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最高裁判所第三小法廷平成22年03月30日判決

【事案】

1.@ 商品取引員である上告人に金の商品先物取引を委託した被上告人が,上告人に対し,(ア) 主位的に,消費者契約法4条1項2号又は2項本文により委託契約の申込みの意思表示を取り消したと主張して,不当利得返還請求権に基づき,上告人に預託した委託証拠金相当額の支払を求め,予備的に,上告人の外務員から違法な勧誘を受け損害を被ったと主張して,不法行為又は債務不履行に基づき,上記証拠金相当額の損害賠償金の支払を求めるとともに,(イ) 不法行為又は債務不履行に基づき,弁護士費用相当額の損害賠償金の支払を求める訴えと,A上告人が,被上告人に対し,上記取引において発生した差損金を商品取引所に立替払したと主張して,立替金相当額の支払を求める訴えとが併合審理されている事案。
 なお,原判決中,被上告人の請求のうち,弁護士費用相当額の損害賠償請求(上記@(イ))を棄却すべきものとした部分については,被上告人が適法な不服申立てをしていないから,同部分は,当審の審理判断の対象となっていない。

(参照条文)消費者契約法4条(消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し)

 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次の各号に掲げる行為をしたことにより当該各号に定める誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。
一  重要事項について事実と異なることを告げること。  当該告げられた内容が事実であるとの誤認
二  物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものに関し、将来におけるその価額、将来において当該消費者が受け取るべき金額その他の将来における変動が不確実な事項につき断定的判断を提供すること。  当該提供された断定的判断の内容が確実であるとの誤認

2  消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対してある重要事項又は当該重要事項に関連する事項について当該消費者の利益となる旨を告げ、かつ、当該重要事項について当該消費者の不利益となる事実(当該告知により当該事実が存在しないと消費者が通常考えるべきものに限る。)を故意に告げなかったことにより、当該事実が存在しないとの誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。ただし、当該事業者が当該消費者に対し当該事実を告げようとしたにもかかわらず、当該消費者がこれを拒んだときは、この限りでない。

3  消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次に掲げる行為をしたことにより困惑し、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。
一  当該事業者に対し、当該消費者が、その住居又はその業務を行っている場所から退去すべき旨の意思を示したにもかかわらず、それらの場所から退去しないこと。
二  当該事業者が当該消費者契約の締結について勧誘をしている場所から当該消費者が退去する旨の意思を示したにもかかわらず、その場所から当該消費者を退去させないこと。

4  第一項第一号及び第二項の「重要事項」とは、消費者契約に係る次に掲げる事項であって消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきものをいう。
一  物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの質、用途その他の内容
二  物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの対価その他の取引条件

5  第一項から第三項までの規定による消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消しは、これをもって善意の第三者に対抗することができない。

2.事実関係の概要等

(1) 上告人は,商品先物取引の受託等を目的とする会社である。また,上告人は,商品取引員であり,東京工業品取引所の会員である。

(2) 被上告人(昭和16年生まれの男性)は,上告人の外務員から商品先物取引の仕組みや相場の変動による損失発生の危険性等について説明を受け,これらを十分理解した上,平成17年11月24日,商品先物取引の危険性を了知し自らの判断と責任において取引を行うことを承諾する旨の約諾書を差し入れて,上告人との間で,商品先物取引の委託を内容とする基本契約を締結した。

(3) 上告人の外務員は,平成17年12月7日及び同月10日,被上告人に対し,東京市場における金の価格が上昇傾向にあることを告げた上,この傾向は年内は続くとの自己の相場予測を伝え,金を購入すれば利益を得られる旨説明するなどして(以下,これらの説明を「本件説明」という。),金の商品先物取引の委託契約の締結を勧誘した。

(4) 被上告人は,平成17年12月12日,上告人に対し,委託証拠金として1500万円を預託して,金200枚の買注文を出し,上告人との間で,金の商品先物取引を委託する旨の契約(以下「本件契約」という。)を締結した。上記買注文に係る売買は,同日午後3時30分に成立した。

(5) 東京市場における金の価格は,本件契約の締結時点では,高騰を続けていたが,本件契約の締結の翌日である平成17年12月13日に急落した。被上告人は,同月14日,上告人に申し入れて,手仕舞をしたが,3139万円の差損金が生じた。上告人は,上記差損金から委託証拠金1500万円を控除した残額1639万円を東京工業品取引所に立替払した。

(6) 被上告人は,本件訴訟において,@ 上告人の外務員が本件説明をしたことは,消費者契約法4条1項2号にいう断定的判断を提供したことに当たる,A上告人の外務員は,将来における金の価格につき,本件説明をする一方で,東京市場における金の価格の高騰は異常であり,ロコ・ロンドン市場における金の価格と極端にかい離していたことなど,将来における金の価格が暴落する可能性があることを示す事実を告げなかったのであって,これは同条2項本文にいう,利益となる旨を告げ,かつ,不利益となる事実を故意に告げなかったことに当たるなどとして,本件契約の申込みの意思表示の取消しを主張した。

3.原審は,次のとおり判断して,消費者契約法4条2項本文に基づく取消しの主張については理由があるとして,被上告人の主位的請求を認容し,上告人の請求を棄却した。
 本件契約において,将来における金の価格は,消費者契約法4条4項1号にいう「目的となるものの質」に当たり,かつ,消費者である被上告人の本件契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきものであるから,同条2項本文にいう「重要事項」に当たる。上告人の外務員は,将来における金の価格が上昇するとの自己の相場予測を伝えて被上告人の利益となる旨を告げる一方,被上告人の不利益となる事実である将来における金の価格が暴落する可能性を示す前記2(6)のような事実を故意に告げず,その結果,被上告人は,当該事実が存在しないと誤認し,それによって本件契約の申込みの意思表示をしたのであるから,被上告人は,同項本文に基づき,上記意思表示を取り消すことができる。

【判旨】

1.原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 消費者契約法4条2項本文にいう「重要事項」とは,同条4項において,当該消費者契約の目的となるものの「質,用途その他の内容」又は「対価その他の取引条件」をいうものと定義されているのであって,同条1項2号では断定的判断の提供の対象となる事項につき「将来におけるその価額,将来において当該消費者が受け取るべき金額その他の将来における変動が不確実な事項」と明示されているのとは異なり,同条2項,4項では商品先物取引の委託契約に係る将来における当該商品の価格など将来における変動が不確実な事項を含意するような文言は用いられていない。そうすると,本件契約において,将来における金の価格は「重要事項」に当たらないと解するのが相当であって,上告人が,被上告人に対し,将来における金の価格が暴落する可能性を示す前記2(6)のような事実を告げなかったからといって,同条2項本文により本件契約の申込みの意思表示を取り消すことはできないというべきである。
 これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由がある。

2.また,前記事実関係によれば,上告人の外務員が被上告人に対し断定的判断の提供をしたということはできず,消費者契約法4条1項2号に基づく取消しの主張に理由がないとした原審の判断は正当として是認することができるから,被上告人の同法に基づく取消しの各主張は,いずれも理由がない。したがって,原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れず,被上告人の主位的請求は棄却すべきである。そして,被上告人の予備的請求の当否及び上告人の請求に対する信義則違反の主張の当否について更に審理を尽くさせるため,被上告人の予備的請求及び上告人の請求につき,本件を原審に差し戻すこととする。

 

最高裁判所第三小法廷平成22年03月30日判決

【事案】

1.被上告人が,貸金業を営む上告人の従業員から上告人の貸金の原資に充てると欺罔され,当該従業員に金員を交付して損害を被ったことにつき,当該従業員の行為が上告人の事業の執行についてされたものであると主張して,上告人に対し,民法715条に基づき損害賠償請求をする事案。

2.事実関係

(1) 上告人は貸金業等を目的とする株式会社である。

(2) 平成16年3月ころ,上告人の従業員であったAは,真実は上告人から横領した金員の穴埋めに充てる意図であったのに,これを秘して,被上告人に対し,余裕資金があれば上告人に運用させてほしいと申し向けた(以下,Aの上記行為を「本件欺罔行為」という。)。被上告人は,これに応じて,同月31日から平成18年3月10日にかけて,8回にわたり合計3100万円をAに交付した。

(3) Aは,被上告人から上記金員を受領する都度,自らパソコンを用いるなどして作成した預り証8通を被上告人に交付していた。上記預り証のうち7通には,当時の上告人の商号(株式会社B)及び代表取締役の氏名が印字されていたが,会社印等は押捺されておらず,うち1通には,上告人の商号及び代表取締役の氏名の記載すらなく,いずれについても,Aが個人名を自署し,押印しており,中にはAの母の氏名及び連絡先が併記されたものもあった。

(4) 被上告人は,Aから,貸金の利息名目で合計1319万円を受領した。

3.原審は,次のとおり判断して,被上告人の上告人に対する請求を一部認容した。
 上告人は貸金業を営んでいるから,貸金の原資を調達することは客観的,外形的にみて上告人の被用者の職務に含まれる。上告人の商号が記載された預り証が授受されていたこと,交付された金額が3000万円を超えるものであったことに照らせば,被上告人とAとの間の金員の授受は,単なる個人的な取引ではなく,上告人の被用者の職務である資金調達としての外形を備えていたというべきである。したがって,Aの本件欺罔行為は,上告人の事業の執行についてされたものであるから,上告人は,民法715条に基づき,これにより被上告人が被った損害を賠償する責任を負う。

【判旨】

1.原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 上告人は貸金業を営む株式会社であって,Aを含む複数の被用者にその職務を分掌させていたことが明らかであるから,本件欺罔行為が上告人の事業の執行についてされたものであるというためには,貸金の原資の調達が使用者である上告人の事業の範囲に属するというだけでなく,これが客観的,外形的にみて,被用者であるAが担当する職務の範囲に属するものでなければならない。ところが,原審は,貸金の原資を調達することが上告人の事業の範囲に属するということのみから直ちに,これが上告人の被用者の職務の範囲に属するとして,本件欺罔行為が上告人の事業の執行についてされた行為に該当するとしたものであるから,その判断には,民法715条の解釈適用を誤った違法がある。

2.以上によれば,原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決中,上告人敗訴部分は破棄を免れない。
 そして,被上告人は,Aが担当する職務の内容,上告人の資金調達に関するAの職務権限,当該職務と本件欺罔行為との関連性等に関し,何ら主張立証をしていないのであって,貸金の原資の調達が客観的,外形的にみてAの担当する職務の範囲に属するとみる余地はない。そうすると,被上告人の請求を棄却した第1審判決は正当であるから,上記部分につき被上告人の控訴を棄却することとする。

 

最高裁判所第三小法廷判決平成22年03月30日

【事案】

1.上告人の設置する大学の推薦入学試験に合格した被上告人が,入学を辞退して在学契約を解除したなどと主張して,上告人に対し,不当利得返還請求権に基づき,納付済みの授業料等相当額の返還を求める事案。

2.事実関係の概要等

(1) 上告人は,学校教育法所定の大学であるA大学を設置する学校法人である(以下,上告人及び上告人の設置するA大学を「上告人大学」ということもある。)。

(2) 被上告人は,上告人大学医学部医学科の平成18年度推薦入学試験を受験して合格し,上告人大学が定めた入学手続の要領に従い,所定の期限内である平成17年11月22日,上告人大学に対し,入学金100万円及び授業料等700万6000円(授業料350万円,実験実習教材費50万円,教育充実費300万円及び学友会費6000円。以下「本件授業料等」という。)を納付して入学手続を行い,上告人大学との間で在学契約(以下「本件在学契約」という。)を締結した。

(3) 上告人大学の平成18年度学生募集要項には,推薦入学については,いったん納付した学生納付金は一切返還しない旨記載されていた(この記載に係る合意のうち授業料等に関する部分を,以下「本件不返還特約」という。)。

(4) 被上告人は,その後,B大学医学部の一般入学試験に合格し,平成18年3月30日,同大学に入学金,授業料等を納付した。

(5) 被上告人は,平成18年4月5日,上告人大学に対し,辞退理由として「体調をくずし,下宿して通学するのが困難となったため」と記載した入学辞退届を提出し,本件在学契約を解除する旨の意思表示をした。

(6) 上告人大学医学部医学科の平成18年度の入学試験では,推薦入学試験(募集人員25名)のほか,一般入学試験(同65名)及びセンター利用試験(同10名)が行われた。なお,推薦入学試験においても,上告人大学を専願あるいは第1志望とすることなどは出願資格とされていなかった。

(7) 上告人大学は,一般入学試験及びセンター利用試験(以下,併せて「一般入学試験等」という。)について補欠者を設けており,平成16年度以降の学生募集要項には,補欠者にはその旨郵便で通知すること,合格者に欠員が生じた場合には補欠者を順次繰り上げて合格者を決定し,繰上げ合格者には合格通知書等を送付すること,4月7日までに補欠合格の通知がない場合には不合格となることを記載していた。

(8) 上告人大学は,平成13年度から同16年度までは4月1日以降に補欠者を繰上げ合格させることはなかったが,平成17年度及び平成18年度には,4月1日以降にそれぞれ3〜4名の補欠者を繰上げ合格させた。

3.原審は,次のとおり判断して,本件授業料等の返還請求を認容すべきものとした。

(1) 本件在学契約は,消費者契約法2条3項所定の消費者契約に該当し,本件不返還特約は,同法9条1号にいう「当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し,又は違約金を定める条項」に当たるから,「当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害」(以下「平均的な損害」という。)を超える部分が無効となる。

(参照条文)消費者契約法

2条 この法律において「消費者」とは、個人(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるものを除く。)をいう。
2  この法律(第四十三条第二項第二号を除く。)において「事業者」とは、法人その他の団体及び事業として又は事業のために契約の当事者となる場合における個人をいう。
3  この法律において「消費者契約」とは、消費者と事業者との間で締結される契約をいう。
4 略。

9条  次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。
一  当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの  当該超える部分
二  略。

(2) 在学契約の解除に伴い当該大学に生ずべき平均的な損害は,1人の学生と大学との在学契約が解除されることによって当該大学に一般的,客観的に生ずると認められる損害をいい,在学契約の解除が当該大学が合格者を決定するに当たって織り込み済みのものであれば,原則として,その解除によって当該大学に損害が生じたということはできないところ,一般に,4月1日には,学生が特定の大学に入学することが客観的にも高い蓋然性をもって予測されるから,在学契約の解除の意思表示がその前日である3月31日までにされた場合には,原則として,大学に生ずべき平均的な損害は存しないものとして,当該解除との関係では不返還特約(授業料等に関する部分。以下同じ。)はすべて無効となり,在学契約解除の意思表示が同日より後にされた場合には,原則として,学生が納付した授業料等は,それが初年度に納付すべき範囲内のものにとどまる限り,大学に生ずべき平均的な損害を超えず,当該解除との関係では不返還特約はすべて有効となる(最高裁平成17年(受)第1158号・第1159号同18年11月27日第二小法廷判決・民集60巻9号3437頁参照)。

(3) しかしながら,上告人大学においては,平成16年度以降,学生募集要項に,補欠者につき4月7日までに通知がない場合に不合格となる旨記載し,平成17年度及び平成18年度には4月1日以降に3〜4名の補欠者を繰上げ合格させていることからすると,平成16年度以降は,毎年4月7日まで最終的な合否の判定を留保する取扱いが確立していたというべきである。特に,推薦入学試験の合格者については,いわゆる専願等を資格要件とするものではなく,学生納付金の納付期限から他大学医学部の一般入学試験日まで相当の期間があることからすると,他大学医学部に合格してその大学に入学する者が出ることを上告人としても当然に予測していたものである。
 したがって,上告人大学においては,4月7日までは,特に推薦入学試験の合格者についてはその在学契約が解除されることがあること及び4月1日以降に補欠者を上告人大学に入学させることを織り込み済みであったから,被上告人が4月5日に在学契約を解除しても上告人大学に生ずべき平均的な損害は存しないというべきであって,本件不返還特約は無効である。

【判旨】

1.原審の上記3(1)及び(2)の判断は是認することができるが,同(3)の判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 前記事実関係によれば,被上告人は,上告人大学の平成18年度の推薦入学試験に合格し,本件授業料等を納付して上告人大学との間で本件在学契約を締結したが,入学年度開始後である平成18年4月5日に本件在学契約を解除する旨の意思表示をしたものであるところ,学生募集要項の上記の記載は,一般入学試験等の補欠者とされた者について4月7日までにその合否が決定することを述べたにすぎず,推薦入学試験の合格者として在学契約を締結し学生としての身分を取得した者について,その最終的な入学意思の確認を4月7日まで留保する趣旨のものとは解されない。また,現在の大学入試の実情の下では,大多数の大学において,3月中には正規合格者の合格発表が行われ,補欠合格者の発表もおおむね終了して,学生の多くは自己の進路を既に決定しているのが通常であり,4月1日以降に在学契約が解除された場合,その後に補欠合格者を決定して入学者を補充しようとしても,学力水準を維持しつつ入学定員を確保することは容易でないことは明らかである。
 これらの事情に照らせば,上告人大学の学生募集要項に上記の記載があり,上告人大学では4月1日以降にも補欠合格者を決定することがあったからといって,上告人大学において同日以降に在学契約が解除されることを織り込み済みであるということはできない。そして,専願等を資格要件としない推薦入学試験の合格者について特に,一般入学試験等の合格者と異なり4月1日以降に在学契約が解除されることを当該大学において織り込み済みであると解すべき理由はない。
 したがって,被上告人が納付した本件授業料等が初年度に納付すべき範囲を超えているというような事情はうかがわれない以上,本件授業料等は,本件在学契約の解除に伴い上告人大学に生ずべき平均的な損害を超えるものではなく,上記解除との関係では本件不返還特約はすべて有効というべきである。

2.以上と異なる見解の下に,被上告人の本件授業料等返還請求を認容した原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決中,上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,上記部分に関する被上告人の請求を棄却した第1審判決は正当であるから,上記部分に係る被上告人の控訴を棄却すべきである。

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