平成22年度新司法試験論文式
刑事系第2問の感想と参考答案

問題は、こちら

第1問の刑法と同様、本問も演習量で差が付き易い。
書くべき事項が多いというだけではない。
設問1は、全て捜査。
設問2も、伝聞法則を除いて、捜査である。
捜査の比重が、大きかった。
捜査は、答案化する方法がマニュアル化されている。
強制処分か、そうであれば、要件を充たすか。
任意処分であれば、その限界を超えないか。
そのあてはめの繰り返しといってよい。
書き慣れるとスイスイと書けるが、慣れていないと難しい。
答案化する作業を繰り返し行っていた人は、時間内にうまくまとめられただろう。
しかし、理解はしていても答案化する作業を怠っていた人。
そういう人は、時間切れ、紙幅切れになりやすい。

設問1のうち、捜査@及びAについては、領置の適法性である。
ごみを領置できるかという点については、最決平20・4・15がある。
この判例は、前半部分のビデオ撮影のものとしても有名である。
この部分は、昨年度の旧試験で出題されている。
従って、知らない人の方が少なかったのではないか。
ただ、この判例は、あまり参考にならない。
理由らしい理由を、何ら付していないからである。

(最決平20・4・15より引用、下線は筆者)

 本件は,金品強取の目的で被害者を殺害して,キャッシュカード等を強取し,同カードを用いて現金自動預払機から多額の現金を窃取するなどした強盗殺人,窃盗,窃盗未遂の事案である。

 ・・・警察官は,被告人及びその妻が自宅付近の公道上にあるごみ集積所に出したごみ袋を回収し,そのごみ袋の中身を警察署内において確認し,前記現金自動預払機の防犯ビデオに写っていた人物が着用していたものと類似するダウンベスト,腕時計等を発見し,これらを領置した。

 ・・・所論は,・・・前記ダウンベスト及び腕時計の各領置手続は,令状もなくその占有を取得し,プライバシーを侵害した違法な捜査手続であるから,前記鑑定書等には証拠能力がないのに,これらを証拠として採用した第1審の訴訟手続を是認した原判断は違法である旨主張する。

 ・・・ダウンベスト等の領置手続についてみると,被告人及びその妻は,これらを入れたごみ袋を不要物として公道上のごみ集積所に排出し,その占有を放棄していたものであって,排出されたごみについては,通常,そのまま収集されて他人にその内容が見られることはないという期待があるとしても,捜査の必要がある場合には,刑訴法221条により,これを遺留物として領置することができるというべきである。また,市区町村がその処理のためにこれを収集することが予定されているからといっても,それは廃棄物の適正な処理のためのものであるから,これを遺留物として領置することが妨げられるものではない。

(引用終わり)

本判例の知識として、役に立つのは2つ。
一つは、公道上の場合(捜査@)は、適法の結論でよさそうだということ。
もう一つは、遺留物該当性だけではなく、プライバシーを問題にすべきということである。

逆に言えば、この程度しか役に立たない。
本試験では、理由を付さない判例を説明させるような出題がある。
そのような問題では、判例の知識よりも背後にある基本原理の理解が問われる。
本問もその一つといえる。
従って、上記判例を引用してそのまま結論を出しても、評価はされないだろう。

それから、問題文の読み方として、捜査@と捜査Aが対応的に書かれていることに気付くべきである。

(問題文より引用、下線は筆者)

 平成21年6月1日,Pらは,甲らによるけん銃密売に関する証拠を入手するため,A組の組事務所であるアパート前路上で張り込んでいたところ,甲が同アパート前公道上にあったごみ集積所にごみ袋を置いたのを現認した。そこで,Pらは,同ごみ袋を警察署に持ち帰り,その内容物を確認したところ,「5/20 1丁→N.H 150」などと日付,アルファベットのイニシャル及び数字が記載された複数のメモ片を発見したため,この裁断されていたメモ片を復元した[捜査@]。
 さらに,同月2日,Pらは,甲が入居しているマンション前路上で張り込んでいたところ,甲が同マンション専用のごみ集積所にごみ袋を置いたのを現認した。なお,同ごみ集積所は,同マンション敷地内にあるが,居住部分の建物棟とは少し離れた場所の倉庫内にあり,その出入口は施錠されておらず,誰でも出入りすることが可能な場所にあった。そこで,Pらは,同集積所に立ち入り,同所において,同ごみ袋内を確認したところ,「5/22 1丁→T.K 150」などと記載された同様のメモ片を発見したため,このメモ片を持ち帰り復元した[捜査A]。

(引用終わり)

本試験では、明示的に比較を求めることがある。
しかし、黙示的に比較を求めていることも多い。
本問も、その場合といえる。
上記の問題文の書き振りを見て、捜査@とAの対比を意識すべきである。

領置は、普段あまり書かない。
書き方で、少し悩んだかもしれない。
221条があるから、それに当てはめればよさそうである。
しかし、それだと遺留物に当たるかを書くだけで終わってしまう。
「遺留物」という文言からは、占有に属さない物、という以上の意味には解しにくい。
プライバシーを侵害するから遺留物に当たらない、という解釈は難しそうである。
そこで、強制処分法定主義の論証からアプローチするという方法がある。
プライバシー侵害が生じる場合は強制なので、実質差押えになる、という書き方である。
それから、領置は占有移転段階では任意処分なのだから、限界論で書くという方法もある。
プライバシー制約の必要性・相当性で書く方法である。
結論的には、上記をコンパクトに全部書く、という方法がベストだろう。
遺留物該当性、プライバシー侵害による強制処分性、任意処分としての限界。
この3段階をうまくまとめて論述できればよいが、難しければどれかに絞ってもやむを得ない。
要は、プライバシーとの関係にきちんと触れられていれば良い。
その際に、上記比較を意識して、プライバシーの期待の程度を具体的に検討できているか。
その部分で、差が付いてくると思われる。

また、マンション管理者の管理権との関係は、出来ればコンパクトに触れたい。
ただ、メインはプライバシーである。
まとめるのが難しければ、落としてもよいと思う。

なお、上記判例では、自治体の回収が予定されている点にも触れている。
しかし、本問では、その点は問題文上ほとんど触れられていない。
書く必要はないだろう。
それから、ごみについては、所有権の帰属を巡って争いがある。
依然捨てた者の所有に属するとか、無主物になる、あるいは回収する自治体に贈与された、等である。
しかし、領置の要件として無主物であることを要しないから、この点も書く必要がない。

捜査Aでは、甲以外の居住者のプライバシーも、一応問題にはなりうる。
この点は、近時再審無罪で有名になった足利事件で問題とされていた。

東京高決平8・5・9(足利事件)より引用、下線は筆者)

 所論は、本件DNA型鑑定は、現場資料との異同比較の資料として、被告人が投棄したごみ袋の中のティッシュペーパーに付着していた精液を用いて行なわれたが、捜査官がこのようなごみ袋を収集して内容物を犯罪捜査に用いることは、ごみとして焼却処分されるものと了解して投棄した被告人の意思に反する事態であり、捜査官の任意捜査活動として許される範囲を逸脱し、個人のプライバシーを著しく侵害するものとして違法であるといわなければならず、また、本件の捜査では、被告人以外にも、投棄したごみ袋を捜査官に開披され内容物を見分されてしまった者が少なからずあったであろうから、このような、広範囲の、著しいプライバシー侵害を伴う捜査方法を将来にわたって抑止するためにも、本件ティッシュペーパーを証拠資料に用いることは禁止しなくてはならず、これと一体をなす本件DNA型鑑定の結果も、違法収集証拠そのものとして、証拠能力が否定されなくてはならない、と主張する。
 検討するに、関係証拠によれば、平成二年一一月初めころ、本件の被疑者として被告人が捜査の対象に浮かび、同年一二月初めから捜査員がほとんど連日にわたりその行動を密かに観察していたが、本件ティッシュペーパー五枚は、翌平成三年六月二三日、捜査員が甲町の被告人の借家付近で張り込み中に、被告人がビニール袋を右借家に程近いごみ集積所に投棄したのを認め、午前一〇時一〇分ころこれを拾得して警察署へ持ち帰り、内容物を見分して発見したものであって、警察官が特定の重要犯罪の捜査という明確な目的をもって、被告人が任意にごみ集積所に投棄したごみ袋を、裁判官の発する令状なしで押収し、捜査の資料に供した行為には、何ら違法の廉はないというべきである。

(引用終わり)

上記裁判例は、被告人の投棄を現認した上で、持ち帰った点を指摘している。
すなわち、他の住人のごみが開披される危険はない。
従って、他の住人のプライバシー侵害は問題にならない、という趣旨と理解できる。
本問の場合も、甲が捨てたのを現認して持ち帰っている。
従って、やはり他の居住者のプライバシー侵害は生じないといえる。
もっとも、メイン論点ではないから、独立に論じるようなものではない。
相当性のところ等で、うまくコンパクトに指摘できればよいだろう。

捜査Bは、データの復元・分析の適法性である。
捜索差押令状に基づく必要な処分(222条1項、111条2項)を検討することになる。
この点は、東京高判昭45・10・21がある。

(東京高判昭45・10・21より引用、下線は筆者)

 司法警察員が刑事訴訟法二一八条一項の定めるところによつて、裁判官の発する令状により捜索差押をする場合には、同法二二二条一項により一一一条が準用され、司法警察員は押収物について同条二項により一項の処分、すなわち「錠をはずし、封を開き、その他必要な処分をすることができる」ことが明らかであり、そして、右にいう「必要な処分」とは、押収の目的を達するため合理的に必要な範囲内の処分を指すものであつて、必ずしもその態様を問わないものと解するのが相当である。これを本件フイルムについてみると、それは、前示のごとく被告人らが被害者女性との性交の姿態などを写した物で、これをもとにして被害者から金品を得ようとしたというのであるから、右の犯行を証明する重要な証拠物であるが、これをその証明の用に供するためには、本件の場合未現像のままでは意味がなく、そのフイルムがいかなる対象を写したものであるかが明らかにされることによつてはじめて証拠としての効用を発揮するものといわなければならない。従つて、司法警察員として、果たして右が真に本件犯行と関係ある証拠物であるかどうかを確かめ、かつ裁判所において直ちに証拠として使用しうる状態に置くために、本件フイルムを現像して、その影像を明かにしたことは、当該押収物の性質上、これに対する「必要な処分」であつたということができる。 なお所論は、フイルムを現像するには、別に裁判官の命によりその権限を付与されるべきであつたと主張するけれども、本件フイルムのように撮影ずみのフイルムを現像することは、用法に従いフイルムに一種の加工を施して既存の画像を現わす作業にすぎないのであつて、これを破壊するわけでもなく、押収者において前に引用した刑事訴訟法一一一条二項の「必要な処分」として当然なしうるところであるから、別に刑事訴訟法二二二条一項、二一八条一項により裁判官の発する検証許可状による必要はないと解すべきである。

(引用終わり)

上記裁判例は、押収目的を達するため合理的に必要な範囲かを基準としている。
これを用いてもよいだろう。
ただ、「合理的」という文言が当てはめにくい、ということはある。
必要かつ相当な範囲としてしまってもよいだろう。
本問の携帯データの復元は、携帯を使用不能にするものではない。
そのことは、問題文4で普通に通話していることからわかる。
その点で、フィルムの現像と同じである。
もっとも、通常の用法に従ったやり方ではない。
その点で、フィルムの現像とは異なる。
その辺りをどう評価するか、ということになるだろう。

仮に、通常の用法とは違うことを重視し、捜索差押令状による必要な処分に当たらないとする。
この場合、鑑定処分許可状を要するということになるだろう。
もっとも、権利者の異議がなければ許可状を要しないと読める判例がある。

最判昭29・4・15より引用、下線は筆者)

 刑訴一六八条の規定は当該強制処分の対象となる者のためにその基本的人権の保護を完からしむるために設けられたものに過ぎないものであるから、かゝる者から異議がなされた場合は格別、かゝる異議がなされない場合においてはたとえ同条所定の裁判所の許可を受けないでなされた鑑定であつても唯それだけの事由で鑑定そのものの証拠力及び証拠能力を否定すべきいわれはない。それ故本件血液の鑑定に際し鑑定人が血液の附着したズボンの小部分を切取つたことが物を破壊したことに該当しその破壊につき裁判所の許可がなかつたとしてもたゞそれだけの理由で所論の鑑定を無効なりとする論旨は、採用に値しない

(引用終わり)

本問の場合、権利者の乙は死亡している。
例外的に、鑑定処分許可状を要しない、という考え方もあり得ると思われる。
(もっとも、上記判例は、違法であるが証拠排除しない趣旨とも読める点に注意を要する。)

ところで、データ復元・分析は鑑定なのだから、科捜研に嘱託する際に令状がいるのでは。
そう思った人もいるかもしれない。
しかし、令状を要するのは、168条1項所定の鑑定処分をする場合である。
鑑定処分許可状とは、鑑定(という名前の処分)を行うことを許可するという意味ではない。
鑑定に必要な処分(鑑定処分)を行うことを許可するという意味である。

(参照条文)刑事訴訟法

223条1項 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、被疑者以外の者の出頭を求め、これを取り調べ、又はこれに鑑定、通訳若しくは翻訳を嘱託することができる

225条 第二百二十三条第一項の規定による鑑定の嘱託を受けた者は、裁判官の許可を受けて、第百六十八条第一項に規定する処分をすることができる
2 前項の許可の請求は、検察官、検察事務官又は司法警察員からこれをしなければならない。
3 裁判官は、前項の請求を相当と認めるときは、許可状を発しなければならない
4 略。

168条1項 鑑定人は、鑑定について必要がある場合には、裁判所の許可を受けて、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは船舶内に入り、身体を検査し、死体を解剖し、墳墓を発掘し、又は物を破壊することができる

復元・分析が捜索差押令状に基づく必要な処分に当たるとする場合。
その場合には、既発付の令状の効果により、重ねて鑑定処分許可状を取る必要がない。
そういう理解になるだろう。
もっとも、答案上そこまで書く必要はない。

なお、捜査@及びAでも、メモ片の復元を行っている。
しかし、これはデータの復元とは性質が異なる。
メモ片の復元とは、要するにジグソーパズルである。
メモ片を読みやすいように並び替えたに過ぎない。
証拠物を縦に並べたので、必要な処分に当たるか。
今度は横に並び替えたから、さらに必要な処分に当たるか。
そういうことは、いちいち問題にする必要がない。
論点として取り上げる必要は、ないと思われる。

設問2は、おとり捜査、同意盗聴、伝聞法則である。
上記を書く順番は、どうでもよい。
よく、証拠法は常に3要件の順番で書け、という人がいる。
それによれば、本問でも自然的関連性、法律的関連性(伝聞法則)、証拠禁止(おとり捜査、同意盗聴)という順になる。
しかし、本問では、明らかに自然的関連性は問われていない。
これをいちいち書くのは、紙幅の無駄である。
確かに、ローや予備校でも3要件を検討せよ、と指導するだろう。
しかし、それは問題分析の視点であって、答案上そう書け、という趣旨ではない。
構成段階で書きやすいと思う順序で、書いていけばよい。
ただし、証拠能力を否定する結論を採る論点は、最後にした方が良い。
もう証拠にできないとわかっているのに、他の論点を検討するのは、不自然だからである。

おとり捜査については、最決平16・7・12がある。
しかし、この判例も、十分な理由付けをしていない。

(最決平16・7・12より引用、下線は筆者)

 少なくとも,直接の被害者がいない薬物犯罪等の捜査において,通常の捜査方法のみでは当該犯罪の摘発が困難である場合に,機会があれば犯罪を行う意思があると疑われる者を対象におとり捜査を行うことは,刑訴法197条1項に基づく任意捜査として許容されるものと解すべきである。

(引用終わり)

敢えて判例の要件を挙げるとすれば、

@直接の被害者のない犯罪であること。
A通常捜査では摘発が困難であること。
B機会提供型であること。

の三要件ということになる。
本問の場合も、これに当たりそうである。
ただ、単に上記判例を挙げてあてはめただけでは、評価は伸びないだろう。
なぜ、そのような要件になるか。
その説明が、欠けているからである。
おとり捜査はメジャー論点である。
誰もが、論証を準備していたはずである。
従って、判例はあまり気にせずに、用意した論証で淡々と書けば足りる。

同意盗聴は、ややマイナー論点である。
まず注意すべきは、通信傍受法は関係がないということである。

刑訴法222条の2 通信の当事者のいずれの同意も得ないで電気通信の傍受を行う強制の処分については、別に法律で定めるところによる。

通信傍受法2条2項 この法律において「傍受」とは、現に行われている他人間の通信について、その内容を知るため、当該通信の当事者のいずれの同意も得ないで、これを受けることをいう。

論証を事前に用意していた人は、それで書けば足りる。
知らなかった人は、現場で考えるしかない。
同意盗聴を強制処分とすれば、令状のない本問では、即違法になりそうだ。
それではあてはめができない。
マズいのではないか。
そこで、任意処分と考えよう。
あとは、理由付けを考えるだけである。
その際、公道上の撮影などがヒントになる。
犯行のための通話の場合、通信の秘密に対する期待が減少する等を挙げればよいだろう。
あとは、問題文を使って必要性・相当性であてはめていけばよい。

以上の論点は、どれも問題文上明らかである。
他方、最後の伝聞法則との関係は、論点に気付くのが難しい。

もちろん、Kの反訳についての321条3項準用は、誰でも思いつく。
しかし、その他の部分は、ぱっと見ると全部非伝聞に見える。

1(1)は、そういう会話(けん銃譲渡の申込み)の存在が証拠となる。
1(2)は、1(1)の内容を説明するに過ぎない。
確かに、1(2)の乙の発言は、直前の通話内容に関する知覚・記憶を表現したものである。
しかし、その内容は1(1)で機械的に録取されている。
1(2)の供述内容から事実を認定するという構造にはない。
2(1)と2(2)の関係も、同様である。
3についても、けん銃の送り主が甲であることが、通話の存在自体から認定できる。
従って、甲の発言内容の真実性は、問題とならない。

しかし、わざわざ3つに分けて詳細が挙がっている。
全部まとめて非伝聞というのは、さすがにおかしいだろう。
そう考えて、もう一度捜査報告書の記述を読み返す。
そして、なんでわざわざ「×××」部分を作ったのだろう?
ここに気付ければ、何とか論点に辿り着くことができる。
以下は、捜査報告書1(1)の通話部分の抜粋である。

(問題文より引用)

乙 「もしもし,乙ですが,この間は申し訳なかったね。」
  「やはり,物必要なんだ。前には金額で折り合わなかったが,やはり物を購入したい。もう一度話し合いたいんだ。」

甲 「今更何言ってるの。物って何のことよ。」

乙 「とぼけないでくださいよ。×××のことですよ。」

甲 「前は,高過ぎるとか,ほんとに良い物なのかとか,うるさかったじゃない。うちのは××××とは違うんだよ。」

乙 「悪かったね。やはりどうしても欲しいんだ。助けてほしい。」

甲 「分かった。うちの回転×××の×××は物が良いので,値段が張るのはやむを得ない。よく考えてくれよ。」

乙 「よく分かったよ。明日1時に前回と同じF喫茶店でどうだい。」

甲 「分かった。明日会おう。」

(引用終わり)

以下は、「×××」の部分に筆者が任意の言葉を挿入したものである。

(問題文より引用、『 』内の挿入は筆者)

乙 「もしもし,乙ですが,この間は申し訳なかったね。」
  「やはり,物必要なんだ。前には金額で折り合わなかったが,やはり物を購入したい。もう一度話し合いたいんだ。」

甲 「今更何言ってるの。物って何のことよ。」

乙 「とぼけないでくださいよ。『ハブラシ』のことですよ。」

甲 「前は,高過ぎるとか,ほんとに良い物なのかとか,うるさかったじゃない。うちのは『サンスター』とは違うんだよ。」

乙 「悪かったね。やはりどうしても欲しいんだ。助けてほしい。」

甲 「分かった。うちの回転『電動式』のハブラシ』は物が良いので,値段が張るのはやむを得ない。よく考えてくれよ。」

乙 「よく分かったよ。明日1時に前回と同じF喫茶店でどうだい。」

甲 「分かった。明日会おう。」

(引用終わり)

何が言いたいか。
捜査報告書の1(1)の部分だけでは、けん銃の話と断定できないということである。
しかし受験生は、問題文からけん銃の話だとわかっている。
そういう先入観で上記を読むから、「×××」の部分を自動補完して読んでしまう。
そのため、緊張した現場では、このことに気付きにくい。

同様に2(1)を見てみる。

(問題文より引用)

乙 「お久しぶり。この前は悪かったね。」

甲 「だから,この間の条件で買っておけばよかったんだよ。うちの条件は前回と同じ,1丁150万円,2丁なら×××××,物がいいんだからびた一文負けられないよ。」

乙 「分かったよ。それでいいよ。物どうやって受け取るんだい。」

甲 「うちのやり方は,直接渡したりはしないんだ。そこでパクられたら,所持で逃げようないからね。あんたのマンションへ宅配便で送るよ。りんごの箱に入れて,一緒に送るから。受け取ったら,×××渡してくれよ。場所はまた連絡する。」

乙 「それでいこう。頼むね。」

(引用終わり)

よく見ると、上記だけからは2丁でいくらになるかがわからない。
受験生は問題文を先に見て300万円と知っている。
また、1丁が150万円なら、2丁で300万円だろう。
そう自動補完してしまう。
そのため、読んでいて全然気にならないことになりやすい。
(他方、3の「×××」部分には、特別の意味はなさそうである。)

さて、そうなると、1(2)、2(2)の意味合いが変わってくる。

(問題文より引用、下線は筆者)

乙 「自分は,平成21年6月7日午前11時ころ,E公園において,甲と電話で話したが,甲は自分にけん銃を売ることについての話合いに応じてくれた。明日午後1時ころ,F喫茶店で直接会って更に詳しい話合いをすることになった。」との話が録音されていた。

乙 「自分は,平成21年6月8日午後1時ころ,F喫茶店で甲と直接話合いをした。甲が自分にけん銃2丁を300万円で売ってくれることになった。けん銃2丁は宅配便で,りんごと一緒に自分のマンションに配送される。代金300万円は後で連絡を取り合って場所を決め,その時渡すことになった。」との話が録音されていた。

(引用終わり)

上記の下線部分は、単なる指示説明ではなくなる。
下線部分から、けん銃売買であったこと、代金が300万円だったことを認定することになる。
従って、乙の上記供述どおり、けん銃を売る話だったのか。
乙の上記供述どおり、代金は300万円だったのか。
その真実性が問題となってくる。
そうすると、この部分について、別途321条1項3号の要件が必要になる。

以上について、現場で気付くことができるか。
気付くかどうかで、論点一つ点数差がつく。
これは、伝聞法則の本質を理解すれば一発で気付く、というものではない。
答練をたくさん受ければすぐ対応できる、というものでもない。
運の要素が強いといえるだろう。
むしろ、こういうところを落としても、しっかり合格点を取れる。
そういう実力をつけることが大事、ということになる。

 

【参考答案】

第1.設問1

1.捜査@及びAについて

(1) 無令状のごみ袋持ち帰りにつき、適法な領置に当たるかを検討する。

ア.領置を無令状でなしうるのは、占有の強制排除を伴わないからである。従って、領置可能な遺留物(221条)とは、何者の占有にも属さない物をいう。

(ア) 捜査@では、ごみ袋は公道上の集積所にいわば放置された状態であるから、何者の占有にも属さないといえる。

(イ) 捜査Aでは、集積所はマンション敷地内にあるものの、無施錠かつ居住部分から少し離れた場所にあって、誰もが出入り可能であった。従って、マンション管理者や居住者において当該集積所に置かれたごみを事実上支配していると認めるに足りない。同所に置かれたごみについては、何者の占有にも属さないと評価できる。

(ウ) よって、捜査@及びAのごみ袋は、いずれも221条所定の遺留物に当たる。

イ.もっとも、今日では人権意識の高まりから、強制概念は拡張されている。遺留物の占有取得であっても、令状を要求しなければ許容できない権利侵害を伴う場合には、強制を伴うものというべきである。上記場合には領置は許されず、差押令状を要する。また、強制を伴わない任意の手段であっても無制限ではなく、具体的状況の下で相当な限度でのみ許される(197条1項本文参照)。
 そして、人は個人の私生活上の自由として、みだりに自己の情報を他者に知られない利益(プライバシー権)を有する(憲法13条、京都府学連事件判例参照)。ごみは私生活のこん跡を含むから、ごみ袋の中身を知られない利益も、プライバシー権に含まれる。

(ア) 捜査@では、ごみ袋は組事務所のものであり、私生活性が低い。また、公道上に置けば通行する者の目に晒される。プライバシーへの期待は減少するといえる。従って、プライバシー権の制約が令状を要求しなければ許容できないものとはいえない。また、甲が置いたのを現認して当該ごみ袋のみを平穏に持ち返っており、相当性も認められる。

(イ) これに対し、捜査Aでは、甲の自宅マンションのごみであり、私生活性が高い。また、マンション敷地の倉庫内は、一般人の目に晒される場所ではない。しかし、居住部分と場所的に区別され、私的領域性が希薄であること、同マンションの他の住人も利用すること、誰もが出入り可能であること、最終的には回収業者の目に触れること等からすれば、ごみの中身に対するプライバシーの期待は、必ずしも高いとはいえない。また、けん銃密売の重大性・密行性という事案の性質に加え、前日の捜査@でけん銃売却を疑わせるメモ片が見つかったことから同様の証拠物発見の蓋然性があったことも考慮すれば、ごみ袋の持ち帰りによるプライバシーの制約が令状を要求しなければ許容できない権利侵害とまでは評価できない。また、マンション管理者の立会いや事前事後の通知等がされた事実はないものの、誰もが立入り可能な場所であり、持ち帰りは現認した甲のごみ袋に限り、平穏に行われたことからすれば、手段の相当性を欠くとまではいえない。

(ウ) よって、捜査@及びAのいずれの領置も適法である。

(2) なお、メモ片の復元は、証拠物を並び替えて視覚的に理解容易にしたに過ぎないから、適法性の問題は何ら生じない。

(3) 以上から、捜査@及びAは、いずれも適法である。

2.捜査Bについて

(1) データの復元・分析の適法性が問題となる。なぜなら、押収物たる携帯電話に対して、通常予定された使用方法とは異なる手段でその記憶媒体にアクセスする点で、捜査@及びAのメモ片の復元とは異なるからである。

(2) 捜査機関は、押収の目的を達するため、必要かつ相当な範囲で押収物について必要な処分をすることができる(222条1項、111条2項)。
 本問において、乙の携帯電話の発着信履歴は、甲のけん銃譲渡に関する重要な証拠となり、携帯電話の押収目的はまさにこの点にあるから、目的を達するためにこれを解析する必要性は高い。他方、通常の用法とは異なる手段とはいえ、携帯電話を毀滅させるおそれは小さく、また、所有者の乙は既に死亡し、他に異議を述べる遺族等もないことからすれば、相当性を欠くともいえない。

(3) よって、データの復元・分析は必要な処分に当たる。捜査Bは適法である。

第2.設問2

1.前提となる捜査の適法性について

(1) Pらは、乙の協力を得て甲にけん銃譲渡を働きかけ、甲が実行に出たところを検挙した。いわゆるおとり捜査である。
 おとり捜査は、それ自体として重大な権利侵害を伴うとはいえないから、任意処分である。もっとも、任意処分も必要かつ相当な限度でのみ許される。とりわけ、おとり捜査については捜査機関が対象者を欺罔する点で適正手続(憲法31条)に対する配慮を要する。具体的には、対象者の犯意を誘発する場合には、適正手続との抵触が大きく、相当性を欠くから許されない。また、既に犯意ある対象者に機会を提供するに過ぎない場合であっても、かかる捜査手法を採るべき必要性が高く、具体的手段が相当性を逸脱しないときに限り、適法となると解される。
 本問で、甲はA組のけん銃密売の責任者として、暴力団所属の購入希望者があれば交渉して販売に応じていた。すなわち、既にけん銃譲渡の犯意があった。乙による売却の依頼は、その機会提供に過ぎない。また、けん銃の流通は公共の安全上重大な脅威であるから、これを検挙する必要性は極めて高い反面、密売は顧客を暴力団関係者に限る等慎重になされ、従前の捜査方法では甲らを検挙する証拠を入手できなかった。従って、おとり捜査という手法を採る必要性は高かった。その手段は、既に一度甲と交渉をした経験のある乙に購入希望を装わせるという無理のないもので、乙は甲及びA組に対する敵意から任意にこれを了承したものと認められるから、相当性を欠くとはいえない。不幸にも乙が死亡する結果となったが、その原因は全く不明である。Pらの捜査手法に起因するとは認められない以上、相当性を否定する事実とはいえない。
 以上から、おとり捜査によった点は適法である。

(2) 録音@ないしBは、甲に秘匿してされたものである。他方、乙又は丙女の同意がある。一方当事者の同意のある秘密録音は、通話終了後に会話内容を当該当事者から任意で聴取することと同視しうる。従って、任意捜査である。もっとも、通信の秘密(憲法21条2項後段)に対する期待に配慮する必要もある。必要性、相当性を欠く場合には、任意捜査の限界を超えて違法となる。
 本問では、通話内容はけん銃譲渡の犯行自体か、これと密接に関連するものであり、録音の必要性は高い。他方、私的内容は含まれていない。通話内容の秘匿性は、低いといえる。従って、相当性を欠くともいえない。
 よって、録音@ないしBを録取した点は適法である。

(3) 以上のとおり、前提となる捜査は全て適法であるから、捜査報告書につき証拠禁止の問題は生じない。

2.伝聞法則との関係について

(1) 公判廷供述に代えて書面を証拠とするためには、321条から328条までの要件を充足する必要がある(320条1項、伝聞法則)。

(2) Kの捜査報告書は、任意処分としてする検証(実況見分)の結果を記載したものである。従って、Kの真正作成供述を要する(321条3項準用)。

(3)ア.捜査報告書1(1)、2(1)及び3の部分は、甲乙間、甲丙女間の会話の存在そのものから、けん銃譲渡の交渉経緯及びその方法等を証明しようとするものである。また、1(2)及び2(2)の部分は、それぞれ1(1)及び2(1)の部分の会話の対象を指示説明するに過ぎない。
 そもそも、伝聞法則の趣旨は、事実を知覚・記憶し、再現する過程に混入する誤りを反対尋問等により除去する機会がない証拠は、当該事実の立証には用いるべきでないとする点にある。従って、伝聞法則の適用のある証拠とは、供述内容を要証事実とする供述証拠である。
 そうすると、捜査報告書の各反訳部分については、その会話内容は要証事実とならず、全て非伝聞となりそうである。

イ.もっとも、1(1)の部分には聞き取れない箇所がある。そのため、同部分だけではけん銃譲渡に係る内容とは読み取れない。従って、同(2)の乙の説明のうち、けん銃売却に応じた旨の部分については、その内容から同(1)の会話内容の性質を立証することになる。従って、その内容が要証事実となる。
 同様に、2(1)部分には聞き取れない箇所があり、同部分だけではけん銃2丁の対価を読み取れない。すなわち、同(2)の乙の説明から上記対価を立証することになるから、その内容が要証事実となる。
 従って、上記の各点については伝聞法則の適用があり、321条1項3号の例外要件を充足する必要がある。

ウ.そこで検討すると、乙の供述は機械的に録取されていることから乙の署名押印は不要である。乙は既に死亡しており、上記供述は甲乙間の交渉経緯及び譲渡方法に係る具体的事実を直接証明しうる証拠であるから、犯罪事実の証明に欠くことができない。また、甲との直接のやり取りの直後に録取したもので、録音@及びAの内容並びに現実のFとの交渉日時・場所、配送方法等客観的事実とも符合しているから、絶対的特信情況の存在を肯定できる。

エ.よって、321条1項3号の要件を充足する。

(4) 以上から、Kの真正作成供述があれば、捜査報告書の全部について、証拠能力が認められる。

以上

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