最新下級審裁判例

名古屋地裁民事第8部判決平成22年02月05日

【事案】

1.当時17歳の青少年であったA子と性行為をしたこと(以下「本件性行為」という。)について,下記の愛知県青少年保護育成条例29条1項,14条1項(昭和36年愛知県条例第13号。以下,同条例を「本件条例」といい,当該規定を「本件規定」という。)違反の罪により逮捕,勾留,公訴提起され(以下,この事件を「本件被疑事件」ないし「本件被告事件」といい,本件被疑事件の被疑事実を「本件被疑事実」という。),その後,本件被告事件において無罪判決が確定した原告が,被告愛知県(以下「被告県」という。)所属の警察官が違法な逮捕状請求等をし,被告国所属の検察官が違法な勾留請求,公訴提起等をしたとして,被告県及び被告国に対し,国家賠償法1条1項に基づき,連帯して,慰謝料500万円及びこれに対する不法行為後の平成19年6月7日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案。

2.前提事実

(1) 本件性行為等

ア.原告は,昭和49年C1月C2日生まれの男性である。

イ.原告は,平成18年7月24日午後8時30分ころ,名古屋市C3区C4町C5番地ホテルB1(以下「本件ホテル」という。)201号室において,A子が17歳であることを知りながら,A子と性行為をした(本件性行為)。

ウ.A子は,本件性行為当時,17歳9か月であった。

(2) 本件被疑事件及び本件被告事件の経緯

ア.本件被疑事件の捜査の端緒等

(ア) A子は,平成18年8月28日,A子の母とともに愛知県瀬戸警察署(以下「瀬戸署」という。)に出頭し,本件性行為につき被害の申告をした(以下「本件申告」という。)。
 瀬戸署では,本件申告について,A1警部補,A2警部補,A3巡査部長,A4巡査,A5巡査などが所属する瀬戸署生活安全課少年係が捜査を担当することとなった(以下,瀬戸署所属の司法警察員・司法巡査らを「本件警察官ら」という。)。
 A5は,同日,A子から事情を聴取し,供述調書を作成した。なお,A子は,被害届と題する文書は作成していない。
 A3は,同月31日,A子の写真撮影を行い,また,原告の住民登録地に対する視察にかかる捜査報告書を作成した。

(イ) また,本件警察官らは,平成18年9月2日,A子の案内により,本件ホテルなど現場の引き当たり捜査を行い,同月4日付けで被害現場等確認に関する捜査報告書を作成した。

(ウ) A3は,平成18年9月5日,A子の母の事情聴取をし,供述調書を作成した。
 また,A2は,同月7日,A子から事情聴取をし,本件被疑事実に関する供述調書及びA子の身上関係についての供述調書を作成した。

(エ) 本件警察官らは,本件被疑事件の裏付け捜査のため,平成18年9月12日,本件ホテルからジャーナル等の領置手続を行い,本件ホテルの部屋などの写真撮影を行った。
 A2は,犯行場所の特定に関する同日付けの捜査報告書を作成した。

イ.逮捕状の請求等

(ア) 本件警察官らの上記捜査に基づき瀬戸署警視(刑事訴訟法199条2項による指定を受けた司法警察員)A6は,平成18年9月21日,瀬戸簡易裁判所裁判官に対し,原告について,逮捕状請求書(以下「本件逮捕状請求書」という。)により逮捕状を請求した(以下「本件逮捕状請求」という。)。
 また,原告の居室及び使用車両に対する捜索差押許可状を請求した。

(イ) 瀬戸簡易裁判所裁判官は,平成18年9月21日,原告についての逮捕状(以下「本件逮捕状」という。)及び原告の居室及び使用車両に対する捜索差押許可状を発付した。本件逮捕状記載の「被疑事実の要旨」は,「別紙逮捕状請求書のとおり」として,本件逮捕状請求書の「被疑事実の要旨」の記載をそのまま引用している。

(ウ) 本件警察官らは,平成18年9月25日午前8時4分から10分にかけて,原告の居室の捜索を実施し,原告の使用する携帯電話機1台を差し押さえた。
 また,本件警察官らは,同日午前8時12分から20分にかけて,原告の使用する普通乗用自動車の捜索を実施した。
 本件警察官らは,原告を瀬戸署に任意同行し,A4は,同時57分,瀬戸署において,本件逮捕状により原告を逮捕した(以下「本件逮捕」という。)。

(エ) A3は,平成18年9月25日午前9時00分ころ,原告につき弁解録取の手続を行い,弁解録取書を作成し,原告の取調べを行い,本件被疑事実に関する簡単な事実関係を記載した供述調書及び原告の身上関係に関する供述調書を作成した。
 また,A4は,上記差押えにかかる原告使用の携帯電話機1台について写真撮影を行った。

(オ) なお,原告は,A子から本件申告をしたことなどの連絡を受けたため,本件逮捕前の平成18年9月7日ころ,勤務先の顧問弁護士であった原告訴訟代理人弁護士(以下「本件弁護士」という。)に,A子との関係について捜査が行われていることに関して相談していた。

ウ.勾留請求及び勾留状の執行

(ア) 瀬戸署司法警察員は,送致書(以下「本件送致書」という。)を作成して,平成18年9月26日午前9時00分,本件被疑事件を原告の身柄と共に名古屋地方検察庁所属の検察官に送致する手続を行い,名古屋地方検察庁所属の検察官は,同時20分,その送致を受けた(以下「本件送致」という。)。

(イ) 名古屋地方検察庁検察官事務取扱副検事A7(以下「A7」又は「本件副検事」という。)は,平成18年9月26日,原告について,弁解録取の手続を行い,弁解録取書を作成し,原告を更に勾留する必要があるとして,同日,名古屋地方裁判所裁判官に,原告について勾留請求書(以下「本件勾留請求書」という。)により勾留の請求をした(以下「本件勾留請求」という。)。
 本件勾留請求書は,「被疑事実の要旨」について「司法警察員送致書記載の犯罪事実に同じ」と記載して,本件送致書の「犯罪事実」を引用している。

(ウ) 名古屋地方裁判所裁判官は,平成18年9月26日,原告に対し,勾留質問を行い,勾留状(以下「本件勾留状」という。)を発し,同日午後4時26分,本件勾留状の執行がされた(以下「本件勾留状執行」という。)。
 原告は,同月26日,本件逮捕前から本件被疑事件について相談していた本件弁護士を,本件被疑事件の弁護人として選任した。

(エ) 本件弁護士は,平成18年9月27日,名古屋地方裁判所裁判官の行った上記勾留の裁判に対し,原告が全治2週間の見込みの顔面打撲の傷害を負い,通院加療中である旨の平成18年7月31日付け診断書及び原告の妻の身柄引受書を添付して,準抗告を申し立てた。
 名古屋地方裁判所は,上記準抗告申立書の写しを本件副検事に送付し,本件副検事は,これを閲読したうえで,名古屋地方裁判所に対し,意見書を提出した。
 名古屋地方裁判所は,翌28日,上記準抗告を棄却する決定をした。

エ.勾留後の取調べ等

(ア) A3は,平成18年9月27日の午前・午後,同月28日の午前・午後及び同年10月2日の午前に,原告の取調べをし,それぞれ供述調書を作成した(以下,これらの取調べを「本件各警察官調べ」といい,本件各警察官調べによる各供述調書を「本件各員面調書」という。)。

(イ) 本件弁護士は,平成18年9月29日ころ,原告と警察署の留置施設で接見し,その際,本件警察官らとも面会し,なぜ原告を逮捕したのか,恋愛関係があるのにいん行に該当するのかなどと尋ね,また,A子の母の交際相手が,原告の勤務先に押しかけたり,原告に暴力をふるったりしたことなどを伝えたが,本件警察官らは,法律論争はしないなどとして取り合わなかった。

(ウ) 本件副検事は,同年10月3日及び5日,原告の取調べをし,それぞれ供述調書を作成した(以下,これらの取調べを「本件各副検事調べ」といい,本件各副検事調べによる各供述調書を「本件各検面調書」という。)。
 本件副検事は,上記10月5日の取調べを終えた後,原告に対して,略式手続について説明を行い,原告から略式手続について異議がない旨の申述書の提出を受けた。

オ.公訴提起及びその後の経緯

(ア) 本件副検事は,名古屋区検察庁の検察官として,平成18年10月5日,名古屋簡易裁判所に対し,原告について,本件条例違反の罪で起訴状(以下「本件起訴状」という。)を提出して公訴を提起し,略式命令を請求した(以下「本件公訴提起」という。)。

(イ) 名古屋簡易裁判所裁判官は,平成18年10月5日,原告を罰金40万円に処する旨の略式命令を発令し,同日,同命令が原告に送達され,原告は,同日,40万円を納付して釈放された。原告は,同月10日,名古屋簡易裁判所に対し正式裁判を請求した。

(ウ) 本件副検事は,平成18年10月17日,A子からはじめて事情を聴取し,供述調書を作成した。

(エ) 平成18年11月30日,本件被告事件の第1回公判期日が行われ,原告は,本件性行為は淫行に当たらないとして無罪を主張した。

(オ) 名古屋簡易裁判所は,平成19年5月23日,本件被告事件について,原告の行為が淫行に当たるとはいえないとして,原告に対し,無罪の判決を言い渡し,同年6月7日,控訴期間経過により,同判決は確定した。

【判旨】

1.「いん行」の意義について

(1) 本件規定は,「何人も,青少年に対して,いん行又はわいせつな行為をしてはならない」と規定しているところ,「いん行」の意義については,最高裁判所昭和60年10月23日大法廷判決・刑集39巻6号413頁(以下「昭和60年大法廷判決」という。)が,福岡県青少年保護育成条例10条1項,16条1項について,判断をしているところである。
 昭和60年大法廷判決は,直接には福岡県青少年保護育成条例10条1項,16条1項の解釈に関するものであるが,同条例の目的,規制の方法とほぼ同じ内容である本件条例にも及ぶものと解され,本件条例に関する愛知県総務部青少年女性室編集発行の解説も,「『いん行』とは,広く青少年に対する性行為一般をいうものではなく, ○ 青少年を誘惑し,威迫し,欺罔し又は困惑させる等,その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか○ 青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような性交又は性交類似行為として限定解釈する。」として,昭和60年大法廷判決と同様の限定解釈をするものと説明している(「愛知県青少年保護育成条例の解説」(平成9年7月)57頁)。

(2) 昭和60年大法廷判決について

ア.昭和60年大法廷判決は,福岡県青少年保護育成条例10条1項,16条1項(淫行処罰規定)の趣旨について「一般に青少年がその心身の未成熟や発育程度の不均衡から,精神的に未だ十分に安定していないため,性行為等によって精神的な痛手を受け易く,また,その痛手からの回復が困難となりがちである等の事情にかんがみ,青少年の健全な育成を図るため,青少年を対象としてなされる性行為等のうち,その育成を阻害するおそれのあるものとして社会通念上非難を受けるべき性質のものを禁止することとしたもの」であるとし,同条例10条1項の規定における「淫行」とは,「広く青少年に対する性行為一般をいうものと解すべきではなく」,@「青少年を誘惑し,威迫し,欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為」のほか,A「青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような性交又は性交類似行為をいうものと解するのが相当である」と判示している(以下,@Aをそれぞれ「第1形態の性行為」,「第2形態の性行為」ということがある。)。

イ.そして,昭和60年大法廷判決は,このような解釈をする理由として,「『淫行』を広く青少年に対する性行為一般を指すものと解するときは,『淫らな』性行為を指す『淫行』の用語自体の意義に添わないばかりでなく,例えば婚約中の青少年又はこれに準ずる真摯な交際関係にある青少年との間で行われる性行為等,社会通念上およそ処罰の対象として考え難いものをも含むこととなって,その解釈は広きに失することが明らか」であること,また,「『淫行』を目して単に反倫理的あるいは不純な性行為と解するのでは,犯罪の構成要件として不明確であるとの批判を免れないのであって,前記の規定の文理から合理的に導き出され得る解釈の範囲内で」前記のとおり限定して解するのが相当であるとしている。
 したがって,昭和60年大法廷判決は,前記のような限定解釈をすることによりはじめて,その解釈が「広きに失する」ないし「処罰の範囲が不当に広過ぎる」とか「犯罪の構成要件として不明確である」との批判を免れ,条例の規定が憲法31条の規定に違反するものとはいえず,憲法11条,13条,19条,21条違反をいう上告理由も前提を欠くとしているものであるといえる。
 また,昭和60年大法廷判決の牧圭次裁判官の補足意見(以下「牧補足意見」という。)は,各都道府県条例が全体として著しく不均衡,不統一であるという観点から,「各条例の青少年との淫行処罰規定の解釈及び運用においては,処罰に対し抑制的態度をとることが相当」であり,「淫行処罰規定の構成要件の解釈にあたり」,「当該規定における用語の意味からかけ離れない限度内で,できるだけ処罰対象をその行為の当罰性につき他の都道府県住民を含む国民多数の合意が得られるようなものに絞って厳格に解釈するのが妥当である」とし,「青少年を相手とする結婚を前提としない性行為のすべてがこれに当たるとするのでは,やはり現在の社会通念からみて,余りにも処罰の範囲が広きに過ぎるといわなければならないと思われる」としている。

ウ.そして,昭和60年大法廷判決は,当該事件における被告人の行為が第2形態の性行為に該当すると判断するに当たり,被告人と少女の「当時における両者のそれぞれの年齢,性交渉に至る経緯,その他両者間の付合いの態様等の諸事情」を具体的判断要素としてあげている。
 また,牧補足意見は,昭和60年大法廷判決の多数意見を敷衍して,第2形態の性行為について,第1形態の性行為のように「不当な手段を用いたといえないまでも,行きずりの青少年を単に自己の性欲を満足させるための対象としてのみ考えてその場限りで行う性交にその典型例を見るように,青少年を全く自己の性欲満足のための道具として弄ぶものと目しうる性行為は,青少年の育成・保護の精神に著しく背馳し,現在における一般社会通念からして,到底許容できないものとして当罰性も肯認されるものと考えられる」とし,第2形態の性行為に該当するかどうかは,「青少年及び相手方の年齢,性行為に至る経緯及び行為の状況等を基にして,健全な常識を有する一般社会人の立場で判断する」としている。

(3) 第2形態の性行為について

ア.上記(2)によると,昭和60年大法廷判決における第2形態の性行為に該当するためには,「結婚を前提としない性行為」(以下,結婚する意思を前提としないことを意味し,結婚の約束をしているか否かは問わない趣旨で用いる。)であることが必要であり,結婚する意思の有無は,結婚する意思があれば淫行には該当しないという意味で重要な事実であるものの,結婚する意思がなければ直ちに「淫行」に該当するものではなく,昭和60年大法廷判決が具体的判断要素としてあげている,当時における両者のそれぞれの年齢,性交渉に至る経緯,その他両者間の付合いの態様等の諸事情を考慮して,健全な常識を有する一般社会人の立場から,「青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められない」か否かを判断する必要があることは明らかである。

イ.そして,昭和60年大法廷判決には,当該規定が,犯罪構成要件としての明確性を欠くから,憲法31条に違反する旨(理由付けはそれぞれ異なる。)の伊藤正己裁判官,谷口正孝裁判官及び島谷六郎裁判官の各反対意見(以下,伊藤正己裁判官の反対意見を「伊藤反対意見」という。)があるが,多数意見,反対意見ともに,「淫行」を広く青少年に対する性行為一般を指すものと解することが相当でないこと,「淫行」を単に反倫理的あるいは不純な性行為と解するのでは犯罪の構成要件として不明確であるとする点では一致しているものと考えられる。
 これを前提に,反対意見は,多数意見の解釈は解釈の限界を超えたものであるとして違憲としているのに対し,多数意見は,「淫行」につき,「反倫理的」あるいは「不純」というような抽象的,多義的な用語を避け,より具体的な定義として「青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められない」ことを要件としているのである。
 そうすると,第2形態の性行為については,そもそもその当罰性について議論がある上(例えば,伊藤反対意見は,「淫行処罰規定による処罰の範囲は,憲法の趣旨をうけて更に限定されざるをえず,『誘惑し,威迫し,欺罔し又は困惑させる等』の不当な手段により青少年との性交又は性交類似行為がなされた場合に限られる」としている。)に,昭和60年大法廷判決は,当該規定にいう淫行の意義を明確にする限定解釈をすることによりはじめて合憲としていることに留意しなければならない。

ウ.本件条例についても,本件条例1条が,「この条例は,青少年の健全な育成を阻害するおそれのある行為を防止し,もって青少年を保護し,その健全な育成に寄与することを目的とする。」と規定し,同2条が,「この条例は,前条の目的を達成するため必要な最小限度において適用すべきであって,国民の権利及び自由を不当に制限しないよう運用しなければならない。」と規定し,本件条例の愛知県総務部青少年女性室編集発行の解説でも,「この条例は,第1条に規定されている『青少年の保護育成』の目的を達成するために必要な限度においてのみ解釈,適用されなければならないのであって,その目的を逸脱し,拡張解釈したりして,憲法で保障されている関係者の権利及び自由を不当に制限するようなことがあってはならないのである。」(前掲「愛知県青少年保護育成条例の解説」8頁)とし,本件規定については,「種々の問題が含まれているので,適用に当たっては,関係機関で慎重に対処していく必要がある。」としているのである(同・58頁)。

エ.したがって,逮捕や勾留が,被疑者の身柄を拘束するという人権に対する重大な侵害行為を伴うものであり,公訴提起が,国家の刑罰権行使に関する重大処分で,いずれも被告人に直接的あるいは間接的な種々の不利益が生じるものであることからすると,捜査機関は,逮捕状の請求等に当たっては,第2形態の性行為に該当するか否かについて,昭和60年大法廷判決により具体的に定義された要件についての正確な理解を前提に,当該行為が当罰性のある行為か否か,具体的事実への適用について抑制的で慎重な姿勢が求められるものであり,昭和60年大法廷判決が具体的判断要素としてあげている諸事実について,必要な捜査を怠ることなく,十分な資料を収集した上で判断を行わなければならないものというべきである。

2.本件被疑事件・本件被告事件における嫌疑について

(1) 本件性行為に関連して以下の事実が認められる。

ア.原告とA子の年齢等

 原告は,本件性行為時,31歳の会社員であり,平成15年6月27日に結婚した妻と1歳になる子供がおり,妻は妊娠していた。原告は,A子とはじめて性行為をした後,平成18年6月終わりころ,妻が妊娠した事実を知った。
 A子は,本件性行為時,17歳9か月の高等学校の生徒であって,あと3か月を待たずに18歳になり,原告と初めて性行為をするより前にも,性行為の経験があった。

イ.性行為に至るまでの経緯,付合いの態様

(ア) 原告は,平成18年2月,勤務するB社が経営する飲食店(以下「本件店舗」という。)に副店長として異動になった際,本件店舗でアルバイトをしていたA子と知り合った。
 原告は,平成18年4月ころ,勤務の空いた時間にA子と話す機会が多くなり,A子は,原告に対し,仕事や学校の話をしたり,A子の母が2回離婚し,当時,別の男性と交際していること,母とけんかをして,施設に入ったらとか,出て行けなどといわれたこと,A子の昔の彼氏の話や,当時,A子にしつこくつきまとっている男性の話など,様々な悩みを話したり相談したりなどするうちに,次第に親しくなっていった。
 原告は,当初は,A子に対し,特別な感情を有していなかったものの,A子の顔も雰囲気も自分の好みのかわいい子であり,A子の仕事ぶりを見たり,話をして親しくなるうちに,A子を次第に好きになっていった。
 A子は,はじめは原告と性行為をするような関係になることには抵抗があったが,原告が一緒にいて楽で,波長が合うタイプであったため,自然に惹かれていった。

(イ) 原告は,平成18年5月ころ,A子が見たい映画があるという話になり,2人で映画を見に行くことになって,携帯電話のメールアドレスを交換して,後日映画を見に行く日を決めた。
 原告は,その1〜2週間後の仕事が休みの平日,A子が学校を終わった後,A子の家の近くまで車で迎えに行き,2人で,映画を見に行った。
 原告は,映画の後,A子を車で送って帰る途中で,A子に対し了解を求めたうえで,A子とはじめてキスをした。
 なお,A子は,同月はじめころ,A子の母に対し,原告から付き合ってほしいと言われていることを話し,A子の母は,単なる友達として付き合うのなら問題ないと考え,普通に友達として付き合うのはいいけど,肉体関係になってはだめよと述べていた。

(ウ) その後,原告は,A子も原告のことが好きな様子であったので,以下のとおり,A子との交際を深めていった。
 原告とA子は,携帯電話のメール交換により,今度いつ会うといった連絡のほか,仕事の些細な話や趣味の合った音楽の話などを通じて,お互いの感情を伝え合うようになり,メールの回数も徐々に増えていった。
 原告とA子は,ドライブデートなどを重ね,キスの回数も多くなり,お互いに好きだという話をして,感情が盛り上がっていって体を触れ合うこともあった。
 原告とA子は,休みがなかなか合わなかったため,A子がアルバイトの日を削ったりして2人で会う時間を作っていた。
 また,同年6月に入ったころには,A子は,原告の話ばかりするようになり,A子の母がもしかしたらA子が原告のことが好きになり,原告と肉体関係になっているのではないかと心配するようになった。

(エ) 原告は,何回もデートをして自分としては付き合っているつもりでおり,気持ちが高ぶってA子に対し性行為をしないのかメールで尋ねたところ,まだ早いとの返事があった。
 原告が,A子から話しかけられた際,A子にその真意を聞くと,まだ正式に付き合っていないからとのことであったので,付き合っているつもりでいると言ったところ,A子は性行為することを了解し,日程を調整し,平成18年5月末か6月初旬ころ,ホテルに行ってA子と性行為をした。
 その後,原告とA子は,遊びに行くようなときは,特に何も言わなくてもいつも同じホテルに行って,性行為を持つことが多くなり,本件性行為も含め少なくとも4回から5回,A子と性行為をした。原告とA子は,性行為を持つようになった後も,性行為をするだけではなく,ドライブや映画に行くなどのデートをし,ホテルに行った帰りに食事をすることもあり,2人でディズニーランドに行くという約束もしていた。
 原告とA子は,性行為をする際に,直ぐに性行為をするのではなく,30分くらいテレビを見たり話をしたりして,その後,1時間くらい性行為をしていた。原告とA子は,性行為が終わった後も,他愛もない会話をし,ホテルを出ると,途中で食事をするなどして,原告は,A子をA子の自宅まで送っていた。

(オ) 原告は,平成18年7月24日にA子と会って本件ホテルに行く約束をしていたため,本件店舗の仕事のシフトを調整した。
 原告は,平成18年7月24日午後7時ころ,A子と待ち合わせて,車で迎えに行き,直ぐに本件ホテルに向かい,同日午後8時30分ころ,本件ホテルの210号室において,性行為をした(本件性行為)。
 原告とA子は,本件性行為の後,本件ホテルを出て,A子は,同日午後10時30分ころ,A子の母に,原告と遠くまでドライブをしているので帰りが遅くなる旨のメールを入れ,A子の母は,A子に電話してすぐに家に帰ってくるように言い,原告は,A子をA子の自宅に送っていった。

(カ) 原告は,職務上,A子と知り合った当初から,A子が17歳であることを知っており,A子も,原告に妻と子供1人がいることを知っていた。
 A子は,原告とは,年齢も離れているし,原告が結婚して妻もいることを知っていたので,結婚することは考えていなかったし,原告も,妻や子供と別れてA子と結婚することまでは考えていなかったし,A子に対しても妻と離婚するつもりはないことを告げていた。
 原告は,A子に対し,性行為の対価として,金銭を渡したことはなかった。また,原告とA子が性行為を持つに至ったことについて,原告が,本件店舗における職務上の地位を利用したり,A子を騙したりしたことはなかった。

(2) 以上によると,本件性行為時に,A子は既に17歳9か月であり,あと3か月を待たずに18歳になること,A子は,原告と性行為を持つより前に,性行為の経験を有していたこと,A子が,原告に対し,様々な悩みを話したり相談したりし,自然に惹かれていくようになって,原告とA子は交際に至ったこと,はじめての性行為に至るまでに,原告とA子は携帯電話のメール交換を介してお互いの感情を伝え合い,映画やドライブなどの数回のデートを重ね,2か月程度が経過したところで性行為に至っていること,はじめて性行為をした後も,性行為をするだけでなく,ドライブなどのデートをする関係にあり,原告とA子の関係が性行為のみを目的とする関係ではなかったことが認められる(原告とA子との関係は,原告に妻子がおり,原告が妻と離婚してA子と結婚するつもりはなかったということを除けば,いわゆる恋人同士の関係と全く異なるところはないものである。)。
 そうすると,昭和60年大法廷判決が掲げる「当時における両者のそれぞれの年齢,性交渉に至る経緯,その他両者間の付合いの態様等の諸事情」を考慮して,健全な常識を有する一般社会人の立場で判断すれば,本件性行為について,原告が,A子を「単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められない」ものではないことが明らかである。
 なお,原告が結婚するつもりもないのに,妻と別れて結婚すると言っていたのであれば,A子を騙し,自己の性的欲望を満足させるためにのみ性行為を行ったことにもなり得るが,原告は,そのようなことはなく,妻と離婚するつもりがないことをA子に告げて,それでも性行為を持つことをA子に了解してもらっていたのであるから,このことからも,原告がA子を単に自己の性的欲望を満足させる対象として扱っていたものではないことが明らかである。

(3)ア.被告国は,昭和60年大法廷判決は,「『真摯な交際関係』を『婚約中の青少年又はこれに準ずる』ものとし,このような意味での『真摯な交際関係』を処罰の対象としないと判示されている」として,「妻子がおり,A子との結婚を前提としていない原告とA子との関係を,婚約に準じるような関係と評価し,処罰の対象とならない」とするのは,同判決に抵触する旨主張する。
 しかし,昭和60年大法廷判決は,「『淫行』を広く青少年に対する性行為一般を指すものと解するときは」,「婚約中の青少年又はこれに準ずる真摯な交際関係にある青少年との間で行われる性行為等,社会通念上およそ処罰の対象として考え難いものをも含むこと」になるとして,明らかに当罰性が認められない行為として,「婚約中の青少年又はこれに準ずる真摯な交際関係にある青少年との間で行われる性行為」を例示しただけであり,処罰の対象とならない場合を「婚約中の青少年又はこれに準ずる真摯な交際関係にある」場合に限定したものでないことは文言上も明らかであり,被告国の上記主張は,昭和60年大法廷判決の判示する内容を曲解し,処罰の範囲を恣意的に拡張しようとするものであり,到底採用できないものである。

イ.また,被告国は,原告は,積極的にA子に働きかけて性行為に及び,その後は,A子と性交する目的で,自分とA子のシフトを調整してA子と会う機会を作り,A子と性交を重ねる一方,妻とも性交をし,妻子と別れる意思も全くなかったから,第2形態の性行為に該当することは明白であり,また,A子を不倫関係に巻き込み,原告の妻に対する不貞行為に荷担させた行為は,明らかに社会通念上非難に値するものであるなどと主張する。
 しかし,被告国は,原告には妻子がおり,妻が妊娠していたという事情を殊更に強調し,本件店舗の副店長であった原告がアルバイトであったA子をデートに誘った事実,原告がA子と会うためにシフトを調整したという事実等を恣意的に選択して援用し,性交するだけの目的の第2形態の性行為であると主張するもので,本件条例の目的を逸脱した拡張解釈をするものであり,昭和60年大法廷判決が具体的判断要素としてあげている原告とA子の性交渉に至る経緯や性行為以外の付合い方に関する事情などを全く無視しているもので,到底採用する余地のないものである。
 前記1(2),(3)のとおり,昭和60年大法廷判決が「淫行」を「単に反倫理的あるいは不純な性行為と解するのでは,犯罪の構成要件として不明確であるとの批判を免れない」として,不倫や不純というような抽象的,多義的な用語を避け,条例の規定の文理から合理的に導き出されうる解釈として,特に第2形態の性行為について,青少年の育成・保護の精神に背馳し,一般の社会通念に照らし到底許容できない類型として,「青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような」との限定解釈をしているのに,被告国がこのような本件条例の趣旨や規定から離れて,妻子ある者との不倫行為に当たることを殊更に強調することは,昭和60年大法廷判決の限定解釈を全く理解しないものであり,現時点においてもこのような主張をしていること自体,被告国の違法な姿勢を露呈するものであって,被告国の上記主張が理由のないものであることは明らかである。

3.本件申告に至る経緯等について

(1) 本件申告に至る経緯について,以下の事実が認められる。

ア.原告は,本件性行為のあった平成18年7月24日夜,A子を家まで車で送っていった。
 同日,A子の母は,原告とA子との交際に不審を持ち,A子を問いただしたところ,A子は,原告との性行為の事実を認めた。
 そのため,A子の母は,原告を呼び戻し,問いただすと,原告は,A子の母に対して謝罪し,性行為の事実を認めた。A子の母は,原告に対し,2度とA子に近づかないように求めた。その際,A子の母は,A子に対して暴力をふるい,A子の母の交際相手と共に原告に対しても暴力をふるい,原告に全治2週間の顔面打撲の傷害を負わせた。

イ.原告は,A子との関係を絶つ旨の発言をしたが,A子の母及びその交際相手(以下「A子の母ら」という。)は,原告の態度に腹を立て,同日午後11時過ぎころ,原告とA子とともに,本件店舗に向かい,本件店舗の店長に抗議したところ,店長は,A子の母らの要求が,原告の勤務先に対し,暗に金銭の支払を要求するものであり,店長の一存で決められることではなかったため,一度上の人間と相談すると返答した。
 原告の勤務先のマネージャーは,2〜3日後に,A子の家を訪れ,A子の母らに原告を異動させることなどを告げたが,金銭の支払についてはプライベートの問題として要求を拒絶した。
 A子の母らは,同マネージャーの対応に納得せず,原告を連れて再度謝罪に来るよう要求した。
 同マネージャーは,約1週間後,原告を含め3名で訪問し,原告も謝罪をしたが,A子の母らは,そこでの原告や原告の勤務先の態度に誠意がみられないとして,A子の母らの主導により本件申告に至った。

(2) 以上によると,本件申告は,A子の母らが原告の勤務先から金銭の支払を受けることができなかったことを契機とする,A子の母らの主導によるものであると認められる。
 そして,第2形態の性行為については,前記1(3)エのとおり,当該行為が当罰性のある行為か否か,具体的事実への適用について抑制的で慎重な姿勢が求められるべきものであり,本件申告に対しても,捜査機関としては,本件条例の青少年の健全な育成を阻害するおそれのある行為を防止し,もって青少年を保護し,その健全な育成に寄与するとの目的を達成するため必要な最小限度において本件条例を適用しなければならないのであって,国民の権利及び自由を不当に制限しないよう運用しなければならなかった(本件条例1条,2条)のであり,本件条例の目的とは別の目的のために利用されていないかどうかについても慎重な捜査が求められるところであり,本件申告に至る経緯に疑義があれば,これを明らかにするなど慎重な対応が求められたというべきである。

4.本件逮捕状請求及び本件逮捕の違法性

(1) 逮捕については,刑事事件において無罪の判決が確定したというだけで直ちに違法になるというものではなく,逮捕状請求及び逮捕状による逮捕の各時点において,犯罪の嫌疑について相当な理由があり,かつ,必要性が認められる限りは適法である(最高裁昭和53年10月20日第二小法廷判決・民集32巻7号1367頁)。
 したがって,逮捕状請求及び逮捕状による逮捕については,警察官が現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を総合勘案して,その各時点で,警察官が,犯罪の嫌疑についての相当な理由及び逮捕の必要性を判断する過程において,合理的根拠が客観的に欠如しているにもかかわらず,逮捕状を請求しあるいは逮捕状により逮捕した場合には違法になると解するのが相当である。
 なお,捜査機関は,裁判官のあらかじめ発する逮捕状により,被疑者を逮捕することができる(刑事訴訟法199条1項)が,逮捕状は,裁判官が捜査機関に逮捕する権限を付与する裁判書であり,逮捕を命ずるものではないから,逮捕状発付後も,捜査機関は,必ず逮捕しなければならないわけではなく,自らの判断と責任において逮捕するか否かの自由を有するため,逮捕状請求行為だけでなく,逮捕状による逮捕自体の違法性も別に問題となる。

(2) 本件警察官らの判断過程について

ア.そこで,本件警察官らが本件逮捕状請求及び本件逮捕に際し,本件性行為が第2形態の性行為に該当するという犯罪の嫌疑について相当な理由があり,かつ,逮捕の必要性が認められるとの判断に至った過程について検討する。

イ.本件逮捕状請求及び本件逮捕時点において,本件警察官らは,A子及びA子の母が以下のとおり供述していることを把握していたと認められる。

(ア) 原告は,本件性行為時,31歳の会社員であり,平成15年6月27日に結婚した妻と1歳になる子供がおり,妻は妊娠していた。
 A子は,本件性行為時,17歳9か月の高等学校の生徒で,あと3か月を待たずに18歳になり,原告と性行為をするより前にも,性行為の経験があった。

(イ) 原告は,平成18年2月,勤務するB社が経営する本件店舗に副店長として異動になった際,本件店舗でアルバイトをしていたA子と知り合った。
 原告は,平成18年4月ころ,A子に声をかけ親しくなり,2人で映画を見に行くなど数回のデートを重ねた。
 原告は,その後,同年6月ころから,A子をホテルに誘い,性行為を持つようになり,その後,本件性行為を含め少なくとも4回から5回,本件ホテルにおいて,A子と性行為を持った。原告は,性行為の対価として,A子に金銭を渡したことはなく,A子は,いわゆる援助交際は,女の子が18歳未満だと法律に違反することを知っており,原告とA子との関係は,そのような援助交際ではないと考えていた。

(ウ) 原告は,職務上,A子と知り合った当初から,A子が17歳であることを知っており,A子も,原告に妻と子供1人がいることを知っていた。
 A子は,原告とは,年齢も離れているし,原告が結婚して妻もいることを知っていたので,結婚することは互いに考えていないが,一緒にいて波長が合うなどの理由から一時の遊び友達であるとの考えを持っていた(ただし,A子の供述調書には,「当然A8さんは,私と将来結婚するなどと言うことは考えられないと思うし,ある意味私とは一時の遊び友達であったと思うのです。」と記載されており,A2がA子を誘導して供述調書を作成していることがうかがわれる。)。
 原告も,A子に対し,A子とは「一時の遊び友達」であるような発言をしたこともあった。
 A子は,A子の母に対し,原告から妻と別れるつもりはないが,付き合ってほしいと言われていることなどを話しており,A子の母との日常会話の中でも原告の話をすることが多くなっていた。

(エ) 原告は,平成18年7月24日にA子と会って本件ホテルに行く約束をしていたため,本件店舗の仕事のシフトを調整した。
 原告は,平成18年7月24日午後7時ころ,A子と待ち合わせて,車で迎えに行き,直ぐに本件ホテルに向かい,同日午後8時30分ころ,本件ホテルの210号室において,性行為をした(本件性行為)。

(オ) 原告とA子は,平成18年7月24日午後10時ころ,本件ホテルを出て,A子を家まで車で送っていった。
 同日,A子の母は,原告とA子との交際に不審を持ち,A子を問いただしたところ,A子は原告との性行為の事実を認めた。
 そのため,A子の母は,原告を呼び戻し,問いただすと,原告は,A子の母に対して謝罪し,性行為の事実を認めた。A子の母は,2度とA子に近づかないように求めたところ,原告は,A子との関係を絶つ旨の発言をしたものの,A子の母は,原告の態度に腹を立て,同日午後11時過ぎころ,原告とA子とともに,本件店舗に向かい,本件店舗の店長に抗議したところ,店長は,A子の母の要求が店長の一存で決められることではないとして,一度上の人間と相談すると返答した。

(カ) 原告の勤務先のマネージャーが,2〜3日後に,A子の家を訪れ,A子の母らに原告を異動させることなどを告げたが,A子の母は,同マネージャーの言動に腹を立て,原告を連れて再度謝罪に来るよう要求した。
 同マネージャーは,約1週間後,原告を含め3名で訪れ,原告も謝罪をしたが,A子の母は,そこでの原告や会社の態度に誠意がみられなかったため,本件申告に至った。

(キ) A子は,A子の母に原告との関係が発覚し叱られたため,平成18年9月7日までに,原告の携帯電話の番号やメールアドレスなどを消去していた。

ウ.そして,本件警察官らは,前記イのA子やA子の母の供述が,その他の証拠によっても裏付けられるとして,本件性行為が第2形態の性行為に該当することが明らかであるとの判断をし,また,本件は,本件店舗で働くアルバイト女子従業員であるA子を,原告が副店長としての立場を利用して言葉巧みに誘い,本件性行為に及んだものであって,事案の内容及び原告の行状が悪質であり,本件捜査を察知すれば処罰を免れるために逃走を企て,また,A子と接触を図り,威迫又は懐柔工作を図るなどして事実を歪曲させる等罪証隠滅のおそれが極めて高いとの判断をしていたものと認められる。ちなみに,本件逮捕状請求書には,「本件は本人が副店長として勤める店に働くバイト女子従業員をその立場を利用し言葉巧みに誘い,少女に対し性行為に及んだことは明らかであり,事案の内容及び被疑者の行状とも悪性が強く,本件捜査を察知すれば処罰を免れるために逃走を企て,また被害少女と接触を図り,威迫又は懐柔工作を図るなどして事実を歪曲させる等,罪証隠滅の恐れが極めて高い。」と記載されている。
 そして,A3は,本件での証言の時点においても,原告とA子が真剣に付き合っていても,結婚するつもりがなければ,第2形態の性行為に該当するとの認識を有していたもので,その旨を繰り返し述べており,A子の供述調書には,「私がお金を貰っていなくてもまだ私は17歳であり,私のような年齢の女の子を相手にセックスすることはいけないことで,それも違反になることは聞いてよく分かりました。」と記載されており,本件警察官らが,上記のような認識で,本件被疑事件の捜査を行っていたものであることを表している。
 以上によれば,本件警察官らは,結婚を前提としない性行為であれば第2形態の性行為になるという解釈を前提に,上記の判断をしていたことが明らかである。

(3) 合理的根拠の欠如について

ア.しかし,本件逮捕状請求時及び本件逮捕時において,本件警察官らは,既に,前記(2)イのとおり,原告が,本件性行為時,31歳の会社員であり,平成15年6月27日に結婚した妻と1歳になる子供がおり,妻は妊娠していたこと,A子が,本件性行為時,既に17歳9か月であり,あと3か月を待たずに18歳になること,A子は,原告と性行為を持つより前に,性行為の経験を有していたこと,原告とA子が数回の食事などのデートを重ね,2か月程度経過したところで性行為に至ったことなどを把握していた。
 そして,本件警察官らが,昭和60年大法廷判決があげている諸事情(性交渉に至る経緯,その他両者間の付合いの態様等)について,A子やA子の母から事情聴取をすれば,前記2(1)イの事実のうち,前記(2)イの本件警察官らが既に収集した証拠資料により把握していた事実以外にも,A子が原告に対し悩みを話したり相談したりして,自然に惹かれていき,お互いの感情を伝え合い,映画やドライブなどの数回のデートを重ねて,性行為に至ったことや,性行為を持った後もドライブや映画に行くなどのデートをし,ホテルに行った帰りに食事をすることもあり,2人でディズニーランドに行くという約束もしていたことなどが容易に明らかになったものと認められる。
 これら,本件警察官らが現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を総合勘案すれば,本件性行為について,原告とA子の関係が性行為のみを目的とする関係ではなく,原告に妻子がおり,原告が妻と離婚してA子と結婚するつもりはなかったということ以外は,いわゆる恋人同士の関係と異なるところはなく,第2形態の性行為に該当する合理的根拠が客観的に欠如していたことは明らかであり,本件性行為について第2形態の性行為として逮捕状を請求し,逮捕できる事案でなかったことは明らかである。

イ.それにもかかわらず,本件警察官らは,前記(2)ウのとおり,結婚を前提としない性行為であれば第2形態の性行為になるという明らかに誤った解釈を前提に,原告にA子と結婚する意思がなかったとの事実のみに着目し,結婚の意思以外の当時における両者のそれぞれの年齢,原告とA子との性行為に至る経緯やその他両者間の付合いなどに関する事実を正しく評価せず,また,これらの事情に関する事実の捜査を怠り,客観的に犯罪の嫌疑について相当な理由がないにもかかわらず,明らかに不合理な構成要件への当てはめをし,本件逮捕状請求及び本件逮捕をしたものというべきである。
 そればかりか,前記2(1)によると,原告とA子が性行為を持つに至ったことについて,原告が,本件店舗における職務上の地位を利用したり,A子を不当な手段で誘惑したことはなかった(むしろ,原告は,妻と離婚するつもりがないことをA子に告げて,それでも性行為を持つことを了解してもらっていた)のに,本件警察官らは,本件性行為に至る経緯について,原告が「副店長として勤める店に働くバイト女子従業員をその立場を利用し言葉巧みに誘い,少女に対し性行為に及んだことは明らか」と,原告が職務上の地位を利用し,不当な誘惑をした旨の,事実とは全く異なる,明らかに誤った記載をした本件逮捕状請求書を作成,提出するまでして本件逮捕状請求をしたものである(A3は,証人尋問において,「言葉巧みに」に該当する具体的な事実について証言できないなど,この点に関し合理的な説明ができなかった。)。

ウ.したがって,本件警察官らは,以上の誤りを重ねて,犯罪の嫌疑の相当な理由について合理的根拠が客観的に欠如しているにもかかわらず,本件逮捕状請求をし,かつ本件逮捕をしたものであるから,これらは国家賠償法1条1項における違法な行為というべきであり,上記のとおり,必要な捜査を怠り,明らかに不合理な構成要件への当てはめをしているから,過失も認められる。

エ.なお,原告は,本件警察官らが福祉犯取締強化月間であったため検挙数を上げるという別な動機から本件逮捕状請求及び本件逮捕をしたものである旨主張し,証拠(証人A3)によれば,本件逮捕状請求時及び本件逮捕時は,上記強化月間であったことが認められるが,直ちに,本件警察官らが検挙数を上げるためにのみ本件逮捕状請求をしたり,本件逮捕をしたと認めることはできず,他にこれを裏付けるに足りる証拠はない。

(4)ア.被告県は,本件逮捕状請求について,瀬戸簡易裁判所裁判官が逮捕状を発付したことや,その後,名古屋地方裁判所裁判官が勾留をしていることから,犯罪の嫌疑の相当な理由について合理的根拠が客観的に欠如していたとはいえない旨主張する。
 しかし,逮捕状の発付や勾留の裁判がされたからといって直ちに逮捕状請求や逮捕が適法と認められるものではないし,本件においては,前記(3)イのとおり,本件警察官らにおいて,容易に明らかにできる事実についての捜査を怠ったためにこれらの事実が証拠資料とされなかったのであり,また,本件警察官らは,根拠もなく,原告が「副店長として勤める店に働くバイト女子従業員をその立場を利用し言葉巧みに誘い,少女に対し性行為に及んだことは明らかであり,事案の内容及び被疑者の行状とも悪性が強く」などと裁判官の判断を誤らせる記載をした本件逮捕状請求書を作成して,裁判官に提出しており,この事実からすると,本件の証拠として提出されてはいないが,公判不提出記録であるとして被告らが提出を拒む捜査報告書や送致書にも同様に誤った記載がされている可能性が高いのであって,このような資料を基に逮捕状の発付や勾留の裁判がされているのであるから,逮捕状の発付や勾留の裁判がされたことで本件逮捕状請求や本件逮捕が正当化されるものではない。
 そして,本件においては,前記(3)アのとおり,本件警察官らが,誤った解釈を前提とすることなく,現に収集した証拠資料に,通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を加え,総合勘案して合理的に判断していれば,犯罪の嫌疑についての相当な理由につき合理的根拠が客観的に欠如していることが明らかになったものであり,被告県の上記主張は理由がない。

イ.また,被告県は,原告には妊娠中の妻と子供がいたことのほか,原告がA子に対し,一時の遊び友達であったと口にしていたことや,A子の母に発覚した際,A子との関係を絶つ旨の発言をした事実などからすると,原告がA子を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っていた疑いが強いことが明らかであったと主張するが,かかる主張は,本件性行為に至るまでの原告とA子との付合いの態様について全く考慮していないものであって,むしろ,誤った解釈を前提に必要な捜査を遂げずに安易な判断を行っていることを露呈させるにすぎないものであり,前記(3)アのとおり,本件性行為について犯罪の嫌疑の相当な理由について合理的根拠が客観的に欠如していたという事実を覆すに足りるものではなく,被告県の上記主張も理由がない。

(5) 以上によると,本件逮捕状請求及び本件逮捕について,被告県に所属する本件警察官らは,過失によって違法に原告に損害を加えたものであるから,被告県は,原告に対し,国家賠償法1条1項に基づき,原告に生じた損害を賠償する義務を負う。

5.本件勾留請求及び本件勾留状執行の違法性

(1) 起訴前の勾留は,逮捕の場合と同様に,刑事事件において無罪の判決が確定したというだけで直ちに違法になるというものではなく,検察官の勾留請求が違法であるか否かについては,勾留請求当時において,犯罪の嫌疑について相当の理由があり,かつ,勾留の理由及び必要性が認められるかによって決せられるものである(前掲最高裁昭和53年10月20日第二小法廷判決)。
 したがって,検察官の勾留請求については,検察官が現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を総合勘案して,勾留請求の時点で,検察官が,犯罪の嫌疑についての相当な理由及び勾留の必要性を判断する過程において,合理的根拠が客観的に欠如しているにもかかわらず,勾留請求をした場合には違法になると解するのが相当である。

(2) 本件副検事の判断過程について

ア.そこで,本件副検事が,本件勾留請求に際し,本件性行為が第2形態の性行為に該当するという犯罪の嫌疑について相当な理由があり,かつ,勾留の理由(罪証を隠滅すると疑うに足りる相当の理由又は逃亡すると疑うに足りる相当の理由)及び必要性が認められるとの判断に至った過程について検討する。

イ(ア) まず,本件副検事は,本件被疑事件の一件記録の送付を受け,前記4(2)イのA子やA子の母の供述調書及びこれらを裏付けるその他の証拠の存在を認識したことが認められる。

(イ) また,原告が,逮捕直後の弁解録取や取調べにおいて,A3に対し,平成18年7月24日午後8時30分ころ,本件ホテルの210号室において,A子が17歳であることを知りながら,A子と性行為(本件性行為)をしたこと,これまでにA子と4,5回は性行為をしているが,A子には,性行為をしてお金を渡したことは一度もないこと,妻も子供もいるためA子とは結婚するつもりがなかったことなどを供述していることを認識したことが認められる。

(ウ) そして,原告は,本件副検事に対して,弁解録取の手続において,A子と付き合っているのがばれた後,A子の母の内縁の夫から乱暴され,勤務先にも押しかけられたことがあることを供述したことが認められる。
 証人A7は,弁解録取時において,原告が「『自己の性欲を満足させるためだけの目的で』というのは違いますとか,恋愛感情を持ってました」とかは供述していないと証言するが,原告は,本件副検事の弁解録取時に,A子に対し恋愛感情を持っていましたなどと話した旨供述しており,上記弁解録取と同日に行われた勾留質問時に,原告は,「『自己の性欲を満足させるだけの目的で』というのは違います。」,「互いに恋愛感情を持っていました」などと上記原告の供述に合致する供述をしていること,本件副検事が作成した本件勾留請求書にも,手書きで「一応認めるも詳細未解明」と記載されており,原告が完全に事実を認めている前提での記載とはなっていないこと,通常短時間で行われることの多い勾留質問の際にも上記のとおり供述していることからすると,弁解録取時に,原告がA子に対し恋愛感情を持っていたとの趣旨のことを何も本件副検事に話さなかったというのは極めて不自然であり,証人A7の上記証言は信用できず,原告の供述のとおり,原告は,A子に対し恋愛感情を持っていたことなどを本件副検事に伝えたものと認められる。
 そして,本件副検事は,原告がA子に対し恋愛感情を持っていたことなどを供述したものの,妻も子供もいるのでA子とは結婚するつもりがなかったことなどを供述していたため,本件被疑事実は認めるものと判断し,「読み聞けの事実は,そのとおり間違いありません。」と整理し,原告は,その内容を確認したうえで,弁解録取書に署名・指印をしたことが認められる。

ウ.本件副検事は,前記イにより把握した事実及び証拠を前提に,原告には妊娠中の妻と1歳の子供がいたことから,原告の家庭は円満であり,原告が勤務先のアルバイトとして働いている女子高生であるA子と付き合っても,妻子を捨ててA子と結婚することは考えられないこと,原告が,「読み聞けの事実は間違いない」との供述調書に署名・指印したこと,本件警察官らに対し,原告が妻と別れる意思はなく,A子と結婚する意思はないと述べていたことなどから,本件性行為が,第2形態の性行為に該当することは明らかであると考え,原告が逮捕までされて追いつめられ,またA子と本件被疑事実以外にも性行為をした同種余罪があるため,罪を逃れようとして,A子と原告は互いに結婚するつもりで交際していたなどと口裏を合わせる可能性が高く,原告とA子の関係からその実現可能性は高いと判断し,また,原告には勤務先や妻子がいるものの,逮捕されたことにより妻子のもとを出奔するおそれもあると判断し,勾留の理由も必要性もあると判断したものと認められる。

(3) 合理的根拠の欠如について

ア.本件勾留請求時において,本件副検事は,既に,前記(2)イのとおり,原告が,本件性行為時,31歳の会社員であり,平成15年6月27日に結婚した妻と1歳になる子供がおり,妻は妊娠していたこと,A子が,本件性行為時,既に17歳9か月であり,あと3か月を待たずに18歳になること,A子は,原告と性行為を持つより前に,性行為の経験を有していたこと,原告とA子が数回の食事などのデートを重ね,2か月程度経過したところで性行為に至っていること,原告が,妻と別れてA子と結婚するつもりはないが,A子に対して恋愛感情を持っていたことなどを供述していることなどを把握していた。
 もっとも,原告は,本件副検事に対し,A子とは恋愛感情を持っていたなどと供述していたが,「読み聞けの事実は,そのとおり間違いありません」との供述調書に最終的には署名・指印しているのであり,本件副検事は,被疑者である原告を留置の必要があると思慮するときは,送致された被疑者である原告を受け取った時から24時間以内に裁判官に原告の勾留の請求をしなければならない(刑事訴訟法205条1項)ことをふまえると,前記2(1)イの事実のうち,前記(2)イの本件副検事が既に収集した証拠資料により把握していた事実以外の,A子が原告に対し悩みを話したり相談したりして,自然に惹かれていき,お互いの感情を伝え合うようになり,映画やドライブなどの数回のデートを重ねて,性行為に至ったことや,性行為を持った後もドライブや映画に行くなどのデートをし,ホテルに行った帰りに食事をすることもあり,2人でディズニーランドに行くという約束もしていたことなどを,直ちに原告やA子から聴取することは困難であったというべきであり,これらの事実は,本件勾留請求の段階では,検察官に通常要求される捜査を遂行すれば明らかになったとは認められない。

イ.以上によると,原告は,A子に対して恋愛感情を持っていたと供述しているものの,原告が,妻と別れてA子と結婚するつもりはないと供述し,「読み聞けの事実は,そのとおり間違いありません」との供述調書に原告が最終的に署名・指印していること,原告が,A子に対して,一時の遊び友達である旨の発言をしているとのA子の供述調書の記載があること,その他,原告とA子が性行為に至る詳しい過程や,はじめて原告とA子が性行為をしてからの両者の関係などは明らかになっていなかったことからすると,前記(2)イの本件副検事が現に収集した証拠資料を総合勘案して合理的に判断しても,犯罪の嫌疑の相当な理由につき合理的根拠が客観的に欠如しているとまで認めることはできない。
 また,前記(2)イの本件副検事が現に収集した証拠資料を総合考慮すると,原告が,罪を逃れようとして,原告とA子が性行為に至る詳しい過程や,はじめて原告とA子が性行為をしてからの両者の関係などにつき,A子と口裏を合わせる可能性があり,原告とA子の関係からその実現可能性は高く,また,原告には勤務先や妻子があるものの,逮捕されたことにより妻子のもとを出奔するおそれもあると判断することもやむを得ないというべきであり,勾留の理由及び必要性について,合理的根拠が客観的に欠如しているとまで認められるものではない。
 よって,本件勾留請求は国家賠償法1条1項における違法なものであるとは認められず,原告の上記主張は理由がない。

(4) なお,原告は,本件勾留状執行について,違法であると主張する。
 しかし,被疑者の勾留は,被疑者を拘禁する強制処分(裁判及び執行)であり,裁判官が勾留状を発付してこれを行うもので(刑事訴訟法207条,62条),勾留状の執行も裁判の執行である(同207条,70条)。
 そして,勾留状は,裁判官が捜査機関に対して一定の強制処分を行うことを許す趣旨の許可状ではなく,裁判官が発付する命令状であり,その執行を指揮する検察官は,当然無効である場合などを除き,勾留の実質的内容を判断して,勾留を執行しないという裁量の余地はなく,拒否する自由もないから,本件副検事の本件勾留状執行の指揮自体が違法と評価されるものではなく,原告の上記主張は理由がない。

6.本件公訴提起の違法性

(1) 公訴の提起は,検察官が裁判所に対して犯罪の成否,刑罰権の存否につき審判を求める意思表示であるから,公訴提起時における検察官の心証は,その性質上,判決時における裁判官の心証とは異なるものである。このことを考慮すると,検察官の公訴の提起は,刑事事件において無罪の判決が確定したというだけで直ちに違法となるものではなく,公訴提起時における証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑があれば,違法性はない。
 しかし,公訴提起時において,検察官が現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑がない,つまり有罪判決を期待しうる合理的な根拠が客観的に欠如しているのに,公訴を提起した場合には違法と解するのが相当である(前掲最高裁昭和53年10月20日第二小法廷判決,最高裁平成元年6月29日第一小法廷判決・民集43巻6号664頁)。

(2) 本件副検事の判断過程

ア.そこで,本件副検事が,本件公訴提起に際し,本件性行為が第2形態の性行為に該当するとの判断に至った過程について検討する。

イ.まず,本件副検事は,本件勾留請求後,本件公訴提起時までに,前記5(2)イの本件勾留請求時までに把握していた事実のほか,以下の(ア)ないし(ウ)のとおり,原告の供述等を把握していたものと認められる。

(ア) 勾留質問

 本件副検事は,名古屋地方裁判所における勾留質問調書を受領し,これにより,原告が,勾留質問において,名古屋地方裁判所裁判官に対し,「『自己の性欲を満足させるだけの目的で』というのは違います。私とA子は,互いに恋愛感情を持っていましたし,セックスしたのもA子の合意のうえでのことでした。従って,一方的に,性欲を満足させるというわけではありませんでした。」と供述していることを認識したことが認められる。

(イ) 準抗告申立て

 本件副検事は,本件弁護士による準抗告申立書の写しを受領し,これにより,準抗告申立書に,原告とA子が互いに恋愛感情を抱き,自由な意思で交際するようになり,性行為に至ったにすぎないこと,A子本人は,原告に対して恋愛感情こそあれ,被害感情,処罰感情を抱いているわけではなく,本件申告は本意ではないと述べていたこと,原告の妻は妊娠6か月であること,原告が,A子の母の内縁の夫に,監禁され,約20発殴る蹴るの暴行を加えられ,会社に2000万円を支払わせてやるとか,原告の妻を北海道に売り飛ばしてAVに出すなどと言って脅されたこと,A子の母の内縁の夫が,会社にも押しかけ,会社として責任をとれなどといって暗に金銭を要求したこと,会社側がプライベートの問題として取り合わなかったところ,A子の母の内縁の夫は激怒し,本件申告に至ったこと,A子がA子の母などから日常的に暴行を受け畏怖しており,言うことを聞かないと暴力をふるわれているため親の言いなりになるしかないこと等が記載されていることを認識したことが認められる。

(ウ) A3の取調べ(本件各警察官調べ)

 本件副検事は,原告の本件各員面調書により,原告が,本件警察官らに対して,以下のとおり供述していることを認識していたこと,及び,A3は,原告が,本件被疑事実を認めるものと判断し,「逮捕された事実は間違いありません。」,「二度と法律を破ることはしません。」,「逮捕された事実については今まで話したとおり間違いありません。」,「事実はそのとおり間違いありません」などと供述調書に整理し,原告は,その内容を確認したうえで,供述調書に署名・指印をしたことが認められる。

a 原告は,平成18年2月に本件店舗に異動になってしばらくしてから,職場でA子と会話することが多くなり,A子から昔の彼氏のことや家族のことを話すようになり,次第に仲良くなっていった。

b 原告は,平成18年5月ころ,A子とたまたま見たい映画が一緒だったことことがわかり,2人で映画を見に行くことになり,映画を見た帰りにはじめてキスをした。
 その後,A子も原告のことが好きな様子であったので,付合うような形になっていき,A子と原告は,ドライブデートなどを重ねていった。
 原告とA子は,休みがなかなか合わなかったため,アルバイトの日を削ったりして2人で会う時間を作り,時には副店長である原告がシフトを調整して,月に2回くらいは遊んでいた。

c 原告は,平成18年5月末から6月初旬ころ,A子をホテルに誘ったところ,A子がこれに応じたので,ホテルに行ってA子と性行為を持った。
 その後,原告は,A子と遊びに行くようなときは,特に何も言わなくてもいつも同じホテルに行って,性行為を持つようになり,本件性行為も含め少なくとも4回から5回,A子と性行為をした。原告とA子は,ホテルに行く前は寄り道することはほとんどなかった。
 原告は,A子と性行為をする際には,直ぐに性行為をするのではなく,30分くらいTVを見たり話をしたりして,その後,1時間くらい性行為をしていた。性行為が終わった後も他愛もない会話をし,ホテルを出ると,途中で食事をしてからA子をA子の自宅まで送っていた。
 原告は,A子がタイプで好きであったが,妻も子供もいるためA子とは結婚するつもりはなかった。

ウ.本件副検事の取調べ(本件各副検事調べ)

(ア)  平成18年10月3日の取調べにおいて,原告は,本件副検事に対して,原告とA子は互いに恋愛感情を持っていたと供述したこと,本件副検事は,「恋愛関係って,どういうものなの?」,「恋愛関係といっても濃淡があるよね?」,「妻子と別れてもいいと言うくらいの,熱烈な恋愛関係だったの?」などと質問したところ,原告は,妻と別れるつもりはなく,A子と結婚するつもりもなかったと供述したが,原告とA子との付合いの態様については供述しなかったこと,本件副検事も,原告とA子がどのようなデートをしたかなど,性行為以外の付合いの態様について具体的に質問することはなかったこと,本件副検事は,原告は本件被疑事実を認めるものと判断し,A子「と結婚する意志もないのに,セックスしたということで取り調べを受けていますが,事実はそのとおり間違いありません。」,「17歳であるにもかかわらず,私と彼女との間に淡い恋愛関係が生まれたことから,妻子があり,妻が妊娠しているにもかかわらず,彼女の若さに惹かれてセックスしたのです」などと整理し,原告は,その内容を確認したうえで,供述調書に署名・指印をしたことが認められる。

(イ) また,平成18年10月5日の取調べにおいて,原告は,再度,本件副検事に対して,原告とA子が恋愛関係だったと供述したこと,本件副検事が,原告に上記10月3日の取調べと同様の質問をしたところ,同様の回答であったこと,本件副検事は,原告に対して,A子との関係が真摯なものであったといえないのではないかと投げかけたところ,原告がさらに具体的にA子との恋愛感情について供述しなかったため,原告は本件被疑事実を認めるものと判断し,「真摯な付き合いではありません」,「専ら自分の性欲を満たすために,A子とセックスをした」などと一旦整理したことが認められる。
 そして,本件副検事が,上記整理した内容を口述している途中で,原告は,「専ら自分の性欲を満たすために,A子とセックスをした」という記載について,A子と恋愛関係にあったのであり,性欲を満たすためだけでなく,A子に対する気持ちもあったなどと供述したこと,これに対し,本件副検事は,恋愛関係といっても原告のこれまでの供述内容では真摯なものでなく,説明できないなどと述べて,その記載を「A子とセックスするについて,正直言って専ら自分の性欲を満たすためだけだと言われても, やむを得ません。」と整理し直したこと,原告は,その内容を確認したうえで,供述調書に署名・指印をしたことが認められる。

(ウ) 本件副検事は,原告の取調べにおいて,原告に妻と別れる意思があるかどうか,A子と結婚する意思があるかどうかや原告の好みの女性(若い方がよいか,波長が合うか)などの質問に集中しており,また,「嫌悪感を持っている相手とはセックスしないよね?」,「恋愛関係って,どういうものなの?」,「恋愛関係といっても濃淡があるよね?」,「妻子と別れてもいいと言うくらいの,熱烈な恋愛関係だったの?」などと,質問自体が抽象的で,かつ,人によって見解が分かれる評価概念そのものやこれに近い内容で質問をしており,昭和60年大法廷判決が具体的判断要素としてあげている原告とA子が性行為に至る経緯や,その他両者間の付合いの態様等に関する具体的事実を引き出す質問はしていないものと認められる。

エ.本件副検事は,本件性行為に至る事実関係は,A子と原告の供述が概ね一致しているとして,A子の取調べは必要ないと判断し,本件公訴提起時までにA子の取調べを行わなかったことが認められる。

オ.そして,本件副検事は,前記5(2)イの本件勾留請求時点で把握していた事実のほか,前記イにより把握した事実及び証拠並びに前記ウの本件副検事の取調べ(本件各副検事調べ)に対する原告の供述をもとに,原告がA子と付合いを始めたのち,自分から誘ってA子と性交し,その後は,自分とA子の勤務日程を調整してA子と会う機会を作り,A子と会うとホテルに行って性交を繰り返していたこと,A子の付合いと並行して,妻を妊娠させ,A子との交際がA子の母に発覚した後も,妻子と別れていないこと,原告には妊娠中の妻と1歳の子供がいたことから,原告の家庭は円満であること,原告がA3に対し妻と別れる意思はなく,A子と結婚する意思はないと述べていることなどから,「原告がA子のことが好きでも,A子に対して責任のある行動をとれないのに,A子と会ってはセックスを重ねている以上,やはり,原告にとって,A子は単なる浮気相手だった」,あるいはA子との関係は「遊び」であり,「真摯なものではない」などと判断し,本件性行為が,第2形態の性行為に該当することが明らかであると判断したことが認められる。

(3) 合理的根拠の欠如について

ア(ア) しかし,本件公訴提起時において,本件副検事は,既に,前記(2)イ,ウのとおり,原告が,本件性行為時,31歳の会社員であり,平成15年6月27日に結婚した妻と1歳になる子供がおり,妻は妊娠していたこと,A子が,本件性行為時,既に17歳9か月であり,あと3か月を待たずに18歳になること,A子は,原告と性行為を持つより前に,性行為の経験を有していたこと,A子が原告に対し悩みを相談し,映画やドライブなど数回のデートを重ねて,2か月程度経過したところで性行為に至っていること,原告が,繰り返し,妻と別れてA子と結婚するつもりはないが,A子に対して恋愛感情を持っていたことなどを供述していることなどを把握していた。

(イ) そして,本件副検事が,昭和60年大法廷判決があげている諸事情(性交渉に至る経緯,その他両者間の付合いの態様等)について,A子から事情聴取をし,また,原告に対し,具体的に質問していれば,前記(2)イ,ウの本件副検事が現に収集した証拠資料により把握していた事実以外の,A子が原告に対し悩みを話したり相談したりして,自然に惹かれていき,お互いの感情を伝え合うようになり,映画やドライブなどの数回のデートを重ねて,性行為に至ったことや,性行為を持った後もドライブや映画に行くなどのデートをし,ホテルに行った帰りに食事をすることもあり,2人でディズニーランドに行くという約束もしていたことなどが容易に明らかになったものと認められる。ところが,本件副検事は,前記(2)エのとおり,A子から事情聴取をせず,前記(2)ウ(ウ)のとおり,原告に対し,原告とA子が性行為に至る経緯や,その他付合いの態様に関する具体的事実を引き出す質問はしていないのである。
 本件副検事は,原告が具体的に供述しなかったため聞かなかったとか,真剣な交際であることを根拠を挙げて供述していればA子を取り調べていたと証言する。しかし,第2形態の性行為に当たるか否かに関わる具体的事実を尋ねるのは,検察官に通常求められる必要な捜査であるところ,前記(2)ウ(ウ)のとおり,本件副検事は,これらの事実について詳しく尋ねることをしなかったから,原告は供述しなかったのであり,原告が自らすすんで供述をしなかったことをもって,本件副検事がこれらの事実関係を明らかにしなかったことを正当化することはできないのである。

(ウ) これら,本件副検事が現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を総合勘案すれば,本件性行為について,原告とA子の関係が性行為のみを目的とする関係ではなく,原告に妻子がおり,原告が妻と離婚してA子と結婚するつもりはなかったということ以外は,いわゆる恋人同士の関係と異なるところはなく,第2形態の性行為として有罪判決を期待しうる合理的な根拠が客観的に欠如していたというべきであり,本件性行為について第2形態の性行為として公訴提起しうる事案ではないことは明らかである。

イ.それにもかかわらず,前記(2)オのとおり,本件副検事は,妻と別れるつもりがなく,A子と結婚する意思がなければ,「A子に対して責任のある行動をとれない」,「単なる浮気相手」,「単なる遊び」にすぎず,「真摯なもの」ではないなどと,原告にA子と結婚する意思がないことを過大視して,第2形態の性行為に該当するか否かの判断に必要とされる,結婚の意思以外の,当時における両者のそれぞれの年齢,原告とA子との性行為に至る経緯やその他両者間の付合いなどについて現に収集した証拠資料を正しく評価することをしなかった。
 そのため,本件副検事は,原告が,繰り返し述べていた,A子と恋愛関係にあった,性行為が目的で付き合っていたわけではないとの供述を取り合わず,結婚の意思以外の具体的な事実について原告やA子から聴取を行わず,前記(2)ウ(ア),(イ)のように強引にまとめ上げた本件各検面調書を作成した上,第2形態の性行為として有罪判決を期待しうる合理的な根拠が客観的に欠如していたにもかかわらず,明らかに不合理な構成要件への当てはめをし,本件公訴提起をしたものというべきである。

ウ.したがって,本件副検事は,以上の誤りを重ねて,第2形態の性行為として有罪判決を期待しうる合理的な根拠が客観的に欠如していたにもかかわらず,本件公訴提起をしたものであるから,国家賠償法1条1項における違法なものというべきであり,上記のような昭和60年大法廷判決に反する誤った判断により,必要な捜査を行わず,明らかに不合理な構成要件への当てはめをしているから,過失も認められる。
 よって,本件公訴提起について,被告国に所属する本件副検事は,過失によって違法に原告に損害を加えたものであるから,被告国は,原告に対し,国家賠償法1条1項に基づき,原告に生じた損害を賠償する義務を負う。

7.本件各警察官調べの違法性

(1) 原告は,A3は,本件各警察官調べにおいて,いずれも原告の言い分を一切取り合わず,その弁解を供述調書に記載しかなったから,本件各警察官調べは,原告の人格権,自己決定権を蹂躙するものであり,違法である旨主張する。
 刑事訴訟法198条1項本文は,「検察官,検察事務官又は司法警察職員は,犯罪の捜査をするについて必要があるときは,被疑者の出頭を求め,これを取り調べることができる。」とし,同条3項は,「被疑者の供述は,これを録取することができる。」としているのであるから,取調べを行ったからといって,その結果をすべて調書に録取しなければならないものではなく,取調べをする捜査官は,犯罪の成否ないし情状など起訴・不起訴の決定や将来の公判維持などの観点から,調書に録取するか否か,録取するとして全部についてするか一部に限るかなど録取すべき事項の取捨選択などの判断を加えて,その裁量により決することができるものと解される。
 ただし,犯罪の成否に重大な影響を与える事実については,これを録取すべきものというべきであり,特に犯罪の成否に重大な影響を与える被疑者の言い分については,後に犯罪の成否を判断する者を誤らせることがないようにこれを録取すべき義務を負うというべきである。そして,被疑者の防御権を侵害するなどの不正な目的により,故意に被疑者の言い分を録取しないなどする場合には,裁量権を逸脱するものとして,違法と評価されるものというべきである。
 そして,原告は,A3に対して,本件各員面調書に記載された事実以外にも,原告がA子と真剣に付き合っていたこと,A子の母の同棲相手に暴力をふるわれたことなどを供述していたのに,これらの原告の供述は録取されていないことが認められるが,前記のとおり,A3は,第2形態の性行為についての誤った認識をしていたために,これらの事実を犯罪の成否に重大な影響を与える事実とは認識せずに上記原告の供述を録取しなかったものと認められ,原告の防御権を侵害するなどの不正な目的により故意に供述を録取しなかったなどの事情を認めるに足りる証拠はないから,直ちに裁量権の範囲を逸脱した違法なものということはできない。
 したがって,原告の上記主張は理由がない。

(2) また,原告は,A3が,原告の意思に反する自白の文言を作文して,本件各員面調書に署名・指印させたものであるから,本件各警察官調べは,原告の人格権,自己決定権を蹂躙するものであり,違法である旨主張する。
 刑事訴訟法198条4項は,録取した調書について被疑者に閲覧させ,又は読み聞かせて誤りがないかどうかを尋ねることを求めているところ,この手続は,調書の内容を被疑者に理解させ,その正確性について被疑者の確認を求めるものであると解される。
 本件各警察官調べにおいて,本件各員面調書のいずれの作成についても,A3は,あらかじめ原告に対し,自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げたうえで,原告の供述のうち,犯罪の成否や,情状など重要と判断した事項を中心に,原告の供述を整理し,内容を要約するなどして録取した本件各員面調書を作成し,原告に読み聞かせて,原告に誤りがないことを確認した上で,これに署名・指印することを求め,原告がこれに署名・指印したことが認められるから,本件各員面調書の記載が結果的に原告の意思に反した文言であっても,そのことのみで原告の人格権や自己決定権を違法に侵害したといえるものではない。
 そして,原告は,A3の本件各警察官調べの方法について,上記の他に具体的に主張するところはないから,原告の上記主張は理由がない。

8.本件各副検事調べの違法性

(1) 原告は,本件副検事が,本件各副検事調べについて,いずれも原告の言い分を一切取り合わず,その弁解を供述調書に記載しなかったから,本件各副検事調べは,原告の人格権,自己決定権を蹂躙するものであり,違法である旨主張する。
 原告は,本件副検事に対して,本件各検面調書に記載された事実以外にも,原告とA子の付合いの態様に関わる事実等を供述したこと,本件副検事は上記原告の供述を犯罪の成否に重大な影響を与える事実とは認識せず,これらを録取しなかったことが認められるが,前記7(1)と同様に,録取すべき事項の取捨選択などは,原則として,取調べに当たる捜査官である本件副検事の裁量により決することができるものであり,本件副検事が原告の防御権を侵害するなどの不正な目的で故意に供述を録取しなかったなどの事情を認めるに足りる証拠はないから,直ちに裁量権の範囲を逸脱した違法なものということはできない。
 したがって,原告の上記主張は理由がない。

(2)ア.原告は,本件副検事が,原告の意に反する本件被疑事実に沿う文言を作文して,妻がいるのだから真剣な付合いのはずがないなどと理詰めで追及するなどして,これに署名・指印させたものであるから,原告の人格権,自己決定権を蹂躙するものであり,違法である旨主張する。

イ.本件副検事も,あらかじめ原告に対し,自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げ,原告の供述した内容を,原告の面前で口頭でまとめて述べ,検察事務官がこれを入力して録取した上,印刷して原告に手渡して読ませながら,本件副検事がパソコンの画面で読み聞かせたところ,内容に誤りがないことを確認し(平成18年10月3日の取調べにおいては,誤記・誤字・脱字について,原告の確認を受けながら増減変更した。),これらに署名・指印することを求め,原告はいずれもこれらに署名・指印をしたことが認められるから,本件各検面調書の記載が結果的に原告の意思に反した文言であったとしても,そのことのみで原告の人格権や自己決定権を違法に侵害するものということはできない。
 そして,前記7(1)と同様に,取調べをする捜査官には,取調べ方法の選択・実施について,裁量が認められているものと解され,取調べの技術として,理詰めの尋問自体は,合理的な必要性がある限り許され,理詰めの尋問であるというだけでは直ちに原告の供述の自由などの原告の権利利益を侵害することになるものではない。
 しかし,取調べを担当する捜査官が誘導により虚偽の自白を取得することはその意図の如何にかからわず,刑事訴訟法の理念からしても厳に戒められるべきであり,取調べを担当する捜査官は,そのような虚偽の自白の誘発を防ぐため,取調べの方法・態様が許容される範囲を逸脱しないように十分な注意を払わなければならないというべきであり,これを著しく欠いたときは,その取調べは,取調べの方法の選択・実施に関する捜査官の裁量の範囲を著しく逸脱したものとして,違法というべきである。

ウ.原告は,本件各副検事調べにおいて,本件副検事に対して,A子と互いに恋愛関係を持っていたと供述したこと,本件副検事は,原告にA子と結婚する意思がないことを過大視し,「恋愛関係って,どういうものなの?」,「恋愛関係といっても濃淡があるよね?」,「妻子と別れてもいいと言うくらいの,熱烈な恋愛関係だったの?」などと質問したところ,原告は妻と別れるつもりはなく,A子と結婚するつもりもなかったと供述したこと,本件副検事が,原告に対して,A子との関係が真摯なものであったといえないのではないかと投げかけたところ,原告がさらに具体的にA子との恋愛感情について供述しなかったこと,本件副検事は,原告は被疑事実を認めるものと判断し,「事実はそのとおり間違いありません」,「17歳であるにもかかわらず,私と彼女との間に淡い恋愛関係が生まれたことから,妻子があり,妻が妊娠しているにもかかわらず,彼女の若さに惹かれてセックスしたのです」,「真摯な付き合いではありません」,「A子とセックスするについて,正直言って専ら自分の性欲を満たすためだけだと言われても,やむを得ません。」,「処罰については,素直に受けます。」などと整理した本件各検面調書を作成したところ,原告は,本件各検面調書の内容を確認した上,いずれも署名・指印をしたものと認められる。
 しかし,このような本件副検事の本件各副検事調べは,原告は妻と別れるつもりはなく,A子と結婚するつもりもなかったことだけでは必ずしも第2形態の性行為に当たらないにもかかわらず,あたかもこれに当たるかのような前提で取調べをしたものであり,恋愛関係にあったとの原告の供述を,「淡い」という単語を加えることにより,原告の供述する内容を無理に弱めさせ,上記のような誤った前提により,処罰を受ける必要のない者に自白を迫り,本件副検事の評価を認めさせ,処罰を素直に受けると述べたことにさせたものであって,誘導により虚偽の自白を取得したものである。
 このような誤った前提により虚偽の自白を迫る尋問は,取調べの方法について捜査官の裁量の範囲を著しく逸脱したものというべきである。
 そして,かかる不当な本件各副検事調べは,原告に不当な心理的圧迫を与え,誘導により虚偽の自白を取得したものであり,原告の供述の自由に対する違法な侵害であり,上記のような供述調書を作成したことにより,本件副検事は,略式裁判を求める本件公訴提起が容易になったものと考えられるから,本件各副検事調べは,本件公訴提起と相まって,国家賠償法1条1項における違法なものであり,本件副検事は,取調べの方法・態様が許容される範囲を逸脱しないようにすべき注意義務を怠った過失が認められる。

エ.被告国は,本件副検事が,本件各副検事調べにおいて,原告に反論させる機会を与えていたのであり,取調べの当初から本件性行為を淫行に当たると決めつけていたわけではないと主張するが,上記のとおり,原告にA子と結婚する意思がないことを過大視した理詰めの尋問をしており,無理な押しつけを行っていることは前記のとおりであり,原告に反論の機会を与えていたとしても,本件各副検事調べが違法であることに影響はなく,被告国の上記主張は理由がない。

オ.原告の上記アの主張は「人格権,自己決定権」をいうものであるが,取調べの場面においては,供述の自由を主張しているものと解され,かかる意味において原告の上記主張には理由がある。

(3) したがって,本件各副検事調べについて,被告国に所属する本件副検事は,過失によって違法に原告に損害を加えたものであるから,被告国は,原告に対し,国家賠償法1条1項に基づき,原告に生じた損害を賠償する義務を負う。

9.被告らの責任

(1) 以上のとおりであるから,被告県に所属する本件警察官らは,本件逮捕状請求及び本件逮捕について,いずれも前述のとおり過失によって違法に原告に損害を加えたものであるから,被告県は,原告に対し,国家賠償法1条1項に基づき,原告に生じた損害を賠償する義務を負う。

(2) また,被告国に所属する本件副検事は,本件公訴提起及び本件各副検事調べについて,いずれも前述のとおり過失によって違法に原告に損害を加えたものであるから,被告国は,原告に対し,国家賠償法1条1項に基づき,原告に生じた損害を賠償する義務を負う。

(3) そして,被告らの負う上記各支払義務は,それぞれ別個の行為に基づくものであるから,連帯関係にはない。

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