最新下級審裁判例

大阪高裁決定平成21年05月11日

【事案】

1.本件の本案事件は,相手方が,本案被告との間で株式の贈与契約(以下「本件贈与契約」という。)を締結したとして,これに基づき,本案被告に対し,株式会社C(いわゆる閉鎖会社であり,株券不発行会社)の普通株式につき株式譲渡承認請求手続及びこれを停止条件とする株主名簿書換請求手続を,株式会社D(株券発行会社)の普通株式につき株券引渡しをそれぞれ求めた事案である(なお,以下,上記二つの会社を併せて「訴外会社等」,それらの上記株式を併せて「本件株式」という。)。

2.本案被告(大正15年7月9日生)は,長男相手方(昭和22年1月18日生)及び二男抗告人(昭和24年4月1日生)の母親である。本案被告の推定相続人は,相手方及び抗告人の2名である。
 本案被告は,アルツハイマー型痴呆の末期症状を示し知的能力が高度に障害されている状態にあるとの鑑定の結果に基づき,平成19年4月19日,後見開始の審判を受け,E弁護士がその成年後見人に選任された。

3.本案事件において,相手方は,平成17年8月3日ころ,本案被告との間で,本案被告の所有する訴外会社等の全株式である本件株式を相手方に贈与するとの本件贈与契約を締結した旨主張するのに対し,抗告人は,本案被告が,同年6月14日,本案被告の所有する財産全部を抗告人に相続させる旨の公正証書遺言(以下「本件遺言」という。)をした旨主張する。

4.株式会社Cは,各種デザイン及び商品企画等を業とする資本金3億6400万円の会社であり,相手方はその代表取締役,抗告人は取締役である。同社の発行済株式総数のうち,相手方及びその家族の保有する株式が36.87パーセント,抗告人及びその家族の保有する株式が30.79パーセントであり,本件贈与契約の対象とされている株式は11.96パーセントである。
 株式会社Dは,不動産の賃貸及び管理等を業とする資本金2200万円の会社であり,相手方及び抗告人はいずれもその取締役である。同社の発行済株式総数のうち,相手方及びその家族の保有する株式が44.10パーセント,抗告人及びその家族の保有する株式が38.25パーセントであり,本件贈与契約の対象とされている株式は17.64パーセントである。

5.本案事件の第1回口頭弁論期日において,本案被告成年後見人は,本案被告は,平成17年当時の状況を供述できない状態にあることから,本案被告の権利擁護のため,今後,贈与の事実及び贈与の際の本案被告の意思能力について争う予定である旨陳述し,同期日後に,抗告人に対し訴訟告知をした。同訴訟告知書には,本件訴訟は訴外会社等の経営等をめぐる相手方と抗告人との紛争の一環であるから,本件訴訟の真の解決のためには実質的な紛争当事者である抗告人に訴訟遂行を委ねなければならないし,また,抗告人は,本件贈与契約がされたとされる平成17年当時,本案被告との間で頻繁に行き来があり,本件贈与契約の事実及び本案被告の意思能力についてもよりよく主張立証をし得る旨の記載がある。抗告人が,本案訴訟の第2回口頭弁論期日前に,本案被告のために補助参加を申し出たところ,相手方はこれに対し異議を述べた。

6.原決定は,本件遺言の効力発生前には抗告人は本件株式に対して権利を有するものではなく,本件贈与契約によって,抗告人が本件遺言により取得する遺産が減少し,あるいは訴外会社等における相手方の持株比率が増加するとしても,これらは本案被告の財産処分の結果として事実上影響を受けるにすぎないから,本案被告法定代理人よりも抗告人の方が本件贈与契約締結当時の事情や本案被告の意思能力をよく知り得る立場にあったとしても,抗告人に補助参加を許すべき利害関係があるとはいえないとして,上記補助参加申出を却下した。

【判旨】

1.民事訴訟法42条所定の補助参加が認められるのは,専ら訴訟の結果につき法律上の利害関係を有する場合に限られ,単に事実上の利害関係を有するにとどまる場合は補助参加は許されない(最高裁判所昭和39年1月23日第一小法廷判決・裁判集民事71号271頁参照)。そして,法律上の利害関係を有する場合とは,当該訴訟の判決が参加人の私法上又は公法上の法的地位又は法的利益に影響を及ぼすおそれがある場合をいうものと解される(最高裁判所平成12年(許)第17号同13年1月30日第一小法廷決定・民集55巻1号30頁参照)。
 もっとも,上記法的地位又は法的利益の有無を含め,補助参加の利益が存するか否かは,訴訟当事者から異議が出された場合に限り調査されるものであり(民事訴訟法44条1項),訴訟当事者が異議を述べることなく,参加人とともに又は参加人に対して弁論等をすれば,訴訟当事者は異議権を失うとされている(同条2項)。補助参加の許否につきかかる規律がなされているのは,そもそも参加人が自己の又は自己に対する請求について審判を求める者ではなく,判決の名宛人ともならないことから,その参加の許否を職権で調査したり,あるいはいつまでも争わせたりする意義に乏しいためである。他方,参加人は,専ら,他人間の訴訟の結果の影響を受けて自己が不利益を被ることを回避するため,すなわち参加人自身の利益のために自己の名と費用で訴訟に関与する者であるから,現行法は,訴訟当事者から異議が出されたとしても,上記のような補助参加の利益さえあれば補助参加を認めることとして,参加人に訴訟関与の機会を保障しているということができる。そうすると,参加人に必要とされる上記法的地位又は法的利益の有無を判断するに当たっては,上記のような参加人の地位及び参加の許否に関する現行法の規律をも斟酌して,参加人が他人間の訴訟に関与するに値する正当な地位又は利益を有するか否かが検討されなければならないと解される。

2.本件において,抗告人は,遺留分を有する本案被告の推定相続人であるとともに,本案被告からすべての財産を相続させる旨の遺言を受けた者である旨主張するところ,確かに,推定相続人は,将来相続開始の際,被相続人の権利義務を包括的に承継すべき期待権を有するにすぎず,また,本件遺言が遺産分割方法の指定を定めたものか包括遺贈を定めたものかは措くとして,かかる遺言が存したとしても,遺言者である本案被告の生存中は,本件遺言によって抗告人は何らの権利をも取得しないものである(最高裁判所昭和30年12月26日第三小法廷判決・民集9巻14号2082頁最高裁判所昭和31年10月4日第一小法廷判決・民集10巻10号1229頁参照)。しかし,遺留分を有する推定相続人の地位も,一定の欠格事由又は廃除事由がない限り,みだりに剥奪されないという限度において法的な評価がされているものといえるし,遺言については,遺言者に撤回の自由が認められているものの,遺言者が死亡までの間に遺言を撤回し,あるいは遺贈の場合に受遺者が先に死亡しない限り,遺言者の死亡と同時に確定的にその効力が生じ,その効力については強い法的保護が与えられる。そして,本案被告と相手方との本件贈与契約が有効に締結されたとすれば,本件株式は本案被告の遺産の範囲から逸出するとともに,本件遺言も本件株式に関する部分については撤回されたとみなされることになるから,抗告人は,本件贈与契約の成否及び有効性につき重大な利害関係を有する者といえるのであって,抗告人の主張する上記地位が全くの事実上のものであるということはできない。

3.しかも,本件においては,訴訟当事者である本案被告は,アルツハイマー型痴呆により平成19年4月19日に後見開始の審判を受けており,法定代理人成年後見人によらなければ訴訟行為をすることができないし,本件贈与契約が締結されたとされる当時の事情も自ら供述することができない状況にある。同成年後見人であるE弁護士は,本件贈与契約の成否及び有効性を争う意向であるところ,同弁護士も,本件訴訟の真の解決のためには実質的な紛争当事者である抗告人に訴訟遂行を委ねなければならないし,また,本件贈与契約の成否及び本案被告の意思能力についても抗告人がよりよく主張立証をし得る旨主張している。他方,抗告人が本案事件の訴訟に補助参加しないまま本案訴訟の判決が確定した場合には,抗告人は,本案被告の包括承継人として,もはや本件贈与契約の成否又は有効性を争う余地はなくなることになる。

4.そうすると,本件贈与契約の成否及び有効性をめぐる実質的な紛争当事者は,正に抗告人であるともいい得るのであって,抗告人が本案事件の訴訟に関与することは,同訴訟の訴訟資料を充実させ,ひいては真相の究明に資するものと認められるところ,本件紛争の実態にかんがみれば,抗告人には,単に本案訴訟の証人として証言させるだけでなく,抗告人自身の利益を守るために本案訴訟で弁論する機会を与えることが,公平の理念に照らし,むしろ相当であると認められる。
 したがって,以上のような本件事情の下においては,抗告人が本案訴訟の結果につき単に事実上の利害関係を有するにすぎないとすることは相当でなく,抗告人は,本案訴訟に補助参加人として関与するに足りる法的利益を有するものと認めるのが相当である。

5.以上によれば,抗告人の本件補助参加申出は,理由があるからこれを許可すべきであり,これを却下した原決定は取消しを免れない。

 

東京高裁判決平成21年06月01日

【事案】

1.新東京国際空港(現成田国際空港,本件空港)の敷地又は周辺地に現に権利関係を有している一審原告ら10名(控訴人ら7名とその余の一審原告3名)が,滑走路Bに関する工事の完成が困難であるとして被控訴人がした滑走路B’に関する本件空港の工事実施計画の変更認可(本件空港変更認可),本件空港の航空保安無線施設の工事実施計画の変更認可(本件航空保安無線施設変更認可)及び本件空港の航空灯火の工事実施計画の変更認可(本件航空灯火変更認可)並びに延長進入表面,円錐表面及び外側水平表面(延長進入表面等)の変更指定(本件指定)の各処分は違法であるとして,前記各処分の取消しを求めた事案。

2.原審は,次の理由をもって,本件空港変更認可並びに本件航空保安無線施設変更認可及び本件航空灯火変更認可(まとめて本件航空保安施設変更認可)の各取消しの訴えについては一審原告らの訴えを却下し,本件指定の取消しの訴えについては,控訴人P1及び一審原告亡P2訴訟承継人を除く一審原告らの訴えを却下し,上記2名の請求を棄却した。

(1) 本件航空保安施設変更認可の取消しの訴えについて

 @公団は,形式的には国から独立した法人であって,実質的には国と同一体をなし,機能的には被控訴人の下部組織を構成し,広い意味での国家行政組織の一環に位置付けられるものと解すべきであり,A本件空港の設置及び管理を行うに当たって,公団が被控訴人の定めた基本計画に従わなければならないことに照らせば,本件航空保安施設変更認可は,本件空港の建設に関する被控訴人の方針と公団の工事実施計画との適合性を確保するための下級行政機関に対する上級行政機関の監督手段として行われる承認の性質を有するものであって,行政機関相互の内部的な行為と同視すべきものであり,これにより独立した法主体である公団に対し認可に係る建設工事の実施権限を新たに付与する法的効果を発生させるものではなく,また,その行為によって直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定する効果を伴うものではないというべきであるから,抗告訴訟の対象となる行政処分には該当しない。

(2) 本件空港変更認可及び本件指定の各取消しの訴えについて

 @本件空港変更認可は,昭和42年1月23日に15年改正前航空法(以下において引用する原判決中,本件に適用される航空法は「15年改正前法」をいう。)55条の3第1項に基づきなされた本件空港の工事実施計画の認可(当初認可)の告示による私権制限の及ばない範囲について付加的に私権制限を及ぼすことを目的として,公団に対し,空港施設を変更する権限を付与する行政処分であり,A本件指定は,昭和42年1月23日に15年改正前法56条の2第1項に基づきなされた延長進入表面等の指定(当初指定)の告示による私権制限の及ばない範囲について付加的に私権制限を及ぼすことを目的としてされた行政処分であるところ,原告適格については,@飛行場の範囲あるいは制限表面等の変更の許可に係る告示がされた後は,何人も,制限表面の上に出る高さの建造物等の設置等が制限されることとなるが(15年改正前法56条,49条1項,56条の2第1項,56条の4第1項,40条),本件空港変更認可及び本件指定は,制限表面等の範囲の変更を生じ,これによる私権制限の範囲を変更する法的効果をも有するものであるから,これにより新たにあるいは従前以上に制限表面等による私権制限を受ける不動産の権利者は,本件空港変更認可及び本件指定の各取消訴訟について原告適格を有するところ,一審原告らの中に,本件空港変更認可によって新たにあるいは従前以上に制限表面等による私権制限を受ける者は存在せず,また,本件指定により新たにあるいは従前以上に制限表面による私権制限を受ける者は控訴人P1と一審原告亡P2訴訟承継人のみであり,また,A(T)15年改正前法55条の3第2項が準用する法39条1項2号及び56条の3第1項の規定により保護すべきものとされている「利益」には,個人の騒音,振動等による著しい被害を受けない利益が含まれているといえるから,この利益は法律上保護されているものということができ,(U)公共用飛行場周辺における航空機騒音による障害の防止等に関する法律(騒防法)及び特定空港周辺航空機騒音対策特別措置法(騒特法)の目的並びに騒防法及び騒特法によって定められている騒音による障害の防止,補償等の措置の内容等に照らすと,15年改正前法55条の3第2項が準用する39条1項2号及び15年改正前法56条の3第1項は,騒防法8条の2の第1種区域に指定された区域又は騒特法3条2項1号の航空機騒音障害防止地区(防止地区)及び航空機騒音障害防止特別地区(防止特別地区)に居住する住民のうち,本件空港変更認可又は本件指定がされることにより,新たに又は従前以上に,騒音等による健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある者の利益を個別具体的な利益として保護する趣旨を含むものと解するのが相当であるものの,(V)滑走路B’供用による騒音の影響は当初認可当時に想定された滑走路B供用による騒音の影響に比べて小さくなるものと見込まれるから,騒防法の第1種区域に指定された区域又は騒特法の防止地区及び防止特別地区に居住する一審原告らのうち,本件空港変更認可及び本件指定がされることにより,新たに又は従前以上に,騒音等による健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある者は存在しないし,本件空港変更認可により,本件空港周辺地域の環境が明らかに激変することが見込まれる状況があると認めるに足りる証拠はない,Bしたがって,本件空港変更認可の取消しを求める訴えにつき,一審原告らはいずれも原告適格を有しないから,同訴えは不適法であり,本件指定の取消しを求める訴えは,一審原告らのうち控訴人P1と一審原告亡P2訴訟承継人が原告適格を有するが,その余の一審原告らに係る訴えは,原告適格を有しない者の訴えとして不適法である。

(3) 控訴人P1と一審原告亡P2訴訟承継人の本件指定の取消しを求める訴えについて

 本件指定は,手続的要件,実体的要件を充足し,適法である。

3.一審原告中控訴人ら7名が,原判決の取消しと本件空港変更認可及び本件航空保安施設変更認可並びに本件指定の各取消しを求めて控訴した。

【判旨】

1.本件航空保安施設変更認可の処分性の有無について

 本件航空保安施設変更認可も,本件空港変更認可と同様に,抗告訴訟の対象となる処分と解される。その理由は,次のとおりである。

(1) 抗告訴訟の対象となるべき行政庁の処分とは,行政庁の法令に基づく行為のすべてを意味するものではなく,公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち,その行為によって,直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものである。公団のような特殊法人が行政行為の名宛人となる場合において,それが国民と同様の立場で行政行為による規制ないし権限を付与されるものとして立法されているときは,このような特殊法人を名宛人とする行政行為も処分と解することになる。

(2) 被控訴人は,15年改正前法55条の3第1項に基づき,昭和42年1月23日,本件空港の工事実施計画の認可申請に対し当初認可をした。当初認可は,公団に対し本件空港の設置工事の実施権限を付与し,直接,公団の権利義務を形成する行政処分であり,抗告訴訟の対象となるものと解すべきである。また,被控訴人は,平成11年12月1日付けで,15年改正前法55条の3第1項に基づき,公団による本件空港変更認可申請を認可したものであり,これにより被控訴人が公団に対し,当初認可に加えて,本件空港の変更工事実施権限を付与したものと解すべきであるから,本件空港変更認可も,当初認可と同様に,直接,公団の権利義務を形成する行政処分であり,抗告訴訟の対象となるものと解すべきである。

(3) 被控訴人は,昭和44年10月3日,15年改正前法55条の3第1項に基づき,航空保安施設当初認可をし,これに加えて,平成11年12月1日付けで,本件航空保安施設変更認可をした。
 同法55条の3第1項は,本件空港と航空保安施設とを併記したうえ,航空保安施設の設置又は重要な変更について,本件空港におけると同様に,工事実施計画又は変更工事実施計画について被控訴人の認可を受けなければならない旨を規定している。そして,本件航空保安施設変更認可は,当初認可,航空保安施設当初認可及び本件空港変更認可と同様に,この規定に基づきなされたものである。また,同法55条の3第2項が準用する同法39条1項2号は,飛行場と航空保安施設とを併記したうえ,これらの設置が「他人の利益を著しく害することとならないものであること」を上記認可の審査事項としていることからすると,同法は,飛行場と同様,航空保安施設についても,その設置が「他人の利益」を害する場合を想定しているのであって,これらの規定及び「認可」との用語からすると,空港の設置,変更を「処分」と構成した同法(上記(2))は,航空保安施設の設置,変更についても,これを「処分」とする旨の立法政策を採用しているものというべきである。
 そうすると,本件航空保安施設変更認可は,公団に対し工事実施権限を付与した当初認可及び本件空港変更認可等と同様に,直接,公団に対して変更に係る保安施設の工事実施権限を付与する行政処分であり,抗告訴訟の対象となるものと解するのが相当である。すなわち,被控訴人が公団に対し同認可を違法に与えなかった場合は,公団は,同不認可に対して取消しの訴えを提起することができ,また,被控訴人が公団に対し,違法に航空保安施設変更認可を与えた場合は,同認可により法律上保護された利益を害される者は,当該認可の取消しを求め得るというべきである。

(4) 被控訴人は,@公団法における公団の目的,資本金の出資者,役員等の人事,業務,財務及び会計,監督等に係る各規定によると,当初認可,本件空港変更認可及び本件航空保安施設変更認可の名宛人である公団は,形式的には国から独立した法人であっても,被控訴人から強度の関与を受けることが制度的に予定されているものであって,また,本件空港の設置及び管理を行うに当たって,公団は,被控訴人が定め,公団に指示した基本計画に従わなければならないことに照らせば,本件空港の設置等に関しては,実質的には同一主体性を有し,被控訴人の下部行政機関ともいうべき関係に立ち,一般の法人とは異なる地位にあり,同法55条の3第1項の認可は監督手段としての承認の性質を有し(最二小判昭和53年12月8日(以下「成田新幹線最判」という。)参照),Aただし,当初認可及び本件空港変更認可は,上記各認可により進入表面等又は延長進入表面等の規制によって公団以外の特定の範囲の第三者に対する直接的な法的義務を課するものである(同法56条,49条)から処分性が肯定されるとした上,本件航空保安施設変更認可については,@の点に加え,第三者である国民との関係でAのような権利の制限を加えるものではない点で当初認可及び本件空港変更認可と異なるから,行政機関相互の内部的な行為と同視すべきものであり,かつ,それによって直接国民の権利義務を形成するものではないので,抗告訴訟の対象となる行政処分には該当しないと主張する。
 確かに,公団は,公団法に基づき設立された法人であり,被控訴人主張のとおり被控訴人による種々の監督を受けることは事実である。ところで,@の点は,本件空港の当初認可あるいは本件空港変更認可についても妥当することになるから,被控訴人の上記主張は,本件空港の当初認可あるいは本件空港変更認可も,実質的には,本来行政機関内の監督手段としての承認行為であるが,Aの国民の権利義務への影響を考慮して抗告訴訟の対象たる「処分」と構成したものであるということになる。しかし,公団と実質的一体性を有すると主張する国土交通省の直轄事業であれば,国民の権利義務への影響があっても(被控訴人が処分性の根拠とする物件制限(平成15年改正前法56条,49条)は国土交通大臣による飛行場の設置にも準用されている(同法55条の2)。),公団への認可(同法55条の3第1項)あるいは公団以外の者への許可(同法38条1項)に対応する処分を予定しないのに,公団については,特殊法人を設立して認可手続,認可要件を規定したことからすれば,15年改正前法は,公団を国土交通大臣と明確に区別していることは明らかである。また,航空保安施設の設置又は変更についても,飛行場の設置又は変更の場合と同一の条文に基づく認可を介在させており,現実には希有ではあっても,私権侵害が生ずる場合(同法39条1項2号)を想定しているのであって,空港工事実施計画又はその変更に係る認可の場合と異なる立法政策を採用したと解することは困難であり,A記載の物件制限の存否のみが空港と航空保安施設との各工事実施計画の認可に関する処分性の有無を決するとの主張を採用することは困難である。
 そうすると,法は,公団の飛行場設置及び変更について,認可という形式でのチェックを介在させ,これを抗告訴訟の対象とすることにより,私権との衝突(その典型が平成15年改正前法56条,49条の物件制限であることはいうまでもない。)の調整を図り,同様の趣旨から航空保安施設の設置又は変更についても,公団に対する認可を抗告訴訟の対象としたものと解すべきである。
 被控訴人が引用する成田新幹線最判は,検討対象となる公団の行為につき国の機関が指示監督する関係にある点で本件と類似するが,根拠法規を同一にする公団に対する行政処分が存在する場合の事例ではなく,本件とは事例を異にする。

2.原告適格の有無について

 控訴人らは本件空港変更認可の取消しを求める訴えについて原告適格を有するものと認められる。また,控訴人P1は本件指定の取消しを求める訴えについて原告適格を有するものと認められるが,本件航空保安施設変更認可の取消しを求める訴えについて原告適格を有する控訴人はいないと認められる。その理由は,次のとおりである。

(1) 法律上の利益を有する者の意義について

 行政事件訴訟法9条1項にいう処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは,当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり,当該処分を定めた行政法規が,不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には,このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり,当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は,当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。
 そして,処分の相手方以外の者について上記の法律上保護された利益の有無を判断するに当たっては,当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく,当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとされ,この場合において,当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては,当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌し,当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては,当該処分がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案すべきものである(同条2項参照)。
 したがって,原告適格の検討においては,まず,当該処分により侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある利益につき,当該処分の根拠となる法令及びこれと目的を共通にする関係法令の趣旨及び目的を考慮して個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解されるか否かを検討し,次いで,これが肯定されるときは,当該処分が違法である場合に害されることとなる利益,すなわち,当該処分が違法であるとして取り消された場合の事態と当該処分の効果の発生及びそれにより必然的に生ずべき事態とを対比して(当該処分の前後の利益状態を対比して),害されることとなる利益の内容,性質,態様及び程度を勘案すべきことになる。

(2)ア.制限表面による私権制限

 本件空港変更認可及び本件指定は,いずれも当初認可及びこれに係る当初指定を前提とするものであるところ,本件空港変更認可及び本件指定の前に,既に当初認可及びこれに係る当初指定の告示による私権制限の効果が生じている。したがって,本件空港変更認可及び本件指定による私権制限をもって,この各処分の取消しを求める原告適格を有する者は,当初認可及びこれに係る当初指定の告示による私権制限の効果を超えて,本件空港変更認可及び本件指定によって更に私権制限を受けることとなる者に限られる。
 控訴人らのうち,これに該当する者は,本件空港変更認可については存在せず,本件指定については,控訴人P1のみである。
 控訴人らは,当初認可及び当初指定が存在することを前提として原告適格の有無を判断することは,「第15回成田空港問題シンポジウム」において,P6調査団の提案を受けて,越智伊平運輸大臣がB,C滑走路建設計画を白紙に戻すことを受け入れたとの実体を無視したものであって,違法であり,最高裁大法廷平成17年12月7日判決(民集59巻10号2645頁)に反する,と主張する。しかし,この主張は,上記のP6調査団の提案から滑走路B’建設に至る経緯をもって,控訴人らが被控訴人あるいは公団の対応の不当ないし違法をいうものであるとしても,本件空港変更認可及び本件指定の取消しを求めるにつき,既に説示した意味での原告適格を肯定すべき理由にはならない。また,最高裁大法廷平成17年12月7日判決(民集59巻10号2645頁)は,都市計画事業の認可の取消しを求める原告適格につき,法律上保護された利益の内容を具体的に検討したものであり,上記説示がこの判例に触れるものではない。

イ.騒音等による被害

 本件空港変更認可に係る空港の供用(滑走路B’の利用開始)による騒音,振動等により著しい被害を受けない利益は,当該認可において法律上保護されるべき利益であると解される。
 ところで,本件空港変更認可の時点において,A滑走路の利用による本件空港の供用が既に開始されており,控訴人らは,これによる騒音等による生活被害を被っていたものであるから,本件空港変更認可の取消しを求める訴えの原告適格の有無は,本件空港変更認可に係る空港の供用(滑走路B’の利用開始)により新たに,又は従前以上に生ずるとされる騒音,振動等の内容,程度をもって,判断すべきことになる。なお,当初認可に係る滑走路Bの利用によっても,騒音等による生活被害が想定され,本件空港変更認可の違法性の判断においては,「変更による被害」の有無,程度を検討すべきことになるが,原告適格の有無は,違法性の判断それ自体とは異なり,処分の違法性を主張して当該処分の取消しを訴求するだけの法的関連(利益)を有するか否かという観点から決せられるべき問題であるから,本件空港変更認可による空港供用の前後において騒音,振動等による著しい被害が現に増加するおそれが認められるときは,原告適格が肯定されるべきである。
 これを本件についてみると,控訴人P8は第2種区域内に所在する建物に居住し,控訴人P9,控訴人P10,控訴人P11,控訴人P5,控訴人P12,及び控訴人P1は第1種区域内に所在する建物に居住し,いずれも,本件空港変更認可前,滑走路B’の供用がない状態での生活を享受し得たものであり,本件空港変更認可が予定した滑走路B’が用に供されるときは,これによる新たな騒音,振動等の発生が生じ,控訴人らの居住位置に照らせば,控訴人らは,本件空港変更認可が目的とする滑走路B’の供用による騒音,振動等によって著しい被害を受けるおそれがある者ということができる。
 したがって,本件空港に離着陸する航空機の墜落等による危険によって,生命,身体,財産等を害されるおそれの有無を検討するまでもなく,控訴人らは,本件空港変更認可について,その取消しを求める原告適格を有するものということができる。
 他方,本件指定は,航空機の離着陸の安全,航空保安施設の効用の確保の観点から延長進入表面等を超える建造物等の制限という公用制限を目的とするものであり(平成15年改正前法56条の2,同条の4),航空機の離着陸時の騒音を考慮要素とするものではないから,騒音,振動等により著しい被害を受けない利益は本件指定の原告適格を基礎づけるものとは解されず,また,控訴人らの主張する騒音,振動及び航空機の墜落等による危険が本件指定によりもたらされたものであると認めるべき事情はない。

ウ.本件航空保安施設変更認可の取消しを求める訴えの原告適格

 本件航空保安施設変更認可も処分と解すべきであり,この処分による保安施設の設置により「他人の利益を著しく害することとならないこと」が求められることは前記のとおりであるところ,原告適格の存否に関しては,当該保安施設の設置によって必然的に生ずる生活利益の著しい侵害も法律上保護された利益ということができると解される。
 この点につき,控訴人らは,航空保安施設は空港システムに不可欠であり,滑走路等と一体の施設であって,有事の場合には攻撃目標となるから,生命,身体の危険を生じさせ,また,航空灯火施設が夜間において周辺の広範な範囲を強度の照明で照らし出すため,控訴人らの生活を激変させ,鶏や農作物等に多大な被害を与えると主張するが,本件航空保安無線施設変更認可の対象となる施設は航空機に対して滑走路B’を巡る位置情報を提供するものであり,本件航空灯火変更認可の対象となる施設も,同様に,上空の航空機に対して灯火をもって滑走路B’を巡る位置情を提供するものであって,直接私人の生活圏を照射することを目的とするものではなく(乙23),また,有事の際には道路,橋梁を含め社会的に有用なインフラが攻撃目標になることが考えられるが,そのことが当該インフラ施設を設置することによる個人の権利侵害となるものではなく,控訴人らの主張する被害も本件空港変更認可に係る滑走路B’の供用自体によるものと解され,これを超えて本件航空保安施設変更認可の対象となる施設の設置により侵害されている具体的な利益の存在を認めるに足りる証拠はない。
 したがって,控訴人らは,本件航空保安施設変更認可について,その取消しを求める原告適格を有するものということはできない。

3.本件各処分の適法性について

 当裁判所も,本件空港変更認可,本件航空保安施設変更認可及び本件指定(以下まとめて「本件各処分」という。)は,手続要件及び実体要件において,違法とは認められないと判断する。
 なお,本件各処分は,公団に対し,本件各処分に対応する当初認可,航空保安施設当初認可及び当初指定(以下まとめて「当初各処分」という。)を前提として,変更工事をする権限を付与し,あるいは制限表面等を変更する処分であり,当初各処分による私人の利益に対する制限を超えて更に付加的にその制限を及ぼすことを目的としてなされるものであるから,実体要件のうち私権又は利益に対する制限の適否については,当初各処分による制限を超える私権又は利益の制限について,本件各処分の適否が検討されるべきことになる。
 この点につき,控訴人らは,本件空港変更認可が当初認可を前提とすることから,当初認可と本件変更変更認可がいずれも成田空港建設を目的とし,一体不可分の関係にあるとして,本件空港変更認可の違法性の判断において,当初認可の違法性をも検討すべきである旨の主張をする。しかし,いわゆる違法性の承継とは,異なる行政処分であるが,先行処分が後行処分の準備行為であったり,各処分の間に手段,結果の関係がある場合に,先行処分の取消しがされないときでも,後行処分の審査対象に先行処分の違法性の存否が含まれる場合をいうものであるところ,本件各処分は当初各処分の変更という点で,当初各処分の存在を前提とするが,当初各処分を超える変更を審査対象とし,先行処分の適法性を審査対象とするものではないから,本件各処分の違法性の判断において,当初各処分の違法性をも検討すべきものではない。なお,前提となる先行処分が無効である場合には,その変更処分は独自処分として適法といえない限り違法となるが,本件においては,当初認可及び当初指定が適法であることは,最高裁判所平成15年12月18日決定により確定しており,航空保安施設当初認可が無効であると認めるに足る証拠はない。

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