平成22年度新司法試験の結果について(4)

前回記事の補足

前回の記事では、論文は運の要素が強い。
他方で、既修未修・修了年度別をみると、実力差がはっきり出ている。
そう書いた。
このことは、主として短答で実力差が現れていることを示唆する。
これを確かめるには、短答合格率と、短答合格者の論文合格率を比較する必要がある。
しかし、今年度については、未修既修別のそのような数字は公表されていない。
そこで、法務省作成の「新司法試験短答・論文・総合成績(平成18年〜21年)」から、過去の数字を算出した。
結果は、以下のとおりである(18年度は既修だけなので省いている)。

短答受験者合格率

年度

未修受験者
短答合格率

既修受験者
短答合格率

短答合格率
既修未修差

19

63.0%

84.8%

21.8%

20

61.8%

87.9%

26.1%

21

53.9%

87.9%

34.0%

 

短答合格者の論文合格率

年度

未修短答合格者
論文合格率

既修短答合格者
論文合格率

論文合格率
既修未修差

19

51.3%

54.2%

2.9%

20

36.4%

50.4%

14.0%

21

41.1%

55.4%

14.3%

短答は既修未修差が大きいが、論文では縮まっている。
やはり、論文は実力が反映されにくい。
一方、短答は実力がダイレクトに合否に影響する。
もちろん、短答をクリアした未修は、並の未修ではない。
その意味で、差が縮まるのは当然という見方もできる。
とはいえ、未修が短答をクリアできないこと。
これが、未修と既修の最終合格率の差の、主たる要因といえる。

従って、学習の優先順位としては、まず短答。
論文は、短答の成績が上位で安定してからで構わない。
このことは、上記のような数字の面からのみいえることではない。
学習効率の面でも、望ましいやり方である。
短答を勉強すると、条文・判例の知識が身に付いてくる。
そうすると、論文は、それをあてはめるだけで、そこそこの答案になる。
大きく外れた答案を書く危険度が、下がる。

何から手を付けていいかわからない人は、とにかく肢別本 を潰すのがよい。
解答がなぜそうなるのか。
納得できない部分について、基本書に戻って確認する。
基本書に書いていない場合は、自分なりに納得できる理由を考えてみる。
その繰り返しの作業を、時間の許す限り続ける。
最初は苦痛でしかないが、あるとき自分の力がかなり付いていることに気付く。
そして、リズムよく解答できるようになってくる。
納得できなくて調べる部分が減ると、解答速度がどんどん速くなっていく。
そうなると、少しは楽しくなってくるはずである。
そのくらいになってから、次に論文答練や問題集を解いていく。
そういう手順で、よいのだろうと思う。

選択科目別合格率

以下は、選択科目別の受験者合格率である。

 

受験者数

合格者数

合格率

倒産

1976

570

28.8%

租税

489

111

22.6%

経済

796

196

24.6%

知財

1132

290

25.6%

労働

2511

657

26.1%

環境

495

107

21.6%

国公

103

21

20.3%

国私

588

122

20.7%

倒産法が高く、国際公法、国際私法は低い。
この傾向は、一貫して続いている。

得点調整があるから、これは問題の難易度の差を意味しない。
実力者は倒産法を選択し、国際公法、国際私法はその逆であることを意味している。

今年度合格率の高かった倒産、知財、労働。
この三科目は、足切り率が突出して高かった。
いずれも、5%を超えていた科目である。
特に、例年合格率の高い倒産法は、例年足切りが多い傾向にある。
この、合格率と足切り率との対応には、何か理由があるのかもしれない。
今のところ、それはよくわからない。
ただ、少なくとも倒産法は、例年合格率が高いが、足切り率も高い傾向で一貫している。
合格率だけを見て選択するのは、危険ともいえる。
選択する際には、注意したい。

国際公法の出題範囲について

平成22年7月14日に、以下のような司法試験委員会決定がされた。

(「新司法試験における国際関係法(公法系)について」より引用、下線は筆者)

 新司法試験における国際関係法(公法系)については,「平成18年から実施される司法試験における論文式による筆記試験の科目(専門的な法律の分野に関する科目)の選定について(答申)」(平成16年8月2日司法試験委員会)において,「なお,ここでいう国際関係法(公法系)は,国際法(国際公法),国際人権法及び国際経済法を(中略)対象とするものである。」とされていたところであるが,平成23年新司法試験からは,国際法(国際公法)を対象とするものとする。

(引用終わり)

これを見る限り、出題範囲が狭くなった。
そう思うのが普通である。
しかし、そのような趣旨ではないようである。

選択科目の出題範囲は、複数の資料を照らし合わせなければよくわからないことが多い。
国際公法も、その例外ではない。

(平成16年8月2日「平成18年から実施される司法試験における論文式による筆記試験の科目(専門的な法律の分野に関する科目)の選定について(答申)」より引用、下線は筆者)

 ここでいう国際関係法(公法系)は,国際法(国際公法),国際人権法及び国際経済法を,国際関係法(私法系)は,国際私法,国際取引法及び国際民事手続法を対象とするものである。

(引用終わり)

 

新司法試験サンプル問題(国際関係法〔公法系〕)「科目全般について」より引用、下線は筆者)

 国際関係法(公法系)は,国際法,国際人権法及び国際経済法を対象とするものとされている(平成16年8月2日付け司法試験委員会による「平成18年から実施される司法試験における論文式による筆記試験の科目(専門的な法律の分野に関する科目)の選定について(答申)」)。その出題は,国際法を中心とし,国際法の体系に含まれる範囲で国際人権法及び国際経済法を対象とする

(引用終わり)

 

(「新司法試験論文式試験における国際関係法(公法系)の出題のイメージ及び出題の方針について」より引用、下線は筆者)

 国際関係法(公法系)は,国際法,国際人権法及び国際経済法を対象とするものとされ,その具体的な出題のイメージ及び出題の方針については,「新司法試験問題検討会(選択科目)の前期検討事項の検討結果について」(平成16年12月10日付けで司法試験委員会に報告)において他の科目とともに示したところであるが(注),本試験の出題に当たっては,この記載を踏まえた上,国際法を中心とし,国際人権法及び国際経済法について問う場合にも国際法の理解を問う問題に限ることとする。

(引用終わり)

当初は、国際法だけでなく国際人権法・国際経済法も含むのだ。
そういうニュアンスだった。
それが、次第に国際人権法や国際経済法を正面から問うことはしない。
あくまで、国際法の理解を問う素材として使うだけだ。
そういうニュアンスへと変わっていった。
今回、出題範囲が国際法(国際公法)に限定されたのは、上記を確認する趣旨に過ぎないようだ。

司法試験委員会会議第66回(平成22年6月2日)新司法試験考査委員(国際関係法(公法系))に対するヒアリングより引用、下線は筆者)

考査委員 まず,国際関係法(公法系)の科目の範囲が従来どのようなものであり,それについて考査委員及び司法試験委員会がどのような対応をしてきたかということについて申し上げ,その後にこれまでの出題と今後の方向性について,私見を述べたい。
 まず,科目の範囲について述べる。国際関係法(公法系)の現在の範囲は,平成16年8月2日付けの司法試験委員会による「平成18年から実施される司法試験における論文式による筆記試験の科目(専門的な法律分野に関する科目)の選定について(答申)」における「国際関係法(公法系)は,国際法(国際公法),国際人権法及び国際経済法を(略)対象とするものである。」との表記に基づいている。しかしながら,これでは非常に出題範囲が広いことから,平成16年に新司法試験問題検討会で検討し,その報告書において,「その出題は,国際法を中心とし,国際法の体系に含まれる範囲で国際人権法及び国際経済法を対象とする。」という形で出題範囲を画した。これは,先ほどの司法試験委員会の答申における科目の範囲を前提としつつ,国際人権法及び国際経済法について限定した形となっているが,国際法の体系に含まれる範囲内,すなわち国際法(国際公法)の範囲のみが出題の対象となることが読み取れる内容である。この報告書について司法試験委員会の御了承を頂き,そして,平成18年,つまり第1回の新司法試験の実施の際から,「新司法試験論文式試験における国際関係法(公法系)の出題のイメージ及び出題の方針について」との文書を公表している。この文書は,新司法試験問題検討会の報告書の記載を敷衍した形で,「国際法を中心とし,国際人権法及び国際経済法について問う場合にも国際法の理解を問う問題に限ることとする。」と記載しており,毎年,これに沿って出題を行っている。科目の範囲をこのように限定した理由は,平成16年8月2日付けの司法試験委員会の答申において,選択科目の選定に当たって考慮する要素として,「実務的な重要性や社会におけるニーズの高さ,法科大学院におけるカリキュラム・教育内容や科目開設状況,科目としての範囲の明確性や体系化・標準化の状況,意見募集の結果」等が挙げられているところ,その中の科目としての範囲の明確性や体系化・標準化の状況を特に重視し,かつ,他の選択科目との比較において受験者の負担を均等にするということを考慮した。
 しかしながら,実質的には以上のとおり出題範囲に限定を加えたものの,引き続き,答申に科目の範囲として記載された「国際法(国際公法),国際人権法及び国際経済法」という記述が非常に大きな影響を持ち,法科大学院生のみならず,法科大学院に関係する教員,特に国際関係法(公法系)を教授している教員の中でも,国際関係法の出題範囲について明確なイメージを持てないという議論が多かったところである。また,答申にこのような形で科目の範囲が記載されている結果,法科大学院の講座で言えば,国際法(国際公法),国際人権法及び国際経済法で,多いところで8単位分,少ないところでも6単位分の授業を履修しなければ,新司法試験を受験できないというイメージが持たれており,これが国際関係法(公法系)の受験者数が低迷している理由の一つになっていると思われる。
 そこで,私としては,司法試験委員会において,「国際関係法(公法系)は,国際法(国際公法)を対象とするものである。」という形で,科目の範囲を限定していただくのが適当であると考える。このように科目の範囲を限定することと従来の出題範囲との関係について申し上げると,従来は,司法試験委員会の答申,新司法試験問題検討会の報告書及び出題イメージの3つの文書によって,国際関係法(公法系)の出題範囲を国際法(国際公法)に限定していたのに対し,司法試験委員会においてこれと同じ範囲に科目の範囲を限定するということであって,従来の出題範囲を実質的に縮小するものではない。そして,この範囲の合理性であるが,科目としての範囲の明確性や体系化・標準化の状況や他の選択科目との均衡を踏まえ,従来,実質的にこの範囲に出題を限定していたのであり,科目の範囲として広すぎることはあっても,狭すぎることはないと考えている。科目の範囲を限定した場合,国際人権法と国際経済法については,表記からは省かれるが,実質的には,現在と同様,国際法の体系に含まれる範囲内では出題対象となる。つまり,国際人権法及び国際経済法に含まれる事項のうち,科目の範囲を限定することによって除外されるものは,現在でも実質上出題範囲から除外されているものと同じである。これらは,専門性の観点からは,国際人権法については憲法の体系に位置付けられる部分,国際経済法については経済法の体系に位置付けられる部分であったり,あるいは,現時点においては体系化・標準化について未熟な部分であったりすると,私自身は理解している。
 これまでの出題と今後の方向性について申し上げる。従来,「国際法を中心とし,国際法の体系に含まれる範囲で国際人権法及び国際経済法を対象とする。」「国際法を中心とし,国際人権法及び国際経済法について問う場合にも国際法の理解を問う問題に限ることとする。」との方針に従って,問題を出題してきており,その結果,国際人権法や国際経済法に関係する問題も出題されている。国際人権法に関係する問題は平成19年,国際経済法に関係する問題は平成18年及び平成21年に出題しているが,これらは,国際法において重要な,国際法の体系に含まれる範囲の事項であって,「国際関係法(公法系)は,国際法(国際公法)を対象とするものである。」として科目の範囲を限定したとしても,出題の対象となり得るものである。国際関係法(公法系)の出題傾向については,科目の範囲の限定によって変わるものではないと考えている。

(引用終わり)

表現の仕方が変わっただけで、出題範囲は変わらない。
従って、過去問を検討する際にも、この点を考慮する必要はなさそうである。

大大問廃止と必須科目の試験時間の分割等について

法務省は、改正後の「新司法試験における問題数及び点数等について」と、来年度の実施日程を公表している。

まず、「新司法試験における問題数及び点数等について」につき、改正前後でどこが変わったのかを確認してみる。

「新司法試験における問題数及び点数等について」(平成22年7月14日改正前のもの)、下線は筆者)

第1 短答式試験の問題数及び点数

1 公法系科目

 40問程度とし,100点満点とする。

2 民事系科目

 75問程度とし,150点満点とする。

3 刑事系科目

 40問ないし50問程度とし,100点満点とする。

第2 論文式試験

1 問題数

 各科目いずれも問題数を2問とする。

2 問題別配点等

 公法系科目及び刑事系科目については,各科目それぞれ,問題1問につき100点配点の計200点満点とする。
 民事系科目については,200点配点の問題1問と,100点配点の問題1問の計300点満点とする。
 選択科目については,いずれの科目についても,2問で計100点満点とする。

 

平成22年7月14日改正後の「新司法試験における問題数及び点数等について」、下線は筆者)

第1 短答式試験の問題数及び点数

1 公法系科目

 40問程度とし,100点満点とする。

2 民事系科目

 75問程度とし,150点満点とする。

3 刑事系科目

 40問ないし50問程度とし,100点満点とする。

第2 論文式試験

1 問題数

 公法系科目,刑事系科目及び選択科目については,いずれも問題数を2問とし,民事系科目については,問題数を3問とする

2 問題別配点等

 公法系科目及び刑事系科目については,各科目それぞれ,問題1問につき100点配点の計200点満点とする。
 民事系科目については,問題1問につき100点配点の計300点満点とする。
 選択科目については,いずれの科目についても,2問で計100点満点とする。

下線部が、改正された部分である。
論文の民事系の問題数と配点が、変更されている。
従来2問だった問題数が、3問に。
それと対応して、従来200点と100点だった配点が、各問100点となった。
これは、いわゆる大大問の廃止を意味している。
廃止の理由は、以下のように説明されている。

司法試験委員会会議第64回(平成22年3月29日)より引用、下線は筆者)

事務局 ・・・そもそも,新司法試験については,法科大学院において,個々の基本的な法律科目を融合させて公法系・民事系・刑事系の各科目へと発展させて教育するものであることを踏まえ,「公法系科目」「民事系科目」「刑事系科目」とし,例えば,実体法と訴訟法の融合的な出題を可能とするように,試験科目が設定された。民事系における大大問の出題は,このような理念を踏まえて導入されたものである。そして,これまで4回の試験において,民事系科目において大大問を出題してきており,受験者の理論的かつ実践的な能力を判定するという観点からは,一定の成果があったと考えられる。
 もっとも,実際の出題を4回にわたり重ねたことで,大大問という出題形式による制約や問題点も浮かび上がってきた。考査委員のヒアリング等でも度々言及があったが,その主な点としては,出題内容が限定されることが挙げられる。大大問として問うことができる事項には限りがあり,出題のバリエーションがおのずから限定されるため,幅広い事項を問うことができない上,出題傾向が探られやすくなり,大大問として出題されにくい事項の習得がおろそかになるという問題がある。本来,複数の法律分野にまたがる融合的な出題は,民事系科目だけで求められるものではなく,公法系科目・刑事系科目においても同様である。新司法試験実施に係る研究調査会報告書では,「同一科目内の複数の法分野にまたがる問題については,(略)論文式試験の出題に適した出題形式の一つであると考えられる」として,融合問題の意義を認めた上で,「公法系科目においては,うち1問は,主として憲法分野のテーマから出題し,可能であれば,関連する行政法分野の論点についても問うものとし,他の1問は,主として行政法分野のテーマから出題し,可能であれば,関連する憲法分野の論点についても問うものとする。」「刑事系科目においては,うち1問は,主として刑法に関する分野のテーマから出題し,他の1問は,主として刑事訴訟法に関する分野のテーマから出題する。」として,各科目の各問において融合問題を出題する余地を与えているが,他方で,「出題に適した範囲が限られることなどから,必ず出題するとはしないものの,それぞれの科目の特性に応じて,適切な問題を考案するよう努めるものとする。」として,融合問題の出題を必須とはしていない。このことから考えると,民事系科目において,大大問を取りやめ,大問のみの出題としたとしても,公法系科目や刑事系科目と同様に,例えば,主として民法分野のテーマから出題する問題において,民事訴訟法の論点を問うなど,大問を融合問題として出題することは可能である。試験実施の実績を重ねた現在では,新司法試験の理念を踏まえた出題や評価の方法が定着しつつあり,大問形式によってもこれを実現することは可能であると考えられる。
 むしろ,大問形式のみによる方が,出題のバリエーションが増え,幅広い観点から受験者の能力を判定することが可能となるとも考えられる。

(引用終わり)

作問の難しさは、早くから繰り返し考査委員により指摘されていた(以前の記事参照)。
ただ、具体的にどう難しいのか。
その点は、あまりはっきりしなかった。
大大問廃止についての考査委員ヒアリングで、それが少し明らかになった。
一つは、各科目間の比重を同じにするのが難しいこと。
すなわち、融合自体は難しくないが、1:1の割合で融合するのは難しい。
もう一つは、先に実体関係を作ることになる点である。
すなわち、訴訟は一定の実体的法律関係を前提にしなければ生じない。
一方で、全ての法律関係が確定してしまえば、訴訟にならない。
そして、確定した実体関係は民法・商法の作問に依存する。
その結果、民訴はいつも後回しにされる。
しかも、実体法の法律関係を前提にした作問を強いられる。
民訴の考査委員からすれば、これではやりにくくてかなわない。

司法試験委員会会議第65回会議(平成22年4月28日)新司法試験考査委員(民事系科目(商法))に対するヒアリングより引用、下線は筆者)

委員長(高橋宏志) 主として実務家の司法試験委員会委員からは,問題作成がそれほど難しいのかとの質問が出ている。確かに,実務では,同じ比重で商法上の問題と民法上の問題があるような事件は少ないかもしれないが,何かしら複数の法律分野に関係することが多いし,実体法と手続法は車の両輪なのだから,そんなに難しいのだろうか,という素朴な疑問なのだが,どのようにお考えか。

考査委員 大大問の作成を経験した委員から聞く限りでは,商法と他の法律分野との比重を同じような割合にして問題を作成することは難しいということである。御指摘のとおり,商法の範囲の中には他の法律分野に関係する部分もあるので,大大問という形式によるのではなく,大問の中でそれを取り込めるのであれば,より機動的に良い問題が作れるのでないかと思う。

(引用終わり)

 

司法試験委員会会議第65回会議(平成22年4月28日)新司法試験考査委員(民事系科目(民法・民事訴訟法))に対するヒアリングより引用、下線は筆者)

考査委員(民事訴訟法) ・・・民事訴訟法の問題を作成するときには,訴訟になるまでの道行きとしてある程度の事実を書き込むということが生じる。その段階でできれば民法と共通するような事実関係としたいと考える。そのようにせずに,訴訟法の問題を作成して,それと関係ない実体法の問題を作成するとなると,事実関係が非常に長くなってしまう。そのため,舞台設定という意味での事実関係については,できる限り,ある程度まで共通にしたいという問題が生じることになる。次に,民法の問題は,民法の性質上,ある事実関係を確定した中で,当事者間の権利義務関係を論じるというものになる。それに対し,事実関係が確定してしまっては裁判にならないので,訴訟法の問題は,まさに事実関係を確定するための,途中の手続を問うというものになる。そこで,途中までは事実関係が共通でも,後はどうしても枝分かれが生じてくる。論理必然ではないが,経験上は,途中までの道行きの事実関係の中で実体法上の問題が出てきて,その余の部分について更にこういう経過があって訴訟となった,という流れの方が自然であり,作成しやすい。そのため,従来,問題作成の段階では,実体法の考査委員の問題作成状況を見ながら,訴訟法の問題を考えていくことになり,民法の問題が先になっていることが多かったように思う。

 (中略)

試験委員 先ほど,大大問では民事訴訟法として問いたい問題が問えないという御発言があったが,それはどういうことか。

考査委員(民事訴訟法) 民事訴訟法を中心に出題するのであれば,問いたい事柄に応じて,自由に事例を設定することができるが,大大問では,実体法の出題との関係では,確定された事実関係の下で設問を作成しなければならず,事実関係が確定していないことを前提とする訴訟法の出題が難しいということである。

(引用終わり)

言われてみれば、なるほど、という感じである。

上記のやり取りからもわかる通り、大大問を廃止しても融合問題の余地は残されている。

司法試験委員会会議第67回(平成22年7月14日)より引用、下線は筆者)

委員長(高橋宏志) では,論文式試験の民事系科目については,大大問形式の出題を取りやめ,平成23年新司法試験からは,大問3問の出題によることとする。そして,大問3問の内訳については,主として民法に関する分野のテーマから出題する1問,主として商法に関する分野のテーマから出題する1問,主として民事訴訟法に関する分野のテーマから出題する1問とする。もっとも,同一科目内の複数の法分野にまたがる問題,いわゆる融合問題を出題する余地は,大大問による出題を取りやめたとしても,公法系科目や刑事系科目と同様,今後も残ることをここで確認しておく。よろしいか。

 (一同了承)

委員長(高橋宏志) それでは,そのように決定する。

試験委員 1問は主として民法,1問は主として商法,1問は主として民事訴訟法としているので趣旨は伝わると思うのだが,1問は民法だけ,1問は商法だけ,1問は民事訴訟法だけというような誤った受け止め方をする者がいかねないのではないか,危惧される。主として民法ということは,民法を中心としつつ,それに関連する商法や民事訴訟法の分野にまたがる融合的な出題もあり得るということを強調しておきたい

試験委員 考査委員にも,この決定の趣旨を伝える必要がある。

試験委員 やはり最も強いメッセージになるのは実際の試験問題であろう。考査委員の方々には,新たな法曹養成制度の理念を踏まえた出題をお願いしたい。

(引用終わり)

従って、民法の問題だから民訴の論点は書かなくてよい。
そういう判断は、正しくないということになる。
今後も、融合の可能性を考慮しながら、解答しなくてはならない。
もっとも、この点は、実は従来の公法系、刑事系も同じである。

新司法試験実施に係る研究調査会報告書より引用、下線は筆者)

1 出題の在り方

○ 同一科目内で複数の法分野にまたがる問題については,必ず出題するとはしないものの,それぞれの科目の特性に応じて,適切な問題を考案するよう努めるものとする。

・ 同一科目内の複数の法分野にまたがる問題については,上記のような論文式試験の出題に適した出題形式の一つであると考えられるが,出題に適した範囲が限られることなどから,必ず出題するとはしないものの,それぞれの科目の特性に応じて,適切な問題を考案するよう努めるものとする。

2 問題数,配点,試験時間等

・ 公法系科目においては,うち1問は,主として憲法分野のテーマから出題し,可能であれば,関連する行政法分野の論点についても問うものとし,他の1問は,主として行政法分野のテーマから出題し,可能であれば,関連する憲法分野の論点についても問うものとする。

・ 刑事系科目においては,うち1問は,主として刑法に関する分野のテーマから出題し,他の1問は,主として刑事訴訟法に関する分野のテーマから出題する。

(引用終わり)

公法系は明示的に、刑事系は黙示的に、融合の余地を残している。
しかし、これまで公法系と刑事系で、明確な融合問題が問われたことはない。
平成18年度公法第1問は、融合といえなくもないが、損失補償や国賠は、一応憲法分野でもある。
旧試験では、憲法科目で普通に問われていた内容である。
従って、今後の民事系においても、融合問題の出る可能性は、低いといえる。
出たとしても、商法総則の問題で民法の原則論を書くとか、会社法の株主代表訴訟で民訴の概念を用いる。
あるいは、民訴の必要的共同訴訟との関係で、民法上の組合や各会社類型の財産帰属関係を論じる。
そういった、旧試験でも出題されていたような範囲のものにとどまる可能性が高い。
もっとも、これらは、実質的には融合問題とは呼べないだろう。
そうではなく、ある科目の論点の解釈が、他方の科目に影響するような、本格的な融合問題。
例えば、民法の請求権競合と民訴の訴訟物理論を絡めた問題のようなもの。
そういったものは、過去の大大問でも出ていないし、今後も出ない可能性が高い。

次に、来年度の実施日程を、今年度のものと比較してみてみる。

(「平成23年新司法試験の実施日程等について」、下線は筆者)

平成23年新司法試験の実施日程等については,次のとおりとする。

1 試験期日

 平成23年5月11日(水),12日(木),14日(土),15日(日)

2 試験日程

 試験科目及び試験時間は,次表のとおりとする。

5月11日(水) 論文式試験 選択科目(3時間)
公法系科目第1問(2時間)
公法系科目第2問(2時間)
5月12日(木) 民事系科目第1問(2時間)
民事系科目第2問(2時間)
民事系科目第3問(2時間)
5月14日(土) 刑事系科目第1問(2時間)
刑事系科目第2問(2時間)
5月15日(日) 短答式試験 民事系科目(2時間30分)
公法系科目(1時間30分)
刑事系科目(1時間30分)

3 試験地

 試験地は,次のとおりとする。

 札幌市,仙台市,東京都,名古屋市,大阪市,広島市,福岡市

 

平成22年新司法試験の実施日程等について、下線は筆者)

平成22年新司法試験の実施日程等については,次のとおりとする。

1 試験期日

 平成22年5月12日(水),13日(木),15日(土),16日(日)

2 試験日程

 試験科目及び試験時間は,次表のとおりとする。

5月12日(水) 短答式試験 民事系科目(2時間30分)
公法系科目(1時間30分)
刑事系科目(1時間30分)
5月13日(木) 論文式試験 民事系科目第1問(2時間)
民事系科目第2問(4時間)
5月15日(土) 選択科目(3時間)
刑事系科目(4時間)
5月16日(日) 公法系科目(4時間)

3 試験地

 試験地は,次のとおりとする。

 札幌市,仙台市,東京都,名古屋市,大阪市,広島市,福岡市

下線部が、今年度からの変更点である。
公法系、民事系、刑事系の各科目は、各問題ごとに分割されている。
この変更の理由は、以下のように説明されている。

司法試験委員会会議第64回(平成22年3月29日)より引用、下線は筆者)

事務局 論文式試験の必須科目における試験時間の分割についてである。
 論文式試験の試験時間については,新司法試験問題検討会による「前期検討事項の検討結果について(報告)」において,「公法系科目及び刑事系科目については4時間,民事系科目については6時間とする。」とされているが,一般的な司法試験委員会決定はなされていない。実際には,民事系科目については,大問につき2時間,大大問につき4時間として,区分して実施しているが,これについては,毎年の試験時間割の決定において決めていることとなる。今般,事務局からは,必須科目の試験時間を,1問につき2時間ごとに区分して実施するという案をお示ししたいと考えている。例えば,公法系科目・刑事系科目は,4時間の一括した試験時間で2問を解答させているが,これを,第1問につき2時間,第2問につき2時間として,分けて実施するということである。
 この点については,必須科目の考査委員から,時折要望が寄せられていたところであり,今般,改めて公法系科目・刑事系科目の考査委員の御意見を伺ったところ,おおむね好意的な御意見であり,積極的に希望するという御意見もあった。試験時間を分割する利点としては,第1問・第2問とで答案の取り違えがなくなること,一方の問題に時間を費やして,他方の問題が時間切れになるということがなくなり,各法律分野における評価をより適切に行うことができること,途中で休憩が入るため,受験者の負担が軽減され,特に,特別措置によって時間延長をする場合に過度な負担を与えずにすむことなどが挙げられる。他方で,このように試験時間を区分することとした場合,例えば,刑事系科目において,一つの共通した事例を出題し,それを基に第1問と第2問にそれぞれ解答させるという出題形式を取ることができないこととなる。しかしながら,これまで4回の試験において,公法系科目及び刑事系科目において,そのような出題はなされていない。大問においても,融合問題を出題することが可能であり,また,新司法試験の理念に沿った出題等が可能であることを考えると,一括した時間で実施することにこだわる必要はないとも考えられる。

(引用終わり)

旧試験では、第1問と第2問が同一科目だった。
従って、刑法に時間を取られて刑訴法が解けなかった、ということは生じない。
しかし、新試験では、第1問と第2問が異なる科目である。
そのため、行政法や訴訟法のように後の設問の科目は、時間配分のせいで解けなかったということが生じ易い。
これらの科目の考査委員からしてみれば、雑な答案ばかりを採点させられることになる。
せっかく2時間で解ける内容にしたのに、1時間くらいで雑に解答される。
これでは、その科目の考査委員は面白くない。

司法試験委員会会議第65回会議(平成22年4月28日)新司法試験考査委員(民事系科目(民法・民事訴訟法))に対するヒアリングより引用、下線は筆者)

考査委員(民訴法) 試験時間の分割については,2時間ごとに分割する方が良いのではないかというのが民事訴訟法の考査委員全体の意見である。先ほど民法の考査委員が触れた,答案の取り違えの問題もある。もう一つは,例えば,4時間で大問2題を出題する場合,受験者の側からすると時間配分が難しいということがあろうし,出題する側からすると,2時間で解答することを想定した問題を出題しているのに,実際には,受験者の得意不得意や時間配分によって,1時間半,あるいは,極端に言えば1時間しか解答に費やせないというのでは,それぞれの法律分野の実力が十分に見られないという問題があると思う。是非,2時間ごとに分割していただきたいと思う。

(引用終わり)

 

司法試験委員会会議第65回会議(平成22年4月28日)新司法試験考査委員(公法系科目・刑事系科目)に対するヒアリングより引用、下線は筆者)

考査委員(刑法) 試験時間の分割については,基本的に結構なのではないかと考えている。現在は,刑事系科目は,刑法の問題と刑事訴訟法の問題を同一の時間帯に解答させているが,一方の問題に過度に集中して解答したために,他方の問題の解答がおろそかになるという事例が見られるように思う。刑事訴訟法の考査委員によれば,刑法の問題に時間と労力をそそぎすぎたために,刑事訴訟法の問題まで十分に届かなかったという事例が多いとのことである。受験者に十分な実力があるかどうかを両方の法律分野において適切に判定するという意味では,試験時間を分けた方が良いのではないかと考える。また,問題と問題との間に休憩時間を挟めば,受験者がリフレッシュして新たな気持ちで次の問題に進むことができることからも,望ましいのではないか考えている。

考査委員(憲法) 従来は,憲法の問題に先に取りかかって時間を費やす答案が多かったと聞いているが,最近は,行政法の問題に先に取りかかる受験者もいるようで,憲法の答案にも,時間不足のゆえに非常に論述が薄くなっていると思われるものが散見されるようになっている。受験者にとっても,試験時間を分割した方が良いのではないか。タイムマネジメントを考えながら答案を作成する能力を過度に要求する必要はないと思うので,試験時間は,問題ごとに分けた方が良いと思う。

考査委員(行政法) 憲法の問題で力を使い果たしたのか,後に行くにしたがって時間切れとなっているような答案が相当数見受けられるので,試験時間の分割によって時間配分を誘導し,受験者の実力を把握する方が良いのではないかと思う。

(引用終わり)

もっとも、上記日程には「憲法」「行政法」といったように科目が明示されていない。
司法試験委員会では、今のところ、科目を明示する気はないようである。

司法試験委員会会議第67回(平成22年7月14日)より引用)

試験委員 賛成に関連する意見に,あらかじめ問ごとの法律分野を明示してほしいというものがあるが,これは難しいであろう。

(引用終わり)

試験委員は難しいというが、その理由はよくわからない。

とはいえ、おそらくは例年通り、公法系は第1問が憲法、第2問が行政法。
刑事系は第1問が刑法、第2問が刑訴法なのだろう。
しかし、入れ替わる可能性も否定できない。
他方、民事系は、従来から科目の順序がバラバラだった。
そのため、予測をするのが難しい。
基本法が前に来るという傾向からすれば、第1問が民法になりそうである。
しかし、第2問に民訴が来るのか、商法が来るのかは、予測しがたい。
この辺りは、年度の積み重ねで安定するのを待つしかない。

それから、今年度からの日程の変更点として、短答が最終日に回された点がある。
これは、予備試験との問題の共通化が影響している。
来年度から始まる予備試験。
その受験生と、本試験の受験生の実力を比較するためには、同じ問題を解かせるのがよい。
また、作問の負担も減少する。
ただ、それを実行するには、本試験と予備試験の短答を同日に実施する必要がある。
そして、予備試験は社会人を対象にしているから、日曜に実施したい。
そうなると、本試験の日程としては、最終日に回ることになる。

司法試験委員会会議第64回(平成22年3月29日)より引用、下線は筆者)

試験委員 いろいろな御意見があるかもしれないけれども,予備試験の受験者にどの程度の水準の層がいるのかといったことを測るためには,やはり新司法試験との短答式試験問題の一部共通化をしておかないと,法科大学院を修了した者と比べようがないのではないか。私は,一部共通化は必要だと思う。

 (中略)

事務局 例えば,公法系科目を例にとると,新司法試験の問題数は,40問程度であり,憲法と行政法とを区分して考えると,それぞれおおむね20問程度ずつとなっている。他方で,予備試験については,各科目いずれも10問ないし15問程度とされている。この予備試験の問題のうち,例えば,8割程度を共通化するとした場合,共通となる部分は,8問から12問程度となる。この場合,新司法試験の側から見れば,20問程度のうち半分前後が予備試験と共通の問題で,残りの半分前後が新司法試験の独自の問題ということになる。

委員長(高橋宏志) 共通化する問題の割合まで当委員会で決めるわけではないが,イメージとしては,大体そのような感じだろうということである。将来的にいつまで共通化を続けるかはともかくとして,当面は,短答式試験問題の一部共通化をしてみてはどうかと思うが,いかがか。

試験委員 方向性としては良いと思う。

試験委員 私も賛成だが,共通化した場合,当然,新司法試験と予備試験のそれぞれの短答式試験を同じ日に実施することになる。問題が漏えいしないように開始時間を調整することは,可能なのか

事務局 同じ日に新司法試験と予備試験の短答式試験を実施する場合の時間の調整については,現在検討しているが,一方の受験者から他方の受験者に問題が漏れないような形で時間割を組むことは,技術的には可能である。

 (中略)

事務局 ・・・予備試験を受験する層として社会人が想定されていることからすると,予備試験の短答式試験は,日曜日に実施するのが最も望ましいであろうと思われる。他方で,新司法試験は,従来は,水曜日,木曜日,中日を1日置いて,土曜日,日曜日という日程で組んでおり,水曜日に短答式試験,木曜日,土曜日,日曜日に論文式試験を実施している。新司法試験について従来の日程のまま,日曜日に短答式試験を実施するとすれば,新司法試験の受験者は,水曜日,木曜日,土曜日と論文式試験を受験して,最後に短答式試験を受験するという案が考えられる。

(引用終わり)

この変更は、実際上は大した変更ではない。
ただ、心理的な影響は、それなりにあるだろう。

人間は、不安定な状態、もやもやした状態を嫌う。
これまでは、一応先に短答の手応えを感じて、その後に論文を迎えていた。
しかし、今度は短答がどうなるか、全然わからない状態で論文を受けることになる。
受験生とすれば、心理的には嫌なはずである。
とはいえ、これまでも短答の結果自体は、わからない状態で論文を書いていた。
逆に、短答の失敗が頭に残って論文が手に付かない。
そういう事態は、回避できる。
その意味では、良し悪しは微妙で、後は慣れの問題という感じがする。

もっとも、暗記主体の短答を先に解きたい、ということはあるだろう。
短答が終わると、何かすっきりした気分になる。
そういう人も多かったと思う。
それは、暗記に対する強迫観念から、自由になれるからである。
試験の最終日が短答だと、その意味で、受験生としては苦しいかもしれない。
一方で、論文でも短答の知識が役立つことはよくある。
逆に、論文前日にチェックした知識が、短答の方で出題された。
そういうこともあるだろう。
中日を入れて5日間、記憶に対する緊張感を保ったまま過ごすというのも、悪くない。
そういう割り切りをした方が、心理的に優位に立てる。

結論的には、あまり気にしない。
それが一番である。

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