平成21年度新司法試験論文式
刑事系第2問参考答案

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第1.設問1

1.一般に、写真撮影は検証とされる。五感(視覚)によって物や人の状態を認識し、その結果を録取して証拠とするからである。従って、所有者又は管理者の同意なく写真撮影を行うためには原則として検証許可状を要する。
 もっとも、本問のように捜索差押の執行の際になされる写真撮影は、上記と同じに考えることはできない。
 そもそも令状主義の趣旨は、事前の司法審査によって捜査機関による不当な人権侵害を抑制する点にある。捜索差押許可状が発付される場合には、捜索差押の執行に伴う権利制約について、上記司法審査を経ている。
 従って、差押えの代替手段としての写真撮影及び適法な執行状況の記録、差押物件の証拠価値の保存等捜索差押の執行に付随すると認められる写真撮影は、必要かつ相当な範囲で行われる限り適法である。

2.以上を踏まえ、本問の各写真撮影につき検討する。

(1) 写真@について

 「1/12」の部分は1月12日の意味と読める。これは、資料1の供述調書において甲が乙に告げたとする殺害日時に符合する。また、「△フトウ」の部分は、△部分が判読不明とはいえ、殺害場所であるM埠頭を意味すると理解しうる。電話の上の壁という位置関係も、電話時に告げたとする上記調書と矛盾しない。従って、差押物件のうち「本件に関連する・・・メモ」に該当する。しかし、差押えは行われていない。コンクリートの壁を分離し、又は保管委託(刑訴法(以下条数のみ示す。)222条1項、121条1項)することは現実的でないからと考えられる。撮影は、これに代わるものである。既に消されており、カレンダーで隠していることから、捜索を知った乙が削り取る等隠滅を図るおそれもあるから、撮影の必要がある。
 また、Pらは、壁から約30センチメートル離れた位置から撮影した。これは記載部分以外の部分が不必要に被写体に含まれないよう配慮した相当な撮影方法といえる。
 よって、写真@の撮影は、差押えの代替手段として適法である。

(2) 写真Aについて

 X銀行の預金通帳には、平成21年1月14日の取引日欄に、カードによる現金30万円の出金が印字され、その部分の右横に「→T.K」と鉛筆で書き込まれていた。これは、資料1の供述調書6記載の報酬支払いのため乙が出金し、その金額及び甲野太郎のイニシャルを備忘のため記載したと考えて矛盾がない。従って、差押物件のうち「本件に関連する・・・預金通帳」に該当する。
 この点、現に差押えられているから、撮影の必要がないとも思える。
 しかし、「→T.K」の部分は鉛筆書きのため消失のおそれがあり、上記部分を含むページについて保存の必要性がある。では、当該部分を含まないページに関してはどうか。上記書き込みは、当該部分のみに特に行われた点に証拠価値がある。それは、他のページとの比較で明らかになる。よって、表紙及び印字されているすべてのページについて、保存の必要性がある。
 また、現に押収する物件の撮影は、特別の事情のない限り相当というべきである。この点、Bの抗議がある。しかし、Bは当初使用者不明としながら、撮影時に至って急にAのものと述べている。その言動は不自然である。従って、上記特別の事情には当たらない。そして、他に相当性を否定すべき特別の事情は認められない。
 以上から、写真Aの撮影は、差押え当時の証拠価値を保存する付随処分として適法である。

(3) 写真Bについて

 Y銀行の預金通帳には、犯罪事実と直接関連するような記載はみられない。もっとも、X銀行の口座と同じレターケースの引き出しに入っていた。その引き出しには、他に乙名義のパスポート、乙の名の印刷された名刺及びあて名が乙のはがきも入っていた。これは乙がX銀行の預金通帳と同様にY銀行の預金通帳も利用していたことをうかがわせる。また、Y銀行の預金通帳の記載には不定期の出金も多数回あるものの、T社からの定期的な入金や電気代・水道代など定期的な出金があり、日常的なT社の資金管理に用いられていたことがうかがわれる。他方で、X銀行の預金通帳にあるような書き込みは存在していない。このことは、X銀行の預金通帳にある書き込みが日常的なものではないことを示唆する。加えて、本件は殺人を含む重大事件である。以上を考慮すると、Y銀行の預金通帳も「本件に関連する・・・預金通帳」に当たるといえる。
 そして、前記(2)で述べたと同様、差押当時にY銀行の預金通帳に書き込みがなかったことに証拠価値がある。従って、表紙及び印字されているすべてのページにつき撮影の必要性が認められる。
 また、差押えに代えて写真撮影にとどめたのはT社の日常業務の支障等を考慮したものと考えられ、相当性が認められる。
 以上から、写真Bの撮影は、差押えの代替手段として適法である。

(4) 写真Cについて

 パスポート、名刺、はがき及び印鑑は、いずれも差押物件に含まれない。もっとも、パスポートは乙名義であり、名刺は乙の名が印刷され、はがきのあて名は乙となっている。また、印鑑2個はいずれもAの刻印がされているものの、X銀行及びY銀行への届出印と似ていた。これは、X銀行及びY銀行の各預金通帳を乙が利用していたことを示唆するものといえる。そして、本件は殺人を含む重大事件である。以上を考慮すると、X銀行及びY銀行の各預金通帳の証拠価値を保存するために、撮影の必要がある。
 また、パスポート、名刺、はがき及び印鑑はいずれも外部的表示を予定した物であって、秘匿性が低い。加えて、撮影は、パスポートにつき乙の名義記載部分、はがきについてはあて名部分等必要な範囲に限定されている。従って、相当性も認められる。
 よって、写真Cの撮影は、差押物件以外についてのものではあるが、差押物件たるX銀行及びY銀行の各預金通帳の証拠価値を保存する付随処分として適法である。

第2.設問2

1.まず、本問の実況見分調書のうち、甲の写真及び説明以外の部分については、検証との類似性から321条3項が準用され、Pらを証人尋問し、真正作成供述を得ることを要する。

2.では、甲の写真及び説明について、別途322条1項の伝聞例外要件を具備する必要があるか。当該部分がいわゆる現場指示であるのか、現場供述であるのかを検討しなければならない。

(1) そもそも、320条1項の趣旨は、公判廷外供述はその性質上、知覚・記憶した事実を再現するまでの過程に混入する誤りを反対尋問等により排除する機会がないことから、その証拠能力を否定する点にある。従って、同条の適用のある伝聞証拠とは、供述内容の真実性を要証事実とする供述証拠に限られる。

(2) 実況見分においてその動機や対象・位置関係等を示す現場指示は、その指示内容の真実性が問題とならないから、当該部分は非伝聞である。

(3) 他方、実況見分の現場において事件当時の事実関係を明らかにする現場供述は、その供述内容の真実性が要証事実になるから、当該部分には伝聞性がある。

3.(1) 本問の捜査の経過をみると、M埠頭付近設置の防犯ビデオに映った甲の映像を起点として、甲を取り調べて資料1の供述調書を作成し(事例1)、同調書を疎明資料として事例2から事例5までの捜索差押えを行い、その後に、本問の実況見分を実施したことが認められる。

(2) 上記の経過から、本問の実況見分は資料1の供述内容を基礎として行われたものといえる。そして、上記供述は信用できる(本問冒頭部分)。そうすると、本問の実況見分で明らかにされる事実は、上記供述を補強する客観的事実である。具体的には、以下の点である。

ア.甲においてVの死体を車外に出して運転席まで移動させてシートベルトを締め、運転席側ドアからサイドブレーキを解除し、セレクトレバーをドライブレンジにしてからドアを閉めることが実際に可能であるか。

イ.現実に前輪が岸壁から落ち、車の底が岸壁にぶつかって車がその上で止まるという状況になるか。

ウ.甲において車の後ろからバンパーを両手で持ち上げて前方に重心を移動させることで、実際に車を海中に落とすことができるか。

(3) 上記アからウまでの点を明らかにするに当たり、甲の写真及び説明の部分は、その動機や対象・位置関係等を示すに過ぎない。また、甲の写真及び説明の内容は、資料1の供述内容と比較して新たな事実関係を明らかにするものではない。
 よって、本問の実況見分調書中、甲の写真及び説明の部分は現場指示である。

(4) 以上から、甲の写真及び説明部分について別途322条1項の伝聞例外要件を充たす必要はない。

4.本問の実況見分調書につき検察官の設定した立証趣旨は、上記趣旨をいうものと解される。裁判所としては、弁護人に検察官のいう立証趣旨においてもなお不同意とするか求釈明すべきである。
 そして、弁護人が同意すれば前記1の証人尋問を要せず証拠能力が認められる(326条1項)。不同意を維持した場合は、前記1のとおり、Pらの真正作成供述を得れば証拠能力が認められる。

以上

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