最新最高裁判例

最高裁判所第二小法廷判決平成21年11月30日

【事案】

1.本件マンションの構造等

(1) 本件マンションは,東京都葛飾区亀有2丁目所在の地上7階,地下1階建ての鉄筋コンクリート造りの分譲マンションであり,1階部分は4戸の店舗・事務所として,2階以上は40戸の住宅として分譲されている。1階の店舗・事務所部分への出入口と2階以上の住宅部分への出入口とは完全に区分されている。

(2) 2階以上の住宅部分への出入口としては,本件マンション西側の北端に設置されたガラス製両開きドアである玄関出入口と,敷地北側部分に設置された鉄製両開き門扉である西側敷地内出入口とがある。住宅部分への出入口である玄関出入口から本件マンションに入ると,玄関ホールがあり,玄関ホールの奥にガラス製両開きドアである玄関内東側ドアがあり,これを開けて,1階廊下を進むと,突き当たりの右手側にエレベーターがあり,左手側に鉄製片開きドアである東側出入口がある。東側出入口から本件マンションの敷地内に出ると,すぐ左手に2階以上に続く階段がある。

2.玄関出入口及び玄関ホール内の状況

(1) 玄関出入口付近の壁面には警察官立寄所のプレートが,玄関出入口のドアには「防犯カメラ設置録画中」のステッカーがちょう付されていた。

(2) 玄関ホール南側には掲示板と集合ポストが,北側には同ホールに隣接する管理人室の窓口があり,掲示板には,A4版大の白地の紙に本件マンションの管理組合(以下「本件管理組合」という。)名義で「チラシ・パンフレット等広告の投函は固く禁じます。」と黒色の文字で記載されたはり紙と,B4版大の黄色地の紙に本件管理組合名義で「当マンションの敷地内に立ち入り,パンフレットの投函,物品販売などを行うことは厳禁です。工事施行,集金などのために訪問先が特定している業者の方は,必ず管理人室で『入退館記録簿』に記帳の上,入館(退館)願います。」と黒色の文字で記載されたはり紙がちょう付されていた。これらのはり紙のちょう付されている位置は,ビラの配布を目的として玄関ホールに立ち入った者には,よく目立つ位置である。

(3) 管理人室の窓口からは,玄関ホールを通行する者を監視することができ,本件管理組合から管理業務の委託を受けた会社が派遣した管理員が,水曜日を除く平日の午前8時から午後5時まで,水曜日と土曜日は午前8時から正午までの間,勤務していた。

3.本件マンションの管理組合規約は,本件マンションの共用部分の保安等の業務を管理組合の業務とし,本件管理組合の理事会が同組合の業務を担当すると規定していたところ,同理事会は,チラシ,ビラ,パンフレット類の配布のための立入りに関し,葛飾区の公報に限って集合ポストへの投かんを認める一方,その余については集合ポストへの投かんを含めて禁止する旨決定していた。

4.被告人は,平成16年12月23日午後2時20分ころ,日本共産党葛飾区議団だより,日本共産党都議会報告,日本共産党葛飾区議団作成の区民アンケート及び同アンケートの返信用封筒の4種(以下「本件ビラ」という。)を本件マンションの各住戸に配布するために,本件マンションの玄関出入口を開けて玄関ホールに入り,更に玄関内東側ドアを開け,1階廊下を経て,エレベーターに乗って7階に上がり,各住戸のドアポストに,本件ビラを投かんしながら7階から3階までの各階廊下と外階段を通って3階に至ったところを,住人に声をかけられて,本件ビラの投かんを中止した(以下,この本件マンションの廊下等共用部分に立ち入った行為を「本件立入り行為」という。)。当時,被告人は,上記2(1)の玄関出入口及び玄関ホール内の状況を認識していた。

【判旨】

1.本件マンションの構造及び管理状況,玄関ホール内の状況,上記はり紙の記載内容,本件立入りの目的などからみて,本件立入り行為が本件管理組合の意思に反するものであることは明らかであり,被告人もこれを認識していたものと認められる。そして,本件マンションは分譲マンションであり,本件立入り行為の態様は玄関内東側ドアを開けて7階から3階までの本件マンションの廊下等に立ち入ったというものであることなどに照らすと,法益侵害の程度が極めて軽微なものであったということはできず,他に犯罪の成立を阻却すべき事情は認められないから,本件立入り行為について刑法130条前段の罪が成立するというべきである。

2(1) 所論は,本件立入り行為をもって刑法130条前段の罪に問うことは憲法21条1項に違反する旨主張する。

(2) 確かに,表現の自由は,民主主義社会において特に重要な権利として尊重されなければならず,本件ビラのような政党の政治的意見等を記載したビラの配布は,表現の自由の行使ということができる。しかしながら,憲法21条1項も,表現の自由を絶対無制限に保障したものではなく,公共の福祉のため必要かつ合理的な制限を是認するものであって,たとえ思想を外部に発表するための手段であっても,その手段が他人の権利を不当に害するようなものは許されないというべきである(最高裁昭和59年(あ)第206号同年12月18日第三小法廷判決・刑集38巻12号3206頁参照)。本件では,表現そのものを処罰することの憲法適合性が問われているのではなく,表現の手段すなわちビラの配布のために本件管理組合の承諾なく本件マンション内に立ち入ったことを処罰することの憲法適合性が問われているところ,本件で被告人が立ち入った場所は,本件マンションの住人らが私的生活を営む場所である住宅の共用部分であり,その所有者によって構成される本件管理組合がそのような場所として管理していたもので,一般に人が自由に出入りすることのできる場所ではない。たとえ表現の自由の行使のためとはいっても,そこに本件管理組合の意思に反して立ち入ることは,本件管理組合の管理権を侵害するのみならず,そこで私的生活を営む者の私生活の平穏を侵害するものといわざるを得ない。したがって,本件立入り行為をもって刑法130条前段の罪に問うことは,憲法21条1項に違反するものではない。このように解することができることは,当裁判所の判例(昭和41年(あ)第536号同43年12月18日大法廷判決・刑集22巻13号1549頁昭和42年(あ)第1626号同45年6月17日大法廷判決・刑集24巻6号280頁)の趣旨に徴して明らかである(最高裁平成17年(あ)第2652号同20年4月11日第二小法廷判決・刑集62巻5号1217頁参照)。所論は理由がない。

 

最高裁判所第二小法廷判決平成21年12月04日

【事案】

1.上告人らが,貸金業者である被上告人との間の金銭消費貸借契約に基づいてした弁済につき,利息制限法1条1項所定の利息の制限額を超えて利息として支払われた部分(以下「制限超過部分」という。)を元本に充当すると過払金が発生しているなどと主張して,被上告人に対し,不当利得返還請求権に基づき過払金及び民法704条前段所定の利息の支払等を求める事案。

2.事実関係の概要

(1) 上告人らは,金銭貸付業等を目的とする被上告人との間で,金銭消費貸借に係る基本契約をそれぞれ締結し,上告人X1は昭和58年11月24日から平成16年4月19日までの間,上告人X2は平成元年4月6日から平成15年12月30日までの間,被上告人から金銭を借り入れ,被上告人に対し弁済することを繰り返していた。

(2) 被上告人は,平成12年5月19日,東京地方裁判所(以下「東京地裁」という。)に対し,更生手続開始の申立てをした。当時,被上告人は,顧客との間の金銭消費貸借取引については,制限超過部分の支払があってもこれを元本に充当することをせず,約定利率による計算に基づいて残債権の額を算定する方法により債権の管理を行っていた。また,当時,被上告人には,上告人らを含め,約632万人のカード会員が存在していた。

(3) 東京地裁は,同日,保全管理命令を発するとともに,A弁護士を保全管理人に選任した。保全管理人は,カード会員の脱会を防止することを目的として,同年6月2日,東京地裁の許可を得た上で,新聞(全国紙3紙,地方紙3紙)に「ライフカードは,これまで通りお使いいただけます。」という見出しの社告(以下「本件社告」という。)を掲載した。

(4) 東京地裁は,同月30日午後5時,更生手続開始の決定(以下「本件決定」という。)をするとともに,A弁護士を管財人に選任し,更生債権の届出期間を同年8月15日までと定めた。
 制限超過部分を元本に充当すると,本件決定当時,上告人らと被上告人間の各取引においてそれぞれ過払金が発生していたが,上告人らは,上記届出期間内に更生債権の届出をしなかった。なお,過払金返還請求権を更生債権として届出をした者は,2名であった。
 債権調査の結果,更生担保権が約3010億円,優先的更生債権が約6億円,一般更生債権が約3206億円,劣後的更生債権が約2億円あることが確定した。

(5) 管財人は,営業資産が劣化すると会社の再建そのものが困難となるため,営業資産の劣化を防止するための対策を講じるとともに,スポンサーを早期に選定し,更生手続自体を早期に終結させることを目指し,その結果,平成12年10月12日には,被上告人とBとの間で,被上告人がBからの出資及び借入れ等により資金調達を行い,当該資金を原資として債権者への弁済に充てることなどを内容とするスポンサー契約が締結されるに至った。

(6) 平成13年1月31日,関係人集会において更生計画案が可決され,東京地裁は,更生計画認可の決定をし,同決定は,同年2月28日,確定した。
 更生債権等の弁済資金は,@被上告人の手元資金,ABからの株式払込金及び借入金,B被上告人の営業資産を信託銀行に信託し,信託財産を対象とする信託受益権を取得し,このうち優先受益権をいわゆる特別目的会社に譲渡し,同社から譲渡代金の支払を受ける手法(債権流動化の手法)により調達された資金によってねん出された。その結果,一般更生債権の弁済率は54.298%となった。
 そして,同年3月末,更生担保権及び更生債権に対する一括弁済が行われ,同月29日,東京地裁は,更生手続終結の決定をした。

(7) 管財人又は被上告人(以下「管財人等」という。)は,被上告人の更生手続(以下「本件更生手続」という。)において,顧客に対し,過払金返還請求権が発生している可能性があることや,更生債権の届出をしないと被上告人が当該更生債権につきその責めを免れることにつき注意を促すような措置を講じなかった。

【判旨】

1.管財人等は,本件更生手続において,顧客に対し,過払金返還請求権が発生している可能性があることや,更生債権の届出をしないと被上告人が当該更生債権につきその責めを免れることにつき注意を促すような措置を特に講じなかったというのである。
 しかし,更生計画認可の決定があったときは,更生計画の定め又は法律の規定によって認められた権利を除き,更生会社がすべての更生債権につきその責めを免れるということ(以下「失権」という。)は,更生手続の根本原則であり,平成14年法律第154号による改正前の会社更生法(以下「旧会社更生法」という。)においては,更生会社の側において,届出がされていない更生債権があることを知っていた場合であっても,法律の規定によって認められた権利を除き,当該更生債権は失権するものとされており,また,更生債権者の側において,その責めに帰することができない事由により届出期間内に届出をすることができず,追完もできなかった更生債権についても,当然に失権するものとされていた。以上のような旧会社更生法の規定の内容等に照らすと,同法は,届出のない更生債権につき失権の例外を認めることが,更生計画に従った会社の再建に重大な影響を与えるものであることから,更生計画に定めのない債権についての失権効を確実なものとして,更生手続につき迅速かつ画一的な処理をすべきこととしたということができる。
 そうすると,管財人等が,被上告人の顧客の中には,過払金返還請求権を有する者が多数いる可能性があることを認識し,あるいは容易に認識することができたか否かにかかわらず,本件更生手続において,顧客に対し,過払金返還請求権が発生している可能性があることや更生債権の届出をしないと失権することにつき注意を促すような措置を特に講じなかったからといって,被上告人による更生債権が失権したとの主張が許されないとすることは,旧会社更生法の予定するところではなく,これらの事情が存在したことをもって,被上告人による同主張が信義則に反するとか,権利の濫用に当たるということはできないというべきである。そして,このことは,過払金返還請求権の発生についての上告人らの認識如何によって左右されるものではない。

2.被上告人の保全管理人は,新聞紙上に「ライフカードは,これまで通りお使いいただけます。」という見出しで本件社告を掲載し,従前どおりの取引を継続するよう求めたというのであるが,本件社告は,カード会員の脱会を防止して会社再建を円滑に進めることを目的として行われたものであって,その目的が不当であったとはいえず,その内容も,顧客に対し更生債権の届出をしなくても失権することがないとの誤解を与えるようなものではなく,その届出を妨げるようなものであったと評価することもできない。そうすると,本件社告が掲載されたからといって,被上告人による失権の主張が信義則に反し,権利の濫用に当たるということはできない。

3.さらに,約定利率により計算をした元利金の残債権額をもって顧客との間の金銭消費貸借取引を管理していた被上告人が,これを前提としてその評価がされた営業資産をもって,資金を調達することができたことや,過払金返還請求権を更生債権として届出する者がわずかであったということが,会社の早期再建に寄与したということはできるものの,このような事情があったからといって,上記の判断が左右されるものでもない。
 そして,他に,被上告人による失権の主張が,信義則に反し,権利の濫用に当たると認められるような事情も見当たらない。

4.以上によれば,被上告人において,上告人らの過払金返還請求権が失権したと主張することが,信義則に反するとも,権利の濫用であるともいえない。

 

最高裁判所第二小法廷決定平成21年12月07日

【事案】

 被告人らは,本件事故現場である人工の砂浜の管理等の業務に従事していたものであるが,同砂浜は,東側及び南側がかぎ形の突堤に接して厚さ約2.5mの砂層を形成しており,全長約157mの東側突堤及び全長約100mの南側突堤は,いずれもコンクリート製のケーソンを並べて築造され,ケーソン間のすき間の目地に取り付けられたゴム製防砂板により,砂層の砂が海中に吸い出されるのを防止する構造になっていた。本件事故は,東側突堤中央付近のケーソン目地部の防砂板が破損して砂が海中に吸い出されることによって砂層内に発生し成長していた深さ約2m,直径約1mの空洞の上を,被害者が小走りに移動中,その重みによる同空洞の崩壊のため生じた陥没孔に転落し,埋没したことにより発生したものである。そして,被告人らは,本件事故以前から,南側突堤沿いの砂浜及び東側突堤沿い南端付近の砂浜において繰り返し発生していた陥没についてはこれを認識し,その原因が防砂板の破損による砂の吸い出しであると考えて,対策を講じていたところ,南側突堤と東側突堤とは,ケーソン目地部に防砂板を設置して砂の吸い出しを防ぐという基本的な構造は同一であり,本来耐用年数が約30年とされていた防砂板がわずか数年で破損していることが判明していたばかりでなく,実際には,本件事故以前から,東側突堤沿いの砂浜の南端付近だけでなく,これより北寄りの場所でも,複数の陥没様の異常な状態が生じていた。

【判旨】

 被告人らは,本件事故現場を含む東側突堤沿いの砂浜において,防砂板の破損による砂の吸い出しにより陥没が発生する可能性があることを予見することはできたものというべきである。したがって,本件事故発生の予見可能性を認めた原判決は,相当である。

【今井功反対意見要旨】

1.本件の最大の問題点は,本件事故発生についての予見可能性の有無である。
 具体的には,本件事故が発生した砂浜(東側突堤北方中央付近のケーソンの内側の砂浜)付近において,人の生命身体に対する危害がじゃっ起される陥没等が発生することが予見できたか否かである。第1審判決は予見可能性を否定し,被告人らを無罪としたのに対し,原判決はこれを肯定し,第1審判決を破棄して,本件を第1審に差し戻した。

2.第1審判決の認定によれば,本件事故前には,大規模な空洞が砂層中に発生しているのにその地表に何らの異状が認められないという現象が土木工学上よく知られていた一般的な現象であったとは認められないとするのが土木工学者の見解であるというのであり,原判決もこの認定自体は否定していない上,この認定を否定するに足る証拠はない。そうであるとすれば,本件事故以前に本件事故発生現場付近において陥没が発生していたか否かは,予見可能性を考えるに当たって重要なポイントとなるといわなければならない。そしてここにいう陥没とは,通常人が見て危険と感じる程度の陥没をいうことは当然であり,以下においても陥没というときはそのような意味である。
 本件の証拠関係を見ると,本件事故前は,砂浜の陥没は,南側突堤内側の砂浜に集中して発生したことは明らかであって,南側突堤内側の砂浜で陥没が発生したことについては,数多くの証拠が提出されている。そして,この陥没については,本件砂浜を管理する明石市役所や国土交通省近畿地方整備局姫路工事事務所においても何回となく対策を協議し,陥没の修復や,立入禁止の措置を執っていた。すなわち,本件海岸については,市の土木部海岸・治水課の職員が定期的にパトロールして異状があれば市役所の担当部局に報告がされていたほか,市は財団法人明石市緑化公園協会に日常管理業務を委託しており,公園協会は,警備員を配置するなどしており,異状があるとの報告があったときには,その内容を海岸・治水課に報告していたのであるが,海岸・治水課の定期パトロールや公園協会からは,南側突堤の内側砂浜に陥没が発生した旨の報告が何回となく行われ,その都度対策について協議が行われているけれども,東側突堤内側の砂浜については,その南端付近を除いては,そのような異状は報告されていないのである。
 これに反して,東側突堤の北方(本件事故発生付近の砂浜)において,本件事故以前に陥没が発生したとの証拠は,意外に乏しい。この点に関して,第1審において,5人の証人が,本件事故発生以前に東側突堤の北方で陥没があったのを見た旨を証言している。第1審判決は,これらの証言は,目撃時から証言時までの間に3年ないし4年という時間的間隔があり,陥没を見た時期や陥没発生の場所があいまいであるなど,これによっては,本件事故発生前の時点で,東側突堤北方で陥没があったことを認定するには十分でないとした。一方,原判決は,これらの証言から,平成12年夏ころから13年10月ころまでに東側突堤北方の砂浜でも複数の陥没様の異常な状態が生じていたことが推認されるとし,これと異なる第1審判決の認定には誤りがあるとする。
 このように第1審判決と原判決の認定が異なっているところ,この点は証拠の評価に係る問題であるから,当審において事実審の認定に介入することには慎重でなければならない。しかし,たまたま本件砂浜を訪れた一般市民が発見できる程度の陥没があったのにもかかわらず,常時砂浜を管理していた市や公園協会,工事事務所の職員が,長期にわたってこれを見落としたということは考えにくい。原審は,この点について何らの証拠調べをすることなく,1回の期日で結審をし,第1審の認定を覆しているのであるが,これらの証言によっては本件事故発生以前の時点で東側突堤北方で陥没があったことを認定することはできないとする第1審判決の判断は合理的な認定であって,原判断は維持できないと考える。

3.以上の認定を前提とすると,本件事故発生以前の時期において,東側突堤北方の本件事故発生現場付近の砂浜で陥没があったことが認定できない以上,本件事故発生の予見可能性は認められないとの判断には合理的な根拠があるといわなければならない。
 本件事故以前に南側突堤内側では何回も陥没が生じていたのに,東側突堤北方内側ではそれが見られなかったという事実は,その原因が何であるかは必ずしも明らかではないとしても,厳然たる事実として,重く受け止める必要がある。本件砂浜は,南に面しており,波は南側から押し寄せるのであるから,南側と東側では,突堤に当たる波の強さも異なる(南側突堤に当たる波の方が強い。)のであって,南側突堤内側で起きたことが,東側突堤内側でも時をおかずして当然に起こり得るとはいえないというべきである。

4.本件事故は,被害者にとっては思いがけない悲惨な事故であり,本件の突堤及び砂浜という工作物の設置管理の瑕疵があったことは明らかであるけれども,これによる民事責任を問うことを超えて,被告人らに刑事責任を問うに足りる程度の予見可能性があったとすることには無理があるというべきである。

戻る