平成22年度新司法試験論文式
民事系第1問の感想と参考答案

問題は、こちら

本問は、昨年度とは一転して、シンプルな問題だった。
基本となる論点も、任務懈怠責任と仮装払込み(見せ金)で、典型的なものである。
受験生としては、解き易いと感じたのではないか。

しかし、本問はそれほど簡単な問題ではない。

まず、設問1で、不足額てん補責任についてのBの免責の可否である。
専門家がわからなかったのだから、Bにわかるはずがない。
そう思って、証明があるのだから無過失だとして、免責したくなる。
しかし、そうであれば、会52条2項各号に証明者の証明があった場合が規定されているはずである。
ところが、1号は検査役の検査がある場合のみを規定している。
同号は、敢えて証明者の証明を外している。
すなわち、証明があっただけでは免責するに足りない、ということではないか。
だとすれば、証明者の証明のみで直ちに2号の無過失に該当するとすることも、できないことになる。

また、会53条の責任を認める場合には、何が損害なのか。
不足額自体が損害になるのか、他に生じる損害があるのか。

この辺りを意識して書いてあるかどうかで、差が付くことになるだろう。
また、設問1は、配点が20点しかない。
ここで書きすぎると、設問2で紙幅切れ、時間切れとなって、合計点で損をする。
どんなに長くても、2ページ以内には収める必要がある。
だとすると、それほど丁寧なあてはめをする余裕はない。
構成段階でその点を意識した上で、書き出すべきである。

設問2の@のうち、払込みの効力は、いわゆる見せ金の有効性である。
無効説に立つ場合は、論証よりもあてはめに力を入れたい。
無効説の論拠は要するに、法的にみて払込みと評価できない、ということである。
従って、事実の認定・評価が重要となる。
このあてはめは、本問で最も差が付くところである。
他方、有効説に立つ場合には、詳細なあてはめをする必要がない。
会社に払い込まれた資金を個人的な借入金返済に充てることが問題である、と強調することになるだろう。

株式の効力については、払込有効説からは問題なく有効となる。
払込無効説からだと、どうなるのか。
これは、基本書等ではあまり触れられない論点である。
一般に、株式発行に瑕疵がある場合、実体がなければ不存在。
実体はあるが手続等に重大な瑕疵があれば無効と解されている。
そして、払込みの有無は、実体の有無の判断について重要な要素と考えられている。

最判平9・1・28より引用、下線は筆者)

 新株発行が無効であるにとどまらず、新株発行の実体が存在しないというべき場合であっても、新株発行の登記がされているなど何らかの外観があるために、新株発行の不存在を主張する者が訴訟によってその旨の確認を得る必要のある事態が生じ得ることは否定することができない。このような新株発行の不存在は、新株発行に関する瑕疵として無効原因以上のものであるともいうことができるから、新株発行の不存在についても、新株発行に無効原因がある場合と同様に、対世効のある判決をもってこれを確定する必要がある。したがって、商法の明文の規定を欠いてはいるが、新株発行無効の訴えに準じて新株発行不存在確認の訴えを肯定する余地があり、この場合、新株発行無効の訴えに対比して出訴期間、原告適格等の訴訟要件が問題となるが、この訴えは少なくとも、新株発行無効の訴えと同様に、会社を被告としてのみ提起することが許されるものと解すべきである。

(引用終わり) ※旧商法事件、現在は明文がある(会829条)

 

名古屋高判平14・8・21より引用、下線は筆者)

 新株発行の実体が存在しない場合とは,新株発行の手続が全く行われず,新株の引受け,払込が何らなされていないとき,及び新株発行が代表権限のない者によって行われ,会社の行為とは認められない場合等をいうものであって,これらの事実はあるが,新株発行の手続のため必要な株主総会,取締役会の決議を欠くとか,通知,公告を欠く等の手続の瑕疵があるという場合は,新株発行の実体がないとはいえないものである。

 ・・・本件新株発行手続は,適法な株主総会及び取締役会の議決を経たものではなく,また,新株発行事項の公示,通知がなされておらず,控訴人Aが控訴人会社の代表取締役として登記されているものの適法な選任手続を経ていない点において,手続上重大な瑕疵を有しているものではあるが,他方,控訴人会社は,甲家一族が大半の株式を所有し,その経営を甲家の跡継ぎである亡Eの長男Fが行うことを了解していたこと,その後,Fから訴外G,控訴人Aへと経営を委任し,Fは,控訴人Aらが登記簿上代表取締役となることを了解していたこと,控訴人Aらが適法な選任手続を経ないで代表取締役になっているため,法的にはFが控訴人会社の代表取締役であるというべきであるところ,Fは,本件新株発行に関してその内容を同意して株式数,資本の額の変更登記申請を自ら行って,登記簿上の代表取締役である控訴人Aの行為を追認し,その旨の登記をなしていること,新株の引受人である控訴人Aは,株式払込金700万円を実際に払込取扱銀行に払込み,控訴人会社の資本充実に欠けることはないことが認められるから,このような場合,本件新株発行は実体は存在していると評価することができる。

(引用終わり)

本問の場合には、不存在とするのが素直ではないか、という感じがする。
ただ、典型論点ではないので、結論はどちらでもよいだろう。

設問2のAは、何が損害かがポイントとなる。
払込有効説からは、払込金は全て甲社の財産となる。
従って、これを勝手に引き出して丙社の借入金返済に使うのは横領である。
持ち出した9000万円は、甲社の損害である。

他方、払込無効説からは、9000万円は甲社の財産を構成しないはずである。
本来、丙社に返還すべきものである。
だとすると、これを引き出して丙社の借入金を返済しても、甲社の損害とはならないとするのが素直である。
敢えて損害と認定する場合には、正規の返還手続によらない点などを強調することになるだろう。
何の説明もなく、9000万円を損害と認定した場合、評価を下げる可能性が高い。
なお、株式発行を無効とした場合、無効判決が確定するまでは、株式は有効と扱われる(会839条)。
しかし、その場合でも、払込みまで有効となるわけではない。
丙社に交付された株券は、不当利得ということになるはずである。
これが返還困難となる場合、損害が生じるということは可能だろう。
ただ、色々と複雑になるので、うまく整理して論述する必要がある。

設問2のBは、役員等の対第三者責任である。
任務懈怠、重過失、相当因果関係の有無を、丁寧にあてはめているか。
ここも、差が付くところである。
任務懈怠責任については、この設問2のBで大展開することになる。
従って、設問1や設問2のAでは、重複を避ける書き方をすべきである。
損害がない等としてばっさり切るのが、その一つの方法である。
なお、民法の不法行為責任については、設問が「会社法上」としているから、書く必要はない。

 

【参考答案】

第1.設問1

1.財産価格てん補責任

(1) 甲社成立時の本件不動産の客観的価値は1億円であった。これは、定款に記載された価額である5億円の5分の1に過ぎないから、著しく不足する。

(2) Aは本件不動産を給付した者である。従って、会社法(以下「法」という。)52条2項の免責事由に当たらない(同項かっこ書)。

(3) 他方、Bは同項による免責の余地がある。本件不動産につき、不動産鑑定士の鑑定評価及び公認会計士の証明がある。上記鑑定評価及び証明を行った不動産鑑定士及び公認会計士は、その当時土壌汚染の存在及び定款記載の本件不動産の価額不相当を認識していなかった。上記鑑定評価及び証明は、検査役の調査に代わるものともいえる(法33条10項3号)。しかし、法52条2項1号は、検査役の調査を経た場合のみを規定する。これは、検査役は裁判所が選任する(法33条2項)ことから、中立性・公正性の担保があるのに対し、法33条10項3号の証明及び鑑定評価にはそのような担保がないためである。そうである以上、上記鑑定評価及び証明があるだけでは、法52条2項1号に該当せず、当然に無過失であるとして同項2号に該当することもない。すなわち、同項2号の無過失証明には、当該鑑定評価及び証明をした不動産鑑定士及び公認会計士の選任、法46条1項の調査の実施等につき注意を怠らなかったことの積極的立証を要する。
 本問では、上記選任調査等につきBの無過失を基礎付ける積極的事実はない。従って、Bにつき同項2号に該当しない。
 よって、Bも法52条2項の免責事由に当たらない。

(4) 以上から、A及びBは、連帯して、不足額である4億円を甲社に支払う義務を負う(法52条1項)。この義務は、総株主の同意がなければ免除することができない(法55条)。Bが支払いを行った場合、本来的義務者であるAに求償できる。

2.任務懈怠責任

 本問において、本件不動産に係る定款記載の価額と客観的価値との差額4億円は、出資の不足に過ぎない。すなわち、本件現物出資によって甲社に生じた損害ではない。他に本件現物出資によって甲社に損害が生じたとする具体的事実はない。
 よって、A及びBは、甲社に対して法53条1項に基づく損害賠償責任を負わない。

第2.設問2

1.@について

(1) 払込みの効力

ア.本件募集株式発行につき、形式的には丙社による全額の払込みがされている。しかし、本問では、以下の事実がある。

(ア) 本件募集株式発行は、乙銀行が融資の条件としたことから、行われた。

(イ) 甲社が乙銀行に融資を申し入れた際の名目は大規模改装資金であったが、実際には運転資金の確保のためであった。

(ウ) Aは本件募集株式発行当時甲社の代表取締役である。本件募集株式発行の引受人たる丙社は、Aが実質的に発行済株式の全部を所有しており、Aの支配下にあった。本件募集株式発行に係る払込み並びに丁銀行に対する借入れ及びその返済は、Aの指示により、丙社取締役のDが行った。

(エ) 丙社でねん出できた資金は、1000万円に過ぎなかった。

(オ) 払込みに係る資金のうち9000万円は、払込みの翌日には丁銀行への借入金返済に充てられており、甲社の事業資金として運用された形跡はない。

イ.上記(ア)から(オ)までの事実から、以下の事実が推認できる。

(ア) 甲社は当座の運転資金を必要としていた。

(イ) Aの支配する丙社においてもせいぜい1000万円程度しかねん出できなかったため、乙銀行の融資が必要であった。しかし、運転資金名目では融資を受けることは困難であった。

(ウ) 甲社としては、なんとしても運転資金を確保しなければならなかったため、Aは、乙銀行を欺罔してでも融資を受けようと考えた。

(エ) そこで、Aは、融資の目的を改装資金と偽り、また、融資条件とされた増資についても、外形のみを整えることで乙銀行に増資があったと誤認させて融資を引き出そうとした。本件募集株式発行は、上記意図の下に行われた。

(オ) 9000万円の払込みは、上記(エ)のとおり、当初から甲社の事業資金を確保する意図はなく、一時的に丁銀行からの借入金をもって単に払込みの外形を整え、直ちに丁銀行に返済する趣旨で行われた。

ウ.以上のとおり、9000万円の払込みについては、当初から何ら甲社の事業資金を確保する意図のない仮装のものである。従って、払込みとしての効力を認めることができない。

エ.よって、本件募集株式発行に係る払込みは、1000万円についてのみその効力を生じる。

(2) 株式の効力

ア.払込みのうち1000万円については、その効力が生じる。従って、これに対応する100株の株式の発行は、有効である。

イ.他方、払込みのうち9000万円については、その効力が生じない。本来、丙社は当該部分につき当然に失権している(法208条5項)。にもかかわらず、900株の発行がなされ、株券も交付された。
 一般に、外形上株式の発行がされていても、その実体を欠いている場合には、当該株式発行は不存在である。
 本問では、本件募集株式発行は、取締役会の決議を経た上でされており、丙社に株券も交付されている。しかしながら、前記(1)ウのとおり、9000万円の払込みは仮装のものであり、その効力は生じない。従って、上記部分につき甲社の資産及び資本は増加しない。すなわち、計算書類及び登記簿上の記載は、虚偽である。900株の発行は、(虚偽の)記載上存在するに過ぎない。また、引受人たる丙社はAの支配下にあり、いわば架空増資の当事者である。既に甲社は破綻しており、株券が丙社以外の第三者に譲渡される等、当該株式が取引客体として一定の実体を有するに至ったとの事情もない。そうすると、900株の発行は、何ら実体がない。
 よって、900株の発行は不存在であり、訴え(法829条1号)を待つことなく、その効力は認められない。

2.Aについて

(1) A及びBの責任(任務懈怠責任)

 100株については有効な払込みがある。また、900株については不存在である以上、甲社に損害はない。他に本問で仮装払込みによる追加的費用が生じたとの事情もない。
 よって、A及びBは、甲社に対して何ら責任を負わない。

(2) 丙社の責任

 900株については不存在であるから、これと対応する株券は無効である。丙社がこれを所持することに法的意味はなく、不当利得にもならない。もっとも、無効な株券も第三者に交付されると事実上紛争の原因となるから、丙社は、甲社から求められれば900株に対応する株券を返還する信義則上の義務を負う。
 なお、上記(1)のとおり、甲社に損害は生じていないから、Dの行為につき丙社が法350条の責任を負うことはない。

3.Bについて(第三者に対する任務懈怠責任)

(1) 法429条は、株式会社の影響力と役員等の果たす役割の重要性に鑑み、第三者を保護するために特に役員等の責任を法定したものである。不法行為責任を軽減する趣旨ではない。従って、故意又は重過失は任務懈怠につき認められれば足りる。また、任務懈怠と相当因果関係のある限り、第三者に直接生じた損害であると、会社に生じた損害によって間接的に第三者に生じた損害であるとを問わず、賠償の対象となる。

(2) Aは、資料@において、本件不動産の価額を客観的価値である1億円ではなく5億円として、また、資料@及びAにおいて、本件募集株式発行のうち9000万円についても有効な払込みがあったものとして、それぞれ記載をしている。従って、計算書類の虚偽記載(法429条2項1号ロ)及び虚偽の登記(同号ハ)に該当する。Aは本件不動産の土壌汚染の存在を認識していたのに不動産鑑定士及び公認会計士に告げていないと考えられ、本件募集株式発行のうち9000万円の仮装払込みについては、前記1(1)イのとおり、自ら主導して行っている。従って、無過失立証の余地はない。

(3) また、Bは取締役会の構成員として、Aの上記行為を防止すべき義務を負っていた(法362条2項2号)のに、これを怠ったから、任務懈怠がある。もっとも、Bは土壌汚染の存在を認識しておらず、これを調査すべき端緒となる事情等、重過失を認めうる積極的事実はない。他方、仮装払込みについては、募集事項の決定及び乙銀行からの融資の受入れにつき取締役会決議を経ている。決議事項に関し相応の調査・監督を行うのは取締役として当然の任務である。にもかかわらず、本件募集株式発行に関する手続をAに実質的に一任していたから、少なくとも任務懈怠につき重過失がある。

(4) そして、乙銀行は、上記A及びBの任務懈怠により、正常に増資がされたと誤信し、虚偽の計算書類及び登記の内容を信頼して融資を行った。その結果、甲社が破綻したことによって、ほぼ全額が回収不能になるという損害を被った。
 甲社の破綻は特別事情(民法416条2項参照)である。しかし、Aは甲社の運転資金不足を認識していたと推認できる。そうすると、Aには甲社の破綻は予見可能であったから、相当因果関係を認めうる。
 他方、Bは土壌汚染につき重過失は認められず、仮装払込防止の懈怠に重過失があるに過ぎない。土壌汚染がなければ甲社には4億円の余剰資産が存在したはずである。これを前提にすると、甲社の破綻は予見可能とはいえないし、1億円の融資が回収不能になることが通常生じうるともいい難い。Bにつき任務懈怠と損害との相当因果関係は認められない。

(5) よって、Aは、回収不能となった融資相当額につき、乙銀行に対し、損害賠償責任を負う。Bは責任を負わない。

以上

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