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最高裁判所大法廷判決平成22年01月20日

【事案】

1.砂川市(以下「市」という。)が神社の敷地となっている市有地を砂川市T町内会(以下「本件町内会」という。)に無償で譲与したことは,憲法の定める政教分離原則に違反する無効な行為であって,同土地の所有権移転登記の抹消登記手続を請求しないことが違法に財産の管理を怠るものであるとして,市の住民である上告人が,被上告人に対し,地方自治法242条の2第1項3号に基づき上記怠る事実の違法確認を求める事案。

2.事実関係等の概要

(1) 譲与された市有地と神社施設の概要

 市は,第1審判決別紙物件目録記載の各土地(以下「本件各土地」という。)を所有していたが,平成17年4月15日,これを市のT地区に所在し地方自治法260条の2第1項の認可(以下「地縁団体の認可」という。)を受けた本件町内会に譲与し(以下,この譲与を「本件譲与」という。),同日付け贈与を原因として所有権移転登記手続をした。
 本件各土地はT神社(以下「本件神社」という。)の敷地となっており,同土地上には,第1審判決別紙図面のとおり,北側から,鳥居(幅約4.5m),石灯籠一対及び社殿(床面積25.92u,木造亜鉛メッキ鋼板葺南京下見板張り平家建建物)が一直線上に配置され,石灯籠と社殿の間には,「地神宮」と彫られた石造の地神宮が,社殿手前には清心(手水所)が設置されている。社殿の正面入口の外壁上部には「T神社」との文字を刻した額が掲げられ,社殿正面奥に大国主命を祭神とする祠が設置されている(以下,祠を納めた社殿,鳥居,石灯籠,地神宮及び清心を併せて「本件神社施設」という。)。

(2) 本件譲与時における本件神社の管理状況等

ア.本件町内会は,良好な地域社会の維持及び形成に資することを目的とした地域的活動を行う町内会組織であって,宗教的活動を行うことを目的とする団体ではなく,組織的には本件神社と別個の存在である。本件町内会は,役員構成を始め組織として本件神社と特別の関係はなく,その会員又は役員の資格として本件神社を中心とする特定の宗教団体に所属していること等が条件とされているものでもない。また,その会計は本件神社とは別に管理されている。

イ.本件神社は,法人格を持たず,組織,活動等について定めた規約もなく,神職も常駐していない。ただし,住民の話合いによって選任された総代及び会計係各1名が,本件町内会の住民から,本件神社の維持運営費として1世帯当たり年額1500円を集金したり,例大祭の準備活動をしたりするなど,神社の維持運営に関する事務を行っている。T地区の世帯数は30数世帯であるが,平成13年度ないし同15年度当時,その大多数が維持運営費を支払っている。本件神社の例大祭の行事等の費用は,住民からの寄附金や賽銭によって賄われている。

ウ.本件神社においては,毎年,初詣で並びに春季及び秋季の例大祭が行われており,初詣での際には,T地区の住民らが参拝に訪れ,春季及び秋季の例大祭においては,A神社の宮司が本件神社の社殿内で祝詞を奏上するなどの神事を行い,例年10名前後の住民が参拝に訪れている。例大祭の期間中,「奉納T神社氏子中」などと書かれたのぼりが鳥居の両脇に立てられるほか,社殿の正面入口の軒下部分に,「奉納T神社総代」などと鈴緒に書かれた鈴が取り付けられ,入口近くに賽銭箱が置かれる。なお,毎年8月のA神社の祭りの際には,本件神社にA神社のみこしが訪れ,宮司や巫女による神事が行われている。

(3) 本件神社の沿革及び本件譲与に至る経緯

ア.本件各土地は,もともとT地区に存在したT各部落会(本件町内会の前身)が実質的に所有する土地として地域住民に利用されていたが,形式的には地域住民らの個人名義で登記されていた。T地区の住民らは,明治27年,本件各土地上に五穀豊穣を祈願して大国主命を祭神とする小祠を建立した(当時はB神社と呼ばれていた。)。その後,大正7年から昭和43年までの間に,本件各土地上に本件神社施設が順次設置されて現在に至っている。

イ.市は,昭和10年,T各部落会から本件各土地上にT小学校の教員住宅を建設してほしいとの要望を受け,本件各土地の寄附及び所有権移転登記を受けて同住宅を建築した。

ウ.T小学校の教員住宅は昭和50年に取り壊されることとなったため,市は,これに伴い,同51年4月,本件各土地の管理目的を児童公園等の部落共同目的の用に供することに限定して,その管理を無償でT各部落会に委託した。なお,当時,本件各土地上には本件神社施設のほか農協倉庫や青年会館が存在し,また,その一部は児童公園としても利用されていた。以後,本件各土地はT各部落会及びその後身である本件町内会が自主的に管理活用してきた(この間,上記の倉庫等及び公園は取り壊されるなどして現在は存在しない。)。

エ.上告人は,平成16年9月,市の監査委員に対し,市が本件各土地を本件神社の敷地として使用させていることは政教分離原則に違反するとして住民監査請求を行った。監査委員は,同年11月22日付けの監査結果において,結論として政教分離原則違反は認められないとしたが,市有地上に神社の祠が存在し祭事に利用されていることは,一部市民に不審を抱かせるものであるから,従前の経緯を考慮し,本件各土地をT地区住民に譲与するなどの方策を講ずる必要があると考える旨の意見を付記した。
 これを受けて,市は,市有地が神社の敷地となっている状態を解消するため,本件町内会と協議した上,同17年4月15日,譲与についての市議会の議決を経て,地縁団体の認可を受けた本件町内会に対し本件譲与を行った。

【判旨】

1.本件神社施設は,一体として明らかに神道の神社施設に当たるものであり,本件神社において行われている諸行事も,神道の方式にのっとって行われているその態様にかんがみ,宗教的行事と認めるほかないものである。
 また,本件神社の経費はT地区に所在する大多数の世帯から提供される維持運営費等によって賄われ,その会計は,地域住民の話合いによって選任された総代及び会計係によって,本件町内会の会計とは別に管理されているというのであるから,その範囲を明確に特定することができないとはいえ,氏子に相当する地域住民の集団が社会的に実在することは明らかであり,この集団は憲法89条の宗教上の組織ないし団体に当たるものと認められる。本件神社施設の所有者は定かではないものの,本件譲与前に市が本件各土地を無償で神社敷地としての利用に供していた行為は,その直接の効果として,上記地域住民の集団が神社を利用した宗教的活動を行うことを容易にするものであったというべきである。
 したがって,本件各土地が市の所有に帰した経緯についてはやむを得ない面があるとはいえ,上記行為をそのまま継続することは,一般人の目から見て,市が特定の宗教に対して特別の便益を提供し,これを援助していると評価されるおそれがあったものということができる。

2.本件譲与は,市が,監査委員の指摘を考慮し,上記のような憲法89条及び20条1項後段の趣旨に適合しないおそれのある状態を是正解消するために行ったものである。
 確かに,本件譲与は,本件各土地の財産的価値にのみ着目すれば,本件町内会に一方的に利益を提供するという側面を有しており,ひいては,上記地域住民の集団に対しても神社敷地の無償使用の継続を可能にするという便益を及ぼすとの評価はあり得るところである。しかしながら,本件各土地は,昭和10年に教員住宅の敷地として寄附される前は,本件町内会の前身であるT各部落会が実質的に所有していたのであるから,同50年に教員住宅の敷地としての用途が廃止された以上,これを本件町内会に譲与することは,公用の廃止された普通財産を寄附者の包括承継人に譲与することを認める市の「財産の交換,譲与,無償貸付等に関する条例」(平成4年砂川市条例第20号)3条の趣旨にも適合するものである。また,仮に市が本件神社との関係を解消するために本件神社施設を撤去させることを図るとすれば,本件各土地の寄附後も上記地域住民の集団によって守り伝えられてきた宗教的活動を著しく困難なものにし,その信教の自由に重大な不利益を及ぼすことになる。同様の問題に関し,「社寺等に無償で貸し付けてある国有財産の処分に関する法律」(昭和22年法律第53号)は,同法施行前に寄附等により国有となった財産で,その社寺等の宗教活動を行うのに必要なものは,所定の手続を経てその社寺等に譲与することを認めたが,それは,政教分離原則を定める憲法の下で,社寺等の財産権及び信教の自由を尊重しつつ国と宗教との結び付きを是正解消するためには,上記のような財産につき譲与の措置を講ずることが最も適当と考えられたことによるものと解される。公有地についてもこれと同様に譲与等の処分をすべきものとする内務文部次官通牒が発出された上,譲与の申請期間が経過した後も,譲与,売払い,貸付け等の措置が講じられてきたことは,当裁判所に顕著である。本件譲与は,上記のような理念にも沿うものであって,市と本件神社とのかかわり合いを是正解消する手段として相当性を欠くということもできない(このような土地を地縁団体の認可を受けた町内会に譲与することが地方自治法260条の2の趣旨に反するものでないことはいうまでもない。)。

3.以上のような事情を考慮し,社会通念に照らして総合的に判断すると,本件譲与は,市と本件神社ないし神道との間に,我が国の社会的,文化的諸条件に照らし,信教の自由の保障の確保という制度の根本目的との関係で相当とされる限度を超えるかかわり合いをもたらすものということはできず,憲法20条3項,89条に違反するものではないと解するのが相当である(最高裁昭和46年(行ツ)第69号同52年7月13日大法廷判決・民集31巻4号533頁最高裁平成4年(行ツ)第156号同9年4月2日大法廷判決・民集51巻4号1673頁等参照)。

 

最高裁判所大法廷判決平成22年01月20日

【事案】

1.砂川市(以下「市」という。)がその所有する土地を神社施設の敷地として無償で使用させていることは,憲法の定める政教分離原則に違反する行為であって,敷地の使用貸借契約を解除し同施設の撤去及び土地明渡しを請求しないことが違法に財産の管理を怠るものであるとして,市の住民である被上告人らが,上告人に対し,地方自治法242条の2第1項3号に基づき上記怠る事実の違法確認を求める事案。

2.事実関係等の概要

(1) 神社施設の現在の所有関係等

 市は,第1審判決別紙第1不動産目録記載の各土地(以下「本件各土地」といい,同目録記載の土地を個別に摘示するときは,その番号に従い「本件土地1」などという。ただし,文脈により明らかなときは「本件」を省略する。同様の表記につき,以下同じ。)を所有している。
 本件各土地上には,第1審判決別紙第2及び第3のとおり,地域の集会場等であるS会館(以下「本件建物」という。)が建てられ,その一角にS神社(以下「本件神社」という。)の祠が設置され,建物の外壁には「神社」との表示が設けられている。また,本件土地1上には,鳥居及び地神宮が設置されている(以下,上記の祠等をそれぞれ「本件祠」,「本件神社の表示」,「本件鳥居」及び「本件地神宮」といい,これらの4物件を併せて「本件神社物件」という。)。
 本件建物及び本件神社物件の所有者は,S連合町内会(以下「本件町内会」という。)であり,市は,本件町内会に対し,本件各土地を無償で本件建物,鳥居及び地神宮の敷地としての利用に供している(以下,市が本件各土地を本件神社物件のために無償で提供していることを「本件利用提供行為」という。)。

(2) 本件神社物件の形状及び配置状況

 本件鳥居は,本件土地1上の国道12号線に面する部分に設置され,台石の上に置かれた,堅固な構造を有する神明鳥居(幅約4.5m)で,その上部正面に「S神社」の額が掲げられている。本件建物には,鳥居の正面に当たる部分に,会館入口とは別に,「神社」と表示された入口が設けられ,さらにその入口を入った正面に祠が設置されている。鳥居の脇には,「地神宮」と彫られた石造の地神宮が設置されているが,鳥居,神社入口及び祠は一直線上に配置され,また,祠内には御神体として天照大神が宿るとされる鏡が置かれている。

(3) 本件神社の現在の管理状況等

ア.本件神社は,宗教法人法所定の宗教法人ではなく,神社付近の住民らで構成される氏子集団(以下「本件氏子集団」という。)によってその管理運営がされている。本件氏子集団は,総代及び世話役各10名を置き,祭りの際には寄附を集め,その会計を町内会の会計とは別に管理している。しかし,組織についての規約等はなく,氏子の範囲を明確に特定することはできず,本件氏子集団を権利能力なき社団と認めることはできない(そのため,前記のとおり,本件神社物件も,法的には町内会の所有と認められる。)。

イ.本件町内会は,S地区の六つの町内会によって組織される地域団体で,本件氏子集団を包摂し,各町内会の会員によって組織される運営委員会が本件建物の管理運営を行っている。建物の主要部分を占める集会室の内には,机,いす,黒板,カラオケ機器等が置かれ,ふだんは使用料を徴収して学習塾等の用途に使用されている。
 本件町内会及び本件氏子集団は,市に対し,本件各土地又は本件建物において本件神社物件を所有し又は使用していることについて,対価を支払っていない。氏子集団による建物の使用については,氏子総代が町内会に年6万円の使用料を支払っている(本件記録によれば,この6万円は,後記ウの祭事の際の建物使用の対価であることがうかがわれる。)。

ウ.本件神社においては,初詣で,春祭り及び秋祭りという年3回の祭事が行われている。初詣での際には,A神社から提供されたおみくじ,交通安全の札等が販売され,代金及び売れ残ったおみくじ等はA神社に納められている。また,春祭り及び秋祭りの際には,A神社から宮司の派遣を受け,「S神社」,「地神宮」などと書かれたのぼりが本件鳥居の両脇に立てられる。秋祭りの際には,本件地神宮の両脇に「奉納地神宮氏子中」などと書かれたのぼりが立てられて神事が行われ,「秋季祭典奉納S神社」などと書かれた看板が地域に掲げられる。なお,毎年8月のA神社の祭りの際には,本件神社にA神社のみこしが訪れ,かつては巫女が舞を舞っていたこともある。

(4) 本件神社の沿革

ア.S地区の住民らは,明治25年ころ,五穀豊穣を祈願して,現在の市立S小学校(以下「本件小学校」という。)の所在地付近に祠を建てた。その後,同30年,地元住民らが,神社創設発願者として,上記所在地付近の3120坪の土地について,北海道庁に土地御貸下願を提出して認められ,同所に神社の施設を建立した。同施設には同年9月に天照大神の分霊が祭られて鎮座祭が行われ,地元住民の有志団体であるS青年会がその維持管理に当たった。

イ.明治36年に上記施設に隣接して本件小学校(当時の名称は公立B郡C小学校)が建設されたが,昭和23年ころ,校舎増設及び体育館新設の計画が立てられ,その敷地として隣地である上記土地を使用することになったため,上記土地から神社の施設を移転する必要が生じた。そこで,S地区の住民であるDが,上記計画に協力するため,その所有する本件土地1及び4を同施設の移転先敷地として提供した。同施設は,そのころ,同土地に移設され,同25年9月15日には同土地上に本件地神宮も建てられた。

ウ.Dは,昭和28年,本件土地1及び4に係る固定資産税の負担を解消するため,砂川町(同33年7月の市制施行により市となる。以下「町」という。)に同土地の寄附願出をした。町は,同28年3月の町議会において,同土地の採納の議決及び同土地を祠等の施設のために無償で使用させるとの議決をし,同月29日,Dからの寄附に基づきその所有権を取得した。

エ.本件町内会(当時の名称はS部落連合会)は,昭和45年,市から補助金の交付を受けて,本件各土地上に地域の集会場として本件建物を新築した。これに伴い,本件町内会は,市から本件土地1及び4に加えて本件土地3(同土地は同年9月に地元住民であるEらから市に寄附された。)を,北海土地改良区(以下「改良区」という。)から本件土地2及び5を,いずれも本件建物の敷地として無償で借用した。そして,建物の建築に伴い,本件土地1及び4上にあった従前の本件神社の施設は,本件祠及び地神宮を除き取り壊され,建物内の一角に祠が移設され,本件土地1上に本件鳥居が新設された(なお,従前存在した鳥居は取り壊されたことがうかがわれる。)。

オ.平成6年,市は,改良区から,本件土地2及び5をそれぞれ代金500万2321円及び143万8296円で買い受けた。

カ.以上の過程を経て,本件各土地は,すべて市の所有地となり,現在,本件建物,鳥居及び地神宮の敷地として無償で提供されている。

3.原審は,上記事実関係等の下において,次のとおり判示して,上告人が本件町内会に対し本件神社物件の撤去請求をすることを怠る事実が違法であることを確認する限度で被上告人らの請求を認容すべきものと判断した。

(1) 本件神社物件及び本件建物は宗教施設としての性格が明確で,本件利用提供行為は,市が特定の宗教上の組織との間にのみ意識的に特別のかかわり合いを持つものであり,一般人に対し市が特定の宗教に特別の便宜を与えているとの印象をもたらすものであって,我が国の社会的,文化的諸条件に照らして相当とされる限度を超え,憲法20条3項にいう宗教的活動に当たり,同項に違反し,憲法20条1項後段及び89条の政教分離原則の精神に明らかに反するものというべきである。

(2) 被上告人らは,上告人が本件利用提供行為に係る使用貸借契約を解除して本件建物及び本件神社物件の収去及び土地明渡請求をしないことが違法であると主張するところ,上記の憲法違反の状態は,上記契約を解除しなくとも,本件神社物件を撤去させることによって是正することができるものであるから,上記契約を解除するまでの必要は認められないが,市が本件町内会に対しその撤去を請求しないことは,違法に本件土地1及び2の管理を怠るものというべきである。

【判旨】

第1.上告代理人新川生馬,同朝倉靖の上告理由について

 論旨は,本件神社物件の宗教性は希薄であり,町又は市が本件土地1及び2を取得したのは宗教的目的に基づくものではないなどとして,本件利用提供行為は政教分離原則を定めた憲法の規定に違反するものではないというものである。しかしながら,本件利用提供行為は憲法89条に違反し,ひいては憲法20条1項後段にも違反するものであって,論旨は採用することができない。その理由は,次のとおりである。

1.憲法判断の枠組み

 憲法89条は,公の財産を宗教上の組織又は団体の使用,便益若しくは維持のため,その利用に供してはならない旨を定めている。その趣旨は,国家が宗教的に中立であることを要求するいわゆる政教分離の原則を,公の財産の利用提供等の財政的な側面において徹底させるところにあり,これによって,憲法20条1項後段の規定する宗教団体に対する特権の付与の禁止を財政的側面からも確保し,信教の自由の保障を一層確実なものにしようとしたものである。しかし,国家と宗教とのかかわり合いには種々の形態があり,およそ国又は地方公共団体が宗教との一切の関係を持つことが許されないというものではなく,憲法89条も,公の財産の利用提供等における宗教とのかかわり合いが,我が国の社会的,文化的諸条件に照らし,信教の自由の保障の確保という制度の根本目的との関係で相当とされる限度を超えるものと認められる場合に,これを許さないとするものと解される。
 国又は地方公共団体が国公有地を無償で宗教的施設の敷地としての用に供する行為は,一般的には,当該宗教的施設を設置する宗教団体等に対する便宜の供与として,憲法89条との抵触が問題となる行為であるといわなければならない。もっとも,国公有地が無償で宗教的施設の敷地としての用に供されているといっても,当該施設の性格や来歴,無償提供に至る経緯,利用の態様等には様々なものがあり得ることが容易に想定されるところである。例えば,一般的には宗教的施設としての性格を有する施設であっても,同時に歴史的,文化財的な建造物として保護の対象となるものであったり,観光資源,国際親善,地域の親睦の場などといった他の意義を有していたりすることも少なくなく,それらの文化的あるいは社会的な価値や意義に着目して当該施設が国公有地に設置されている場合もあり得よう。また,我が国においては,明治初期以来,一定の社寺領を国等に上知(上地)させ,官有地に編入し,又は寄附により受け入れるなどの施策が広く採られたこともあって,国公有地が無償で社寺等の敷地として供される事例が多数生じた。このような事例については,戦後,国有地につき「社寺等に無償で貸し付けてある国有財産の処分に関する法律」(昭和22年法律第53号)が公布され,公有地についても同法と同様に譲与等の処分をすべきものとする内務文部次官通牒が発出された上,これらによる譲与の申請期間が経過した後も,譲与,売払い,貸付け等の措置が講じられてきたが,それにもかかわらず,現在に至っても,なおそのような措置を講ずることができないまま社寺等の敷地となっている国公有地が相当数残存していることがうかがわれるところである。これらの事情のいかんは,当該利用提供行為が,一般人の目から見て特定の宗教に対する援助等と評価されるか否かに影響するものと考えられるから,政教分離原則との関係を考えるに当たっても,重要な考慮要素とされるべきものといえよう。
 そうすると,国公有地が無償で宗教的施設の敷地としての用に供されている状態が,前記の見地から,信教の自由の保障の確保という制度の根本目的との関係で相当とされる限度を超えて憲法89条に違反するか否かを判断するに当たっては,当該宗教的施設の性格,当該土地が無償で当該施設の敷地としての用に供されるに至った経緯,当該無償提供の態様,これらに対する一般人の評価等,諸般の事情を考慮し,社会通念に照らして総合的に判断すべきものと解するのが相当である。
 以上のように解すべきことは,当裁判所の判例(最高裁昭和46年(行ツ)第69号同52年7月13日大法廷判決・民集31巻4号533頁最高裁平成4年(行ツ)第156号同9年4月2日大法廷判決・民集51巻4号1673頁等)の趣旨とするところからも明らかである。

2.本件利用提供行為の憲法適合性

(1) 本件鳥居,地神宮,「神社」と表示された会館入口から祠に至る本件神社物件は,一体として神道の神社施設に当たるものと見るほかはない。
 また,本件神社において行われている諸行事は,地域の伝統的行事として親睦などの意義を有するとしても,神道の方式にのっとって行われているその態様にかんがみると,宗教的な意義の希薄な,単なる世俗的行事にすぎないということはできない。
 このように,本件神社物件は,神社神道のための施設であり,その行事も,このような施設の性格に沿って宗教的行事として行われているものということができる。

(2) 本件神社物件を管理し,上記のような祭事を行っているのは,本件利用提供行為の直接の相手方である本件町内会ではなく,本件氏子集団である。本件氏子集団は,前記のとおり,町内会に包摂される団体ではあるものの,町内会とは別に社会的に実在しているものと認められる。そして,この氏子集団は,宗教的行事等を行うことを主たる目的としている宗教団体であって,寄附を集めて本件神社の祭事を行っており,憲法89条にいう「宗教上の組織若しくは団体」に当たるものと解される。
 しかし,本件氏子集団は,祭事に伴う建物使用の対価を町内会に支払うほかは,本件神社物件の設置に通常必要とされる対価を何ら支払うことなく,その設置に伴う便益を享受している。すなわち,本件利用提供行為は,その直接の効果として,氏子集団が神社を利用した宗教的活動を行うことを容易にしているものということができる。

(3) そうすると,本件利用提供行為は,市が,何らの対価を得ることなく本件各土地上に宗教的施設を設置させ,本件氏子集団においてこれを利用して宗教的活動を行うことを容易にさせているものといわざるを得ず,一般人の目から見て,市が特定の宗教に対して特別の便益を提供し,これを援助していると評価されてもやむを得ないものである。本件利用提供行為は,もともとは小学校敷地の拡張に協力した用地提供者に報いるという世俗的,公共的な目的から始まったもので,本件神社を特別に保護,援助するという目的によるものではなかったことが認められるものの,明らかな宗教的施設といわざるを得ない本件神社物件の性格,これに対し長期間にわたり継続的に便益を提供し続けていることなどの本件利用提供行為の具体的態様等にかんがみると,本件において,当初の動機,目的は上記評価を左右するものではない。

(4) 以上のような事情を考慮し,社会通念に照らして総合的に判断すると,本件利用提供行為は,市と本件神社ないし神道とのかかわり合いが,我が国の社会的,文化的諸条件に照らし,信教の自由の保障の確保という制度の根本目的との関係で相当とされる限度を超えるものとして,憲法89条の禁止する公の財産の利用提供に当たり,ひいては憲法20条1項後段の禁止する宗教団体に対する特権の付与にも該当すると解するのが相当である。

第2.職権による検討

1.本件は,被上告人らが地方自治法242条の2第1項3号に基づいて提起した住民訴訟であり,被上告人らは,前記のとおり政教分離原則との関係で問題とされざるを得ない状態となっている本件各土地について,上告人がそのような状態を解消するため使用貸借契約を解除し,神社施設の撤去を求める措置を執らないことが財産管理上違法であると主張する。

2.本件利用提供行為の現状が違憲であることは既に述べたとおりである。しかしながら,これを違憲とする理由は,判示のような施設の下に一定の行事を行っている本件氏子集団に対し,長期にわたって無償で土地を提供していることによるものであって,このような違憲状態の解消には,神社施設を撤去し土地を明け渡す以外にも適切な手段があり得るというべきである。例えば,戦前に国公有に帰した多くの社寺境内地について戦後に行われた処分等と同様に,本件土地1及び2の全部又は一部を譲与し,有償で譲渡し,又は適正な時価で貸し付ける等の方法によっても上記の違憲性を解消することができる。そして,上告人には,本件各土地,本件建物及び本件神社物件の現況,違憲性を解消するための措置が利用者に与える影響,関係者の意向,実行の難易等,諸般の事情を考慮に入れて,相当と認められる方法を選択する裁量権があると解される。本件利用提供行為に至った事情は,それが違憲であることを否定するような事情として評価することまではできないとしても,解消手段の選択においては十分に考慮されるべきであろう。本件利用提供行為が開始された経緯や本件氏子集団による本件神社物件を利用した祭事がごく平穏な態様で行われてきていること等を考慮すると,上告人において直接的な手段に訴えて直ちに本件神社物件を撤去させるべきものとすることは,神社敷地として使用することを前提に土地を借り受けている本件町内会の信頼を害するのみならず,地域住民らによって守り伝えられてきた宗教的活動を著しく困難なものにし,氏子集団の構成員の信教の自由に重大な不利益を及ぼすものとなることは自明であるといわざるを得ない。さらに,上記の他の手段のうちには,市議会の議決を要件とするものなども含まれているが,そのような議決が適法に得られる見込みの有無も考慮する必要がある。これらの事情に照らし,上告人において他に選択することのできる合理的で現実的な手段が存在する場合には,上告人が本件神社物件の撤去及び土地明渡請求という手段を講じていないことは,財産管理上直ちに違法との評価を受けるものではない。すなわち,それが違法とされるのは,上記のような他の手段の存在を考慮しても,なお上告人において上記撤去及び土地明渡請求をしないことが上告人の財産管理上の裁量権を逸脱又は濫用するものと評価される場合に限られるものと解するのが相当である。

3.本件において,当事者は,上記のような観点から,本件利用提供行為の違憲性を解消するための他の手段が存在するか否かに関する主張をしておらず,原審も当事者に対してそのような手段の有無に関し釈明権を行使した形跡はうかがわれない。しかし,本件利用提供行為の違憲性を解消するための他の手段があり得ることは,当事者の主張の有無にかかわらず明らかというべきである。また,原審は,本件と併行して,本件と当事者がほぼ共通する市内の別の神社(T神社)をめぐる住民訴訟を審理しており,同訴訟においては,市有地上に神社施設が存在する状態を解消するため,市が,神社敷地として無償で使用させていた市有地を町内会に譲与したことの憲法適合性が争われていたところ,第1,2審とも,それを合憲と判断し,当裁判所もそれを合憲と判断するものである(最高裁平成19年(行ツ)第334号)。原審は,上記訴訟の審理を通じて,本件においてもそのような他の手段が存在する可能性があり,上告人がこうした手段を講ずる場合があることを職務上知っていたものである。
 そうすると,原審が上告人において本件神社物件の撤去及び土地明渡請求をすることを怠る事実を違法と判断する以上は,原審において,本件利用提供行為の違憲性を解消するための他の合理的で現実的な手段が存在するか否かについて適切に審理判断するか,当事者に対して釈明権を行使する必要があったというべきである。
 原審が,この点につき何ら審理判断せず,上記釈明権を行使することもないまま,上記の怠る事実を違法と判断したことには,怠る事実の適否に関する審理を尽くさなかった結果,法令の解釈適用を誤ったか,釈明権の行使を怠った違法があるものというほかない。

第3.結論

 以上によれば,本件利用提供行為を違憲とした原審の判断は是認することができるが,上告人が本件神社物件の撤去請求をすることを怠る事実を違法とした判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。そこで,原判決を職権で破棄し,本件利用提供行為の違憲性を解消するための他の手段の存否等について更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。

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