平成21年度旧司法試験論文式
刑訴法第2問参考答案

【問題】

 警察官A は, 強盗殺人の被疑事実で勾留中の甲を取り調べたが, その際, 黙秘権の告知をしなかった。甲は, 当初, アリバイを主張して犯行を否認したが, A が「犯行現場の防犯カメラにあなたの顔が写っていた。」旨の虚偽の事実を告げたところ, 甲は犯行を自白し, 被害品を友人宅に隠匿していることも供述したので, その内容を録取した供述調書@ が作成された。そこで, A は, 供述調書@ を疎明資料として捜索差押許可状の発付を受けて甲の友人宅を捜索したところ, 被害品が発見されたので, これを差し押さえた。その後, 別の警察官B が, 黙秘権を告知して取り調べたところ, 甲が犯行を再度自白したので, その内容を録取した供述調書A が作成された。
 裁判所は, 供述調書@ , 甲の友人宅で差し押さえられた被害品及び供述調書A を証拠として採用することができるか。

【参考答案】

第1.供述調書@について

1.供述調書@は甲による犯行の自白及び被害品隠匿の供述を録取したものである。従って、自白及び不利益な事実の承認(以下「自白等」という。)の任意性(刑訴法319条1項(同法322条1項ただし書で準用する場合を含む。以下同じ。))が問題となる。

2.刑訴法319条1項の第一次的な趣旨は、自白等の偏重による誤判・冤罪防止である。従って、虚偽のおそれのある自白等には任意性が認められない。
 本問で、まず犯行の自白についてみると、甲は当初アリバイを主張していた。ところが、防犯カメラに甲の顔が写っていた旨の虚偽事実の告知により自白に至った。このような場合、たとえ真実の主張であってもその維持が困難となり、弁解に窮して捜査官に迎合するおそれがある。特に、甲には黙秘権告知がされていない。そのため、甲には黙秘の選択肢が想起できない。その結果、Aの誘導のままに自白した疑いがある。よって、甲による犯行の自白には虚偽のおそれがあるから、任意性は認められない。
 なお、本問の被疑事実は強盗殺人という重大犯罪である。従って、真相解明の必要性は極めて高い。しかし、虚偽のおそれのある自白等は真相解明をかえって害するから、自白等の任意性を認めるべき理由とはなり得ない。

3.(1) 他方、被害品隠匿の供述は、Aの知りえない内容を含む。すなわち、Aが誘導できる内容ではない。そして、その後の捜索によって現に被害品が発見されている。従って、上記供述については虚偽のおそれがあるとはいえない。

(2) もっとも、刑訴法319条1項は憲法38条2項を受けた規定である。そして、憲法38条2項は、同条1項の黙秘権を担保する趣旨と解される。また、憲法31条から導かれる適正手続の原則は、自白等の採取にも妥当する。従って、虚偽のおそれのない自白等であっても、黙秘権を侵害し、又は適正手続に違反して採取された自白等は、任意性が否定され得る。
 他方、虚偽のおそれのない自白等には、一定の証拠価値がある。そして、人権保障を図るには公共の福祉の維持との衡量を要する(刑訴法1条参照)。強盗殺人のような重大犯罪においては、事案の真相究明の必要性が極めて高い。従って、本問において任意性が否定されるのは、黙秘権の侵害又は手続の違法が重大な場合に限られる。
 本問で、黙秘権不告知は刑訴法198条2項に違反する。また、虚偽事実の告知は、適正手続上適切を欠く。しかし、上記はいずれも直接的な供述強制には至らない程度のものである。よって、黙秘権の侵害又は手続の違法が重大な場合には当たらない。
 以上から、被害品隠匿の供述については任意性を認めることができる。

4.よって、裁判所は供述調書@のうち、犯行の自白に係る部分は証拠として採用できないが、被害品隠匿の供述に係る部分は証拠として採用することができる。

第2.被害品について

1.被害品は供述調書@を疎明資料とする捜索によって発見された。前記第1のとおり、供述調書@は証拠とできない部分を含む。そこで、証拠排除された資料からの派生証拠の証拠能力が問題となる。

2.証拠排除された資料に関連する派生証拠について無制限に証拠能力を認めれば、証拠排除の趣旨が没却される。もっとも、その証拠価値に照らせば、あらゆる派生証拠が排除されると解すべきではない。人権保障と公共の福祉の維持の衡量の観点から、許容することが相当でない証拠に限り排除すべきである。

3.本問では、被害品は主に任意性の認められる被害品隠匿の供述に基づいて発見されたと解され、犯行の自白との関連性は希薄である。また、被害品は強盗殺人という重大事件の解明のため重要な証拠価値を有し、被害者への還付の必要もある。そして、被害品の捜索差押手続は裁判所の令状に基づき、それ自体適法に行われた。以上から、被害品を証拠とすることが相当でないとはいえない。

4.よって、裁判所は被害品を証拠として採用することができる。

第3.供述調書Aについて

1.前記第1の2のとおり、犯行の自白は虚偽のおそれがあり、任意性が認められない。甲はこれをBに対しても反復したに過ぎない。確かに、供述調書Aを録取した時点では、Bは黙秘権を告知している。しかし、それだけで上記虚偽のおそれが解消したとはいえない。甲が既に無罪主張の意欲を失い、犯行の自白を繰り返したに過ぎない疑いを払拭できないからである。
 そうである以上、甲の再度の自白にも任意性を認めることができない。

2.よって、裁判所は供述調書Aを証拠として採用することはできない。

以上

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