平成22年度新司法試験論文式
民事系第2問の感想と参考答案

試験問題は、こちら

平成22年度の民事系第2問は、民法と民訴法の大大問だった。
平成23年度からは、民事系も科目ごとに分けて実施されることが決まっている(実施日程参照)。
結果的に、最後の大大問だったことになる。
大大問廃止の方向性は、ヒアリング等で指摘され続けていた。
従って、それほど意外性はない。

本問の作問時点で、大大問廃止が考査委員に伝えられていたかはわからない。
ただ、本問は、これまでの大大問よりも、気合を入れて作った感じがする。
これまでは、前半と後半ではっきり科目が分かれていた。
事実関係も、科目間で重複していないことが多かった。
実質的には、融合問題と呼べるものではなかった。
しかし、本問は、設問1、2、5が民法、設問3、4が民訴だった。
また、設問1は配点から民法とわかるものの、一見すると民訴にもみえる。
しかも、民訴の設問3、4でも設問1の事実1から9までを使っている。
何とかして融合問題にしよう、という意気込みを感じる。
もっとも、民法の解釈論や法律構成が、民訴に影響するとか、その逆はない。
つまり、事実関係は一応融合しているが、法律レベルでは、ほとんど融合していない。
やはり、この辺りが融合問題を作る限界なのかな、とも感じさせる。

中身についてみると、これが非常に難しかった。
ここでいう難しさとは、模範答案のようなものを容易に想定しがたい、という意味である。
司法試験では、難問と言われるケースが主に二つある。
一つは、訊かれている内容自体が応用的である場合。
もう一つは、そもそも何を訊いているかが不明確な場合である。
しかし、本問は、上記の両面を兼ね備えている。
そういう意味で、単なる難問ではなく、相当な難問と表現するにふさわしい問題だった。
論文初日にこれをぶつけられて、動揺した受験生もいたのではないか。

設問1は、問題文が漠然としている。
「法律上の意義」とは、どのようなことを指しているのか。
Fの主張は、どのような法律構成を基礎にしているのか。
特に、後者の主張に正当の理由の主張を含むのか。
そもそも、事実@もAも、大して意味のない事実なのではないか。
このもやもやした感じが、答案を書きにくくしている。
おそらく、本問の原案は、もっとはっきりした問題文だったのだろう。
ただ、それでは簡単すぎて差が付かない。
そういう意見が出て、わざとぼやかしたのではないか。
そんな感じがする。

結論的には、事実の推認、評価の過程を書いて欲しいということなのだろう。
過去の答案で、あてはめがあまりに雑なので、そこをピンポイントで訊いてきたのではないか。
@とAが、それ自体何の決め手にもならない事実なのは、敢えてそうしたのだろう。
あまりに断片的事実から断定的な結論を導く答案が多いので、それを戒める意味だと思われる。
ただ、こういう出題は、過去問や予備校答練ではあまりない。
そのため、現場ではどうしていいかわからなくなりやすい。
そういう場合、とりあえず誰もが触れそうなことだけは書いておく。
正当の理由を含むか迷った場合、多くの人は書きそうだと思ったら触れておく。
ただ、書き方を気をつけないと、基本代理権の主張と正当理由の主張を混同していると思われかねない。
「仮に正当理由の主張も含むとした場合」などと区別して書いた方が無難だろう。

なお、@が109条の授権表示ではないか、とも思える。
しかし、109条は要件に(基本)代理権の存在を含まない。
従って、Fの主張が109条の法律構成をいうものとするのは誤りである。

設問2の(1)は、抵当権侵害に関する出題である。
しかし、伐木の搬出であるとか、不法占拠者への明渡し請求のようなメジャーな論点ではない。
第三取得者による侵害という、ややマイナーな事例を出題している。
また、「留意すべき事項」がどういうものを指すのか、漠然としている。
さらに、想定される反論とは、E側からのものに限られるのか。
この辺りも不明瞭である。
受験生としては、これを現場で突きつけられると、かなり辛い。

ここでいう留意点は、単なる視点、注意点という感じではない。
「それらの事項についてどのように考えるか」
「それらの事項について・・・想定される反論も考慮しつつ」となっている。
上記の問題文からすれば、留意点は、それ自体論証を要するような項目という意味のようだ。
例えば、単に共同抵当があるとか、物上代位すべき権利が生じていないとか、毀損ではなく滅失であるとかいったようなこと。
それらは、個別に自説や反論を展開するような事項ではない。
そうすると、留意点とは、いわゆる論点ということだろう。
そういう推理をするべきである。
抵当権侵害の損害賠償に関する論点には、どのようなものがあったか。
短答対策の知識で、いくつか判例があったことは知っているはずである。
損害発生時と算定基準時などである。
とりあえず、これが留意点ではないか。
後は、自説と反対説(反論)を決めて、書けばよいのだと思う。
問題文上は、自説がFの立場、反論はEの立場とは指定していない。
ただ、文章の雰囲気や小問(2)との対応からは、その方が書きやすいだろう。

しかし、その中身の部分は、学説も定まっていない部分であり、難しい。
ポイントは、抵当権(物権)の侵害であるという点を重視するのか。
それとも、被担保債権(債権)の侵害であるという点を重視するのか、という部分だと思う。
筆者は、後者の考え方の方が筋がよいと思う。
前者の発想からは、抵当権自体の価値を考えることになる。
そこで、抵当権が価値権か換価権か等を議論することは考えられる。
しかし、そのような議論からは、論理的にすっきり結論は出ないのではないか。
要は、債権の履行見込みがなくなることが問題なのである。
抵当権侵害は、いわばその手段に過ぎない。
そう考えるべきではないか。
本問で問われていないが、主観的要件(過失で足りるか)についても、同様である。
後者の考え方からは、債権侵害の議論をそのままスライドさせることができる。
ともかく、自分なりに論理的に一貫した結論を示すことが重要である。

なお、損害概念につき、いわゆる差額説と事実説の対立がある。
本問で、損害の本質論と称してこれを論証したくなる。
しかし、両説の対立は、主に人身損害のような金銭的評価になじまない問題で生じる。
稼働能力がない身体障害者等を死亡させても、逸失利益がないから賠償額は低くてよい。
むしろ、介護費用がかからなくなるから利益が生じている。
こんな考え方はおかしい。
そういう発想である。
しかし、抵当権侵害は、金銭的評価になじむ問題である。
問題は、いかに金銭的評価をすべきか、そこが難しい、というに過ぎない。
言い換えれば、足したり引いたりする発想になじまないのではない。
どう足したり引いたりすればよいかの問題である。
自分は事実説をとるから、建物滅失自体が損害だ。
だから、論理必然的に目的物の価額が賠償額だ。
などとするのは、事実説を理解していないとして厳しい評価になるだろう。
仮に事実説を採るとしても、損害の金銭的評価は、別途必要になる。
抵当権者にとって、あるべき賠償額はいくらなのか。
その点を、説明する必要がある。
抵当権侵害の場合には、その内実は差額説と同じ発想になるはずである。

設問2の(2)は、177条の第三者性に関する問題である。
論点は二つ。
Eは準当事者ではないか。
Eは背信的悪意者ではないか、という点である。

前者は、例えば以下のような事例で問題となる。

1:AがBに甲土地を売却したが、登記はAのままである。
2:Aは移転登記未了を奇貨として、事情を知らない同居の子のCに、甲土地を譲渡し、移転登記を了した。
3:甲土地の管理・利用は、従前どおりAが行っている。

上記事例で、AC間の売買が虚偽表示でなくても、CはBに所有権を対抗できないと解すべきである。
AとCは同一視でき、実質的にCは当事者に準じる地位にあるからである。
これは、上記事例のように譲受人が善意でも生じる。
従って、背信的悪意者排除論とは別個の問題である。
もっとも、本問では、AとEを同一視できる事情よりも、E独自の利益を認めうる事情の方が多い。
結論としては、同一視することはできない、となりそうである。

後者の点は、誰もが思いついたはずである。
もっとも、あてはめには慎重を要する。
問題文は、「算段し」などの語を用い、いかにも背信的悪意者のように表現している。
しかし、単純悪意者も、劣後譲受人が譲り受けた権利を得られなくなる(害される)ことは承知の上で譲渡を受けている。
従って、それだけで背信的悪意者であると考えることはできない。
問題は、単に劣後させ、または優先する以上に、何かやっていないか、という点である。
背信的悪意者と認めた判例の事例では、何らかのプラスアルファがある。

最判昭43・8・2より引用、下線及び太字強調は筆者)

 原判決(およびその引用する第一審判決。以下同じ)は、被上告人が昭和四年一〇月四日、訴外Dから三重県一志郡a村bc番山林八畝二三歩を買い受けたさい、あわせて本件山林三筆すなわち同所d番のe山林一畝六歩、同所d番のf山林三反四畝三歩および同所d番山林四畝二二歩をも同人から買い受けてその所有権を取得し、以後これを占有していたが、その登記を経由せずにいたこと、他方、上告人は、昭和二八年五月ころ、本件山林三筆の時価を約一二〇万円相当と評価しながら同訴外人からこれを代金三万五〇〇〇円(のちにさらに一五万円を支払)で買い受けて、上告人ないし第一審脱退原告名義に所有権移転登記を経由したこと、上告人の買受当時、すでに同訴外人においては本件山林の所在位置を正確に認識せず被上告人にこれを売却済みかどうかが不確かであつたのであるが、上告人は、村図等について調査して、本件山林が被上告人の永年占有管理していることの明らかな本件係争地域内にあつて、被上告人がすでにこれを買い受けているものであることを知つたうえ、被上告人が登記を経ていないのを奇貨として、被上告人に対し高値でこれを売りつけて利益を得る目的をもつて、本件山林を買い受けるに至つたものであること、上告人は、右買受後被上告人に対し本件山林を買い取るよう求めたが拒絶され、交渉が不調に終わると、第一審脱退原告にこれを転売し、さらに同原告が本件訴を提起したことを知るや、本件山林を買い戻しその所有権を主張して本件訴訟に参加するに至つたものであること、以上の事実を認定している・・・原判決認定の前記事実関係からすれば、上告人が被上告人の所有権取得についてその登記の欠缺を主張することは信義に反するものというべきであつて、上告人は、右登記の欠缺を主張する正当の利益を有する第三者にあたらないものと解するのが相当である。

(引用終わり)

 

最判昭43・11・15より引用、下線は筆者)

 被上告人B2は、単に本件山林が被上告人B1から上告人に対して贈与された事実を知悉していたというに止まらず、後に生じた右両名間の紛争について自ら立会人としてその解決に努めたうえ、右贈与の事実を確認し、すみやかにその旨の所有権移転登記手続をすべきことを内容とする和解を成立させ、自ら立会人として和解条項を記した書面に署名捺印したというのであり、他方、その後に至つて、自己の債権の満足を得るために、右和解の趣旨に反し、本件山林をB1の所有物件として差し押えたというのであるから、同被上告人としては、上告人の本件山林の所有権取得についてその登記の欠缺を主張することは著しく信義に反するものというべきであり、同人は右登記の欠缺を主張するについて正当の利益を有する第三者には当たらないものと解するのが相当である。

(引用終わり)

本問のEは、AF間の金銭貸借や抵当権設定に関与していない。
抵当権設定登記を妨げたわけでもない。
また、抵当権登記未了の土地建物の第三取得者は、建物を取り壊して自宅を建築することができる。
劣後した抵当権者は、これを甘受しなければならない。
本問のEの意図は、上記の範囲にとどまっている。
Fから不当な利益を要求しようとか、そのような意図はない。
そうすると、Eは背信的悪意者には当たらないのではないか。
そういう感じがする。
ただ、本問の事例をみたときに、Eの対抗を許すことにやや違和感を感じるのも確かである。
この点は、単純悪意者排除論に説得力のある部分だろう。
もっとも、単純悪意者排除論は、現行の登記制度からすると無理な気がする。
早い者勝ちのルールを定めつつ、遅い者を認識しつつ追い越すことを許さないゲームは、成立し得ない。
そう思うからである。

いずれにせよ、本問の事例をいかに抜き出して評価できるか。
結論はともかく、その部分で評価をわけることになるだろう。
なお、その後の設問5で、実はEがAの子であると判明する(事実22)。
しかし、これは設問2冒頭で「事実1から14までを前提として」とされているから、考慮してはいけない。

設問3は、当事者確定と弁護士代理の原則(または任意的当事者変更)を問う問題である。
本問は、他の設問と比べると、訊いていることも明確で、かつ、内容も基本的である。
受験生としては、ほっと一息つける問題だった。

まず、氏名冒用については、表示説や意思説からは、Eが当事者となる。
この場合は、当事者でないGのした訴訟行為がEに帰属するか。
すなわち、訴訟代理権があるか、という問題に移行することになる。
しかし、Gは弁護士でないから、訴訟代理人とはなれない。
そこで、非弁護士のした訴訟行為の効力を論じることとなる。
ここで追認を許す解釈に立つ場合、Eの追認拒絶の可否を検討する。
追認拒絶できないときは、追認したものとみなすことになる。
これは、無権代理人の本人相続と同様の考え方である。
非弁護士の訴訟行為については、学説上も諸説あり、結論はどうでもよい。
ただ、弁護士代理の原則の趣旨から書くべきである。
個人的には、本人の意思にかかわらず非弁護士は訴訟代理人になれない以上、追認も無理ではないかと思う。
同旨の見解として、札幌高判昭40・3・4がある。

(札幌高判昭40・3・4から引用、下線は筆者)

 わが国では本人訴訟を許し、弁護士強制主義はとらないが、簡易裁判所において許可を得て代理人となる場合および法令による訴訟上の代理人の場合を除いては、訴訟代理人は弁護士であることを要する・・・元来訴訟行為の代理に弁護士の資格を要する実質的理由は、法律実務家として訴訟の経済的能率的運営に資することのほかに、弁護士の公益的任務が司法の公正の維持と社会正義の実現に役立つという配慮によるのであるから、非弁護士が代理人として訴訟行為をなすことは、単にその本人に不利益が生ずるというだけではなく、民事訴訟の体系に連なる問題であるから、たとえ本人の追認、相手方の同意等があつたとしても、非弁護士によつでなされた訴訟行為の瑕疵は治癒するものてはなく、結局非弁護士によつてなされた訴訟行為は無効であると断ぜざるを得ない。

(引用終わり)

なお、任意的訴訟担当を思いついた人もいただろう。
しかし、その内容は、やはり弁護士代理の原則に反しないか、ということになる。
これは、論述の繰り返しである。
また、結論的には、簡単に否定することになる。
従って、敢えて取り上げる意味はほとんどない。
書く必要はないだろう。

また、予備校等では、本問の事実関係からは無効主張させるべきでない、とする解説がされているようである。
しかし、本問の事実関係だけからは、必ずしもそのように断定できない。
これまでに行われた訴訟手続の内容や、Gの行った訴訟行為、弁護士Rが無効主張した理由などが、明らかでないからである。
Gが、Eを害する致命的な訴訟行為をしていた可能性もある。
この場合は、無効主張させるべきだろう。
他方、弁護士Rが訴訟を遅延させるだけの目的で無効主張をした可能性もなくはない。
そうだとすれば、無効主張させるべきでない。
そういった事情が、本問では明らかでない。
そうである以上、弁護士代理の趣旨から、論理的に結論を出すべきである。
弁護士代理の趣旨に触れることなく、単に訴訟経済に反するとか、禁反言だけで結論を出すのは、あまり評価されないだろう。

他方、氏名冒用につき行動説や規範分類説からは、Gが当事者となる。
この場合、当事者でないEが手続をいかにして引き継ぐのか。
すなわち、任意的当事者変更と訴訟資料の流用の問題となる。
この場合は、信義則上Eは訴訟状態の承継を拒めないということになりそうである。

設問4の(1)は、本問で最大の難問かもしれない。
まず、そもそも元本が1500万円だったという既判力は、どう作用するのか。
すなわち、なぜ500万円の弁済の主張を遮断できるかという点を、理解する必要がある。
「500万円の弁済がなかった」という点にまで、既判力は及ぶのか。
そうではないが、別の理由で遮断されるのか。
その点を、示す必要があるだろう。

次に、長所と短所とは、どういうことを書けばよいのか。
各法律構成を支持する理由とか、それに対する批判を書きたくなる。
しかし、おそらくそういうことを訊いているのではない。
各法律構成を前提として、どのように手続が続いていくのか。
その場合に、Fの側に有利な点と不利な点は何か。
それが、長所と短所に対応するのだろう。
また、問題文に明示されてはいないが、@とAを比較した方が書きやすそうである。
@の長所がAの短所、@の短所がAの長所という感じになるのではないか。
そういう予測ができる。
まず、知識で思いつくのは、放棄の既判力の論点である。
Aの構成では錯誤の主張を許すが、@ではそれを許さない。
これは、Aの構成の短所であり、逆に@の構成の長所となるだろう。
他には何かあるだろうか。
こういう場合、ヒントは問題文にあることが多い。
そういう目で、問題文をみてみる。

(問題文より引用、下線、太字強調及び「???の時点で」の挿入部分は筆者)

 第1の法律構成(法律構成@)は,第1訴訟の訴訟物は元本返還債務の全体であって,Aの「1500万円を超えては存在しない」ことの確認を求めるという請求の趣旨は,例えば「1200万円を超えては存在しない」というような,より原告に有利な判決を求めないという意味において,原告が自ら,請求の認容の範囲を限定したものにすぎない,というものです。このように考えると,既判力の対象はあくまでも,元本返還債務の全体ですから,第1訴訟の確定判決の既判力によって,「平成20年4月11日の時点で元本債務は1500万円であった」ということが確定されることになります。
 第2の法律構成(法律構成A)も,やはり第1訴訟の訴訟物は元本返還債務の全体であるとするのですが,同債務のうち1500万円についてはAが請求を放棄したために,実際に審判対象となったのは1500万円を超える部分だというものです。このように考える場合には,第1訴訟の確定判決の既判力の客観的範囲は元本返還債務のうち1500万円を超える部分だけになりますが,請求の放棄,正確には請求の一部放棄の既判力により,(「???の時点で」)元本債務の金額が1500万円であったことが確定されることになります。

(引用終わり)

問題文は、@とAの法律構成を対応的に記述している。
それに着目すると、Aの方だけ、基準時の記述が落ちている。
ここが、@とAの差異だ、と気付くことができる。
では、放棄構成の基準時はいつだろうか。
そのような目で、問題文の事実をみてみる。

(問題文より引用、下線は筆者)

18.第1訴訟の第1回口頭弁論期日は,平成19年7月27日に開かれ,訴状の陳述などが行われた。その後数回の期日を経て,平成20年4月11日に口頭弁論が終結し,同年6月2日にAの請求を全部認容する旨の終局判決が言い渡され,この判決が確定した。

(引用終わり)

下線部は、よく考えてみると、無くてもよい。
当然のことが書いてあるに過ぎないからである。
敢えて書いた、そう考えることができる。
また、第1回口頭弁論期日の日付も、敢えて書いてある感じがする。
ここに気がつけば、Aの構成だと、ここが基準時になりそうだ。
そういう推測ができる。
そこで、500万円の弁済の日付を確認してみる。

(問題文より引用、下線は筆者)

20.第3訴訟の第1回口頭弁論期日において,弁護士Pは,被担保債権に関し,「本件消費貸借契約に基づきAがFに対して負う元本返還債務の金額は1500万円であるところ,AはFに対し,平成20年3月15日に500万円,平成21年3月15日に1000万円をそれぞれ弁済した。」と主張した。

(引用終わり)

なるほど、Aの構成だと弁済は基準事後になりそうだ。
これは、Aの構成の短所だ。
逆に、@の構成では、基準時は平成20年4月11日。
弁済は、基準時前である。
これは、@の構成の長所だ。
やはり、長所と短所が裏表で対応している。

次に、@の短所、Aの長所を探す。
もう一度、各法律構成の説明部分をみてみる。

(問題文より引用、下線は筆者)

 第1の法律構成(法律構成@)は,第1訴訟の訴訟物は元本返還債務の全体であって,Aの「1500万円を超えては存在しない」ことの確認を求めるという請求の趣旨は,例えば「1200万円を超えては存在しない」というような,より原告に有利な判決を求めないという意味において,原告が自ら,請求の認容の範囲を限定したものにすぎない,というものです。このように考えると,既判力の対象はあくまでも,元本返還債務の全体ですから,第1訴訟の確定判決の既判力によって,「平成20年4月11日の時点で元本債務は1500万円であった」ということが確定されることになります。
 第2の法律構成(法律構成A)も,やはり第1訴訟の訴訟物は元本返還債務の全体であるとするのですが,同債務のうち1500万円についてはAが請求を放棄したために,実際に審判対象となったのは1500万円を超える部分だというものです。このように考える場合には,第1訴訟の確定判決の既判力の客観的範囲は元本返還債務のうち1500万円を超える部分だけになりますが,請求の放棄,正確には請求の一部放棄の既判力により,元本債務の金額が1500万円であったことが確定されることになります。

(引用終わり)

基準時ほど明確でないが、審判対象が違うことに気付く。
@では全体が審判対象だが、Aは1500万円を超える部分だけである。
そこで、もう一度問題文の事実に戻ってみる。

(問題文より引用、下線は筆者)

18.第1訴訟の第1回口頭弁論期日は,平成19年7月27日に開かれ,訴状の陳述などが行われた。その後数回の期日を経て,平成20年4月11日に口頭弁論が終結し,同年6月2日にAの請求を全部認容する旨の終局判決が言い渡され,この判決が確定した。

(引用終わり)

@の構成からすると、1500万円を超える限度で認容、その余は棄却、という一部認容判決になるはずである。
にもかかわらず、1500万円を超える部分のみ判決している。
これは、裁判の脱漏(民訴法258条)ではないか。
この部分は、一部請求の明示がないのに一部請求として判決した場合、というマイナー論点の処理と同じである。
そうすると、Aの側からまだ訴訟係属が残っていると争われる余地がある。
これは、@の構成の短所だろう。
他方、Aでは、1500万円を越える部分は確定判決、1500万円を超えない部分は放棄、という住み分けがされている。
従って、脱漏は生じない。
これは、Aの構成の長所といえる。

ここまで書ければ、十分だろう。
ただ、現場でここまで思いつけるかというと、かなり厳しい。
何も思いつかない場合は、各法律構成の批判等を短所として挙げるよりないだろう。
白紙になるよりは、マシである。

設問4は、配点が最も高く、65点もある。
(1)と(2)に分かれてはいるが、おそらく(1)の方のウェイトが高いだろう。
現場で何も思いつかなかったとしても、頑張って何か書くべきところだった。
ここを諦めて白紙同然にしてしまった人は、普段の答練で頑張る訓練が足りない。
演習不足である。

設問4(2)は、質的一部認容判決を問う問題である。
まず、本問の判決は引換給付判決ではない。
引換給付判決だとすれば、抹消登記より弁済が先履行であるから、できないという結論で終わってしまう。

最判昭57・1・19より引用、下線は筆者)

 原審は、被上告人に対し、上告人から貸金債務の弁済を受けるのと引換えに、右貸金債務の弁済を担保するために上告人所有の不動産について経由された被上告人を抵当権者とする抵当権設定登記の抹消手続をするよう命じている。しかしながら、債務の弁済と該債務担保のために経由された抵当権設定登記の抹消登記手続とは、前者が後者に対し先履行の関係にあるものであつて、同時履行の関係に立つものではないと解すべきであるから、原審が、右とは異なる見解のもとに、債務の弁済と引換えに抵当権設定登記の抹消登記手続を命じたことは、同時履行の抗弁権に関する民法五三三条の規定の解釈適用を誤つた違法があるものといわなければならない。

(引用終わり)

しかし、ローでは、条件付判決が一般的に行われているということは、ほとんど教えていないと思う。
そのため、多くの受験生が、引換給付判決と誤解したのではないか。
この点につき、ヒアリング等で「受験生はこんなことも知らない」などと考査委員が指摘するかもしれない。
だが、それは教えないローや配慮無く出題する考査委員の側の責任である。

問題文のいう全部棄却との比較は、質的一部認容判決の可否との絡みで書けばよい。
全部棄却より条件付判決の方が原告の意思に合致するか。
全部棄却を想定した被告に不意打ちとならないか。
それぞれの場合の具体的処理を挙げて、比較していく。
最も問題になるのは、判決後弁済までの間に事情変更が生じた場合の争い方だろう。

設問5は、認知と相続債権者に対する遺贈または相続分の指定の対抗を問う問題である。
認知については、問題文だけを前提にすると、認めようがない。
そもそも、届出がないからである。
時間がない場合は、そのことを書いて、あっさり否定してもよいだろう。
ただ、おそらくはEが手元にある認知届を出したらどうなるのか。
それも訊いているのだと思う。
届出が成立要件か効力要件か(届出意思はどの時点で必要か)という点と絡めて書きたい。
成立要件とみれば受理されても無効、効力要件とみれば有効となるだろう。
ここで、若干気になるのは、成立要件と考えても、有効となる余地がないか。
判例は、代行者による届出時に本人が意思能力を欠いていても、特段の事情のない限り有効としている。
これと同様に考えられないかである。

最判昭54・3・30より引用、下線は筆者)

 民法七八一条一項所定の認知の届出にあたり、認知者が他人に認知届書の作成及び提出を委託した場合であつても、そのことの故に認知の有効な成立が妨げられるものではなく、また、血縁上の親子関係にある父が、子を認知する意思を有し、かつ、他人に対し認知の届出の委託をしていたときは、届出が受理された当時父が意識を失つていたとしても、その受理の前に翻意したなど特段の事情のない限り、右届出の受理により認知は有効に成立するものと解するのが相当である。

(引用終わり)

しかし、一時的に意思能力を欠く場合と、届出前に死亡した場合とは異なる。
届出前に死亡してしまった場合は、本人が届出したとはいえない以上、無理だろう。
判例も、婚姻届に関してであるが、届出前死亡の場合を区別している。

最判昭44・4・3より引用、下線は筆者)

 本件婚姻届がEの意思に基づいて作成され、同人がその作成当時婚姻意思を有していて、同人と上告人との間に事実上の夫婦共同生活関係が存続していたとすれば、その届書が当該係官に受理されるまでの間に同人が完全に昏睡状態に陥り、意識を失つたとしても、届書受理前に死亡した場合と異なり、届出書受理以前に翻意するなど婚姻の意思を失う特段の事情のないかぎり、右届書の受理によつて、本件婚姻は、有効に成立したものと解すべきである。もしこれに反する見解を採るときは、届書作成当時婚姻意思があり、何等この意思を失つたことがなく、事実上夫婦共同生活関係が存続しているのにもかゝわらず、その届書受理の瞬間に当り、たまたま一時的に意識不明に陥つたことがある以上、その後再び意識を回復した場合においてすらも、右届書の受理によつては婚姻は有効に成立しないものと解することとなり、きわめて不合理となるからである。

(引用終わり)

ひょっとして遺言認知にならないか、ということも思いついた人は多いだろう。
しかし、遺言の要式性から、無理と考えるべきである。
これは、わざわざ答案に書くかどうか、迷う。
ただ、本問は他にあまり書くことが無い。
一応、触れた方が良いような気がする。
日付(民法968条)を欠いている点を指摘して、否定すれば足りるだろう。

それから、遺言認知まで触れるのであれば、認知の訴えも触れた方がいいのか。
これも、現場では案外迷う。
ただ、これを書く場合、その後の処理も場合分けとなる。
時間と紙幅に余裕があれば、書いてもよいが、余裕が無ければ書かない方がよいだろう。

次に、Aの遺言が相続分の指定であるか、包括遺贈であるかを書く。
EをAの子とした場合には、相続人はCとEになるから相続分の指定。
EをAの子でないとした場合には、相続人はCのみになるから、Eへの包括遺贈。
そういうことになるだろう。

最後に、上記遺言の内容がHに対抗できるかを書く。
この点は、昨年度の旧司法試験民法第2問の小問1でほぼ同様のことが問われている。

(平成21年度旧司法試験論文式民法第2問)

 被相続人Aは,A名義の財産として,甲土地建物(時価9000万円),乙マンション(時価6000万円)及び銀行預金(3000万円)があり,負債として,Bから借り受けた3000万円の債務があった。
 Aが死亡し,Aの相続人は嫡出子であるC,D及びEだけであった。
 C,D及びEの間で遺産分割の協議をした結果,甲土地建物及びBに対する負債全部はCが,乙マンションはDが,銀行預金全部はEが,それぞれ相続するということになり,甲土地建物はC名義,乙マンションはD名義の各登記がされ,Eが預金全額の払戻しを受け,Bに遺産分割協議書の写しが郵送された。
 ところが,Cは,Bに対する債務のうち1000万円のみを返済し,相続した甲土地建物をFに売却した。
 この事案について,特別受益と寄与分はないものとして,以下の問いに答えよ。なお,各問いは,独立した問いである。

1.Bに対する債務に関するB,C,D及びE間の法律関係について論ぜよ。

2.乙マンションは,Aが,死亡する前にGに対して売却して代金も受領していたものの,登記はA名義のままになっていた。この場合,Dは,だれに対し,どのような請求をすることができるか。

この点については、最判平21・3・24がある。
この判例は、当サイト作成の司法試験平成21年最新判例ノート司法試験平成21年最新判例肢別問題集に収録している。

(最判平21・3・24より引用)

 遺言による相続債務についての相続分の指定は,相続債務の債権者(以下「相続債権者」という。)の関与なくされたものであるから,相続債権者に対してはその効力が及ばないものと解するのが相当であり,各相続人は,相続債権者から法定相続分に従った相続債務の履行を求められたときには,これに応じなければならず,指定相続分に応じて相続債務を承継したことを主張することはできないが,相続債権者の方から相続債務についての相続分の指定の効力を承認し,各相続人に対し,指定相続分に応じた相続債務の履行を請求することは妨げられないというべきである。

(引用終わり)

上記判例は、相続分の指定についてであるが、包括遺贈の場合も、同様に考えてよいだろう。

全体的にみて、本問は難易度が高かった。
そのため、全体の受験生の出来は、悪いはずである。
そういう場合、白紙同然でも、全科目平均点に近い点数になりやすい。
一方で、細かな点数差が、大きな点差となりやすい。
これは、採点格差調整(得点調整)の影響である(司法試験得点調整の検討31ページ参照)。
主観と客観の差が、大きくなりやすい問題といえる。
本問の再現答案を検討する場合には、その辺りも注意してみる必要がある。
大して内容に差が無い答案なのに、大きな点差が付いている。
そういう場合は、第2問のささいな印象点が大きな差になった可能性がある。
また、酷い内容なのに、それなりの点数が付いている。
どこの配点を取ったのだろうか、酷い答案でも、どこか評価された部分があったのだろうか。
それは、どこの配点も取っていない可能性がある。
すなわち、主に第2問の得点が調整によって引き上げられただけかもしれない。
そういった点を考慮して、分析していくとよい。

 

【参考答案】

第1.設問1

1(1) 事実@は、本件消費貸借契約に関し、AがCに何らかの権限を与えたことをうかがわせる事情である。従って、Fの両主張につき一定の関連性が認められる。よって、両主張にとって、間接事実として法律上の意義を有する。

(2) もっとも、事実@は、AがCに与えた権限の内実について、特に示唆するところがない。Cが交渉の経緯を理解しているとは、何を意味するか。既に交渉は終了し、正式な書類を整えるだけだという趣旨であれば、使者に過ぎないとみえる。他方、交渉全体を把握し、自らの判断で交渉を継続しうるという趣旨であれば、金額に限度のない代理権とみる余地もないではない。1500万円の限度で、詰めの交渉をするという趣旨であれば、1500万円を限度とする代理権ということにもなり得る。事実@のAの発言が上記のいずれの趣旨であるのか、不明である。
 従って、事実@は、単独ではFの両主張にとって積極にも消極にも作用しない。

2.他方、事実Aは、本件消費貸借契約に関するCの代理権の存否及びその内容を推認しうる事実ではない。従って、Fの両主張につき関連性を有しない。よって、両主張にとって法律上の意義を有しない。

3(1) なお、Fの後者の主張は、民法110条の表見代理の成立をいうものとして、正当の理由、すなわち、無過失の主張を含むと解する余地がある。仮にそう考えれば、事実@及びAは、無過失の評価に係る事実として法律上の意義を有する。

(2) もっとも、事実@におけるAの発言内容は、上記1(2)のとおり、Cの代理権の存否及びその内容を具体的に推知しうるものではない。従って、単独で無過失の評価を根拠付け得る事実とはいえない。
 他方、事実Aは、Fが一応確認の努力を払ったことを示す。しかし、結局確認は果たせなかった。従って、事実A単独ではもちろん、事実@と併せても、無過失を根拠付けるに足りない。かえって、FがCの代理権の範囲に疑いを持っていたことをも示唆する。従って、むしろ無過失の評価を障害する事実ともなり得る。

第2.設問2

1.小問(1)について

(1)ア.損害の内容

 不法行為における損害は、現実の損害をいう。この点、抵当権は、被担保債権の回収に役立つにとどまり、独立した資産としては認識されない。従って、抵当不動産の滅失によりその価額がそのまま抵当権者の現実の損害となるわけではない。
 もっとも、抵当権の消滅によって被担保債権に回収見込みのない部分が生じることがある。その場合、被担保債権の資産価値の下落が生じる。これは抵当権者(債権者)の現実の損害である。
 以上から、本問におけるFの損害の内容は、丙建物に係る抵当権が消滅したことによる被担保債権の資産価値下落分相当額である。

イ.損害の発生時

 損害が発生するのは、抵当権の消滅による被担保債権の資産価値下落が現実に生じた時である。これは、抵当権消滅時に限られない。他に存在する担保や、債務者の資力等が変動することにより、抵当権消滅後に被担保債権の資産価値下落が生じる場合があり得るからである。
 本問では、共同抵当目的不動産である甲土地及び乙土地の価額並びにAの資力等の詳細が不明である。従って、具体的な損害発生時を特定することはできない。

ウ.損害額の算定基準時

 一般に、損害の算定基準時は不法行為時とされる。これは主に物損を念頭に置き、不法行為当時の交換価値を基準とすることが論理的と考えられたためである。しかし、抵当権の消滅による損害は、上記アのとおり被担保債権の回収見込みとの関係で確定される。従って、できる限り直近の事実に基づいて算定することが望ましい。よって、抵当権消滅による損害の算定基準時は、損害賠償請求時、訴訟による場合は事実審の口頭弁論終結時と解すべきである。
 よって、本問における損害額の算定基準時は、Eに対する訴訟の事実審の口頭弁論終結時である。

エ.損害賠償請求権の行使可能時

 一般に、損害が発生すれば行使可能とされる。しかし、抵当権は弁済期到来後しか実行できない。従って、期待権侵害(民法128条)の損害賠償請求と同様に解すべきである。よって、抵当権消滅による損害賠償請求権を行使できるのは、損害が発生し、かつ被担保債権の弁済期が到来した時である。
 本問では、被担保債権の弁済期のうち最初のものが平成20年3月15日である。Fの提訴時がそれ以前であることもあり得る。もっとも、Aは期限の利益を喪失(民法137条2号)しないか。確かに、丙建物を取り壊したのはEであり、AとEに直接の通謀があったとする事実はない。しかし、Aは、抵当権設定登記未了を奇貨としてEに贈与した。このこと自体、担保を滅失等させる行為である。従って、AがEに乙土地及び丙建物を贈与した平成19年7月27日に、Aは期限の利益を喪失した。
 よって、Fは、上記イの損害発生後、直ちに損害賠償請求権を行使できる。

(2) この点、以下の反論が想定される。

ア.共同抵当の一部の抵当目的物が滅失しても、他の共同抵当の実行により被担保債権が回収できれば債権者は完全な満足を得る。すなわち、現実の損害が生じるのは、他の共同抵当の実行をしても被担保債権が回収できなかった場合に限られる。
 従って、損害の内容は、他の共同抵当の実行によっても回収できなかった被担保債権の残額のうち、滅失した抵当権により回収が見込まれた金額である。

イ.他の共同抵当の全てにつき実行がなければ、上記アの損害が生じるか否か及びその具体的金額はわからない。そうすると、損害発生時及び損害額算定基準時は、残存する全ての共同抵当が実行された時である。そして、損害が発生しなければ損害賠償請求権を行使できないから、行使可能時も同様である。

ウ.本問では、いまだ甲土地及び乙土地の抵当権が実行されていないから、Fには損害が発生していない。

(3) しかし、損害発生の現実性は、一般の取引通念を基礎に判断すべきである。金銭債権の回収不能のおそれについては、回収不能が現実化する以前の段階において、一般に認識され、債権の資産価値に反映される以上、担保滅失により債権の資産価値が現に下落したときに、現実の損害が生じていないということはできない。上記反論は失当である。

2.小問(2)について

(1) 反論の趣旨は、FはEに丙建物に係る抵当権を対抗できないから、不法行為の要件である違法性ないし権利侵害性を欠いている、というにある。

(2) 確かに、抵当権の設定も民法177条の「物権の得喪及び変更」である以上、登記がなければ第三者に対抗できない。

ア.もっとも、形式的に譲渡人と譲受人の法人格が別個であっても、実質的に同一視できる場合には、譲受人は当事者であって同条の第三者には当たらない。

イ.また、同条の趣旨は正当な権利者間の利害調整にあるから、同条の第三者は、登記の欠缺を主張するにつき正当な利益を有する者に限られる。

ウ.そこで、@Eは実質的にAと同一視できる、AEは登記の欠缺を主張する正当な利益を有しないと主張して、Eの第三者性を否定する再反論が考えられる。

(3) 再反論@について

 Eは、Aの現在の妻であるDの子である。もっとも、親族関係にあるというだけで、第三者でないとはいえない。適正な対価の有無、譲渡の意図及び動機、目的物の管理及び利用の態様等を考慮して、譲受人に独立の利益がないと認めるに足りる特別の事情のあることを要する。
 本問では、Eは贈与を受けており、金銭的対価を支払っていない。しかし、AがEに贈与をするに当たり、Cとの従前及び今後の人間関係に対する謝礼並びにEの独立起業の支援の趣旨であることを述べている(事実11)。現に、Eは、Cと相談やアドバイスをし合う仲であり、独立起業を決意してAらとの同居をやめてGと同居を始めている(事実10)。上記は、贈与の理由として不合理ではない。また、Eは目的物である乙土地上に自分の住居を建築するつもりであった(事実13)。すなわち、目的物の管理及び利用の態様は、贈与によってEの利益のために変更されている。
 以上から、譲受人であるEに独立の利益がないと認めるに足りる特別の事情があるとはいえない。
 よって、AとEを同一視することによってEの第三者性を否定することはできない。

(4) 再反論Aについて

 Eは、AF間の借入れ及び抵当権設定登記未了に関する事情を十分認識した上で、贈与の申出を受けている(事実12及び13)。
 しかし、登記の先後で優劣を決する制度を前提とする(不動産登記法4条1項)以上、単なる悪意のみで正当な利益を欠くとはいえない。明文上登記欠缺を主張できない者(同法5条)に類する信義に反する事由ある場合に限り、背信的悪意者として正当な利益を欠くといえる。
 本問では、登記未了の原因は添付書面の不備であった(事実7)。Eが登記を妨げたわけではない。また、EはAF間の金銭借入れ及び抵当権設定に直接関与していない。加えて、Eは、丙建物を取り壊して自分の住居を建築するという抵当権に優先する第三取得者であれば当然なしうる行為を目的としていた(事実13)。すなわち、Eには、Fを未登記による劣後の不利益以上に害する意図又はFに優先する利益以上の不当な利益をFに要求する意図は認められない。以上からすれば、Eは背信的悪意者に当たらない。

(5) よって、再反論はいずれも理由がない。本問の反論は正当である。

第3.設問3

1.まず、第2訴訟の被告は誰か。当事者は、提訴時から客観的かつ明確に定まる必要がある。従って、訴状の記載を合理的に解釈して決すべきである。
 本問において、Fは訴状に「被告E」と記載している。よって、被告はEである。

2(1) 当事者でないGがした訴訟行為の効力がEに及ぶためには、GがEから訴訟代理権を付与されていることを要する。

(2) Eは、Gに第2訴訟の追行を「任せる」と述べた(事実17)。これは訴訟代理権付与の趣旨と解することができる。しかし、Gは弁護士でない。従って、訴訟代理人となることができない(民訴法54条1項本文、弁護士代理の原則)。EがGに訴訟代理権を付与しても無効である。

(3) よって、Gがした訴訟行為は必要な授権を欠いている。

3 (1) 一般に、必要な授権を欠いた訴訟行為は無効であるが、本人の追認により遡って有効となる(民訴法34条2項)。
 本問で、仮にEがGのした訴訟行為を追認しうるとすれば、Eは自らGに訴訟を任せた以上、信義則上追認拒絶は許されないとして、結局Gがした訴訟行為の効力はEに及ぶと解する余地がある。

(2) しかし、弁護士代理の原則は、依頼者の保護という私益的側面だけでなく、訴訟の適正確保という公益的側面をもその趣旨に含む。当事者の意思によっても非弁護士を訴訟代理人に選任できないのは、そのためである。事前の選任が許されない以上、事後の追認も許されないと解すべきである。
 従って、非弁護士による訴訟行為は、民訴法34条2項の規定にかかわらず、追認できない。

(3) よって、本問でEによる追認の余地はないから、第2訴訟においてGがした訴訟行為の効力は、Eに及ばない。

第4.設問4

1.小問(1)について

(1)ア.法律構成@を採る場合においても、平成20年3月15日に500万円を弁済したとの主張(以下単に「弁済の主張」という。)は、第1訴訟の判決主文に包含されない事項についての主張である。すなわち、弁済の主張は、それ自体第1訴訟の既判力と抵触するものではない。
 しかし、仮に弁済の主張が認められたとしても、それによって元本債務が1000万円に減少したという主張は許されない。なぜなら、平成20年4月11日時点で元本債務が1500万円であったという既判力と抵触するからである。すなわち、法律構成@を前提とする弁済の主張の趣旨は、弁済前には2000万円存在した元本債務が、平成20年3月15日の弁済によって1500万円となり、その結果、同年4月11日時点で1500万円の元本債務が存在するに至ったというに過ぎない。そのような主張の肯否は、第3訴訟における結論に影響しないから、主張自体失当なものとして排斥される。
 また、確定判決の既判力は、後記(2)イ(イ)のような錯誤無効の主張によって覆滅されない(民訴法338条1項各号参照)。
 以上のとおり、既判力の発生が認められた場合に弁済の主張を排斥しうることが明確であることが、法律構成@の長所である。

イ.他方、法律構成@によれば、Aの側に以下のような主張を許すおそれのある点が短所である。
 元本返還債務全体が審判対象であるならば、判決も元本返還債務全体についてされなければならない。しかし、第1訴訟の確定判決は、元本返還債務のうち1500万円を越える部分の不存在のみを判断して全部認容判決としている。これは1500万円の存否に係る部分についての裁判の脱漏である。従って、いまだ上記部分は確定しておらずJ地裁に係属している(民訴法258条1項)。
 よって、1500万円の存在については、既判力は生じていない。Aは、第1訴訟における上記部分につき弁論再開のため新期日を申し立てた上で、認容の範囲の限定につき撤回をした上で弁済の主張をなし、元本債務の残額は1000万円であるとの追加判決を求めることができる。

(2)ア.これに対し、法律構成Aでは、実際の審判対象が1500万円を超える部分となるから、法律構成@のような裁判の脱漏の問題は生じない。
 また、法律構成Aによれば、第1回口頭弁論期日における訴状の陳述は、請求の放棄の意思表示とみなすことができる。上記陳述があったことは、口頭弁論調書に記載されるから、請求の放棄の効力が生じる(民訴法266条1項、160条1項、267条。なお、同規則67条1項1号参照。)。このように、1500万円の存在に係る部分につき請求の放棄の成立が明確である点が、法律構成Aの長所である。

イ.他方、以下のとおり、請求の放棄によって弁済の主張を実際に排斥しうるか不明確である点が、法律構成Aの短所である。

(ア) 確定判決の既判力における基準時(民訴法253条1項4号、民執法35条2項参照)とは異なり、請求の放棄における基準時は明らかでない。
 この点、請求の放棄につき民訴法267条は、「調書に記載したときは」と規定し、「調書に記載した時に」とはしていない。従って、同条は調書の記載を効力要件とする趣旨に過ぎず、文言上基準時を一義的に規定したものではない。もっとも、請求の放棄は調書の記載を効力要件とする裁判所に対する意思表示である。かかる意思表示は、それをなす時点における法律関係を基礎とする。そうすると、法律構成Aを前提とすれば、訴状の陳述及び調書記載がされた期日に効力が発生し、基準時も当該期日と解するのが自然である。
 上記理解からは、本問において、請求の放棄の既判力は、平成19年7月27日時点の法律関係を確定することになる。しかし、そのように解すると、平成19年7月27日時点では、元本返還債務が1500万円であったが、平成20年3月15日に500万円の弁済がされ、その結果、平成20年4月11日には1500万円を超えない額である1000万円が残額として存在したとの主張は、請求の放棄の既判力にも、第1訴訟の確定判決の既判力にも抵触しないことになる。すなわち、第3訴訟において弁済の主張を排斥できない。
 上記結論を避けるためには、請求放棄の既判力の基準時が平成20年3月15日以降であるとの主張を行う必要があるが、これが裁判所に採用されうるか不明である。

(イ) 一般に、請求の放棄は原告の意思を基礎としており、裁判所の関与が希薄であることから、その効力としてそもそも既判力は含まないとか、既判力が生じても原告に錯誤無効(民法95条本文)の主張が許されると解されている(民執法35条1項後段参照)。
 そうすると、本問において、Aは、そもそも第1訴訟における請求の放棄に既判力は生じていないとか、平成20年3月15日の弁済が第1訴訟において意味のある事実だと思わなかったから、弁済の主張が排斥されるとすれば錯誤があるとして、請求の放棄の無効を主張する可能性がある。これが裁判所に認められた場合、第3訴訟における弁済の主張を排斥することができない。

2.小問(2)について

(1) 裁判所は、当事者の申立事項に包含されない事項につき判決をすることができない(民訴法246条)。第3訴訟における原告Aの申立事項には、本問の条件付判決の内容が包含されるだろうか。
 仮に、本問の条件付判決がAの申立事項に含まれないとすれば、被担保債権に残額がある以上、抵当権の不可分性(民法372条、296条)から、Aの訴えは全部棄却されることになる。その場合、Aは残額弁済後、再度訴えを提起して抹消登記手続を求めなければならない。また、被担保債権の残額に争いが生じた場合も、同様に別訴の提起を要することとなる。
 他方、本問の条件付判決の場合には、Aは残額弁済後、これを証明して執行文の付与を受け、抹消登記を実現することができる(民執法174条1項、27条1項)。また、条件部分は訴訟物に対する判断に準じ、不服があれば上訴の利益を認めうると解されるから、残額につき争いあるときは、上記判決に対して上訴することができる。ただ、上記判決確定後に被担保債権の残額につき免除、時効消滅等の事由が生じた場合には、新たな訴えが必要となる。しかし、これは全部棄却の場合も同様である。
 以上のように全部棄却の場合と比較すると、本問の条件付判決の方がより原告Aにとって望ましい。従って、第3訴訟の訴えの申立事項に本問の条件付判決の内容が含まれると解される。

(2) もっとも、被告の手続保障も考慮しなければならない。判決事項が申立事項に包含される場合であっても、被告にとって不意打ちとなるときは、裁判所は被告に対し釈明等の措置を採る義務を負い、これを怠れば審理不尽となる。
 本問で、全部棄却判決の場合には残額が確定されないのに対し、本問の条件付判決によれば残額が事実上確定される。そのため、被告Fが残額の確定につき無関心な訴訟追行をしていたとすれば、Fにとって不意打ちとなる。その場合、裁判所はFに残額の主張立証を促す等の措置を採るべきである。しかし、AF間においては第1訴訟から被担保債権額が争われており、第3訴訟でも残額は主要な争点となっている(事実20)。そうである以上、Fにおいて残額の確定に無関心であったとはいえない。従って、本問の条件付判決によってFに不意打ちとなるとはいえない。
 以上から、裁判所はFに対し釈明等の措置を採る必要はない。

(3) よって、裁判所は、本問の条件付判決をすることができる。

第5.設問5

1.Hの請求は、C及びEの相続を前提とする。そこで、EはAの相続人であるか、すなわち、相続開始時にAの子であるかを検討する。

(1) AがDと婚姻したのは平成6年2月であるところ、Eが出生したのは昭和60年2月6日である(事実1)から、嫡出推定(民法(以下条数のみ示す。)772条)が及ぶ余地はない。

(2) 従って、EがAの子となるためには認知を要する。

ア.届出による認知(781条1項)の成立要件は認知意思の確定的表示で足り、届出は効力要件に過ぎないと解すれば、Aの認知届作成時に認知は成立するから、その後Aが死亡したとしても、Eが上記認知届を提出すればその効力を認めうる。しかし、認知は法律上の親子関係を確定する行為である。事実上ないし社会生活上の親子関係を定めるものではない。そうである以上、届出が成立要件である。そうすると、届出時に既に父が死亡していた場合、父による届出は観念しえないから、代行者が届出を行っても認知は成立しない。
 よって、本問でAの死亡後にEが認知届を提出しても、届出による認知は成立しない。

イ.Aが生前作成した認知届は、一種の遺言と思えなくはない。しかし、遺言には、一定の要式が要求される(960条)。本問の認知届はAの生前に提出するためEに交付され、他方、Aの遺言の入った封書は全く別に管理されていたから、一体とみる余地はないし、日付の記載を欠くから、独立の自筆証書遺言(968条)とみることもできない。
 よって、Aが生前作成した認知届を遺言認知(781条2項)とみる余地はない。

ウ.もっとも、Eは、Aの死後3年以内に認知の訴え(787条)をして勝訴すれば、出生の時から子の身分を、ADの婚姻の時から嫡出子の身分を、それぞれ遡って取得できる(784条、789条2項(「認知の時」は「婚姻の時」と読み替えるべきである。))。

(3) 以上から、Eは認知の訴えにより、相続開始時において法律上Aの子(嫡出子)となる場合がある。

2.EがAの子となる場合、相続人はC及びEである。この場合、Aの遺言は、相続分の指定の趣旨となる。
 可分債務が相続される場合、分割帰属の原則(427条)に従い、相続分に応じて分割される。もっとも、法定相続分と異なる帰属は免責的債務引受となるから、当該部分につき相続人は相続債権者に対抗できない。
 よって、AのHに対する貸金債務に関し、Cは400万円、Eは200万円につき支払義務を負う。ただし、法定相続分はC及びEで1:1である(900条4号本文)から、HがEに300万円の支払いを請求した場合、Eはこれを拒むことができない。

3.EがAの子とならない場合には、相続人はCのみである。従って、Aの遺言は、3分の1の遺産をEに包括遺贈する趣旨となる。
 包括受遺者は相続人と同一の権利義務を有する(990条)。よって、上記2と同様、AのHに対する貸金債務に関し、Cが400万円、Eが200万円につき支払義務を負うが、HがCに単独相続人として600万円の支払いを請求した場合、Cはこれを拒むことができない。

以上

戻る