最新下級審裁判例

大阪高裁第2刑事部決定平成19年03月28日

【判旨】

 刑事訴訟法316条の15第1項6号に定める証拠は,「検察官が特定の検察官請求証拠により直接証明しようとする事実の有無に関する供述」を内容とするものであるところ,検察官請求証拠の証明力を判断するための類型証拠開示の趣旨をも勘案すれば,この供述はいわゆる原供述を指すのであって,原供述者(目撃者)から聞き取った内容をその内容とする捜査報告書を同号所定の証拠と解することはできない。

 

広島地裁決定平成19年09月19日

【事案】

1.主任弁護人らが刑事訴訟法316条の15に基づき検察官に対して開示の請求をした広島地方検察庁に保管中の日記帳1冊(以下「本件日記帳」という。)について,検察官が,その開示に当たり,「本件公訴事実に直接関係しない部分を人(被告人を含む。)に漏らし,又は,裁判で用いないことを手続上明らかにすること」及び「謄写を認めない」との各条件を付したのは,被告人の防御権の行使を制約するものであって不当であるとして,裁判所に対して相当な裁定を求める事案。

2.前提事実

(1) 本件恐喝未遂被告事件の公訴事実(以下「本件公訴事実」という。)の概要は,暴力団の組長である被告人が,Cの自宅において,Cに対して,保証債務の負担を要求し,もしこの要求にCが応じなければ,Cの実娘の生命,身体に危害を加えかねない文言を発してCを脅迫したが,Cが警察に届け出たため,その目的を遂げなかったというものである。

(2) 本件恐喝未遂被告事件は,平成19年2月21日に起訴された。同年4月16日に開かれた第1回公判期日において,被告人は,Cに対して脅迫文言を発したことはないと述べ,主任弁護人も被告人の供述に則って無罪を主張した。その後,本件恐喝未遂被告事件は,同年5月8日に,期日間整理手続に付され,現在も,同手続は進行中である。

(3) 検察官は,期日間整理手続において,本件公訴事実の立証のため,C,目撃者であるCの内妻等の証人尋問の請求,本件日記帳の一部等の証拠調べの請求をした。
 なお,本件日記帳については,検察官は,当初(同年7月6日),1冊すべてを,「日記帳の存在,その内容等」を立証趣旨として証拠調べの請求をしたが,2週間以上たっても弁護人に対してその一部分しか開示をしていなかったため,期日間整理手続期日(同月23日)において,裁判所が,検察官に対して,刑事訴訟法316条の14に基づいて速やかに弁護人に開示するよう勧告したところ,検察官は,その2日後である同月25日に,当初の請求を撤回し,改めて,一部に絞って(立証趣旨は同じ。)証拠調べの請求をしたという経緯がある。
 本件日記帳のうち改めて証拠調べの請求がされた部分については,検察官は,同月中に,2回に分けて,弁護人に対して開示する旨の回答をしている。弁護人は,1回目(同月6日検察官回答)に開示された部分については閲覧及び謄写を済ませているが,2回目(同月20日検察官回答)に開示された部分については閲覧も謄写もしていない。

(4) 主任弁護人らは,その後の同年8月21日,検察官に対して,本件日記帳1冊について,刑事訴訟法316条の15第1項1号に該当し,かつ,証人Cが捜査段階で本件日記帳の記載内容を基に事実関係を説明するなどしていることからすれば,その証言内容の証明力を判断するために重要かつ不可欠であるとの理由により,類型証拠開示の請求をした。
 これを受けて,検察官は,同月29日,「開示請求のあった日記帳のうち,本件公訴事実に直接関係しない部分を人(被告人を含む。)に漏らし,又は,裁判で用いないことを手続上明らかにすることを条件とした上,本件日記帳1冊について,既に開示している部分以外の部分を開示する。ただし,閲覧のみで,謄写を認めない。」と回答した(以下「8月29日付け回答」という。)。
 主任弁護人らは,これを不服として,本件裁定の請求に及んだ。

【判旨】

1(1) まず,本件裁定の対象についてみると,主任弁護人らの請求は,文言上,本件日記帳の「すべて」の開示を求めているが,本件日記帳のうち検察官が平成19年7月25日付けで証拠調べの請求をした部分については,前記のとおり,検察官は,2回に分けて,弁護人に対して開示する旨の回答をしているので(1回目に開示された部分については,弁護人は,既に閲覧及び謄写を済ませており,2回目に開示された部分については,弁護人は,閲覧も謄写もしていないが,検察官がした開示する旨の回答は,刑事訴訟法316条の25に基づく開示の時期・方法の指定等の裁判所への裁定請求を経ずになされているものであり,当然,弁護人は,この部分について,現在いつでも無条件に,閲覧及び謄写ができる状態にある。),本件裁定の対象は,検察官が平成19年7月25日付けで証拠調べの請求をした部分を除く部分ということとなる。

(2) その上で,次に,本件が,刑事訴訟法316条の26第1項の要件である「検察官が316条の15第1項の規定による開示をすべき証拠を開示していない」場合といえるか否かについてみる。
 この点,検察官が,8月29日付け回答の際に,開示の条件として付した事項についてみると,「閲覧のみで,謄写を認めない」との点はさておくとして,まず,ア「本件公訴事実に直接関係しない部分」との点は,その範囲が不明確である(なお,8月29日付け回答後に実施された期日間整理手続期日において,裁判所は,本件公訴事実に直接関係しない部分とは,どのような部分を指すのかもう少し具体的にするよう検察官に釈明を求めたが,これに対して,検察官からは,適切な釈明がなされなかった。)。さらに,イ「裁判で用いないことを手続上明らかにすること」との点は,本来,弁護人としては,証拠の開示を受けて,その内容を精査した上,立証方針との関係で,何を裁判に用い,何を裁判に用いないかを検討するものであり(なお,本件では,本件日記帳の開示を巡って紛糾している状況や後記のとおりの本件日記帳の記載内容等に照らせば,弁護人が,例えば,Cの反対尋問等において,本件日記帳の特定部分を示すなどして弾劾のために用いるというのであれば,あらかじめ,その部分を特定して証拠調べの請求をし,裁判所において必要性等の判断につき慎重に吟味した上で,採否が決せられるべきである。),しかも,裁判で用いないとする部分が前記のとおり範囲の不明確な「本件公訴事実に直接関係しない部分」というのであり,このような縛りを事前にかけるような条件は,弁護人の防御活動を不当に制限するばかりか,訴訟進行における更なる紛糾の種ともなり得るものである。
 したがって,これらア,イの条件は,いずれも不当なものと認められるから,本件は,刑事訴訟法316条の26の「検察官が316条の15第1項の規定による開示をすべき証拠を開示していない」場合に当たると認めることができる。

(3) 次に,刑事訴訟法316条の15の類型証拠開示の各要件についてみる。

ア.類型該当性について

 本件日記帳は,刑事訴訟法316条の15第1項1号の証拠物に該当することは明らかである。

イ.重要性・必要性について

 前記のとおり,検察官は,Cの証人尋問,本件日記帳の一部等を中心に,本件公訴事実を立証する予定であること,しかも,Cは,捜査段階において,本件日記帳の記載に基づいて事実関係について供述するなどしている部分があり,その供述録取書には本件日記帳の該当部分が添付されていること(検察官及び弁護人より聴取。),また,日記帳の記載状況についても,後日思い出して記載したとか数日分まとめて記載したとされる部分があること(検察官及び弁護人より聴取。また,後記の本件日記帳の提示命令により内容を確認。),さらに,日記帳という性質(連続性あるいは同質性がある。)などに照らせば,本件日記帳は,そのすべてが,証人Cや本件日記帳の一部といった検察官請求証拠の証明力を判断するために重要であると認められ,かつ,その内容を精査するなどして被告人の防御の準備をするために開示をすることが必要であると認められるとともに,その重要性及び必要性は相当高度なものが認められるといえる。

ウ.弊害について

 本件日記帳は,その日記帳という性格から,本来的に,その内容が第三者に明らかになれば,Cの名誉やプライバシーが侵害されるおそれが高いと考えられ,また,検察官から,本件とはおよそ関係のないプライバシーに関する事項等,第三者に見られたくない事項が約1年半分にわたって記載されているとの意見が述べられたことなどから,本件裁定に必要と認め,刑事訴訟法316条の27第1項に基づき,検察官に対して本件日記帳の提示を命じ,その内容を確認したところ,確かに,本件日記帳には,本件とは関係のないCのプライバシーに関する事実の記載,あるいは,Cのその時々の心情等を綴った記載などが多岐にわたって認められ,開示の方法いかんによっては,Cの名誉やプライバシーが侵害される危険性が高いものと認められる。

(4) 以上を前提に,開示の可否及び方法について判断すると,前記のとおり,本件日記帳には相当高度な重要性及び開示の必要性が認められることや,C自身,弁護人に日記帳全部を閲覧させることについては,これを許容していること(検察官提出のCからの電話聴取書による。),前記のとおりの本件日記帳の一部の証拠調べの請求に至る経緯によれば,全体についてより早期に開示がなされてしかるべきであったことなどの諸事情に照らせば,本件日記帳のすべてを弁護人に対して閲覧させることは,最低限,これを認めるべきである(なお,検察官が8月29日付け回答で付した条件が不当であることは前記のとおりである。また,弁護人が閲覧の結果,本件とは関係のないCの名誉やプライバシーを人に漏らしてはならないのは,弁護人に課せられた開示証拠の適正管理の義務(刑事訴訟法281条の3)や目的外使用の禁止(刑事訴訟法281条の4,281条の5)といった法の趣旨,弁護士の秘密保持の義務(弁護士法23条),弁護士倫理等からして,当然のことであり,この点につき,あえて条件を付するには及ばない。その他,特に必要な条件はない。)。
 一方,謄写については,前記のとおり,本件日記帳には,本件とは関係のないCのプライバシーに関する事実の記載,あるいは,Cのその時々の心情等を綴った記載などが多岐にわたって認められることや,被告人が暴力団の組長であること,Cと被告人との関係などを考慮すると,謄写を全面的に認めるとなると,本件とは関係のないCの名誉やプライバシーに関する記載が被告人の手に渡るなどして,Cの名誉やプライバシーに対する現実的な侵害や,その記載を基にしたCに対する不当な働きかけなどといった弊害が生じる危険性がないとはいえず,前記のような弁護人の義務等や被告人に課せられている開示証拠の目的外使用の禁止及びその違反についての罰則(刑事訴訟法281条の4,281条の5)等を十分考慮したとしても,現時点においては,本件日記帳のすべてについて謄写を認めるのは相当でない。また,部分的な謄写の可否についてみても,現段階において,裁判所が該当部分の取捨選択やその必要性等について判断するには資料が乏しく,これを裁判所が判断するのは相当でない。この点については,今後,弁護人において本件日記帳の全体を閲覧し,その上で被告人の防御権の行使に必要と認められる部分を特定し,検察官に対して,当該部分の謄写を求め,あるいは,期日間整理手続において,裁判所も含めて,その要否等について協議する(もちろん,裁判所に対する裁定請求も可能である。)などの方法によるのが相当である。

2.以上の次第であるから,本件日記帳(検察官が平成19年7月25日付けで証拠調べの請求をした部分を除くことは前記のとおり。)については,弁護人に対して,閲覧の方法によって開示するのを相当と認め,刑事訴訟法316条の26第1項により,主文のとおり決定する。

(主文)

 検察官は,弁護人に対し,広島地方検察庁で保管中の日記帳1冊(ただし,検察官が平成19年7月25日付けで証拠調べの請求をした部分を除く。)を開示(ただし,その方法は閲覧に限る。)しなければならない。

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