最新下級審裁判例

奈良地裁決定平成21年06月26日

【事案】

1.奈良県吉野郡, α町(以下「α町」という。)に住所を有する申立人(平成▲年▲月▲日生)が,自己につき四肢に障害があり,肢体不自由者(学校教育法施行令5条1項1号)には当たるが,「その者の障害の状態に照らして,当該市町村の設置する小学校又は中学校において適切な教育を受けることができる特別の事情があると認める者」(同項2号。以下「認定就学者」という。)に該当すると主張して,行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)37条の5第1項に基づき,α町教育委員会が,申立人の保護者に対し,申立人の就学すべき中学校を相手方の設置する中学校であるα町立A中学校(以下「A中学校」という。)を仮に指定するよう求めた事案。

(参照条文)学校教育法施行令

5条1項 市町村の教育委員会は、就学予定者(法第十七条第一項 又は第二項 の規定により、翌学年の初めから小学校、中学校、中等教育学校又は特別支援学校に就学させるべき者をいう。以下同じ。)で次に掲げる者について、その保護者に対し、翌学年の初めから二月前までに、小学校又は中学校の入学期日を通知しなければならない。
一  就学予定者のうち、視覚障害者、聴覚障害者、知的障害者、肢体不自由者又は病弱者(身体虚弱者を含む。)で、その障害が、第二十二条の三の表に規定する程度のもの(以下「視覚障害者等」という。)以外の者
二  視覚障害者等のうち、市町村の教育委員会が、その者の障害の状態に照らして、当該市町村の設置する小学校又は中学校において適切な教育を受けることができる特別の事情があると認める者(以下「認定就学者」という。)

22条の3 法第七十五条の政令で定める視覚障害者、聴覚障害者、知的障害者、肢体不自由者又は病弱者の障害の程度は、次の表に掲げるとおりとする。

区分 障害の程度
視覚障害者 両眼の視力がおおむね〇・三未満のもの又は視力以外の視機能障害が高度のもののうち、拡大鏡等の使用によつても通常の文字、図形等の視覚による認識が不可能又は著しく困難な程度のもの
聴覚障害者 両耳の聴力レベルがおおむね六〇デシベル以上のもののうち、補聴器等の使用によつても通常の話声を解することが不可能又は著しく困難な程度のもの
知的障害者 一 知的発達の遅滞があり、他人との意思疎通が困難で日常生活を営むのに頻繁に援助を必要とする程度のもの
二 知的発達の遅滞の程度が前号に掲げる程度に達しないもののうち、社会生活への適応が著しく困難なもの
肢体不自由者 一 肢体不自由の状態が補装具の使用によつても歩行、筆記等日常生活における基本的な動作が不可能又は困難な程度のもの
二 肢体不自由の状態が前号に掲げる程度に達しないもののうち、常時の医学的観察指導を必要とする程度のもの
病弱者 一 慢性の呼吸器疾患、腎臓疾患及び神経疾患、悪性新生物その他の疾患の状態が継続して医療又は生活規制を必要とする程度のもの
二 身体虚弱の状態が継続して生活規制を必要とする程度のもの

備考
一 視力の測定は、万国式試視力表によるものとし、屈折異常があるものについては、矯正視力によつて測定する。
二 聴力の測定は、日本工業規格によるオージオメータによる。

2.前提事実

(1) 当事者

ア.申立人等

 申立人は,平成▲年▲月▲日,B及びCの長女として出生し,α町に居住している者である。B及びCは,申立人の学校教育法上の保護者(同法16条。以下,両者をあわせて「保護者ら」ということがある。)である。

(参照条文)学校教育法16条

 保護者(子に対して親権を行う者(親権を行う者のないときは、未成年後見人)をいう。以下同じ。)は、次条に定めるところにより、子に九年の普通教育を受けさせる義務を負う。

イ.相手方等

 相手方は,A中学校を設置している地方公共団体である。相手方には,地方教育行政の組織及び運営に関する法律2条に基づき,α町教育委員会が設置されている。

(参照条文)地方教育行政の組織及び運営に関する法律2条

 都道府県、市(特別区を含む。以下同じ。)町村及び第二十三条に規定する事務の全部又は一部を処理する地方公共団体の組合に教育委員会を置く。

 A中学校は,α町が設置する唯一の中学校である。同校の校舎は4階建ての建物で,中央にはらせん階段(らせん階段とはいっても,踏板はほぼ全部同一幅であり,途中踊り場があって,ほぼ90度の方向の折返し階段というべきものである。)があり,両端にも階段があるが,エレベーターは設置されていない。校舎1階に障害者用トイレが設置され,2階ないし4階には手すり付きの洋式トイレがある。現在,1年生の教室は4階にあり,科目によっては1階ないし3階の教室で授業が行われている。校舎の北側に体育館,プールがあり,校舎との間に高低差があるため,階段が設置されている。グラウンドは校舎から南東に約500m離れた位置にあり,生徒らは,町道を通って移動している。なお,グラウンド脇には和式トイレのみが設置されている。現在,同校に学校教育法81条に規定する特別支援学級は置かれていない。

(参照条文)学校教育法81条

 幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び中等教育学校においては、次項各号のいずれかに該当する幼児、児童及び生徒その他教育上特別の支援を必要とする幼児、児童及び生徒に対し、文部科学大臣の定めるところにより、障害による学習上又は生活上の困難を克服するための教育を行うものとする。
2  小学校、中学校、高等学校及び中等教育学校には、次の各号のいずれかに該当する児童及び生徒のために、特別支援学級を置くことができる。
一  知的障害者
二  肢体不自由者
三  身体虚弱者
四  弱視者
五  難聴者
六  その他障害のある者で、特別支援学級において教育を行うことが適当なもの
3  前項に規定する学校においては、疾病により療養中の児童及び生徒に対して、特別支援学級を設け、又は教員を派遣して、教育を行うことができる。

(2) 申立人の障害の程度等

ア.低体重児として出生した申立人は,△による四肢機能の障害を有し,平成11年6月7日,奈良県から身体障害者手帳の交付を受け,平成16年6月21日,障害程度変更により再交付を受けている。同手帳によれば,申立人は,脳原性運動機能障害移動機能障害1級及び脳原性運動機能障害両上肢機能障害1級により,身体障害者等級表による級別1級と認定されている。申立人は,現在,車いすを利用して生活し,D病院に定期的に通院しているほか,自宅で毎日約2時間のリハビリを行っている。

イ.申立人は,平成20年9月11日,就学時の健康診断としてEセンター整形外科医師Fによる診断を受けたが,同医師作成に係る同日付け診断書には,病名の欄に「△,△」と記載され,付記として「日常生活動作は患児のペースで順調に進んでいる。細かい介助を含め個別の援助が必要と思われる」と記載されている。。また,α町教育委員会が作成した申立人の個人別調査票の診断の結果欄には,身体の状況について以下のとおり記載されている。

○ 上肢  右手は左手に比べて握力が弱く,支えたり押さえたりできるが,五指を使っての操作は困難である。緊張すると指先が硬直するので,滑らかな動作が難しい。従って筆記,食事など左手に頼ることが多い。

○ 下肢  左足が右足より少し短く,ひざ下に変形があり,立位で体を支えることはできない。

○ 上体  中央部で湾曲し,背骨を伸ばした姿勢の保持が難しい。上体の安定的な支持が難しく,すぐに右に傾く。

○ 視力  視野に制限があり,場面によって視野が狭くなるときがある。
 また,焦点を合わせるのに時間がかかる。教科書は10〜15p程度の距離で見ている。黒板の板書は,文字の大きさによるが通常で見えている。細かい資料や映像を見るときは眼鏡を使用している。

○ 聴力  大きい音や突然の音には驚き,手足の硬直が見られる。

○ 服薬  アレルギー体質のため薬を使用。

○ 歯科  疾患虫歯などの疾患はないが,口内炎ができやすい。

(3) 本件申立てに至るまでの経緯等

ア.保護者らは,申立人の就学前,同人を奈良県桜井市内の私立幼稚園に通わせていたが,小学校はα町立G小学校(以下「G小学校」という。)に入学させたいと考え,α町教育委員会にその旨を伝えた。
 α町教育委員会は,申立人が認定就学者に該当すると認め,保護者らにG小学校の入学期日を通知し,平成15年4月1日,申立人は,同校に入学した。

イ.G小学校の校舎は3階建てで,エレベーターは設置されていないが,同校は,申立人の入学前にスロープや多目的トイレ等を設置した。また,申立人のために特別支援学級(学校教育法81条2項2号)が置かれたほか,相手方の予算で介助員一日当たり2名が雇用された。
 申立人は,同校での6年間,特別支援学級の担任教員の補助を受けながら,教室移動が必要な科目も含めてすべての授業を普通学級の児童らと共に受けた(体育についても,車いすの移動訓練やできる範囲での運動を行った)。その他,クラブ活動や委員会活動,運動会,修学旅行等の学校行事にも参加した。水泳は,下向きで2mないし3m,上向きで約25m泳ぐことができる。
 申立人は,入学当初,手の障害のため文字を書く速度が遅いなどの理由から,課題やテストを所定の時間内に終わらせることができず,提出期限や試験時間を延長するなどの配慮を受けていたが,学年が上がるにつれ,いずれも他の児童らと同じ時間内で行うことができるようになった。また,毎日予習復習を行っていた。
 申立人の登下校の際は,Cが車で送迎し,校内及び校外学習での移動は,介助員が車いすを押し,階段の昇降は,申立人を車いすに乗せたまま,介助員2名がそれぞれ車いすの両側を持ち上げ,教員(主に担任の女性教員)が後ろを支える方法で行っていた。
 その他,同校での生活の様子は,大要,以下のとおりであった。

○ 給食は,食べやすい大きさに切るなどの介助は必要であるが,左手を使って一人で食べることができる。

○ 衣服の着脱にはすべて介助が必要である。

○ 排泄にもすべて介助が必要である。下着の着脱のためのベッドを使用して,多目的トイレ内で行っていたが,6年生の途中から,手すり付きのトイレ内で,立位で行えるようになった。

○ 入学当初,車いすを一人で動かすことができなかったが,6年生当時には,平面(1.5p程度までの段差を含む。)での移動や角度約6度程度の傾斜のスロープは,2m程度の長さまでを一人で上がることができるようになった。

 平成21年3月31日,申立人は,G小学校を卒業した。なお,申立人の6年生のときの出席日数は198日,欠席日数は0日であった。

ウ.保護者らは,G小学校卒業後も,申立人を地元のA中学校に就学させたいと考えていたが,同級生の保護者らには,平成21年1月下旬ころ,α町教育委員会から同校の入学期日が通知されたのに,申立人の保護者らに対しては通知されなかったことから,同教育委員会に対し,申立人及び保護者らが同校への就学を希望している旨申し入れ,交渉を続けた。しかし,同教育委員会は,「A中は階段が多く,申立人及び介助員の命の保証ができない」旨の回答に終始した。
 α町教育委員会の就学指導委員会は,平成20年11月25日,平成21年1月20日及び同年2月26日の3回にわたり,申立人をA中学校に就学させることの可否,具体的には申立人が認定就学者に該当すると認められるか否かにつき審議し(審議には,教育委員長,教育長,教育次長,事務局職員等も出席している。),同校の構造上の問題(段差・バリアフリー・運動場,体育館へ行く手段等)から安全を確保し事故を防止するための方策について検討したが,同校の施設,設備の現状につき,「交流学級内は狭くて移動困難」「開放廊下は狭く,傾斜があり,溝もあるので自力移動は困難」「スロープなし」「移動可能な地道はなし」「校舎と運動場は500m離れており車椅子での移動は困難」「校舎,庭,体育館,プールへの移動は急階段になっており,通常では移動できない」「トイレは1階のみ」と認定し,そのほか「交流学級で学習するためには,克服しなければならない課題が多く存在する」「身体の成長は,本人の努力のみで上体の維持は益々困難になってくると思われる」などととらえた上,申立人が認定就学者に該当するとは認められず,同人を就学させるべき学校としては奈良県立H養護学校(以下「H養護学校」という。)が望ましいとの結論に至った。なお,上記審議の要点をまとめたメモには,安全確保のための具体的な方策についての提案や人員配置,予算措置等についての問題点に関する記載はない。
 α町教育委員会は,申立人について,学校教育法施行令5条1項1号の肢体不自由者に当たると判断した上,認定就学者には該当しないと判断し,平成21年3月11日,奈良県教育委員会に対し,同施行令11条に基づき,申立人の氏名及び特別支援学校に就学させるべき旨を通知するとともに,申立人の学齢簿の謄本を送付した。

(参照条文)学校教育法施行令11条

 市町村の教育委員会は、第二条に規定する者のうち視覚障害者等について、都道府県の教育委員会に対し、翌学年の初めから三月前までに、その氏名及び特別支援学校に就学させるべき旨を通知しなければならない。ただし、認定就学者については、この限りでない。
2  市町村の教育委員会は、前項の通知をするときは、都道府県の教育委員会に対し、同項の通知に係る者の学齢簿の謄本(第一条第三項の規定により磁気ディスクをもつて学齢簿を調製している市町村の教育委員会にあつては、その者の学齢簿に記録されている事項を記載した書類)を送付しなければならない。

 その後も,保護者らは,α町教育委員会に対し,申立人をA中学校に就学させたいとの希望を伝えていたが,平成21年4月1日,奈良県教育委員会は,申立人を就学させるべき特別支援学校としてH養護学校を指定した上,Bに対し就学通知書を送付して同校の入学期日を通知する(学校教育施行令14条1項2項)と同時に,同校校長及びα町教育委員会に対し,申立人の氏名及び入学期日(同教育委員会に対しては就学先がH養護学校であることも併せて)を通知した(同施行令15条)。

(参照条文)学校教育法施行令

14条 都道府県の教育委員会は、第十一条第一項(第十一条の二、第十一条の三、第十二条第二項及び第十二条の二第二項において準用する場合を含む。)の通知を受けた児童生徒等、第十八条の通知を受けた学齢児童及び学齢生徒並びに特別支援学校の新設、廃止等によりその就学させるべき特別支援学校を変更する必要を生じた児童生徒等について、その保護者に対し、第十一条第一項(第十一条の二において準用する場合を含む。)の通知を受けた児童生徒等にあつては翌学年の初めから二月前までに、その他の児童生徒等にあつては速やかに特別支援学校の入学期日を通知しなければならない。
2  都道府県の教育委員会は、当該都道府県の設置する特別支援学校が二校以上ある場合においては、前項の通知において当該児童生徒等を就学させるべき特別支援学校を指定しなければならない。
3  略。

15条 都道府県の教育委員会は、前条第一項の通知と同時に、当該児童生徒等を就学させるべき特別支援学校の校長及び当該児童生徒等の住所の存する市町村の教育委員会に対し、当該児童生徒等の氏名及び入学期日を通知しなければならない。
2  都道府県の教育委員会は、前条第二項の規定により当該児童生徒等を就学させるべき特別支援学校を指定したときは、前項の市町村の教育委員会に対し、同項に規定する事項のほか、その指定した特別支援学校を通知しなければならない。

エ.申立人及び保護者らは,申立人が,小学校就学時に心身共に成長し,身体機能や学力を向上させることができたのは,G小学校の普通学級で他の児童らと共に学ぶことで,障害を克服しようとする意欲を維持し,努力を続けた結果であると考えており(申立人が,学習意欲が強く,何事にも前向きな姿勢で最後までやり通そうとする児童であることは,通知票,実体把握表等にも記載されている。),現在も,A中学校への就学を強く希望している。
 申立人は,平成21年4月1日以降,H養護学校には通学せず,同校教員による自宅での訪問授業を受けている。

オ.申立人は,平成21年4月28日,相手方を被告として,α町教育委員会が,申立人の保護者に対し,申立人の就学すべき中学校としてA中学校を指定することの義務付けを求める訴えを提起した(以下「本案訴訟」という。)。

【判旨】

1.就学予定者の就学すべき中学校を指定する行為の法的性質及び当事者適格について

(1) 本案訴訟における義務付けの対象であり,本件申立てにおける仮の義務付けの対象は,α町教育委員会が,申立人の保護者に対し,原告(申立人)の就学すべき中学校としてA中学校を指定する行為(以下「本件指定」という。)である。

(2) 市町村の教育委員会は,当該市町村が設置した中学校に関し,当該市町村の区域内に住所を有する就学予定者について,就学すべき中学校を指定した上,その保護者に対し,当該中学校の入学期日を通知しなければならないものとされている(学校教育法施行令5条)。
 そして,上記通知に係る就学予定者には,@視覚障害者,聴覚障害者,知的障害者,肢体不自由者又は病弱者(身体虚弱者を含む。)で,その障害が,学校教育法施行令22条の3の表に規定する程度のもの(以下「視覚障害者等」という。)以外の者(同条1項1号)のほか,A視覚障害者等のうち,市町村の教育委員会が,その者の障害の状態に照らして,当該市町村の設置する中学校において適切な教育を受けることができる特別の事情があると認める者(認定就学者)が含まれる。また,特別支援学校に在学する生徒でその障害の状態の変化により認定就学者として中学校に就学することが適当であると思料するものがあるときは,当該生徒の在学する特別支援学校の校長は,速やかに,当該生徒の住所の存する都道府県の教育委員会に対し,その旨を通知しなければならず(同施行令6条の3第1項),都道府県の教育委員会は,当該生徒について,その住所の存する市町村の教育委員会に対し,速やかに,その氏名及び同通知があった旨を通知しなければならないものとされ(同条2項),これを受けた市町村の教育委員会は,当該生徒について認定就学者の認定をした場合,速やかに,上記同様の中学校の指定と保護者に対する通知を行わなければならないとされている(同施行令6条3号)。

(参照条文)学校教育法施行令

6条の3 特別支援学校に在学する学齢児童又は学齢生徒でその障害の状態の変化により認定就学者として小学校又は中学校に就学することが適当であると思料するものがあるときは、当該学齢児童又は学齢生徒の在学する特別支援学校の校長は、速やかに、当該学齢児童又は学齢生徒の住所の存する都道府県の教育委員会に対し、その旨を通知しなければならない。
2 都道府県の教育委員会は、前項の通知を受けた学齢児童又は学齢生徒について、当該学齢児童又は学齢生徒の住所の存する市町村の教育委員会に対し、速やかに、その氏名及び同項の通知があつた旨を通知しなければならない。
3項及び4項略。

6条 前条の規定は、次に掲げる者について準用する。この場合において、同条第一項中「翌学年の初めから二月前までに」とあるのは、「速やかに」と読み替えるものとする。
1号及び2号略。
三  第六条の三第二項の通知を受けた学齢児童又は学齢生徒のうち認定就学者の認定をしたもの
4号以下略。 

 一方,学校教育法施行令は,就学予定者(特別支援学校に在学する生徒で,その障害の状態の変化により認定就学者と認定された者を含む。以下同じ。)の就学すべき中学校の指定,認定就学者の認定等において,就学予定者ないし保護者の関与に関する明文の規定を置いていない。
 以上に照らせば,当該市町村が設置した中学校への就学に関する事務については,当該市町村の教育委員会がその権限を有し,当該市町村の教育委員会が当該市町村の区域内に住所を有する就学予定者について就学すべき中学校を指定した上その保護者に対し当該中学校の入学期日を通知する行為は,当該市町村との間で,当該生徒について当該中学校に係る在学関係という公法上の法律関係を形成するとともに,その保護者に当該生徒を当該中学校に就学させる義務を生じさせるものとして,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たると解するのが相当である。
 以上によれば,本件指定が,抗告訴訟の対象となる行政処分に該当することは明らかである。
 また,本件指定により,申立人とα町との間で,A中学校に係る在学関係という公法上の法律関係が成立するのであるから,申立人が,本案訴訟について,本件指定をすべき旨を命ずることを求めるにつき法律上の利益(行訴法37条の2第3項,第4項,9条2項)を有する者として原告適格を有することも明らかである。

(3) これに対し,相手方は,本件申立て(及び本案訴訟の請求)の趣旨を,申立人が,相手方に対し,A中学校に入学することを直接請求する権利に基づいて,入学させよとの義務付けを求めるものであるとの理解を前提として,@上記のような直接の入学請求権は学校教育法及び同法施行令上一切認められておらず,本件申立ては,具体的な法令上の根拠に基づかない請求であって,申立人と相手方の間には個別具体的な法的紛争が発生していない,また,A同法及び同施行令の規定によれば,子を就学させる義務を負うのは子の保護者であり,子を中学校又は特別支援学校等に就学させる義務の存否等に関する法律関係は,都道府県の教育委員会又は市町村の教育委員会と保護者との間で成立し,上記各教育委員会と子自身との間では成立しないから,子は,就学義務に関する法律関係ないし法的紛争において,当事者には当たらないとして,申立人は,A中学校又はH養護学校への就学義務に関する法律関係の係争主体とはならず,直接,具体的に権利又は法律上保護された利益を侵害されたとはいえないなどとして,申立人には原告適格がなく,訴えの利益も認められないとして,本件申立ては却下されるべきであると主張する。
 しかし,本件申立ての趣旨(及び本案訴訟の請求)は前記のとおりであり,相手方の主張はその前提を誤ったものであって,採用することができない。

2.本案について理由があるとみえるときに該当するか否か。

(1) 申立人の障害の程度等に照らせば,申立人は,「肢体不自由の状態が補装具の使用によっても歩行,筆記等日常生活における基本的な動作が不可能又は困難な程度」(学校教育法75条,同法施行令22条の3)の「肢体不自由者」(同法72条,同施行令5条1項1号)に当たる。

(2) そこで,α町教育委員会が本件指定をしないことがその裁量権の範囲を超え又はその濫用となると認められるか否かにつき検討する。

ア.肢体不自由者である申立人は,学校教育法及び同法施行令上,認定就学者に該当すると認められない限り,特別支援学校に就学すべきことになるから,α町教育委員会は,奈良県教育委員会に対し,その氏名及び特別支援学校に就学させるべき旨を通知する(同施行令11条1項)とともに,申立人の学齢簿の謄本を送付しなければならない(同条2項)。
 そして,前記のとおり,当該市町村の教育委員会が,視覚障害者等の就学すべき中学校として当該市町村の設置する中学校を指定する行為には,当該生徒が認定就学者に該当するとの判断が含まれ,特別支援学校に在学する生徒でその障害の状態の変化により認定就学者として中学校に就学することが適当であると思料するものがあるときも,当該特別支援学校の校長や当該都道府県の教育委員会は,その旨の通知を行うのみで,当該市町村の教育委員会が,当該生徒についての認定就学者該当性の有無を判断するものとされている(同施行令6条3号)。
 このように,認定就学者該当性の有無の判断を当該市町村の教育委員会が行うものとされたのは,その判断に当たっては,当該生徒及び保護者の意向,当該市町村の設置する中学校の施設や設備の整備状況,指導面で専門性の高い教員が配置されているか否か,当該生徒の障害の内容,程度等に応じた安全上の配慮や適切な指導の必要性の有無・程度などを総合考慮した上,当該生徒を当該市町村の設置する中学校に就学させることが,障害のある生徒等一人一人の教育上のニーズに応じた適切な教育を実施するという観点から相当といえるか否かを慎重に検討する必要があり,事柄の性質上,当該市町村の設置する中学校の生徒の就学に関する事務についての権限を有する当該市町村の教育委員会の判断にゆだねるのが適当であるからである。以上のような学校教育法施行令の規定の文言及び趣旨にかんがみれば,当該生徒についての認定就学者該当性の有無の判断については,当該市町村の教育委員会には一定限度の裁量の余地が認められていると解される。
 ところで,学校教育法施行令の定める認定就学者の制度は,平成14年4月の同施行令の改正により設けられたものであるが,その後,障害のある児童生徒等に対しては,一人一人の教育的ニーズに応じた適切な教育の実施がより一層求められるようになり,平成18年6月の学校教育法等の改正においては,複数の障害種別に対応した教育を実施することができる特別支援学校制度の創設,小中学校等における特別支援教育の推進,障害のある児童の就学先の決定の際の保護者の意見聴取の義務付け(学校教育法施行令18条の2)等が定められ,同改正の際,その法律案に対する附帯決議がなされており,その中で政府及び関係者が特段の配慮をすべき事項として「障害者基本法に, 基づき,また,国際的な障害者施策の潮流であるノーマライゼーションやインクルージョンの理念を踏まえつつ,障害のある子ども達が,生涯にわたって健康で文化的な生活を営むためにも,障害のない子どもとの交流及び共同学習が一層推進されるよう努めること。」(衆議院文部科学委員会),「就学先を指定するに際しては,事前に本人・保護者の意向を十分に聴取し,各学校の状況等を説明して理解が得られるよう努めることなど,相談機能の充実を図ること。また,就学先の指定について,手続の在り方を含め検討すること。」(参議院文教科学委員会)などと指摘されているところである。
 さらに,平成19年4月1日付け文部科学省初等中等教育局長名で出された「特別支援教育の推進について」と題する通知の中でも,「特別支援教育は,障害のある幼児児童生徒の自立や社会参加に向けた主体的な取組を支援するという視点に立ち,幼児児童生徒一人一人の教育的ニーズを把握し,その持てる力を高め,生活や学習上の困難を改善又は克服するため,適切な指導及び必要な支援を行うものである。」とその理念が明確にされ,特別支援教育を行うための体制の整備及び必要な取組として,校内委員会の設置,校長による特別支援教育コーディネーター(特別支援教育のコーディネーター的な役割を担う教員)の指名,教員の専門性の向上に努めること等が具体的に挙げられ,教育活動等を行う際の留意事項として,「障害のある幼児児童生徒と障害のない幼児児童生徒との交流及び共同学習は,障害のある幼児児童生徒の社会性や豊かな人間性を育む上で重要な役割を担っており,また,障害のない幼児児童生徒が,障害のある幼児児童生徒とその教育に対する正しい理解と認識を深めるための機会である。このため,各学校においては,双方の幼児児童生徒の教育的ニーズに対応した内容・方法を十分検討し,早期から組織的,計画的,継続的に実施することなど,一層の効果的な実施に向けた取組を推進されたいこと。」と指摘している。
 そして,従来,障害のある児童生徒に対する支援は,都道府県及び市町村の独自予算により介助員や学校支援員などの活用により対応してきたところであるが,上記学校教育法等の改正を受け,小中学校には認定就学者を初め,様々な障害をもつ児童生徒が在学していることを前提として,そのような児童生徒に対する学校生活上の介助や学習活動上の支援などを行う「特別支援教育支援員」の計画的配置が可能となるよう,平成19年度より地方財政措置がとられることとなり,平成21年度は,全公立小中学校数に相当する3万人相当分の約360億円の市町村費(1校当たり120万円)が予定されている。特別支援教育支援員の業務内容は多岐にわたるが,その中には,基本的生活習慣確立のための日常生活上の介助(食事・衣服の着脱・排泄等の介助),学習活動・教室間移動等における介助(車いすでの教室移動の介助,調理等の補助),学校行事(運動会,修学旅行等)における介助,周囲の児童生徒の障害理解促進等も含まれる。
 また,特別支援教育の一環として,学校施設のバリアフリー化や障害に適応した教育を実施する上で必要とする設備の整備(小中学校の校舎の新築や増築,エレベーターやスロープ,障害者トイレ等の大規模改造)については国庫補助も行われることとなっている。
 奈良県においても,上記の特別支援教育の理念に沿って,その体制の整備を進めているところである(校内委員会の設置,特別支援教育コーディネーターの指名の推進等。なお,奈良県内の公立中学校における平成19年度の指名率は100%である。また,各市町村には,特別支援教育コーディネーターリーダーが存在する。)。
 なお,α町は,介助員雇用のため,平成21年度一般会計予算に日々雇用職員賃金(長期)を計上している。
 以上述べたとおりであるから,当該生徒が認定就学者に該当するか否かの判断については,当該市町村の教育委員会に一定限度の裁量の余地が認められるものの,当該生徒及び保護者の意向,当該市町村の設置する中学校の施設や設備の整備状況,指導面で専門性の高い教員が配置されているか否か,当該生徒の障害の内容,程度等に応じた安全上の配慮や適切な指導の必要性の有無・程度などを総合考慮した上,当該生徒を当該市町村の設置する中学校に就学させることが,障害のある生徒等一人一人の教育上のニーズに応じた適切な教育を実施するという観点から相当といえるか否かを慎重に検討しなければならず,その判断が,事実に対する評価が合理性を欠くなど著しく妥当性を欠き,特別支援教育の理念を没却するような場合には,その裁量権を逸脱又は濫用したものとして違法であるというべきである。

イ.そこで,本件について検討するに,まず,申立人及び保護者らは,A中学校への就学を強く希望している。
 次に,相手方は,A中学校の施設,設備等は申立人の教育には極めて不適切である旨主張する。確かに,A中学校は山間部に位置するため,校舎等には階段や段差が多く,直ちにエレベーターを設置するための財政的な措置をとることも困難である事情は認められる。
 しかしながら,前記のとおり,α町は,平成21年度一般会計予算に日々雇用職員賃金(長期)を計上しているのであるから,早急に介助員を雇用し,G小学校に通学していたときと同様,申立人の移動を介助させることは可能と考えられる。また,校舎1階の障害者用トイレのほか2階ないし4階の手すり付き洋式トイレでの排泄も可能である。なお,グラウンドには和式トイレしか設置されていないが,体育の授業中,必要が生じれば,車いすで,場合によっては車を使用して校舎に戻ることも考えられる(そのために,申立人が体育の授業を中断することはやむを得ない。)。
 さらに,相手方は,A中学校はG小学校よりも階数が多く,グラウンドは離れた場所にあるなどの構造上の差異に加え,中学校では科目ごとの教室の移動も増え,成長期に入った申立人の体重も増加するから,移動(特に階段の昇降)の際の介助に伴う危険はG小学校に就学していたときとは比較にならないほど大きい旨主張する。
 しかし,そもそも申立人が教室等を移動する際,他の生徒らと同じ経路を通る必要性はなく,階段や段差を回避して移動する方法も考えられる上,現在,1年生の教室が4階にあることに固執する必要性も認められない。
 A中学校は生徒数も199名と多くはなく,各学年の教室を変更することが不可能又は著しく困難であるとまでは認め難い。このように,階段の昇降や段差の通行を回避ないし軽減する方策が考え得ることに加えて,申立人の平成21年3月当時の体重は約33sであり,平均的な女子の中学校3年間における体重の増加率に照らしても,中学校卒業時までに移動の介助が著しく困難になるほどの体重増加があるとまでは考えられない。これらの事情を総合すれば,現状の設備を前提としても,申立人の就学は可能である。なお,学校施設のバリアフリー化や障害に適応した教育を実施する上で必要とする設備の整備については,前記のとおり国庫補助も行われることとなっているし,現段階においても,可能な範囲でスロープを設置するなどの段差解消のための工夫を試みる余地はあると考えられるところである。
 また,相手方は,A中学校には,肢体不自由者を適切に指導するための専門性の高い教員が配置されていない旨主張するが,この点についても,申立人のための特別支援学級の設置,それに伴う教員の加配,特別支援教育支援員(前記のとおり,その配置のための市町村費の手当はA中学校にもなされるはずである。)等による対応が考えられる上,本来,個々の教員には,上記の特別支援教育の理念にかんがみ,特別支援教育に関する専門性の向上が求められているのであるから,肢体不自由者を受け入れた経験がないということが,教員の配置に欠けることの理由とはならないというべきである。しかも,申立人には,前記のとおり,知的障害や精神疾患等は認められず,学力面での専門的な指導力までは必要とはされず,教員による補助が必要であるのは,専ら四肢機能を補うことに尽きるのであって,現在在勤のA中学校の教員らによっても対応可能であるということができる。
 さらに,相手方は,申立人が適切な教育を受けるためには,施設,設備面や教員の配置等に照らし,H養護学校こそがふさわしい旨主張する。
 確かに,H養護学校の施設全体がバリアフリー化され,視覚障害者等を適切に指導するための専門性の高い教員が配置されていることは認められるが,申立人及び保護者らは,G小学校での経験をふまえ,中学校においても,普通学級で共に学ぶことで更に障害を克服し,心身共に成長し,身体機能や学力を向上させたいと希望しているのであり,H養護学校の規模やカリキュラム等に照らすと,同校に就学することが申立人の教育上のニーズに応じた適切な教育を実施するという観点から相当であるとは断じ難い。
 以上を総合すれば,申立人の就学すべき学校については,A中学校を指定することが,教育上のニーズに応じた適切な教育を実施するために最もふさわしいということができ,同校の施設等や教員の配置に関する上記の事情にかんがみれば,その障害の状態に照らして,当該市町村の設置する中学校において適切な教育を受けることができる特別の事情があると十分に認められる。α町教育委員会は,結局のところ,A中学校の現状の施設,設備及び教員の配置に固執したまま,現状においてとりうる手段や改善の余地等を検討することなく,申立人の障害の状態に照らして,同校において適切な教育を受けることができる特別の事情があるとは認められないと判断したものというほかなく,申立人が認定就学者に該当するか否かにつき,慎重に判断したとは認め難く,著しく妥当性を欠き,特別支援教育の理念を没却するものとして,その裁量権を逸脱又は濫用したものとして違法であるというべきである。
 相手方の主張は,いずれも抽象的な危険のおそれをいうにすぎず,近年の障害のある生徒の自立や社会参加に向けた取組を支援するという特別支援教育の理念に反するものといわざるを得ず,採用することができない。
 すなわち,認定就学者の該当性の判断に当たっては,生徒自身が何ができないかとの観点のみから判断するのではなく,どのような能力が残され,何ができるのかとの観点から将来の可能性を信じ,生徒及び保護者の意向を踏まえて判断するのが,教育一般の,また,特別支援教育の理念に沿うものであるというべきであるからである。
 そうすると,申立人が認定就学者に該当しないと判断し,本件指定を行わなかった判断は,著しく妥当性を欠き,特別支援教育の理念を没却するといわなければならない。

ウ.上記によれば,α町教育委員会は,学校教育法施行令6条の3第1項2項に規定する場合に準じ,申立人の就学すべき中学校としてA中学校を指定しなければならず,同教育委員会が本件指定をしないことは,その裁量権を逸脱又は濫用したものとして違法といわざるを得ない。

(3) 以上により,本件申立てについては,行訴法37条の5第1項にいう「本案について理由があるとみえるとき」の要件を満たすといえる。

3.償うことのできない損害を避けるために緊急の必要があるときに該当するか否か。

 申立人は,平成21年4月から,H養護学校に入学し,同校教員による訪問授業を受けているものの,A中学校の普通学級で他の生徒らと共に授業を受け,学校生活を送ることで,自己の障害を克服し,学力を伸ばし,心身共に成長するための時間が刻々と失われている状況にある。中学校教育の期間はわずか3年間しかないのに,既に失われた時間が3か月近くに及んでいることを併せ考慮すると,償うことのできない損害を避けるために緊急の必要があるときに該当すると認められる。

4.公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるか否か。

 相手方は,本件と同様の事態が頻発する旨主張するが,仮に,本件と同様の事態が生ずれば,その生徒についても地元の中学校で受け入れるべきであるから,主張自体失当であるほか,一件記録を検討するも,他に本件指定の仮の義務付けにより公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあると認めるに足りる疎明はない。

5.結論

 以上によれば,申立人の本件申立ては理由がある。

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