最新下級審裁判例

東京地裁決定平成20年08月06日

【事案】

1.本件証拠開示請求の趣旨及び理由の要旨は,@類型証拠開示請求については,Bの取調べに係る警察官(検察官がA警察官である旨釈明している。)作成の取調べ小票,取調べメモ,手控え等備忘録(犯罪捜査規範に基づくメモか否かを問わない。以下「本件取調べメモ」という。)は,刑訴法(以下「法」という。)316条の15第1項1号及び6号の類型証拠に該当し,Bの供述経過を踏まえるとBの検察官に対する供述調書(甲第30号証)の証明力を判断するに当たり,供述調書に記載されていないやり取りや記載されている供述の真し性を検討するためには,本件取調べメモの開示が被告人の防御のため重要である上,Bについては証人尋問が予定されており,証言義務が課されていることからすれば,本件取調べメモを開示することによる弊害は少なく,開示が相当であるからその開示を命ずる旨の決定を求めるというのであり,A主張関連証拠開示請求については,被告人がBに対し本件への関与を認めた言動をしたことはないという弁護人の主張に関連する上,類型証拠開示請求と同様,本件取調べメモの開示が被告人の防御のため必要であるからその開示を命ずる旨の決定を求める,というのである。

2.これに対する検察官の意見の要旨は,証拠開示の対象となるのは取調べメモすべてではなく,飽くまで犯罪捜査規範13条に基づき作成されたものに限定されるから,警察から犯罪捜査規範13条に基づいて作成された取調べメモは存在しないとの回答があった本件においては,証拠開示の対象となるべき証拠は存在しないし,本件取調べメモは,法316条の15第1項1号及び6号の類型証拠に該当しない,また,法316条の20に基づく開示請求においては,その前提として必要となる法316条の17第1項に定める主張の明示がなされておらず,関連性や相当性も認められないから,弁護人の請求は理由がない,というものである。

【判旨】

1.法316条の26第1項の証拠開示命令の対象となる証拠は,当該事件の捜査の過程で作成され,又は入手した書面等であって,公務員が職務上現に保管し,かつ,検察官において入手が容易なものを含み,公務員がその職務の過程で作成するメモのうち,専ら自己が使用するために作成したもので,他に見せたり提出することを全く想定していないものは,その対象とならないが,取調べ警察官が,犯罪捜査規範13条に基づき,取調べの経過その他参考となるべき事項を記録し,捜査機関において保管されている書面は,単なる個人的メモに止まらず,捜査関係の公文書であって,これに該当する取調べメモについては,当該事件の公判審理において,当該取調べ状況に関する証拠調べが行われる場合には,証拠開示の対象になると解するのが相当である。
 そして,警察官が捜査の過程で作成し,保管する取調べメモが証拠開示命令の対象となるか否か,すなわち,それが犯罪捜査規範13条に基づく取調べメモに当たるか否かは,裁判所が行うべきものである。
 そして,本件取調べメモは,A警察官が,Bを取り調べた際,Bが回答した内容を記載したものと認められ,当該事件の捜査の過程で作成された書面であって,公務員が職務上現に保管し,かつ,検察官において入手が容易なものである。また,検察官から提示された本件取調べメモを含む大学ノートは,供述内容等を供述調書や報告書としてまとめたものではないが,その前提となるものであって,専ら自己が使用するために作成したもので,他に見せたり提出することを全く想定していないとまでは認められないから,本件取調べメモは,証拠開示命令の対象となる犯罪捜査規範13条の基づく取調べメモに該当する。

2.類型証拠開示請求について

(1) 法316条の15第1項1号の「証拠物」とは,法306条にいう「証拠物」と同義であり,その存在又は状態が事実認定の資料となる証拠方法をいうところ,取調べメモは,取調べの経過その他参考となるべき事項が記録されているものではあるけれども,その存在又は状態が事実認定上の資料となるものではない。そして,本件における弁護人の主張や提示された本件取調べメモの存在又は状態に照らしても,これを別異に解すべき理由はない。
 この点,弁護人は,メモの記載事実そのものから認定し得る事実がある以上,証拠物としての性質がないとはいえないなどと主張するが,記載事実そのものから認定し得る事実があるかどうかは,「証拠物」に該当するか否かの区別とは別問題であるから,採用できない。
 したがって,本件取調べメモは,「証拠物」に該当しない。

(2) 法316条の15第1項6号の「供述録取書等」とは,「供述書,供述を録取した書面で供述者の署名若しくは押印のあるもの又は映像若しくは音声を記録することができる記録媒体であって供述を記録したもの」(法316条の14第2号)をいうところ,本件取調べメモは,実質的には,Bの供述を録取した書面であって,同人の確認を経ておらず,その署名,押印を欠くから,Bの「供述を録取した書面で供述者の署名若しくは押印のあるもの」に該当しない。
 もっとも,本件取調べメモは,A警察官が記載した報告書として,A警察官の「供述書」と解して,「供述録取書等」に該当すると考える余地もないではない。しかしながら,法316条の15第1項6号による開示の対象となる証拠は,「検察官が特定の検察官請求証拠により直接証明しようとする事実の有無に関する供述を内容とするもの」でなければならず,「事実の有無に関する供述」とは,その事実の有無についての原供述を意味するから,仮に本件取調べメモがA警察官の「供述書」であると考えると,本件において,検察官が特定の検察官請求証拠であるBの供述調書により直接証明しようとする事実である被告人の言動の有無について供述するのは,原供述者であるBであり,本件取調べメモの供述者であるA警察官の供述は,その原供述を聴取したものということになり,本件取調べメモは前記事実の有無に関する供述を内容とするものとはいえず,結局,「検察官が特定の検察官請求証拠により直接証明しようとする事実の有無に関する供述を内容とする」「供述録取書等」には該当しない。
 したがって,いずれにしても,本件取調べメモは,類型証拠開示の対象とならない。

3.主張関連証拠開示請求について

(1) 本件が公判前整理手続に付され,争点及び証拠の整理が行われていたところ,住居侵入,強盗致傷被告事件における被告人の犯人性が本件の争点であり,平成20年2月13日の第6回公判前整理手続期日において,いったん公判前整理手続が終結した。ところが,同年3月3日,検察官が,Bがこれまでの取調べで秘匿していた事実が明らかになったとして,新たにBの供述調書(甲第30号証)等の証拠調べの請求をし,さらに,同月10日付けの証明予定事実記載書面3において,被告人がBに対し,本件への関与を認める言動をしていたことを主張したところ,弁護人は,同月5日付け意見書において,検察官の上記証拠請求には,法316条の32の「やむを得ない事由」が存在しないと主張した。当裁判所は,検察官からこの点に関する疎明を受け,当事者双方に対して「やむを得ない事由」が存在するとの見解を示した上,改めて本件を公判前整理手続に付し,同手続を再開したところ,弁護人は,検察官の主張に対して,同月21日付け予定主張記載書面(2)において,被告人がBに対して本件への関与を認めた言動をしたことはない旨主張し,さらに,検察官がB証人の立証趣旨として,被告人が犯行を自認するのを聞いたこと等を追加して請求したところ,弁護人は,「やむを得ない事由」が存在しないとして異議を述べたが,裁判所は,それがあるとしてこれを許可した。
 検察官は,弁護人が主張関連証拠開示請求の根拠としている主張は,被告人がBに対して本件への関与を自認する言動をした事実等の存在を否定し,その供述の信用性を争うということに尽きており,同供述の信用性を否定する間接事実等の主張は全くなされておらず,法316条の17で要求されている主張明示がなされていないと主張する。確かに,弁護人の被告人がBに対し本件への関与を認めた言動をしたことはないとの主張は,要するに,B供述が虚偽であり,信用できないということであって,供述の信用性を否定する具体的事情は明らかにされてはいない。
 しかし,被告人が自ら認識していない第三者の事情やその取調べの具体的状況を弁護人に述べるということは想定できず,また,弁護人が第三者と接触し,事情を聴取するなどして,供述の信用性を否定する具体的な事情を調査することまで求めるのは困難であって,事案の内容,開示された第三者の供述調書,審理の経過等に応じてできる限り具体的に主張がされていれば,関連性判断の前提となる主張明示としては足りているというべきである。
 本件において,弁護人がBと接触し,供述の変遷の理由やその他の事情につき調査することは困難な状況にあることに加え,審理経過に照らし,Bの供述に変遷があることは明らかであり,弁護人が法316条の32のやむを得ない事由がないことを主張していたことからすれば,弁護人は,Bの供述に変遷があることを主要な根拠にB供述の信用性を争っているものと認められるから,弁護人の前記主張が主張明示義務に反しているとまではいえない。

(2) そこで,関連性について検討するに,本件取調べメモには,取調べの過程におけるBの供述内容等が記載されているから,Bの供述が信用できない旨主張する弁護人の主張に関連する。
 また,開示の相当性については,供述の信用性を検討するに当たって,開示済みの当該供述者の他の供述調書の内容と比較対照してその供述経過を検討すれば足りるとは一概にいえず,本件においては,その審理経過に照らし,Bの供述の変遷が具体的に現れているという事情があることに加え,本件取調べメモの記載内容を踏まえると,Bの供述の信用性,特にBの供述の変遷の経過やその理由を判断する上で,本件取調べメモを開示する必要性は高いということができる。
 さらに,本件取調べメモを開示することによる弊害については,検察官からその点に関して何ら具体的な主張がなく,本件取調べメモの記載内容を見ても,それを開示することによって重大な弊害が生じるような記載は見当たらない。
 以上によれば,弁護人の本件証拠開示命令請求のうち,主張関連証拠開示請求に基づく請求には理由がある

 

神戸地裁第2刑事部決定平成21年04月13日

【判旨】

1.刑事訴訟法316条の14は,検察官請求証拠のうち証拠書類について,検察官は,弁護人に対しては,閲覧だけでなく謄写する機会を与えなければならない旨規定しているが,それは,弁護人にとって,検察官の請求証拠の謄写は,防御の準備を行うため重要であり,その必要性が高いからである。特に,本件のように関係者多数の事件においては,関係者の供述調書の内容を詳細に検討する必要があり,弁護人に謄写を認める必要性は一層高い。もっとも,弁護人に謄写まで認めると,目的外使用の禁止にかかわらず,開示された供述調書の写しが外部に流出するおそれがあるが,閲覧に限定すれば,罪証隠滅や証人威迫等の弊害を防止できるという場合には,例外的にそのような方法を指定することも考えられる。
 しかし,弁護人に謄写を認める前記のような必要性に照らすと,裁判所が,弁護人に対し,検察官請求証拠の謄写を許可しないとの開示の方法を指定するためには,証拠を弁護人が謄写することによって生じるおそれのある弊害の内容及び程度と,前記のとおりの謄写を認める必要性等とを比較考量した上で,なお謄写を認めるべきではないといえることが必要である。

2(1) 検察官は,本件は暴力団組織内部での抗争事件であるところ,本件の弁護人であるE弁護士(以下単に「弁護人」という。)が,検察官が証拠調請求しているA,B,C及びDの各供述調書(以下「本件各供述調書」という。)を謄写した場合,その写しが暴力団関係者に渡り,暴力団関係者が,その情報を利用して,組織防衛目的で共犯者の隠避を図り,また,共犯者等が公判廷において組織に不利な供述をするのを阻止するため,共犯者の家族等の生命身体等に危害が加えられるおそれが極めて高く,生じうる弊害は大きいため,弁護人に対して謄写を許可しない措置を採る必要がある旨主張している。そして,弁護人が本件各供述調書を謄写した場合,その写しが暴力団関係者に渡るおそれが高いといえる根拠として,@自白している共犯者のうちC及びBはいずれも本件の弁護人が接見に行っていた間は本件について否認していたが,両名はいずれも被疑者国選弁護人選任後,自白に転じていること,共犯者A及びEはいずれも本件あるいは別件殺人予備事件について私選弁護人に選任していた本件の弁護人を解任したことなどから,弁護人は暴力団組織の利益のために動いている者であるといえること,A弁護人は,別件殺人予備事件についてAの私選弁護人に選任されていた間に,検察官が謄写を許可した同事件の共犯者Fの供述調書の写しを,Aが暴力団組員であることに配慮せず,勾留中の同人にそのまま差し入れたこと,B弁護人は,検察官が平成21年3月4日までに本件各供述調書を検察庁内で閲覧する機会を与える旨連絡したにもかかわらず,これらの調書を閲覧せず,謄写を強く要求していることを指摘して,弁護人が謄写を求める目的は未検挙の共犯者に謄写した調書の写しを読ませて,その隠避を図ることであると考えられると主張している。

(2) 本件は,暴力団組織内部の抗争事件である上,殺人という重大事案であるから,暴力団関係者が本件各供述調書の内容を知った場合,その内容の如何によっては,共犯者の隠避を図り,また,共犯者が組織に不利な供述をするのを阻止するため共犯者の家族等の生命身体等に危害が加えられるなどの罪証隠滅や証人威迫等の行為が行われるおそれがあることは否定できない。しかし,そういうおそれは暴力団関係者が共犯者らの供述内容を知った場合に一般的に認められるのであって,供述調書の写しを入手した場合だけに限定されるものではない。
 また,本件において,弁護人が本件各供述調書を謄写した場合に,その写しが外部に流出するおそれがあるといえる具体的事情や,暴力団関係者が本件各供述調書の写しを入手した場合に,前記のような罪証隠滅や証人威迫等の行為がされるおそれが高いといえる具体的事情については十分疎明されていない。
 すなわち,検察官は前記のとおり主張しているところ,本件の各共犯者が前記@のような態度を取ったことは認められるが,そのことから,弁護人が供述調書を謄写した場合,その写しが暴力団関係者に渡るおそれがあり,前記のような罪証隠滅や証人威迫等の行為がされるおそれが高いとまでいうことはできず,前記Aについては訴訟の準備のため共犯者の供述調書の写しを被告人に差し入れることは弁護活動として通常行われている行為であり,弁護人が供述調書の写しをそのまま差し入れたことに直ちに問題があるとはいえず,前記Bについても,前記1で述べたとおり本件のように関係者多数の事件については関係者の供述内容を詳細に検討する必要性は高く,本件各供述調書の謄写を請求するのは通常の弁護活動の範囲内であり,その態度から弁護人の謄写の目的が被告人の弁護以外に使用するための目的外使用であるということはできない。

(3)以上のとおり,本件において,弁護人が本件各供述調書を謄写した場合,それが外部に流出して大きな弊害が生じるおそれが高いとはいえず,前記のとおり弁護人に謄写を認める必要性が高いことを考慮すれば,弁護人に対し検察官請求証拠の謄写を許可しないとの開示の方法を指定するのは相当でない。もっとも,前記したように,暴力団関係者が本件各供述調書の写しを入手した場合や閲覧した場合の罪証隠滅や証人威迫等の行為が行われる一般的なおそれに鑑みると,謄写に際しては,弁護人に対し,主文の条件を付するのが相当である。

(主文)

 刑事訴訟法316条の14の規定により検察官が開示すべきA,B,C及びDの各供述調書について,弁護人の謄写に際し,それらの謄写物及びその写しを正当な理由なく,被告人以外の者に閲覧させ,又は交付してはならない,との条件を付する。

 

大阪地裁弘前支部決定平成20年10月03日

【判旨】

 取調警察官が犯罪捜査規範13条に基づき作成した備忘録であって,取調べの経過その他参考となるべき事項が記録され,捜査機関において保管されている書面は,当該事件の公判審理において,当該捜査状況に関する証拠調べが行われる場合,証拠開示の対象となり得るものである(最高裁平成19年12月25日第三小法廷決定)。そして,警察官が捜査の過程で作成し保管するメモが証拠開示命令の対象となるものであるか否かの判断は,裁判所が行うべきものであるから,裁判所は,その判断をするために必要があると認めるときは,検察官に対し,同メモの提示を命ずることができると解される(最高裁平成20年6月25日第三小法廷決定)。
 しかしながら,本件においては,検察官の回答によると,前記最高裁平成19年12月25日第三小法廷決定を踏まえて定められた平成20年5月13日付警察庁長官「取調べに係る事項を記録した書面の保管に関する訓令」(以下「警察庁長官訓令」という。)に基づいて保管されているメモは存在しないし,それ以外に,警察官がその職務の過程で作成するメモであって,専ら自己が使用するために作成したものについても,捜査機関が把握する範囲では存在しないというのである。
 これに対し,弁護人は,犯罪捜査規範13条は,警察官が被疑者の取調べを行った場合には,取調べの経過を記載したメモ,備忘録等を作成することを義務づけているのであって,警察庁長官訓令も,こうした書面の保管義務を明確に定めているのであるから,本件について取調べメモ等が存在しないという回答は到底信用できるものではないと主張する。
 しかし,犯罪捜査規範13条は,その規定の内容や趣旨に照らし,捜査の心構えを定めた訓示規定であって,あらゆる事件について,被疑者の取調べの際に警察官が取調べの経過を記載したメモ,備忘録等を作成することを義務づけたものとはいえない。実際にも将来当該事件の公判の審理に証人として出廷する場合はさほど多いものではなく,あらゆる事件についてこうした書面を作成している実態も認められないのである。こうしたことから,本件についても,取調警察官が取調べメモ等を作成しなかったというのは,その当否はともかくとして,あり得ることといえる。
 また,警察庁長官訓令も,取調べ警察官が被疑者の取調べについて,その供述の内容,取調べの状況その他取調べに係る事項を記載した書面であって,捜査指揮のため,又は公判の審理に関する用務に備えるため必要があると認めるものを,必要と認める期間,事件ごとに適切に保管すべきことを定めたものであって,あらゆる事件についてこうした書面を作成することを前提としてそのすべての保管を義務づけたものではない。
 以上によれば,本件について,取調べメモ等は存在しないとの回答が一概に信用できないとすることはできず,他に,現に取調べメモ等が作成,保管されているとうかがわせる具体的な事情もみられない。
 そして,同回答によると,被告人の取調べについて警察官が捜査の過程で作成し保管するメモは,警察庁長官訓令等の規定に基づくもののみならず,自己の使用のために作成された個人的なメモと考えられるものも含めて,捜査機関が把握する限り存在しないというのであるから,裁判所において証拠開示の対象となるか否かの判断のためその提示を求める余地もなく,本件証拠開示請求は,その前提を欠くものといわざるを得ない。

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