政府公表資料等情報

司法試験予備試験に関する配点について
平成22年11月10日司法試験委員会決定

1.短答式試験

 法律基本科目(憲法,行政法,民法,商法,民事訴訟法,刑法及び刑事訴訟法科目をいう。以下同じ。)は各科目いずれも30点満点とする。各問題ごとの配点については差を設けることも可とする。
 一般教養科目は1問につき3点とし,60点満点とする。

2.論文式試験

 法律基本科目及び一般教養科目については各科目いずれも50点満点とする。法律実務基礎科目については,民事及び刑事につきそれぞれ50点とし合計100点満点とする。

 

司法試験予備試験における短答式試験の採点及び合否判定方法について
平成22年11月17日司法試験予備試験考査委員会議申合せ事項

1.選択問題の採点について

 一般教養科目において,指定された題数を超えて解答した場合,問題番号の小さい方から指定題数に満つるまでの解答を有効な解答とみなして採点し,それを超えたものについては採点しない。

2.合否判定方法

 短答式試験の各科目の合計点をもって判定を行う。
 ただし,短答式試験において受験をしていない科目が1科目でもある場合は,それだけで不合格とする。

 

司法試験予備試験における論文式試験の答案用紙について
平成22年11月17日司法試験予備試験考査委員会議申合せ事項

1.法律基本科目

 各科目につき,両面に記載する形式の答案用紙(A3版横書き)1枚を配布する。

2.法律実務基礎科目

 民事・刑事それぞれにつき,両面に記載する形式の答案用紙(A3版横書き)1枚を配布する。

3.一般教養科目

 片面に記載する形式の答案用紙(A3版横書き)1枚を配布する。

 

司法試験予備試験受験者の無効答案等に関する取扱いについて
平成22年11月17日司法試験予備試験考査委員会議申合せ事項

1.無効答案

 次の答案は無効答案として零点とする

(1) 故意,過失を問わず,解答欄に受験者の氏名又は特定人の答案であると判断される余事記載(表裏書き違えによる「裏面に記載」「裏面から記載」の記述を除く。)のある答案(採点した答案に当該答案が存在した場合には,採点報告の際,該当事項を書き添えて事務当局に通知する。)

(2) 指定の筆記具(黒インクのボールペン又は万年筆。)以外で記載された答案(事務当局が採点前に当該答案を発見した場合には,当該答案に下記の表示をして考査委員に通知をすることとする。)

【表示例】

 略。

2.答案用紙の科目の取違い

 答案用紙の科目を取違えた場合は,零点とする。
 ただし,正規の手続によって答案用紙の取違いの訂正を申し立てた者の答案については,正規答案として採点する。

 

法制審議会民法(債権関係)部会第3回会議(平成22年1月26日)

民法(債権関係)の改正に関する検討事項(1)詳細版より抜粋

第1.履行の請求

1.総論

 現行民法上,債務者が債務を履行しない場合において,債権者には,主に@履行の請求,A損害賠償の請求,B契約の解除をすることが認められているところ,このうち,@履行の請求については,どのような点に留意して検討を行う必要があるか。
 この点について,現行民法では,履行の強制に関する民法第414条のみが置かれているため,債権者に認められる基本的な権能に関する規定が不十分であるなどの問題点が指摘されている(後記第1,2から4まで参照)。すなわち,債権者は債務の履行を請求することができることや,債務の履行が不完全だった場合には追完請求をすることができることなど,債権に関する基本的な法律関係について明文規定を置くことが望ましいという問題点の指摘である。このような点を含め,@履行の請求に関する規定の全般的な見直しに当たっては,どのような点に留意して検討をすべきか。

(参考・現行条文)

○(履行の強制)

民法第414条 債務者が任意に債務の履行をしないときは、債権者は、その強制履行を裁判所に請求することができる。ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。
2 債務の性質が強制履行を許さない場合において、その債務が作為を目的とするときは、債権者は、債務者の費用で第三者にこれをさせることを裁判所に請求することができる。ただし、法律行為を目的とする債務については、裁判をもって債務者の意思表示に代えることができる。
3 不作為を目的とする債務については、債務者の費用で、債務者がした行為の結果を除去し、又は将来のため適当な処分をすることを裁判所に請求することができる。
4 前三項の規定は、損害賠償の請求を妨げない。

2.履行の請求(強制)(民法第414条)

 現行民法は,履行の請求(強制)に関する規律として,債権者が裁判所に対して債務の強制履行を請求することができることなどの履行の強制に関する規定(民法第414条)のみを置いている。
 この点については,債権者が債務者に対して債務の任意の履行を請求することができることなどの基本的な権能を有していることが,条文上明らかでないという問題点が指摘されている。また,民法第414条についても,同条は強制執行の方法等を定めた手続法的規定であり,債権者が実体法上の権能として裁判所に対して強制履行を求める権能を有することを示すものではないとする見解があるなど,実体法と手続法の機能分担という観点から同条をどのように理解すべきかをめぐって学説は分かれており,その規定の意義は必ずしも明確とはいえない。
 そのため,履行の請求(強制)という債権者に認められる最も基本的な権能についての規定を整備することが望ましいという考え方があるが,どのように考えるか。

(補足説明)

問題提起の趣旨

 現行民法下の多数の学説は,履行の請求(強制)に関し債権者には,@債権者が債務者に対し任意に履行せよと請求できる権能(請求力),A債務者がした給付を適法に保持できる権能(給付保持力),B債権者が債務者に対し訴えによって履行を請求することができる権能(訴求力),C給付判決が確定しても債務者が任意に履行しない場合において,強制執行手続をとることにより,国家機関の手によって債権の内容を実現できる権能(執行力・強制力)が認められるとしている(以下,債権者に認められるこれらの権能を併せて「履行請求権」ともいう。)。
 この点について,現行民法は,第414条において,債権者が裁判所に対して債務の強制履行を請求することができることなどの履行の強制に関する規定を置く以外に,特段の規定を置いていない。そのため,債権者が債務者に対して債務の履行を請求できることなどの基本的な権能を有していることが,条文上明らかではない。また,民法第414条についても,同条は公法上の強制執行請求権及び強制執行の方法を定めた手続法的規定であり,債権者に実体法上の権能として執行力等が認められることを定めたものではないとの見解も示されており,その規定の意義は必ずしも明確とはいえない。
 債権者が履行の請求(強制)に関して上記各権能を有していることが最も基本的な法律関係であることに照らせば,債権者がこれらの権能を有していることを条文上明確にすることが望ましいという考え方がある。
 また,上記各権能のうち,債権者が訴求力を有するという点は比較法的に見て必ずしも自明なことではない。例えば,英米法では,契約違反の救済は金銭賠償が原則であり,債務を約束されたままの形で履行することを求めることができるのは例外とされている。そのため,債権者が履行の請求(強制)に関して上記各権能を有していることを規定することは,日本民法典が,英米法等と異なり,債権者に訴求力を認める法制を採用することを宣明するという意義を有する。
 さらに,裁判実務においては,債権者は債権の成立を主張・立証しさえすれば債務者に履行請求できるのが原則であるということを示す意義を有するものと考えられる。

(比較法)

○国際物品売買契約に関する国際連合条約

第46条(1) 買主は、売主に対してその義務の履行を請求することができる。ただし、買主がその請求と両立しない救済を求めた場合は、この限りでない。

第62条 売主は、買主に対して代金の支払、引渡しの受領その他の買主の義務の履行を請求することができる。ただし、売主がその請求と両立しない救済を求めた場合は、この限りではない。

○ドイツ民法

第241条1項(債権債務関係から生じる義務)

 債権債務関係に基づき、債権者は、債務者に履行を請求する権利を有する。履行は、不作為についても認められる。

○フランス民法

第1138条〔物の引渡しの債務〕

@ 物を引き渡す債務は、契約当事者の合意のみによって完全となる。
A この債務は、引渡しがなんら行われなかった場合でも、物を引き渡すべきであったときから直ちに債権者を所有者とし、その物を債権者の危険におく。ただし、債務者がその物を引き渡すことについて遅滞にある場合には、その限りでない。この場合には、その物は、債務者の危険にとどまる。

第1142条〔作為・不作為〕

 行い、又は行わない債務はすべて、債務者の側の不履行の場合には、損害賠償に変わる。

第1143条〔同前:除去の権利〕

 ただし、債権者は、約務に違反して行われたものを除去することを請求する権利を有する。債権者は、債務者の費用でそれを除去することの許可を受けることができる。必要がある場合には、損害賠償を妨げない。

第1144条〔同前:不履行の場合〕

 債権者はまた、不履行の場合には、みずから債務者の費用で債務を履行させることの許可を受けることができる。

○フランス民法改正草案

カタラ草案1152条

(1) 与える債務は、原則として同意の交換のみによって履行される。
(2) ただし、与える債務の履行は、両当事者の意思、法律の規定、または事物の性質によって、延期され得る。
(3) 与える債務は、その目的が何であれ、有体物であれ無体物であれ、現実に履行される。
(4) 与える債務の履行は、引渡しが行われなかった場合でも、債権者を移転された権利に関する権利者とし、権利の目的である物を債権者の危険に置く。

カタラ草案1154条

(1) なす債務は、可能な限り、現実に履行される。
(2) なす債務の履行は、予定されている履行が極めて属人的な性質を有する場合でない限り、罰金強制またはその他の強制手段によって命じられ得る。
(3) いかなる場合でも、なす債務は、債務者の自由または尊厳を侵害する強制によっては実行され得ない。
(4) 現実履行がないときは、なす債務は損害賠償に変わる。

カタラ草案1155条

(1) ある物の使用を許与する債務は、物を引渡すこと、およびその終了後に所持者が返還義務を負う一定の期間につき、使用できる状態を維持することを義務付ける。ただし、反対の約定または反対の法律上の規定がある場合を除く。
(2) 使用を許与する債務は、有体財産および無体財産を対象とすることができる。
(3) 使用を許与する債務は、現実に履行される。

司法省事務局草案110条

 与える債務、なす債務、またはなさざる債務は、原則として、現実に履行される。

司法省事務局草案112条

(1) 与える債務は、所有権またはその他の権利の移転を目的とする。
(2) 与える債務は、原則として同意の交換のみによって履行される。
(3) ただし、与える債務の履行は、両当事者の意思、法律の規定、または事物の性質によって、延期され得る。
(4) 反対の合意のない限り、与える債務の履行は、危険を債権者に移転する。

司法省事務局草案159条

 債務負担の約束が履行されないまたは不完全に履行されたときは、当事者は、債務負担の約束の強制履行を求めること、契約の解除を主張すること、および損害賠償を、場合によっては履行または解除に加えて、請求することができる。

司法省事務局草案162条

 なす債務の債権者は、債務の履行が不可能であるとき、またはその費用が明らかに不相当であるときを除き、現実の履行を求めることができる。

司法省事務局草案163条

 なさざる債務の不遵守のみによって、損害賠償が生じ得る。債権者は、将来におけるなさざる債務の現実履行もまた、求めることができる。

○ヨーロッパ契約法原則

9:101条 金銭債務

(1) 債権者は,履行期が到来した金銭の支払を請求する権利を有する。
(2)(略)

9:102条 非金銭債務

(1) 被害当事者は,金銭債務以外の債務について,履行請求権を有する。この履行請求権は,瑕疵のある履行の治癒を請求する権利を含む。
(2)(3)(略)

○ ユニドロワ国際商事契約原則

第7.2.1条(金銭債務の履行)

 金銭の支払義務を負う債務者が,これを履行しないときには,債権者は支払を請求することができる。

第7.2.2条(非金銭債務の履行)

 金銭の支払以外の債務を負う債務者がそれを履行しないときには,債権者は,その履行を請求することができる。(略)

(関連論点)

1.具体的な規定方法(民法第414条第1項の取扱い)

 債権者が前記各権能を有していることを規定する方法については,民法第414条第1項の取扱いとの関係が問題となり得る。すなわち,同条項の規定の性質については,立法論的観点から議論のあるところであり,大別すると,同条項は公法上の強制執行請求権を定めた手続法的規定であって,民法に規定することは適当ではないという見解と,同条項は履行の強制が可能であるという債権者に認められた権能を定める実体法上の規定であって民法に規定することが望ましいという見解がある。
 このような点を踏まえて,債権者が前記各権能を有していることを規定する方法としては,例えば,以下のような考え方があり得るが,どのように考えるか。

[A案] 民法第414条第1項を削除し,債権者は,債務者に対して,債務の履行を請求することができる旨の規定のみを置く考え方

[B案] 債権者は,債務者に対して,債務の履行を請求することができる旨の規定に加えて,民法第414条第1項を基本的に維持する考え方

 [A案]は,民法第414条第1項は公法上の強制執行請求権を定めた手続法的規定であって不要であるとした上で,「債権者は,債務者に対して,債務の履行を請求することができる」という内容の規定を置くことで債権者が前記各権能を有していることを読み込ませることができるとする考え方である。
 [B案]は,民法第414条第1項は,実体法上の執行力等を定める規定として意義があり基本的に維持すべきとし,[A案]のような規定と併せて置くことで,債権者が前記各権能を有していることをより明確に示すことができるとする考え方である。

2.民法第414条第2項及び第3項の取扱い

 民法第414条第2項及び第3項の規定の性質についても,立法論的観点から議論がある。すなわち,いずれの条項も強制執行の具体的な方法を定めた手続法的規定であり民法に規定することは妥当でないとする見解から,いずれも実体法上の規定であり民法に規定することが望ましいとする見解に至るまで,様々な見解が示されているところである。
 このような点を踏まえて,同条第2項及び第3項の取扱いとしては,例えば,以下のような考え方があるが,どのように考えるか。

[A案] いずれも不要とする考え方

[B案] 民法第414条第2項は不要だが,同条第3項は存置することが望ましいという考え方

[C案] いずれも存置すべきという考え方

 [A案]は,民法第414条第2項及び第3項は,強制執行の具体的方法を定めた手続法的規定であり,不要とする考え方である。
 [B案]は,同条第2項及び第3項を手続法的規定として民法に置くことは[A案]と同様不要だが,同条第3項については,不作為債権の債権者の権能として,違反結果の除去を請求するという積極的な権能が当然に肯定されるとは限らないから,債権者に認められる実体法上の権能の具体化として存置することが望ましいとする考え方である。
 [C案]は,同条第2項及び第3項は,第1項と同様に実体法上の規定であり民法に置くことが望ましいという考え方から素直に導かれる立場であるが,このような規定の性質についての二者択一的な発想よりも,規定の分かりやすさという観点を重視して,この考え方を採用する立場もあり得る。すなわち,強制執行に関する要件・効果の規定は,実体法と手続法が入り組んだ密接な関係にあり,実体法的規定と手続法的規定を明確に分離して規定することが困難であることに加えて,民事執行法には強制執行の具体的方法を一覧できる規定が置かれておらず見通しが悪いことなどを考慮し,民法において,前記(関連論点)1のような債権者に認められる実体法上の権能に関する規定を置いた上で,強制執行の具体的方法(直接強制,間接強制,作為債務の代替執行,不作為債務の代替執行等)及びその要件等を一覧できる規定を併せて置くことが望ましいという考え方であり,同条第2項及び第3項については,そのような規定の一部として存置することができるという考え方である。

3.追完請求権

 債務者が不完全な履行をした場合には,債権者は,一般的に,代物請求権,瑕疵修補請求権等の追完請求権(完全履行請求権,補完的履行請求権)を有すると解されているが,現行法には,これが認められることを明示する規定が置かれていない。
 そこで,追完請求権が認められることを条文上明確にすることが望ましいという考え方があるが,どのように考えるか。

(補足説明)

1.問題提起の趣旨

 判例・学説は,債務者が不完全な履行をした場合,債権者には代物請求権や瑕疵修補請求権等の追完請求権(完全履行請求権,補完的履行請求権)が認められると解しているが,現行民法には,請負に関して瑕疵修補請求権の規定(民法第634条第1項)が置かれているほかは,追完請求権に関する規定が置かれてない。追完請求権が,不完全な履行がされた場面で債権者が行使することのできる基本的で重要な権限の一つであることに照らせば,国民に分かりやすい民法とする観点から,これを条文上明確にすることが望ましいという考え方がある。
 また,追完請求権における追完の具体的内容は,瑕疵修補請求,代物請求,追履行請求,再履行請求等,債権の内容や不完全な履行の態様等により千差万別であり,多くの場合,その内容は,債権成立時の履行内容と異なるという特徴がある。そのため,債務者による履行が全くない場面と異なり,当初の債権の内容と異なる内容の追完を望まない当事者をどこまで契約あるいは当該債権関係に拘束するか,追完を望まない債権者に対する債務者の追完利益をどこまで保障するかという新たな考慮要素が生じ得る。そのため,追完請求権に関する規定を置くことは,このような追完請求権の特徴を踏まえた解釈の発展を促すことにもつながり得る上,国民一般に分かりやすい民法とする観点から,追完の遅滞による損害賠償請求権や追完不能による追完に代わる損害賠償請求権の規定,追完請求権の限界に関する規定等,追完請求権の特徴を踏まえた規定を設けることを可能にするという意義も認められる。

2.「不完全な債務の履行」の意義

 追完請求権の適用範囲を画するのは「不完全な債務の履行」という概念であるが,前記のような追完請求権が問題になる場面の特殊性(当初の債権の内容と異なる内容の追完を希望しない者をどこまで契約あるいは当該債権関係に拘束するか,その場合の債務者の追完利益をどこまで保障するか)を考慮すれば,「不完全な債務の履行」とは,すなわち,債務者による無履行(全部不能及び全部遅滞)以外の不履行態様全般(債務者による何らかの履行がされた場合)を意味すると解することが想定される。
 これによれば,例えば,履行された目的物・役務の性状に契約不適合がある場合,履行された給付が数量不足だった場合,異種物が給付された場合,付随義務違反等債務者が信義則上負担する義務に違反した場合等は,いずれも「不完全な債務の履行」に含まれると考えられる。

(比較法)

○国際物品売買契約に関する国際連合条約

第46条 (1)(略)
(2) 買主は、物品が契約に適合しない場合には、代替品の引渡しを請求することができる。ただし、その不適合が重大な契約違反となり、かつ、その請求を第39条に規定する通知の際に又はその後の合理的な期間内に行う場合に限る。
(3) 買主は、物品が契約に適合しない場合には、すべての状況に照らして不合理であるときを除くほか、売主に対し、その不適合を修補によって追完することを請求することができる。その請求は、第39条に規定する通知の際に又はその後の合理的な期間内に行わなければならない。

第39条 (1) 買主は、物品の不適合を発見し、又は発見すべきであった時から合理的な期間内に売主に対して不適合の性質を特定した通知を行わない場合には、物品の不適合を援用する権利を失う。
(2) 買主は、いかなる場合にも、自己に物品が現実に交付された日から二年以内に売主に対して(1)に規定する通知を行わないときは、この期間制限と契約上の保証期間とが一致しない場合を除くほか、物品の不適合を援用する権利を失う。

○ドイツ民法

第439条(追完履行) *売買の規定
(1) 買主は、追完履行として、買主の選択に従って瑕疵の除去または瑕疵のない物の引渡しを求めることができる。
(2) 売主は、追完履行のために必要な費用、特に運送、路用、労務、材料に関する費用については、これを負担しなければならない。
(3) 売主は、買主によって選択された追完履行の方法を、275条2項および3項に関わりなく、それが不相当な費用によってのみ可能である場合には、拒絶することができる。その際には、特に、瑕疵のない状態における物の価値、瑕疵の意味、および他の方法の追完履行が買主にとっての著しい不利益なしに用いられ得るかどうかという問題が考慮されなければならない。この場合には、買主の請求権は、その他の方法の追完履行に限られる。第1文の要件の下でこれをも拒絶する売主の権利は、影響を受けない。
(4) 売主が追完履行のために瑕疵のない物を引き渡すときは、売主は、買主から346条から348条の規定に従って瑕疵のある物の返還を求めることができる。

○フランス民法

 規定なし

○フランス民法改正草案

カタラ草案1158条1項

 あらゆる契約において、債務負担の約束が履行されないまたは不完全に履行された当事者は、債務負担の約束の強制履行を求め、契約の解除を主張し、または損害賠償を、場合によっては履行または解除に加えて、請求する旨の選択権を有する。

司法省事務局草案159条

 債務負担の約束が履行されないまたは不完全に履行された当事者は、債務負担の約束の強制履行を求めること、契約の解除を主張すること、および損害賠償を、場合によっては履行または解除に加えて、請求することができる。

○ヨーロッパ契約法原則

9:102条 非金銭債務

(1) 被害当事者は,金銭債務以外の債務について,履行請求権を有する。この履行請求権は,瑕疵のある履行の治癒を請求する権利を含む。
(2)(3)(略)

○ユニドロワ国際商事契約原則

第7.2.3条(不完全な履行の修補および取換え)

 履行を請求する権利は,それが適切な場合には,不完全な履行の修補,取換え,その他の治癒を請求する権利を含む。前2条の規定はこの場合に準用する。

4.履行請求権の限界

 目的物の滅失等により債務の履行が物理的に不可能となった場合を始めとして,債務の履行が「不能」になった場合には,債権者は債務の履行を請求することができない(伝統的な理解では,不能について債務者に帰責事由がない限り,その債務は消滅する。)と解されているが,この点について現行法は,何ら具体的な規定を置いていない。債務の履行の請求に一定の限界があることは,債権債務関係の最も基本的なルールの一つであることから,そのような限界があること及び具体的な限界事由を条文上明確にすることが望ましいという考え方があるが,どのように考えるか。

(補足説明)

問題提起の趣旨

 現行法下において,履行の請求は,無制限に認められるものではなく,目的物の滅失等により債務の履行が物理的に不可能となった場合を始めとして,債務の履行が「不能」になった場合には,債務者は債務の履行を請求することができないと解されているが,この点について現行法は,何ら具体的な規定を置いていない。この解釈は,債務不履行による損害賠償請求権や危険負担の債務者主義の要件としての「履行することができなくなったとき」(民法第415条後段,第536条第1項)等の解釈によって導かれたものである。
 すなわち,現行民法下の判例及び伝統的理論は,履行請求権の限界についての規定がない中,「債務者の責めに帰すべき事由によって履行することができなくなったとき」には損害賠償を請求できるとする民法第415条後段の解釈から,そのような場合には履行請求権が損害賠償請求権に転化すると解釈し,「当事者双方の責めに帰することができない事由によって履行することができなくなったときは,債務者は,反対給付を受ける権利を有しない」とする民法第536条第1項の解釈から,そのような場合には債務者の反対給付を受ける権利とともに債権者の履行請求権も消滅すると解釈することで,履行請求権の限界を認めてきた。
 さらに,判例は,これらの規定の解釈として,「不能」と認められるのは,目的物の滅失等により債務の履行が物理的に不可能となった場合に限らず,当該目的物の取引が法律上禁止された場合(大判明治39年10月29日民録第12輯1358頁)や,目的物である不動産が二重譲渡され第二買主が所有権移転登記を備えた場合(最判昭和35年4月21日民集第14巻6号930頁等,大判大正2年5月12日民録19輯327頁参照)にも「不能」と認められるなどと判示することにより,「不能」の範囲を拡大しており,それに伴い,履行請求権の限界の範囲も拡大されている。
 現行民法下における履行請求権の限界は,このような解釈論により導かれたものであるが,このことを現行民法の条文から読み取ることは困難である。履行請求権に一定の限界があることは,債権債務関係の最も基本的なルールの一つであることに照らせば,そのような限界があること及び具体的な限界事由を条文上明確にすることが望ましいという考え方があるため,前記問題提起をするものである。

(比較法)

○国際物品売買契約に関する国際連合条約

第46条 (1) 買主は、売主に対してその義務の履行を請求することができる。ただし、買主がその請求と両立しない救済を求めた場合は、この限りでない。
(2) 買主は、物品が契約に適合しない場合には、代替品の引渡しを請求することができる。ただし、その不適合が重大な契約違反となり、かつ、その請求を第39条に規定する通知の際に又はその後の合理的な期間内に行う場合に限る。

第39条 (1) 買主は、物品の不適合を発見し、又は発見すべきであった時から合理的な期間内に売主に対して不適合の性質を特定した通知を行わない場合には、物品の不適合を援用する権利を失う。
(2) 買主は、いかなる場合にも、自己に物品が現実に交付された日から二年以内に売主に対して(1)に規定する通知を行わないときは、この期間制限と契約上の保証期間とが一致しない場合を除くほか、物品の不適合を援用する権利を失う。

第62条 売主は、買主に対して代金の支払、引渡しの受領その他の買主の義務の履行を請求することができる。ただし、売主がその請求と両立しない救済を求めた場合は、この限りでない。

○ドイツ民法

第275条(履行義務の排除)

(1) 債務者にとってまたは誰にとっても履行が不可能な場合には、履行請求権は排除される。
(2) 債務者は、債権債務関係の内容および信義誠実の要請を考慮して、債権者の給付に対する利益に対し著しく不均衡となる費用を要するときは、履行を拒絶できる。債務者に期待されるべき努力を確定する際には、債務者が履行障害につき責任を負っているかどうかについても考慮されなければならない。
(3) 債務者は、履行を自ら行わなければならない場合であり、かつ債権者の給付に対する利益とともにその履行を妨げる障害を考慮してそれが債務者に期待され得ない場合にも、履行を拒絶できる。
(4) (略)

○ドイツ債務法改正委員会草案

第275条(給付義務の限界)

 債務が金銭債務でない場合において,債務関係の内容及び性質によって義務づけられる努力によっては給付をすることができないときは,債務者は,その限りで又はその間は,給付を拒むことができる。(略)

○フランス民法

 規定なし

○フランス民法改正草案

カタラ草案1157条2項

(2) 不履行が不可抗力またはその他の正当な事由によって生じた場合、契約は、その不履行が治癒され得ない場合でないときにも、停止され得る。

司法省事務局草案161条

 不履行が不可抗力によって生じた場合、双務契約は、その不履行が治癒され得ない場合でないときは、停止され得る。

○ヨーロッパ契約法原則

8:108条 障害による免責

(1) 当事者の一方による不履行は,それがその当事者の支配を超えた障害によるものであり,かつ,その障害を契約締結時において考慮すること,または,その障害もしくはその結果を回避もしくは克服することが合理的に期待できなかったことが,この当事者によって証明される場合には,免責される。
(2) 障害が一時的なものにとどまる場合には,本条による免責は,その障害が存する間,効力を有する。ただし,履行の遅延が重大な不履行になる場合には,債権者は,この遅延を重大な不履行として扱うことができる。
(3) 不履行当事者は,障害の事実およびその障害が自らの履行の可否に及ぼす影響に関する通知を,自己がそうした事情を知りまたは知るべきであったときから合理的な期間内に,相手方が受け取ることのできるようにしなければならない。相手方は,この通知を受け取らなかったことによって生じるあらゆる損害について,賠償を求める権利を有する。

9:101条 金銭債務

(1) 債権者は,履行期が到来した金銭の支払を請求する権利を有する。
(2) 債権者が自らの債務をいまだ履行しておらず,かつ,債務者に履行を受領する意思のないことが明らかであるときであっても,債権者は,自らの履行をして,その契約に基づく金銭の支払いを請求することができる。ただし,次の各号のいずれかに該当する場合には,このかぎりではない。

(a) 債権者が,過分の努力または費用を要することなく,合理的な代替取引をすることができたであろう場合
(b) 債権者が自らの債務を履行することが不合理であるような事情が存在する場合

9:102条 非金銭債務

(1) 被害当事者は,金銭債務以外の債務について,履行請求権を有する。この履行請求権は,瑕疵のある履行の治癒を請求する権利を含む。
(2) 前項の規定にかかわらず,次の各号のいずれかに該当する場合は,履行を請求することができない。

(a) 履行することが,違法または不可能である場合
(b) 履行することが,債務者に不合理な努力または費用をもたらす場合
(c) 履行の内容が,一身専属的な役務の提供である場合,または人的関係に依存するものである場合
(d) 被害当事者が,他から履行を得ることが合理的にみて可能である場合

(3) 被害当事者が,不履行を知った時,または知らずにいることなどありえなかった時から,合理的な期間内に履行を請求しなかったときは,履行請求権を失う。

○ユニドロワ国際商事契約原則

第7.1.7条(不可抗力)

(1) 債務者は,その不履行が自己の支配を越えた障害に起因するものであることを証明し,かつ,その障害を契約締結時に考慮しておくことまたはその障害もしくはその結果を回避し,もしくは克服することが合理的にみて期待しうるものでなかったことを証明したときは,不履行の責任を免れる。
(2) 障害が一時的なものであるときは,前項の免責は,その障害が契約の履行に及ぼす影響を考慮して合理的な期間についてのみその効力を有する。
(3) 履行をしなかった債務者は,その障害およびその障害が自己の履行能力に及ぼす影響について債権者に通知しなければならない。その通知が,債務者が障害を知りまたは知るべきであった時から合理的期間内に債権者に到達しないときには,債務者は,不到達の結果生じた損害につき責任を負う。

第7.2.2条(非金銭債務の履行)

 金銭の支払以外の債務を負う債務者がそれを履行しないときには,債権者はその履行を請求することができる。ただし,次の各号のいずれかに該当するときはこの限りではない。

(a) 履行が法律上,または事実上不可能であるとき
(b) 履行または履行の強制が,不合理なほどに困難であるか,費用のかかるものであるとき
(c) 債権者が,他から履行をうることが合理的にみて可能であるとき
(d) 履行が,当該債権者のみがなしうる性格のものであるとき
(e) 債権者が,不履行を知りまたは知るべきであった時から合理的な期間内に履行を請求しないとき

(関連論点)

1.具体的な履行請求権の限界事由

 具体的な履行請求権の限界事由について,どのように考えるか。
 なお,現行民法における「不能」に関する判例としては,

@ 不動産の二重譲渡がされて,第二買主が所有権移転登記を備えた場合(最判昭和35年4月21日民集14巻6号930頁
A 他人物賃貸借の賃借人が,同一目的物について真の権利者とさらに賃貸借契約を締結した場合(最判昭和49年12月20日判例時報768号101頁
B 契約締結後,法律により目的物の取引が禁止された場合(大判明治39年10月29日民録12輯1358頁)
C 賃借人の賃借物返還義務に関して,賃借建物の内部が焼損し,修復工事に相当高額の費用を要し,建物の使用が不可能な状態に至った場合(東京地裁昭和62年3月26日判例時報1260号21頁)

などがあり,講学上,「不能」には物理的不能のほか,法律的不能・社会的不能も含まれるなどとされている。
 また,前記(比較法)記載のとおり,外国法等においては,具体的な履行請求権の限界事由として,

T 物理的履行不可能,法律上又は事実上の履行不可能
U 履行の合理的期待可能性がないこと,履行の経済的不合理性(給付に伴う債務者の負担と給付から受ける債権者の利益との重大な不均衡)
V 履行内容が一身専属的である場合の不履行
W 代替取引の合理的可能性
X 不履行を知るべきであった時から合理的期間内に履行請求権を行使しなかったこと

などが規定されている。

2.履行請求権の限界の判断基準

 具体的な履行請求権の限界事由を設定する際の視点としては,履行請求権の限界の判断基準に関連し以下のような考え方があるが,どのように考えるか。

[A案] 「社会通念上」不能といえるかという契約外在的基準による考え方

[B案] 「契約の趣旨に照らして」という契約内在的基準による考え方

 [A案]は,伝統的学説の見解であり,社会通念ないし社会の取引観念を基準として,履行が「不能」になったと評価できるかという観点から,履行請求権の限界を判断する考え方である。
 この考え方は,現行法における「不能」の判断基準として主張されてきた考え方であり,履行請求権の限界事由についても,「不能」を中心に具体的な要件設定を行う考え方に親和的と考えられる。
 [B案]は,契約の拘束力を重視する見解であり,合意ないし契約の趣旨,すなわち,契約の目的,性質,対象,当事者の属性,契約締結に至った事情その他契約に関する諸事情を総合考慮して,履行請求権の限界を判断する考え方である。
 この考え方は,「不能」概念の拡大・多様化(履行が物理的に可能だが,それ以外の事由により不能と評価される場合の拡大・多様化)が進むにつれて,履行請求権の限界事由としての「不能」は,必ずしも決定的なものではなくなっているとの問題意識から,むしろ,当該契約の趣旨等に照らして,履行請求権の限界を認めるべき事情が存在するか否かを判断すべきとする考え方である。
 このように「不能」概念から距離を置く考え方からは,上記(関連論点)1のUに例示したような事由について,@債務関係・契約関係における債務者の利益と債務者の調達コストを比較衡量して判断する事由,あるいは,A給付に伴う債務者の負担と給付から受ける債権者の利益を比較衡量して判断する事由として位置付けるべきなどと主張されることがある。もっとも,条文化の方法としては,このようなアプローチにより導かれた具体的な履行請求権の限界事由を,改めて「不能」概念に包摂して規定することも可能であるという考え方もある。

3.追完請求権の限界事由

 追完請求権の限界事由に関する規定ついて,例えば,以下のような考え方があるが,どのように考えるか。

[A案] 履行請求権の限界事由と同様とする考え方

[B案] 瑕疵修補請求権について修補に過分の費用を要することを限界事由として規定するなど,追完請求権独自の限界事由を規定する考え方

 [A案]は,履行請求権の限界事由を追完請求権にそのまま適用する考え方である。追完請求権の法的性質について,追完請求権は不完全履行の場面における履行請求権の具体化であり,両者は本質を同じくするという考え方と適合的である。
 [B案]は,追完請求権の多様性に着目し,その多様性に応じた独自の限界事由を設ける考え方である。例えば,追完請求権のうち瑕疵修補請求権は,不完全な履行がされた後の治癒行為という,債権成立時に予定されていた行為とは異なる行為を債務者に義務付けるものであるから,これに要する費用が債権者の利益に比して債務者にとって過大になるときは,債権者は,他の手段によって満足を得るべきであるという観点から,瑕疵修補請求権の限界事由として,修補に過分な費用を要することを規定することなどが考えられる。この立場は,追完請求権の法的性質について履行請求権の具体化としつつ,不完全な給付をしたという点を考慮した特別の制約を許容する考え方や,瑕疵修補請求権の法的性質を「現実賠償」としての損害賠償請求権と位置付けることで,瑕疵修補請求権の内容を賠償額によって制限するという考え方に適合的である。
 もっとも,[B案]に対しては,[A案]によっても具体的事案における限界事由の解釈によって同様の結論を導けるのであり,あえて明文で独自の限界事由を規定する必要はないとの批判がある。また,請負に関する民法第634条第1項ただし書のように典型契約に規定された個別の請求権の特質に応じて,個別に規定することも可能である。

議事録より抜粋

○山本和彦(一橋大学教授)幹事 2の「履行の請求」の部分についてでございます。全体的には,ここに書かれています実体法と手続法の機能分担という観点について御配慮をいただきたいということです。現行民法が制定されたときと比較して,現在は民事執行法という単行法が強制執行について基本的には簡潔的な形で規律するような法律として存在しております。そういうところからすれば,手続的な規定については,基本的にはその手続法,民事執行法の中で規定を置いていく,実体的な部分について,必要なものについて民法に規定を置いていただくということが,法律相互の関係から明確性を持ち,また,分かりやすいものになるのではないかという印象を持っております。
  あと,各論的に,(関連論点)について,そういう観点から幾つかのコメントをさせていただくとすれば,1の点につきましては,これが仮に手続法上の裁判所に対する公法的な請求権を規定している規定であるとすれば,今のような趣旨からすれば,もし規定を置くのであれば,民事執行法の方に置くべき規定ではなかろうかという感じがします。それに対して,(補足説明)では実体法上の執行力等を定める規定という説明がされておりますが,そういう内容のものであれば,それはもちろん民法の方に置かれるべきものであるということで,いずれにしても,この規律の趣旨が,文言でどのようにあらわされるのか分かりませんが,趣旨を明確にして,実体法上のものだということであれば,これは民法の方に置かれるという議論になるかなという印象を持っております。
  それから,2の点につきましては,基本的には強制履行請求権というものが仮に実体法上認められるとして,しかしそれをどのような形で実現するかというのは,やはりこれは基本的には手続法的な,技術的な問題なのかなと思っております。債権者の観点からすれば,その実効性をどのように確保するか,債務者の側に対してはどのような形で不当な不利益を与えないでそれを実現していくかという手続法的な配慮に基づく規律になっていくとすれば,基本的には手続法の方で規定していくことが相当かなという印象を持っております。とりわけ,C案の補足説明にありますような,強制執行の具体的な方法,種類やその要件等を一覧できるような規定を民法の中に置くことについては,もちろんその規定の置き方によるところではありますけれども,やや懸念するところがあります。その要件について,例えば平成15年及び平成16年の民事執行法の改正の中では,間接強制の補充性を緩和する改正をしているわけでありますけれども,直接請求権あるいは金銭債務についても一部間接強制が利用できるようにしたわけでありますが,そういうような手続法的な債権者の権利の実効性を確保するという観点からされた改正について,それがいちいち民法の一覧的な規定を改正しないとできないというような事態になるということは,私自身は必ずしも望ましくないことなのかなという印象を持っています。もしどうしてもこういう一覧的な規定が必要なのであれば,それは民事執行法の方に置くということは考えられるように思いますけれども,民法の中であえてこういう執行方法についての一覧的な規定を設けるというまでの必要性があるのかなというのは,私自身はやや疑問に思っておりまして,ここは慎重に御検討いただければと思っておる次第です。

○岡正晶(弁護士( 第一東京弁護士会所属))委員 追完請求権のことと,履行請求権及び追完請求権の限界の二つの点について発言させていただきます。
  まず,追完請求権のところですが,・・・実務で今たまたま相談を受けている製品の瑕疵について,納めた製品に瑕疵があった場合に謝りに行って,代物と交換せよと言われるのに対して,いやいや,これは品質にそう問題がありませんからそのままでお願いしますと言って受けてくれる人もいますし,一部代金を減額して納得してくれる人もいますし,補強工事をして納得してくれる人もいますし,本当にいろいろな対応をして処理しているのが現状だろうと思います。ですから,ここにある,不完全な履行をした場合に債権者が何か請求できるのはそのとおりだと思うのですが,どう規定するのが実務の邪魔にならないし,膨らみがあることになるのか。先ほどの話ですと,本当に直す場合もあるし,追加,補強工事をする場合もありますし,瑕疵は顕現化しないと思いますが万一顕現化したときは弁償しますという保証約束で満足していただけるときもありますし,損害賠償のようなもので処理する場合もありまして,規定があるのは有益だと思いますが,その規定の仕方が,ここにあるような修理,代物等々ではない,かなり膨らみがあるということを前提にしていただければと思います。
  それから,履行請求権及び追完請求権の限界の話ですが,部会資料5−2の13ページ(※4関連論点1)に履行請求権の限界として,真ん中あたりのUに「履行の経済的不合理性」というのがございます。これも実務の中で,瑕疵があるのだから代物に取り替えろという話が原則的に来たときに,そこまでする瑕疵ではないので,先ほどのような補償文言で勘弁してくださいとか,修理するとか補強工事するとか,そういうことで満足してくださいという交渉を一生懸命しております。それが完全履行請求権を行使すべき場合ではなくて,もっとほかの救済手段,損害賠償だとかほかの追完手段で満足してくださいという交渉をしてまとめていこうとする実務をよくやっております。それが損害軽減義務という話にいって,信義則上の履行請求権の限界というのを交渉ではよく使っております。損害軽減義務と言ったり信義則上の義務があるのだから,そこまではしなくて,こっちの救済手段で我慢してくださいと,そういう場合に履行請求権の限界があると言えるのか言えないのか,交渉ではいいけれども条文にそこまで言うのは不相当なのか,まだ考えはまとまっておりませんけれども,履行請求あるいは追完請求ができない事由として信義則上のものがあるのではないかということを,これを見て考えました。

○木村俊一(東京電力株式会社総務部法務室長)委員 履行請求権の限界ですけれども,これもどういう場合に限界があるのだということを明示していく基準というようなものを設けることについては意味があるのではないでしょうか。したがって,その辺を議論していくという,論点としては定めていくことについては問題ないと思います。ただ,ここの中で,履行不能の判断基準として,「社会通念上」という判断によるのか,「契約の趣旨に照らして」によるのかという二者択一みたいな関連論点が挙がっているのですけれども,これは現実には社会通念も契約の趣旨もあわせて総合的に考えているのではないかと思います。例えば,民法の中に既に定期行為の履行遅滞による契約の解除権という条文がありまして,その中では,いわゆる当事者の意思ももちろんありますけれども,社会通念上これは,もうこの時点を過ぎたら履行不能といいますか,意味がないと,だから履行遅滞でも直ちに契約解除だという権利が発生するというように,トータルとして基本的には今の民法も考えているわけなので,これを二つに分けるという意味がよく分からないという感じがします。また,「契約の趣旨に照らして」というようなことを前面に出してくると,ではその契約の趣旨は何なのだとなり,いかに明らかにするかというところで契約に相当いろいろなことを書き込んでいくようなことになってくるので,これは結構契約実務が煩雑になるという意見もありまして,この辺もいろいろと慎重に議論をしていく必要があると思います。

○深山雅也(弁護士( 第二東京弁護士会所属) )幹事 強制執行に関する規定は基本的には民事執行法にという山本幹事の考え方は,基本的に私もそうかなと思っているのですが,その点の前提として,執行を考える前に,まず実体上の請求権として何が請求できるのか。つまり,弁護士らしく言えば,裁判としてどういう請求の趣旨を掲げた訴状が書けるのかということが気になります。とりわけ気になるのが追完請求権のところでありまして,先ほどの木村委員,岡委員も言及されましたけれども,正に実務では追完の求め方,在り方というのは千差万別です。観念的に追完請求できるという考え方自体はもちろんそのとおりだと思うのですが,ではそれは具体的な権利として何が請求できるのか。追完を請求できるとか,瑕疵修補が請求できるということを,例えば文字どおりそういう主文をもらっても,何をどうするのかということになろうかと思うのです。それこそ執行できないのではないかなというぐらいに思うわけです。そうなると,結局,実体上の権利として請求できる権利を瑕疵修補のような場面で条文化するというのは難しいのではないかな,あるいはそれを直ちに執行する手段に結びつけるような形で規定するのは難しいのではないかなという気がいたします。そうすると,実務的にはいろいろな形で和解的な解決をする場面が多いとは思いますが,残念ながら和解ができなかったときに,裁判所に何が求められるのかと考えると,一つの独立した請求権として追完請求権なるものを実体上位置づけるというのは難しいのではないかなと思っております。

○潮見佳男(京都大学教授)幹事 まず,債権には請求力があるのだということを第414条と別途にルールとして定めるということには大きな意味があるのではないかと感じているところです。・・・それとは別に,第414条の現在の規定は,債権には実体的に強制力があることを表明している規定であるというように理解すれば,これは先ほどの山本和彦幹事が言われた一つの見方でございますけれども,現在の第414条第1項のような規定はあった方がいい。第4項のようなものもあった方がいい。問題は第2項と第3項でして,これらが強制力の具体的な内容を書いたものなのか,それとも債権の強制力を手続的にどのような形で実現していくかという手続ルールを定めたのかというところについては意見が分かれようと思います。とりわけ,第414条第3項については,部会資料5−2にもB案のところに書かれていますように,特に不作為債務の場合に,作為というものが債務の内容に入り得るということを実体的な意味から拡張していくという意味ではこのような規定があってもよいと思います。ただ,第2項については,先生方御案内のとおり,いろいろな議論がございますので,いろいろな観点から検討した上で,これを残すか残さないかということをお決めいただければいいのかなと思っているところです。

○鎌田薫(早稲田大学教授)部会長 追完請求権については,追完請求をして,結果的にどういうふうにするかの解決の仕方は実務的に非常に多種多様だということで,交渉で御苦労されているということでしたが,それは,交渉の手法の問題なのか,そもそも履行請求権自体が非常に多種多様にしか存在し得ないという趣旨でおっしゃっているのか,どちらでしょうか。この資料では,瑕疵があるというのは,債務の本旨に従った履行がないのだとしたら,一部未履行であるのなら履行請求はそのままできていくはずだ,ただし,どのような場合でも必ずできるというのはおかしいので限界を定める,そういう仕組みになっていると思うのですが,そういう発想とは全く違う形で制度設計されなければいけないという趣旨の御意見なのでしょうか。

○岡(正)委員 いいえ。「履行請求権の限界」という言葉に入るのかどうかはよく分かりませんが,追完請求権の中身がいっぱいある,それで,ぱっと追完請求と言うと代物請求が原則で,新品のものに交換しなさいというのがどんと出てきそうですけれども,交渉ではいろいろなものがある,法律上の権利としてもいろいろなものがあるのではないか。そのいろいろなものを選ぶときに信義則上の義務とか損害軽減義務とか,そういうもので,その代物請求は法律的には認められませんよというものがあるのかないのかという議論をしたかっただけでございます。

○岡田ヒロミ(消費生活専門相談員)委員 消費者相談の中で,追完請求権というのが,私たちも苦労するのが新車の売買契約の場合です。ほとんど車体交換とかそういうのはなくて,大方修理ということになりますが,その辺が消費者は納得できません。客観的に見ると,このぐらいの不具合で新品というのはおかしいと私たちが思う場合もあれば,または消費者の不安を考えると,車体交換をするべきではないかと思うような場合もあります。このような場合に追完請求権及びその基準が明確であれば事業者の対応も平均化し,消費者の理解も得られるように思います。

○松岡久和(京都大学教授)委員 先ほど木村委員から,履行不能の判断基準が二者択一的になるのはおかしいのではないか,定期行為の解除は現に複合的な基準となっているし,「契約の趣旨に照らし」という基準をあまり前に出すと契約実務の煩雑化を招かないか,こういう趣旨の御発言があったと思います。御発言の前半,つまり社会通念によるのか契約趣旨に照らしての判断なのかについては,私も必ずしも二者択一的ではないと考えております。しかし,御発言の後半については,私は少し違う意見を持っています。契約に何も定めなければ,標準として,社会通念上の不能の有無で判断すればよろしいのですが,契約の趣旨が,普通は社会通念上不能と思われるケースでもなお努力をするということを特別に約束しているのであれば,そちらを優先すればよいわけです。基準を決めておけば,むしろ逆に契約でそれと違うことを定めたい場合はそう定めればよく,そう定める必要がなければいちいち細かいことを合意しなくても,標準が定まっているから安定した法律関係の形成ができる,そういうふうに考えればいいのではないかと思います。

○鹿野菜穂子(慶應義塾大学教授)幹事 「履行請求権の限界」について申し上げたいと思います。まず,私も,履行請求権があるということと同時に,履行請求権の限界についても規定を置く方が,明確性という点からよろしいのではないかと思います。そして,限界の判断基準について,資料にはA案とB案が書かれていますが,A案の「社会通念上」という基準とB案の「契約の趣旨に照らして」という基準は二者択一ではないのではないかという先の御意見につき,私もそのとおりだと思います。私は基本的には,履行請求権の限界も当該具体的な契約に照らして判断されるべきだとは思うのですが,従来,「社会通念上」という概念が使われた場合,そこでは何も契約から離れておよそ客観的に社会通念というものが観念されていたわけではなくて,当該契約の性質あるいは内容に照らした規範的な評価をもって社会通念上と言われてきたのではないかと思うのです。もしそうであれば,「社会通念」という表現を使っていても,そこには「契約の趣旨に照らして」という意味合いは既に盛り込まれていたのであるし,あるいは盛り込んで解釈し得るのではないかと思います。そういう意味で,私はこの二つを二者択一の基準ではないと思うのです。ただ,具体的にその趣旨をうまく表現するためにいかなる概念を用いるのがよいかという観点から検討する必要はあると思います。

○松本恒雄(一橋大学教授)委員 民法第414条に関して,授業をやるとき,あるいは教科書を書くときにいつも面倒くさいなと思うのは,民法の用語はこうだけれども,民事執行法の用語ではこうであってと,いろいろ翻訳をしなければならない。ごちゃごちゃしているというところが大変やりにくいし,非生産的であるということです。・・・そういう意味では,授業がやりやすいように,教科書が書きやすいように言葉の調整等をやり,実体法的なものはこちら,執行法的なものはこちらというふうにきちんと分けた上で,余分な翻訳作業が要らないようにしていただければ,それで結構です。

○山本敬三(京都大学教授)幹事 2点意見を述べさせていただきます。
  1点は,今お話がありました追完請求権についてです。これは,既に何度かご指摘がありましたように,具体的な請求の内容をあらかじめ一義的に確定できない性質を持った権利ではないかと私も思います。具体的な請求の内容は,どのような瑕疵があるかによって大きく左右されますし,今もお話がありましたように,仮に瑕疵が特定されたとしても,それを契約の趣旨にかなうようにするためには複数の方法が考えられる場合が実際には幾らでも出てきます。そうすると,そこには選択の余地が出てきて,実際にどの方法によるかということが問題とならざるを得ない。そういう性質を持った権利だろうと私も思います。だから,抽象的には権利としてあるとしても,具体的な権利として観念できないのではないか,だから規定として定めることができないとなるかといいますと,それはまた別問題ではないかと思います。とりわけ売買では,従来の法定責任説のように,完全履行請求権を観念できないという考え方が支配的であったところで,何も規定をせずにそのままにしておきますと,従来と同じではないかということになりかねません。したがって,これについては,やはりそれ自体としては抽象的な権利であって,具体化が必要ではあるけれども,そのような権利として認められることをはっきりさせる必要があると思います。実際,このように,具体的な請求の内容,つまりどのようなことを具体的に請求できるかがあらかじめ特定できない権利は,実はここだけで出てくるわけではありません。言うまでもなく,請負については,既に民法に明文の規定がありまして,これで実際にやっているわけですし,それ以外では,例えば差止めを求める場合についても,一定のあるべき状態を実現するために,相手方にどのような措置をとらせるかという点について,複数の可能性が考えられることが少なくありません。それでも,実務上請求の内容を特定して,認めざるを得ないわけです。したがって,このような権利が認められる以上,それをきちんとルールとして定める必要があると思います。
 ただ,その際に,売買や請負,その他の契約類型等に応じて,問題になる点が違ってくる可能性もあります。ですので,これは今後の議論の進め方にかかわることですけれども,一度それぞれの問題について,どのような形で追完請求権を規定できるかということを一通り検討して,その上で,一般規定としてまとめることができる内容を詰めていくというかたちで議論を進めてみることも十分合理性があるのではないかと思います。
  もう1点は,先ほどから議論になっている「履行請求権の限界」についてです。先ほどから何度か,これについては,A案,B案があって,これは二者択一ではないのではないかという御指摘がありましたが,そこで「二者択一ではない」ということの意味が問題なのだろうと思います。「二者択一ではない」と言われるときに,先ほどの議論をよく聞いていますと,契約の趣旨を抜きにして社会通念から限界が定められるというものではない,つまり,契約の趣旨の中に社会通念上という要素が組み込まれているということが指摘されていたのではないかと思います。ですので,その当否はもちろん次の問題ではありますけれども,ここで少なくとも確認しておく必要があるのは,やはり契約の趣旨がかなめであって,そこにデフォルトルールとして社会通念上の要請に相当するものが組み込まれているということではないかと思った次第です。

○道垣内弘人(東京大学教授)幹事 後半の不能の話は山本幹事がおっしゃったとおりだと思うのですが,前半の追完請求権について,ちょっと概念の整理について,だれかお教えいただければと思うのですけれども,自分ができれば一番いいのですが。つまり,追完請求権というものの中に当然に代物請求権というものが含まれた形で今まで議論がされてきたと思うのですけれども,正に岡田委員が出されたような,自動車を引き渡したのだけれども,それが駄目なやつだった,そこでかわりをよこせというのは,私の理解では追完ではない場面ではないかという気がするのです。つまり,追完というのは,ある種の目的物なら目的物が給付されたり役務が提供されたりしたときに,それが不完全な履行である,しかしながら履行であると認められる状態にあるということが必要であって,そのときに何らか修補なり,例えば役務ですとさらなる役務の提供というものを行うことによって完全性をもたらすことが可能である場合である。にもかかわらず,解除して全くなしにしたり,あるいは全く新たな物をよこせというふうに言うことは認められない。こういった事情があって初めて追完というものについて考える意義があるのではないかと思うのです。ただし,追完請求としての代物請求権というのはどこにも書いてある話ですので,私の理解が根本的に誤っているのかもしれないと思いますので,どなたか私の蒙を晴らしていただければと思うのですけれども。

○潮見幹事 追完請求権の中には,不完全な履行があった場合の代物請求,新品と代えてくれという請求も含まれているものと私は理解しております。他の委員・幹事の方々で,もし違った印象があれば御指摘いただければと思いますが,従前,「追完請求権」という言葉を使うかどうかは別として,不完全履行があった場合の履行請求権の補完ないし追完ということが言われる場合には,新品との取り替え等も含んで理解されているものというように私自身は了解しているところです。その上で,どのような場合に追完請求権が具体的に出てくるのかとか,あるいは追完の内容を,・・・どちらの当事者に選択させるのかということが,追完請求権の限界事由を別とすれば,次の問題として重要な意味を持ってくるのではないでしょうか。

○道垣内幹事 代物請求権を追完請求権と言い換えることに何の法技術的な意味があるのでしょうか。新品をよこせというだけですよね。それを本来的な履行請求権と考えないで,追完請求権であるというふうに名付けることにどのような意味があるのですか。

○鎌田部会長 その点は,また本体を決めるときに,またこれは売買の瑕疵担保のところでも同じ議論が出てきますので,そこで中身は詰めていただくとして,今御指摘になったような問題点を含んでいるということで,第1クールとしては……。

○道垣内幹事 もちろん結構なのですが,最終的には,・・・追完権と追完請求権とは分離して議論できないということに尽きるのだと思います。別に言葉にこだわるつもりはありませんけれども,その指摘はしておきたいと思います。

○潮見幹事 1点だけ事務局にお願いがあります。今日余り議論がされなかった部分ですけれども,追完請求権の限界事由についてお願いがあります。今回の資料5−1,5−2についても追完請求権というものを履行請求権の延長線上のものとしてとらえたうえで,限界事由というものを位置づけているというように私は理解をさせていただきました。ただ,先ほど道垣内幹事が言われたことが実はこちらにも絡んでくるのかもしれませんけれども,追完請求がされた場合に債務者が行う追完の内容というものは,特に代物,新品の引渡しなども含めて考えた場合には,本来の履行とは違う内容というものがそこで求められ,債務者の義務内容となっていくわけです。そのようなときに,限界事由というものを履行請求権本来のものの限界事由と同じように考えてよいのだろうか。もちろん,先ほどのA案,B案で,社会通念あるいは契約の趣旨に照らした期待可能性のところで柔軟に解釈できるからそれでもよいということであれば,そのような形で説明をしていただければよいでしょうしですし,そうではないのだということであれば,それをお示しいただければと思います。この問題は,追完請求権を救済手段ととらえるという立場に立った場合には限らず,履行請求権の延長と考えた場合でもなお残ってくる問題ではないかと思うので,一言申し上げました。
  あわせて,限界事由については,もう一つ御考慮をしていただければありがたいという希望を持っているところがあります。それは,今回の整理では,A案をとりましてもB案をとりましても,債務者にとって追完の拒絶がより広く正当化されるのか,あるいは履行請求権の場合と同じようにとらえていいのかという,債務者側の観点から追完請求権の限界というものがとらえられております。こういう立場をとるというのも,私は一つの態度決定としてはあるのではないかと思いますが,他方,先ほど申し上げましたように,追完請求の内容は本来の履行と違う内容で出てまいります。また,仮に具体的な追完の内容というものが債権者の側の選択にゆだねられるような態度決定をするのであれば,債権者にとっても,まず追完請求をしなければいけないという,追完請求に対する拘束と言ったらいいのでしょうか,要するに,損害賠償ではなくて,まず追完請求をやってくださいというような形での拘束もかかるというところがあります。そして,債権者側の観点から追完の可否や追完請求権の限界というものを考えていくということであれば,履行請求権の限界とはちょっと違った観点から限界事由というものが策定される余地がないわけではない。もちろん,そのときには債務者の追完権というバックアップ・ツールが要りますけれども,こうした構成の可能性についても考えていただければよいのではないかと思います。恐らく「債権法改正の基本方針」のところでの追完請求権の限界のところのルール提案というものは後者のような意味ではなかったかと思いますので,そういう御意見もあるということは少しお含みおきをいただければということです。

○松本委員 何回か繰り返された今の潮見幹事の発言の,追完請求は本来の履行とは違うということの趣旨がちょっとぴんとこないのですが。すなわち,代物弁済を合意するということであれば本来の履行と違うけれども,債務は弁済によって消滅する,あるいは和解というのも本来の履行と違うという形での終結かもしれないけれども,私の理解だと,追完請求というのは,本来の債務を履行してくださいということの一環として行っているのであって,正に本来の履行,本旨の弁済を求める,債務の本旨に従った履行を求めるということだと思うのですが,潮見幹事の御趣旨はどういうことなのでしょうか。

○潮見幹事 先ほどの,新品を引き渡すだとか,あるいは,例えば不完全な履行がされた場合の修繕をどうするかといったような事柄が,当初,本来,契約が合意されたとおりに債務の内容が実現されておれば出てくる余地のなかったことですよね。新品や,代わりの物を求めるとか,あるいは本来考えられていなかったような修繕を求めるというような事柄が果たして本来の履行と同じと言えるかどうかということを私自身は疑問として思っているということです。もとより,考え方は,いろいろあろうと思います。

○鎌田部会長 第2クールに行く前に,瑕疵担保のところでもう一度この問題はやらざるを得ない問題ですので,それまでに少し事務当局の側でもより具体的な形での論点の整理をしておいていただいて,その段階でより一層突っ込んだ議論をしていただければと思います。

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