最新下級審裁判例

大阪地裁決定平成20年06月03日

【事案】

 被告人がAと共謀の上,自動車1台を窃取したという公訴事実によって起訴された事件につき,弁護人が被告人のアリバイを主張しているため,検察官に対し,本件犯行時刻前後の被告人のアリバイ主張に関する証拠として,本件犯行現場付近の居住者等の供述録取書等(以下「本件供述録取書等」という。),高速道路等における被告人の所在等に関する証拠(以下「本件所在証拠」という。)及びその他被告人のアリバイ主張に関する証拠の開示を求め,また,被告人とAとの間の窃盗の共謀を争う主張をしているため,検察官に対し,Aについて作成された取調べ状況記録書面の全て(以下「本件取調べ状況記録書面」という。)の開示を求める事案。

【判旨】

1.本件供述録取書等について

 刑事訴訟法316条の20第1項の規定は,弁護人にいわゆる証拠あさりを認めるものではないから,同項による証拠開示が認められるためには,主張と開示請求に係る証拠との関連性が具体的に認められる必要があると解すべきところ,開示される証拠が主張を裏付けるものであれば,被告人側の防御に資するものであり,関連性が認められることはいうまでもない。
 そうすると,本件供述録取書等については,その内容が本件犯行時刻前後に被告人が本件犯行現場付近にいなかったことを示すものであれば,弁護人のアリバイ主張との関連性がないとはいえず,これを認めることができる。
 もっとも,関連性が認められても,その程度,開示の必要性,開示による弊害等を考慮した上で,開示が相当と認められない場合には,同項による開示を認めることができないことはいうまでもない。その判断にあたっては,弁護人が,同項の開示証拠により開示された証拠と矛盾しない範囲で予定主張を変更する目的で,同項の証拠開示を利用するおそれなども考慮されるべきところ,本件においては,弁護人は,前記のとおり,アリバイ主張を明示しており,かかる主張を立証するために既に3人の証人を請求しているのであって,本件証拠開示により弁護人が主張を変遷させる可能性は乏しいといえる。また,弁護人のアリバイ主張に関連する証拠は,被告人の有罪無罪にかかわるものであり,特に本件供述録取書等については,たとえば,犯行の一部始終を目撃していた者がいるとして,その者が犯人の中に被告人は含まれていなかったと述べているなど,アリバイ主張を裏付ける証拠が含まれている可能性もなくはないことからすると,関連性及び開示の必要性が小さいとはいえず,居住者等のプライバシーの侵害など,開示による弊害があり得ることを考慮しても,本件供述録取書等開示の相当性を認めることができる。
 したがって,本件供述録取書等については,開示を命ずるべきである。

2.本件所在証拠について

 弁護人は,前記のとおり,アリバイを主張することを明らかにし,検察官の,被告人が高速道路を利用して本件犯行現場に行ったという主張を争うため,高速道路等において被告人の存在を確認できる証拠の開示を求め,検察官は,弁護人の開示請求する証拠は,犯行時刻前後の被告人の動向に関する一切の証拠であり,弁護人の請求は特定性を欠いている旨主張する。
 弁護人の本件所在証拠についての請求は,要するに,本件犯行時刻前後の,高速道路上等における被告人の動向に関する証拠と解することができ,本件で問題となる高速道路は,捜査対象となった被告人の自宅のある大阪府と本件犯行現場とされるB県との間に限られると考えられるので,そのような範囲においては,特定性に欠けるところはない。
 そして,前記1におけるのと同様,犯行現場に向かうのに利用したとされる高速道路において,被告人の所在が確認できないというものであれば,弁護人のアリバイ主張との関連性がないとはいえない。そして,相当性についても,本件所在証拠は,本件供述録取書等と同様に,関連性の程度及び開示の必要性は小さくないといえるし,開示による弊害は,本件所在証拠が被告人の動向等に関するものであることから,それほど大きいものとはいえない。
 したがって,本件所在証拠についても,開示を命ずるべきである。

3.その他被告人のアリバイ主張に関する証拠について

 弁護人は,アリバイを主張することを明らかにした上で,前記本件供述録取書等及び本件所在証拠のほか,その他,被告人のアリバイ主張に関する証拠の開示を請求しているが,「その他被告人のアリバイ主張に関する証拠」についてはその類型,内容が広範に過ぎ,かかる請求が特定性を欠くことはいうまでもなく,弁護人の主張には理由がない。

4.本件取調べ状況記録書面について

 前記のとおり,刑事訴訟法316条の20第1項の主張関連証拠の開示に関する規定による証拠開示が認められるためには,主張と開示請求に係る証拠との関連性が具体的に認められる必要があると解すべきところ,弁護人は前記のとおり,被告人とAとの共謀を全面的に争う旨主張することを明らかにしてはいるが,Aの供述調書の信用性に疑いを生じさせる具体的な事情について何ら主張していない。そのような弁護人の主張がない以上,主張と開示請求に係る本件取調べ状況記録書面との関連性はいまだ明らかにされていないものといわざるをえない。
 したがって,本件取調べ状況記録書面については,弁護人の主張との関連性が認められない。

5.結論

 以上によれば,弁護人の本件裁定請求は,本件供述録取書等及び本件所在証拠の開示を求める限度で理由がある。

 

大阪地裁決定平成20年09月25日

【主文】

1.検察官に対し,平成20年1月25日及び同年4月28日撮影に係る被告人の取調状況を撮影したDVD各1枚を弁護人が謄写する機会を与えることを命じる。

2.謄写について以下の条件を付する。

(1) 謄写枚数は各1枚とする。

(2) 謄写に係るDVDのデータを複写して更にDVDを作成し,又は,パソコンのハードディスクに複写して記録するなどの一切の複写をしてはならない。

(3) 謄写に係るDVDを再生するに際しては,インターネット等により外部に接続したパソコンを使用してはならない

(4) 弁護人において,被告人甲に対する本件被告事件の弁護活動が終了し,かつ,謄写に係るDVDを後任の弁護人に引き継がないときには,速やかに,謄写に係るDVDのデータを消去しなければならない。

【判旨】

1.裁定請求の趣旨及び理由

 本件裁定請求の趣旨及び理由は,弁護人がした平成20年1月25日及び同年4月28日付撮影に係る被告人の取調状況を撮影したDVD各1枚(以下,各DVDを総称して「本件DVD」という。)の類型証拠開示請求につき,検察官はその謄写に関して,主文2の(1)ないし(3)の条件に加え,「被告人甲に対する弁護活動が終了した際には,謄写に係るDVDのデータを消去しなければならない。」という条件を付したが,上記(1)ないし(3)の条件についてはともかく,データ消去の条件を付することは不当であるから,検察官に対し,かかる条件を付さないで謄写する機会を与えるように命ずることを求めるというものである。

2.検察官の主張

 これに対する検察官の主張は,本件DVDには被告人に対する取調べの様子が録画録音されているという内容の特殊性や,これがDVDデータとして存在することに伴う複製の容易性,再生・閲覧方法の特殊性,外部流出の危険性,さらには弁護人が弁護活動終了後にもDVDを保管すべき必要性がないことなどの諸事情にかんがみれば,検察官が付した条件に不必要,過重な点はないというものである。

3.当裁判所の判断

(1) 証拠の類型該当性,重要性及び開示の必要性

 本件DVDは,被告人に対する捜査段階での取調状況が撮影されており,刑訴法316条の15第1項7号に掲げる類型に該当するところ,弁護人において,検察官請求に係る被告人の供述調書等(乙12ないし35)の証明力を判断する上では,被告人に対する取調状況を検討する必要性が高い。
 したがって,本件DVDの証拠としての重要性に照らせば,これを弁護人に対して開示し,閲覧,謄写の機会を与えるのが相当である。

(2) 開示に伴う弊害の内容及び程度

ア.本件DVDの内容による弊害

 本件DVDが上記のとおり被告人に対する捜査段階での取調状況を撮影したものであるという点に照らすと,その内容において,被告人はもとより,本件被告事件の被害者及び事件関係者らのプライバシーに関する供述や問答がなされているであろうことは容易に想定できる(検察官の上記意見書によれば,本件DVDのうち1枚は,被告人に対する強姦致傷被告事件に関する取調状況を録画したものであり,被害者の氏名が取調官から述べられる場面も録画録音されている。)。
 そればかりでなく,これらの事項が,被告人や取調官によって,実際に語られたり,問答がなされその際の被告人や取調官の表情,語調などがそのまま記録されているのであるから,見る者に与える印象や生々しさは供述調書等とは比べものにならないほど大きい。
 したがって,このような取調べDVDの内容にかんがみると,その内容が外部に流出した場合,被告人や事件関係者らのプライバシーが著しく侵害されることは明らかであり,その侵害の結果を回復することが著しく困難であることはいうまでもない。

イ.DVDという性質がもたらす弊害

 本件DVDは,被告人に対する捜査段階での取調状況を撮影し,これを電子データとして記憶させた電磁的記憶媒体である。
 ところで,昨今,公的機関や一般企業等の保有するデータ情報がインターネット等を通じて外部に流出する事態が多数発生し,大きな社会問題となっていることは公知の事実であり,しかも,ひとたび電子データがインターネット等を通じて外部に流出した場合,その影響が短時間に拡大する可能性が大きいことはいうまでもない。このような事態は,何者かが意図的に外部に流出させる場合に限らず,いわゆるスパイウェアやWinnyなどのファイル交換ソフト等により,使用者の意図しないままに外部に流出する場合にも多く見られるところである。
 そうすると,本件DVDは,その性質上,インターネット等を通じてその内容が外部に流出したり,影響が拡大する危険性が,供述調書等に比べても格段に大きいということができる。

(3) 条件を付する必要性

 以上のとおり,被告人に対する取調状況を撮影したものであるという本件DVDの内容や,これが電子データとして存在しているという性質上の特殊性にかんがみれば,その情報流出を防止する必要性は高く,謄写に際して,被告人の防御の準備に必要十分な範囲で,情報流出防止のための条件を付する必要性は優に肯定できる。

(4) 検察官が付した条件の相当性

ア.検察官は,弁護人に対し,上記のように主文2の(1)ないし(3)及び「被告人甲に対する弁護活動が終了した際には,開示に係るDVDのデータを消去しなければならない。」という4つの条件を付し,本件DVDを開示するとした。

イ.この4つの条件のうち,主文2の(1)ないし(3)の条件については,弁護人による弁護活動が行われている際に本件DVDのデータが外部に流出することを防止しようとした趣旨と考えられ,もとより相当なものと認めることができ,上記のように弁護人もこれら3つの条件については不当性を主張していない。

ウ.そこで,上記データ消去の条件の相当性について検討する。

 この点本件DVDのデータ流出を防止する必要性は,弁護活動中であると否とを問わず認められるのであるから,証拠開示に際し,被告人に対する弁護活動終了後のデータ流出を防止することを目的とした条件を付することも必要不可欠といえる。
 そして,弁護活動終了後においては,一方で,弁護人において本件DVDを手元に置いて随時検討したり,あるいは被告人の面前で再生するなどして被告人に視聴させる防御上の必要性は乏しいのに対し,他方で,上記のとおり,本件DVDの情報が外部流失した際の弊害が相当に大きいことは弁護活動中と何ら変わりはない。また,検察官が主張するように,弁護活動終了後には開示証拠等の管理に払われる注意の程度が弁護活動中に比して低下するであろうことが想定しうる上に,電子情報の管理の程度は,個々人の情報セキュリティに関する知識や経験等に大きく依存している現状もあるので,これらの事情にかんがみれば,主文2の(1)ないし(3)の条件のみでは,弁護活動終了後の上記弊害を防止するのに十分とはいえない。
 そうすると,DVDに記録されたデータを消去することで,その後のデータ流出の危険性は解消でき,しかもデータを消去することは極めて容易なことなのであるから,データ消去の条件は,弁護活動終了後の上記弊害を防止するために最も簡便かつ確実なものといえる。
 しかしながら,上記検察官の付したデータ消去の条件によれば,被告人に対する判決確定前に弁護人が交代し,前任の弁護人が後任の弁護人に訴訟記録を引き継ぐような場合(このような事態は控訴審で新たな弁護人が選任された場合や,弁護人が解任され,新たな弁護人が選任された場合など,多数考えられる。)であっても,前任の弁護人は謄写を受けたDVDのデータを削除しなければならないこととなるが,前任の弁護人が後任の弁護人に対して訴訟資料を引き継ぐことには相当程度の必要性と合理性があることは否定できない。
 この点については,検察官の主張するように,後任の弁護人において改めて検察官に対し任意での証拠開示を求めれば足りるということも考え得るが(検察官がこのように主張している以上,検察官においてもかかる任意開示請求には当然に応じるというのが基本的立場であると考えられる。),後任の弁護人に対する引き継ぎを前提とする場合,前任の弁護人が弁護活動終了後にもDVDを保管しておく期間は後任の弁護人に対しこれを引き継ぐまでのわずかな時間に限られる上に,後任の弁護人に引き継がれた後には,当該弁護人において各条件を遵守することで,データ流出の防止は実現できるのであるから,後任の弁護人に対し,前任からの引き継ぎという簡易な方法を許さず,常に再度の証拠開示請求をさせるというのは過重である(なお証拠開示は,被告事件の審理の準備のためになされるものであるから,開示に係る条件を後任の弁護人が遵守すべきは当然である。)。他方で,被告人に対する判決が確定した場合には,そもそも後任の弁護人への引き継ぎはなく,あるいは,弁護人が交代したけれども訴訟記録を後任の弁護人に引き継がないような場合には,弁護人にDVDのデータを消去させても特段の不都合はないのであるから,かかる場合には,弁護人にDVDのデータを消去させるのが相当である。
 以上の点を考慮すると,弁護人の弁護活動終了後におけるデータ流出の危険を防止するためには,「弁護人において,被告人に対する本件被告事件の弁護活動が終了し,かつ,謄写に係るDVDを後任の弁護人に引き継がないときには,速やかに,謄写に係るDVDのデータを消去しなければならない。」との条件を付すれば足りるというべきである。
 ところで,弁護人は,再審請求をする場合に備えて記録を保管する必要がある旨も主張する。しかし,再審の請求をする可能性は,証拠開示請求が行われる第一審公判前整理手続の段階では極めて抽象的かつ不確定的なものである上,再審の請求に時期的な制限はないのであるから,本件DVDの有する上記のような特殊性やデータ流出防止の必要性が極めて高いことを考慮すれば,将来における再審請求という抽象的かつ不確定的な可能性のために,弁護人に本件DVDを保管することを許容するのは妥当でなく,この点に関する弁護人の主張は採用できない。

エ.したがって,当裁判所としては,上記の諸点にかんがみ,検察官の付したデータ消去の条件については,主文2の(4)のとおりとすべきものと判断した。

(5) 結論

 以上のとおり,本件裁定請求は上記の限度で理由があるから,主文のとおり決定する。

 

大阪地裁決定平成20年09月26日

【判旨】

 本件は,傷害,覚せい剤取締法違反の事案であるところ,弁護人は,傷害の事実を否認し,覚せい剤事件については,傷害事件の取調べ中の5月3日に警察官から暴行を受け,畏怖して5月4日に尿を提出したもので,採尿手続きは違法で,得られた証拠は違法収集証拠で証拠能力がない旨主張する。そして,弁護人は,「5月3日の取調べが午後2時ころまで行われ,その中で被告人に対して暴行が加えられたことを立証する予定である。これに対して,検察官が開示した当日の取調べ状況報告書には,取調べ時間について「午前11時33分〜午前11時50分」と記載されており,警察官はわずかな時間しかなく暴行などできなかったと抗弁することが予想される。そのため,留置人出入簿を検討して,事件当日の取調べの終了時間がいつであったのかを明らかにする必要がある。警察官の暴行の有無は,尿の鑑定書の証拠能力を左右する事実であるから,被告人の防御にとって重要である。」旨主張する。
 以上によれば,本件において,開示請求されている留置人出入簿は,弁護人の主張との関連性及び開示の必要性があると認められる。また,開示することによる弊害は特に窺われない。
 ところで,証拠開示命令の対象となる証拠は,必ずしも検察官が現に保管している証拠に限られず,基本的には,当該事件の捜査の過程で作成され,又は入手した書面等であって,公務員が職務上現に保管し,かつ,検察官において入手が容易なものは含まれる(最高裁平成19年12月25日決定)。
 本件において,留置人出入簿は,公務員が職務上現に保管し,検察官において入手が容易なものであるとみられる。
 なお,検察官は,警察署における捜査と留置の分離は徹底されているので,留置人出入簿は,捜査の過程で作成された書類には該当せず,開示の対象にならない旨主張する。しかし,留置人出入簿は,被告人の身体拘束という捜査に関連して作成された書面である(被告人が本件捜査のために身柄拘束されなければ,留置人出入簿が作成されることはない。)ことは明らかであり,「当該事件の捜査の過程で作成された」ものに準じた性格を有するもので,弁護人の主張との関連性,開示の必要性が認められ(検察官主張のように,警察署における捜査と留置の分離が徹底されているのであれば,捜査と関係なく中立的に作成され,証拠としての価値は高くなるともみられる。),被告人記載部分に限定すれば,開示の弊害も認められないから,開示の対象になると解される。

 

広島地裁決定平成21年03月27日

【事案】

 (1)A,B及びC(以下「Aら」という。)の供述が記載された司法警察職員作成の捜査報告書は刑事訴訟法316条の15第1項6号にいう「供述録取書等」に該当し,(2)被告人の供述内容が記載された司法警察職員作成の捜査報告書は同法316条の15第1項7号にいう「被告人の供述録取書等」に該当し,いずれもその他の開示の要件を満たしているのに,検察官はこれらの証拠を開示しないとして,これらの証拠についての開示命令を求める事案。

【判旨】

 まず,(1)の捜査報告書について検討するに,これは司法警察職員がAらから聴取した供述内容を記載して作成したものであるから,同法316条の14第2号にいう司法警察職員が作成した「供述書」であって,同法316条の15第1項6号の「被告人以外の者の供述録取書等」に該当することは,弁護人が指摘するとおりである。
 しかしながら,同条項6号においては,さらにその「被告人以外の者の供述録取書等」が,「検察官が特定の検察官請求証拠により直接証明しようとする事実の有無に関する供述を内容とするもの」であることが,開示すべき類型証拠の要件となっているところ,その趣旨は,被告人側が特定の検察官請求証拠の証明力を適切に判断できるようにするために,一般的にその証明力の判断をする上で重要であると認められる一定の類型の証拠の開示を認めようとした点に求められるのであって,「供述録取書等」が,供述者の署名若しくは押印により内容の正確性が担保されているか,機械的正確さによって録取内容の正確性が保障されているものに限られていることをも考え併せると,同条項6号にいう「事実の有無に関する供述」とは,当該事実の有無についての原供述を意味し,伝聞供述は含まれないと解するのが相当である。
 そして,(1)の捜査報告書の供述者である司法警察職員が供述するのは,「検察官がその請求に係るAらの検察官詞書(甲5ないし7)によって直接証明しようとする強盗致傷事件の被害状況ないし犯行状況等について述べたAらの供述を聞き取ったこと」であり,これは原供述者であるAらの供述を聴取したことを述べる伝聞供述にすぎないから,(1)の捜査報告書は同条項6号の類型には該当しない。
 次に,(2)の捜査報告者について検討するに,これも(1)の捜査報告書と同様,司法警察職員の作成に係るものであるから,同条項7号の「被告人の供述録取書等]ではなく,同条項6号の「被告人以外の者の供述録取書等」に該当するというべきであって,同条項7号を根拠とする(2)の捜査報告書の開示請求は,その前提において誤りがあり,失当というほかない。のみならず,(1)の捜査報告書において説示したところと同様の理由により,(2)の捜査報告書も同条項6号の「事実の有無に関する供述」の類型に該当しないというべきである。

 

鳥取地裁決定平成19年06月18日

【事案】

 弁護人らが検察官に対し,刑事訴訟法(以下「法」という。)316条の20に基づいて,本件において死亡したAほか2名(以下「Aら」という。)の前科調書及び前科にかかる判決書,捜査報告書等(以下,まとめて「前科証拠」という。)を含んだ証拠の開示を請求したところ,前科証拠については非開示とされたため,裁定を求める事案。

【判旨】

1(1) 本件は,被告人がほか2名と共謀の上,スナックに居合わせた男性3名を包丁で刺すなどして殺害し,その際に正当な理由なく当該包丁を所持していたという,殺人,銃砲刀剣類所持等取締法違反の事案であり,被告人は包丁での刺突行為に及んだ実行犯として起訴されている。
 弁護人らは,本件の争点として,被告人は自ら及び相被告人らの生命を防衛するため,正当防衛としてやむを得ずAらを刺突したものであるとした上で,犯行現場で被告人らがAらから攻撃を受ける危険性があったことを指摘する。そして,Aらに粗暴前科があることは被告人らが攻撃を受ける危険性を示す証拠であるから,被告人の防御の準備のために前科証拠を開示する必要性が高いとし,開示されたとしてもさほどの弊害は生じないと主張する。

(2)ア.ところで,法は,いわゆる主張関連証拠の開示の判断に当たっては,主張との関連性の程度その他の被告人の防御の準備のために当該証拠を開示する必要性と,当該開示によって生じるおそれのある弊害の内容や程度を総合的に考慮した上で,開示の相当性を判断すべきものとしている(法316条の20)。
 そして,本件で問題とされる前科については,その者の名誉あるいは信用に直接にかかわる事項であるから,その者はみだりに当該前科に関する事実を公表されないことについて,法的保護に値する利益を有する。
 本件では,既に死亡しているAらの前科証拠が問題とされるが,死者の名誉や信用をみだりに害すべきでないことは当然であるし,遺族感情にも一定の配慮が必要であり,弁護人らの主張を踏まえ検討しても,前科証拠が開示された場合に弊害が生じるおそれがあることは明らかである。

イ.一方で,弁護人らの主張と前科証拠との結びつきが強く,開示する必要性が高ければ,上記弊害があってもなお開示を相当とすべき場合もある。
 そこで,争点とされる防衛行為の相当性と前科証拠との関連性について検討するが,この点,被告人が正当防衛や過剰防衛を主張する場合に,被害者が粗暴で攻撃的な性状であることなど,被害者の悪性格を立証することが,被害者の行為の危険性等を判断する一要素となることもあり得よう。本件においても,本件と同種の粗暴前科が前科証拠の中に含まれ,Aらの粗暴な性状を立証し得る場合,弁護人ら主張の争点について,その程度はともかくとして,関連性があること自体は否定できない。
 しかしながら,防衛行為の相当性については,被告人と被害者の関係,事件に至る経緯や動機,事件時の被害者や被告人の具体的な行為態様等を基本にして判断されるべきであり,本件において,これらの事情のうち当事者間に争いがない点を踏まえ検討すると,これに加えて,Aらの一般的な性状によって弁護人らが主張する防衛行為の相当性を推認しなければならない程度はかなり弱いということができる。
 したがって,前科証拠を開示することによる前記の弊害にも照らし検討すると,本件において,被告人らがAらから殺害されかねないほどに危険な状況にあったとの弁護人らの主張を基礎付けるためにAらの前科証拠を開示することが認められるとしたならば,それは本件の具体的な事情の下で,Aらの行為が更に危険なものに発展するであろうことをより推認させるようなものである必要がある。

ウ.こうした点に加え,本件事案の重大性や弁護人らの主張が犯罪の成否に関するものであることなどを踏まえ,当裁判所において検察官に提示させた資料を検討したが,弁護人らの防御の準備のために開示させるべき前科情報は窺われなかった。

2.以上を総合すれば,本件において前科証拠を開示することが相当とは認められない。

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