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最高裁判所第三小法廷判決平成22年02月23日

【事案】

1.八代市(以下「市」という。)が経営すると畜場(以下「本件と畜場」という。)の廃止に当たり,市が本件と畜場の利用業者等に対してした支援金(以下「本件支援金」という。)の支出は違法であるなどとして,市の住民である上告人らが,地方自治法(平成14年法律第4号による改正前のもの)242条の2第1項4号に基づき,市に代位して,当時市長の職にあった被上告人に対し,損害賠償を求めている事案。
 本件支援金の支出について,被上告人は,行政財産である本件と畜場の使用許可の取消しに伴う,国有財産法19条,24条2項の類推適用又は憲法29条3項に基づく損失補償金の支出として適法なものであり,仮にそうでないとしても地方自治法232条の2所定の補助金の支出として適法なものであると主張しているのに対し,上告人らは,損失補償金又は補助金のいずれの要件も欠き違法であると主張している。

(参照条文)国有財産法

19条 第二十一条から第二十五条まで(かっこ書略。)の規定は、・・(中略)・・行政財産の使用又は収益をさせる場合について準用する。

24条 普通財産を貸し付けた場合において、その貸付期間中に国又は公共団体において公共用、公用又は国の企業若しくは公益事業の用に供するため必要を生じたときは、当該財産を所管する各省各庁の長は、その契約を解除することができる。
2  前項の規定により契約を解除した場合においては、借受人は、これによつて生じた損失につき当該財産を所管する各省各庁の長に対し、その補償を求めることができる。

2.事実関係等の概要

(1) 本件と畜場は,大正3年に旧a村が個人経営の施設を譲り受けたものであり,昭和30年に旧a村が市に編入合併された後は,市営と畜場として運営されてきた。
 本件と畜場の利用業者は,そのほとんどが,旧a村地域において,先代ないし先々代から引き続いて,と殺業ないし食肉供給業に従事して生計を立ててきた者であり,本件と畜場は,民営及び村営の期間を含めると,約1世紀にわたり,地域のと殺業や食肉供給業に従事する住民らの生計を支える施設として稼働してきた。
 市は,本件と畜場について,同53年以降,同和対策事業の一環として施設の整備,拡充を進め,同58年までの事業費総額は,敷地内に併設された食肉流通施設を含めた総額で約6億5200万円となった。本件と畜場事業は,同57年10月1日から市の特別会計に移行したものの,同特別会計は毎年赤字であり,平成2年度から同11年度までの一般会計からの繰入金の合計額は,4億7411万円であった。

(2) 本件と畜場の利用資格に制限はない。利用業者は,本件と畜場を利用する度に使用料を支払い,と殺及び内臓洗いをそれらの各業務に従事する者(以下「と殺業務従事者ら」という。)に委託する場合はと殺業務従事者らに委託料を支払うが,利用業者又はと殺業務従事者らと市との間に委託契約,雇用契約等の継続的契約関係はない。

(3) 平成9年にと畜場法施行令が改正され,同12年4月1日から牛又は馬につき適用される一般と畜場の構造設備の基準が厳格化されることとなった。
 市は,本件と畜場を上記と畜場法施行令の改正内容等に適合させるためには施設の新築が必要であり,概算建築費として少なくとも8億3080万円を要することが見込まれたことから,同11年5月以降,利用業者との間で協議を重ねたが,同年12月,本件と畜場の存続が困難であるとの結論に達し,同12年3月31日,本件と畜場を廃止した。

(4) 市は,利用業者との協議や平成11年12月の八代市議会(以下「議会」という。)経済企業委員会において,本件と畜場を廃止する場合に利用業者の営業存続のための補償等を求める意見が出たため,利用業者の本件と畜場の利用状況や,本件と畜場廃止後の経営,設備投資の見通し等を調査し,同12年2月までに,本件支援金の支出につき,次のとおり支援措置方針案をまとめた。

ア.支援金の支給対象者の範囲は,同11年4月1日から同年12月末日までの間に本件と畜場を利用したことがあり,同12年1月1日現在で市内に在住する者で,現時点においても畜産業又は食肉流通業を営むもの10者(以下「対象利用業者」という。)及び現時点におけると殺業務従事者ら4名(以下「対象と殺業務従事者ら」という。)とする。

イ.支援金の額は,対象利用業者については,今後の事業の継続に不可欠な冷蔵庫,冷凍庫及び家畜運搬車の整備に要する費用等について,これまでの利用実績を基に算出するが,平成9年度から同12年度までの一般会計からの繰入金の年平均額から今後も市が償還を行う必要がある公債費充当分を差し引いた額の10年分を上限の目安として,総額3億0690万8000円とし,対象と殺業務従事者らについては,これと別枠で,これまで得ていた収入を基に雇用保険制度を参考にして,合計518万7000円とする。

(5) 平成12年度一般会計補正予算案は,平成12年6月5日,議会に上程された。本件支援金は,一般会計補正予算に関する説明書において「補償,補填及び賠償金」の節に計上されていた。同月19日に開催された経済企業委員会では,上記予算案のうち本件支援金の支出について歳出審査が行われ,委員から,本件支援金が一括支払とされている点や支給後の使途について市による確認が行われないことを疑問とする意見等が述べられ,採決の結果,上記予算案は賛成少数で否決された。上記予算案は,同月23日,本会議において審議された。本会議においては,経済企業委員会委員長から審議経過の説明が行われた後,一部議員から支援金をと殺業務従事者らに対するものに減額する内容の修正案が提出されたが,この修正案は否決され,これに引き続き上記予算案について採決が行われ,上記予算案が賛成多数で可決された。

(6) 被上告人は,市長として,平成12年7月31日,本件支援金の支払に関し市が対象利用業者及び対象と殺業務従事者らとの間で契約を締結することにつき決裁し,市は,同年8月から同13年7月までの間,第1審判決別表記載のとおり,対象利用業者及び対象と殺業務従事者らとの間で,順次,本件支援金に関する契約を締結し,本件支援金を支払ったが,補助金の支出方法を定めた市費補助等取扱要綱所定の手続には従っていない。

3.原審は,上記事実関係等の下において,本件支援金の法的性格が損失補償金と補助金のいずれであるかを明示することなく,要旨次のとおり判断し,本件支援金の支出が違法であるとはいえないとして,上告人らの請求を棄却すべきものとした。

(1) 本件と畜場は,地域において代々と殺業ないし食肉供給業を営んできたほぼ一定の利用業者が,地域のと畜場として長期間にわたり繰り返し利用してきた施設であり,市も同和対策事業の一環として地域の産業の振興及び職業の安定を図るため,施設の整備拡充を実施してきたものであるから,対象利用業者及び対象と殺業務従事者らは,本件と畜場の利用の継続又は本件と畜場での請負業務の継続につき,保護を受けるべき法的利益を有するに至っていたと認められ,本件と畜場の廃止に伴い生じる損失を補償するためにした本件支援金の支出が,著しく不当であり,合理性を欠くとはいえない。

(2) 本件支援金は,対象利用業者については,本件と畜場の廃止後も営業を継続するために遠方のと畜場を利用せざるを得なくなったことにより必要となる施設整備費及び経費負担増を償うものとして算定され,対象と殺業務従事者らについては,転職先を見つけるまでの相当期間の得べかりし収入を償うものとして算定されたものであり,このような方法による算定は相応の合理性を有しているものと認められる。また,本件支援金は,本件と畜場の廃止によって生じる損失を補償するものとして支出されるのであるから,これを一括して支払い,使途に関する事後確認をすることがないとしても,本件支援金の支出が直ちに不合理,不適切な支出であるとはいえない。

(3) 本件支援金の支出に至る経緯に加え,市の本件と畜場におけると畜業務とのかかわり,対象利用業者及び対象と殺業務従事者らの本件と畜場における業務と生計の程度等にかんがみると,本件支援金の支出には合理性があり,公益上の必要があると認められ,本件支援金が本件と畜場の廃止に係る補償とかかわりのない用途に流用されるおそれがあるとは認められず,裁量権を逸脱し又は濫用したものとして,その支出が不合理であるとする事由も存しない。

【判旨】

1.原審の判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

(1) 国有財産法は,普通財産を貸し付け,その貸付期間中に契約を解除した場合の損失補償を規定し(同法24条2項),これを行政財産に準用しているところ(同法19条),同規定は地方公共団体の行政財産の使用許可の場合に類推適用されることがあるとしても(最高裁昭和44年(オ)第628号同49年2月5日第三小法廷判決・民集28巻1号1頁参照),行政財産である本件と畜場の利用資格に制限はなく,利用業者又はと殺業務従事者らと市との間に委託契約,雇用契約等の継続的契約関係はないというのであるから,単に利用業者等が本件と畜場を事実上,独占的に使用する状況が継続していたという事情をもって,その使用関係を国有財産法19条,24条2項を類推適用すべき継続的な使用関係と同視することはできない。
 また,財産上の犠牲が一般的に当然受忍すべきものとされる制限の範囲を超え,特別の犠牲を課したものである場合には,憲法29条3項を根拠にしてその補償請求をする余地がないではないが(最高裁昭和37年(あ)第2922号同43年11月27日大法廷判決・刑集22巻12号1402頁参照),上記のとおり,利用業者等は,市と継続的契約関係になく,本件と畜場を事実上独占的に使用していたにとどまるのであるから,利用業者等がこれにより享受してきた利益は,基本的には本件と畜場が公共の用に供されたことの反射的利益にとどまるものと考えられる。そして,前記事実関係等によれば,本件と畜場は,と畜場法施行令の改正等に伴い必要となる施設の新築が実現困難であるためにやむなく廃止されたのであり,そのことによる不利益は住民が等しく受忍すべきものであるから,利用業者等が本件と畜場を利用し得なくなったという不利益は,憲法29条3項による損失補償を要する特別の犠牲には当たらないというべきである。
 そうすると,本件支援金の支出は,国有財産法19条,24条2項の類推適用又は憲法29条3項に基づく損失補償金の支出としては,適法なものであるとはいえない。
 したがって,原審が本件支援金の法的性格を損失補償金と解していたとすれば,その支出が違法であるとはいえないとした原審の判断には,法令の違反がある。

(2) 他方,本件支援金の支出が実質的には補助金の支出としてされたものであり,その支出に公益上の必要があることがうかがわれるとしても,それが補助金の支出として適法なものであるというためには,「補償,補填及び賠償金」の節に計上されていた本件支援金を補助金と解することにより,実質的に議会による予算統制の潜脱となるような違法な予算執行を許容するに等しい結果をもたらさないか否か等について審理,判断する必要があり,本件支援金が他に流用されるおそれがないとする点も,本件支援金の支出方法が市費補助等取扱要綱の趣旨を損なうものではないかという点を含めて説示されるべきである。したがって,原審が本件支援金の法的性格を補助金と解していたとすれば,その支出に合理性及び公益上の必要があることなど原審摘示の諸事情のみを理由に,本件支援金の支出が違法であるとはいえないとした原審の判断には,審理不尽の結果法令の解釈適用を誤った違法がある。

2.以上のとおり,原審の判断には,いずれにせよ判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,上記説示した点等について審理,判断を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。

 

最高裁判所第一小法廷判決平成22年02月25日

【事案】

1.1審原告が,茨木市情報公開条例(平成15年茨木市条例第35号。以下「本件条例」という。)に基づき,同条例所定の実施機関である茨木市教育委員会(以下「市教委」という。)に対して,平成15年度及び同16年度に茨木市立学校の教職員の評価等に関して教職員が作成した自己申告票及び校長が作成した評価・育成シートの一部につき,その公開を請求したところ,本件条例7条6号柱書き及び同号エ所定の非公開情報が記録されているとしてこれを非公開とする旨の各決定(以下「本件各処分」という。)を受けたため,その取消しを求めている事案。

2.事実関係等の概要

(1) 本件条例7条は,「実施機関は,公開請求があったときは,公開請求に係る公文書に次の各号に掲げる情報(以下「非公開情報」という。)のいずれかが記録されている場合を除き,公開請求者に対し,当該公文書を公開しなければならない。」と定めた上,非公開情報の一つとして,同条6号柱書きにおいて,「市の機関(中略)が行う事務又は事業に関する情報であって,公にすることにより,次に掲げるおそれその他当該事務又は事業の性質上,当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」を掲げ,その例の一つとして,同号エにおいて,「人事管理に係る事務に関し,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれ」を掲げている。

(2) 市教委は,教職員が個人目標を主体的に設定し,他と協力しながらその達成に積極的に取り組み,評価,改善等を行うことにより,教職員の意欲・資質能力の向上,教育活動等の充実及び組織の活性化を図ることを目的として,茨木市立学校に勤務する教職員の評価・育成システム(以下「本件システム」という。)を導入した。その手順は,教職員が取り組む目標を記載した自己申告票を作成し,校長との目標設定面談を経るなどしながら,目標達成状況等を順次追記して自己申告票を完成させた上,これを校長に提出し,校長において,当該教職員に対する日常の観察や自己申告票の内容等を踏まえてその評価を記載した評価・育成シートを作成し,当該教職員との間でその開示をしつつ面談を行うなどして指導助言を行うものである。この過程で作成された自己申告票及び評価・育成シート(以下,両者を併せて「本件各文書」という。)の写しは,校長から勤務成績の評定権者である市教委(地方教育行政の組織及び運営に関する法律46条)に提出される。
 平成15年度及び同16年度の本件各文書は,以上のようにして作成されたものであり,このうち,自己申告票は,作成者の所属校,氏名,経歴等及び今年度の組織目標を記載する各欄のほか,設定目標,進ちょく状況,目標の達成状況及び「今後習得したい知識・技能及び今後取り組みたいこと」の各欄(以下「本件公開請求部分1」という。)から構成されている。他方,評価・育成シートは,作成者の氏名及び所属校等を記載する欄のほか,能力の評価及び総合評価の各欄(以下「本件公開請求部分2」という。)並びに業績の評価及び「次年度に向けた課題・今後の育成方針」の各欄(以下「本件公開請求部分3」といい,これと本件公開請求部分1,2を併せて「本件各公開請求部分」という。)から構成されている。

(3) 1審原告は,市教委に対し,本件各公開請求部分の公開請求をしたが,市教委は,本件各公開請求部分に係る情報は,本件条例7条6号柱書き及び同号エ所定の非公開情報に当たるとして,いずれについても非公開とする本件各処分をした。

3.原審は,上記事実関係等の下において,要旨次のとおり判断し,市教委が,本件公開請求部分1,2につき非公開としたのは適法であるが,本件公開請求部分3につき非公開としたのは違法であるとして,本件公開請求部分3に係る請求を認容すべきものとし,その余の請求を棄却すべきものとした。

(1) 本件公開請求部分1,2が公開されると,教職員は他の教職員,生徒及び保護者との無用な摩擦を避けるなどのために率直な記載を控えたり,教職員からの本件システムへの協力が得られなくなったりするおそれがあり,同部分に係る情報は本件条例7条6号柱書き及び同号エ所定の非公開情報に当たる。

(2) これに対し,本件公開請求部分3は,教職員個人に対する評価としての性格は弱く,余り具体的な記載が要求されているとも考えられない。したがって,その記載内容を公開しても,それによって教職員からの本件システムへの協力が得られなくなるおそれがあるとは認められず,同部分に係る情報は本件条例7条6号柱書き及び同号エ所定の非公開情報に当たるとはいえない。

【判旨】

1.原審の上記3の判断のうち,(1)は是認することができるが,(2)は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 本件システムは,教職員による主体的な目標設定と達成状況等の点検及びこれを踏まえた教職員に対する評価,指導等を通じて,教職員の意欲・資質能力の向上,教育活動等の充実及び組織の活性化を図ることを目的とするものであり,本件各文書は,このような本件システムを運用する過程で教職員及び校長により作成され,その写しが勤務成績評定権者である市教委に送付されて,人事管理及び人事評価の資料として用いられるものである。そうすると,本件システムの上記のような目的が達成されるためには,教職員は,その目標や達成状況等を,他の教職員,生徒及び保護者に関する事情等も含めて,自己申告票に率直かつ具体的に記載し,校長は,当該教職員に係る所見,課題及び育成方針等を評価・育成シートに率直かつ具体的に記載することがそれぞれ期待されていると考えられる。
 ところが,このような本件各文書の性質等からして,本件各公開請求部分には,作成者である教職員若しくは校長又は記載されている関係者が特定できるような記載がされたり,教職員や評価者が外部に公開されることを望まないような記載がされることがあり得ると考えられる(記録によれば,実際にもそのような記載がされている例があることがうかがわれる。)。したがって,本件各公開請求部分が公開されることになった場合,作成者や記載内容中の関係者が特定されて問題が生じるのをおそれたり,自らが記載した具体的内容が広く第三者に公開される可能性があるのを嫌ったりして,教職員や校長が当たり障りのない記載しかしなくなる結果,本件各文書の記載内容が形骸化するおそれがあるというべきである。このことは,本件公開請求部分3についても,何ら変わるところがないものと考えられる。
 そうすると,本件各公開請求部分に係る情報は,これを公開した場合に,学校の組織活性化等を目的とした本件システムに係る事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあり,ひいては公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがあるものであり,本件条例7条6号柱書き及び同号エの定める非公開情報に当たるというべきである。

2.以上と異なる見解の下に本件公開請求部分3につき請求を認容すべきものとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。1審被告の論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決中の1審被告敗訴部分は破棄を免れない。そして,同部分について請求を棄却した第1審判決は正当であるから,同部分に係る1審原告の控訴を棄却すべきである。原判決中のその余の部分は是認することができる。1審原告の論旨は採用することができない。

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