最新最高裁判例

最高裁判所第三小法廷判決平成22年03月30日

【事案】

1.札幌市の住民である被上告人が,定例会等の会議に出席した市議会議員に費用弁償として日額1万円を支給する旨の同市条例の定めにつき,当該日額は高額に過ぎ,地方自治法(平成20年法律第69号による改正前のもの。以下「法」という。)203条によって与えられた普通地方公共団体の議会の裁量権の範囲を逸脱して無効であると主張して,法242条の2第1項4号に基づき,上告人を相手に,上記条例の定めに基づいて平成18年4月から同19年5月までの間に費用弁償の支給を受けた各議員に対し,各支給額相当額の支払等を請求するよう求める住民訴訟。

2.事実関係等の概要

(1) 法203条3項は,普通地方公共団体の議会の議員は職務を行うため要する費用の弁償を受けることができるとし,同条5項は,その額及び支給方法は条例で定めなければならないと規定する。札幌市議会議員の報酬,費用弁償及び期末手当に関する条例(昭和26年札幌市条例第30号。平成19年札幌市条例第33号による改正前のもの。以下「本件条例」という。)2条は,これを受けて,議員が定例会,臨時会,常任委員会,議会運営委員会及び特別委員会の会議に出席したときは,費用弁償として日額1万2500円を支給すると定めている。この定めは,費用弁償額を増額する条例改正により平成4年12月1日から適用されていたものであるが,その後定められた本件条例附則11項により,同17年4月1日から同23年5月1日までの間に上記会議に出席した議員に対して支給することとなる費用弁償の日額については,同条の規定にかかわらず,1万円とするとされている。

(2) 札幌市は,本件条例に基づき,平成18年4月から同19年5月までの費用弁償として,84名の議員に対し,総額3855万円を支給した。

(3) 当時,札幌市を除く,法252条の19第1項の指定都市(以下「指定都市」という。)の中では,半数程度が法203条3項に係る費用弁償につき条例で定額弁償を定め,そのうちの数市が本件条例が定めるのと同程度の額を支給することとしていた一方で,定額弁償によらず,実費又は議員の住所からの距離に応じた一定の幅のある額で費用弁償を支給する市があったほか,費用弁償の支給制度を廃止する市も出てきていた。なお,札幌市も,平成19年9月,本件条例を改正し,同制度を廃止した。

3.原審は,上記事実関係等の下において,次のとおり判断して,第1審判決が訴えを却下した平成18年4月及び同年5月分の費用弁償に係る部分を除き,被上告人の請求を認容すべきものとした。
 法203条にいう費用の弁償につき,所定の支給事由に該当するときに標準的な実費である一定額を支給する旨を条例で定めた場合において,当該額が同条により与えられた普通地方公共団体の議会の裁量権の範囲内にあるといえるためには,当該費用弁償が当該支給事由に係る職務を行うために要する費用を弁償するものであって,報酬としての性格を有しておらず,かつ,その額が合理的に見積もられたものである必要がある。
 本件条例は,議員が所定の会議に出席したときに生じ得る日当及び事務経費等並びに交通費を包括的に定額で弁償するものである。このうち日当及び事務経費等の弁償は,会議出席に伴って生じ得る諸雑費を弁償する趣旨であれば報酬性を帯びず,許容されるが,弁償額の見積もり対象たる具体的費用が特定されていない本件では,その合理的上限額を定めるべきであり,その額は,国家公務員等の旅費に関する法律に定められた指定職の職務にある者の内国旅行の日当額である3000円(同法6条6項,別表第1の1)から昼食代相当額を控除した額というべきである。また,交通費相当額の弁償は費用の弁償として許容されるものであるが,会議に出席するために常にタクシーを用いることを前提に交通費を見積もるのは合理的でなく,これを公共交通機関の運賃により算定すると1000円以内の場合がほとんどである。本件条例が定めた費用弁償の日額は,以上のような事情に基づき算定される費用弁償の合理的上限額の3倍程度に相当するものであり,その定めは上記裁量権の範囲を超え又はそれを濫用したものである。

【判旨】

1.原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 法203条3項にいう費用の弁償について,条例で,あらかじめその支給事由を定め,それに該当するときには標準的な実費である一定額を支給する取扱いをする場合,いかなる事由を支給事由として定めるか,また,上記一定額をいくらとするかは,条例を制定する普通地方公共団体の議会の裁量判断にゆだねられていると解される(最高裁平成2年(行ツ)第91号同年12月21日第二小法廷判決・民集44巻9号1706頁参照)。
 本件条例は,議員が定例会等の会議に出席した場合に定額の費用弁償を支給するものであるが,上記会議はいずれも法に定められたものであって,議員の重要な活動の場であり,そこへの出席に伴い,その職責を十全に果たすための準備,連絡調整及び移動等の費用を含む,常勤の公務員にはない諸雑費や交通費の支出を要する場合があり得るところである。そして,このような諸費用の弁償の定め方は,前記のとおり,指定都市においても様々に異なるものの,本件条例が定めるのと同程度の定額で費用弁償を支給する指定都市も存在していたのであって,札幌市議会は,このような取扱いとの均衡をも考慮しつつ,費用弁償額を定めていたものということができる。
 以上の事情を考慮すると,定例会等の会議に出席した議員に費用弁償として日額1万円を支給する旨の本件条例の定めは,法203条が普通地方公共団体の議会に与えた裁量権の範囲を超え又はそれを濫用したものとして違法,無効となると断ずることはできない。

2.これと異なる原審の前記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決のうち上告人の敗訴部分は破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,上記部分に関する被上告人の請求は理由がなく,これを棄却した第1審判決は正当であるから,上記部分に係る被上告人の控訴を棄却すべきである。

【藤田宙靖補足意見】

 私は法廷意見に賛成するが,以下の点を補足しておくこととしたい。
 地方公共団体の条例により議会議員の費用弁償について定める場合,実額方式によらず,本件のように定額方式によって定めることも許され,その際,如何なる事由を費用弁償の支給事由として定めるか,また,標準的な実費である一定の額をいくらとするかについては,費用弁償に関する条例を定める当該地方公共団体の議会の裁量判断に委ねられていると解すべきことは,法廷意見が引用し原判決もまた引用する最高裁平成2年12月21日第二小法廷判決(民集44巻9号1706頁。以下,「平成2年判決」という)の判示するところであるが,同判決は,そこでいう「標準的な実費である一定額」の算定方法がどうあるべきか,算定に当たって考慮すべき具体的な費目をどう採るか等については,一切触れていない。しかし,同判決がこれらの点についての一切を挙げて議会の裁量に委ねられるとしたものと理解するべきではなく,当然そこには,一定の裁量権の限界が認められるものというべきである。従って,本件において,原審が,上記の点についての議会の判断の合理性につき司法コントロールを加えようと試みたこと自体が同判決の趣旨に違反するものとは言えない。そして,費用弁償の定額の定め方につき,@算定の基礎となる費目は「費用性」を有し「報酬性」を有しないものでなければならない,A定額自体が合理的に見積もられたものでなければならない,ということ自体は,法が費用弁償制度を定めた趣旨から当然に導かれる要請ということもできようから,そのことを指摘する限りにおいては,原審の判断を誤りということはできないものと考える。ただ,そこでいう「費用性」及び「報酬性」(その間の線引きを含めて)の有無,そして「合理性」の有無の具体的判断については,法廷意見の指摘するとおり,その評価・判断に当たって,各地方公共団体の議会に,地域の事情並びに通常の公務員と異なる議員の議会活動のあり方等に鑑みある程度自由に政策選択をする余地を認めることが,必ずしも不合理であるとは言えまい。ところが本件において原審が採用しているのは,いわば,費目の範囲を確定してそこから必要最小限度の費用を積算して行く方法を唯一の適正な方法であるとし,このような積算結果との適合性の有無を以て裁量逸脱の有無を判断する審理方法であって,これは既に,上記平成2年判決が前提とする司法コントロールの枠を超えるものというべきである。
 なお,いうまでもなく,上記は,本件条例による日額1万円の定めが,費用弁償として政策的に合理的であったことまでをもいうものではない。とりわけ,本件条例は後に(平成19年9月26日)改正され,札幌市においては費用弁償がおよそ行われなくなったこと,他の政令指定市においても,費用弁償を行わないか,又は遙かに低額の弁償額を定めていたものもあること等に鑑みると,果たして日額1万円が費用弁償として真に適切な額であったのかどうかについては,むしろ疑問が抱かれるところですらあるが,ただ,上記のように,これは住民の公選に基づき構成される議会に許された立法裁量の範囲内での,当不当の問題に止まるというべきものと考える。

 

最高裁判所第三小法廷判決平成22年03月30日

【事案】

1.山形県が施行する土地収用法3条1号所定の道路事業の用地としてその所有地を同県に売却し,同県から地上建物の移転補償金の支払を受けた上告人が,当該移転補償金につきこれを租税特別措置法(平成16年法律第14号による改正前のもの。以下「措置法」という。)33条3項2号所定の補償金として同条1項の適用を受けることを選択し,所得税の申告をしたところ,山形税務署長から,上記移転補償金には上記規定の適用がなく,その金額を当該年分の一時所得の金額の計算上総収入金額に算入すべきであることを前提として,その旨の更正(以下「本件処分」という。)を受けたことから,上告人において,本件処分には措置法の上記規定及び所得税法44条の解釈適用を誤った違法があるなどと主張して,本件処分のうちその申告に係る税額等を超える部分の取消しを求めている事案。

2(1) 措置法33条1項は,資産が土地収用法等の規定に基づいて収用され,補償金を取得する場合(1号),資産について買取りの申出を拒むときは同法等の規定に基づいて収用されることとなる場合において,当該資産が買い取られ,対価を取得するとき(2号)など,個人の有する資産で同項各号に規定するものが当該各号に掲げる場合に該当することとなった場合において,その者が当該各号に規定する補償金等の額の全部又は一部に相当する金額をもって当該各号に規定する収用等により譲渡した資産に代わるべき資産の取得をしたときは,その者については,その選択により,当該収用等により取得した補償金等の額が当該代替資産の取得価額以下である場合にあっては,当該譲渡資産の譲渡がなかったものとし,当該補償金等の額が当該取得価額を超える場合にあっては,当該譲渡資産のうちその超える金額に相当する部分について譲渡があったものとして,措置法及び所得税法における譲渡所得に関する規定を適用することができる旨を定めている。
 措置法33条3項2号は,土地等が同条1項1号,2号等の規定に該当することとなったことに伴い,その土地の上にある資産につき取壊し又は除去をしなければならなくなった場合において,その資産の損失に対する補償金で政令で定めるものを取得するときは,同条1項の規定の適用については,その資産について収用等による譲渡があったものとみなし,その補償金の額をもって同項に規定する補償金等の額とみなす旨を定めている。租税特別措置法施行令(平成16年政令第105号による改正前のもの)22条16項2号は,上記の政令で定める補償金として,当該資産の損失につき土地収用法88条等の規定により受けた補償金その他これに相当する補償金を定めている。

(2) 所得税法44条は,その本文において,居住者が,土地収用法の規定による収用その他政令で定めるやむを得ない事由の発生に伴いその者の資産の移転等の費用に充てるための金額の交付を受けた場合において,その交付を受けた金額をその交付の目的に従って上記の費用に充てたときは,その費用に充てた金額は,その者の各種所得の金額の計算上,総収入金額に算入しない旨を定め,ただし書において,その費用に充てた金額のうち各種所得の金額の計算上必要経費に算入され又は譲渡に要した費用とされる部分の金額に相当する金額については,この限りでない旨を定めている。所得税法施行令(平成16年政令第100号による改正前のもの)93条は,上記の政令で定めるやむを得ない事由として,措置法33条3項2号に規定する事由に基づく同号に規定する資産の取壊し又は除去を定めている。

3.事実関係等の概要

(1) 上告人は,昭和58年,山形県東村山郡中山町内の土地909.81u(以下「上告人所有地」という。)を取得し,その後,同土地上に居宅(以下「本件居宅」という。)及びその附属建物である物置・車庫(以下「本件物置・車庫」という。)を新築して,同所に居住していた。

(2) 山形県は,その施行する土地収用法3条1号所定の事業である一般県道整備事業の用に供するため上告人所有地のうち171.93u(以下「本件土地」という。)を必要としたことから,平成13年11月30日,上告人に対し,本件土地の買取りと地上物件の移転の申出をした。
 上告人は,これに応じ,同年12月7日,同県との間で,上告人が本件土地を代金481万4040円で同県に売却するとともにその上に存する物件を移転し,同県がその移転及び損失の補償として上告人に対し建物移転補償金6624万1000円(以下「本件建物移転補償金」という。)等合計8324万3600円を支払う旨の契約を締結し,同14年9月26日までに同県からその支払を受けた。

(3) 上告人は,本件土地等の代替資産として,平成13年12月7日,中山町内の別の土地を取得し,同14年3月5日,その代金として3615万3682円を支払い,また,その土地上に居宅を新築し,その対価として同15年11月30日までに4267万7315円を支払った。
 他方で,上告人は,同14年5月22日,A及びB(以下「Aら」という。)に対し,上告人所有地から本件土地を除いた残地の一部330.58u(以下「本件残地」という。)を本件居宅と共に代金1200万円で売却し,同年7月30日までにその代金の支払を受けた。Aらは,本件土地と本件残地にまたがって存在していた本件居宅を,同年8月5日,本件残地の上に曳行移転した。本件居宅は,現在まで取り壊されずに本件残地の上に存在し,本件居宅から分割登記された本件物置・車庫も,上告人の所有物として,現在まで取り壊されずに存在している。

(4) 上告人は,平成14年分の所得税の申告において,本件土地の売却代金,本件建物移転補償金等合計8188万3940円について措置法33条1項2号,3項2号の適用を受けることを選択し,平成16年3月26日,総所得金額255万6850円,分離長期譲渡所得の金額0円,納付すべき税額6万3200円とする修正申告書を提出した。
 これに対し,山形税務署長は,本件建物移転補償金には措置法33条3項2号の適用がなく,その全額6624万1000円を一時所得の金額の計算上総収入金額に算入すべきであることを前提として,同17年3月4日,総所得金額3562万4425円,分離長期譲渡所得の金額0円,納付すべき税額978万7000円とする本件処分をした。

(5) 山形県においては,「山形県土木部に属する公共事業に必要な用地の取得または事業の施行に伴う損失補償基準及び同細則」と題する訓令(昭和39年2月28日訓第2477号。以下「山形県補償基準」という。)を制定し,任意買収における損失補償についてもこれに基づいて補償額を算出している。
 山形県補償基準は,取得する土地に取得しない建物等があるときは,当該建物等の通常妥当と認められる移転先に,通常妥当と認められる移転方法によって移転するのに要する費用を補償する旨を定めている。

(6)ア.上告人は,山形県補償基準によれば,建物の通常妥当と認められる移転工法として,再築工法,曳家工法,改造工法,復元工法及び除却工法があり,本件建物移転補償金は,再築工法により建物を移転するものとしてその金額が算出されているところ,再築工法による補償においては,建物の現在価額,運用益損失額及び取壊し工事費の合計額から発生廃材の価額を差し引いた金額をもって補償金の額とすべきものとされている旨を主張している。

イ.また,上告人は,Aらとの売買契約では,当初は土地100坪のみが売買の対象であり,1坪当たり12万円として代金を定め,本件居宅は上告人が取り壊すことを予定していたが,土地購入資金の借入先が当該土地上にAらの居住建物が存在することを融資の条件としたことから,Aらに協力するために,土地の代金を1000万円,本件居宅の代金を200万円とする売買契約を形式上結んだだけであり,本件居宅の対価はAらから収受していない旨を主張している。

4.原審は,上記事実関係等の下において,要旨次のとおり判断し,本件処分は適法であるとして,上告人の請求を棄却すべきものとした。
 土地を収用され又は収用権を背景とした土地の買収に応じて起業者から地上建物の移転に要する費用の補償を受けた者が,当該建物を取り壊して代替資産を取得した場合には,当該補償金について,措置法33条3項2号所定の「資産の損失に対する補償金」に当たるものとして,同条1項の適用を認めるべきであるが,本件では,本件居宅及び本件物置・車庫が取り壊されずに現存しているから,本件建物移転補償金について同項の適用を認めることはできない。また,前記事実関係等によれば,上告人は,本件居宅及び本件物置・車庫について本件建物移転補償金の交付を受けたものの,その交付の目的に従った費用に充てていないから,所得税法44条の適用の前提を欠く。したがって,本件建物移転補償金は,その全額を一時所得の金額の計算上総収入金額に算入すべきである。

【判旨】

1.原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

(1) 土地が土地収用法等の規定に基づいて収用され又は収用権を背景として買い取られることとなったことに伴い,その土地の上にある個人所有の建物について移転,移築,取壊し,除去等をしなければならなくなった場合において,その所有者がその費用に充てるための補償金の交付を受けたときは,当該補償金の金額は,本来その者の一時所得の収入金額と見るべきものである。
 しかし,その者が上記の金額を交付の目的に従って上記の移転等の費用に充てたときは,所得税法44条の規定により,その費用に充てた金額は,各種所得の金額の計算上必要経費に算入され又は譲渡に要した費用とされる部分の金額に相当する金額を除き,一時所得の金額の計算上総収入金額に算入されないことになる。
 また,上記の補償金のうち,当該建物の取壊し又は除去による損失に対する補償金については,措置法33条3項2号の規定により,当該建物について同条1項所定の収用等による譲渡があったものとみなし,その金額を当該譲渡に係る譲渡所得の収入金額である同項所定の補償金等の額とみなした上で,同項を適用し,その金額がその者の取得した代替資産の取得価額以下である場合には上記の譲渡がなかったものとし,その金額が当該取得価額を超える場合には上記建物のうちその超える金額に相当する部分について譲渡があったものとして,その年分の譲渡所得の金額の計算をすることを選択することも許されるものである。ただし,同条5項は,同条1項1号等に規定する補償金の額は,名義がいずれであるかを問わず,資産の収用等の対価たる金額をいうものとし,収用等に際して交付を受ける移転料その他当該資産の収用等の対価たる金額以外の金額を含まないものとすると定めており,同項の補償金等の額とみなされる同条3項2号所定の「資産の損失に対する補償金」の額も,これと同様に,土地の収用等に伴い取壊し又は除去により失った資産の対価に相当する金額をいうものと解するのが相当であるから,土地の収用等に伴いその土地の上にある建物の移転等に要する費用の補償を受けた者が,当該建物を取り壊して代替資産を取得した場合,当該補償を受けた金額のうち同号所定の補償金に当たるのは,当該建物の対価に相当する部分に限られるものというべきである。

(2) ところで,「公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱」(昭和37年6月29日閣議決定)24条1項及び「公共用地の取得に伴う損失補償基準」(同年10月12日用地対策連絡会決定)28条1項は,取得し又は使用する土地等に取得せず又は使用しない建物等があるときは,当該建物等を通常妥当と認められる移転先に,通常妥当と認められる移転方法によって移転するのに要する費用を補償する旨を定め,これを受けた「公共用地の取得に伴う損失補償基準細則」(同38年3月7日用地対策連絡会決定。以下「本件細則」という。)第15は,@ 建物を移転させるときは,通常妥当と認められる移転先を残地又は残地以外の土地のいずれとするかについて認定を行った上で,当該認定に係る移転先に建物を移転するのに通常妥当と認められる移転工法の認定を行い,当該移転先に当該移転工法により移転するのに要する費用を補償するものとし,A 通常妥当と認められる移転工法は,再築工法,曳家工法,改造工法,復元工法及び除却工法とし,B 再築工法(残地以外の土地に従前の建物と同種同等の建物を建築し,又は残地に従前の建物と同種同等の建物若しくは従前の建物に照応する建物を建築する工法)を妥当と認定した場合の建物の移転料は,建物の現在価額,運用益損失額(従前の建物の推定再建築費と従前の建物の現在価額との差額に係る従前の建物の耐用年数満了時までの運用益に相当する額)及び取壊し工事費の合計額から発生材価額を差し引いて算定した額とする旨を定めている。
 そうすると,再築工法による移転を前提に本件細則の定めに準ずる方法で算定された建物の移転料の交付を受けた者が,その交付の目的に従って,従前の建物を取り壊し,代替建物を建築して取得した場合には,当該移転料のうち,@ 従前の建物の現在価額から発生材価額を差し引いた金額に相当する部分は,その全額について,A 運用益損失額に相当する部分は,代替建物の建築に実際に要した費用の額が従前の建物の現在価額を超える場合において,その超える金額に係る従前の建物の耐用年数満了時までの運用益に相当する部分について,B 取壊し工事費に相当する部分は,実際に従前の建物の取壊し工事の費用に充てられた部分について,それぞれその交付の目的に従って移転等の費用に充てられたものとして,所得税法44条の適用を受けると解するのが相当である。また,これらのうち上記@の部分については,更に,従前の建物の対価に相当するものとして,措置法33条3項2号所定の補償金に該当し,同条1項の適用を受けると解するのが相当である。

(3) 以上を前提として本件についてみると,上告人は,山形県が施行する土地収用法3条1号所定の道路事業の用地としてその所有する本件土地を買い取られ,これに伴い,同県に対して本件土地上に存する物件を移転することを約し,その移転及び損失の補償として同県から本件建物移転補償金等の支払を受けたものであるところ,少なくとも本件居宅については,これをAらに譲渡して本件残地上に曳行移転させることによって,上記の移転義務を果たしたものということができるから,本件建物移転補償金のうちに上記曳行移転の費用に充てた金額がある場合には,当該金額については,所得税法44条の適用を受けるものというべきである。
 また,前記事実関係等の下において,上告人が主張する前記3(6)アの事実が認められれば,本件建物移転補償金は,山形県補償基準中の本件細則と同旨の定めに基づいて,本件細則所定の再築工法によった場合の建物の移転料の算定方法に準ずる方法で算定されたものであるがい然性が高いものということができる。そして,前記事実関係等に加えて,上告人が主張する前記3(6)イの事実が認められれば,本件居宅は,取り壊されてはいないものの,個人であるAらに対して無償で譲渡され,本件土地上から移転されたことになるから,これにより上告人には本件居宅の取壊しに準ずる損失が生じたものということができ,上告人は,本件建物移転補償金の交付の目的に従い,これをもって上記の損失を補てんするとともに,移転先として本件居宅に代わる建物を建築して取得したものということができる。そうであるとすれば,本件建物移転補償金のうち,少なくとも本件居宅に係る部分については,@ 取壊し工事費に相当する部分等のうちに上記曳行移転の費用に充てられた部分があるときは,当該部分は,実質的に交付の目的に従って支出されたものとして,所得税法44条の適用を受け,また,A それ以外の部分についても,前記5(2)のとおり,同条又は措置法33条1項の適用を受ける部分があり得るものというべきである。
 したがって,上告人が主張する上記の各事実が存在するかどうか,本件建物移転補償金のうちに上記各規定の適用を受ける部分があるかどうかなどの点について十分に審理することなく,本件居宅等が取り壊されずに現存していることなどから直ちに,本件建物移転補償金には上記各規定のいずれの適用もなく,その全額を一時所得の金額の計算上総収入金額に算入すべきであるとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるというべきである。

2.論旨は以上の趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。
 そして,上記の点について更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すのが相当である。

戻る