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最高裁判所第一小法廷判決平成21年12月17日

【事案】

1.品川区の住民である被上告人が,政務調査費の使途を問題とする住民監査請求に係る監査に際し品川区監査委員が品川区議会における会派から任意に提出を受けた第1審判決別紙文書目録記載の文書(以下「本件文書」という。)について,品川区情報公開・個人情報保護条例(平成9年品川区条例第25号。平成19年品川区条例第34号による改正前のもの。以下「本件条例」という。)に基づき,本件文書に係る情報公開の実施機関である同委員に対してその公開を請求したところ,公開の可否決定に関する権限を委任された品川区監査委員事務局長から,本件文書に記録された情報が本件条例8条6号所定の非公開情報に該当するとして,平成19年6月7日付けで非公開決定(以下「本件決定」という。)を受けたため,その取消し及び本件文書の公開決定の義務付けを求める事案。

2.事実関係等の概要は,次のとおりである。

(1) 本件条例8条は,「実施機関は,公開請求があったときは,公開請求に係る行政情報に次の各号に掲げる情報(以下「非公開情報」という。)のいずれかが含まれている場合を除き,公開請求をした者(中略)に対し,当該公開請求に係る行政情報を公開しなければならない。」と定め,その6号アにおいて,次のとおり規定している。

「6号 実施機関等が行う事務または事業に関する情報であって,公にすることにより,次に掲げるおそれその他当該事務または事業の性質上,当該事務または事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの

ア.監査(中略)に係る事務に関し,正確な事実の把握を困難にするおそれまたは違法もしくは不当な行為を容易にし,もしくはその発見を困難にするおそれ」

(2) 品川区(以下「区」という。)は,地方自治法(平成20年法律第69号による改正前のもの)100条13項及び14項の規定を受けて,品川区議会における政務調査費の交付に関する条例(平成13年品川区条例第5号。平成18年品川区条例第49号による改正前のもの。以下「政務調査費条例」という。)を制定して,品川区議会(以下「区議会」という。)における会派に対し,議員の調査研究活動(以下「政務調査活動」という。)に資する必要な経費の一部に充てるため,当該会派の所属議員数に応じた金額の政務調査費を四半期ごとに交付するものとしている。
 政務調査費条例は,議長において政務調査費の使用に係る使途基準を定め(6条1項),会派は,その使途基準を遵守し,政務調査費を区政に関する政務調査活動に資する必要な経費以外の経費に充ててはならないものとしている(同条2項)。これを受けて,品川区議会における政務調査費の交付に関する規程(平成13年品川区議会議長訓令第1号。平成18年品川区議会議長訓令第1号による改正前のもの。以下「政務調査費規程」という。)は,政務調査費の使途基準を具体的に定めている(3条,別表)。
 他方,政務調査費条例は,会派の経理責任者は,政務調査費の収支について会計帳簿を調製し,その内訳を明確にするとともに,領収書等を整理しなければならず(7条2項),また,会派の代表者は,当該政務調査費に係る収入及び支出の報告書(以下「収支報告書」という。)を毎四半期が終了する都度,議長に提出しなければならないものとしている(8条1項)。そして,これを受けて,政務調査費規程は,収支報告書の様式を定めるとともに,収支報告書を提出する際に添付しなければならない明細書の様式を定めている(5条,第4号様式,第5号様式)。もっとも,その様式を見ると,支出の金額や内容を科目ごとに概括的に記載すべきものとされているにとどまり,個々の支出に係る政務調査活動の目的や内容等を具体的に記載すべきものとはされていない。

(3) 区は,平成13年度ないし同17年度において,区議会の会派である品川区議会公明党(以下「本件会派」という。)に対し,政務調査費条例に基づき政務調査費を交付した。

(4) 被上告人ほか4名は,平成19年3月,品川区監査委員(以下「区監査委員」という。)に対し,本件会派が交付を受けて視察旅行等の経費に充てた政務調査費に政務調査費条例及び政務調査費規程の定める使途制限の違反があるとして,これを返還させることなどを求める住民監査請求をした。
 区監査委員は,上記請求に係る監査を行うに当たり,請求人等から証拠の提出及び陳述を受けたほか,区議会事務局から説明及び関係書類の提出を受け,本件会派からも説明を受けた。また,区監査委員は,本件会派に対し,平成17年度に交付を受けた政務調査費のうち視察調査に充てられたものについて,必要項目(@支出年月日,A支出の相手方,B相手方の業態,C支出金額,D領収書宛名,E政務調査活動の目的及び性格,F行き先,G宿泊地,H調査日,I政務調査活動の詳細な内容並びにJ区議会議員参加者及び同行参加者の人数。以下,単に「@の事項」などということがある。)について記載欄を設けた書式を用い,個別の支出ごとにその記載を求めたところ,本件会派は,その該当欄に記入をして,これを区監査委員に提出した(これが本件文書である。)。上記のうち,EIJ以外の事項は,情報公開されている本件会派の収支報告書等から判明するものであったが(なお,被上告人は,上記の政務調査費に係る収支報告明細書,領収書等を本件の証拠として提出している。),EIJの各事項は,本件会派から任意の協力が得られない限り,区監査委員が情報を入手すること自体困難なものであった。

(5) 区監査委員は,監査請求人に対し,平成19年5月24日,監査請求期間を徒過している平成16年度以前の政務調査費に係る監査請求については不受理とした上で,同17年度の政務調査費に係る監査請求については理由がないので棄却する旨の監査結果を通知した。同監査結果には,同年度の個々の政務調査活動(視察)についてその目的,内容等を精査したところ,それぞれ政務調査活動として位置付けられるものであった旨の理由が記載されているが,その目的,内容等の具体的内容は記載されていない。

3.原審は,上記事実関係等の下において,次のとおり判断して,本件決定の取消請求及び本件文書の公開決定の義務付け請求をいずれも認容した。
 本件文書中のEIJ以外の事項は,情報公開されている本件会派の収支報告書等から判明するものであるから,これが公開されることにより監査事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるとは認められない。これに対し,EIJの各事項は,関係人の協力がない限り,監査委員が情報を入手すること自体困難なものである。
 しかし,これらの事項は,政務調査費の使途が視察調査である場合,誰がいかなる目的で視察調査を行ったかという,当該視察調査の適否を基礎付ける中核的な事実であるから,関係人がこれらの事項を具体的に回答しないことは考え難く,仮に関係人が正当な理由なく回答しないときは,当該視察調査が政務調査活動として適正に行われたものとは認め難いこととなり,監査委員としてはその旨の監査結果を公表すれば足りる。したがって,これが公開されることにより監査事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認めることはできない。よって,本件文書に記録された情報が本件条例8条6号所定の非公開情報に当たるとはいえない。

【判旨】

1.原審の判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 政務調査費条例及びこれを受けて定められた政務調査費規程は,会派の代表者は毎四半期が終了する都度,議長に対し明細書を添付して収支報告書を提出しなければならない旨定めているものの,これらの書類の様式は,概括的な記載がされることを予定しており,個々の支出に係る政務調査活動の目的や内容等が具体的に記載されるべきものとはしていない。また,上記条例等に,会派が上記の目的や内容等を監査委員を含め執行機関に具体的に報告しなければならないことを定めた条項は見当たらない。この趣旨は,政務調査費は議会の執行機関に対する監視の機能を果たすための政務調査活動に充てられることも多いと考えられるところ,執行機関と議会ないしこれを構成する議員又は会派(以下,併せて「議員等」という。)との抑制と均衡の理念にかんがみ,議会において独立性を有する団体として自主的に活動すべき会派の性質及び役割を前提として,政務調査費の適正な使用についての各会派の自律を促すとともに,政務調査活動に対する執行機関や他の会派からの干渉を防止しようとするところにあるものと解される。
 このような政務調査費条例及び政務調査費規程の定め並びにそれらの趣旨に照らすと,政務調査費条例は,政務調査費の支出に使途制限違反があることが収支報告書等の記載から明らかにうかがわれるような場合を除き,監査委員を含め区の執行機関が,実際に行われた政務調査活動の具体的な目的や内容等に立ち入ってその使途制限適合性を審査することを予定していないと解される。もっとも,監査委員は,中立的な監査機関であって,職務上知り得た秘密につき守秘義務を負っており,また適正な監査の実施のためには議員等がこれに協力することが期待されることはいうまでもないが,上記の点からすると,区議会の議員等が監査委員から説明等を求められた場合,上記の具体的な目的や内容等について逐一回答すべき義務を負っているとまでは解し難く,また,区議会の議員等がその回答をしない場合,その一事をもって,当該政務調査活動が適正に行われたものではないとの推定を及ぼすこともできないというべきである。
 そして,政務調査活動が本来前記のように執行機関に対する監視機能を果たすための活動としての性格を帯びていることに照らすと,区議会の議員等がその具体的な目的や内容等を監査委員に任意に回答する場合,監査委員限りで当該情報が活用されるものと信頼し,監査委員においてもそのような保障の下にこれを入手するものと考えられる。仮に,そのような保障がなく,政務調査活動に関し具体的に回答したところが情報公開の対象となり得るとすれば,区議会の議員等において,監査委員にその回答をすることに慎重になり,あるいは協力を一律に控えるなどの対応をすることも想定されるところである。そのような事態になれば,同種の住民監査請求がされた場合,正確な事実の把握が困難になるとともに,違法又は不当な行為の発見も困難になり,議員等の任意の協力の下に上記情報を入手して監査を実施した場合と比較して,監査事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあることは明らかである。
 したがって,本件文書に記録された情報は,本件条例8条6号ア所定の非公開情報に当たると解するのが相当である。

2.以上と異なる見解の下に,本件文書に記録された情報が上記の非公開情報に当たるとはいえないとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,本件決定の取消請求には理由がなく,本件文書の公開決定の義務付けを求める訴えは不適法であるから,上記取消請求を棄却し,上記義務付けの訴えを却下した第1審判決は正当であり,被上告人の控訴を棄却すべきである。

 

最高裁判所第二小法廷判決平成21年12月18日

【事案】

1.Aの共同相続人の一人であり,Aの遺言に基づきその遺産の一部を相続により取得し,他の共同相続人である被上告人らから遺留分減殺請求を受けた上告人が,被上告人Y1はAの相続について上告人に対する遺留分減殺請求権を有しないことの確認を求める旨及び被上告人Y2がAの相続について上告人に対して有する遺留分減殺請求権は2770万3582円を超えて存在しないことの確認を求める旨を訴状に記載して提起した各訴えにつき,確認の利益の有無が問題となった事案。

2.事実関係の概要等

(1) A(大正9年2月19日生)は,平成16年12月7日に死亡した。上告人及び被上告人らは,Aの子である。

(2) Aは,平成10年12月7日,Aの遺産につき,遺産分割の方法を指定する公正証書遺言(以下「本件遺言」という。)をした。

(3) 被上告人らは,平成17年12月2日ころ,上告人に対し,遺留分減殺請求の意思表示(以下「本件遺留分減殺請求」という。)をし,上告人は,遅くとも本件訴訟の提起をもって,被上告人らに対し,本件遺言による遺産分割の方法の指定が被上告人らの遺留分を侵害するものである場合は民法1041条所定の価額を弁償する旨の意思表示をした。

(4) 被上告人らは,上告人に対し,遺留分減殺に基づく目的物の返還請求も価額弁償請求もいまだ行っていない。

(5) 本件訴訟の訴状には,請求の趣旨として,@被上告人Y1はAの相続について上告人に対する遺留分減殺請求権を有しないことの確認を求める旨,A被上告人Y2がAの相続について上告人に対して有する遺留分減殺請求権は2770万3582円を超えて存在しないことの確認を求める旨の記載がある(以下,上告人の被上告人らに対する上記確認請求を併せて「本件各確認請求」といい,本件各確認請求に係る訴えを併せて「本件各確認の訴え」という。)。
 上告人は,原審の第1回口頭弁論期日において,価額弁償をすべき額を確定したいため,本件各確認の訴えを提起したものである旨を述べた。

3.原審は,上記事実関係等の下で,@被上告人Y1に対する確認請求は,上告人が被上告人Y1の遺留分について価額弁償をすべき額がないことの確認を求めるものであり,A被上告人Y2に対する確認請求は,上告人が被上告人Y2の遺留分について価額弁償をすべき額が2770万3582円を超えないことの確認を求めるものであると解した上,以下の理由により,本件各確認の訴えは確認の利益を欠き不適法であると判断し,第1審判決中,本件各確認の訴えが適法であることを前提とする本件各確認請求に係る部分を取り消して,本件各確認の訴えを却下した。

(1) 被上告人らは,上告人に対して遺留分減殺請求をしたが,いまだ価額弁償請求権を行使していない。したがって,被上告人らの価額弁償請求権は確定的に発生しておらず,本件各確認の訴えは,将来の権利の確定を求めるものであり,現在の権利関係の確定を求める訴えということはできない。

(2) 仮に,上告人による価額弁償の意思表示があったことにより,潜在的に被上告人らが上告人に対して価額弁償請求権を行使することが可能な状態になったことを根拠として,本件各確認の訴えをもって現在の権利関係の確定を求める訴えであると解する余地があるとしても,受遺者又は受贈者が価額弁償をして遺贈又は贈与の目的物の返還義務を免れるためには現実の履行又は履行の提供を要するのであって,潜在的な価額弁償請求権の存否又はその金額を判決によって確定しても,それが現実に履行されることが確実であると一般的にはいえない。そして,その金額は,事実審の口頭弁論終結時を基準として確定されるものであって,口頭弁論終結時と上記金額を確認する判決の確定時に隔たりが生ずる余地があることをも考慮すると,本件各確認の訴えは,現在の権利義務関係を確定し,紛争を解決する手段として適切とはいい難い。

【判旨】

1.原審の判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

(1) 被上告人Y1に対する確認の訴えについて

 被上告人Y1に対する確認の訴えは,これを合理的に解釈すれば,本件遺言による遺産分割の方法の指定は被上告人Y1の遺留分を侵害するものではなく,本件遺留分減殺請求がされても,上記指定により上告人が取得した財産につき,被上告人Y1が持分権を取得することはないとして,上記財産につき被上告人Y1が持分権を有していないことの確認を求める趣旨に出るものであると理解することが可能である。そして,上記の趣旨の訴えであれば,確認の利益が認められることが明らかである。そうであれば,原審は,上告人に対し,被上告人Y1に対する確認請求が上記の趣旨をいうものであるかについて釈明権を行使すべきであったといわなければならず,このような措置に出ることなく,被上告人Y1に対する確認の訴えを確認の利益を欠くものとして却下した点において,原判決には釈明権の行使を怠った違法があるといわざるを得ず,この違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。

(2) 被上告人Y2に対する確認の訴えについて

ア.一般に,遺贈につき遺留分権利者が遺留分減殺請求権を行使すると,遺贈は遺留分を侵害する限度で失効し,受遺者が取得した権利は上記の限度で当然に減殺請求をした遺留分権利者に帰属するが,この場合,受遺者は,遺留分権利者に対し同人に帰属した遺贈の目的物を返還すべき義務を負うものの,民法1041条の規定により減殺を受けるべき限度において遺贈の目的物の価額を弁償し,又はその履行の提供をすることにより,目的物の返還義務を免れることができると解される(最高裁昭和53年(オ)第907号同54年7月10日第三小法廷判決・民集33巻5号562頁参照)。これは,特定の遺産を特定の相続人に相続させる旨の遺言による遺産分割の方法の指定が遺留分減殺の対象となる本件のような場合においても異ならない(以下,受遺者と上記の特定の相続人を併せて「受遺者等」という。)。
 そうすると,遺留分権利者が受遺者等に対して遺留分減殺請求権を行使したが,いまだ価額弁償請求権を確定的に取得していない段階においては,受遺者等は,遺留分権利者に帰属した目的物の価額を弁償し,又はその履行の提供をすることを解除条件として,上記目的物の返還義務を負うものということができ,このような解除条件付きの義務の内容は,条件の内容を含めて現在の法律関係というに妨げなく,確認の対象としての適格に欠けるところはないというべきである。

イ.遺留分減殺請求を受けた受遺者等が民法1041条所定の価額を弁償し,又はその履行の提供をして目的物の返還義務を免れたいと考えたとしても,弁償すべき額につき関係当事者間に争いがあるときには,遺留分算定の基礎となる遺産の範囲,遺留分権利者に帰属した持分割合及びその価額を確定するためには,裁判等の手続において厳密な検討を加えなくてはならないのが通常であり,弁償すべき額についての裁判所の判断なくしては,受遺者等が自ら上記価額を弁償し,又はその履行の提供をして遺留分減殺に基づく目的物の返還義務を免れることが事実上不可能となりかねないことは容易に想定されるところである。弁償すべき額が裁判所の判断により確定されることは,上記のような受遺者等の法律上の地位に現に生じている不安定な状況を除去するために有効,適切であり,受遺者等において遺留分減殺に係る目的物を返還することと選択的に価額弁償をすることを認めた民法1041条の規定の趣旨にも沿うものである。
 そして,受遺者等が弁償すべき額が判決によって確定されたときはこれを速やかに支払う意思がある旨を表明して,上記の額の確定を求める訴えを提起した場合には,受遺者等がおよそ価額を弁償する能力を有しないなどの特段の事情がない限り,通常は上記判決確定後速やかに価額弁償がされることが期待できるし,他方,遺留分権利者においては,速やかに目的物の現物返還請求権又は価額弁償請求権を自ら行使することにより,上記訴えに係る訴訟の口頭弁論終結の時と現実に価額の弁償がされる時との間に隔たりが生じるのを防ぐことができるのであるから,価額弁償における価額算定の基準時は現実に弁償がされる時であること(最高裁昭和50年(オ)第920号同51年8月30日第二小法廷判決・民集30巻7号768頁参照)を考慮しても,上記訴えに係る訴訟において,この時に最も接着した時点である事実審の口頭弁論終結の時を基準として,その額を確定する利益が否定されるものではない。

ウ.以上によれば,遺留分権利者から遺留分減殺請求を受けた受遺者等が,民法1041条所定の価額を弁償する旨の意思表示をしたが,遺留分権利者から目的物の現物返還請求も価額弁償請求もされていない場合において,弁償すべき額につき当事者間に争いがあり,受遺者等が判決によってこれが確定されたときは速やかに支払う意思がある旨を表明して,弁償すべき額の確定を求める訴えを提起したときは,受遺者等においておよそ価額を弁償する能力を有しないなどの特段の事情がない限り,上記訴えには確認の利益があるというべきである。

エ.これを本件についてみるに,被上告人Y2に対する確認の訴えは,被上告人Y2の本件遺留分減殺請求により同被上告人に帰属するに至った目的物につき,上告人が民法1041条の規定に基づきその返還義務を免れるために支払うべき額が2770万3582円であることの確認を求める趣旨をいうものであると解されるから,上告人において上記の額が判決によって確定されたときはこれを速やかに支払う意思がある旨を表明していれば,特段の事情がない限り,上記訴えには確認の利益があるというべきである。これと異なる見解に立って,被上告人Y2に対する確認の訴えを却下した原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。

2.以上のとおりであるから,論旨は理由があり,原判決中,上告人の被上告人らに対する確認請求に係る部分は破棄を免れない。そして,同部分につき,更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すのが相当である。

 

最高裁判所第二小法廷判決平成21年12月18日

【事案】

1.上告人が,被上告人Y1(以下「被上告会社」という。)に委託して行った商品先物取引において損失を被ったことについて,その従業員である被上告人Y2による説明義務違反等の違法行為があると主張して,被上告人らに対し,不法行為に基づく損害賠償を求める事案。

2.事実関係の概要等

(1) 被上告会社は,商品先物取引の受託等を目的とする会社である。また,被上告会社は,商品取引員であり,東京工業品取引所の会員である。被上告人Y2は,被上告会社の従業員であり,上告人との取引を担当した者である。

(2) 上告人は,被上告会社との間で商品先物取引委託契約を締結し,これに基づき,平成17年6月14日から同年11月15日まで,被上告会社に委託して,東京工業品取引所の白金の商品先物取引を行った。その結果,上告人は合計687万9970円の損失を被った。

(3) 被上告会社は,少なくとも,上記取引期間中,平成18年4月限及び6月限の白金について,それぞれ委託玉(商品取引員が顧客の委託に基づいてする取引)と自己玉(商品取引員が自己の計算をもってする取引)とを通算した売りの取組高と買いの取組高とが均衡するように自己玉を建てることを繰り返していた(以下,このように委託玉と自己玉とを通算した売りの取組高と買いの取組高とを均衡するように自己玉を建てることを繰り返す取引手法のことを「本件取引手法」という。)。そして,本件取引手法が用いられると,取引が決済される場合,委託玉全体と自己玉とに生ずる結果が,一方に利益が生ずるなら他方に損失が生ずるという関係にある。この意味で,委託者全体と商品取引員との間には利益相反の関係がある。

(4) 上告人は,被上告人Y2が被上告会社において本件取引手法を用いていることについて説明しなかったことが上告人に対する不法行為を構成すると主張している。

3.原審は,被上告人Y2が上告人に対し本件取引手法を用いていることを説明すべき義務を負っていたとはいえないなどとして,上告人の請求を棄却すべきものとした。

【判旨】

 原審の判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 商品先物取引は,相場変動の大きい,リスクの高い取引であり,専門的な知識を有しない委託者には的確な投資判断を行うことが困難な取引であること,商品取引員が,上記委託者に対し,投資判断の材料となる情報を提供し,上記委託者が,上記情報を投資判断の材料として,商品取引員に対し,取引を委託するものであるのが一般的であることは,公知の事実であり,上記委託者の投資判断は,商品取引員から提供される情報に相応の信用性があることを前提にしているというべきである。そして,商品取引員が本件取引手法を用いている場合に取引が決済されると,委託者全体の総益金が総損金より多いときには商品取引員に損失が生じ,委託者全体の総損金が総益金より多いときには商品取引員に利益が生ずる関係となるのであるから,本件取引手法には,委託者全体の総損金が総益金より多くなるようにするために,商品取引員において,故意に,委託者に対し,投資判断を誤らせるような不適切な情報を提供する危険が内在することが明らかである。そうすると,商品取引員が本件取引手法を用いていることは,商品取引員が提供する情報一般の信用性に対する委託者の評価を低下させる可能性が高く,委託者の投資判断に無視することのできない影響を与えるものというべきである。
 したがって,少なくとも,特定の商品(商品取引所法2条4項)の先物取引について本件取引手法を用いている商品取引員が専門的な知識を有しない委託者から当該特定の商品の先物取引を受託しようとする場合には,当該商品取引員の従業員は,信義則上,その取引を受託する前に,委託者に対し,その取引については本件取引手法を用いていること及び本件取引手法は商品取引員と委託者との間に利益相反関係が生ずる可能性の高いものであることを十分に説明すべき義務を負うものというべきである。
 しかるに,原審は,上告人が専門的な知識を有しない委託者であるか否か,被上告会社が上告人から商品先物取引の委託を受ける前から白金について本件取引手法を用いていたか否か,被上告人Y が2 上記のような説明をしたか否か等につき審理することなく,被上告人Y2に説明義務違反がないと判断したのであり,この判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は上記の趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。

 

最高裁判所第二小法廷判決平成21年12月18日

【事案】

1.本件反訴請求は,美容室及び理容室を経営する被上告人に雇用されていた上告人が,労働基準法(以下「労基法」という。)37条3項に基づく深夜割増賃金等の支払を被上告人に対して求めるものである。

2.原審は,労基法41条2号にいう「監督若しくは管理の地位にある者」(以下「管理監督者」という。)には,同法の定める深夜割増賃金に関する規定は適用されないと解した上,上告人は管理監督者に該当すると認定して,深夜割増賃金に係る反訴請求を棄却すべきものと判断した。

【判旨】

1.管理監督者には深夜割増賃金に関する規定が適用されないとする原審の判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 労基法における労働時間に関する規定の多くは,その長さに関する規制について定めており,同法37条1項は,使用者が労働時間を延長した場合においては,延長された時間の労働について所定の割増賃金を支払わなければならないことなどを規定している。他方,同条3項は,使用者が原則として午後10時から午前5時までの間において労働させた場合においては,その時間の労働について所定の割増賃金を支払わなければならない旨を規定するが,同項は,労働が1日のうちのどのような時間帯に行われるかに着目して深夜労働に関し一定の規制をする点で,労働時間に関する労基法中の他の規定とはその趣旨目的を異にすると解される。
 また,労基法41条は,同法第4章,第6章及び第6章の2で定める労働時間,休憩及び休日に関する規定は,同条各号の一に該当する労働者については適用しないとし,これに該当する労働者として,同条2号は管理監督者等を,同条1号は同法別表第1第6号(林業を除く。)又は第7号に掲げる事業に従事する者を定めている。一方,同法第6章中の規定であって年少者に係る深夜業の規制について定める61条をみると,同条4項は,上記各事業については同条1項ないし3項の深夜業の規制に関する規定を適用しない旨別途規定している。こうした定めは,同法41条にいう「労働時間,休憩及び休日に関する規定」には,深夜業の規制に関する規定は含まれていないことを前提とするものと解される。
 以上によれば,労基法41条2号の規定によって同法37条3項の適用が除外されることはなく,管理監督者に該当する労働者は同項に基づく深夜割増賃金を請求することができるものと解するのが相当である。

2.もっとも,管理監督者に該当する労働者の所定賃金が労働協約,就業規則その他によって一定額の深夜割増賃金を含める趣旨で定められていることが明らかな場合には,その額の限度では当該労働者が深夜割増賃金の支払を受けることを認める必要はないところ,原審確定事実によれば,上告人の給与は平成16年3月までは月額43万4000円,同年4月以降退社までは月額39万0600円であって,別途店長手当として月額3万円を支給されており,同16年3月ころまでの賃金は他の店長の1.5倍程度あったというのである。したがって,上告人に対して支払われていたこれらの賃金の趣旨や労基法37条3項所定の方法により計算された深夜割増賃金の額について審理することなく,上告人の深夜割増賃金請求権の有無について判断することはできないというべきである。

3.以上によれば,原審の判断のうち深夜割増賃金に係る反訴請求に関する部分には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決のうち上記の部分は破棄を免れない。そして,上記4の点について更に審理を尽くさせるため,上記の部分につき本件を原審に差し戻すのが相当である。

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