平成20年度新司法試験論文
考査委員採点雑感&ヒアリング検討(行政法)

今回は、積み残していた平成20年度行政法の採点実感及びヒアリングを検討する(試験問題出題趣旨)。

最大の難点は手段の比較

本問の設問1は次のようなものだった。

(平成20年度新司法試験論文式行政法問題より引用、下線は筆者)

 勧告に従わなかった旨の公表がされることを阻止するために考えられる法的手段(訴訟とそれに伴う仮の救済措置)を検討し,それを用いる場合の行政事件訴訟法上の問題点を中心に論じなさい。解答に当たっては,複数の法的手段を比較検討した上で,最も適切と考える法的手段について自己の見解を明らかにすること。

(引用終わり)

複数の手段の比較検討が明示的に要求されている。
この点は、出題趣旨にも挙げられている。

(平成20年度新司法試験論文式行政法出題趣旨より引用、下線は筆者)

 様々な法的手段が考えられる中で,複数の法的手段を提案し,それらの比較を通じて最も適切と考える法的手段を提示しなければならない

(引用終わり)

しかし、実際にはこれがとても書きにくかった。
現場で比較のできた答案は、ほとんどなかったようだ。

(平成20年新司法試験の採点実感等に関する意見より引用)

 訴訟形式の選択について,比較の視点が希薄であり,実質的な検討が適切になされている答案は多くなかった。

(引用終わり)

 

(新司法試験考査委員(公法系科目)に対するヒアリングより引用、下線は筆者)

 訴訟形式の選択について,上から7つ目の●に,「比較の視点が希薄であり,実質的な検討が適切になされている答案は多くなかった。」と書いた点について,今回の問題に即して申し上げると,勧告の取消訴訟+執行停止と公表の差止め,仮の差止めを可能性として挙げた上で,例えば,公表の方は処分性を否定し,前者の勧告の取消訴訟+執行停止が最も適切であるとする解答,あるいは,公表に対する当事者訴訟を候補として挙げた上で,仮の救済がないから駄目ということで,勧告の取消訴訟を選択するという解答などが多かった。もっと両者につき,可能性を詰めて比較した上で,果たしてどちらが適切なのか,という十分な検討をしてほしかったところであるが,それがなされていない

 採点をしていて一番残念だと思ったのは,既に御指摘があったことであるが,訴訟形式の選択についての比較の視点がほとんど出ていないということであった。今回の行政法の問題の特徴というのは,複数の法的手段をまず考えた上で,それらを比較して,その中で最も適切な法的手段を選び出す,というところにあった。これは,通常の実務で行われる思考の方法,つまり,法的に幾つか考えられる手段について,それぞれのメリットやデメリットを考えて,適切な手段を選び出すというもので,まさに実務家の基本的な能力を試す,良い問題ではないかと思って見ていた。しかし,実際の答案は,そのような視点が出ているものは,ごく少数であり,多くの答案では,攻撃対象となる2つの公表と勧告というものがあるが,勧告には処分性がある,公表には処分性がない,だから勧告の取消訴訟だという,その程度のことしか書けていなかった。出題のねらいとしていた,理論的に考えられるものを選び出して,その中からメリット・デメリットを考えて,適切なものを選択していくという思想とは全く異なる答案がかなりの部分を占めており,その点が一番残念だった。やはり,まだ,個別事案を素材にして,そこに含まれる問題点を検討していくという実務的なあるいは実践的な教育というものが必ずしも十分にされていないということではないか,との感想を持った。

(引用終わり)

本問で比較検討をする視点として、要件と効果が考えられる。
もっとも、効果は比較すべき部分があまりない。
差があるとすれば、実質的当事者訴訟&仮処分には第三者効(行訴法32条)や内閣総理大臣の異議(同法27条)の準用規定がない(同法41条)ことくらいだろう。
この点は、本問では重要とはいえない。

そうすると、比較の主眼は要件論ということになる。
この手段はこの手段より○○の点で要件が厳しい、あるいは、緩やかである。
一般論としては、そのような論述が考えられるだろう。
しかし、本問では、詳細な事例が設定されている。
一般論を延々論じても、具体的にあてはめなければ、結論は出てこない。
端的にあてはめて結論を出すべきである。
どの手段の要件が厳しいのか、緩やかなのか。
そういったことは、あてはめの過程で明らかになる。
また、本問にあてはめると要件を充たさない手段を、いくら比較しても仕方がないということもある。

特に、本問では処分性に関する考え方次第で、採り得る法的手段が限定される。

(平成20年度新司法試験論文式試験問題出題趣旨より引用、下線は筆者)

 処分性の定義を前提として,勧告が処分に当たることを具体的に説明した上で,その執行停止を解答する場合には勧告の取消訴訟を論じることに加えて,行政事件訴訟法第25条所定の要件について検討する必要があろう。勧告の処分性を否定する場合には,勧告に対して公法上の当事者訴訟を提起するとともに,仮の権利救済手段として仮処分を検討することが考えられる。確認訴訟を利用する場合には,確認の利益を中心に詳細な検討が期待される。また,公表の処分性を肯定した上で,その差止め訴訟,仮の差止めを提案する解答もあり得る。この場合には,差止め訴訟の要件(行政事件訴訟法第37条の4)や仮の差止めの要件(特に,同法第37条の5第2項,第3項)について,法文の解釈や当てはめが的確になされていることが必要となる。さらに,公表の処分性を否定し,公表に対する民事の差止め訴訟ないし公法上の当事者訴訟を提案し,仮処分の可能性を検討することも考えられる。民事の差止め訴訟を選択する場合には,差止めを根拠付ける権利について詳細な言及が望まれよう。

(引用終わり)

処分性について一定の立場に立つことを明示すれば、それにより比較の対象が消滅する。
具体的には、処分性を肯定すれば実質的当事者訴訟(及び仮処分)の途は閉ざされる。
他方、処分性を否定すれば、取消訴訟(及び執行停止)や差止め訴訟(及び仮の差止め)の余地がなくなる。

また、勧告の執行停止の手段を採るとして、具体的に何を執行停止するのか。
勧告は既に終了しているから、その執行は観念できない。
それから、処分性を認めるとしても、勧告自体に法的効力がないことには変わりがない。
そうすると、効力停止も観念しがたい。
従って、勧告から公表、措置命令、業務停止命令、開設許可取消しまでを一連の手続とみて、その続行を停止するよりない。
そのような立場からすると、一連の手続から公表のみを独立した処分として問題にし、比較する意味がない。
そうなると、公表の差止め(及び仮の差止め)を検討する場合、上記理解に立たないのが前提となる。
すなわち、勧告を争う場合は仮の救済が難しいという立場を採ることになる。
だとすると、やはり比較の対象がない。
結局、ある手段を採ろうとすると、論理的にその他の比較対象はないことになってしまう。

採点実感やヒアリングでは、上記のように処分性等で手段を絞るのは出題意図に沿わないという。
そして、「もっと両者につき,可能性を詰めて比較した上で,果たしてどちらが適切なのか,という十分な検討をしてほしかった」
あるいは、「メリット・デメリットを考えて,適切なものを選択していくという思想」が必要だったという。

しかし、論理的に詰めると手段が一つに絞られてしまう。
では、どう書けばよいのか。
メリット・デメリットとは具体的にどのようなものを想定していたのか。
その点については、出題趣旨、採点実感、ヒアリングは沈黙している。
一つ考えられる書き方は、理論的な断定を避ける方法である。
「処分性が否定される可能性が高い」とか「○○の要件を充たさない可能性がある」などとする方法だ。
原告の立場からすれば、処分性や要件充足の有無につき裁判所の判断を予測するよりない。
従って、可能性の問題とするのは適切に思える。
また、これならば複数の方法を並立させても答案として矛盾がない。
しかし、そのような書き方も、考査委員の意に沿わないようである。

(平成20年新司法試験の採点実感等に関する意見より引用、下線は筆者)

2 採点方針

・救済手段の選択については,評論家風な解答ではなく,「自己の見解」が示されているか否かを採点に当たって重視することとした。

(引用終わり)

 

(新司法試験考査委員(公法系科目)に対するヒアリングより引用)

 法律文書の書き方が分かっていない,と思われる答案も散見されたところである。例えば,・・・結論として自分の意見を明確に述べるのではなく,「可能性が高い」といったように評論家風のまとめ方をしているものが目に付いた。

(引用終わり)

これでは、どう書いてもダメということになる。
解く側からすれば、これは悪問だろう。
しかし、本問は考査委員や試験委員だけでなく、ロー関係者からも良問と評価されている。

(新司法試験考査委員(公法系科目)に対するヒアリングより引用、下線は筆者)

考査委員 これは,通常の実務で行われる思考の方法,つまり,法的に幾つか考えられる手段について,それぞれのメリットやデメリットを考えて,適切な手段を選び出すというもので,まさに実務家の基本的な能力を試す,良い問題ではないかと思って見ていた。

試験委員 行政法の論文式試験の問題は,かなり良い問題であると思う。

(引用終わり)

 

平成20年度新司法試験に関するアンケート調査結果報告書より引用、下線は筆者)

 回答を寄せた64校のうち、「適切」と評価したのが37校(57.8%)、「どちらかといえば適切」が20校(31.3%)、「どちらともいえない」が6校(9.4%)、「どちらかといえば適切でない」はゼロ、「適切でない」が1校(1.6%)であった。消極的な評価を与えたのは1校のみであるから、なかなかの良問であったと言ってよいと思われる。

(引用終わり)

本問は、一見すると、確かに良問に見える。
しかし、実際に答案化しようとすると、上記のような難点にぶち当たる。
これは、実際に答案を書いてみないとわからない。
おそらく、試験委員やロー関係者は、実際に答案を書いていないのだろう。
考査委員も、作問にあたり抽象的に「こんな感じ」程度のものは想定しても、具体的な文章化はしていないと思われる。
これが、本試験独特の難しさを作っている。
予備校の答練では、模範解答を作成して提示しなければならない。
また、採点基準もレジュメに載せるのが通常だ。
そのため、実際には解答ができないような問題は、出題されない。
(逆にそのことが、平板な論点組合せしか出題できない理由になっている。)
しかし、本試験はそのような制約がない。
よく、「さすが本試験」と言われることがある。
それは、考査委員のレベルが高いために生じると思われている。
しかし実際には、単に無責任な作問であることに起因している場合も多い。
過去問を検討する場合には、その辺りにも注意する必要がある。
このような場合に、再現答案は参考になる。

(新司法試験考査委員(公法系科目)に対するヒアリングより引用、下線は筆者)

試験委員 出題の趣旨はできるだけ問題文自体で明らかになるようにした上で,本来の土俵の中で勝負させる工夫が必要であると思う。ところで,与えられた事実を自分の見解に都合の良いようにだけ取り上げるとか,あるいは自分の見解と合致するような事実だけを取り上げて,それ以外の事実には言及せず,切り捨ててしまうというような答案でも合格ラインに達しており,また,直近の先輩受験生がそのような答案でも合格したとなると,法科大学院の学生の勉強方法がそのような方向に流れてしまうのは避けられないという懸念も考えられるがどうか。

考査委員 その点は,初年度から申し上げてきた危惧である。受験雑誌などで,実は「優秀答案」とも「模範答案」とも言えない答案が,「優秀答案」・「模範答案」として流布し,後輩がそれを覚えるという形になってしまうことに,大きな問題を感じている。

(引用終わり)

書きようがない問題について、いかにごまかして踏みとどまるか。
考査委員が全然評価しないのに上位の結果を出す答案とは、そういう意味で参考になる。
本問の上位再現答案の多くは、ほとんど比較ができていないだろう。
または、論理的整合性は無視して、とりあえず比較して上位になったものもあるかもしれない。
そのような答案は、「この程度で上位か」という視点でみるべきでない。
「なるほどこういう逃げ方があるのか」という視点で参考にすべきである。
無難に逃げる方法というのは、正解を探求するより難しい。
逃げ方を間違えると、考査委員の逆鱗に触れる。
最悪、足切りに至ることもある。
これは、基本書等には絶対に書いていない。
本問における上位再現答案は、その意味で貴重な資料である。

行訴法44条について

採点実感及びヒアリングでは、以下のような指摘があった。

(平成20年新司法試験の採点実感等に関する意見より引用)

 当事者訴訟に仮の救済なしとするもの,または,行政事件訴訟法第44条によって仮処分が排除されているとするものが少なからず見られた。

(引用終わり)

 

(新司法試験考査委員(公法系科目)に対するヒアリングより引用)

 当事者訴訟に関する仮の救済について,相当数の答案に誤解が見られた。ここに記載したように「仮の救済がない」とか,あるいは「行政事件訴訟法第44条によって仮処分が排除されている」という理解をしている答案が相当数見られた。この行政事件訴訟法第44条は「公権力の行使」に関する排除についての規定であり,一般的に排除されているわけではない。我々考査委員からすると,そのような答案がかなりの数見られたので,なぜこういう誤解が生まれたのかが不思議でならない。
 ただ,法科大学院の授業を通して見た場合,当事者訴訟の活用ということは,2004年の行政事件訴訟法の改正があり,学習すべき対象となっているが,仮の救済にまでは言及されていなかったのではないか,ある意味ではそこが抜け落ちていたのかもしれないと思う。今回出題・採点して改めてそう感じており,今後の法科大学院での教育に生かしていただきたいと思う。

 仮の救済がないということ自体は,おかしいと考えてほしい。それを,当然のように当事者訴訟だから仮の救済はないから機能しないという書き方をされるのはどうかと感じている。行政事件訴訟法第44条の仮処分の排除についても,確かにそこまで十分に教えられていないという実情ではあるが,法文を見れば該当条文が存在しており,44条を読めば,公権力の行使と書いてある。
 処分性を否定した上で当事者訴訟を選んでいるにもかかわらず,なぜまた公権力の行使でひっかかるのか,やはり我々考査委員としてはショックであった

(引用終わり)

行訴法44条は補則にあるものの、その適用対象は抗告訴訟である。
このことは、条文の文言から読み取れる。

行訴法3条1項

 この法律において「抗告訴訟」とは、行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟をいう。

行訴法44条

 行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為については、民事保全法(平成元年法律第九十一号)に規定する仮処分をすることができない。

また、立法当時の議論においても、そのような趣旨だった。

参院法務委員会昭37年04月03日より引用、下線は筆者)

○参考人(高木右門君) 補則の「(処分の排除)」の問題でありますが、現行法では第十条の執行停止の条文のうちに一項として規定しておるのでありまして、したがって、抗告訴訟と言うよりは、取り消し訴訟だけの規定であるというふうにも解釈できる余地を残しているのでありますが、この法案のように、補則の中に仮処分の排除という形で出されますと、単に取り消し訴訟だけにとどまらず、その他の無効確認あるいは不存在確認の訴え、その他の訴訟にもすべて適用されるということにならざるを得ないようであります。そこに四十四条には「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」ということで、大体抗告訴訟だけに限るようなふうにも見えるわけでありますが、何と申しましても、補則に規定されているということによって拡張解釈されるおそれがあるということであります。

(引用終わり)

 

衆院法務委員会昭37年04月20日より引用)

○松井(誠)委員 普通の民事訴訟の場合と、行政訴訟の場合とで、もちろんいろいろ違うわけですけれども、一番大きい違いは、たとえば当事者訴訟の場合には執行停止の規定の準用がない。普通の民事訴訟の場合には仮処分というものができる。そうしますと、普通の私法上の訴訟であるか、行政上の訴訟であるかということによって、執行停止ないし仮処分ができるかできないかということで非常に違ってくることになりますけれども、先ほどお伺いしました給与を支払え、公務員の身分をまだ持っておるんだから給与を支払えというのが、公法上の法律関係に関する争いであって、当事者訴訟だということになりますと、執行停止というものができない。もしこれが民事上の争い吏ということになれば、また仮処分というものを裁判所が許せば、それはできるということになるわけですが、公法か私法かという問題によって、そのように執行停止ないし仮処分という問題をめぐって取り扱いが非常に違ってくるわけですね。ですから、この行政上の訴訟についても、いわゆる公法上の仮処分というものを認めて、そして私法上の争いであるか公法上の争いであるかということによって格段の相違というものがないというような形にされた方がよかったのではないかということを考えるわけですけれども、この点は御考慮になったこともあると思いますけれども、いかがでございますか。

○浜本政府委員 ただいまの御設例の場合について申し上げますと、公法上の関係でありましても、給与を支払えという場合には、七条によりまして、規定のない事項については民訴の例によるということになりますので、仮処分ができることになると思います。

○松井(誠)委員 さっきこれは当事者訴訟だとお答えにはならなかったでしょうか。

○浜本政府委員 当事者訴訟ではありますけれども、規定のない事項については第七条によることになるわけです。

○松井(誠)委員 この当事者訴訟の準用の規定、四十一条の準用の規定では、わざわざ執行停止の規定をはずしておるわけなんです。これだけを読みますと、当事者訴訟には執行停止の規定は準用はないのだというふうに読まざるを得ない。今の御説明ですと、準用するということを書いてないから、準用するかいなかということは、第七条に書いてある法律に定めがないということに入るのだというような御説明でしたけれども、どうもわれわれの法律常識からいうと、少しおかしいのですが、やはりそれでいいんでしょうかね。

○浜本政府委員 その点については規定をしておらぬわけでありますから、執行停止を準用するのじゃなくして、民事訴訟の例によるわけですから、保全処分ができるということになるというのが私どもの解釈であります。

(引用終わり)

 

参院法務委員会昭37年05月07日より引用、下線は筆者)

○説明員(杉本良吉君) 四十四条の規定というのは、これは現行の行政事件訴訟特例法の十条の七項の規定をここに移しただけでございまして、その趣旨は変わっていないつもりでおります。そこで、なぜ執行停止の規定から特に取りはずして、第五章の補則のところに移したかということになると思いますが、これは、現行法の規定の位置が大体がおかしいじゃないかという意見が多うございまして、現行法は、この十条の七項として、仮処分に関する規定の排除の規定を設けておりますけれども、それは、何も本案が行政処分の取消訴訟であるというような問題じゃなくて、行政庁の処分については、民事訴訟の仮処分の規定を適用しないわけですから、そういうことになりますと、その本案が、行政事件の場合もありますし、民事事件の場合もある。とにかく行政庁の処分については仮処分の規定を適用しない。そういう趣旨であるとしますならば、これを本法案について申しますと、二十五条のところに引き続いて置くというのは、むしろおかしいわけでございますので、補則のところに移したわけでございます。制度の趣旨といたしましては、従来からの趣旨を受け継いでいるわけでございまして、趣旨においては変わりはないというふうに考えます。

(引用終わり)

従って、処分性を否定しておきながら44条で仮処分がないとするのは、誤りである。
(処分性を肯定した場合に「44条により当事者訴訟の手段では仮処分ができない」とするのは正しい。)
しかし、これは間違えた受験生ばかりを責めるわけにはいかない。
ローでは、そこまで講義で教えていないのが現状だからである。

(新司法試験考査委員(公法系科目)に対するヒアリングより引用)

 法科大学院の教育では,仮処分について,当事者訴訟ではどうかということは,多分授業で直接は教えない。仮に出題されるとしても,短答式試験のレベルの問題として当然自分で勉強するもので,法科大学院においては,先生が教えるというよりも,自習領域になるのではないだろうか。

(引用終わり)

受験生の立場からすれば、これは納得できるものではない。
ローの講義では扱わないものを、本試験は正面から訊いてくる。
真面目に講義を受けても、これでは対応できない。
そのような感覚を与えるだろう。
受験生の法科大学院に対する不信感には、考査委員の出題の仕方にも原因がある。
考査委員からすれば、「こんなの現場で条文引けばわかるだろ」ということだろう。
しかし、それは結論を知識として知っている人が言えることである。
いきなり条文をみて、本当に処分以外の場合は仮処分でいいのか。
仮処分だとすれば、民事保全法の話になるが、本当にそれでいいのか。
本試験の緊張感の中で、そういった疑念を払拭するのは無理があるように思われる。

なお、行訴法44条で仮処分が排除されるわけではないと知りつつ、敢えて仮処分を否定した人もいたかもしれない。
仮処分を論ずると民事保全の話になり、行政法の枠や、自分の知識で処理できる範囲を超える。
そこで、誤りであっても、紙幅や時間を節約するため、敢えて44条で仮処分を排除した。
これはこれで、現場における一つの判断としてあり得たと思う。
多くの人が同じ誤りをしているし、逆に仮処分を十分論述できた人はほとんどいないだろう。
そうであるなら、敢えて他の部分で勝負し、ここは捨てる。
これは、短答でも同様の場面がよくある。
本試験では、そういう判断も必要である。
そのような訓練は、答練等の演習でしかなし得ない。

違法性の承継について

違法性の承継について、以下のような指摘がある。

(平成20年新司法試験の採点実感等に関する意見より引用)

 調査の違法が勧告に及ぼす影響について,専ら「違法性の承継」の問題として解答をしている答案が少なくなかった。

(引用終わり)

 

(新司法試験考査委員(公法系科目)に対するヒアリングより引用、下線は筆者)

 「調査の違法が勧告に及ぼす影響について,専ら『違法性の承継』の問題として解答をしているという答案が少なくなかった。」と書いているが,これは,調査と勧告の関係について,先行処分と後行処分の関係として論じて,原則として違法性の承継は認められないから違法性は及ばない,と結論付けた答案のことを指摘している。つまり,形式的に,先行処分と後行処分との関係における違法性の承継の問題として論じているようなものを指しているのである。中には,調査と勧告の密接な関係を具体的に検討・指摘した上で,調査の重大な違法が勧告の違法を帰結するという判断の結論部分で,「だから違法性は承継される。」という表現を用いている答案もあったが,そのようなタイプの答案については,実質的な分析はされているので,必ずしもマイナスの評価をしているわけではない

(引用終わり)

違法性の承継の問題が、先行「処分」と後行「処分」の関係の問題であることを理解していない答案。
単に調査の違法が勧告の違法に結びつくことを(広義の)「違法の承継」と表現したにとどまる答案。
前者は誤りであるが、後者は間違いではない。
違法性の承継に関しては、刑訴の毒樹の果実論と同じだろうというように漠然と捉えている人が多い。
ポイントは、公定力との関係である。

最大判平20・9・10、近藤崇晴補足意見より引用)

 ある行政行為について処分性を肯定するということは,その行政行為がいわゆる公定力を有するものであるとすることをも意味する。すなわち,正当な権限を有する機関によって取り消されるまでは,その行政処分は,適法であるとの推定を受け,処分の相手方はもちろん,第三者も他の国家機関もその効力を否定することができないのである。
 そして,このことがいわゆる違法性の承継の有無を左右することになる。すなわち,先行する行政行為があり,これを前提として後行の行政処分がされた場合には,後行行為の取消訴訟において先行行為の違法を理由とすることができるかどうかが問題となるが,一般に,先行行為が公定力を有するものでないときはこれが許されるのに対し,先行行為が公定力を有する行政処分であるときは,その公定力が排除されない限り,原則として,先行行為の違法性は後行行為に承継されず,これが許されないと解されている(例外的に違法性の承継が認められるのは,先行の行政処分と後行の行政処分が連続した一連の手続を構成し一定の法律効果の発生を目指しているような場合である。)。

(引用終わり)

本問の場合、調査が公定力を有する行政処分でないことは明らかである。
従って、違法性の承継の問題とはならない。
長文の事例問題が出題される新試験では、違法性の承継が問題となる場面が生じやすい。
正確に理解しておきたいところだ。

他科目より全体のレベルは低い

今後の対策をするにあたり、留意すべきこと。
それは、行政法は他科目より全体的な受験生のレベルが低いということである。

(新司法試験考査委員(公法系科目)に対するヒアリングより引用)

 行政法については,全体としてみると,3回目で大分慣れてきたのではないか。逆に言うと,1回目が余りにもできていないという評価であり,出発点が憲法と比べて行政法は低かったということがあるのではないかと思う。これからが本格的に教育の真価が問われるということになるのではないかと思う。

(引用終わり)

この原因は、選択科目廃止以降の旧司法試験に行政法科目が存在しなかったことにある。
そのため、行政法については、他の科目ほど突き詰めて理解しようとする必要はない。

全体のレベルが低いのであれば、むしろその科目を完璧に仕上げて差を付けるチャンスではないか。
そう思う人もいるかもしれない。
しかし、それは努力の割りに成果が出ない(「司法試験得点調整の検討」32頁〜33頁参照)。
満遍なく、どの科目も安定して上位30%に入る。
そういうイメージで勉強するのが効率的だ。
自分が受験生全体のどの辺りに位置しているか。
それを把握するために、予備校の答練等を利用する。
自分の位置を把握していないと、自分自身の理解度(納得感、もやもや感のようなもの)を基準に勉強してしまいがちだ。
それは、時として特定科目や特定分野に偏った勉強になる。
それを避けるためにも、定期的に答練等を受けるのは有益である。

多くの事例に触れる

採点実感やヒアリングでは、個別法・個別事案の判断力が弱いという指摘がある。

(平成20年新司法試験の採点実感等に関する意見より引用)

 行政救済法と行政作用法(総論)とに分けた場合,後者の分野での理解になお不足が感じられる個別法・個別事案を素材として,行政活動の適法・違法を具体的かつ的確に判断する力を養うことが求められ,その意味で,より実践的・実務的教育が行われることが期待される

(引用終わり)

 

(新司法試験考査委員(公法系科目)に対するヒアリングより引用)

 法科大学院に求めるものとして,「個別法・個別事案を素材として,行政活動の適法・違法を具体的かつ的確に判断する力を養うことが求められ,その意味でより実践的・実務的な教育が行われることが期待される。」と記載しているが,これは,個別法についての知識の習得そのものを求めるものではなく,実体法と手続法の両面における違法性判断の,いわばセンスを磨くための学習を期待しているという趣旨である。

(引用終わり)

行政法の特徴は、特別法が絡むことが多いという点だ。
普段ほとんど触れたことのない法令が、突然出題される。
事前の学習で、そのような個別法を全てフォローするのは不可能だ。
上記の通り、考査委員もその知識の習得を求めているわけではない。
ただ、「さすがにこの事例ならこの文言には当たらないだろう」「形式的には当たりそうだが、これはやりすぎではないか」。
そういった感覚を養って欲しいということである。

同時に、法令の一般的な読み方や適用の手順といったもの。
そういったものを知っていれば、参照条文から一定の結論を導くことができる。
そのような一般的な法の適用・解釈の知識については、予め身に着けておく必要がある。

(平成20年新司法試験の採点実感等に関する意見より引用)

 行政手続法と行政手続条例との適用区分について,正確な理解ができていない答案が少なからずあった。

 法令の条文を適切に理解して当てはめることができず,論点を見つけると憲法や行政手続法(条例)を安易に援用して論ずる例が目立った。論点主義ではなく,基本的な法制度の仕組みを条文と照らし合わせながら理解する地道な学習が求められる。

(引用終わり)

考査委員は、法科大学院での学習として、そのようなものを求めているようである。
ただ、受験生の立場からは、ローに期待しているだけではダメだろう。
上記のような個別法の解釈適用の感覚や、基本的な知識。
これを養う最も良い方法は、多くの事例に触れることである。
当サイトでは、司法試験に関連する事項を含む下級審裁判例を多く掲載している。
その趣旨は、上記のような学習に資するためである。
最高裁判例とは異なり、判旨を覚えたり、その当否を厳密に検討する必要はない。
そんなことをしていたら、とても処理しきれないだろう。
ざっと読み流して、こんな感じで処理されているのだな、と感じてもらえればよいと思っている。
行政法に関しては、司法試験平成18年行政法裁判例集(上)司法試験平成18年行政法裁判例集(下)司法試験平成19年行政法裁判例集(上)司法試験平成19年行政法裁判例集(下)も試みに作成している。
まとめて、一気に読み流すには良い教材ではないかと思う。
特に行政法は、基本書と実際に問題となる論点との乖離が大きい。
法科大学院の講義でも、裁判例を素材にすることはよくある。
しかし、講義の性質上、数をこなすことは難しい。
それを補充する意味でも、当サイトをうまく利用してもらえれば幸いである。

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