最新下級審裁判例

福岡高裁那覇支部判決平成22年03月09日

(以下,別紙略語表記載のとおりの略語を用いる。)

【事案】

1.平成21年8月30日施行の衆議院議員総選挙(本件総選挙)について,沖縄県第1区の選挙人である原告が,衆議院小選挙区選出議員の選挙(小選挙区選挙)の選挙区割りに関する公職選挙法の規定(本件区割規定)が憲法に違反し無効であるとして,その下で施行された本件総選挙の上記選挙区における選挙を無効とすることを求めた事案。

2.本件総選挙に係る選挙制度

(1) 衆議院議員の選挙制度については,平成6年法律第104号(平成6年改正法)に至る一連の改正を経るまでは,公職選挙法において,いわゆる中選挙区単記投票制が採用されていたが,平成6年改正法により,いわゆる小選挙区比例代表並立制が採用されるに至った。
 本件総選挙施行当時の選挙制度の概要は,衆議院議員の定数を480人とし,そのうち300人を小選挙区選出議員,180人を比例代表選出議員とし(公職選挙法4条1項),小選挙区選挙については,全国に300の選挙区を設け,各選挙区において1人の議員を選出し,比例代表選出議員の選挙(比例代表選挙)については,全国に11の選挙区を設け,各選挙区において所定数の議員を選出するというものである(同法13条1項,2項,別表第1,第2)。小選挙区選挙と比例代表選挙は,総選挙において同時に行うものとされ,小選挙区選挙及び比例代表選挙ごとに1人1票が割り当てられている(同法31条,36条)。

(2) 上記改正と一連のものとして,衆議院議員選挙区画定審議会設置法(区画審設置法)が制定された。
 区画審設置法に基づいて設置された衆議院議員選挙区画定審議会(区画審)は,衆議院小選挙区選出議員の選挙区の改定に関し,調査審議し,必要があると認めるときは,その改定案を作成して内閣総理大臣に勧告するものとされている(同法2条)。区画審が,上記の改定案を作成するに当たっては,各選挙区の人口の均衡を図り,各選挙区の人口のうち,その最も多いものを最も少ないもので除して得た数が2以上とならないようにすることを基本とし,行政区画,地勢,交通等の事情を総合的に考慮して合理的に行わなければならないものとされ(同法3条1項),また,各都道府県の区域内の選挙区の数は,各都道府県にあらかじめ1(合計47)を配当した上で,これに,小選挙区選出議員の定数に相当する数から都道府県の数を控除した数(合計253)を人口に比例して各都道府県に配当した数を加えた数とするとされている(同条2項。1人別枠方式)。
 1人別枠方式は,過疎地域に対する配慮などから,人口の多寡にかかわらず各都道府県にあらかじめ定数1を配分することにより,相対的に人口の少ない県に居住する国民の意見をも十分に国政に反映させることができるようにすることを目的とするものとされている。

(3) 区画審は,統計法(平成19年法律第53号)5条2項本文の規定により10年ごとに行われる国勢調査(大規模調査)の結果による人口が最初に官報で公示された日から1年以内に上記勧告を行うものとされ(区画審設置法4条1項),各選挙区の人口の著しい不均衡その他特別の事情があると認めるときも,上記勧告を行うことができるものとされている(同条2項)。

(4) 区画審は,平成19年法律第53号による全部改正前の統計法(昭和22年法律第18号)4条2項本文の規定により平成12年10月に実施された国勢調査(平成12年国勢調査)の結果による人口(速報値)に基づき,衆議院小選挙区選出議員の選挙区の改定案を作成して内閣総理大臣に勧告し,これを受けて,その勧告どおり選挙区割りの改定を行うことなどを内容とする公職選挙法の一部を改正する法律(平成14年法律第95号。区割改定法)が成立した。

3.本件区割規定の下における選挙区間の較差

 本件区割規定の下における選挙区の人口ないし選挙人数及びその較差は,おおむね以下のとおりである(別表T−1ないし6参照)。

@ 平成12年国勢調査の結果による人口(速報値)を基に,本件区割規定の下における選挙区間の人口の較差を見ると,最大較差は,人口が最も少ない高知県第1区(27万0743人)と人口が最も多い兵庫県第6区(55万8947人)との間で1対2.064(小数点第4位以下四捨五入。以下同じ。)であり,人口が最も少ない高知県第1区と比較して較差が1対2以上となっている選挙区は,9選挙区であった。なお,上記人口を基とすると,本件区割規定の下における高知県第1区と沖縄県第1区(31万5800人)の人口の較差は,1対1.166であった。

A 平成17年9月11日に施行された前回総選挙の当日の選挙人数を基に,本件区割規定の下における選挙区間の選挙人数の較差を見ると,最大較差は,選挙人数が最も少ない徳島県第1区(21万4235人)と選挙人数が最も多い東京都第6区(46万5181人)との間で1対2.171であり,選挙人数が最も少ない徳島県第1区と比較して較差が1対2以上となっている選挙区は,33選挙区であった。なお,上記選挙人数を基とすると,本件区割規定の下における徳島県第1区と沖縄県第1区(25万0505人)の選挙人数の較差は,1対1.169であった。

B 平成17年国勢調査の結果による人口(確定値)を基に,本件区割規定の下における選挙区間の人口の較差を見ると,最大較差は,人口が最も少ない高知県第3区(25万8681人)と人口が最も多い千葉県第4区(56万9835人)との間で1対2.203であり,人口が最も少ない高知県第3区と比較して較差が1対2以上となっている選挙区は,48選挙区であった。なお,上記人口を基とすると,本件区割規定の下における高知県第3区と沖縄県第1区(32万6940人)の人口の較差は,1対1.264であった。

C 平成20年9月2日現在の選挙人名簿及び在外選挙人名簿登録者数を基に,本件区割規定の下における選挙区間の選挙人数の較差を見ると,最大較差は,選挙人数が最も少ない高知県第3区(21万4484人)と選挙人数が最も多い千葉県第4区(48万3702人)との間で1対2.255であり,選挙人数が最も少ない高知県第3区と比較して較差が1対2以上となっている選挙区は,38選挙区であった。なお,上記選挙人数を基とすると,本件区割規定の下における高知県第3区と沖縄県第1区(25万5551人)の人口の較差は,1対1.191であった。

D 平成21年3月31日現在の住民基本台帳人口を基に,本件区割規定の下における選挙区間の人口の較差を見ると,最大較差は,人口が最も少ない高知県第3区(25万2840人)と人口が最も多い千葉県第4区(59万0943人)との間で1対2.337であり,人口が最も少ない高知県第3区と比較して較差が1対2以上となっている選挙区は,56選挙区であった。なお,上記人口を基とすると,本件区割規定の下における高知県第3区と沖縄県第1区(32万7524人)の人口の較差は,1対1.295であった。

E 本件総選挙当日の選挙人数を基に,本件区割規定の下における選挙区間の選挙人数の較差を見ると,最大較差は,選挙人数が最も少ない高知県第3区(21万1750人)と選挙人数が最も多い千葉県第4区(48万7837人)との間で1対2.304であり,選挙人数が最も少ない高知県第3区と比較して較差が1対2以上となっている選挙区は,45選挙区であった。なお,上記選挙人数を基とすると,本件区割規定の下における高知県第3区と沖縄県第1区(25万5502人)の選挙人数の較差は,1対1.207であった。

4.本件総選挙の施行等

(1) 原告は,本件総選挙の沖縄県第1区の選挙人である。

(2) 本件総選挙の小選挙区選挙は,平成21年8月30日,区割改定法により改定された選挙区割り(本件区割規定)の下で施行された(なお,この間行われた平成15年法律第69号による選挙区割りの改定は,埼玉県内の一部の選挙区を対象としたものであるから,本件の判断に実質的に影響しない。)。

(3) 原告は,平成21年9月28日,本件訴えを提起した。

【当事者双方の主張】

1.原告の主張

(1) 憲法の定める国民主権と多数決原理

ア.憲法は,「日本国民は,正当に選挙された国会における代表者を通じて行動」すること,「主権が国民に存すること」を規定するとともに(前文),普通選挙(15条3項,44条),最高裁判所裁判官国民審査(79条2項,3項),憲法改正の承認(96条1項)の3点において,国民による投票権を保障している。これらの投票結果は,数学的正確性をその本質とする多数決原理により判断される上,憲法は,法の下の平等を保障し(14条1項),選挙人の資格についての差別の禁止も定めているから(44条ただし書),それぞれの1票の価値は等価でなければならない。上記のとおり,投票価値の平等が憲法上の要求である以上,国会の立法権限も,これに覊束されている。

イ.被告は,選挙区割りや議員定数の配分を定める立法を行うに当たり,国会に広範な裁量が認められると主張する。
 しかし,国会議員は,上記立法に利害関係を有する者であるから,裁量権を合理的に行使することを期待することができない。したがって,上記裁量を許容する前提に欠ける。

ウ.被告は,選挙区割りや議員定数の配分を定める立法を行うに当たり,国会が考慮することができる要素として,都道府県等の地方公共団体の区域,人口密度や地理的状況,人口の都市集中化及び過疎化現象等を挙げた上で,これらの要素を前提として1人別枠方式を採用することも,国会の裁量の範囲内であると主張する。
 しかし,これらの要素は,投票価値の平等という憲法上の要求を減殺することのできる要素となるものではなく,1人別枠方式の採用を正当化するものでもない。

(2) 本件区割規定の合憲性について

 上記のとおり,本件区割規定は,国会において,考慮すべきでない要素を考慮して定められたものである。そして,上記のとおり,本件区割規定の下では,1対2を優に超える投票価値の不平等が生じている。本件区割規定と同様の考え方に立ち,市区の大字,町丁の区分を考慮し,これを分断しないような形で,投票価値の比率がほぼ1対1になるような選挙区割りを定めることは,技術的にも決して不可能ではない。
 したがって,本件区割規定は,合理的な理由なく投票価値の平等を侵害したものであって,違憲と評価すべきである。そうである以上,本件区割規定の下で施行された本件総選挙の沖縄県第1区における選挙は,無効とすべきものである。

2.被告の主張

(1) 選挙制度に関する国会の裁量権

 憲法は,代表民主制を採用するとともに(前文,43条1項),両議院の議員の定数,選挙区,投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は法律で定めるものと規定し(43条2項,47条),両議院の議員の各選挙制度の仕組みの具体的決定を国会の裁量にゆだねている。そして,憲法は,各選挙人の投票の価値の平等を要求しているから,国会は,上記裁量権を行使するに当たり,投票価値の平等を考慮しなければならないこととなる。
 しかしながら,各選挙人の投票価値の平等は,国会が両議院の議員の選挙制度を決定する際の唯一,絶対の基準となるものではなく,国会が正当に考慮することのできる他の政策的目的ないし理由との関連において,調和的に実現されるべきものである。それゆえ,国会が,当該選挙制度を定めたことが,国会の裁量権の行使として合理性を是認し得るものである限り,違憲の問題が生ずることはない。
 したがって,国会の定めた選挙制度が,投票価値の平等を侵害しているために違憲であるといえるのは,国会が選挙に関する事項について有する裁量の範囲を逸脱した場合,すなわち,当該選挙制度の下における投票価値の不平等の程度が,国会において正当に考慮し得る諸般の要素を斟酌してもなお,一般に合理性を有するものとは到底考えられない程度に達している場合であり,かつ,これを正当化する特別の理由が示されない場合に限られるというべきである。
 上記のような考え方は,累次の最高裁判決において示されており,判例として確立している。

(2) 本件区割規定の合憲性について

ア.平成6年改正法に至る一連の改正までにも,投票価値の平等を図るため,衆議院議員選挙の定数に関し,累次の法改正がされてきたが,更に抜本的な改正を図るため,上記の一連の改正がされ,その一環として,区画審設置法が制定された。
 区画審設置法により設置された区画審は,衆議院小選挙区選出議員の選挙区の改定に関し,10年ごとに行われる国勢調査(大規模調査)の結果による人口に基づき,1人別枠方式を前提とした上で,各選挙区の人口の較差が1対2以上とならないようにすることを基本とし,行政区画,地勢,交通等の事情を総合的に考慮して,合理的に改定案を作成するものとされている。

イ.区画審は,平成13年12月,平成12年国勢調査の結果による人口(速報値)に基づき,衆議院小選挙区選出議員の選挙区の改定案を作成して内閣総理大臣に勧告したところ,これに沿う内容で,区割改定法が成立し,公布された。区割改定法によっても,人口最少選挙区との較差が1対2以上の選挙区は,完全には解消されなかったものの,区割改定法による改正前には95選挙区あったものが同改正により9選挙区と大幅に減少したほか,それ以上の縮減を図ると,市区等の基礎的自治体を分割したり,近接する多数の選挙区を含めた大幅な見直しをすることが必要となるなどの理由から,区割改定法には合理性があると判断され,成立に至ったものである。

ウ.また,区画審は,平成17年12月から平成18年2月にかけて,平成17年国勢調査の結果による人口(速報値)を踏まえ,区画審設置法4条2項にいう「各選挙区の人口の著しい不均衡その他特別の事情がある」と認められるかどうか検討を行った。その結果,選挙区間の人口の最大較差は1対2.203であり,較差が1対2を超える選挙区が48あると認められたものの,都道府県や市町村という行政区画を前提に区割りを行う以上,最大較差1対2.203という投票価値の不平等の程度は,これまでの最高裁判例に照らしても,一般に合理性を有するとは考えられない程度に達しているとはいえず,また,較差が1対2を超える選挙区が48あることも,過去の状況に照らし,必ずしも異常とはいえないこと,市区町村において多くの合併が行われ,今後も行われることが予定されていて,現在新たな基礎自治体として地域の一体化が進められている途上にあるというべき状況などを斟酌し「各選挙区の人口の著しい不均衡, その他特別の事情がある」とは認められないと判断し,勧告は行わないこととした。
 その結果,本件区割規定の下で,本件総選挙が施行されるに至った。

エ.平成17年国勢調査の結果による人口(確定値)を基準として,本件区割規定の下における選挙区間の人口の較差を見ると,人口が最も少ない高知県第3区(25万8681人)と沖縄県第1区(32万6940人)との間で1対1.264であり,高知県第3区と人口が最も多い千葉県第4区(56万9835人)との間で1対2.203である。
 また,本件選挙当日の選挙人数を基準として,本件区割規定の下における選挙区間の選挙人数の較差を見ると,選挙人数が最も少ない高知県第3区(21万1750人)と沖縄県第1区(25万5502人)との間で1対1.207であり,高知県第3区と選挙人数が最も多い千葉県第4区(48万7837人)との間で1対2.304である。

オ.最高裁判所は,本件区割規定の下において平成17年9月11日に施行された前回総選挙につき,選挙区間の最大較差が,平成12年国勢調査の結果による人口を基にした人口比で1対2.064,総選挙当日の選挙人数の比で1対2.171であったところ,本件区割規定が憲法に違反するものとはいえず,前回総選挙は違憲,違法ではないとした(平成19年判決)。
 上記のとおり,平成17年国勢調査の結果による人口や,本件総選挙の当日の選挙人数を基にすると,選挙区間の人口ないし選挙人数の較差は,前回総選挙と有意な差はないから,本件総選挙においても,平成19年判決の趣旨は妥当する。
 したがって,本件区割規定は,本件総選挙の時点においても合憲であり,これに基づいてされた本件総選挙の沖縄県第1区における選挙は,有効である。

【判旨】

1.投票価値の平等と国会の裁量について

(1) 憲法は,国会の両議院の議員の選挙について,およそ議員は全国民を代表するものとするほかは,議員の定数,選挙区,投票の方法その他選挙に関する事項は法律で定めるものとしているにとどまるから(43条,47条),両議員の各選挙制度の仕組みの具体的決定を,国会の合理的な裁量にゆだねる趣旨であると解される。

(2) 他方,憲法は,法の下の平等を定めて(14条1項),一般的に平等の原理を宣明した上,特に政治の領域におけるその適用として,成年者による普通選挙を保障するとともに(15条1項,3項),選挙人資格の差別の禁止を定めている(44条ただし書)。そうすると,憲法は,選挙人資格の差別を禁止するにとどまらず,選挙権の内容,すなわち,各選挙人の投票価値の平等をも要求しているものというべきである。そうである以上,国会は,上記の裁量権を行使するに当たっては,各選挙人の投票価値の平等を実現するよう,最大限の考慮をしなければならない。しかし,投票価値の完全な平等を実現することは困難であるから,憲法は,投票価値の平等を,選挙制度の仕組みを決定する唯一,絶対の基準とするのではなく,国会が正当に考慮することのできる他の政策的ないし技術的要素との関連において,調和的に実現することを求めているものと解される。

(3) この点について,原告は,投票価値の平等が憲法上の要求である以上,国会の立法権限もこれに覊束されているとか,国会議員は,選挙制度の仕組みに直接の利害関係を有するので,国会は,選挙区割りや議員定数の配分を定める立法を行うに当たり,裁量を有しないと主張する。
 しかし,投票価値の完全な平等は,全国を一つの選挙区とする選挙制度を採用しない限り,実現不可能であるが,憲法が,そのような選挙制度以外を是認しない趣旨であるとは,到底考え難い。むしろ,前記のとおり,憲法が,選挙に関する事項は法律で定めるものとし,具体的な定めを置いていないのは,選挙区割りや議員定数の配分の具体的な内容を,国会の合理的な裁量にゆだねる趣旨と解すべきである。原告の上記主張は,採用することができない。

(4) 以上を総合すると,国会が定めた選挙区割りや議員定数の配分に関する規定の合憲性は,国会の裁量権の合理的行使として是認し得るか否かによって判断すべきである。これを,特に原告が問題とする投票価値の平等との関連でいえば,投票価値の不平等の程度が,国会において通常考慮し得る諸般の要素を斟酌してもなお,一般に合理性を有するものとは考えられない程度に達しているのに,これを正当化すべき特別の理由が示されない場合には,上記の裁量を逸脱した立法として,違憲と判断されるものというべきである。

2 本件区割規定の合憲性について

(1) 本件総選挙に係る選挙制度の概要は,前記のとおりであるが,その小選挙区選挙の特徴は,各都道府県に,あらかじめ各1(合計47)の定数配分を行い,その余(合計253)につき,各都道府県の人口に比例して定数配分を行うこと(1人別枠方式)にある(現行の選挙制度では,小選挙区制が採用されているため,各都道府県における選挙区の数と議員定数とは一致している。)。
 そもそも,1人別枠方式は,人口とは無関係に各都道府県に各1(合計47)の定数を配分し,その余(合計253)に限り,人口に比例して定数配分を行うものであるから,各都道府県の人口に約20倍の較差(人口約60万人の鳥取県と約1200万人の東京都の較差)のある現状の下では,必然的に人口と定数配分との比例関係を減殺させることになる。
 このことを検証するために,人口比例方式による定数配分(なお,人口と選挙人数とはおおむね比例関係にあるから,人口との比例方式を採用するか,選挙人数との比例方式を採用するかによって,有意な差は生じないものと推察される。)と1人別枠方式による定数配分とを,平成12年国勢調査の結果による人口(速報値)及び平成17年国勢調査の結果による人口(確定値)に基づいて試算すると,別表U−1ないし4記載のとおりとなる。この試算結果を見ると,選挙区間の人口の較差が1対1.2までに収まるものが,人口比例方式では30選挙区程度に上るのに,1人別枠方式では6選挙区程度にとどまること,較差が1対1.6以上のものが,人口比例方式では1選挙区程度にすぎないのに,1人別枠方式では12選挙区程度に達することが看取されるから,1人別枠方式が,人口と定数配分との比例関係を相当程度に減殺させるものであることは,明らかである。

(2) 以上のような検討を前提に,本件区割規定の合憲性を判断する。

ア.区画審設置法において1人別枠方式が採用されたのは,人口の多寡にかかわらず各都道府県にあらかじめ各1の定数を配分することによって,相対的に人口の少ない県に定数を多めに配分し,人口の少ない県に居住する国民の意見をも十分に国政に反映させることができるようにすることを目的とするものと解される。

イ.そして,そもそも,都道府県は,これまで我が国の政治及び行政の実際において相当の役割を果たしてきたことや,国民生活及び国民感情においてかなりの比重を占めていることから,選挙区割りや定数配分を定めるに当たって無視することができない基礎的な要素の一つというべきである。また,選挙区割りや定数配分を定めるに当たっては,人口密度や地理的状況のほか,人口の都市集中化及びこれに伴う人口流出地域の過疎化現象等にどのような配慮をするかということも,考慮することができる要素の一つというべきである。
 このことに加え,区画審設置法が,選挙区間の人口の較差が1対2未満になるように区割りをすることを基本とすべきことを基準として定めており,投票価値の平等にも一定の配慮をしていることを併せ考慮すると,国会が,1人別枠方式を採用した区画審設置法を定めたことには,投票価値の平等との関連において,直ちに裁量の逸脱があったとまではいい難い。

ウ.原告は,これら都道府県,人口密度や地理的状況,人口の都市集中化及び過疎化現象等の要素によって,投票価値の平等という憲法上の要求を減殺することは許されないと主張する。
 しかし,上記のとおり,都道府県は,一つの基本的行政単位であり,地理的,歴史的裏付けを持つことに加え,都道府県を重要な要素とする地方自治が憲法上の制度的保障であること,従来の選挙も都道府県を単位として施行されており,技術的な理由からも都道府県単位で選挙を施行することが合理的といい得ることにかんがみれば,都道府県を単位として定数配分を行う区画審設置法の規定が,直ちに国会の裁量を逸脱して定められたものであるとはいえない。また,少なくとも平成6年改正がされたころは,各地域の人口密度や地理的状況が様々であり,人口の都市集中化及び過疎化現象等の課題を抱える地域とそのような課題を抱えていない地域とが混在し,各地域で民意が異なり得た状況にあったと推察されないではないこと,憲法が,選挙制度の構築について,国会の広い裁量にゆだねていることからすると,上記の各要素を考慮して選挙区割りや定数配分をすることを定めた区画審設置法の規定が,直ちに国会の裁量を逸脱したものであるとはいい難い。
 したがって,1人別枠方式を採用した区画審設置法及びこれに基づく区割改定法は,前回総選挙当時においては,直ちに違憲であったとまではいえない(平成11年判決,平成13年判決,平成19年判決各参照)。

エ.しかしながら,人口密度や地理的状況,人口の都市集中化及び過疎化現象等は,各地域にとっての重要な社会問題であることは否定することができないにしても,人口の少ない地域に特有の課題というわけではない。また,国会議員が全国民の代表であることにかんがみれば(憲法43条1項),人口の少ない地域の選挙区から選出された衆議院議員しか,上記の各点についての問題意識を共有することができないというものでもない。特に,前回総選挙後,本件総選挙に至るまで,国家の社会経済的,政治的利害が多元化するに伴い,国民の意思を反映させるべき国家の重要課題はなお一層多様化してきているから,そのような重要課題のうち,上記のような人口の都市集中化及び過疎化現象等だけを取り出して,選挙区割りや定数配分において特段の措置を執ることの合理性は,遅くとも本件総選挙の時点においては,相当程度に失われていたものといわざるを得ない(もともと,1人別枠方式は,平成6年改正法による選挙制度の根本的な改正に伴う議席配分の急激な変化を緩和する目的を有していたものと推察され,その意味において,言わば過渡的な措置という性質を帯びていたものということができる。)。
 そして,前記のとおり,本件区割規定の下における選挙区間の人口ないし選挙人数の最大較差は,平成12年国勢調査の結果による人口(速報値)を基にすると1対2.064(較差が1対2以上となっている選挙区は9),前回総選挙当日の選挙人数を基にすると1対2.171(同33選挙区),平成17年国勢調査の結果による人口(確定値)を基にすると1対2.203(同48選挙区),平成20年9月2日現在の選挙人名簿及び在外選挙人名簿登録者数を基にすると1対2.255(同38選挙区),平成21年3月31日現在の住民基本台帳人口を基にすると1対2.337(同56選挙区),本件総選挙当日の選挙人数を基にすると1対2.304(同45選挙区)であって,前回総選挙の後には,最大較差が1対2を優に超えており,かつ,較差が1対2を超える選挙区の数も,40ないし50程度と,全選挙区の1割(30選挙区)を大きく超える状態が恒常化している。このような状態は,全選挙区の1割を超える選挙区の選挙人に対し,1人0.5票以下を投票する権利しか付与しないことと同視することができる状態であるから,選挙区間の投票価値の不平等が,一般に合理性を有するものとは考えられない程度にまで達していたものと評価せざるを得ない。

オ.上記のような状態が生じた主要な原因は,区画審設置法が1人別枠方式を採用していることにあるというべきところ,1人別枠方式の合理性が相当程度失われているのは前記のとおりであるから,上記のような投票価値の不平等は,これを正当化する特別の理由がない(もっとも,1人別枠方式を採用する区画審設置法を所与の前提とした場合,区画審が,平成17年国勢調査の結果による人口(速報値)を踏まえ,同法4条2項に基づく勧告を行わないとしたことは,同法の趣旨に反するものとはいい難い。)。

(3) そうすると,本件区割規定は,本件総選挙の当時,憲法上の選挙権の平等の要求に反する程度に達しており,投票価値の平等を侵害する違憲状態に至っていたものと判断される。そして,本件区割規定は,全体として一体不可分であるから,最大較差を生じた選挙区に関する部分のみならず,その全体が違憲状態の瑕疵を帯びることとなる(昭和51年判決参照)。

3.国会の立法不作為の成否について

(1) 以上のとおり,本件区割規定は,本件総選挙の当時には,投票価値の平等を侵害する違憲状態に至っていたというべきであるが,本件区割規定が違憲となるのは,憲法上要求される合理的な期間内にその是正が行われなかったといえる場合に限られると解すべきであるから(昭和51年判決参照),本件が,そのような場合に当たるか否かを検討する。

(2) 最高裁判所は,平成11年判決において,1人別枠方式を採用した区画審設置法及びこれに基づく当時の選挙区割りを合憲と判断し,平成13年判決においても,その判断を踏襲した。また,平成19年判決において,改めて,1人別枠方式を採用した区画審設置法を合憲とした上で,本件区割規定を合憲と判断していた。
 それぞれの判決には,1人別枠方式が,投票価値の平等を保障する憲法の趣旨に沿うものとはいい難い上,選挙区間の人口の較差が1対2を超えているから,当該選挙区割りの合憲性に深刻な疑問があるとする,複数の裁判官(平成11年判決につき5名,平成13年判決につき1名,平成19年判決につき6名)による個別意見が付されていた。
 この間,区画審は,平成18年2月2日,平成17年国勢調査の結果による人口(速報値)を総合判断した結果,本件区割規定に係る選挙区間の人口の最大較差が1対2.203であり,これが,平成11年判決が合憲判断をした選挙区割りに係る選挙区間の人口の最大較差である1対2.309,及び平成13年判決が合憲判断をした選挙区割りに係る選挙区間の選挙人数の最大較差である1対2.471をいずれも下回ることを主要な根拠として,区画審設置法4条2項に基づく勧告を行わないこととしていた。
 これらの事情を考慮すると,区画審及びその答申を受けた内閣総理大臣並びにこれを知り得る立場にあった国会において,1人別枠方式を採用した区画審設置法がその合理性を相当程度失っており,これを前提とした本件区割規定が違憲状態にあるとの評価を免れず,その改正が必要であると認識することは,少なくとも本件総選挙に至る一定程度以前の段階では,必ずしも容易ではなかったものといわざるを得ない。

(3) そうすると,国会が,本件総選挙に至るまで,1人別枠方式を採用した区画審設置法及びこれを前提とした選挙区割りである本件区割規定を改正しなかったことには,無理からぬ事情があったというべきであり,これをもって,憲法上要求される合理的な期間内に是正が行われなかったものと評価することはできない。

4.まとめ

 以上のとおり,1人別枠方式を採用した区画審設置法及びこれを前提とした選挙区割りである本件区割規定は,本件総選挙の当時,一般に合理性を有するとは考えられないほどの投票価値の不平等を内在するものとして,全体として違憲状態にあったものであるが,国会が,憲法上要求される合理的な期間内にその是正を行わなかったものと評価することはできないから,本件区割規定は,いまだ違憲というには至っていなかったというべきである。

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