平成22年度旧司法試験択一の感想(下)

民法について

今年度は、民法が一番のポイントである。
知識問題がメインであったことには、変わりがない。
もっとも、その中に時間のかかる問題が織り混ぜられている。

第23問、第25問、第28問、第29問、第37問、第38問などである。

第23問と第38問は、同じような問題である。
内容的には易しい問題だ。
しかし、二つの見解を各肢にあてはめる作業を要する。
これが、案外時間がかかる。
内容は簡単だから、飛ばすわけにもいかない。

第25問は、要は中断が生じているか、信義則上援用できなくなっていないか。
そういうことを訊いているだけである。
これも、アイエが明らかなので、内容は易しい。
ただ、「妨げになる」の部分を○×で表現しにくい。
「妨げになる」を○として記入していると、途中で援用できないから×などとしてしまったりする。
それで混乱し、再度確認したりして、時間をロスしがちだ。
かといって、各肢に「妨げになる」「ならない」などと書き込んでいると、それもそれで時間をロスする。
また、一応時効期間の計算をしないわけにはいかない。
どれも合計は11年で、なんと言うこともない足し計算だが、本試験だと意外に精神的負担となる。
そして、なにより、こういうどうでもいいところで、時間をロスしているな。
そういう感覚自体で、またイライラしてしまったりする。
このようなちょっとしたことが、その後の出来に案外影響する。

第28問は、今年度の民法で一番の難問である。
これは、いかに早く捨てたか、という点が重要である。
まず、そもそも一括競売自体が15年改正事項で、かつ、マイナー分野である。
その要件を覚えていなければ、解けない。
そして、要件を覚えていても、各肢の利用権の成否の判断も必要となる。
さらに、問題文の冒頭で乙建物が未登記であること(借地借家10条の対抗力が生じない)等、見落としやすい要素も盛り込まれている。
これを解いても、1点である。
現場の勘としては、アイのみが抵当権登記前の築造である(オの再築については無視する)。
だから、アイの1でいいや、とやっておくと、正解できた。
本試験は、わざとなのか、こういう安易な方法で正解できる場合がたまにある。

第28問の次の第29問は、嫌な位置にある。
内容自体は契約各論の条文を押さえていれば、解けるものである。
ただ、それなりに時間がかかるし、急いでいると、読んでいて頭が混乱しやすい。
第28問で時間を浪費して、焦った状態で第29問にとりかかると、つまらないミスをしやすい。

また、第37問は、問題文が短い割には、図を描いて計算する必要がある。
内容的には、相続分の正確な知識があれば、難しくはない。
しかし、時間がないと厳しい問題である。

他方、第26問は憲法の穴埋めに似た形式で、一見面倒そうである。
しかし、これはむしろ短時間で解ける。
こういう問題を飛ばしてしまうのは、非常にもったいない。

これまでの過去問や、普段の答練などでは、民法は時間がかからない。
だから、民法を先に解いて時間を余し、刑法の論理に取り組む。
または、刑法の論理をじっくり先に解き、多少時間が厳しくても民法は大丈夫。
そういう感覚で解いている人が多い。
そのため、憲法や刑法は多少面倒でも我慢してじっくり解ける。
しかし、民法はすいすい解けないと我慢ならない、ということになりやすい。

先に民法を解いていて、いつものようにスイスイ解けない。
時間がかかってしまう。
これは、焦りに繋がる。
また、刑法をがっちり解き、もう40分しかないが、後は民法だから平気だろう。
そう思っていたら、予想外に時間がなくなってきた。

上記のような状況に陥らずに済んだかどうか。
それが、案外合否を分けることになったかもしれない。

知識問題の中味も、例年より厳しい問題が多かったという印象だ。
第31問などは、条文問題ではあるが、かなり細かい。
これは落としても仕方がないだろう。
親族分野の第24問、第34問も、難しい。
また、第35問は、エとオが新判例である。
エは、最判平20・7・4(先輩後輩ではなく、婚約者に、停車中のパトカーではなく対向車との衝突に改変されている)。
オは、最判平19・4・24である。
いずれも、当サイトの肢別問題集で出題している。

(本試験第35問エ)

 Aが,婚約者であるBと運転を交代しながら二人乗りでバイクの暴走行為をし,Bの運転中に,Bの過失と対向車を運転していたCの過失により死亡した場合,CがAの相続人Dに対して負うべき損害賠償額について,Bの過失割合に相当する分を減額することはできない。

司法試験平成20年最新判例肢別問題集民法第8問)

【問題】

 以下の事実関係の下では、Bの相続人がパトカーの運行供用者に対してした自動車損害賠償保障法3条に基づく損害賠償請求訴訟において、裁判所はAの過失をBの過失として考慮することはできない。以下略。

【解答】

 誤り(最判平20・7・4)。
 「前記事実関係によれば、AとBは、本件事故当日の午後9時ころから本件自動二輪車を交代で運転しながら共同して暴走行為を繰り返し、午後11時35分ころ、本件国道上で取締りに向かった本件パトカーから追跡され、いったんこれを逃れた後、午後11時49分ころ、Aが本件自動二輪車を運転して本件国道を走行中、本件駐車場内の本件小型パトカーを見付け、再度これから逃れるために制限速度を大きく超過して走行するとともに、一緒に暴走行為をしていた友人が捕まっていないか本件小型パトカーの様子をうかがおうとしてわき見をしたため、本件自動二輪車を停止させるために停車していた本件パトカーの発見が遅れ、本件事故が発生したというのである(以下、本件小型パトカーを見付けてからのAの運転行為を「本件運転行為」という。)。
 以上のような本件運転行為に至る経過や本件運転行為の態様からすれば、本件運転行為は、BとAが共同して行っていた暴走行為から独立したAの単独行為とみることはできず、上記共同暴走行為の一環を成すものというべきである。
 したがって、上告人との関係で民法722条2項の過失相殺をするに当たっては、公平の見地に照らし、本件運転行為におけるAの過失もBの過失として考慮することができると解すべきである」と判示した。

(本試験第35問オ)

 Aが,Bの運転する自動車に同乗中に,Bの過失と対向車を運転していたCの過失による交通事故によって負傷した場合,AとBが婚姻届を出していない内縁関係にあるとき,CがAに対して負うべき損害賠償額について,Bの過失割合に相当する分を減額することができる。

司法試験平成19年度最新判例肢別問題集民法第6問)

【問題】

 内縁の夫の運転する自動車に同乗中に、第三者の運転する自動車との衝突事故により傷害を負った内縁の妻が、第三者に対して損害賠償を請求する場合、その賠償額を定めるに当たっては、内縁の夫の過失を被害者側の過失として考慮することはできない。

【解答】

 誤り(最判平19・4・24)。
 「内縁の夫婦は、婚姻の届出はしていないが、男女が相協力して夫婦としての共同生活を営んでいるものであり、身分上、生活関係上一体を成す関係にあるとみることができる。そうすると、内縁の夫が内縁の妻を同乗させて運転する自動車と第三者が運転する自動車とが衝突し、それにより傷害を負った内縁の妻が第三者に対して損害賠償を請求する場合において、その損害賠償額を定めるに当たっては、内縁の夫の過失を被害者側の過失として考慮することができると解するのが相当である」と判示した。

もっとも、これを知らなくても、アイウを判断できれば正解できる。

確実に取りたい問題は14問。
21、22、23、25、26、27、29、30、32、33、35、38、39、40である。
これらのうち、2問落としたとして12点。
なんとか取りたい問題は、3問(24、36、37)。
これらのうち、1問取って、13点。
落としても仕方がないのは3問(28、31、34)。
これは取れなくてもよい。
民法では、13点は取りたい。

刑法について

刑法は、全体的に標準的か、やや易しい難易度といえる。
ただ、昨年度が易しすぎたため、今年度は体感的に難しく感じたかもしれない。

近時よく出題されるαβ問題は、今年度も出題された。
第43問、第53問、第60問である。
これらは、どれも易しい部類に入る。
論点1と論点2相互の論理的整合性を気にする必要がないからだ。
ただ、第53問については、独立燃焼説のあてはめで、1か2のどちらか迷う。
これは、最判昭23・11・2の知識であり、既遂の1が正解だろう。

第41問もαβ問題類似の問題である。
第43問等とは違って事例が2つあり、複雑そうにみえる。
しかし、この問題も論点相互間の論理関係に気を配る必要がない。
それだけでなく、論点の対象が限定されているため、解き易い。
論点1は、事例にかかわらず@なら間接正犯、Aなら教唆犯となる。
表をみると、CDが間接正犯の結論を採っている。
各学生の見解はいずれも異なるのであるから、この時点で、CDが@、ABがAと確定する。
そして、論点2は事例Uでのみ問題となる論点である。
Bなら未遂、Cなら既遂である。
ここで注意すべきは、表の「間接正犯」「教唆犯」はいずれも既遂である点だ。
そうすると、事例Uで既遂としているのは、AとDとなる。
従って、BとCがB、AとDがCに確定する。
正解は4ということになるだろう。

今年度は、穴埋めの知識問題らしき問題が2問(第46問、第58問)出題されている。
これらは、知識を知らないと無理なようにみえる。
しかし、いずれも細かい知識は不要である。

まず、第46問を見てみよう。
最初のBの発言をみると、以下のようになっている(下線は筆者)。

 ( @ )等に関する特例も( A )等に関する特例も,ともに犯人と( B )との間で犯罪が犯された場合に刑が必要的に免除されるという点までは一緒だが,( A )等に関する特例の場合は,更に犯人と( C )との間で犯罪が犯された場合も刑が必要的に免除されることになっているね。
 これに対して,( D )等に関する特例の場合は刑が任意的に免除されるにとどまるが,犯人と( E )の関係があればその対象とされている。

B、C、Eは、いずれも親族関係に関する語句が入るとわかる。
該当する語句は、イ(親族)、ク(配偶者、直系血族及び同居の親族)、ケ(直系血族及び同居の親族の各配偶者)である。
そして、CはBに追加される関係にあることがわかる。
仮に、B又はCにイが入るとすると、他方の穴に何を入れても文章が成り立たない。
そして、クとケの関係をみると、クに追加してケ、という関係が成り立つ。
そうすると、Bにク、Cにケ、Eにイが入るとわかる。
また、最後のBの発言は、以下のようになっている(下線は筆者)。

 僕は,( @ )に関する特例の場合はその犯人と( F )の( G )の間に( B )の関係があることが,( A )等に関する特例の場合はその犯人と( H )との間に( B )又は( C )の関係があることがそれぞれ必要となり,( D )等に関する特例の場合はその犯人と( I )との間に( E )の関係があることが必要となると考える。

FG、H、Iには、犯人と親族関係を要する者に対応する語句が入る。
該当する語句は、ア(財物)のウ(占有者及び所有者)、キ(本犯たる財産罪の犯人)、コ(罰金以上の刑に当たる罪を犯した者又は拘禁中に逃走した者)である。
そうすると、「FのG」の部分は、Fにア、Gにウしか入り得ない。
この時点で、Bにク、Cにケ、Gにウが入るとわかる。
よって、5が正解である。

次に、第58問を見てみる。
まず、「犯罪組成物件、すなわち( F )」と「犯罪生成物件、すなわち( K )」に着目する。
該当しうる語句は、オ(犯罪構成要件の要素となっている物)とカ(犯罪行為によって存在するに至った物)である。
これをみれば、通常の語感から、Fにオ、Kにカが入るとわかる。
そして、問題文最後の行の「( A )などが犯罪生成物件に当たり」に着目する。
該当しうるのは、イ(賭博によって得た金銭)、ウ(通貨偽造罪における偽造通貨)、エ(偽造文書行使罪における偽造文書)、ク(窃盗犯人が自ら窃取した盗品の運搬に使用した当該犯人所有の自動車)である。
賭博によって金銭は生成されず、偽造文書を行使して偽造文書が生成されるわけでもなく、ましてや窃盗によって自動車が生成されるはずはない。
他方、偽造通貨は通貨偽造罪によって生成される。
従って、Aにはウが入るとわかる。
そして、最後に「( I )と考えれば没収し得るが,( J )と考えると没収することはできない」に着目する。
該当しうるのは、コ(犯罪供用物件は,構成要件に当たる行為に供した物に限定すべきである)と、シ(構成要件に当たる行為自体に供した物のほか,犯罪完了後その結果を確保するための用に供した物も犯罪供用物件に含まれる)である。
「限定すべきである」と「〜のほか、〜も〜に含まれる」という文言から、Iにコ、Jにシが入るとわかる。
この時点で、Aにウ、Fにオ、Jにコが入ることがわかる。
よって、3が正解となる。

今年度は、穴埋めが多数出題された。
これは、近時の傾向である。
論理問題の穴埋めには、大別して2種類がある。
一つは、決定的なヒントとなる文章を発見して芋づる式に埋める問題。
もう一つは、理由、批判となる選択肢の数と、穴の数を対応させて解く問題。
一般に、前者は易しく、後者が難しい。
今年度は、前者しか出題されていない。
その意味で、穴埋めは解き易かった。

第45問は、4か5か迷う。
JとKの穴をエウの順に入れるか、ウエの順に入れるか。
それによって、答えが変わる。
しかし、いずれでも意味が通る。
ウについては、甲乙は犯罪収益の帰属を共通にする関係であるから「一体の関係」といえる。
また、乙が事務処理者甲をいわば買収して任務違背行為を正に作り出したともいえる。
エについては、乙がX銀行を支配していれば、貸し手のXと借り手のYはいずれも乙が支配しているから「一体の関係」といえる。
また、乙がX銀行に対する支配力を行使して甲に融資させたのであれば、任務違背行為を正に作り出したといえる。
もっとも、問題文「事例」では、甲の個人的責任回避の動機が挙がっている。
従って、「任務違背行為を正に作り出した」というためには、甲個人の動機以上の原因を基礎付ける事情が必要である。
その観点からは、エは弱い。
乙が支配力を行使して甲に融資させたという具体的事情が、示されていないからである。
他方、ウでは、利益分与の約束という、任務違背を動機付ける具体的事情が示されている。
そうすると、Jにエ、Kにはウという方に分がありそうである。
従って、正解は5ということになるのではないか。

第51問は、F、J、Lとアイウの対応が難しい。
決定的といえるヒントがないため、どれも入りそうにもみえる。
ただ、Fは出火について高度の予見可能性を要求する立場である。
これと対応するのは、ウである。
また、Lは「一般に広く知られており」の後に続くから、予見は容易とするアが入る。
Jには、消去法でイが入り、正解は2ということになりそうだ。

刑法については、極端に難しいという問題はない。
ただ、どの問題も、人によっては引っかかってしまう部分がある。
そういった個人的な要因で3問程度落としたとして、17点。
刑法はそんな感じではないか。

合格点の予測

問題をみた感触では、憲法14点、民法13点、刑法17点。
合計で44点は最低でも取れなければいけない問題、という感じだ。

もっとも、今年度は合格者数がどうなるかわからない。
以下は、近年の択一出願者数、択一合格者数と対出願者合格率の推移である。
平成22年度については、4つの択一合格者数を仮定して算出した。

年度

出願者数

合格者数

対出願者
合格率

18

35782

3820

10.6%

19

28016

2219

7.92%

20

21994

1605

7.29%

21

18611

1599

8.59%

22

16088

1500?

9.32%

1250?

7.76%

1000?

6.21%

750?

4.66%

近時、択一合格率は減少傾向にあった。
出願者が減るスピードよりも、択一合格者の減るスピードの方が、速かったためである。
しかし、平成21年度はその傾向が逆転した。
出願者数の減少は続いたが、合格者数の減少に急ブレーキがかかったためである。
これが今年度も続く場合、1500人程度の合格者数となる。
この場合には、過去3年間より合格率は上がることになる。
そういうことであれば、43点くらいでも合格できそうだ。

ただ、やはりもう少し絞るのではないか。
そういうことで、1250人くらいを考えてみる。
そうすると、昨年度より厳しく、20年度よりは甘い、という感じになる。
そうすると、45点くらいか、という感じになる。

さらに、1000人まで絞ると考える。
そうすると、これまでで最も厳しい合格率となる。
この場合は、47点くらい必要になりそうである。

やや考えにくいが、750人まで絞られるとどうなるか。
この場合は、4%台まで合格率が下がる。
かつての最終合格率に近い。
これだと、49点くらいもあり得る。
さすがに、ここまで絞ることは考えにくいだろう。

また、近年の択一の結果をみると、大体合格点付近は1点に200〜300人がいるようだ。
このことからすると、上記区分は、大体1点ずつ違ってくるということになる。
そう考えてみても、大体44〜47点の間の幅に収まってくるのではないか。
その中でも、合格者1250人前後、合格点45点。
これが、一番ありそうな感じである。

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