最新下級審裁判例

金沢地裁判決平成21年03月23日

【事案】

1.原告の所有する土地とこれに隣接する土地との筆界について,金沢地方法務局の筆界特定登記官が行った筆界特定が誤っているとして,原告がその違法の確認を求める(請求1)とともに,原告が主張するとおりの筆界を特定し,その写しを原告に送付するよう求めている(請求2)行政訴訟。

2.前提事実

(1) 原告は,不動産の売買及び斡旋等を目的とする有限会社である。
 原告は,石川県河北郡α×番の土地(以下「原告土地」という。)を所有している。

(2) 原告は,金沢地方法務局筆界特定登記官(以下「本件登記官」という。)に対し,平成19年8月10日,原告土地とこれに隣接する石川県河北郡α×番3及び同×番4の土地(以下それぞれ「×番3の土地」,「×番4の土地」という。)との筆界特定の申請をした(以下,×番3の土地と×番4の土地との筆界を「本件筆界」という。)。
 本件登記官は,上記申請(手続番号平成○年第○号,同第○号)について,平成20年3月14日付けで,筆界を特定し(以下「本件筆界特定」という。),本件筆界特定の結果を記載した同月21日付けの筆界特定書の写しを原告に送付した。

(参考)筆界特定制度に関するQ&A

Q1  筆界特定制度とは,どのような制度ですか。
A1  筆界特定制度とは,土地の所有権の登記名義人等の申請に基づいて,筆界特定登記官が,外部専門家である筆界調査委員の意見を踏まえて,土地の筆界の現地における位置を特定する制度です。

Q2  筆界特定制度の施行日はいつですか。
A2  平成18年1月20日です。

Q3  筆界とは何ですか。一般的にいう境界とは違うのですか。
A3  「筆界」とは,ある土地が登記された時にその土地の範囲を区画するものとして定められた線であり,所有者同士の合意等によって変更することはできません。
 これに対して,「境界」という語は,所有権の範囲を画する線という意味で用いられることもあり,その場合には,筆界とは異なる概念となります。筆界は所有権の範囲と一致することが多いのですが,一致しないこともあります。

Q4  筆界の特定とは何ですか。
A4  ある土地が登記された時にその土地の範囲を区画するものとして定められた線(筆界)を,現地において特定することです。新たに筆界を決めるものではなく,調査の上,登記された時に定められたもともとの筆界を,筆界特定登記官が,明らかにすることです。

Q5  筆界はどのようにして特定されるのですか。
A5  筆界調査委員という専門家が,これを補助する法務局の職員とともに,土地の実地調査や測量を含むさまざまな調査を行った上,筆界に関する意見を筆界特定登記官に提出し,筆界特定登記官が,その意見を踏まえて筆界を特定します。

Q6  筆界特定の申請は,誰が行うことになるのですか。
A6  土地の所有者として登記されている人及びその相続人などです。

Q7  筆界特定の申請はどこの法務局にしたらよいですか。
A7  対象となる土地の所在地を管轄する法務局又は地方法務局の筆界特定登記官に対して,筆界特定の申請をすることになっています。

 (中略)

Q1 1 筆界特定がされた結果はどのように公開されるのですか。また,登記記録において公示されるのですか。
A1 1 筆界特定の対象となった土地を管轄する登記所において筆界特定書が保管されるので,筆界特定書の写しの交付請求等によって,公開されます。また,筆界特定の対象となった土地の登記記録に,筆界特定がされた旨が記録されます。

【判旨】

1.本件各訴えの適法性(本案前の主張)について

(1) 本件では,原告は,筆界特定登記官による筆界特定について,その違法の確認及び再度の筆界特定の実施等を求めているところ,原告が本件訴訟の被告を国としつつ,「行政庁」として金沢地方法務局筆界特定登記官を挙げていること,及びその請求の原因として主張する内容に照らせば,原告は本件訴訟を行政事件訴訟として提起したことが明らかである。

(2) 行政事件訴訟のうち,抗告訴訟は,行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟であるから,まず,筆界特定が公権力の行使に当たる行為であるかについて検討する。
 不動産登記法(以下「不登法」という。)は,第6章において筆界特定の手続について定めているところ,同法123条2号は,筆界特定について,「一筆の土地及びこれに隣接する他の土地について,この章の定めるところにより,筆界の現地における位置を特定すること(その位置を特定することができないときは,その位置の範囲を特定すること)」と定義している。そして,筆界特定の事務は対象土地の所在地を管轄する法務局又は地方法務局がつかさどるとされ(同法124条1項),筆界特定は登記官のうちから法務局又は地方法務局の長が指定する者である筆界特定登記官が行う(同法125条)が,筆界特定登記官が行った筆界特定に対して,不服を申し立てる手続の定めはない。

(参照条文)不登法

123条 この章において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一 筆界 表題登記がある一筆の土地(以下単に「一筆の土地」という。)とこれに隣接する他の土地(表題登記がない土地を含む。以下同じ。)との間において、当該一筆の土地が登記された時にその境を構成するものとされた二以上の点及びこれらを結ぶ直線をいう。
二 筆界特定 一筆の土地及びこれに隣接する他の土地について、この章の定めるところにより、筆界の現地における位置を特定すること(その位置を特定することができないときは、その位置の範囲を特定すること)をいう。
三号以下略。

124条 筆界特定の事務は、対象土地の所在地を管轄する法務局又は地方法務局がつかさどる。

125条 筆界特定は、筆界特定登記官(登記官のうちから、法務局又は地方法務局の長が指定する者をいう。以下同じ。)が行う。

 一方,筆界を定める手続としては民事訴訟である筆界確定訴訟も存在するところ,不登法148条は,両手続の関係について,筆界特定がされた場合において,当該筆界特定に係る筆界について民事訴訟の手続により筆界の確定を求める訴えに係る判決が確定したときは,当該筆界特定は,当該判決と抵触する範囲において,その効力を失う,と定めている。

(参照条文)不登法148条

 筆界特定がされた場合において、当該筆界特定に係る筆界について民事訴訟の手続により筆界の確定を求める訴えに係る判決が確定したときは、当該筆界特定は、当該判決と抵触する範囲において、その効力を失う。

 そうすると,筆界特定は隣接土地間の筆界を定めるための簡易な手続として創設されたものではあるが,これによって民事訴訟の手続による筆界確定訴訟が排除されるものではなく,筆界につき裁判で争う場合には筆界確定訴訟によるべきであるというのが法の建前であるといえる。
 しかも,筆界は,表題登記がある一筆の土地とこれに隣接する他の土地との間において,当該一筆の土地が登記された時にその境を構成するものとされた2以上の点及びこれを結ぶ直線をいう(不登法123条1号)のであって,土地の所有権の範囲を画するものではないから,筆界特定は当該一筆の土地の所有者又はその隣接土地の所有者の所有権に変動を与えるものではない。
 以上によれば,筆界特定登記官による筆界特定は個人の権利ないし法律上の利益に直接の影響を及ぼす法的効果を有するものであるとは認められず,行政庁による公権力の行使とはいえないと解するのが相当である。

(3) 本件訴えに係る各請求について

ア.請求1について

 原告は,本件筆界特定の違法確認を求める,としているが,前記のとおり,筆界特定は行政庁の公権力の行使とはいえないから,これについて抗告訴訟で争うことはできない。
 また,前記のとおり,筆界特定は土地所有者の所有権に直接影響を与えるものではないこと,及び筆界の争いについては,筆界特定がされても筆界確定訴訟によって筆界の確定を求めることができ,筆界確定訴訟における判決が確定すれば,これに抵触する範囲で筆界特定は効力を失うとされていることからすれば,本件筆界確定の違法確認を求める訴えの利益はないといわざるをえない。
 以上によれば,請求1に係る原告の訴えは不適法である。

イ.請求2について

 原告は,本件筆界特定の再実施及び再実施された筆界特定の写しの原告への送付の義務付けを求めるとしているが,前記のとおり,筆界特定は行政庁の公権力の行使とはいえないから,これについて抗告訴訟で義務付けを求めることはできないし,筆界特定の義務付けを前提とした筆界特定の写しの交付の義務付けも求めることはできない。
 また,前記のとおり,筆界について確定を求める場合には民事訴訟である筆界確定訴訟によるべきであるというのが法の建前であるから,当事者訴訟その他の行政事件訴訟としても,筆界特定の再実施を請求することはできないというべきである。
 したがって,請求2に係る原告の訴えも不適法である。

ウよって,本件訴えに係る各請求はいずれも不適法である。

2.以上によれば,本件訴えはいずれも不適法であるというほかはない。

 

東京簡裁判決平成21年09月28日(少額訴訟事件)

【事案】

請求の原因の要旨

1.訴外Aは,被告との間で次のような運送契約(以下「本件契約」という。)を締結した。

受付日  平成21年5月11日
お届け予定日  平成21年5月12日
依頼者  A
届け先  原告
品名  ワレモノ(伝票記載)蒔絵高月(以下「本件荷物」という。)
運賃  1160円

2.被告は,平成21年5月11日にAから本件荷物を受け取り,原告に運んだ。

3.本件荷物は,壊れた状態で原告に届けられた。

4.よって,原告は,被告に対し,本件契約の債務不履行により,損害賠償として,金60万円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である平成21年8月18日から支払済みまで年5パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める。
 予備的に,原告は,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償として上記と同様の損害賠償の支払を求める。

【判旨】

1.被告の契約責任の存否について

 原告は,運送契約の当事者ではないが,本件荷物が到達地に達した後であることから,商法583条により荷送人の権利を取得しているものと認められる。
 ところで,Aの申告では「ワレモノ」のというのみで,高価品としての申告はない。このことから,商法578条の適用があり,同上に定める「明告」がなかったものとして,被告は高価品の損害賠償については,免責される。また,高価品については,普通品としての価額を算定することは困難であることから,普通品としての損害賠償責任も負わないこととなる。

2.被告の不法行為責任の存否について

 被告は,原告に対し,契約責任を負わないとしても,債務不履行責任と不法行為責任とは請求権競合であると解されるので,不法行為責任の成立要件が認められるのかについて検討することになる。
 原告は,本件荷物の所有権については,平成21年3月16日の遺産分割申立事件中間合意により所有権を取得しており,本件荷物の所有者であることが明らかである。また,被告の運送中に本件荷物が破損されたことについては,被告も認めている。即ち,被告の原告に対する不法行為責任は一応認めることができる。
 ところで,商法578条による運送人の保護の規定は,不法行為責任についても及ぶのかについては見解の分かれるところであるが,同条は運送契約上の債務不履行責任にのみ関するものであり,運送人の不法行為責任についてまで免責されるものではないとみるのが相当である(神戸地判平成2年7月24日)。また,請求権の競合が認められるには運送人の側に過失あるをもって足り,必ずしも故意又は重大な過失の存することを要するものではない(最判昭和38年11月5日)。
 よって,被告は,原告に対し,原告の所有物たる本件荷物を破損させた不法行為責任を負うことになる。

3.本件荷物の損害額について

 まず,本件が一部請求か否かについてであるが,原告は全体額を明示しているものとは言い難く,また,一部請求の明示もないことから,本件は60万円についての全部請求であるものと認める。
 次に,損害額の立証についてみると,原告がその責任を負うものであるところ,F店のGの見積によれば123万9000円,H店のIの評価では60万円以上とある一方,被告は,反証として,時価3万円前後であるとの査定評価書及びインターネット上同種のものが9万8000円で販売されている等の各証拠を示すが,いずれも論拠は不明であり,かつ,一回審理の少額訴訟という状況下においては,損害額について立証不十分であり,真偽不明であると言わざるを得ない。このことから,本件荷物の損害発生は明らかであるものの損害額を定めることができず,損害の性質上その額を立証することが極めて困難な場合であると認め,裁判所は民事訴訟法248条に基づき,口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき,その額を60万円と認定する。
 しかし,原告の損害額は60万円であると評価されるとしても,原告が,本件荷物をAに送らせるに当たり,内容物の価額を明告することによって,被告側関係人に特別の注意を払わせ,損害発生を防止できた可能性があったにもかかわらず,損害発生を防止しようとしなかった原告側にも大きな過失があったものと認められることから,その損害額の4割に相当する24万円が本件荷物の損害額であるとするのが相当である。

 

東京簡裁判決平成21年11月30日(少額訴訟判決に対する異議申立て事件)

【事案】

1.請求の原因の要旨

(1) 訴外Aは,被告との間で次のような宅配便運送契約(以下「本件契約」という。)を締結した。

受付日  平成21年5月11日
お届け予定日  平成21年5月12日
依頼者  A
届け先  原告
品名  ワレモノ(伝票記載)蒔絵高坏(以下「本件荷物」という。)
運賃  1160円

(2) 被告は,平成21年5月11日にAから本件荷物を受け取り,原告に運んだ。

(3) 本件荷物は,壊れた状態で原告に届けられた。

(4) よって,原告は,被告に対し,本件契約の債務不履行により,損害賠償として,金60万円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である平成21年8月18日から支払済みまで年5パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める,
 選択的に,原告は,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償として,上記と同様の損害賠償の支払を求める。

2.争点及びこれに関する当事者の主張

(1) 不法行為責任について,商法578条適用の是非

(被告)
 商法578条の規定が不法行為に適用されないのであれば,荷送人は運送人に対して高価品であるとの明告を行わなくても,運送人の過失が認められる場合,不法行為で責任を追及すれば,運送人保護のために設けられた規定(商法578条を含む)を回避することが可能となってしまう。これでは,運送人保護のために設けられた規定の存在意義が没却されてしまうこととなるから,不法行為にも商法578条は適用されるべきである(東京地判平成2年3月28日)。また,特段の事情として,被告から進んで高価品の有無や梱包状態を確認し,損害の発生を防ごうと努力しているにもかかわらず,Aから高価品であることの明告が無く,高価品ではないことを明告されていた事実が存することも加味するべきである。

(原告)
 債務不履行に基づく請求と不法行為に基づく請求とは,別途の請求であり,両者は請求権の競合と解され,債務不履行に関する商法578条の規定は,不法行為には及ばないと解されている。
 しかも,商法578条の規定は,「貨幣,有価証券其他ノ高価品」について定めているところ,ここにいう「高価品」は「商法578条所定の高価品とは,容積または重量の割に著しく高価な物品」をいうと解されている(最高裁3小昭和45年4月21日判決判例時報593号87頁)上,著しい高価品であるか否かはその社会通念,商慣習によるとされるところ,現在社会における物流業界が運送業界において占める割合,役割と使命を考えると,本件荷物のような60万円程度の客観的価額の物は,著しく高価な物品とはいえず,同条の適用を受けないというべきである。

(2) 約款規定による免責の存否

(被告)
 被告の宅配便サービスは宅配便約款(以下「約款」という。)が適用される。
 これは,附合契約であり,本件荷物においても,約款25条によってその補償限度額は30万円までとされ,この場合は,約款6条6号の「引受拒絶」の荷物にあたり,同23条2項により,同6条6号に該当することを被告が知らずに引き受けた場合は,損害賠償の責を負わない規定となっている。
 以上の約款の規定は,原告より不法行為に基づく請求をされた場合においても運用される。なぜならば,被告の宅配便を含む,宅配便の特質として,低廉な運賃に比し不特定多数と契約して迅速な輸送サービスを提供するという点から考えると,その対応を予め定められた約款に基づいて運用されることは合理的であり,約款の規定が不法行為にも及ぶとすることが当事者の合理的意思に合致するからである。このように解さなければ,約款の規定が没却されることになる。また,被告の故意又は重過失によって損害が発生した場合は,約款25条6項において一切の損害を賠償するとしており,荷送人に不当な不利益をもたらすことにはならない。さらに,約款25条3項に代表されるように,損害賠償について荷受人である原告に生じた事情をも考慮している。本件においては,原告は遺産相続によりAから本件荷物を含む17個の荷物を宅配便によって届けられていること,本件荷物の損傷事故が発生した後も,補償額が宅配便と同じ30万円の宅配便を使用して荷物を受け取っており,補償限度額が予め約款にて規定されている宅配便を利用してAから荷物を受け取ることを容認し,継続的に利用している等の事情が存在するから,信義則上,原告にも約款の規定が適用されると解するのが相当である。

(原告)
 引受拒絶約款は,被告に引受拒絶ができる権限を付与したに過ぎない。被告の送り状には,荷物の価額を記載することは求められていない(約款3条)。
 「品名」の記載は求められているが,「ワレモノ・なまもの」の例示にあるように,その程度を記載することを求めているに過ぎない。被告がAから運送業務を引き受けた際,内容物の価額を聞かれたことはない。本件運送契約の約款には,送り状に「ワレモノ,なまもの」以上の品名の明示を求めた規定はなく,被告が上記の引受拒絶約款の存在を主張することはできない。しかも,約款上は,被告の「故意又は重過失」の場合には,この規定にかかわらず「毀損によって生じた全損害を負う」旨規定されている(約款25条6項)のであり,本件荷物の損傷は,通常の事態でない,被告の担当者の重過失によるものであるから,被告の主張は理由がない。
 しかも,被告は,商法578条による免責を主張するのか,宅配便約款による免責を主張するのか明らかでない。約款に引受拒絶約款及び免責限度額の規定がある以上,上記約款が商法578条の特例を規定したもので,商法578条の規定は排除され,約款による免責のみが問題とされるべきである。被告は,高価物の規定を自己の引受拒絶約款にすることにより,自己の取扱商品の範囲を拡大し,商域を拡大しているのであるから,その利益を受けながら商法578条の規定の適用を求めるのは信義則に反するものである。

(被告)
 原告は,被告がAに内容物の価格について聞いていないことを前提に,約款6条の適用を否定しているが,被告は,荷送人であるAには内容物の価額について尋ねており,30万円以上のものではないということで荷受けしたのである。しかし,本件荷物が30万円以上の物であったというのであれば,被告は上記事実から30万円以上のものであるとは知り得なかったので,約款23条2項により損害賠償の責を負わない。

(3) 被告の重過失及び予見可能性の存否

(原告)
 本件荷物は,梱包を厳重にし,破損が起きない慎重な注意を払い,「ワレモノ」と表示して被告に預けたものであること,平成21年5月12日原告に届けられたとき,被告の担当者が荷物を車から台車に移して運ぶ際,ガタンと大きな音を発しており,被告に重大な過失があったものであること等,原告としては真の破損原因は分からないが,「運送中又は荷下ろし中」に通常の運送担当者としてはあり得ない不注意によって本件事故が生じたものと考えらる。

(被告)
 原告の主張する配達時の状況は,事実に間違いがあり,これに基づいた重過失があるとの主張は失当である。本件荷物は,その破損が発生した過程は不明であるが,通常の運送過程で破損したのであり,重過失の存在は認められない。
 また,本件荷物が「ワレモノ」との表示がしてあったにもかかわらず被告がその取扱いを怠り,重大な過失によって壊したと主張するが,この「ワレモノ」との記載は,被告の運送において,破損を発生させないことを約したものではない。「ワレモノ」との記載があれば,まず,荷受けの段階で,客に対して梱包状況や内容物の品名を尋ねることにより梱包が運送に耐えられないようであれば,追加で梱包を行い,荷受けするための記載である。
 さらに,本件については,被告従業員BがAに梱包状況及び内容物の価格について尋ねており,Aからは梱包状況は大丈夫であり,内容物もそんなに高額な商品はないとの申出があって荷受けしている。

(4) 本件荷物の価額

(被告)
 被告提出の乙10号証はその査定方法を明記した上で,本件荷物の評価額を3万円前後としているが,原告は本件荷物の査定金額を明示しているが,その査定方法については未だ明らかにしていない。

(原告)
 被告は,本件荷物の価額について,3万円前後であるとして,乙3号証をその証拠としている。しかし,乙3号証については,原告は,その成立を争うものであり,同号証は,その形式的証明力さえも備えていない。なぜなら,同号証にはその作成者とされる「C株式会社」の押印もなく,その会社の本店所在地も明らかにされていない。実質的にも,同社は登記簿上平成19年12月18日に資本金100万円で設立されたとあるが,鑑定評価の専門家の存否,その実績も何ら明らかでなく,被告の自己証明の域を出るものではない。本件荷物は,一旦原告から被告に戻され,被告の京都支店からさらに原告に再配送されたが,その間,東京,京都という本件荷物の価額を鑑定する精通者がいる場所を避け,わざわざ埼玉の会社に評価を求めているのは,極めて奇異なことであり,乙3号証の証明力は極めて低い。
 本件荷物は,遺産分割によるものであるが,その対象となった相続については,課税標準が相続人の控除額以下のため申告されていないし,送付された品物ごとに時価の査定がされたものではない。
 また,被告は,原告の損害額についての立証について反論しているが,物の価額を鑑定する場合,「原価法」と「比較法」がある。土地建物のような収益物件については,「収益還元法」も使用される。原告の立証は,この「原価法」によるものと,精通者による「比較法」による立証であり,物の評価の基本的技法に則っているものである。

(被告)
 原告は,本件荷物が被告の京都支店に戻されたと述べているが,そのような事実はなく,原告から引き上げた本件荷物は,そのまま東京の営業所に保管され,それをC株式会社に依頼して,査定してもらったのである。同社は,荷物の価格について,被告では査定できないときによく依頼している会社で,同社に依頼することは奇異なことではない。

(5) 原告側の過失による過失相殺

(原告)
 原判決が認定した原告の6割の過失相殺は,不当である。すなわち,本件事故は,運送品の品目表示又は高価品としての注意義務を課せられたことによる事故ではないこと,Aとしても,本件荷物の客観的な価額を正確に知っていたわけではないから,原判決のいうことは不可能を強いるものである。

(被告)
 原判決の本件荷物が60万円であるとの認定には不服であるものの,仮に60万円だとすれば,宅配便の責任限度額である30万円をはるかに超える金額の荷物をAに金額の明告や梱包方法の具体的指示などの注意を促すこともなく本件荷物を送らせたのであるから,損害額を4割に当たるとしたことは実に当を得ている。

【判旨】

1.争点(1)について

 債務不履行に基づく請求と不法行為に基づく請求とは請求権競合と解され,債務不履行に関する商法578条の規定は,原則として不法行為には及ばないと解するのが相当である。しかし,本件当事者間には運送取引が継続的に行われていた事実,本件荷物と同時に他に15個の荷物を依頼している事実,本件荷物の所有権は平成21年3月16日の遺産分割調停中間合意で原告に移転しており,配送依頼時には原告の支配権が及んでいる事実,原告は古物商を長年営んでおり数多くの宅配便も利用してきた事実等から,原告は第三者といっても本件契約の当事者と実質的に同視できる者,すなわち,運送人との間に生じる法律関係を契約法理によって律することを承認しているものと見られる者であると評価できる。このような場合においては,契約法理の趣旨を類推してこれを律すべきであり,商法の規定や約款の趣旨に準拠してその責任の範囲を合理的に定めることが相当である。

2.争点(2)について

 然るに,商法578条と約款との関係についてその適用の範囲を明らかにしておかなければならないが,被告が引受拒絶約款及び免責限度額の規定がある約款に基づく免責を主張する趣旨から,同約款は商法578条の特例として位置づけられるものである。結局,本件においては,約款25条,同23条2項及び同21条の各適用のある事案であるか否かについて問われることとなり,具体的には次項3において検討することとなる。

3.争点(3)について

 上記に述べてきたとおり,本件については,約款の適用がある事案であり,被告に故意又は重過失のある場合には免責されず,約款25条6項により毀損によって生じた全損害について責任を負わなければならないことは,原告主張のとおりであり,以下その存否について判断する。
 原告は,自宅の玄関を掃除しているときに,外でガタンと大きな音がして,何が起こったのか玄関の扉を開けてみると被告の運搬人がたくさんの段ボールを車から降ろして台車に乗せて持ってくる音であった,さらに原告は「そんなに乱暴にあつかって中になにがはいっていると思うのよ」と声を荒らげたと供述する。しかし,現実に本件荷物の運送に携わった証人Eの証言によれば,台車で2回に分けてa町b丁目の営業所から運んだが大きな音がしたということは一切ないこと,「そんな乱暴にあつかって云々」ということを原告から言われたこともないこと,そもそもa町の営業所には運送トラックが存在しないこと等の事実が認められる。また,本件荷物である蒔絵高坏の破損状況が尋常な壊れ方ではないことから,本件荷物が上記以外の運送過程において,考えられない力が加えられた,即ち,被告担当者が通常の運送担当者としては考えがたい不注意をしたのではないかという点については,荷送人が本件荷物を発送するときにまったく破損等がなかったことを確認している等の立証がない限り,当然には推定されないものとみるのが相当である。これらのことから,被告に重過失があったものとは認められない。
 しかし,被告は,まったく約款上の責任を負わないものではなく,約款23条2項及び同21条の責任の有無について問われる。
 まず,約款23条2項については,被告が「その旨を知らずに運送を引き受けた場合」に当たるのかについて見ていかなければならない。その旨とは,約款6条6号のイのAに規定されている「荷物の一梱包の価格が30万円を超えるもの」ということであるが,この点に関し,被告は,荷送人であるAに内容物の価額について尋ねており,30万円以上のものでないということで荷受けしたものであるから,上記約款に規定する「その旨を知らずに運送を引き受けた場合」に該当し免責されるものであると被告は主張し,証人Dもその旨証言する。Aから直接本件荷物を荷受けした担当者であるBの陳述書によっても,30万円を超える高額商品については荷受けできない旨常々伝えていたこと,本件荷物の荷受時に再度確認したところ「そんな高額な商品ではない,中身の梱包もしっかりしているので大丈夫」とAが言っていたこと,更に,このことについて,後日,中京支店長であるDから再度,Aに確認されていること等の事実が認められ,被告は,同条による賠償責任は免れるものとみるのが相当である。
 次に約款21条の責任について検討する。
 一般的に運送人は,運送契約関係を通じ,自己の管理下にある他人の物について契約当事者に対し,その保管・管理につき善管注意義務を負うものであり,自己の管理下にある運送品に毀損が生じた場合,免責事由が認められない限り,運送人には保管・管理上の過失があるものと考えられる。約款21条においては,運送人が「注意を怠らなかったことを証明しない限り」損害賠償責任を負うものと規定されており,これに関しては,被告の「注意を怠らなかったこと」を認めるに足りる証拠はない。よって,被告は同条に基づく損害賠償責任は免れない。

4.争点(4)について

 本件荷物の価額については,訴額にみあった簡易迅速さが求められている少額訴訟手続の枠内で,査定の当否が争われているという事情もあって,民事訴訟法248条に基づき,口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果を踏まえて60万円と原判決が裁定したものであり,この裁定を覆すに足りる証拠等はない。

5.過失相殺

 前記争点(1)についての判示したとおり,原告は,本件契約時には本件荷物に対する所有権を有しており,本件契約当事者と実質的に同視できる立場にあった者である。それにもかかわらず,原告は,Aに対し,「着払いで送っておいて」と言っただけで,Aが「そんな高価な商品でないことを申出」と言っているように,そんな高額な商品ではないと原告自身も知っていたのではないかとの疑念も打ち消しがたい。本件は,高価品としての注意義務を明確に課せられた事案ではないが,現実に原告は本件荷物のいわゆる高価品とはいえないまでも30万円を大きく超える価額を有するという意味での高価性を主張し争っていることから,仮に,原告が当初から本件荷物について真実高価性を認識していたのであれば,高価品並の取扱いをAに指示するのが通常であろうと思われるところ,結果として,本件荷物が30万円を大きく上回る価額を有する品物としての常識的取扱いを欠いていたものと言わざるを得ない。約款21条に基づく損害賠償請求が可能であるとしても,約款で定める責任限度額30万円を大きく超える損害額の賠償を求める原告の過失は,被告のそれよりも大きく,その割合は原判決の認定のとおり6割とみるのが相当である。

6.結論

 以上,原・被告双方から異議が出され,本件紛争の全般にわたり新たな主張及び証拠の提出のもとで審理し直した結果,被告の不法行為責任に基づく損害賠償責任を認定した原判決に対し,その認定理由については債務不履行責任に基づく損害賠償責任であるとして判断し直したが,結論においては異なるところはない。

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