平成22年度新司法試験の結果について(2)

「修了生7割」との関係

今年度は、5回目の新司法試験だった。
これは、一つの節目である。
新司法試験は、5年間に3回しか受験できない。
すなわち、ロー1期生は、どんなに受け控えても今年度がラストチャンスだった。

ここで重要なことは、「修了生7〜8割」との関係である。
これが、単年度の合格率を意味しないことは、当サイトで何度も述べてきた(以前の記事参照)。
7割を達成したかどうかは、5年経って初めてわかる。
そして、ロー1期生については、これが今年度に判明した。

ロー1期生は、2176名。
平成20年度の段階で、既にそのうちの1504名、実に69.3%が合格していた。
平成18年度の第1回試験で48.2%も受かっているから、当然ともいえた。
この調子なら7割は当然クリア、うまくすると8割までいくのではないか。
そう思われた。

平成20年9月16日規制改革会議法務・資格TFより引用、下線は筆者)

○佐々木参事官 大まかな数値で御報告させていただきますと、平成17年度の修了者全体が既修だけなんですけれども、2,176であります。そのうちの18年の司法試験に合格したものが1,009名。19年に396名、20年に99名、合わせて1,504名合格してございます。そうすると、修了した人が全員司法試験を目指しているわけではないんですが、2,176名のうち1,504名までもう累積ではいっているということです。この累積具合、何人修了したかはわからないんですが、その受験者を基礎にしたものは今年からは法務省で発表させていただいております。

○阿部専門委員 でもバッター三振、アウトになった人数はわかるのでしょう。

○山口課付 その人数は、人によっては旧試験もカウントされますので、つまり初年度である18年度から既に3回のカウントとなり、受験資格を失う人というのは出てきているわけですけれども、今年受験資格を失ったという人は241名。今の241の内数になりますけれども、新試験だけを3回受けて受験資格を使い切ったという人は172名おります

○阿部専門委員 それでは、残りの多分二百何名かがまだ受け控えしてもう一回ぐらい権利が残っているという人はどれぐらいですか。

○山口課付 18年、19年にも受験資格を失っている人がいますので、実際にどのぐらいあと受験有資格者がいて、かつその人たちが受ける意思がまだあるのかどうかということはなかなかわからないところがあります。

○阿部専門委員 受ける意思はともかくとして、バッター三振、アウトにならないでまだ権利が残っている人はどのぐらいいるのか。とにかく合格率はどのぐらいかで、最初だと既修者は2,000人ぐらい、1,500人は受かって、二百何人が失権して、もう少し受け控えがいると言ったら、8割ぐらい合格といったらめちゃくちゃやさしくなったという気が私個人の感想ではするけれども、そういう統計がちゃんと欲しいということ。

○佐々木参事官 7〜8割というところは、18年度修了者についてはほぼその域に達していることになります。

(引用終わり)

※ 最後の佐々木参事官発言における「18年度」は、文脈上「17年度」の言い間違えか誤植と思われる。

しかし、実際はそうならなかったようである。

asahi.com2010年9月9日20時24分配信記事より引用、下線は筆者)

新司法試験合格率25.4%、過去最低 合格2074人

 法務省は9日、法科大学院の修了者を対象とした新司法試験の2010年の合格者を発表した。8163人の受験者数に対し、合格したのは2074人で、合格率は25.4%。前年の27.6%を下回り、新司法試験が始まった06年から4年連続で下降し、過去最低となった。

 (中略)

 新司法試験は「5年間で3回まで」の受験制限がある。06年3月に法科大学院を修了した1期生2176人を追跡調査したところ、5年目となる今年までに合格した人は1518人で、累計の合格率は69.8%だった

(引用終わり)

結局、1518人、69.8%しか合格できなかった。
平成21年度、平成22年度の2回で、14人しか合格できなかった。
非常に惜しいとはいえるが、修了生7割は、達成できなかった。

1期生は、初年度に48%も受かっていた。
にもかかわらず、7割を達成できなかった。
これでは、2期生以降は絶望的である。

なお、上記の情報は、法務省HPでは確認できない。
朝日の独自取材だと思われる。
しかし、大事な「修了生7割」との関係に全く言及していない。
これは、朝日を含むマスコミが、当初から7割を各年度の合格率として報道していたことによる。
朝日は、当時名指しで誤りを指摘されながら、現在も誤報を続けている。

司法試験委員会会議(第12回)(平成16年11月9日)議事要旨より引用、下線は筆者)

 前回の委員会の審議が終わった直後に,朝日新聞に合格者数に関する記事が出て,それを切っ掛けにして,こういう新聞記事とか,記事を基にした意見が出ている。
 この朝日新聞の記事には事実と異なる記述がある。 (中略) もう一つは,新司法試験は3回受験することができるので,その間にどの程度合格するかということで考えなければいけないにもかかわらず,1回だけの受験で20パーセント台や30何パーセントといった数字が出ているとして,いかにもそれで司法試験の全体の合格率がそれと同じ数字になってしまっているというような議論をしている点。この点はちょっと確率の計算をすればすぐ分かる誤解だが,3回受験することができるわけだから,例えば1回の試験で仮に4割くらいの合格率になるとすると,3回受ければ80何パーセントが合格するという数になると思う。

(引用終わり)

 

asahi.com2010年9月10日配信記事より引用、下線は筆者)

学生「不安でいっぱい」 新司法試験、合格率最低に

 合格率が過去最低となった今年の新司法試験の合格発表があった9日、関西各地の法科大学院や法科大学院の学生らにも波紋が広がった。

 (中略)

 西地方の法科大学院に通う弁護士志望の女性(26)は「構想段階で7割程度と言われた合格率が現実は2割強。国にだまされたという感じが強い。新司法試験の可能性を信じ、一念発起して法科大学院に入ったのに今は不安でいっぱい」と話す。

(引用終わり)

朝日の記事では、「国にだまされた」とある。
しかし、「マスコミの誤報にだまされた」の方が正しいだろう。

今さら、実は合格率ではなくて、修了生の7割の意味だった。
そのようなことを書くわけにはいかない。
そのため、重要な1期生の合格割合が、単なる事実の羅列として記事になっている。

足切りの状況

以下は、年度別足切り対象者数等の推移である。
足切り率とは、論文採点対象者に占める足切り対象者の割合である。
論文平均点のかっこ書は、足切り対象者の点数を含む数字である。

年度

足切り対象者数

論文採点対象者数

足切り率

論文平均点

18

12

1684

0.71%

404.06

19

71

3479

2.04%

393.91

20

238

4654

5.11%

378.21
(372.18)

21

237

5055

4.68%

367.10
(361.85)

22

374

5773

6.47%

353.80
(346.10)

昨年度は、論文平均点の下落にかかわらず、足切り率は減少していた。
しかし今年度は、一転して過去最悪の足切り率となっている。

そこで、その内訳をみてみる。
以下は、科目別の受験者数に占める足切り者の割合の推移である。
平成18年度については、足切り対象者が少ないため、省略した。
なお、選択科目については、当該科目選択者に占める割合を示している。

  19年度 20年度 21年度 22年度
公法 0.82% 2.66% 2.35% 2.25%
民事 0.13% 0.19% 0.08% 1.00%
刑事 0.10% 0.33% 0.77% 2.77%
倒産 1.62% 1.83% 0.21% 2.12%
租税 0.00% 0.32% 0.00% 0.61%
経済 0.23% 0.84% 1.16% 0.37%
知財 0.26% 1.05% 1.15% 1.76%
労働 0.06% 0.50% 0.12% 1.43%
環境 0.79% 0.58% 0.24% 0.80%
国際公法 0.00% 0.92% 0.00% 0.00%
国際私法 0.93% 0.94% 0.40% 0.00%

科目別の足切りには、一貫した傾向があった。
公法系の割合が高く、民事系は低い、ということである。
その傾向は、今年度も変化はない。

今年度特有の傾向として、刑事系の足切りの増加がある。
これまで、1%を越えることはなかった。
それが、今年度は公法系より多い数字になっている。
実数にすると、公法系が130人に対し、刑事系は160人である。
考えられるのは、例年より難問だったのではないか、ということだ。
しかし、筆者がみるかぎり、昨年度より極端に難しい、ということはない。
今年度が簡単だったとはいえないが、昨年度もなかなかの難問だった。
むしろ、昨年度より明らかに難しくなったのは、民事系の方である。
確かに、民事系も、足切りは増えている。
しかし、それほど劇的に増加していない。
そうすると、問題の難易度だけで、これほどの差が付いたということは難しい。
ひょっとすると、刑事系の採点方法に、何か変化があったのかもしれない。
出題趣旨やヒアリング等をみる際に、ここは注目したい。

選択科目については、大きな変化はない。
倒産、知財、労働がやや高めである。
倒産法は、例年高かったが、昨年度は低かった。
今年度は、また高めの数字に戻っている。
知財は、例年少しずつ高くなってきている。
労働法が高いという点は、やや今年度特有といえる部分である。
租税、環境、国際公法、国際私法あたりは、毎年のように低い。

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