最新下級審裁判例

大阪高裁第6刑事部決定平成18年10月06日

【事案】

 主任弁護人Fが,A外4名の関係者及び被告人から事情を聴取した結果を記載した捜査官作成の捜査報告書及び電話聴取書等の証拠を刑訴法316条の15第1項6号により開示すべきとして証拠開示命令の請求をしたのに対し,原裁判所は前記各証拠は同規定の類型に該当しないとして請求を棄却したが,原決定は前記規定の解釈適用を誤るもので不当であるとして,同決定を取り消して前記各証拠の開示命令を求める事案。

【判旨】

 本件で開示請求されている捜査報告書等は,A外4名の関係者や被告人から事情聴取した聴取内容のほか,聴取の日時,場所,聴取内容を踏まえての考察,意見等を捜査官が報告書として記載したものであるから,刑訴法316条の14第2号にいうところの同捜査官が作成した「供述書」であって,同法316条の15第1項6号の「被告人以外の者の供述録取書等」に該当する。しかし,同規定では,さらにその「供述録取書等」が「検察官が特定の検察官請求証拠により直接証明しようとする事実の有無に関する供述を内容とするもの」であることが開示すべき類型証拠としての要件となっている。これは,検察官の証明予定事実記載書面の提出及び請求証拠の開示に引き続き,弁護人側の主張明示や検察官による主張関連証拠の開示に先立って,弁護人側が検察官請求証拠の証明力を判断するのに資するために,一般的,類型的な開示の必要性及び弊害の程度を考慮し,開示することが適当であるものを類型化したものである。そうすると,前記規定の「事実の有無に関する供述」とは,その事実があったこと又はなかったことについての供述,すなわち,その事実の有無についての原供述を意味するものと解するのが相当である。そして,本件開示請求に係る証拠において,事件当日の関係者や被告人の行動など,検察官が特定の検察官請求証拠により直接証明しようとする事実の有無について供述するのは関係者や被告人などの原供述者であり,捜査報告書等の供述者である捜査官が供述するのは,それらの原供述を聴取したというものに過ぎない。したがって,前記捜査報告書等は前記事実の有無に関する供述を内容とするものではなく,同法316条の15第1項6号の類型には該当しない。
 この点,所論は,「事実の有無に関する供述」とは,事実の有無に関連する供述の意味であって,検察官の証明予定事実の有無についての原供述に限らず,その聴取に係る捜査官の供述もそれに当たる旨主張するが,前記の類型証拠の開示制度の趣旨にかんがみると,所論の解釈は広きに過ぎ,採用できない。
 よって,原決定は正当であり,本件即時抗告は理由がないから,刑訴法426条1項によりこれを棄却する。

 

徳島地裁刑事部決定平成18年11月14日

【判旨】

 弁護人の主張は要旨本件弁護側請求証拠である,証人予定者の供述する犯人像に酷似した人物の写った写真及びDVDが捜査機関のみの立ち会いの下で証人予定者に示されると捜査機関の暗示や誘導によって証人予定者の記憶が汚染されるおそれがあるから同証拠については証人予定者の尋問実施前には捜査機関が同人に対してこれを閲覧させたり,その内容について言及しないことを開示の条件とすべきであるというものである。
 そこで検討するに,一般的普遍的に弁護人主張のような記憶の汚染がなされるおそれがあると認めるべき事情はなく,また捜査機関がこれに及ぶと認めるに足る事情もないのであり,むしろ証人予定者の記憶の汚染という点から見れば,既に証人予定者が捜査段階で被告人を犯人と特定する供述をしている以上,今般本件各証拠を証人予定者に示したとしても改めて暗示等の問題は生じるとは考えがたく,他方本件証拠の開示がなされなくともその記憶の汚染や強化は十分可能である。したがって弁護人主張の弊害の存在を本件において具体的に伺わせる事情はなく,仮にその弊害が存したとしても本件開示によるものとは認められない。
 また,本来証拠開示に関連して,開示によって生じるおそれのある弊害を考慮する趣旨は,刑事訴訟法の改正によって証拠開示の対象が拡大するのに伴い,従前開示されなかった証拠の内容などが開示されることにより,証人威迫,罪証隠滅,関係者の名誉・プライバシーの侵害などがなされることを懸念し,これを防止するというものであり,その判断手続きである刑事訴訟法316条の25第1項にかかる裁定請求手続においても,上記のような事情の有無,程度を審理することが予定されているにとどまるものであるからこそ,決定手続ではあるものの,その審理にあたっては裁判所はその当該請求にかかる証拠の提示を求めうると限定的に定められているのみであり(同法316条の27第1項),他方予断排除の観点からその余の請求証拠やその他の事実の取調べは自ずと制約されているとみるべきであって,同手続においては,提示にかかる証拠の内容と公判前整理手続で提出された各当事者の主張や証拠請求の内容から裁定請求の適否を判断せざるをえないと解される。そうすると,同手続で判断すべき証拠開示によって生じるおそれのある弊害の内容及び程度とは,上記資料のみによって判断しうるものに止まるというほかない。しかるに弁護人主張にかかる弊害は,そもそも上記資料から判断しうるものとは言い難く,公判前整理手続において証拠開示に関連して考慮すべき弊害に該当しないものと考える。
 そしてその他に開示にかかる弊害は認められない。
 他方,本件が約5か月前の事件であり,証人の目撃供述の信用性が争点となる事案であることからすれば,証人の供述を求める際に記憶喚起を図るとともに記憶に誤謬がないか確認することは立証責任を負う検察官の訴訟準備としては必要であり,これを妨げる理由はない。

 

徳島地裁刑事部決定平成18年11月24日

【判旨】

 弁護人の予定主張記載書面によれば,弁護人は徳島県迷惑行為防止条例違反の事実についてはアリバイを主張するとするものの,その内容は公訴事実より約1時間前に犯行現場から約4km弱離れたパチンコ店にいたことと,その後犯行現場から約1km離れたスーパーに立ち寄って,犯行現場至近の自宅に帰宅したことと,犯行時間帯ころに被告人がその長女に対して携帯電話で架電したことのみであり(なお,上記の距離はいずれも主張がなされておらず,裁判所が独自に道路地図などをもって調査した概算であり,かかる事態は本来望ましくなく,本来はアリバイ主張に際して調査して主張すべきものであることは銘記されたい。),いずれもその事実が全て認められたとしても本件犯行は可能であり,相対立する主張とは言い難く,つまるところは弁護人の主張は被告人が本件犯行を行っていないというに尽き,これに重ねて何らかの立証命題を提示したものとは認めがたく,弁護人作成の平成18年11月14日付回答書の内容を合わせ考えたとしてもアリバイの主張と評価することは困難であり,同主張はアリバイ主張としての主張明示義務を満たしたものとはいえず,検察官には本主張による被告人証拠開示義務はないといわざるをえない。この点弁護人は,主張関連証拠の開示を受けなければ証明予定事実の具体化は不可能を強いると主張し,現にこれまでの主張予定事実はいずれも開示証拠から認められる事実の羅列に過ぎず,それ以上の被告人の記憶に基づく具体的な事実の主張はなされていない。しかし,証拠により証明しようとする事実は被告人の供述によって証明しようとする事実も含まれるのであり,それ以外の証拠によって認められる事実には限られないから弁護人の主張は失当である。
 被告人が逮捕されたのは本件後約20日後であるが,被告人は捜査段階から弁護人を選任し,今日まで打合せを重ねてきているのであり,記憶喚起には十分な期間があったと言うべきであり,さらに記憶があればこそ被告人がアリバイを主張するのであろうから,細かい時間まではともかく,移動手段等について何らかの具体的事実の主張がなされてしかるべきであり,なお検察官手持ち証拠の開示を受けなければ自らの行動を明らかにできないという主張は理由がないばかりか,開示証拠と矛盾しない弁解を構成してから主張するとの意図も疑われ,もはや記憶の喚起の範疇を越えるものであって到底容認できない。また,確かに弁護人主張のように主張関連証拠開示の後に主張の追加,変更が可能とされているが(法316条の22),これはあくまで前記主張明示義務を果たした上での追加,変更を予定しているに過ぎず,むしろ法改正にあたって全面証拠開示が認められなかった以上,抽象的にアリバイ主張のみをして,主張関連証拠として概括的広範に証拠開示を求め,開示証拠を元に主張を構成するがごときは全面的証拠開示を求めるのと何ら変わるところがないものであって法の容認するところではなく,当初の主張明示段階でできうる限り具体的な主張をなすことは公判前整理手続での迅速な争点整理に必要不可欠であることは変わりないから,同条が主張関連証拠の開示後に具体的な主張をすることを容認する趣旨でないことは明白で,上記判断を左右するものではない。

 

那覇地裁刑事第1部決定平成19年02月22日

【判旨】

 捜査の過程で聞き込みをした内容を記載した捜査報告書(いわゆる地取り捜査報告書)は,実質的には被聴取者の供述を録取した書面であると解され,実質的な供述者である被聴取者の確認を経ておらず,その署名,押印も欠くから,刑事訴訟法316条の15第1項6号にいう「供述録取書等」には該当しないというべきである。

 

大阪高裁第6刑事部決定平成19年02月13日

【判旨】

 論旨は,原決定は,基本事件の公判前整理手続において,弁護人がした検察事務官及び司法警察員作成のA及びBの取調べ状況記録書面(以下「取調べ状況報告書」という。)すべての証拠開示裁定請求を棄却したが,刑訴法316条の20第1項の規定により開示すべき場合であるのにその判断を誤ってなされたものであるから,原決定を取り消すとともに,検察官に対し,上記証拠開示を命ずる旨の裁判を求める,というのである。

 一件記録によれば,上記各取調べ状況報告書中,検察事務官作成に係るそれの「被疑者等がその存在及び内容の開示を希望しない旨の意思を表明した被疑者供述調書等(以下「不開示希望調書」という。)」,司法警察員作成に係るそれの「逮捕又は勾留の理由となっている犯罪事実に係る不開示希望被疑者供述調書(不開示希望調書)作成事実」の有無及び通数欄を除く各記載部分は,すでに検察官が任意に開示に応じたことが認められるから,同部分についての証拠開示の必要性はなく,その裁定請求は不適法であることは明らかである。同部分について証拠開示裁定請求を棄却した原決定は,結論において相当である。

 次に,上記各取調べ状況報告書中,すでに開示された部分を除く,不開示希望調書欄の有無及び通数欄の証拠開示裁定請求について,所論にかんがみ,その関連性の程度その他の被告人の防御の準備のために当該証拠を開示することの必要性の程度(@)並びに当該開示によって生じるおそれのある弊害の内容及び程度(A)を考慮し,開示が相当と認められるか否かについて検討する。
 本件公訴事実の要旨は,被告人は,共犯者である上記A及びBのほか数名の者らと共謀の上,共犯者らにおいて,被害者を,23時間余りにわたって,自動車内や産業廃棄物集積場に監禁し,同集積場において,ショベルカーで掘った穴に被害者を生き埋めにして窒息死させた,というものである。公判前整理手続による争点整理の経過に徴すると,被告人は共謀共同正犯として起訴されたものであるところ,被告人とA,Bらとの間で,電話で共謀を遂げたか否かが主たる争点の事案である。

 @については,弁護人は,被告人とAらとの監禁及び殺人の共謀を争う主張を予定しているところ,A及びBの各供述調書の信用性を判断するため,身柄拘束中のA及びBに係る取調べの客観的状況(日時,場所,調書作成の有無,通数等)を知る必要があり,A及びBの取調べ状況報告書について,その不開示希望調書欄を含め,開示がなければ,作成された調書の通数その他その取調べの外形的全体像を確認点検できないのであるから,防御の準備のため開示を受ける必要性があると主張する。しかしながら,刑訴法316条の20第1項によって開示される証拠は,同法316条の17第1項の規定により弁護人が明らかにしたその証明予定事実その他の事実上及び法律上の主張に関連するものと認められなければならないが,一件記録によれば,弁護人は,証明予定事実として,「被告人とAらとの間の監禁及び殺人の共謀は否認する。」「被告人はAとの間で検察官主張の時期に数度電話したことはあるが,共謀していない。電話の一部を聞いた者がいるなどその旨を示す証拠もある。」などと主張するのみで,A及びBの供述の証明力を減殺する具体的事実(不開示希望調書の有無及び通数欄の開示の必要性を基礎づける事実)の主張をしていない。もっとも,弁護人は,即時抗告申立書においては,当初はA及びB両名で相談して犯行を決意した旨供述していたAらの供述が,その後,被告人から監禁及び殺害を指示された旨変遷しており,その供述変遷の契機が不開示希望調書を作成した時点であることも十分に考えられると主張しているが,同事実は証明予定事実として主張されているわけではない。そうすると,@の関連性はないとはいえないが不十分であり,開示の必要性は乏しいといわざるを得ない。他方,Aについては,不開示希望調書欄を開示することによる弊害の具体的内容,程度が明らかであるともいえない(検察官は,「本件は,共犯者多数の監禁及び殺人事件であるところ,被告人は,実行行為者の中の主導的立場にあったAから相談を受けて本件を指示した首謀者であり,その背後に暴力団関係者がいること,被告人は捜査段階から犯行を否認し,A及びBは犯行を認めていることなどの諸般の事情に照らせば,そのような者からの関係者や共犯者等に関する情報提供等が捜査を進展させる上で類型的に重要性が高く,不開示希望調書の存在が明らかになった場合に供述者等が受ける不利益も重大である。」と主張するが,類型的に重要性が高ければ,何故にAら供述者等が受ける不利益が重大となるのかは明らかではなく,これは,つまるところ,不開示希望調書制度の維持のため,不開示とする必要がある旨の一般的,抽象的弊害の主張に過ぎないのであって,この一般的,抽象的弊害を別にすれば,本件において,不開示を相当とする具体的事情の主張が十分になされているとはいえない。なお,不開示希望調書制度なるものについては,刑訴法316条の15第1項8号に「取調べ状況の記録に関する準則に基づき」取調べ状況報告書が作成されることが定められているほかは法の規定はなく,また,供述者が不開示希望をしていることを証拠開示の直接の除外事由とする法の規定もないのであって,抽象的に不開示希望調書制度の維持を図る上での弊害のみを強調することは,その意味でも相当とはいえない。)。
 上記の開示の必要性の乏しさと開示により生じるおそれのある弊害の不明確さを比較検討すると,不開示希望調書の有無及び通数欄の開示を命じなかった原決定には,裁量判断を誤った違法があるとまではいえず,結局,論旨は理由がない。

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