最新下級審裁判例

静岡地裁判決平成22年01月21日

【罪となるべき事実】

 被告人は,

第1.略。

第2.略。

第3.Cを強姦する目的で,同年5月26日午後7時30分ころ,同県a市d番地の同人方に,同人(当時18歳)が帰宅して玄関ドアを開閉する際のすきに乗じて侵入し,同所において,同人に対し,その口を手でふさぎながら,「騒いだら殺すぞ。」などと言って脅迫し,左側頭部をこぶしで数回殴るなどの暴行を加えて,その反抗を抑圧した上,更に仰向けになった同人に馬乗りになりながら,学生証在中の財布の提示を求めるうち,この状態に乗じて強盗を決意し,その財布から同人所有の現金7000円を奪い取って強取した後,同人の着衣を脱がせるなどして強いて同人を姦淫し,その際,前記暴行により,同人に全治約2週間を要する左側前頭部打撲,左肩打撲及び膣入口部裂傷の傷害を負わせた

第4.略。

ものである。

【判旨】

 判示第3について,被告人は,強姦目的の暴行・脅迫により被害者の反抗が抑圧されている状態で,その身体に馬乗りになりながら,身上を把握するため学生証の提示を求めている際に財物を取得したのであり,そのような被告人の財物取得行為は,実質的には暴行・脅迫が継続した中でのものというべきであるから,強盗にあたると解するのが相当である(東京高判平20.3.19高刑集61巻1号1頁参照)。したがって,被告人が財物強取後に被害者を姦淫したことにより,被告人には強盗強姦罪が成立する。

(参照裁判例)東京地判平元・10・31

 強盗強姦罪が成立する場合において,犯人がその強盗の機会(あるいは強姦の際)に加えた暴行により生じた傷害はもとより強盗強姦以外の別罪を構成するものではないが,強盗強姦罪の重要な量刑評価の対象となるものであり右傷害の点を判示すべきである。

 

静岡地裁判決平成22年01月29日

【罪となるべき事実】

 被告人は,

第1.a市b番地cマンションに居住する女性を強姦しようと企て,同マンションで女性が帰宅するのを待ち伏せしていたところ,平成21年5月10日午前2時40分ころ,一人で帰宅してきたA(当時18歳,以下「被害者」という)を認めたことから,同人を強姦する目的で,被害者が同マンション同人方玄関ドアを開けて自室に入ろうとしたすきを狙って,被害者方に侵入し,同室内において,被害者を押し倒して転倒させ,その上に馬乗りになって,所携の工具であるラチェットレンチを被害者の顔面に突き付け,同人の両腕を後ろ手に回して布製ガムテープできつく縛るなどの暴行を加え,被害者を抵抗できなくした上,同テープを引きはがし,同日午前4時20分ころ,被害者の意に反して同人を姦淫し,その際,上記暴行により,被害者に全治約1〜2日を要する両前腕皮膚剥離の傷害を負わせ,さらに,同日午前6時ころ,同室内において,前記暴行等により被害者が恐怖心を感じ,抵抗できなくなっているのに乗じて,被害者の意に反して同人を姦淫し

第2.同日午前4時50分ころ,同室内において,被害者が前記暴行等により恐怖心を抱いているのに乗じて,被害者に同意書を書くよう申し向け,これに応じなければ,自分の身に危害が及ぶかもしれないという恐怖心を抱かせ,そのとき,その場所において,「自分で決めて関係を持ちました」などと記載させた同意書1通を作成させ,もって同人をして義務なきことを行わせ

たものである。

【判旨】

1.皮膚剥離の傷害について

(1) 弁護人は,強姦が反抗を著しく困難にする程度の暴行脅迫を加える犯罪である以上,軽微な傷害は織り込み済みであるし,@日常生活に支障を来さず,A傷害として意識されないか,日常生活上看過される程度であり,B医療行為を特別に必要としない傷害は,強姦致傷罪の「傷害」にはあたらないところ,本件は,時間が経過すればやがて垢として自然に剥がれ落ちる角質が剥離したもので,強姦致傷罪の「傷害」にはあたらない旨主張している。

(2) 確かに,弁護人の主張するとおり,本件は,B医療行為を特別に必要としない傷害である。しかしながら,被害者は,警察官と話しているときも「腕がヒリヒリする」状態であり,「痛くて触れないくらいだった」というのであるから,少なくとも1〜2日の間は,A日常生活上看過し得ない痛みを感じ,その痛みを否が応でも傷害として意識せざるを得なかったものと考えられる。そうであれば,手を洗うときや,精神的な部分において,両腕の痛みが@被害者の日常生活に支障を来したであろうことは想像にかたくない。従って,弁護人の依拠する基準によっても,本件が「傷害」にあたらないということはできない。
 そして,角質は,いつか自然に剥がれ落ちるとはいえ,未だ剥がれ落ちていない状態においては身体の皮膚の一部を構成しているのであり,身体の一部を被告人の行為によって損傷せしめられた以上,それを「傷害」ということは,社会通念上至極自然な感覚であるといえる。また,仮に,全治1〜2日の軽微な傷害は強姦致傷罪の「傷害」にあたらないとするのであれば,全治何日からは軽微で,何日からは軽微でないのか,何をもってその分水嶺とするのかが甚だ不明確となる。検察官が起訴した傷害が証拠上認められる以上は,その軽重は量刑において考慮するほかないものと解すべきである。

(3) 以上によれば,本件の皮膚剥離の傷害も,強姦致傷罪の「傷害」に当たるものと認められる。

2.強要罪の成否について

(1) まず,検察官は,深夜に突然凶器を突き付けられ,ガムテープで両腕を緊縛された挙げ句,強姦された被害者が,その強姦の直後,その強姦の現場で,同意書を書いた事実に照らせば,強要罪が成立することは明らかである旨主張している。
 一方,弁護人は,@被害者は恐怖心によって作成したものではない,A被告人は被害者を信じていた,B被告人は被害者に無理強いするつもりはなく,被害者の恐怖心を利用する意図はなかった旨主張し,強要罪は成立しない旨主張している。

(2) そこで,まず,@被害者が恐怖心によって同意書を作成したか否かについて,以下検討する。
 検察官が指摘する事実や,被害者が,被告人の持っているものがナイフだと思い込んでいたこと,被害者は,深夜のマンションの一室という密室に被告人と二人きりの状態にあり,助けてくれる者は誰一人いない状況にあったこと,などからすれば,被害者は,自分が迂闊な行動を取れば,我が身が危険に晒されることを十分認識していたものと認められる。また,被害者は,被告人が強姦犯だと悟った後は「中出ししないで」と申し向けるなど,悲惨な状況下でも最悪の事態だけは避けるべく,気丈にも必死に頭を働かせているところ,その被害者が,本件同意書作成前,「一緒に出て行って警察に説明してあげる」「私が一緒に出ても捕まるの」「どうすればいいの」などと頻りに被告人に申し向けていることからすれば,被害者は,強姦された後も,被告人と二人きりの密室から脱出すべく苦心していた様子がうかがわれる。それにもかかわらず,被告人が,警察は信じてくれない,警察を騙す自信がないなどと言って外に出るのを渋ったことから,その段階で,被害者としては,自身の考えうる解放策は尽きている状態であった。
 その状況下において,被告人が「もしかしたら文章みたいなのがあれば信じてくれるのかもしれない」などと述べ,それに被害者が応じたという事実関係に照らせば,被害者は,同意書さえ書けば解放されると信じ,しかも,それ以外にもはや方策はないとして,これに応じたものと認めるのが相当である。
 即ち,被害者は,自身に凶器を突き付けたり,緊縛したり,強姦したりした被告人が,いまなお凶器をいつでも使える状態で,被害者と二人だけの密室に居座っていたがために,その危険な状況から脱出すべく同意書を作成したのであって,被害者が従前の被告人の行為によって恐怖心を抱いていたからこそ同意書を作成した,と評価できることは明らかである。

(3) 次に,A被告人が被害者を信じていた,B無理強いするつもりはなかった,という弁護人の主張について検討する。
 そもそも,弁護人のABの主張の趣旨は,結局のところ,被告人には,被害者の恐怖心に乗じて同意書を書かせるまでの意図はなかったし,被害者が恐怖心で同意書を作成しているとは思わなかったというに尽きるものと解される。つまり,強要罪の故意がなかった,ということである。

ア.確かに,被告人は,同意書を作成する間,被害者から「何て書けばいいの」と言われても,とっさにはその内容が思いつかなかったり,被害者に何度も「怒ってないの」「助けてくれるの」「訴えないの」などと尋ねたりしていることからすれば,「書くのは嫌だよね」という被告人の問いに,被害者が「書いてもいいよ」と答えたことを予想外の事実として受け止め,被害者の真意を図りかねていた事実が認められる。また,作成が進むにつれ,自身の本名を明かし,更には,足が付く携帯番号を伝え,挙げ句の果てに「助けてくれてありがとう」と言って退去した被告人の行為は,自分が犯罪行為を行っているという認識がある者の行為としては甚だ不可解であり,被害者が真実自分を助けるべく同意書を書いてくれていると被告人が誤信したことを,強く推認させる事実であるといわざるを得ない。
 この点,検察官は,被告人が捜査段階で自白したことをもって,被害者が恐怖心によって同意書を作成したことを被告人が十分に認識していた旨主張するが,取調段階の供述には何ら具体性がないことや,何より,同供述が被告人の当時の行動とそぐわないことなどに照らせば,同供述の信用性を認めることはできない。
 従って,被害者が恐怖心によって同意書を作成していることを認識しながら,被告人がこれを無理強いした,と認めるには合理的疑いが残るものといわざるを得ない。

イ.しかし,一般人の視点から見れば,被害者が恐怖心を抱いていたことは明らかであるし,そのために被害者が書きたくもない同意書を懸命に書いたことは明らかであるのに,その被害者の行動を,被告人が自分に都合良く解釈すれば被告人が無罪になるという結論は,社会通念上受け容れがたい。
 そもそも,故意とは,不当な行為をしてはならないという壁に直面していながら,あえて,その壁を乗り越えたことが非難に値する,という点に本質がある。
 従って,不当な行為だと認識していない人は壁に直面していないし,そもそも,壁に直面する可能性のなかった人を,非難することもできない。
 しかしながら,通常は誰もがその壁に直面できる状況にあり,かつ,被告人も,壁に直面する可能性が十分にあったにもかかわらず,被告人が勝手に目をつぶっていたために,その壁に気付かなかっただけの場合は,やはり,被告人が壁に直面する機会を自ら無駄にしてしまったその人格態度自体を,非難することができるものと解すべきである。

ウ.そこで,本件について更に検討すると,被告人は,被害者に凶器を突き付けたり,口にガムテープを貼ったり,被害者の両腕を後ろ手に縛ったりした末に被害者を強姦しており,この行為が,女性に恐怖心を与える行為であるということ自体は十分に認識していたことが認められる。だからこそ,非道な行為をした自分を怒ることもせず,同意書を作成する被害者に「怒ってないの」などと何度も尋ねているのである。そして,被害者に何度も尋ねる機会があったのであれば,今一度被告人が自分の行動を思い返し,被害者の立場に立って物事を考える機会も何度も与えられていたことになる。その機会に被害者の気持ちを考えてみれば,強姦後も自分が被害者宅に居座ること自体によって,被害者が恐怖心を感じ続けているということは容易に分かったはずであるし,その被害者に,同意書までも書かせる行為が,不当な行為であるということにも気付きえたはずである。即ち,被告人は,自身の行為の外形的事実を十分に認識していたのみならず,自身の行為が不当な行為であることを意識する可能性も十分に与えられていたのである。
 それなのに,被告人は,追い詰められた被害者の必死の行動に漫然と甘え,不当な行為を思いとどまる機会を自らふいにしたのであるから,その人格態度が非難に値することは明らかである。
 この点,被告人は,不幸な生育歴において,自分の辛い気持ちを慮ってもらったことがないために,他人の辛い気持ちを慮ることも苦手であったと推測される。
 また,犯行直前のストレス過多な状況や睡眠障害などから,他人の気持ちを推し量る気持ちの余裕が足りなかったということも理解できないことはない。しかし,だからといって,物事の善し悪しを判断する力や,その判断に従って行動する力が全く欠如していたり,著しく減弱していたわけではないのだから,思いとどまる可能性が全くなかった,もしくはほとんどなかった,と言えないことは明らかである。そうであるとすれば,被告人の不幸な境遇や当時の心情は,量刑において酌むべき事情であって,強要罪が成立するか否か(その故意を認めるか否か)という点において,無罪か否かを決するべき事情ではない。

エ.以上によれば,被告人が被害者を信じており,無理強いするつもりまではなかったとしても,被害者の心情を今一度考えて同意書の作成を思いとどまる機会は十分に与えられていたのに,その機会を自ら無駄にした被告人の人格態度を非難することができるから,強要罪の故意責任を問うことはできるものと判断した。

 

大阪高裁判決平成21年01月23日

【事案】

 地方自治法が規定する常任委員会,議会運営委員会及び特別委員会以外の委員会又は会議(以下「法定外会議」という。)に出席した兵庫県議会議員に対して,兵庫県が費用弁償を行ったことは,条例に基づくものであったとしても違法であるとして,兵庫県の住民である控訴人らが,兵庫県知事である被控訴人に対し,地方自治法242条の2第1項4号に基づき,費用弁償を受けた各兵庫県議会議員に対する不当利得額(費用弁償を受けた額)及びこれに対する被控訴人の上記各兵庫県議会議員に対する将来の不当利得の返還請求の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求の義務付けを求める事案。

(参照条文)地方自治法

109条  普通地方公共団体の議会は、条例で常任委員会を置くことができる。
2 議員は、少なくとも一の常任委員となるものとし、常任委員は、会期の始めに議会において選任し、条例に特別の定めがある場合を除くほか、議員の任期中在任する。
3 前項の規定にかかわらず、閉会中においては、議長が、条例で定めるところにより、常任委員を選任することができる。
4 常任委員会は、その部門に属する当該普通地方公共団体の事務に関する調査を行い、議案、陳情等を審査する。
5 常任委員会は、予算その他重要な議案、陳情等について公聴会を開き、真に利害関係を有する者又は学識経験を有する者等から意見を聴くことができる。
6 常任委員会は、当該普通地方公共団体の事務に関する調査又は審査のため必要があると認めるときは、参考人の出頭を求め、その意見を聴くことができる。
7 常任委員会は、議会の議決すべき事件のうちその部門に属する当該普通地方公共団体の事務に関するものにつき、議会に議案を提出することができる。ただし、予算については、この限りでない。
8 前項の規定による議案の提出は、文書をもつてしなければならない。
9 常任委員会は、議会の議決により付議された特定の事件については、閉会中も、なお、これを審査することができる。

109条の2  普通地方公共団体の議会は、条例で議会運営委員会を置くことができる。
2 議会運営委員は、会期の始めに議会において選任し、条例に特別の定めがある場合を除くほか、議員の任期中在任する。
3 前項の規定にかかわらず、閉会中においては、議長が、条例で定めるところにより、議会運営委員を選任することができる。
4 議会運営委員会は、次に掲げる事項に関する調査を行い、議案、陳情等を審査する。
一  議会の運営に関する事項
二  議会の会議規則、委員会に関する条例等に関する事項
三  議長の諮問に関する事項
5 前条第五項から第九項までの規定は、議会運営委員会について準用する。

110条  普通地方公共団体の議会は、条例で特別委員会を置くことができる。
2 特別委員は、議会において選任し、委員会に付議された事件が議会において審議されている間在任する。
3 前項の規定にかかわらず、閉会中においては、議長が、条例で定めるところにより、特別委員を選任することができる。
4 特別委員会は、会期中に限り、議会の議決により付議された事件を審査する。ただし、議会の議決により付議された特定の事件については、閉会中も、なお、これを審査することを妨げない。
5 第百九条第五項から第八項までの規定は、特別委員会について準用する。

111条  前三条に定めるものを除くほか、委員会に関し必要な事項は、条例でこれを定める。

【判旨】

 法定外会議を設けることができるか否かについて検討するに,憲法は,地方公共団体の組織及び運営に関する事項は,地方自治の本旨に基づいて,法律でこれを定めるとし(92条),地方公共団体には,法律の定めるところにより,その議事機関として議会を設置すると定める(93条1項)。憲法の規定を受けて,地方自治法は,その第二編第六章に,議会についての詳細を定めるとともに,普通地方公共団体は,常任委員会,議会運営委員会,特別委員会の各委員会を設けることができるとし,かつ,各委員会の委員の構成,選任,委員会の所管事項,その審査・調査手続等を定め,かつ委員会に関し必要な事項を条例に委任する(109条ないし111条)。憲法は,地方公共団体の組織及び運営に関する事項については法定主義をとり,地方自治法は委員会としては上記3種類の委員会のみを認めるに過ぎないから,これらの委員会と同様の,議会の議事に関し,これらを調査し,かつ審議するような委員会や会議を,法律の根拠なく設けることはできないというべきである。しかし,一定の組織が設置された場合,その組織の運用に必然的に付随する庶務的事項に関する権限は,その設置とともに付与されたものということができる。また,地方公共団体の議会は,憲法がその設置を義務づける議事機関であって,非常に広範な権限を持つところ,その議会が求められている役割や機能を十全に果たすためには,議会自体が,自主的,自律的に協議し,調整し,決定して行かなければならない事項は多く存在している。地方分権の重要性が強調される今にちの状況下では,議会の自主性は尊重されるべきものであり,議会には,その地方の住民の付託に基づいて,その住民のために自主的,自律的に運営されることが期待される。そして,近時の議会の運営については,会派の活動を無視し得ず,会派の意見集約的機能を活用したり,そのための会派間の連絡調整を行うことが不可欠の状況となっている。これらに鑑みれば,地方公共団体の議会が自主的,自律的な活動をする上で,そのために必要な庶務的事項を処理したり,議会の適正,効率的な運用のために準備的,調整的な作業として,会派間の意見調整を含めた協議,調整を主とした議会運営における手続面の打合せ等を行う場を設けても,これは議会の運営に必然的に付随する事項ということができ,これを上記法定の委員会と同等の委員会であるとか,法律で定める事項であるということはできないのであって,地方自治の本旨に反するものでも,憲法や地方自治法の趣旨に反するものでもないというべきである。

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