最新下級審裁判例

仙台高裁判決平成21年09月10日

【事案】

 平成12年度に宮城県警察(県警)本部刑事部鑑識課(鑑識課),生活安全部生活保安課(生活保安課)及び県警本部生活安全部鉄道警察隊(鉄道警察隊)が支出したとされる犯罪捜査報償費(報償費)は,当時の鑑識課,生活保安課及び鉄道警察隊(3課隊)の長が正当な公金支出を装って着服したものであるところ,被控訴人が3課隊の長に対する損害賠償請求権又は不当利得返還請求権の行使を怠っているとして,地方自治法(法)242条の2第1項4号の規定に基づき,被控訴人に対し,これらの請求権を行使するよう求める住民訴訟(仙台地方裁判所平成○年(行ウ)第○号事件・被参加事件)に,宮城県民である控訴人らが同様の請求をして共同訴訟参加した事案。
 なお,被参加事件は,原審係属中に被参加事件原告らがそれぞれ訴えを取り下げ,被参加事件被告である被控訴人がこれに同意したことにより,訴訟係属が消滅した。また,控訴人らは,原審係属中に,鑑識課長に対する損害賠償請求権又は不当利得返還請求権の行使を求める部分の請求を取り下げ,被控訴人はこれに同意した。
 原審が本件訴えに係る住民監査請求が法定の期間経過後にされたものであるとして本件訴えを却下したところ,控訴人らが不服を申し立てた。

【判旨】

1.当裁判所も,控訴人らの本件訴えは,本件訴えに係る住民監査請求が法定の期間経過後にされたものであるから不適法であり,却下すべきものと判断する。

2.控訴人らは,本件においては資金前渡職員から捜査員に現金は交付されていないのであるから,公金の支出があったとはいえず,内容虚偽の支出関連書類を作成して裏金を捻出したことをもって財務会計上の行為と評価することはできないと主張する。
 しかし,控訴人らの主張は,報償費の支出を目的とする資金前渡職員の所属長の決裁がされていることを前提として,そのような財務会計上の行為が,報償費を裏金として費消するという本来の使途以外への支出を目的とするもので,違法であるというものなのであるから,原判決が説示するとおり,違法の支出に至る一連の財務会計上の行為をもって着服と評価しているにすぎないものと解される。
 さらに,控訴人らは,公金を横領してそれを私的に費消し,内容関係の書類を作成して隠蔽を図る行為が法242条2項が規定する法的安定の要請とは相容れない旨,また,本件のような事案が財務会計上の行為であるとすれば,支出関係書類を作成することなく単純に横領した場合に法242条2項が規定する期間制限が及ばないこととの関係で,不合理である旨主張する。しかし,法は,普通地方公共団体において財務会計職員が財務会計上の行為を財務会計法規に従って適正に行ったかどうかについては,監査委員が監査し(法199条),違法な行為があった場合にはその長による賠償命令の制度を設けている(法243条の2第3項)のに対し,財務会計上の行為以外については,普通地方公共団体内部において簡便に適切な是正措置をとる制度を設けてはいない。そして,住民監査請求は,普通地方公共団体の職員の財務会計上の行為に関する違法,不当をまず当該普通地方公共団体の内部に置かれている監査委員の監査により是正させることを請求するものであり,上記の監査委員による監査及びこれに基づく是正の措置等における判断を補充するものにとどまるものである。以上によれば,普通地方公共団体の財務会計職員の特定の財務会計上の行為の違法を問題とするものについては,法的安定の見地から,住民監査請求の請求期間を制限しても不合理とはいえないのに対し,財務会計上の行為ではない横領等の不法行為を問題とするものについては,そのような期間制限を及ぼす合理性がないと考えられる。
 したがって,仮に,当該行為が公金を横領する目的であったとしても,財務会計上の行為が問題となる限りは,住民監査請求に法242条2項の期間制限が及ぶことに合理的な理由があるのであって,また,このような解釈は,財務会計上の行為に当たらない横領等の不法行為を問題とする場合に,この期間制限が及ばないこととの関係でも,特段不合理な点はないというべきである。

 

大阪地裁判決平成21年03月19日

【事案】

1.大韓民国(以下「韓国」という。)国籍を有する原告が,大阪市α区長に対し,原告の成年後見人であるAを通じて外国人登録原票の居住地変更登録の申請を行ったところ,原告と同居していないAには代理申請権が認められないとして同申請を拒絶されたため,かかる申請拒絶は違法・無効であり,原告はこれによって精神的苦痛を被ったなどとして,申請拒絶の無効確認(請求2)及び居住地変更登録の義務付け(請求1)等を求めるとともに,国家賠償法1条1項に基づき,慰謝料等の支払(請求3)を求めている事案。

2.外国人登録法(以下「法」という。)の関係規定

(1) 居住地変更登録(法8条)

ア.外国人は,同一の市町村の区域内で居住地を変更した場合には,新居住地に移転した日から14日以内に,その市町村の長に対し,変更登録申請書を提出して,居住地変更の登録を申請しなければならない(同条2項)。

イ.市町村の長は,第2項の申請があつたとき‥は,当該外国人に係る登録原票に居住地変更の登録をしなければならない(同条6項)。

(2) 本人の出頭義務と代理人による申請等(法15条)

ア.この法律に定める申請,登録証明書の受領若しくは提出又は署名は,自ら当該市町村の事務所に出頭して行わなければならない(同条1項)。

イ.外国人が16歳に満たない場合又は疾病その他身体の故障により自ら申請若しくは登録証明書の受領若しくは提出をすることができない場合には,前項に規定する申請又は登録証明書の受領若しくは提出は,当該外国人と同居する次の各号に掲げる者(16歳に満たない者を除く。)が,当該各号列記の順位により,当該外国人に代わってしなければならない(同条2項前段)。

一 配偶者
二 子
三 父又は母
四 前各号に掲げる者以外の親族
五 その他の同居者

3.前提事実

(1) 原告の身上等

ア.原告は,昭和▲年▲月▲日に本邦において出生した韓国国籍を有する外国人男性である。

イ.原告は,先天的に知的障害を持ち,年少時から児童養護施設である大阪市立B学園(以下「B学園」という。)に入所し,現在は,他の障害者らと共に肩書住所地に居住しながら,同学園の実施するいわゆるグループホームに参加している。

ウ.原告は,平成18年5月2日,大阪家庭裁判所において成年後見開始の審判を受け,Aが後見人に就任した。

エ.原告は,平成20年6月15日,大阪市β×番3−×号から同区γ×番22−×号に転居した。

(2) 居住地変更登録申請及び申請拒絶の経緯

ア.Aは,平成20年6月20日,大阪市α区役所に出頭し,法8条2項に基づき,居住地変更登録の申請をした(以下「本件申請」という。)。

イ.本件申請を受け,α区役所の担当職員であったCは,Aに原告本人の出頭の有無を確認したところ,原告本人は出頭していない旨の回答を得たため,Aと原告との同居の有無を更に確認したところ,Aは原告と同居していない旨回答した。

ウ.Cは,原告と同居していない成年後見人の代理申請の可否について法務省入国管理局に電話で照会したところ,「申請は本人の出頭が原則であり,成年後見人がする申請を受理する法律の根拠がない。したがって,後見人と同伴するなどして本人に出頭してもらうのが適当ではないか。」という趣旨の回答を得た。

エ.Cは,上記回答を受けて,Aに対し,本件申請によって居住地変更登録を行うことはできないので,原告本人を出頭させるよう申し入れたところ,Aは,2歳児程度の知能しかない原告を出頭させる意味はないとしてCの申入れを拒んだ。

オ.Cは,再度入国管理局に電話で照会したが,上記ウと同様の回答を得たため,改めてAに対し原告本人を出頭させるよう申し入れたところ,Aは,これに納得せず,登録申請書に「外国人登録法15条により,受理できません。」とCに記載させた上,同申請書の返還を受けた。

(3) 原告は,平成20年8月7日,本件訴えを提起した

4.争点

(1) 外国人登録法8条2項に基づく居住地変更登録の申請は,「法令に基づく申請」(行政事件訴訟法37条の3第1項各号)に該当するか否か(本案前の争点1)。

(2) 大阪市α区長がする居住地変更登録及びその申請に対し,これを受理せず拒絶する行為に処分性が認められるか否か(本案前の争点2)。

(3) 大阪市α区長が本件申請に対し,これを受理せず拒絶した行為が適法・有効か否か(本案の争点)。

【判旨】

1.本案前の争点1及び2について

(1) 請求1及び2は,外国人登録原票の居住地変更登録の申請を拒絶する行為及び当該申請に基づいて居住地変更登録をすること等を行政庁のする処分ととらえた上,申請を拒絶する行為の無効確認を求める(請求2)とともに,いわゆる申請型の義務付けを求める(請求1)訴えと解される(行政事件訴訟法37条の3第1項,3項)。そこで,以下,法8条2項に基づく居住地変更登録の申請が「法令に基づく申請」に該当するか否か,当該申請を拒絶する行為及び当該申請に基づいて居住地変更登録をすることが処分に該当するか否かについて検討を加える。

(2) 申請とは,法令に基づき,行政庁の許可,認可,免許その他の自己に対し何らかの利益を付与する処分を求める行為であって,当該行為に対して行政庁が諾否の応答をすべきこととされているものをいう(行政手続法2条3号)。外国人等から居住地変更登録の申請を受けた市町村の長等は,当該外国人に係る登録原票に居住地変更の登録をしなければならない(法8条6項)のであって,申請内容が実体に即したものであるかどうかを審査することは予定されていない。しかし,外国人登録原票の登録内容が,私人間の取引や官公署に対する手続その他社会生活における様々な場面で,身分関係や居住の事実を証明する公証制度として機能していることからすれば,外国人登録制度によって自己の身分関係及び居住関係を証明できるという利益は法律上保護された利益というべきである。そうすると,居住地変更登録の申請が適法にされた場合,当該外国人との関係において,市町村の長等は,所定の手続に従って当該外国人に係る登録原票に居住地変更の登録をする義務を負っており,上記申請に基づいて居住地変更の登録をする行為,さらには,上記申請がされたにもかかわらず,居住地変更の登録をしない行為は,直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものとみるべきであって,原告のした法8条2項に基づく居住地変更登録の申請に基づいて居住地変更登録をすること及び同申請を受理せず,これを拒絶する行為(以下「本件却下処分」という。)は行政庁の処分に,同申請は「法令に基づく申請」に,それぞれ該当するものと解するのが相当である。

(3) この点について,被告は,市町村の長等が居住地変更の登録等をしなければならないのは,在留外国人の公正な管理を行うべく課された職務上の義務によるもので,申請者の個人的権利・利益を保護するために課された義務によるものではないと主張する。しかし,外国人登録を行った外国人に対しては,登録事項を記載した登録証明書が交付され,居住地変更登録が行われた際には登録証明書にその旨の記載を行わなければならないとされる(法5条1項,8条3項)など,法律上も,外国人登録が公証制度として機能することが予定されているのであって,当該外国人の個人的権利・利益を保護する趣旨を含んでいると解すべきことは上記(2)で述べたとおりである。このことと,法が在留外国人の公正な管理に資することを主要な目的として掲げていること(法1条)とは必ずしも矛盾せず,被告の主張は採用できない。

(4) なお,原告は,法8条2項に基づく居住地変更登録の申請のほかに,外国人登録証明書の記載事項の変更についても申請を行ったという前提に立った上で,これを受理せず拒絶した行為を処分ととらえて,その無効確認を求めるとともに外国人登録証明書の居住地の記載の変更を求めている。
 しかし,外国人登録証明書は,外国人登録原票の登録事項を基に作成されるものであり(法5条1項),登録を受けた外国人が,外国人登録証明書の記載事項の変更について別個の申請をすることや市町村の長等がこれに応答することは予定されておらず,外国人登録原票の登録事項が変更されれば,それに伴って当然に外国人登録証明書の記載事項も変更されることとされている(法8条から10条の2まで)。
 したがって,外国人登録証明書の記載事項の変更は処分に該当せず,その申請も法令上予定されていないから,「法令に基づく申請」に該当しないものというべきである。

(5) 以上より,請求1のうち,外国人登録証明書の居住地の記載の変更に係る義務付けの訴え,及び,請求2のうち,外国人登録証明書の記載の変更申請を受理せず,拒絶した行為の無効確認を求める訴えは不適法であり,却下を免れない。他方,請求2のうち,本件却下処分の無効確認を求める訴えは適法であり,請求1のうち,外国人登録原票の居住地変更の登録の義務付けの訴えが適法であるかどうかは,上記却下処分が取り消されるべきであるか,又は無効であるか否かによって決せられることになる(行訴法37条の3第1項2号参照)。

2.本件却下処分の適法性・効力について

(1) 成年後見人の代理申請権の有無について

ア.法15条は,法に定める申請等については,原則として外国人本人が市町村の事務所に出頭して行わなければならない(1項)とし,例外的に,外国人本人が16歳未満である場合や,疾病その他身体の故障により本人が出頭できない場合は,本人と同居する配偶者等が本人に代わって申請等を行わなければならない(2項)と規定する。
 法がこのように本人出頭の原則を定め,例外的に代理人の出頭を許す場合にも,本人と同居する者に限って代理権を付与することとしたのは,戸籍制度等のない外国人に対する公正な管理(法1条参照)を実現するには当該外国人の住居等を正確に把握する必要があることから,本人又は本人の事情を正確に把握しているであろう同居者の出頭を要求して申請等の内容の正確性を担保するためであると解される。すなわち,法上の申請等に関する代理権をいかなる範囲の者に付与するかに当たっては,民法上の行為能力制度とは異なる考慮が働いているのであって,このことは,民法上は行為能力を有しないとされている20歳未満の者(民法4条)であっても,16歳以上であれば法上の申請等を行うことができるとされていることからも明らかである。
 したがって,民法上の行為能力制度に基礎を置く成年後見人に,法上の代理申請権が当然に認められると解することはできない。むしろ,法は,代理申請権が認められる者の範囲を明示的に同居者に限定していること(法15条2項)や,代理申請義務違反に対して過料の制裁をもって臨んでいること(法19条の2)にかんがみれば,明文の規定を離れて代理申請権者の範囲を拡張解釈することは相当でなく,成年後見人であっても,外国人本人と同居していない限り,代理申請権は認められないと解するのが相当である。

イ.原告は,重度の知的障害を有する原告本人の出頭を強制することは憲法11条及び13条に反すると主張するが,成年後見人に代理申請権が認められないとしても,同居者には代理申請権が認められるのであるから,必ずしも本人出頭を強制することにはならないし,同居者がない者につき本人の出頭が義務付けられているとしても,申請の内容等の正確性を担保するための手段として不合理なものとはいえず,当該外国人に過大な負担を強いるものともいえない。確かに,原告が主張するとおり,重度の知的障害を有する者が申請を行う場合には,相応の介添え・援助が必要になると考えられるが,そうであるからといって,本人の出頭が無意味なものとなるわけではないし,官公署に出頭して職員や来庁者と接触する機会を「みせしめ」的行為などととらえるのは相当ではない。原告の憲法11条及び13条違反の主張は採用できない。
 また,原告は,成年後見人に代理申請権を認めないことは国籍及び人種による差別であり,憲法14条に違反するとも主張するが,外国人登録制度は戸籍制度等のない外国人に対する公正な管理を実現することを目的とするものであって,本人の出頭を原則とし,同居者の代理申請のみを認め,戸籍法上の届出において認められている成年後見人による代理申請が認められなかったとしても,そうした取扱いには合理的根拠がある。そして,日本人との取扱いの差異が上記のようなものにとどまる限り,憲法14条違反を問題にする余地もないというべきである。
 さらに,原告は,戸籍法31条又は民法697条の準用又は類推適用によりAに代理申請権が認められると主張するが,外国人登録法15条2項が代理人の範囲を同居者に限定した趣旨を没却する結果となるから,上記主張も採用できない。

(2) したがって,原告本人と同居していないAに代理申請権が認められず,Aのした本件申請が不適法なものであるとしてされた本件却下処分は適法であって無効事由もないというべきである。

3.結論

 以上の次第であり,請求1に係る訴えのうち,外国人登録原票の居住地の変更の義務付けを求める訴えは,法令に基づく申請を却下した処分(本件却下処分)が取り消されるべきものとも,無効であるともいえないから,不適法であって却下を免れず,請求2のうち,本件却下処分の無効確認の請求は理由がないから,また,請求3の国家賠償請求は,本件却下処分が違法であることを前提とするものであって理由がないから,いずれも棄却すべきである。そして,請求1に係るその余の訴え及び請求2のその余の請求に係る訴えは,前記1(4),(5)のとおり不適法であるから,却下すべきである。

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