最新下級審裁判例

名古屋地裁判決平成21年11月05日

【事案】

1.田原市立A保育園(以下「本件保育園」という。)に入所する児童の父母である原告らが,処分行政庁が構造改革特別区域法(以下「特区法」という。)4条8項に基づき同市に対してした「地産地消の食育による安心子育て特区」の構造改革特別区域計画の認定(以下「本件認定」という。)が違法であるとして,その取消しを求める事案。

2.関係法令の定め

(1) 児童福祉施設の設備及び運営の最低基準

 児童福祉法45条1項は,厚生労働大臣は,児童福祉施設の設備及び運営について,最低基準を定めなければならない旨規定し,これを受けて定められた児童福祉施設最低基準(昭和23年厚生省令第63号)11条1項は,助産施設を除く児童福祉施設において,入所している者に食事を提供するときは,当該児童福祉施設内で調理する方法(以下「自園調理」という。)により行わなければならない旨規定している。

児童福祉法

45条1項 厚生労働大臣は,児童福祉施設の設備及び運営並びに里親の行う養育について,最低基準を定めなければならない。この場合において,その最低基準は,児童の身体的,精神的及び社会的な発達のために必要な生活水準を確保するものでなければならない。

2項 児童福祉施設の設置者及び里親は,前項の最低基準を遵守しなければならない。

3項 児童福祉施設の設置者は,児童福祉施設の設備及び運営についての水準の向上を図ることに努めるものとする。

46条1項 都道府県知事は,前条の最低基準を維持するため,児童福祉施設の設置者,児童福祉施設の長及び里親に対して,必要な報告を求め,児童の福祉に関する事務に従事する職員に,関係者に対して質問させ,若しくはその施設に立ち入り,設備,帳簿書類その他の物件を検査させることができる。

2項 第18条の16第2項及び第3項の規定は,前項の場合について準用する。

3項 都道府県知事は,児童福祉施設の設備又は運営が前条の最低基準に達しないときは,その施設の設置者に対し,必要な改善を勧告し,又はその施設の設置者がその勧告に従わず,かつ,児童福祉に有害であると認められるときは,必要な改善を命ずることができる。

4項 都道府県知事は,児童福祉施設の設備又は運営が前条の最低基準に達せず,かつ,児童福祉に著しく有害であると認められるときは,都道府県児童福祉審議会の意見を聴き,その施設の設置者に対し,その事業の停止を命ずることができる。

 

児童福祉施設最低基準(昭和23年厚生省令第63号)

11条1項 児童福祉施設(助産施設を除く。以下この項において同じ。)において,入所している者に食事を提供するときは,当該児童福祉施設内で調理する方法(第8条の規定により,当該児童福祉施設の調理室を兼ねている他の社会福祉施設の調理室において調理する方法を含む。)により行わなければならない。

2項 児童福祉施設において,入所している者に食事を提供するときは,その献立は,できる限り,変化に富み,入所している者の健全な発育に必要な栄養量を含有するものでなければならない。

3項 食事は,前項の規定によるほか,食品の種類及び調理方法について栄養並びに入所している者の身体的状況及び嗜好を考慮したものでなければならない。

4項 調理は,あらかじめ作成された献立に従つて行わなければならない。

32条 保育所の設備の基準は,次のとおりとする。

1号 乳児又は満2歳に満たない幼児を入所させる保育所には,乳児室又はほふく室,医務室,調理室及び便所を設けること。

5号 満2歳以上の幼児を入所させる保育所には,保育室又は遊戯室,屋外遊戯場(保育所の付近にある屋外遊戯場に代わるべき場所を含む。以下同じ。),調理室及び便所を設けること。

33条1項 保育所には,保育士,嘱託医及び調理員を置かなければならない。
 ただし,調理業務の全部を委託する施設にあっては,調理員を置かないことができる。

(2) 構造改革特別区域計画の認定

 特区法4条1項は,地方公共団体は,単独で又は共同して,構造改革特別区域基本方針に即して,当該地方公共団体の区域について,内閣府令で定めるところにより,構造改革特別区域として,教育,物流,研究開発,農業,社会福祉その他の分野における当該区域の活性化を図るための計画(以下「特区計画」という。)を作成し,内閣総理大臣の認定を申請することができる旨規定している。そして,同条8項は,内閣総理大臣は,申請のあった特区計画が「構造改革特別区域基本方針に適合するものであること」など所定の基準に適合すると認めるときは,認定をする旨,同条10項は,認定を受けた特区計画に基づき実施主体が実施する特定事業については,規制の特例措置を適用する旨,それぞれ規定している。

構造改革特別区域法

1条 この法律は,地方公共団体の自発性を最大限に尊重した構造改革特別区域を設定し,当該地域の特性に応じた規制の特例措置の適用を受けて地方公共団体が特定の事業を実施し又はその実施を促進することにより,教育,物流,研究開発,農業,社会福祉その他の分野における経済社会の構造改革を推進するとともに地域の活性化を図り,もって国民生活の向上及び国民経済の発展に寄与することを目的とする。

2条1項 この法律において「構造改革特別区域」とは,地方公共団体が当該地域の活性化を図るために自発的に設定する区域であって,当該地域の特性に応じた特定事業を実施し又はその実施を促進するものをいう。

2項 この法律において「特定事業」とは,地方公共団体が実施し又はその実施を促進する事業のうち,別表に掲げる事業で,規制の特例措置の適用を受けるものをいう。

3項 この法律において「規制の特例措置」とは,法律により規定された規制についての第4章で規定する法律の特例に関する措置及び政令又は主務省令により規定された規制についての政令又は主務省令で規定するこれらの規定の特例に関する措置をいい,これらの措置の適用を受ける場合において当該規制の趣旨に照らし地方公共団体がこれらの措置と併せて実施し又はその実施を促進することが必要となる措置を含むものとする。

4条1項 地方公共団体は,単独で又は共同して,構造改革特別区域基本方針に即して,当該地方公共団体の区域について,内閣府令で定めるところにより,構造改革特別区域として,教育,物流,研究開発,農業,社会福祉その他の分野における当該区域の活性化を図るための計画(以下「構造改革特別区域計画」という。)を作成し,内閣総理大臣の認定を申請することができる。

8項 内閣総理大臣は,第1項の規定による認定の申請があった構造改革特別区域計画が次に掲げる基準に適合すると認めるときは,その認定をするものとする。

1号 構造改革特別区域基本方針に適合するものであること。

2号 当該構造改革特別区域計画の実施が当該構造改革特別区域に対し適切な経済的社会的効果を及ぼすものであること。

3号 円滑かつ確実に実施されると見込まれるものであること。

10項 認定を受けた構造改革特別区域計画(以下「認定構造改革特別区域計画」という。)に基づき実施主体が実施する特定事業については,法律により規定された規制に係るものにあっては第4章で,政令又は主務省令により規定された規制に係るものにあっては政令又は主務省令で,それぞれ定めるところにより,規制の特例措置を適用する。

別表(第2条関係)

番号 事業の名称 関係条項
1〜26 (略) (略)
27 前各号に掲げるもののほか,政令又は主務省令で定める事業

(3) 公立保育所の食事の提供方法の特例

 厚生労働省関係構造改革特別区域法第2条第3項に規定する省令の特例に関する措置及びその適用を受ける特定事業を定める省令(平成15年厚生労働省令第132号)1条は,地方公共団体が,その設定する構造改革特別区域内における保育所(地方公共団体が設置するものに限る。)について,「乳幼児に対する食事の提供の責任が当該保育所にあり,その管理者が,衛生面,栄養面等業務上必要な注意を果たし得るような体制及び調理業務の受託者との契約内容が確保されていること」など所定の要件を満たしていることを認めて特区法4条8項の内閣総理大臣の認定を申請し,その認定を受けたときは,当該認定の日以後は,当該認定に係る保育所は,当該保育所の乳児,幼児又はその他の児童に対する食事の提供について,当該保育所外で調理し搬入する方法(以下「外部搬入方式」という。)により行うことができる旨規定している。

厚生労働省関係構造改革特別区域法第2条第3項に規定する省令の特例に関する措置及びその適用を受ける特定事業を定める省令(平成15年厚生労働省令第132号)

1条 地方公共団体が,その設定する構造改革特別区域法(平成14年法律第189号。以下「法」という。)第2条第1項に規定する構造改革特別区域内における保育所(児童福祉法(昭和22年法律第164号)第39条第1項に規定する保育所をいい,地方公共団体が設置するものに限る。以下この条において同じ。)について,次の各号に掲げる要件を満たしていることを認めて法第4条第8項の内閣総理大臣の認定(法第6条第1項の規定による変更の認定を含む。以下同じ。)を申請し,その認定を受けたときは,当該認定の日以後は,当該認定に係る保育所は,当該保育所の乳児(児童福祉法第4条第1項第1号に規定する乳児をいう。),幼児(同項第2号に規定する幼児をいう。)又はその他の児童(同法第39条第2項に規定するその他の児童をいう。)(以下この条において「乳幼児」と総称する。)に対する食事の提供について,当該保育所外で調理し搬入する方法により行うことができる。この場合において,当該保育所は,当該食事の提供について当該方法によることとしてもなお当該保育所において行うことが必要な調理のための加熱,保存等の調理機能を有する設備を備えるものとする。

1号 乳幼児に対する食事の提供の責任が当該保育所にあり,その管理者が,衛生面,栄養面等業務上必要な注意を果たし得るような体制及び調理業務の受託者との契約内容が確保されていること。

2号 当該保育所又は他の施設,保健所,市町村等の栄養士により,献立等について栄養の観点からの指導が受けられる体制にある等,栄養士による必要な配慮が行われること。

3号 調理業務の受託者を,当該保育所における給食の趣旨を十分に認識し,衛生面,栄養面等,調理業務を適切に遂行できる能力を有する者とすること。

4号 乳幼児の年齢及び発達の段階並びに健康状態に応じた食事の提供や,アレルギー,アトピー等への配慮,必要な栄養素量の給与等,乳幼児の食事の内容,回数及び時機に適切に応じることができること。

5号 食を通じた乳幼児の健全育成を図る観点から,乳幼児の発育及び発達の過程に応じて食に関し配慮すべき事項を定めた食育に関する計画に基づき食事を提供するよう努めること。

6条 法別表第27号の主務省令で定める事業のうち,厚生労働省令で定める事業は,別表第3に掲げる事業とする。

別表第3(第6条関係)

番号 事業の名称 関係条項
公立保育所における給食の外部搬入方式の容認事業 第1条
2〜5 (略) (略)

3.前提事実

(1) 原告ら

 原告らは,いずれも田原市に居住する者であり,その監護する子を同市が設置する児童福祉法39条1項所定の保育所である本件保育園に入所させ,保育を受けさせている。

(2) 本件認定の経緯

ア.田原市は,従前から,市内にある公立保育所のうち本件保育園を含む13の保育所(以下「本件保育園等」という。)において,入所児童に対する食事の提供を外部搬入方式により行っていたところ,特区法4条1項に基づき,概要次の(ア)ないし(キ)の特区計画(以下「本件計画」という。)を作成し,平成20年5月21日,処分行政庁に対し,本件計画の認定を申請し,その後,本件計画のうち,(オ)の「当該規制の特例措置の適用を受けようとする者」について,田原市内の公立保育所21園から,既に外部搬入方式を採用していた本件保育園等(13園)に変更した。

(ア) 特区計画の名称  地産地消の食育による安心子育て特区

(イ) 構造改革特別区域の範囲  田原市の全域

(ウ) 特区計画の目標

@ 給食センターからの外部搬入方式による公立保育所の合理化を進め,多様な保育ニーズに対応した保育を実現する。
A 保育所や小中学校,学校給食センター等が連携して食育に取り組み,乳幼児期からの正しい食習慣の定着と健やかな成長に資する。
B 給食に地域の食材を活用することで,乳幼児期から地域の食材に慣れ親しむ環境を整え,地産地消の促進につなげる。
C 乳幼児期から地域の食材に慣れ親しむことにより,農業産出額全国1位である地域に対する誇りや愛着を育む。

(エ) 特定事業の名称  公立保育所における給食の外部搬入方式の容認事業

(オ) 当該規制の特例措置の適用を受けようとする者  田原市内の公立保育所21園

(カ) 当該規制の特例措置の適用の開始日  特区計画の認定日

(キ) 特定事業の内容  市立保育所の給食は,学校給食センターで調理して搬入する外部搬入方式とする。保育所の調理員は,給食センターと保育所に配置することで,年齢に応じた給食の提供にも柔軟に対応する。給食センターには,園児用の調理用器具類・食器,配送用の保温食缶等を適宜補充するものとし,消毒等については,学校給食と同様に消毒し,洗浄保管する。

イ.本件計画について,処分行政庁は,平成20年8月22日,田原市に対し,特区法4条8項に基づき,本件認定をした。

【判旨】

1.本件認定の処分性について

(1) 処分の取消しの訴えは,「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」を対象とするものである(行政事件訴訟法3条2項)。そして,ここでいう行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(以下「行政処分」という。)とは,公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち,その行為によって直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいうものであり,これに当たらない行為を対象として提起された取消しの訴えは不適法なものとなる。

(2) 特区法は,地方公共団体の自発性を最大限に尊重した構造改革特別区域を設定し,当該地域の特性に応じた規制の特例措置の適用を受けて地方公共団体が特定の事業を実施し又はその実施を促進することにより,教育,物流,研究開発,農業,社会福祉その他の分野における経済社会の構造改革を推進するとともに地域の活性化を図り,もって国民生活の向上及び国民経済の発展に寄与することを目的とするものであり(特区法1条),この目的を達成するために,特区計画の認定制度を設けている。
 特区計画の認定の申請は,地方公共団体が単独で又は共同して特区計画を作成し,内閣総理大臣に対してこれを行うものであり(特区法4条1項),内閣総理大臣は,申請に係る特区計画が所定の基準に適合すると認めるときは,その認定をするものである(同条8項)。そして,特区計画の認定の効果は,認定を受けた特区計画に基づき実施主体が実施する特定事業については,規制の特例措置が適用されるというものである(同条10項)。
 以上のような特区計画の認定制度の趣旨やその手続及び効果にかんがみれば,特区計画の認定は,行政主体ないし機関相互間の行為と見るべきものであって,直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することを目的とするものではないということができる。

(3) もっとも,行政主体ないし機関相互間の行為と見るべきものであっても,それによって国民の法的地位に変動を生じさせる場合には,当該行為が行政処分に当たると解する余地がある。そして,この点に関し,原告らは,保育所に入所する児童及びその保護者は自園調理による給食の提供を受ける権利又は法的利益を有しているとし,本件認定により,本件保育園等に入所する児童及びその保護者は上記権利又は法的利益を失うことになる旨主張するので,以下,検討する。

ア.児童福祉法は,45条1項において,厚生労働大臣に対し児童福祉施設の設備及び運営等について最低基準を定める義務を課し,その最低基準は,児童の身体的,精神的及び社会的な発達のために必要な生活水準を確保するものでなければならないと定め,同条2項において,児童福祉施設の設置者等が同基準を遵守すべき義務を定め,同法46条1項ないし4項において,同基準を維持するための都道府県知事の児童福祉施設の設置者等に対する監督権限を定めているものの,児童福祉施設に入所する児童又はその保護者が同基準を確保するよう請求する権利を有することを定めた規定はない。

イ.保育所等の児童福祉施設における食事の提供に関する児童福祉施設最低基準の規定を見ると,入所している者に食事を提供するときは,自園調理により行わなければならないこと(11条1項),献立は,できる限り,変化に富み,入所している者の健全な発育に必要な栄養量を含有するものでなければならないこと(同条2項),食品の種類及び調理方法について栄養並びに入所している者の身体的状況及び嗜好を考慮したものでなければならないこと(同条3項),調理は,あらかじめ作成された献立に従って行わなければならないこと(同条4項),保育所に調理室を設けること(32条1号,5号),保育所に調理員を置かなければならないこと(33条1号)が定められている。
 保育所において食事を提供するについては,児童の発育,発達状況,栄養状態,生活状況等に応じ,適当なエネルギー及び栄養素の量を確保し,健康を害することのないよう児童のアレルギー等に対応することなどに留意しなければならないほか,食を通じた子どもの健全育成にも配慮することが求められるものであって,児童福祉施設最低基準において定められた食事の提供にかかわる規定は,これらを満足させるための基準として定められたものと解される。しかしながら,これらの事柄は,それを満足させるための手段が一つに限られるというものではない。特に,給食の提供を自園調理によるか外部搬入方式によるかという点については,外部搬入方式によったとしても上記の事柄を満足させることが不可能になるものではなく,児童やその保護者に対して自園調理による給食の提供を受ける権利又は法的利益を認めなければ,直ちに児童の身体的,精神的及び社会的な発達に支障を来すということもできない。

ウ.以上のことに加えて,元来,児童福祉施設の設備及び運営の最低基準は,その時々の社会的,経済的状況をも踏まえた上で,厚生労働大臣の裁量的な判断によって定められるべき性質のものであることを考えると,保育所に入所する児童やその保護者が,自園調理による給食の提供を受ける権利又は法的利益を有するものと解することは困難である。
 なお,田原市保育の実施に関する条例(平成15年田原市条例第25号)や田原市保育の実施に関する規則(平成15年田原市規則第24号)を見ても,田原市の市立保育所において給食の提供を自園調理とする旨の規定はないし,その利用契約を締結する際に給食の提供方法に関する事項を定める旨の規定もないから,保育所の利用契約を根拠に,田原市の市立保育所に入所する児童及びその保護者が自園調理による給食の提供を受ける権利又は法的利益を有するということもできない。
 そして,他に本件認定によって国民の法的地位に変動が生ずると解すべき根拠は見当たらない。

(4) そうすると,本件認定は,直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定する効果を有するものということはできないから,取消しの訴えの対象となる行政処分には当たらないというべきである。

2.結論

 以上によれば,本件訴えは,取消しの訴えの対象とならないものを対象とした不適法なものであるから,その余の点について判断するまでもなく,これを却下すべきである。

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