平成22年度新司法試験論文式
公法系第2問の感想と参考答案

問題は、こちら

出題傾向について

住民訴訟は、行政法の中ではマイナー分野である。
しかし、政教分離訴訟を含め、多数の裁判例がある。
また、平成14年改正事項である。
そのため、出題可能性は低いが、危険なところだと考えられていた。
それが、ついに出題された、という感じである。
同様の位置づけの分野として、情報公開訴訟がある。
これも、出なさそうで、出そうな感じのする危険な分野である。
ただ、出す場合は、本問のような出し方になるだろう。
その意味で、本問はマイナー分野の出題対策として、参考になる問題である。

出題傾向としては、行政法らしさが最も強く出たといえる。
行政法は、多くの受験生において勉強がすすんでいない。
それは、考査委員も良くわかっている。
そのため、詳細な誘導を施し、現場で考えればなんとかなるようになっている。
もっとも、従来はそれでも予備校でAAとされる論点。
処分性や、処分の相手方以外の者の原告適格といったものが、含まれていた。
この部分は、他の科目同様、事前準備で差が付く。
しかし、本問は、そういった基本論点は、含まれていない。
ほぼ全面的に現場思考問題、といった感じだ。
これは、住民訴訟という出題分野の特殊性によるところが大きい。
従って、来年度以降も同じ傾向になるとはいえない。
本問を見て、基本的な論点の準備を怠ることは、危険である。

また、本問のような問題が出されると、勉強のしようがない、と感じるかもしれない。
確かに、基本書を読んでいるだけでは、ほとんど差をつけることができない。
上記のように、行政法はそのような要素を強く持っている。
有効な勉強法は、下級審裁判例に多く触れることである。
基本書のように、理解・記憶するのではなく、ざっと読み下す。
寝る前に音読するだけでもよい。
それだけで、何となくどんな感じで事案を処理してよいかがわかる。
行政法の裁判例は、制度趣旨等の理由付けを比較的丁寧に説明している。
基本書には載っていない制度趣旨やあてはめの視点が、詳しく書いてあることも多い。
また、こういう事案のときにこの条文・判例が良く出てくるな。
そういう感覚も、無意識に頭に残るようになる。
そういう漠然とした感覚は、現場で答案を書くときの自信につながる。
とんでもない方向に走ってしまうことを、防ぐ効果もある。
行政法に関しては、基本書は主に短答の知識対策で使う。
論文対策は、問題演習と裁判例の読み流しをメインにし、基本書は辞書として使う。
そういう感じでよいと思う。
また、他の科目との関係でいうと、行政法の論文対策は後回しでよいということでもある。
覚えたりする作業が足りない人は、行政法の時間を他の科目の理解・記憶に回すべきである。
ただ、論文における公法系科目は、他の科目よりも足切りになりやすい傾向にある。
あまりに手を抜きすぎることも、危険である。

内容面について

行政法の特徴は、資料を見れば、ほぼそのまま答案構成ができるという点である。
しかも本問の場合は、会議録の内容が設問の順になっている。
考査委員は意識して親切に作っているな、という感じだ。
これを順にまとめるだけで、おおまかな答案構成ができる。
例えば、以下のような感じである。

第1.設問1

1.予想される住民訴訟

 4号請求の具体的内容

2.訴えの適法性

(1) Bについて
(2) Cについて
(3) Dについて

総務課長G:それは,地方自治法第242条の2第1項各号に挙げられた4つの請求のうち,第4号に規定された請求をするという意味ですね。F先生の方で,Bらが今回の売却に対して,どういった訴えを起こしてくるのか,4号請求の具体的な内容を示してもらえると参考になります。その上で,Bらが提起する訴えが適法かを,B,C及びDのそれぞれについて検討していただけますか。

第2.設問2

1.関連法令及びその趣旨
2.予想されるBらの主張
3.村側の主張
4.私見
【論点】
・契約締結に係る議会の議決を要するか
・入札手続きを取らなかった点の適法性
・村長の裁量

総務課長G:よろしくお願いします。次に,裁判になったとして,本件土地の売却のいかなる点が違法になるのか,この点の議論に移りたいと思います。本件土地の時価をどのように計算するかという問題もありますが,村としては,適正な対価を得て本件土地を売却したと考えています。ですから,契約の締結には議会の議決は不要であるという立場です。しかし,この点について,Bらは争っていますので,F先生に御検討をお願いしたいと思います。

職員H:入札手続を採らなかった点など,契約の手続や内容に様々な違法があるとBらは攻撃していますが,村としてはそのようには考えていません。週刊誌には,契約が不透明だと書かれたのですが,一体何が問題なのですか。

職員H:先日来,総務課でも,地方自治法第234条や同条第2項に基づく政令を検討し始めたのですが,今回の事案にどのように関連するのか,うまくまとめ切れていません。村がどのような手続によって,どのような内容の契約を締結するかは,当然に村長の裁量で決められると思うのですが。

総務課長G:契約締結の適法性に関する問題,特にH君が挙げていた条文の解釈が,最も重要な課題になりそうですね。まず,これらの法律や政令の規定のうち本件にかかわるものの趣旨を御説明いただけませんか。その上で,Bらが,本件土地の売買契約の締結のどういった点を違法だと主張してくるか,また,村の側では,契約締結を適法というためにどのような主張をすることが考えられるか,F先生の方で具体的に検討いただき,契約締結の適法性に関するF先生の御意見をお聞かせいただけますと助かります。契約締結の適法性は,何といっても村の職員にとって最も関心がある点ですので,できるだけ包括的に検討していただけませんか。

第3.設問3

1.小問(1)

(1) 各判決の考え方
(2) 考え方が分かれた点
【論点】
 住民訴訟の制度趣旨と議会による請求権放棄との関係

2.小問(2)

(1) 適法とする判決のあてはめ
(2) 違法とする判決のあてはめ
(3) 私見
【論述の留意点】
 住民訴訟制度の趣旨を踏まえて分かりやすく整理する

職員H:それぞれの判決がよって立つ考え方の違いを整理していただけないでしょうか。特に,判決の中で「住民訴訟の制度が設けられた趣旨」といわれているのですが,住民訴訟の制度趣旨と議会による請求権放棄とは,どのように関連するのですか

職員I:私が関心がありますのは,お話のあった二つの判決を本件の事案に当てはめた場合に,どういった判断が予想されるのかという点です。

総務課長G:いろいろと要望や質問が出ましたが,議決の適法性の問題に関しては,本村の議員にも説明する必要があると考えています。H君とI君も申しておりましたが,二つの判決がそれぞれどのような考え方に立っているのか,そしてそれぞれの判決によれば,今回の案件がどのように判断されるか,住民訴訟制度の趣旨を踏まえて分かりやすく整理していただき,本村議会の議員が検討している請求権放棄の議決の適法性について,F先生の御意見をお聞かせいただけませんか

もっとも、設問2は変則的に憲法の三者形式と同様の形式になっている。
その部分は、やや工夫を要する。

また、今年度は配点が問題に明示されている。
2:4.5:3.5となっている。
これを見れば、設問2の契約の適法性がメインであることがわかる。
仮に、配点を見逃しても、問題文から読み取れる。
しつこいほど、設問2がメインであると示唆されているからである。
(他の科目では、設問の重要性をここまで明示しない。
これも、行政法特有の傾向である。)

〔設問2〕
 Bらによる住民訴訟が適法とされる場合には,Eが本件土地の売買契約を締結したことの適法性が争点になると考えられる。この契約締結の適法性について,詳細に検討しなさい。

【資料1】
総務課長G:契約締結の適法性に関する問題,特にH君が挙げていた条文の解釈が,最も重要な課題になりそうですね。まず,これらの法律や政令の規定のうち本件にかかわるものの趣旨を御説明いただけませんか。その上で,Bらが,本件土地の売買契約の締結のどういった点を違法だと主張してくるか,また,村の側では,契約締結を適法というためにどのような主張をすることが考えられるか,F先生の方で具体的に検討いただき,契約締結の適法性に関するF先生の御意見をお聞かせいただけますと助かります。契約締結の適法性は,何といっても村の職員にとって最も関心がある点ですので,できるだけ包括的に検討していただけませんか。

弁護士F:それでは,御質問の点について,次回の会合までに,ここは入念に整理しておくこととします。

従って、紙幅の面でも設問2にかなりの部分を割く、ということになる。
多くの受験生が書く文量は、大体6ページ強である。
そうすると、設問1が1ページ強、設問2が3ページ、設問3は2ページ程度、ということになりそうだ。
これを前提にして、上記の構成の各部分に割くべき紙幅を考える。
このように考えると、設問1はほとんど何も書けないことに気付くはずである。
本来、設問1は、改正後の4号訴訟の構造・趣旨について書きたい。
しかし、そんな紙幅の余裕はない。
被告と請求内容を示すだけになっても、仕方がないだろう。
おそらく、代位訴訟であると書いてしまう答案が一定数あるはずである。
また、現場で条文を説明しようとして、何を書いているかわからなくなってしまう答案もあるだろう。
結論だけでも、それが正確であれば、上記の答案との比較で評価されるはずである。
また、BCDの原告適格も、できれば条文の趣旨と絡めて書きたい。
ここは、うまく書けば、コンパクトに書けるところである。
しかし、自信がなければ、ここも条文を挙げて結論だけ書くということで、やむを得ないと思う。
むしろ、ここは紙幅の節約に努め、設問2で勝負する。
そういう戦略の方が、賢明である。

設問2は、憲法の三者形式における注意点が、そのまま妥当する。
ポイントは、うまく出し惜しむことである。
原告・被告の主張は表面的・形式的なものに留める。
自説のところで、深く実質論を展開する。
そういう書き方で書けば、うまくまとまりやすい。
裁量論については、できれば方法の選択と相手方の選定とで分けて書きたい。
問題文からも、一応それは読み取れるようになっている。

 B及びCは,本件土地は慎重に時間を掛ければより高価で売却できる物件であったにもかかわらず,性急に破格の安値で売却した村長Eの措置は,村の財政を悪化させ,村の財産を無駄遣いするものであり,また,このような財産の処分のために必要な議会の議決を欠くことのほか,本件土地の売買は村関係者の身内に便宜を図るものであり,売却の方式相手方の選定に関して公正を欠くことを主張した。

なお、効果裁量か要件裁量かという議論は、ほとんど無意味なので、書くべきでない。
基本書中心で勉強していると、どうしてもそういうことを書きたくなる。
行政法に関しては、基本書中心の勉強は、こういう面でも論文には向いていない。

設問3は、旧試験の憲法第2問(統治)で出題されそうなテーマである。
旧試験の憲法統治であれば、大きな視点でざっくり書く方が良い。
すなわち、住民訴訟の趣旨は代表民主制の是正にある。
住民訴訟が機能しているときに、代表民主制の論理でそれを覆滅するのは許されない。
よって、違法だ、という一刀両断式の構成である。
もっとも、本問は新試験の行政法分野の問題である。
ある程度、個別の事情を取り込んで書くべきである。
とはいえ、本問ではそれほど詳述する紙幅はない。
上記のような感じで、大雑把に論述してよいと思う。
なお、本問で、Bらの提訴前や、一審判決前に放棄してしまう。
または、判決確定後に事情変更を理由に放棄することも考えられる。
上記の各場合には、資料3の大阪高裁判決の射程外という感じがする。
しかし、設問3は、一審で請求認容判決が出された後(確定前)に放棄の議決をする場合に限定している。

〔設問3〕
 Bらの請求を認容する一審判決が出されて,A村議会が請求権を放棄する議決を行う場合を想定して,以下の小問に答えなさい。

従って、上記各場合は、考慮する必要がない。
この辺りも、考査委員は書きやすくなるよう配慮してくれている。
注意すべき点としては、やはり紙幅との関係である。
各判決を詳細に引用したり、あてはめをあまりに丁寧に書くと、それだけで数ページかかってしまう。
設問3は、長くても2ページ強しか割けない。
あっさり、コンパクトに書かないと、紙幅切れになるな。
構成段階でそのような意識を持った上で、答案を書き始めることが重要である。

 

【参考答案】

第1.設問1

1.予想されるのは、執行機関たるEを被告として、「当該職員」たるEに対し本件土地の売買契約(以下「本問売買」という。)の違法によるA村の損害の賠償として売却価格と時価との差額分相当額である約3200万円の支払いを請求をせよとの判決を求める住民訴訟(地方自治法(以下「法」という。)242条の2(以下「本条」という。)第1項4号、以下「本問訴訟」という。)である。

2.本問訴訟の適法性

(1) 住民訴訟に法律上の利益は不要である(客観訴訟。行訴法5条、43条、本条11項参照。)が、当該普通地方公共団体(以下「地公体」という。)の住民(法10条1項)であることを要する(本条1項柱書)。住民訴訟は住民参政制度の一つだからである。
 Cは現在A村の住民ではないが、住民監査請求時にはA村の住民であった。しかし、訴訟追行中も住民全体と利害を共通することが重要である。住民監査請求時に住民であるだけでは足りない。よって、Cは本問訴訟の原告となることができない。Cに係る本問訴訟は不適法である。

(2) Dは住民監査請求をしていない。もっとも、既にB及びCによる住民監査請求がある。監査請求前置(本条1項柱書)の趣旨は地公体に自治的内部的是正の機会を与える点にある。ならば、自ら住民監査請求をしなくてもよさそうである。しかし、同柱書は、「住民は…請求をした場合において…することができる」とする。その趣旨は、自ら住民監査請求をした者こそが住民訴訟の追行意欲を有し、住民全体の利害を代表しうるという点にある。従って、自ら住民監査請求をすることを要する。
 よって、Dは原告に加わることはできない。

(3) Bは、A村の住民であり、自ら住民監査請求を行っている。よって、監査の結果が通知された平成22年4月23日から30日後(本条2項1号)である同年5月23日までにBが本問訴訟を提起した場合、本問訴訟は適法である。

第2.設問2

1.議会の議決がない点について

(1) 関連法令及びその趣旨

 適正な対価なく普通財産の譲渡をするには議会の議決を要する(法96条1項6号、237条2項)。適正な対価を欠くと財産流出が生じるため、予算(法96条1項2号、211条)と同様に議会統制に服させる趣旨である。従って、適正な対価なき場合とは、対価が当該財産の資産価値を下回るものをいう。

(2) Bらの主張

 本件土地の売却総額は時価を約3200万円下回るから、本問売買は適正な対価がない。

(3) 村側の主張

 本問売買を締結する前年に相場並みの価格で売却を試みたが、応募は1区画に過ぎず、その1区画も契約締結には至らなかった。時価は本件土地の資産価値を適切に反映していない。また、本問売買により現金収入を得たのであって、厳しい財政に貢献しこそすれ、何ら資産流出は生じていない。

(4) 私見

 資産評価の適切さと、現に買い手が現れるかは別個の事柄である。時価と異なる資産評価を主張するためには、村側において対価の適正を裏付ける新たな鑑定評価等を示すことを要する。しかし、本問では、そのような資料はない。従って、本問売買には適正な対価がないといわざるを得ない。
 なお、本問売買による現金収入は、本件土地というA村の資産を取り崩した結果である。本来の資産価値を犠牲にしてまで直ちに現金化すべきかは、議会の統制に服させるべき事柄である。従って、議会の議決を不要とすべき理由にはなり得ない。
 よって、本問売買はこの点で違法である。

2.随意契約(以下「随契」という。)の方法によった点について

(1) 関連法令及びその趣旨

 本問売買は、競争入札の方法によらず、任意に相手方を選定して締結された。従って、随契である。随契は、法234条2項を受けた法施行令167条の2第1項各号の場合しか認められない。機会均等性及び公正性並びに価格の有利性を考慮して一般競争入札を原則的な方法とし、その他の方法を例外とする趣旨である。このうち、本問売買が2号及び6号以外の事由に該当しないことは明らかである。そこで、2号又は6号に該当するかが主な争点となる。

(2) Bらの主張

 2号の例示する不動産の買入れは、相手方が対象不動産の処分権者に限られる。従って、競争入札に適しない。しかし、不動産の売払いはこれと異なり、相手方が限定されない。従って、競争入札に適している。同号が例示しないのはその趣旨である。よって、2号に該当しない。
 また、買い手が少ないことは、競争入札に付すると不利になる理由にならない。むしろ、そのような場合こそ一般競争入札により広く買い手を募るべきである。よって、6号にも該当しない。

(3) 村側の主張

 不動産の売払いの中には、競争入札に適しないものもある。対象物件が独立して使用できない場合などである。このような場合には、隣地所有者等と個別に交渉するよりない。本問売買も、これに準じるものである。よって、2号に該当する。
 また、買い手が少ない場合の競争入札は談合的な買い叩きが生じ、個別交渉による随契よりも不利である。よって、6号にも該当する。

(4) 私見

ア.2号及び6号該当性は、前記(1)で述べた法令の趣旨を勘案し、どの方法が最も地公体の利益になるかという観点から決すべきである。その判断には、専門的技術的判断を要する。従って、上記判断は契約締結権者の合理的裁量に委ねられる。

イ.確かに、本問売買の性質は単純な不動産の売却である。従って、契約の性質上競争入札によることが不可能若しくは著しく困難であり、又は競争入札に付すると直ちに不利になるとまではいえない。
 しかし、人口減少対策・過疎対策の目的に適う相手方を選定するためには、競争入札より随契の方が適している。村民向けチラシ等広報を行い、機会均等にも一定の配慮がされている。また、側溝部分など一部土地対価の支払免除によって契約締結にこぎつけたこともうかがわれる。このような個別交渉は、競争入札では難しい。A村のような小規模な自治体では、個々の村民のニーズに応じた個別交渉の方がかえって有利な価格となる場合もある。

ウ.以上から、随契によることが適切であるとして2号に該当すると判断し、ないしは随契の方が有利であるとして6号に該当すると判断したEの裁量判断には、いずれも一定の合理性が認められる。

エ.よって、随契の方法によった点には違法はない。

3.相手方選定における裁量権の逸脱・濫用について

(1) 随契は、その性質上、相手方の選定が情実により左右される等、不公正を生じるおそれを内包している。随契の方法自体が適法としても、相手方の選定が公正を欠くことが明らかで裁量権の逸脱・濫用がある場合には、その選定は違法となる。

(2) Bらの主張

 購入者の中にA村の部長の弟や、売却担当職員の妻を含んでいることは身内の便宜を図るものであり、公正を欠くことが明らかである。

(3) 村側の主張

 買い手不在の中で身内に引き取ってもらったものであり、公正を欠くものではない。

(4) 私見

 確かに、本件土地は近隣市の中心部まで自動車で30分程度の通勤圏に位置しており、利便性が高いことを考慮すると、上記(1)の事実は公正さに疑いを生じさせる。しかし、本問売買に当たっては村民向けチラシ等広く広報がされ、現に村内の利便性を欠く地区に住む者による買換えが複数みられたという。そうすると、本問売買が身内の便宜を図ることを目的としてなされたとは認められない。また、買い手不在の中で身内に買い手を求めたという可能性も否定できない。成約価格をみても、最も高い区画と最も安い区画の価格差は160万円に過ぎない。そうである以上、本問の事実関係の下で本問売買が公正を欠くことが明らかとまではいえない。
 よって、相手方の選定に違法はない。

第3.設問3

1.小問(1)

 適法とする判決は、代表民主制の理念を重視し、住民代表により構成される議会の議決を尊重する考え方である。
 他方、違法とする判決は、住民訴訟の趣旨を重視し、原則として住民訴訟の結果を尊重する考え方である。
 上記のとおり、代表民主制と住民訴訟の理念ないし制度趣旨のどちらを重視するかによって、適法性の判断が分かれている。

2.小問(2)

(1) 各判決の当てはめ

 適法とする判決は、正常な審議、議決の過程を経れば適法としているから、本問でもそのように審議、議決をすれば、適法となると考えられる。
 他方、違法とする判決は、一審で自治体側が敗訴したこと、放棄による財政上の影響、放棄を正当化すべき個別具体の事情の有無を考慮している。本問で、一審でA村が敗訴した場合、約3200万円という金額は、人口約2400人のA村の財政に与える影響が大きい。また、Eが厳しい環境の中でA村の財政再建に貢献した功労者であること及び必ずしも裕福ではないことは、E個人の事情である。住民全体の利益を図るという住民訴訟の趣旨からすれば、上記事情のみによって放棄を正当化することはできない。そうである以上、本問でも放棄の議決をすることは違法となると考えられる。

(2) 私見

 そもそも、住民訴訟は代表民主制が機能不全に陥った場合の補完的制度としての住民参政制度の一つである。そうだとすれば、住民訴訟によって司法による代表民主制の機能不全が指摘され、その是正が行われようとしているときに、代表民主制を基盤とする議会がこれと矛盾する議決を行うことは、原則として許されない。違法とする判決の考え方が妥当である。
 よって、本問でBらの請求を認容する一審判決が出た場合に村議会がEに対する請求権を放棄する議決をしたとしても、そのような議決は違法である。
 もっとも、前記第2で述べた私見によれば、本問売買の違法は議会の議決を欠いた点のみである。従って、本問売買の適正対価欠缺を前提として議会で審議され、承認の議決をすれば、一種の追認として瑕疵は治癒される。よって、この場合は請求権の放棄によることなく、Eへの賠償請求を回避できる。

以上

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