平成21年度旧司法試験論文式
民訴法第1問参考答案

【問題】

 Xは,自転車に乗って道路を横断中,Yが運転する乗用車と接触して転倒し負傷したために,3000万円の損害を被ったと主張して,Yに対し,3000万円のうちの2000万円の損害賠償を求める訴えを提起した。この訴訟において,Yは,請求棄却を求め,事故の原因は急いでいたために赤信号を無視したXにあると主張した。裁判所は,事故はYの過失によって発生したものであり,Xの被った全損害の損害額は2500万円であるが,整備不良のためにブレーキがきかないまま自転車を運転し赤信号の道路に飛び出したXにも5割の過失があると認めた。
 裁判所は,どのような判決をすべきか。

【参考答案】

第1.訴訟物について

1.Xは、全損害は3000万円と主張しつつ、そのうち2000万円の損害賠償を求めている。そこで、上記訴えにおける訴訟物を検討する。

2.数量的に可分な権利の一部を分割して独立の訴訟物とすること(以下「一部請求」という。)の可否については、実体法上債権の分割行使が認められていること、審判対象の設定は当事者の権限である(民訴法133条2項、246条、処分権主義)こと、試験訴訟を認める必要性等から肯定すべきである。もっとも、被告に反訴の機会を与える必要もあるから、原告において一部請求であることの明示を要する。

3.本問では、Xは3000万円の損害を被ったと主張した上で、そのうちの2000万円について損害賠償を求めている。従って、一部請求であることの明示がある。

4.よって、訴訟物は、XのYに対する損害賠償請求権のうち2000万円を越えない部分である。

第2.過失相殺の可否について

1.Yは過失相殺を援用していない。裁判所はこの場合にも過失相殺をなしうるか。
 裁判所は、被害者に過失があったときに過失相殺できる(民法722条2項)。加害者が実体法上過失相殺権を取得し、これを行使するのではない。すなわち、過失相殺は訴訟において当事者の権利主張を要しない事実抗弁である。
 よって、Yによる過失相殺の権利主張がなくても、裁判所は過失相殺をなし得る。

2.次に弁論主義との関係を検討する。
 裁判所は当事者の主張しない事実を判決の基礎としてはならない(弁論主義の第1原則)。弁論主義の妥当する事実は、自由心証主義との調和の観点から、主要事実に限られる。では、過失相殺における主要事実は何か。過失は法的評価に過ぎない。これを基礎づける具体的事実が主要事実である。
 本問で、裁判所の認める整備不良の事実は、Xの過失を基礎づける具体的事実である。Yはこれを主張していない。
 もっとも、弁論主義の趣旨は当事者意思の尊重にある。従って、当事者の主張しない事実であっても、当事者にとって不意打ちとならないときは弁論主義に反しない。
 本問訴訟の主たる争点は、XY間の過失割合にある。その際、重要な判断要素は、Xが赤信号の道路に進入したかという点である。Yの主張する信号無視の事実と裁判所の認める整備不良の事実は、Xが赤信号の道路に進入したという点で共通する。他に整備不良の事実を認めることでXYへの不意打ちとなる特別の事情もない。従って、整備不良の事実を認めても当事者にとって不意打ちになるとはいえない。よって、弁論主義に違反しない。
 なお、Xの赤信号の道路への進入を認めつつYに5割の過失を認定する点は、X側が自転車である点を考慮してもやや奇異である。Yの過失内容、Xの年齢等の詳細が不明なため断定はできないが、意図的な信号無視ではない点が過大に評価された可能性もある。これはYにとって予想外かもしれない。とはいえ、これは事実の評価の問題である。少なくとも本問の事情のみでは、弁論主義違反の問題が生じるとはいえない。

3.よって、裁判所は整備不良の事実を認定して過失相殺できる。

第3.認容すべき額について

 過失相殺をする場合、その基準となる額は損害全額とすべきか、請求額とすべきか。
 前記第1のとおり、審判対象たる訴訟物の範囲は請求額に限られる。このことから形式的に考えれば請求額を基準とすべきことになる。しかし、原告が一部請求をする場合、過失相殺も考慮に入れているのが通常である。審判対象の設定が当事者に委ねられているのは、実体法上の私的自治の訴訟上の反映である。だとすれば、特別の事情がない限り原告の通常の意思を重視して損害全額を基準とすべきである。
 本問では、Xが過失相殺についても2000万円を基準とすべき意思であったとする特別の事情はない。よって、裁判所は損害全額である2500万円から5割の過失相殺を行うことになる。
 そうすると、残額は1250万円である。これは請求額を超えない。よって、上記残額の限度で請求を認容することになる。上記のような一部認容判決は、通常原告の意思に反しないし、本問でXの意思に反する事情も認められないから、民訴法246条に抵触しない。

第4.結論

 以上のとおり、裁判所は、Xの請求を1250万円の限度で認容し、その余の請求を棄却する判決をすべきである。

以上

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