最新最高裁判例

最高裁判所第三小法廷判決平成22年04月13日

【事案】

1.被上告人が,上告人に対し,上告人は被上告人に対して提起した損害賠償請求訴訟において虚偽の事実を主張して裁判所を欺罔し,請求を一部認容する確定判決を詐取したなどと主張して,不法行為に基づく損害賠償等を求める事案。

2.事実関係の概要

(1) 上告人は,平成元年3月6日,Aから,原判決別紙物件目録記載1の土地及び同土地上の同目録記載2の建物(以下「本件建物」といい,上記土地と併せて「本件土地建物」という。)を代金3200万円で買い受けた(以下「本件売買」という。)。

(2) 被上告人は,不動産仲介等を業とする会社であり,上告人とAとの間の本件売買を仲介した。Bは,被上告人の代表者であり,宅地建物取引主任者として,上記仲介の事務を処理した。
 本件土地建物は市街化調整区域の指定がされた区域内にあり,上記仲介に際し上告人に交付された重要事項説明書には,「市街化調整区域の建築制限あり」等の記載があったが,その制限の具体的内容等についての記載はなかった。

(3) 上告人は,平成17年11月24日,被上告人に対し,本件土地建物は,市街化調整区域の指定がされた区域内にあり,都市計画法上,愛知県知事の許可を受けなければ本件建物に居住し,又はこれを建て替えることができない物件であったにもかかわらず,Bから事前にその旨の説明を受けなかったため,本件建物は居住及び建替えが可能な物件であると誤信し,これらの目的で本件土地建物を買い,その代金と当時の適正価格との差額相当額の損害等を受けたと主張して,不法行為に基づく損害賠償を求める訴訟(以下「前訴」という。)を提起した。
 前訴において,被上告人は,上告人が,都市計画法に基づく制限の具体的内容についてBから相応の説明を受けており,知人から市街化調整区域における建築制限の実態について話を聞き,これを知り得たこと,上告人には損害がないことなどを主張して,上告人の請求を争った。

(4) 前訴の控訴審は,平成19年4月27日言い渡した判決(以下「前訴判決」という。)において,被上告人は,本件土地建物については,都市計画法による建築制限があることを調査し,これを上告人に説明する義務があったところ,上記重要事項説明書の交付をもってその説明がされたということはできず,そのほかにもBがその説明をしたと認めるに足りず,被上告人のその余の主張も採用することができないとして,被上告人の不法行為責任を認め,上告人の請求の一部を認容すべきものとした。

(5) 被上告人は,前訴判決に対し上告及び上告受理の申立てをしたが,前訴判決は,同年9月20日,上告棄却及び上告不受理の決定により確定した。

(6) 上告人は,仮執行宣言付きの前訴判決に基づき,被上告人の預金債権に対する差押命令を得て,合計81万0496円を取り立てた。

3.原審は,次のとおり判示して,被上告人の請求を一部認容した。
 上告人は,前訴において,@ 本件売買の仲介時の重要事項に関するBの説明内容や知人からも市街化調整区域内における建築制限の実態について話を聞いたことにつき,虚偽の供述等をした上,これを信用させるために,その後に本件建物を建て替えるつもりで行ったという公的機関とのやりとりに関しても虚偽の供述等をしたこと,A 本件建物の建替えの意思の有無に関し,虚偽の供述等をしたこと,B前訴の提起時には,本件土地建物を既に売却していたにもかかわらず,この事実に言及することなく,売却前の不動産登記簿謄本を提出したことなどが認められ,これらの事実を総合すれば,上告人は,市街化調整区域内においては権利制限があることを分かっていながら,居住目的で本件土地建物を購入し,17年間目的どおりの居住利益を享受し,損害がないにもかかわらず,いわゆるバブル期に購入した本件土地建物を資金需要があって売却した時に大幅に地価が下落していて譲渡損を被ったことから,その損害を回復するため,前訴を提起し,Bの説明義務違反により買うつもりもない物件を買わされて損害を被った旨の虚偽の主張立証を巧妙にして,前訴裁判所を欺罔し,勝訴の前訴判決を詐取し,これに基づき債権執行に及ぶなどしたものであるから,前訴の提起行為に始まる上告人の一連の行為は不法行為に当たるというべきである。

【判旨】

1.原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 本件訴訟は,前訴判決の既判力ある判断と実質的に矛盾する損害賠償請求をするものであるが,当事者間に確定判決が存在する場合に,その判決の成立過程における相手方の不法行為を理由として,その判決の既判力ある判断と実質的に矛盾する損害賠償請求をすることは,確定判決の既判力による法的安定を著しく害する結果となるから,原則として許されるべきではなく,当事者の一方が,相手方の権利を害する意図の下に,作為又は不作為によって相手方が訴訟手続に関与することを妨げ,あるいは虚偽の事実を主張して裁判所を欺罔するなどの不正な行為を行い,その結果本来あり得べからざる内容の確定判決を取得し,かつ,これを執行したなど,その行為が著しく正義に反し,確定判決の既判力による法的安定の要請を考慮してもなお容認し得ないような特別の事情がある場合に限って,許されるものと解するのが相当である(最高裁昭和43年(オ)第906号同44年7月8日第三小法廷判決・民集23巻8号1407頁最高裁平成5年(オ)第1211号・第1212号同10年9月10日第一小法廷判決・裁判集民事189号743頁参照)。
 原審の上記判断は,前訴において当事者が攻撃防御を尽くした事実認定上の争点やその周辺事情について,前訴判決と異なる事実を認定し,これを前提に上告人が虚偽の事実を主張して裁判所を欺罔したなどとして不法行為の成立を認めるものであるが,原判決の挙示する証拠やその説示するところによれば,原審は,前訴判決と基本的には同一の証拠関係の下における信用性判断その他の証拠の評価が異なった結果,前訴判決と異なる事実を認定するに至ったにすぎない。しかし,前訴における上告人の主張や供述が上記のような原審の認定事実に反するというだけでは,上告人が前訴において虚偽の事実を主張して裁判所を欺罔したというには足りない。他に,上告人の前訴における行為が著しく正義に反し,前訴の確定判決の既判力による法的安定の要請を考慮してもなお容認し得ないような特別の事情があることはうかがわれず,被上告人が上記損害賠償請求をすることは,前訴判決の既判力による法的安定性を著しく害するものであって,許されないものというべきである。

2.以上と異なる見解の下に被上告人の損害賠償請求の一部を認容した原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決のうち上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,被上告人の請求は理由がなく,これを棄却した第1審判決は正当であるから,上記部分に係る被上告人の控訴を棄却すべきである。

 

最高裁判所第三小法廷判決平成22年04月13日

【事案】

1.インターネット上の電子掲示板にされた書き込みによって権利を侵害されたとする被上告人が,その書き込みをした者にインターネット接続サービスを提供した上告人に対し,@ 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)4条1項に基づき,上記書き込みの発信者情報の開示を求めるとともに,A 上告人には裁判外において被上告人からされた開示請求に応じなかったことにつき重大な過失(同条4項本文)があると主張して,不法行為に基づく損害賠償を求める事案。
 論旨は,被上告人の損害賠償請求に関する原審の判断のうち,上告人に重大な過失があるとした判断の法令違反をいうものである。

2.事実関係の概要

(1) 被上告人は,小学1年生から高校3年生までの発達障害児のための学校である「A学園」を設置,経営する学校法人A学園の学園長を務めている。

(2) 上告人は,電気通信事業を営む株式会社であり,「DION」の名称でインターネット接続サービスを運営している。

(3) 平成18年9月以降,インターネット上のウェブサイト「2ちゃんねる」の電子掲示板の「A学園Part2」と題するスレッド(以下「本件スレッド」という。)において,被上告人及びA学園の活動に関して,様々な立場からの書き込みがされた。本件スレッドにおいて上記のような書き込みが続く中で,平成19年1月16日午後5時4分58秒,上告人の提供するインターネット接続サービスを利用して,「なにこのまともなスレ気違いはどうみてもA学長」との書き込み(以下「本件書き込み」という。)がされた。

(4) 被上告人は,平成19年2月27日,上告人に対し,裁判外において,「本件書き込みのきちがいという表現は,激しい人格攻撃の文言であり,侮辱に当たることが明らかである」との理由を付し,法4条1項に基づき,本件書き込みについての氏名又は名称,住所及び電子メールアドレス(以下「本件発信者情報」という。)の開示を請求した。

(5) 上告人は,平成19年6月6日付け書面をもって,被上告人に対し,本件書き込みの発信者への意見照会の結果,当該発信者から本件発信者情報の開示に同意しないとの回答があり,本件書き込みによって被上告人の権利が侵害されたことが明らかであるとは認められないため,本件発信者情報の開示には応じられない旨回答した。

3.原審は,上記事実関係の下で,次のとおり判断して,被上告人の損害賠償請求を15万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で認容した。
 対象となる人を特定することができる状況でその人を「気違い」であると指摘することは,社会生活上許される限度を超えてその相手方の権利(名誉感情)を侵害するものであり,このことは,特別の専門的知識がなくとも一般の社会常識に照らして容易に判断することができるものであるから,本件書き込みがこのような判断基準に照らして被上告人の権利を侵害するものであることは,本件スレッドの他の書き込みの内容等を検討するまでもなく本件書き込みそれ自体から明らかである。
 したがって,上告人が被上告人からの本件発信者情報の開示請求に応じなかったことについては,重大な過失がある。

【判旨】

1.原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

(1) 法は,4条1項において,特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は,侵害情報の流通によって自己の権利が侵害されたことが明らかであるなど同項各号所定の要件のいずれにも該当する場合,当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(以下「開示関係役務提供者」という。)に対し,その発信者情報(氏名,住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう。)の開示を請求することができる旨を規定する一方で,同条2項において,開示関係役務提供者がそのような請求を受けた場合には,原則として発信者の意見を聴かなければならない旨を,同条4項本文において,開示関係役務提供者が上記開示請求に応じないことによりその開示請求をした者に生じた損害については,故意又は重過失がある場合でなければ賠償の責任を負わない旨を,それぞれ規定している。
 以上のような法の定めの趣旨とするところは,発信者情報が,発信者のプライバシー,表現の自由,通信の秘密にかかわる情報であり,正当な理由がない限り第三者に開示されるべきものではなく,また,これがいったん開示されると開示前の状態への回復は不可能となることから,発信者情報の開示請求につき,侵害情報の流通による開示請求者の権利侵害が明白であることなどの厳格な要件を定めた上で(4条1項),開示請求を受けた開示関係役務提供者に対し,上記のような発信者の利益の保護のために,発信者からの意見聴取を義務付け(同条2項),開示関係役務提供者において,発信者の意見も踏まえてその利益が不当に侵害されることがないように十分に意を用い,当該開示請求が同条1項各号の要件を満たすか否かを判断させることとしたものである。そして,開示関係役務提供者がこうした法の定めに従い,発信者情報の開示につき慎重な判断をした結果開示請求に応じなかったため,当該開示請求者に損害が生じた場合に,不法行為に関する一般原則に従って開示関係役務提供者に損害賠償責任を負わせるのは適切ではないと考えられることから,同条4項は,その損害賠償責任を制限したのである。
 そうすると,開示関係役務提供者は,侵害情報の流通による開示請求者の権利侵害が明白であることなど当該開示請求が同条1項各号所定の要件のいずれにも該当することを認識し,又は上記要件のいずれにも該当することが一見明白であり,その旨認識することができなかったことにつき重大な過失がある場合にのみ,損害賠償責任を負うものと解するのが相当である。

(2) これを本件について検討するに,本件書き込みは,その文言からすると,本件スレッドにおける議論はまともなものであって,異常な行動をしているのはどのように判断しても被上告人であるとの意見ないし感想を,異常な行動をする者を「気違い」という表現を用いて表し,記述したものと解される。このような記述は,「気違い」といった侮辱的な表現を含むとはいえ,被上告人の人格的価値に関し,具体的事実を摘示してその社会的評価を低下させるものではなく,被上告人の名誉感情を侵害するにとどまるものであって,これが社会通念上許される限度を超える侮辱行為であると認められる場合に初めて被上告人の人格的利益の侵害が認められ得るにすぎない。そして,本件書き込み中,被上告人を侮辱する文言は上記の「気違い」という表現の一語のみであり,特段の根拠を示すこともなく,本件書き込みをした者の意見ないし感想としてこれが述べられていることも考慮すれば,本件書き込みの文言それ自体から,これが社会通念上許される限度を超える侮辱行為であることが一見明白であるということはできず,本件スレッドの他の書き込みの内容,本件書き込みがされた経緯等を考慮しなければ,被上告人の権利侵害の明白性の有無を判断することはできないものというべきである。そのような判断は,裁判外において本件発信者情報の開示請求を受けた上告人にとって,必ずしも容易なものではないといわなければならない。
 そうすると,上告人が,本件書き込みによって被上告人の権利が侵害されたことが明らかであるとは認められないとして,裁判外における被上告人からの本件発信者情報の開示請求に応じなかったことについては,上告人に重大な過失があったということはできないというべきである。

2.以上と異なる見解の下に,上告人に重大な過失があるとして被上告人の損害賠償請求を一部認容した原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。この点をいう論旨は理由があり,原判決中,被上告人の損害賠償請求を認容した部分は破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,第1審判決中,上記請求を棄却した部分は正当であるから,同部分に対する被上告人の控訴を棄却すべきである。
 なお,発信者情報の開示請求に関する上告については,上告受理申立て理由が上告受理の決定において排除されたので,棄却することとする。

 

最高裁判所第三小法廷判決平成22年04月20日

【事案】

1.事実関係の概要

(1) 第1審判決別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)は,もとBが所有していたが,Bは,平成9年6月14日に死亡し,本件建物につき,その妻である被上告人X1が持分2分の1を,子である被上告人X2及びAが持分各4分の1を相続により取得した。

(2) しかるに,本件建物につき,高知地方法務局いの支局平成19年3月28日受付第2350号をもって,上告人の持分を2分の1,被上告人X1の持分を4分の1,被上告人X2及びAの持分を各8分の1とする所有権保存登記(以下「本件保存登記」という。)がされている。

2.本件は,上記事実関係の下において,被上告人らが,本件建物につき,上告人は何らの持分を有していないのに,上告人の持分を2分の1とする本件保存登記がされている旨主張して,上告人に対し,共有持分権に基づき,本件保存登記のうち上告人の持分に関する部分(以下「本件登記部分」という。)の抹消登記手続等を求める事案である。

3.原審は,上告人に対して本件保存登記全部の抹消登記手続を命じた第1審判決を是認した。

【判旨】

 原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 原審の上記判断は,被上告人らが本件登記部分のみの抹消登記手続を求めているにもかかわらず,上告人に対し,これを超えて本件保存登記全部の抹消登記手続を命ずるものであって,当事者が申し立てていない事項についてまで判決をしたものといわざるを得ない。また,仮に,第1審判決の主文第1項中の「高知地方法務局いの支局平成19年3月28日受付第2350号の所有権保存登記」との記載が本件登記部分を表示するに当たっての明らかな誤記であり,原審は,被上告人らの本件登記部分の抹消登記手続請求を認容すべきものとしたにとどまると解し得るとしても,そのような判断は,1個の登記の一部のみの抹消登記手続を命ずるものであって,不動産登記法上許容されない登記手続を命ずるものといわざるを得ない。
 被上告人らの本件登記部分の抹消登記手続請求が意図するところは,上告人が持分を有するものとして権利関係が表示されている本件保存登記を,上告人が持分を有しないものに是正することを求めるものにほかならず,被上告人らの請求は,本件登記部分を実体的権利に合致させるための更正登記手続を求める趣旨を含むものと解することができる(最高裁昭和35年(オ)第1197号同38年2月22日第二小法廷判決・民集17巻1号235頁参照)。
 そして,共有不動産につき,持分を有しない者がこれを有するものとして共有名義の所有権保存登記がされている場合,共有者の1人は,その持分に対する妨害排除として,登記を実体的権利に合致させるため,持分を有しない登記名義人に対し,自己の持分についての更正登記手続を求めることができるにとどまり,他の共有者の持分についての更正登記手続までを求めることはできない(最高裁昭和56年(オ)第817号同59年4月24日第三小法廷判決・裁判集民事141号603頁参照)。したがって,被上告人らの請求は,被上告人X1の持分を2分の1,被上告人X2の持分を4分の1,上告人及びAの持分を各8分の1とする所有権保存登記への更正登記手続を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないから棄却すべきである。

戻る