最新下級審裁判例

大阪高裁決定平成21年03月18日

【事案】

1.抗告人は,「原決定を取り消す。相手方が学校設置条例(昭和39年大阪市条例第57号)の一部を改正する条例(以下「本件改正条例」という。)の制定をもってした大阪市立A養護学校を平成21年3月31日限り廃止する旨の処分の効力を本案判決が確定するまで停止する。」との裁判を求めた。

2.本案事件は,相手方が,学校設置条例に基づき設置している特別支援学校である大阪市立A養護学校(以下「A養護学校」という。)を平成21年3月31日限り廃止することなどを内容とする本件改正条例を制定したため,同校に在学する児童・生徒及びその保護者である抗告人らが,本件改正条例によるA養護学校の廃止(以下「本件学校廃止」という。)は違法であるなどと主張して同廃止の取消しを求めた抗告訴訟であるところ,本件は,抗告人らが,本件学校廃止を定めた本件改正条例の制定は処分に該当し,同校が廃止されることにより生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があると主張して,行政事件訴訟法25条2項に基づき,相手方が本件改正条例の制定をもってした本件学校廃止の効力を上記のとおり停止することを求めた事案である。
 原決定は,本件学校廃止を定めた本件改正条例の制定行為は,抗告訴訟の対象となる処分に該当しないから,その取消しを求める本案訴訟は不適法であるといわざるを得ず,適法な本案訴訟の係属を欠く上,相手方が本件改正条例を制定してした本件学校廃止は,これ以上の疎明を欠く本件においては,違法であるとはいえないから,本件は「本案について理由がないとみえるとき」に該当するとして,抗告人らの申立てを却下したため,これを不服とする抗告人らが本件抗告に及んだものである。

【判旨】

1.当裁判所も,本件申立ては理由がないと判断するものであり,その理由は以下のとおりである。

(1) まず,本件学校廃止を定めた本件改正条例制定行為の処分性につき判断するに,条例の制定は,一般的・抽象的な法規範を定立する立法作用の性質を有するものであり,原則として個人の具体的な権利義務ないし法的利益に直接の法的効果を及ぼすものではないから,抗告訴訟の対象となる処分には該当しないが,他に行政庁の具体的な処分を経ることなく当該条例自体によって,その適用を受ける特定の個人の具体的な権利義務ないし法的利益に直接影響を及ぼすような例外的な場合には,当該条例の制定行為は行政処分に該当するとして,その取消請求が許されるものと解するのが相当である。
 しかして,原決定の認定するとおり,抗告人B,同C,同D及び同Eは,現在いずれもA養護学校に在学し,その親権者である抗告人F及び同Gは,大阪市教育委員会から抗告人Bほか3名が就学すべき学校としてA養護学校を指定する旨の通知をそれぞれ受け,これによって抗告人Bほか3名と相手方との間には,A養護学校という特定の公の施設の利用関係としての在学関係が設定されていると解されること,相手方は,本件改正条例による改正前の学校設置条例(昭和39年大阪市条例第57号)によって10校の特別支援学校を設置しているところ,A養護学校は,新学則による廃止前の大阪市立養護学校学則(昭和35年大阪市教育委員会規則第11号)に基づき,唯一,病弱者を就学対象者として寄宿舎を設置している養護学校であって(同学則19条1項),大阪市内から約30キロメートル離れた場所に位置するため,遠方の地域に住所地を有する病弱な児童等(抗告人らも大阪市αないしβに住所を有する。)にとっては,寄宿舎のある同校において就学することについて直接の利害関係があることがそれぞれ認められ,これらの事実に照らすと,抗告人らは,具体的にA養護学校において,教育を受けたり受けさせる権利ないし法的利益を有すると認めるのが相当である。
 そして,原決定の説示するとおり,本件改正条例は,A養護学校の廃止をその内容とするものであるから,同条例が施行されれば,大阪市教育委員会の抗告人F及び同Gに対する前記指定通知の撤回等の具体的な処分を待つまでもなく,抗告人Bほか3名と相手方との間の上記在学関係は終了することになり(ただし,抗告人Cは,平成▲年▲月▲日に出生し,現在A養護学校中学部第○学年に在学しているから,本件改正条例の施行の有無にかかわらず,平成21年3月末日の経過をもって高等部を設置していない同校に係る相手方との間の在学関係は終了するものと解される。),その結果,抗告人らはA養護学校に就学し,又は就学させることが不可能になるから,本件改正条例の制定により,抗告人らの上記権利ないし法的利益が具体的に侵害されることは明らかである。
 そうすると,本件学校廃止を定めた本件改正条例の制定行為は,行政庁の他の処分を待つまでもなく,抗告人らの個別・具体的な権利義務ないし法的利益に直接影響を及ぼすものであるから,抗告訴訟の対象となる処分に該当するというべきであり,上記のような直接の影響の存在を認定しながら,その処分性を否定した原決定は,この点において不当であるといわざるを得ない。

(2) しかしながら,本件において,行政事件訴訟法25条4項所定の「本案について理由がないとみえるとき」に該当するものと判断すべきことは,原決定の説示するとおりであり,この点に関する抗告人らの主張はいずれも採用することができない。
 すなわち,原決定の認定するとおり,抗告人らは,本件学校廃止によりA養護学校に在籍できなくなり寄宿舎からも退去することになるため,夜間における教育指導も期待できず,病弱者でありながら寄宿舎のないH養護学校に通学し又は通学させざるを得ないなど,抗告人らにとって少なからぬ不利益を被ることは否定できないが,他方,本件改正条例の制定をもってした本件学校廃止は,平成21年4月1日以降,既設の養護学校8校のうち病弱者対象校であるA養護学校を廃止し,肢体不自由者対象校3校をいずれも肢体不自由者に加えて病弱者を対象とする特別支援学校に再編し,そのうちH養護学校を除く2校においては病弱者に対する特別支援教育として訪問教育のみを実施するものとし,H養護学校において病弱者に対する特別支援教育を行うこととして,A養護学校の機能を大阪市内のH養護学校に移管し,これによりA養護学校について指摘されていた病弱者対象校としての難点(大阪市内から遠隔地に所在し,医療機関との連携がとりにくいこと)を克服し,併せて移管先のH養護学校を相手方における病弱者に対する特別支援教育のセンターとして機能させるという教育施策の一環として行われたものであること,本件改正条例は,抗告人らのA養護学校に係る相手方との間の在学関係を終了させることのみを目的とするものではなく,A養護学校自体を廃止することをその内容とするものであり,同校に係る在学関係を含む様々な法律関係に変動を生じさせるにとどまらず,当該地方公共団体における教育行政の組織そのものを上記のとおり変更するものであって,将来にわたって当該地方公共団体の区域内に住所を有する学齢児童・生徒及び就学予定者並びにこれらの者の保護者はもとより,教員その他の職員等,当該教育行政にかかわる者に広く適用されるものである上,H養護学校においてもA養護学校での特別支援教育と大差ない教育を受けることが可能であることがそれぞれ認められ,以上のような抗告人らを含む児童・生徒及び保護者並びに教育関係者の全体の利益を考慮すれば,抗告人らの上記不利益を考慮してもなお,A養護学校の廃止を決めた本件改正条例が,その内容において不合理なものであるとは認め難く,教育行政における裁量権を逸脱・濫用してされた違法なものであるともいえない。
 なお,抗告人らは,当裁判所平成18年4月20日判決を引用し,同判決が,公法上の契約における信義則上の義務違反を理由として慰謝料請求を認容したことをもって,本件学校廃止処分の違法性を根拠づける一事由とするが,同判決も,当該公立保育所の廃止処分そのものは適法であると判示したものであって,この点に関する抗告人らの主張も採用することができない。

2.以上によれば,抗告人らの本件申立てを却下した原決定は結論において正当であり,本件抗告は理由がないからこれを棄却する。

 

仙台地裁判決平成21年12月24日

【事案】

 原告Aの亡妻であり,原告Bの亡母であるC(以下「亡C」という。)が,うつ状態の治療のために,被告が設置する甲病院(以下「被告病院」という。)に入院していたところ,被告病院が,亡Cの適切な治療や観察を怠り,家族等への適切な指導や注意を与えないまま,漫然と外出許可を与えたことによって亡Cが自殺をしたとして,被告に対し,原告らが相続により亡Cの債務不履行に基づく損害賠償及び不法行為に基づく損害賠償を請求するとともに,固有の債務不履行に基づく損害賠償及び不法行為に基づく損害賠償を請求し,併せて上記各損害賠償請求に対する遅延損害金を請求した事案。

【判旨】

 一般的に,医療従事者は,人の生命及び健康を管理すべき立場にあるのであって,その業務の重要性に照らし,危険防止のために必要とされる最善の注意義務が要求される。
 そこで,精神科医療に求められる注意義務を検討するに,精神科医療の目的は,患者の病的障害や不安定性を種々の療法によって取り除き,かつ,可能な限り患者の自由や人権を尊重することで患者の社会復帰を目指すことにある。このような目的に照らせば,うつ病の患者には一般的に自殺傾向があることは否定できないとしても,患者の自由意思を無視して,自殺傾向が消失するまで,物理的拘束,薬物による鎮静,閉鎖された病棟での治療等,専ら自殺の防止のみを目的とした治療を行うことが好ましいとはいえない。患者の社会復帰には,自殺企図の危険性を踏まえてもなお自由かつ開放的な状態における治療が必要な場合もありうることは明らかである。
 他方で,患者が自殺を実行すれば,医療目的はおよそ達成不可能になるのであるから,自殺を回避するための適切な措置を講じることもまた重要な医療行為の内容をなすものであることは否定できない。
 このように,精神科医療においては,患者の治療と自殺の危険性という方向性を異にする事情を考慮しつつ,治療方針や治療計画等を定めなければならないのであって,これは,治療目的や患者の状態,自殺の危険の切迫性等の多様かつ複雑な事情を総合的に考慮して医学的見地から検討されるべきものである。すなわち,治療方針や治療計画等は,個々の患者の状況を前提にして,診療当時の医療水準において要求される医学的知見にしたがって判断されるべきものであって,これは医師の合理的な裁量に委ねられるものであるから,上記の裁量判断が不合理であったと認められる場合に限り,医療従事者の過失ないし債務不履行が問題になると解するのが相当である。

 

岐阜地裁判決平成21年12月16日

【事案】

 原告が,国立岐阜大学大学院修士課程在籍中,研究指導教員であった被告Aから休学を強要され,被告大学法人も,原告の被告Aの同行為を理由とした研究指導教員の変更申入れに応じなかったなどとして,被告Aに対して民法709条に基づき,被告大学法人に対して民法715条,国家賠償法1条1項,在学契約に基づく債務不履行又は民法709条に基づき,連帯して,損害賠償を求めた事案。

【判旨】

 国立大学法人は,法令上,行政処分の権限が明示されていないこと,国立大学法人について独立行政法人通則法51条が準用されず,同法人の設置,運営する大学の職員は公務員ではないこと,私立の学校法人と学生との間の在学契約と国立大学法人と学生との間の在学契約とに何らの差異も見いだせないことからすると,国立大学法人は,国家賠償法1条1項にいう「公共団体」にあたらないと解される。
 そうとすると,国立大学の職員である教員の教育活動及びこれに関連する行為が不法行為を構成する場合に,国立大学を設置,運営する国立大学法人が国家賠償法に基づく損害賠償責任を負う余地はなく,同法人は民法715条に基づく損害賠償責任を負い,また当該教員個人は不法行為の相手方に対し民法709条に基づく損害賠償責任を負うというべきである。

(参照条文)独立行政法人通則法51条

 特定独立行政法人の役員及び職員は、国家公務員とする。

 

広島高裁判決平成21年12月14日

【判旨】

1.検察官は,被告人が,本件火災から約1か月後にポリグラフ検査を受けるよう求められて激しく拒絶したことを,犯人でない者の行動として不自然であるとして,被告人が本件殺人,放火の犯人であることを推認させる事情の一つであると主張している。
 しかし,任意捜査の一環として行われるポリグラフ検査を拒絶したことにより,その者について,嫌疑の対象となった犯行の犯人であるという推認が働くなどということになれば,任意捜査であるポリグラフ検査を事実上強制することになるばかりか,結局のところ,捜査機関は,嫌疑を懸けた者に対し,ポリグラフ検査を受けるよう求めさえすれば,犯人であることを立証できるということにさえなりかねないのであって,ポリグラフ検査拒絶についての検察官の主張が相当でないことは明白である。

2.検察官は,机を叩かれたり怒鳴られたりしたことによって,I1警部補が被告人に人間として向き合っていることが分かり,それゆえにこそ両者の間に信頼関係が形成されたと認めるべきである・・・として,原判決を論難する。
 しかし,身柄を拘束されて捜査官による取調べを受けている者は,その捜査官から怒鳴られ机を叩かれることにより,捜査官に対する信頼感を形成することを認めるべきであるという主張は到底採用できない。

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