平成22年度旧司法試験
論文式試験の結果について

10月7日、法務省は平成22年度旧試験論文の結果を公表した(法務省HP)。
来年度は、口述しか実施されない。
実質上、旧司法試験はこれで終了した。

52人、7.0%

合格者数は、52人。
択一合格者ベースの合格率は、52÷742≒7.0%だった。
以下は、平成18年度以降の論文合格率の推移である。

年度

択一
合格者数

論文
合格者数

論文
合格率

18

3820

542

14.1%

19

2219

250

11.2%

20

1605

141

8.7%

21

1599

101

6.3%

22

742

52

7.0%

一昨年よりは厳しく、昨年よりは甘い。
一応、そのようにいうことができる。
とはいえ、論文だけでも、100人受けて、やっと7人受かる。
択一受験者(13222人)ベースにすると、合格率は、0.39%。
100人受けても、全滅するだろう、という感じだ。
常軌を逸した試験だった。

130点

合格点は、ちょうど130点だった。
以下は、平成16年以降の合格点の推移である。

 

合格点

前年度比

16

136.50

---

17

132.75

−3.75

18

133.75

+1.00

19

132.00

−1.75

20

132.00

±0

21

126.50

−5.50

22

130.00

+3.50

一昨年よりは甘く、昨年より厳しい。
合格率とは、逆になっている。
昨年度は、異常な出来の悪さだったということになるかもしれない。
ちょうど130点で、50人前後。
キリもいいしこんなところか、ということで、この点数なのだろう。
合格者数や合格点には、意外な点はない。
意外な点は、別の部分にある。

4割を大学生に奪われた

以下は、丙案時代以降の合格者に占める大学生割合の推移である。
なお、丙案(合格枠制)とは、一定割合(7分の5又は9分の7)を全受験者から決定し、残り(7分の2又は9分の2)を初回受験から3年以内の者から決定する制度のことである。

年度

大学生の割合

丙案の有無

(28.2%)

丙案無し

(43.3%)

7分の2

(38.7%)

7分の2

10

(31.8%)

7分の2

11

(29.1%)

7分の2

12

32.0%

7分の2

13

26.9%

7分の2

14

24.0%

9分の2

15

24.0%

9分の2

16

16.1%

丙案無し

17

15.1%

丙案無し

18

15.7%

丙案無し

19

15.6%

丙案無し

20

20.6%

丙案無し

21

27.7%

丙案無し

22

40.4%

丙案無し

驚くべき数字である。
昨年度から、12.7%も上昇した。
過去最高だった平成8年に次ぐ、学生割合の高さである。
合格者の実に4割が、学生だった。

これは、論文の若返り現象によるものである。
以下は、択一、論文各段階での合格者年齢等の推移である。

年度

択一合格者
平均年齢(A)

論文合格者
平均年齢(B)

A−B

択一合格者に占める
24歳以下の割合(C)

論文合格者に占める
24歳以下の割合(D)

D−C

12

28.55

26.61

1.94

22.6%

37.1%

14.5

13

28.91

27.33

1.58

21.1%

31.4%

10.3

14

28.79

27.59

1.20

22.5%

27.9%

5.4

15

28.82

28.19

0.63

22.0%

25.9%

3.9

16

29.54

28.98

0.56

17.8%

17.8%

17

30.00

28.89

1.11

16.4%

18.4%

2.0

18

30.43

29.37

1.06

15.7%

17.7%

2.0

19

31.51

29.80

1.71

16.1%

18.8%

2.7

20

33.36

29.98

3.38

13.0%

22.7%

9.7

21

35.10

29.29

5.81

12.9%

33.7%

20.8

22

34.96

28.56

6.40

16.6%

46.2%

29.6

今年度は、過去最高の若返りが生じている。
択一では34歳だったものが、論文では28歳へ。
6歳も若返っている。
24歳以下の割合は、これを反映したものとなっている。
択一では16%に過ぎないものが、論文では46%。
30%近い増加である。
以下は、今年度の結果を24歳以下と25歳以上に分けた数字である。

 

択一
合格者

論文
合格者

論文合格率

24歳以下

123人

24人

19.5%

25歳以上

619人

28人

4.52%

24歳以下の論文合格率は、19.5%。
これに対し、25歳以上は、わずか4.52%である。
論文で、高齢受験生はここまで差を付けられている。

実質最後の旧試験だった。
長い間頑張って来た受験生は、これまでになく気合が入っていたはずである。
他方、学生は、ダメもと、腕試し程度だったのではないか。
学生は、2〜4年程度しか、法律を勉強していないはずである。
一方で、択一合格者の平均年齢は、34歳。
34歳の受験生といえば、10年は勉強しているだろう。
なのに、4割を学生に奪われる。
この事実は、重い。

そもそも、平成18年以降の論文合格者の平均年齢は、毎年1歳ずつ増えなければおかしい。
この時期には新参者は少なく、滞留者は毎年1つ歳をとるからだ。
にもかかわらず、29で頭打ちになっている。
これは、滞留者が合格できていないことを示している。
この現象は、新試験でも顕著に現れている(平成22年度新司法試験の結果について(3)参照)。
今年度は、21年度既修の合格率は46.3%に対し、初代の17年度既修のそれは4.02%に過ぎない。

そして、滞留者が受かりにくい原因は、前記のように論文である。
その理由の一つとして、論文は勉強の効果が発揮されにくいということがある。
論文は、実力の反映されにくい試験である。
これは、新試験で明らかになっている。
新試験において、未修と既修とは顕著な実力の差がある。
しかし、論文では、その差が縮まっている(平成22年度新司法試験の結果について(4)参照)。

ただ、それだけでは、説明がつかない。
実力より運が作用する試験だということは、合格率の差が縮まることしか意味しない。
勉強量の少ない受験生と、勉強量の多い受験生。
前者が、後者とそれほど差が付かない。
そういう意味にしか、ならないはずである。
逆転するということは、説明できない。
しかし、前記のように、24歳以下と25歳以上の合格率に、顕著な差が出ている。
大きな逆転が生じている。
これは、運では説明できない。
なお、当然であるが、これは25歳以上が怠惰で、勉強していないことも意味しない。
それは、択一段階の平均合格年齢・24歳以下合格率をみれば、明らかなことである。

やはり、何か論文には見えないコツがある、ということだろう。
それを、若手は発見し易く、受験が長期にわたると発見できなくなる。
それは、趣旨から論じることであったり、細かい論点を捨てて基本論点を重視すること。
そういったことだろう。
しかし、近年の長期受験生は、そんなことは当然知っているはずだ。
趣旨から論じようとしているし、基本を重視している。
ただ、それが意識的になり過ぎているという感じはする。
若手は、ごく自然に、必要な限度でそれが出来ている。
一方、近時の長期の受験生は、むしろ過剰にそれをやっている。
そのため、わざわざ趣旨を書く必要もないところで、だらだらと趣旨を書いてしまう。
確かに基本ではあるけれども、前提論点でしかない。
そういうところまで、冗長に書いてしまう。
そのあたりの不自然さが、差に結びついているのではないか。

もう一つは、答案構成の問題である。
若手は、比較的ちゃんと答案構成をする。
答練慣れしていないから、きちんと下書きをするのである。
問題文を読み、構成し、書き出す。
一方、受験が長期になってくると、答案構成が雑になる傾向にあるように感じる。
問題文を深読みしすぎ、構成を途中で修正することも多い。
結果、「ああもうこんな時間だ」といって、見切り発車して失敗する。

すなわち、構成段階における基本の重視が欠けている。
基本知識だけを使ってさっさと構成し、頭を整理して書く。
そういうことができていない。
書いている途中で、別の論点を思い出して挿入してしまう。
若手は、そういうことが比較的少ない。
直感的ではあるが、その辺りが関係していそうである。

来年度以降、予備試験が始まる。
予備試験は、旧試験よりもさらに若手に有利である。
教養試験が含まれているからだ。
合格者数も、それほど期待できないだろう。
数字の上では、再度の挑戦が実を結ぶ確率は極めて低い。
受験を予定する人は、相応の覚悟をしておく必要がある。

同時に、他の道も模索すべきだろう。
よく、もう就職はできませんよ、という人がいる。
確かに、新卒に比べると、はるかに不利だろう。
しかし、それは今年の旧試験ほど困難なのか。
本気で考えることなく、目をそむけている人が多いように思う。
幸い、現在はネットを使って短時間で情報を集めることが可能だ。
ある程度は時間を割いて、情報収集をするべきである。

予備試験について

それでも、どうしても予備試験を受けたい。
そういう人は、行政法がポイントになると思う。
他の科目は、もう飽きるほどやっている。
しかし、行政法だけは、若手に近い感覚で勉強できるはずだ。
そのときの感覚。
基本書を読んでも意味がわからない部分がある。
しかし、気にしないで飛ばしたりしている。
論文では、食らいつけるところだけ、しっかり書こうとしている。
論点を落としても、「そんなの知らないよ」と、気にしていない。
そういう、他科目ではもはや感じられない新鮮な気持ちを持って、学習できるはずである。
その感覚を、逆に他科目の論文感覚にフィードバックしていく。
それが、論文で若手に近づくコツなのではないか。
そんな風に思う。

また、教養については、その比重を意識しておくべきである。
法務省は、「司法試験予備試験における出題範囲及び問題数等について」を公表している。
これによれば、短答は法律科目が合計で70〜105問。
教養が40問中20問の選択である。
教養のウェイトは、4分の1から5分の1程度である。
これは、無視してよいとまではいえない。
かといって、必死になってやる程のものでもない。
そもそも、教養は範囲が広い。
手をつけがたい、というのも、やむを得ないところである。

もっとも、サンプル問題をみると、短答は平易な知識で解けるもの。
または、その場の論理操作で解けるもの。
そういったものが、何問か含まれている。
これは、意識的にそのように作られている。

司法試験委員会会議予備試験サンプル問題検討メンバー(一般教養科目)に対するヒアリングより引用、下線は筆者)

 出題の水準については,大学卒業程度を基本とすることとされているが,具体的にどのようなものを想定するのかについては,例えば,大学での履修によって初めて身に付くような専門的な内容を含めるべきかどうかなど,検討メンバーの間でも議論があった。この点については,大学の設置基準において教養科目と専門科目の区別が取り払われており,大学卒業時に必ず身に付けておくべき学識の定義が明確でなくなっていること,受験者は,短答式試験において法律基本科目7科目と同時に一般教養科目を受験することになり,一般教養科目に特化した準備を求めるのは困難ではないかと考えられること,大学卒業者であっても,予備試験の受験まで一定の年数を経ていることが想定され,過去に履修した当時の知識を子細かつ正確に記憶していることを求めるのは困難ではないかと考えられることなどを考慮して,ある程度の基本的な知識は前提とするが,過度に難解で専門的な内容は問わないこととする。また,大学卒業までの過程で,学習し,理解した経験があれば,その当時に習得した知識を子細かつ正確に記憶していなくとも,ある程度は解答が可能となるようなものとするのが適当であろうと考えた。

(引用終わり)

そういった自分でも解ける問題を、時間内にいかにうまくピックアップできるか。
その訓練の方に、重点を置いておくべきである。

一方、論文の方の問題数は、法律基本7、教養1、実務基礎2である。
教養は、10分の1に過ぎない。
また、特別な知識は要求されないようになっている。

司法試験委員会会議予備試験サンプル問題検討メンバー(一般教養科目)に対するヒアリングより引用、下線は筆者)

 論文式試験において,どのような素材を用いてどのような設問を作成するかを検討するに当たり,全受験者が同一の問題を解答することを考慮し,専門的な知識の有無が解答に際して有利・不利にならないように配慮する必要があるとの認識で一致していた。

(引用終わり)

サンプル問題をみる限り、単なる現代文である。
これは、大学入試の頃は、苦手だった人が多かったはずである。
しかし、ここは飽きるほど短答の読解問題や論文答練をやった経験が生きる。
ざっとサンプル問題をみてみよう。
まず、設問1の要約は、かつて択一で出た判例読解を意識すればよい。
ポイント部分だけ、骨子だけ下線を引いて、引用摘記すれば足りる。
詳論は避けるが、ポイントは、「私は「一八〇〇年以前の音楽は話し,それ以後の音楽は描く」と言いたい。」の部分である。
ここを起点に、話すとは何か、描くとは何か、に該当する部分だけ摘記すればよい。
要は、前者はわかる者にだけわかるものである。
筆者としては、本来の音楽、という肯定的ニュアンスがある。
他方、後者は誰にでもわかるものであって、政治的・煽動的なものである。
本来の音楽を、恣意的に歪め、利用している、という批判的ニュアンスがある。
設問2は、一種の小論文である。
しかし、上記要約を踏まえて論理的にどういうことがいえるか、を書けば足りる。
民法や民訴の一行と、書き方は同じだ。
これまでの過酷な訓練で、信じられないほど文章力は付いているはずだ。
書いてみると、それほど苦にならないはずである。
本問では、安易に外国に理解されるような形に変容する危険。
例えば、外国人の体格に合わせたルール変更や、技の名称変更。
そういったものが、本来の国技の本質を失わせないか。
または、国技の国際化によって国威発揚に利用される危険。
そういったものを強調して、否定的な帰結を導きうることを示す。
その上で、自分なりに肯否の理由と結論を述べればよいだろう。

以上のように、短答・論文共に、さほど特別の知識を要しない。
慌てて教養の勉強をするのは、得策ではない。
ある程度、短答向けの知識の習得の時間を取るとすれば、薄いセンター対策本を読むくらいだろう。
知識の水準としては、センターレベルが念頭に置かれているからである。

司法試験委員会会議予備試験サンプル問題検討メンバー(一般教養科目)に対するヒアリングより引用、下線は筆者)

 検討メンバーから,「解答に際して必要となる知識としては,大学入試センター試験レベルの知識あるいは教養的知識を基本とし,その知識を前提として,大学で身に付けるような思考・分析・理解を展開すれば,解答が可能なものとするのが相当ではないか。」との意見が述べられ,大方の賛同を得ていた。

(引用終わり)

また、実務基礎科目については、前記の通り、ウェイトは2割程度である。
無視できないが、それほど高くもない。
内容的には、民事は要件事実と手続に重点を置いた民訴。
刑事は、当てはめに重点を置いた刑法と刑訴。

旧試験組として気をつけるのは、要件事実である。
これは、本番の新試験でも、出題される。
しっかりやっておきたい。
教材としては、類型別 問題研究 30講 がオーソドックスである。
最終的な知識としては、類型別でよい。
その理解の前提として問題研究。
より深めた実質の理解の参考として、30講。
そういった位置づけで考えると良い。

その他の部分は、何とかなるだろう。
民訴・刑訴については、規則も引けるようにはなっておきたい。
規則については、新試験短答で出題されている。
従って、予備試験短答でも出題可能性がある。
余裕のあるうちに一度素読しておくべきだろう。
同様に、民事については、執行・保全についても学習しておく必要がある。
執行・保全は実務基礎として出題されうるし、本試験でも付随的に出題されているからである。

司法試験委員会予備試験サンプル問題検討メンバー(法律実務基礎科目(民事))に対するヒアリングより引用)

 論文式試験のサンプル問題には,民事保全や民事執行を入れなかったが,これも出題範囲には含まれることとなる。

(引用終わり)

 

平成21年度新司法試験採点実感等に関する意見商法より引用、下線は筆者)

2 採点方針,採点実感等

 民事系科目第2問の設問4から設問6までが商法からの出題であるが,これらは,いずれも,問題文に示された比較的詳細な事実や議決権行使書面及び委任状といった法的文書を読み解き,分析して,商法上の論点を的確に抽出した上,民事訴訟や民事保全の手続をも活用しつつ,事案に即した有効な法的対応を行うことができるかという,法曹に求められる基本的な知識と能力を試すものである。

4 今後の法科大学院教育に求めるもの

 受験生には,議決権行使書面と委任状の問題,民事保全の手続による救済等のように,基本的であり,かつ,実務的にも非常に重要な制度に関する理解ができていない傾向が見られる。

(引用終わり)

ただ、ここは他の受験生も手薄なところである。
余裕があれば、適当な概説書 を一冊選んで、条文を引きながらざっと通読しておく程度でよい。

法曹倫理は、独立の科目としては出題されない。
また、そもそも毎年出題されるわけではない。
特に、刑事系では、出題頻度は低くなりそうである。

司法試験委員会会議第64回(平成22年3月29日)より引用、下線は筆者)

 法律実務基礎科目のサンプル問題には,サンプルとして示すという趣旨から,民事・刑事のいずれにも法曹倫理の問題が含まれている。サンプル問題には法曹倫理も入れておくとしても,実際の試験では,年によって法曹倫理が出題されないこともあるということで構わないと考えている。

(引用終わり)

 

司法試験委員会予備試験サンプル問題検討メンバー(法律実務基礎科目(刑事))に対するヒアリングより引用、下線は筆者)

 刑事の法曹倫理は,出題範囲としては非常に限られるので,必ずしも毎年出題しなければならないというものではない。

(引用終わり)

また、その内実も、主として弁護士倫理である。

司法試験委員会予備試験サンプル問題検討メンバー(法律実務基礎科目(民事))に対するヒアリングより引用)

 法曹倫理という場合には,法曹三者それぞれの倫理を考えることができると思うが,事件関係者との直接的なかかわりという視点から考えると,弁護士倫理が主要なポイントになる。

(引用終わり)

具体的には、弁護士法弁護士職務基本規程の一部である。
多くの人が、ここまでは手が回らないだろう。
また、出題も常識的に判断できるようなものになりそうである。
とはいえ、普段ほとんど馴染みのない条文であるし、また、何をよりどころに論じればよいかわからない。
余裕があれば、概説書 を参照しつつ関係規定を一読するとよいだろう。

最後に、最も重要な点は、刑法プラス応用3法の知識である。
旧試験では、応用3法は択一がないし、刑法はほとんどパズルだった。
そのため、これらの科目の知識は、長期の受験生でもかなり乏しい。
しかし、新試験の短答では、これら科目でもかなり細かい知識が訊かれる。
予備試験でも、それなりに知識を訊いてくるだろう。
教養や実務基礎の方に目を奪われて、これらを落とすと、手痛いことになる。
全体のウェイトは、あくまで法律基礎の方にあることを、忘れてはいけない。
肢別本 等を使って、手堅く押さえておきたい。

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