としての性質も,更新拒絶権放棄の対価・賃借権強化の対価としての性質も有するものとはいえず,対価性を認めるのが困難な金銭であること,本件賃貸借契約は,専有面積25.75平方メートル,間取り1Kの本件建物に対して,賃貸借契約期間2年間で月々家賃5万3000円と共益費5000円を支払うものであるところ,更新料については賃料の2か月分を支払うもので,近隣物件に比して賃料が低額であるとはいえない状況の下でかかる更新料額は決して安価なものとは言い難いこと,中途解約の場合の更新料の精算も否定するものであること,更新料条項は原告側が作成したものであり,被告らに対しては,更新料の有無やその金額は所与の条件となっており,この点に関し,原告と被告らとの間で交渉の余地があったと認められる事情もないこと,被告Aが法学部卒業程度の法的知識を有していたことを考慮しても,前記のとおりの賃貸物件に関する情報の現状や賃借人が仲介業者を通じて賃借人と契約を締結していることからすれば,事業者(原告)と消費者(被告A)との間の情報格差については大きくはないものの,全くないとまではいえないことが認められ,以上の事実にかんがみれば,更新料条項について本件賃貸借契約証書に明記がされ,仲介業者から被告Aに対しても重要事項として説明があったこと,更新料条項が無効になることによる賃貸人の不利益や少なくとも京都においては更新料が一定程度社会に定着している状況であったこと等を考慮しても,民法1条2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものとして消費者契約法10条後段にも当たるというべきである。
 そうすると,本件の更新料条項は,消費者契約法10条に反し,無効である。

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