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大阪地裁第2民事部判決平成21年10月02日

【事案】

1.タクシー運転手である原告が,平成▲年▲月▲日,タクシーを運転中,横断歩道上で歩行者と接触した事故(以下「本件事故」という。)に関し,道路交通法(以下「道交法」という。)38条に違反して,歩行者の横断歩道の横断を妨害した(以下「本件違反行為」という。)として,道路交通法施行令(以下「道交法施行令」という。)の定める違反行為に付する点数(以下「違反点数」という。)2点が付されている(以下「本件点数付加」という。)ところ,本件違反行為の事実はなく,本件点数付加のため原告が個人タクシー事業の許可を受けられないと主張して,主位的に,抗告訴訟として,本件点数付加処分の取消しを求めるとともに,予備的に,行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)4条の公法上の当事者訴訟として,本件点数付加がないことの確認を求めた事案。

2.法令等の定め

(1) 横断歩行者等に対する妨害の禁止等について

ア.道交法38条1項は,車両等は,横断歩道又は自転車横断帯(以下「横断歩道等」という。)に接近する場合には,当該横断歩道等を通過する際に当該横断歩道等によりその進路の前方を横断しようとする歩行者又は自転車(以下「歩行者等」という。)がないことが明らかな場合を除き,当該横断歩道等の直前(道路標識等による停止線が設けられているときは,その停止線の直前)で停止することができるような速度で進行しなければならない,この場合において,横断歩道等によりその進路の前方を横断し,又は横断しようとする歩行者等があるときは,当該横断歩道等の直前で一時停止し,かつ,その通行を妨げないようにしなければならないと規定する。

イ.また,同条2項は,車両等は,横断歩道等又はその手前の直前で停止している車両等がある場合において,当該停止している車両等の側方を通過してその前方に出ようとするときは,その前方に出る前に一時停止しなければならないと規定する。

(2) 横断歩行者等妨害等に対する違反点数の付加について

ア.道交法及び道交法施行令は,道路交通法令の違反行為をした自動車等の運転者について,違反行為等にあらかじめ定められた一定の点数(違反点数)を付し,その累積点数に応じて免許の取消し又は効力の停止等の処分をする点数制度を取り入れている(道交法103条1項5号から8号まで,道交法施行令38条5項等)。

イ.道交法38条に違反する横断歩行者等妨害等の違反行為に付される違反点数は2点と定められている(道交法施行令別表第二の一,備考二の46)。

(3) タクシー事業の許可について

ア.道路運送法は,タクシー事業である一般乗用旅客自動車運送事業(同法3条1号ハ,道路運送法施行規則3条の2)の許可について規定しており,タクシー事業を経営しようとする者は,国土交通大臣の許可を受けなければならず(同法4条),上記許可を受けようとする者は,同法5条1項所定の申請書を国土交通大臣に提出し,同条2項所定の書類を添付しなければならないほか,国土交通大臣は,必要な書類の提出を求めることができるとされている(同法5条)。

イ.また,国土交通大臣は,一般旅客自動車運送事業の許可をしようとするときは,@当該事業の計画が輸送の安全を確保するため適切なものであること,A@のほか,当該事業の遂行上適切な計画を有するものであること,B当該事業を自ら適確に遂行するに足る能力を有するものであること,という基準に適合するかどうかを審査して,これをしなければならないとされている(同法6条)。

ウ.なお,タクシー事業の許可に関する国土交通大臣の許可権限は,地方運輸局長に委任されている(同法88条2項,道路運送法施行令1条1項1号)。

(4) 近畿運輸局長による審査基準の定め

ア.近畿運輸局長は,本件事故当時,個人タクシー事業の許可に係る審査基準として,「一般乗用旅客自動車運送事業(1人1車制個人タクシーに限る。)の許可,譲渡譲受認可及び相続認可申請に関する審査基準について」(平成14年近運旅二公示第3号,平成18年3月30日改正後のもの。以下「本件基準」という。)を定め,公示していた。

イ.本件基準においては,@申請日現在の年齢が65歳未満であること(以下「年齢基準」という。),A自動車の運転を専ら職業とした期間が10年以上であること(以下「運転経歴基準」という。),B申請日を含み申請日前3年間及び申請の処分日までに,道交法の違反による処分(同法の規定による反則金の納付を命ぜられた場合又は反則点を付せられた場合を含む(ただし,申請日以前の1年間において無事故無違反であって,申請日の1年前以前における道交法の違反が1回である者については,当該違反が反則点1点以下である場合(併せて反則金の納付を命ぜられた場合を含む。)又は当該違反により反則金の納付のみを命ぜられた場合に限り無事故無違反とみなして除外。)。)を受けていないこと(以下「法令遵守基準」という。)等の基準が定められていた。

3.前提となる事実等

(1) 原告の経歴等

ア.原告は,昭和▲年▲月▲日生まれで本件事故当時59歳,平成▲年▲月に65歳になるまで本件基準の年齢基準を満たしている男性であり,昭和44年2月7日付けで普通自動車免許を,昭和62年11月9日付けで普通自動車第2種免許を受け,平成10年10月15日からタクシー事業者に雇用され,タクシー運転者として勤務しており,平成20年10月15日からは,本件基準の運転経歴基準を満たしている。

イ.原告は,平成20年5月12日以前の3年間において,本件違反行為を除けば平成18年7月13日の携帯電話使用等(保持)により違反点数1点が付されただけであり,上記のみであれば本件基準の法令遵守基準を満たすことになる。

(2) 本件事故現場の状況

 本件事故現場である大阪市α×番3号先路上所在の横断歩道(以下「本件横断歩道」という。)は,別紙図面のとおり,幅2.3mの中央分離帯を挟み,幅各6mの東西方向に走る片側1車線の道路(以下「本件道路」という。)に設置された幅4mの横断歩道であり,信号機は設置されていない。
 本件道路のうち,東から西に向かう南側の車線(以下「南側車線」という。)は,本件横断歩道の先で左折して南に進行するのに対し,西から東に向かう北側の反対車線(以下「北側車線」という。)は,西から進行してきて本件横断歩道に直進するとともに,本件横断歩道の手前(西側)で右折し南に向かう南側車線に合流することができる構造になっている。
 南側車線は,本件横断歩道東側にあるβホテル1階のタクシー乗場から幹線道路に進行する道路となっており,また,本件横断歩道付近は,地下鉄γ駅とAγ駅を連絡する地域にあり,繁華街も近く,比較的人通りの多い場所である。

(3) 本件事故の概要

ア.原告は,平成▲年▲月▲日午前▲時▲分ころ,タクシー(以下「原告車両」という。)を運転し,βホテル1階タクシー乗場で乗客を乗せ,南側車線を走行して本件横断歩道にさしかかった際,本件横断歩道手前で一時停止することなく前方車両に続いて本件横断歩道に進入したところ,前方車両が停車したため本件横断歩道上に原告車両が停車することとなり,本件横断歩道を南から北に向かって通行してきた歩行者(以下「本件被害者」という。)が原告車両の左側前部に接触した(本件事故)。

イ.原告は,本件事故の際,本件違反行為があったとして,違反点数2点が付され(本件点数付加),自動車安全運転センター法29条1項4号に基づく原告の運転記録証明書にはその旨の記載がされている。

(4) 本件訴訟の提起等

 原告は,平成20年7月15日,本件点数付加処分の取消し(主位的請求)を求めて本件訴訟を提起し,その後,予備的請求を追加した。

【判旨】

1.本件点数付加の処分性の有無について

(1) 取消訴訟の対象となる行政処分とは,公権力の主体たる国又は地方公共団体が行う行為のうち,その行為によって,直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいう(最判昭和39年10月29日・民集18巻8号1809頁)。
 違反点数制度は,運転免許を受けた者が交通法規の違反行為をした場合において,当該行為を点数で評価し,その累積点数が所定の点数に達したときに,公安委員会において,それらの者に対して免許の効力の停止又は取消し(道交法103条1項,道交法施行令33条の2第1項)等をすることができる制度である。
 このように,違反点数が累積すると運転免許の取消しや効力停止等の結果がもたらされるとはいえ,個々の違反点数は,累積点数が所定の点数に達しない場合はもちろん,所定の点数に達した場合でも,それだけでは直ちに運転免許の効力等に影響を及ぼすものではなく,それを要件とする免許の効力の停止等の処分がされて初めて免許者の権利義務に具体的な影響が生じるものということができる。
 したがって,違反点数の付加は取消訴訟の対象たる行政処分には該当しないと解すべきである。

(2) これに対し,原告は,本件点数付加により,原告が申請を予定していた個人タクシー事業の許可について近畿運輸局長が定めた本件基準を満たさないことになり,個人タクシー事業の許可を受けられるという法律上の地位を侵害されたと主張する。
 しかしながら,道路運送法上,個人タクシー事業の許可権限は国土交通大臣から地方運輸局長に委任されているところ,上記許可に際しては同法6条所定の基準に適合するかどうかの審査をすることが求められているにとどまるのであって,本件基準も,近畿運輸局長において,同法の限度で認められた行政裁量の範囲内において,その許可権限を運用するに当たっての基準を具体化したものにすぎない。そうすると,違反点数を付加された者が個人タクシー事業の許可を得られないのは,地方運輸局長がそのような基準を定立しそれに依拠して道路運送法上認められた許可権限を行使していることによる事実上の結果にほかならないというべきであって,それが違反点数の付加自体からもたらされる法律上の効果というわけではない。

(3) したがって,本件点数付加処分の取消しを求める訴えは,不適法であり却下を免れない。

2.本件点数付加がないことの確認を求める利益の有無について

(1) 原告は,平成21年1月に個人タクシーの事業許可を取得するため近畿運輸局長に上記許可の申請を行うことを予定していたが,本件点数付加により法令遵守基準を満たさないこととなり,現在においても上記申請を行っていないことが認められる。
 ところで,本件点数付加が存在する限り,原告が法令遵守基準を満たさないことは明白であり,そうである以上,本件点数付加の後3年間は,原告の申請が許可されないことは明らかである(原告が本件点数付加が事実誤認であることを申請に際しいくら詳しく説明しても,近畿運輸局長は本件点数付加の適法性について判断し得る立場にはないから,その説明が受け入れられて事業許可が得られる可能性はほぼないと思われる。)。また,本件点数付加後の3年間でさらに点数が付加されたり,年齢制限にかかるなどして本件基準を満たさないこととなる場合も考えられ,原告は個人タクシー事業許可を受ける機会を永久に失うことにもなりかねない。
 また,前記1のとおり,違反点数の付加は抗告訴訟の対象となる行政処分には当たらないことから,本件点数付加の取消しを求めることはできないのであり,したがって,確認の訴えを認めるのでなければ,原告は,法令遵守基準を満たさないことを理由として申請却下処分がされることを承知の上で個人タクシー事業許可申請を行った上,その申請却下処分の取消しを求める訴えを提起し,その中で本件点数付加が違法であることをいわなければならない。しかし,却下されることを承知の上であえて申請を行わなければ本件点数付加の違法性を争えないとすることに合理性を見出すことは困難であり,迂遠でもある。しかも,事業許可の処分行政庁である近畿運輸局長は,本件点数付加に係る判断を行っておらず,その資料も有していないから,上記申請却下処分の取消訴訟においては,行訴法23条により大阪府公安委員会を参加させた上で本件点数付加の適法性を審理,判断しなければならないのであり,その訴訟の形式自体が紛争の実体に照らし必ずしも適切なものではなく,さらに,法令遵守基準は被告が主張するとおり道路運送法6条に関して近畿運輸局長が定めた審査基準にすぎず,法律上の処分要件とされているものではないから,本件点数付加が違法であることによって直ちに申請拒否処分が違法になるという保障もない。
 以上の点にかんがみれば,本件の事実関係のもとでは,端的に本件点数付加がないことの確認を求める訴えを認めることが,紛争の直接かつ抜本的な解決のため有効かつ適切ということができるのであって,予備的請求につき確認の利益を肯定することができると解するのが相当である。

(2) これに対し,被告は,確認の利益を認めるためには,行政の活動,作用等により重大な損害が生じるおそれがあり,かつ,その損害を避けるため他に適当な方法がないことが必要であるとした上,本件点数付加により個人タクシー事業許可が得られなかったとしてもそれは法律に基づく不利益ではなく重大な損害は生じていないし,近畿運輸局長が定めた本件基準の適否及び該当性について争えば足りるから,確認の利益がないと主張する。
 しかし,そもそも,違反点数の付加は処分の前段階としての内部的行為として位置づけられているものと解さざるを得ないものの,通常の行政処分と同様,行政庁の第一次的判断は明確に示されているのであるから,司法と行政の役割分担を考慮するに当たり,行政庁の第一次的判断が示されているとは限らない義務付けの訴えや差止めの訴えと平仄を合わせる必要は必ずしもなく,重大な損害等の厳格な訴訟要件は要しないというべきである。さらに,平成16年行訴法改正において,行政需要の増大と行政作用の多様化が進展する中で,取消訴訟などの抗告訴訟のみでは,国民の権利利益の実効的な救済を図ることが困難な場合が生じているとの認識の下,取消訴訟の対象となる行政の行為に限らず,国民と行政との間の多様な関係に応じて実効的な権利救済を図るため,確認訴訟の積極的な活用を意図して,行訴法4条に「公法上の法律関係に関する確認の訴え」を例示として付加挿入された趣旨も考慮すれば,実質的当事者訴訟としての確認訴訟における確認の利益をことさら制限的に解する必要はない。しかも,本件点数付加後3年間にわたり個人タクシーの事業許可が得られないという不利益は,社会通念上,重大な損害ということも可能であるし,却下されることを承知の上で申請を行わせ,その申請拒否処分を争わせることに合理性がなく,かつ迂遠であり,適当な方法でもないことは前述のとおりである。したがって,被告の上記主張は採用することができない。

(3) 以上によれば,本件訴訟において,本件点数付加がないことの確認を求める利益はあると認められる。

 

東京地裁民事第40部判決平成22年04月28日

【事案】

1.被告が高松市内で管理,運営する商業施設ビル内に俳優,タレントであるAの芸名や肖像等を利用したラーメン店を誘致して,その営業をさせたほか,上記商業施設の宣伝にAを利用したことがAに係るパブリシティ権を侵害するものであるとして,Aの所属する芸能プロダクション会社である原告が,被告に対し,不法行為による損害賠償請求として,575万5000円及びこれに対する不法行為の後である平成18年6月5日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案。

2.前提となる事実

(1) 当事者

ア.原告は,演劇,音楽のタレント養成及びマネージメント等を目的として平成18年12月5日に設立された株式会社(芸能プロダクション)である。

イ.被告は,不動産の維持管理及び運営業務等を目的とする株式会社であり,高松市サンポート2番1号に存在する「高松シンボルタワー」内の商業施設「マリタイムプラザ高松」(以下「本件施設」という。)を所有し,その運営をしている。

(2) 株式会社アップ・デイト(以下「アップ・デイト」という。なお,その代表者は,原告代表者と同一である。)は,平成5年8月28日,俳優,タレントであるAとの間で,次の内容(抜粋)の専属実演家契約(以下「本件専属実演家契約」という。)を締結した。

第1条(契約の目的)

 アップ・デイト及びAは,互いに対等独立の当事者として,相互の協力と業務の提携により,Aの実演家としての才能,資質及び技能の向上並びに業績,名声の増大を図り,ひいてはアップ・デイトの業績の増大を実現し,もって相互の利益の増進と発展に寄与するものとします。

第2条(専属的出演)

 Aは,本契約期間中,アップ・デイトの専属実演家として,専らアップ・デイトのためにのみ第4条に定める業務を行うものとします。

第3条(独占的許諾)

(1) Aは,第4条によりAが行う歌唱,演奏,演技その他の実演(以下「実演」という。)の録音,録画,放送,有線放送及び衛星放送(以下「録音・録画等」という。)並びにその一切の利用については,アップ・デイトに対してのみ独占的に許諾します。また,アップ・デイトが第三者にAの実演の録音・録画等及びその一切の利用を許諾することを承諾します。

(2) アップ・デイト及びAは,Aの氏名(芸名,通称等を含む。),写真,肖像,筆跡及び経歴等についての権利を共有するものとし,その処分や使用については,すべてアップ・デイトの判断と指示に基づいて行うものとします。

第4条(Aの業務)

 Aは,第1条の目的を達するため,本契約期間中,下記の各号に定める業務をアップ・デイトの指示に従って行うものとします。

   記

@ アップ・デイト又はアップ・デイトが指定する第三者が企画,制作あるいは販売する「CD,MD,ミュージック・テープ,レコード」等への実演

A アップ・デイト又はアップ・デイトが指定する第三者が企画,制作あるいは主催する「コンサート,イベント,催事,舞台」等への出演

B アップ・デイト又はアップ・デイトが指定する第三者が企画,制作する「テレビ,ラジオ,衛星放送,有線放送,CATV」等放送への出演

C アップ・デイト又はアップ・デイトが指定する第三者が企画,制作する「映画,ビデオ,レーザー・ディスク」等への出演

D アップ・デイト又はアップ・デイトが指定する第三者が企画,制作する「コマーシャル」への出演(Aの音声等の使用のみを目的とした出演,契約を含む。)

E アップ・デイト又はアップ・デイトが指定する第三者が企画編集する新聞,雑誌,書籍等出版物への掲載を目的とした「取材・撮影,会見」等への出演

F アップ・デイト又はアップ・デイトが指定する第三者のために行う「作詞・作曲,編曲,プロデュース」等の業務

G アップ・デイト又はアップ・デイトが指定する第三者のために行う執筆等の業務

H アップ・デイト又はアップ・デイトが指定する第三者が制作,販売するAの実演あるいはAの氏名(芸名,通称等を含む。),写真,肖像,ロゴ及び意匠等を用いた各種の商品の企画等に関する業務

I その他前各号の業務に付随する一切の業務

第5条(アップ・デイトの業務)

 アップ・デイトは,第1条の目的を達するため,本契約期間中,以下の業務をアップ・デイトの判断するところに従って行うものとします。

(1) Aに対し,前条各号の業務を提供するとともに,それらの業務の企画制作,企画調整,スケジュール調整,交渉,営業,プロモーション,出演契約管理等及びその他一切のマネジメント業務を行うこと

(2) 前条各号の業務を目的とした契約を第三者との間で締結するとともに,その対価を請求し,これを受領すること

第6条(権利の帰属)

 本契約の有効期間中に前2条の業務により制作された著作物,商品その他のものに関する著作権,商標権,意匠権,パブリシティ権,所有権その他一切の権利は,本契約又は第三者との契約に別段の定めのある場合を除き,すべてアップ・デイトに帰属するものとします。

第7条(対価の帰属)

 第3条に基づく許諾,処分及び使用並びに第4条と第5条に基づく出演,契約等により第三者から受領すべき対価(出演料,契約料,使用料,印税その他一切の対価)は,すべてアップ・デイトに帰属するものとします。

第8条(Aの肖像等の宣伝利用)

 アップ・デイト又はアップ・デイトが指定する第三者は,Aのプロモーションのために,Aの氏名(芸名,通称,愛称,親称等を含む。),肖像,写真,ロゴ,筆跡及び経歴等を自由に,かつ,無償で利用することができ,Aは,これら業務に積極的に協力するものとします。

第10条(契約の期間)

(1) 本契約の有効期間は,平成5年9月1日から平成7年8月31日までの満2か年間とします。

(2) アップ・デイト又はAが,前項の期間の満了する3か月前までに契約を更新しない旨の書面による通知をしないときは,本契約は自動的に期間満了の翌日から前項の期間と同一期間更新されるものとします。

(3) 本件専属実演家契約は,その後,更新されていたが,アップ・デイトは,平成15年3月1日以降,同契約に基づくAのマネジメント業務に係るすべての権利(判決注:同契約上の地位をいうものと解される。)を有限会社エターナル・ヨーク(以下「エターナル・ヨーク」という。なお,エターナル・ヨークの代表者は,原告代表者の当時の妻である。)に譲渡し,Aもこれに同意した。

(4)ア.被告は,平成17年7月9日,株式会社KNOS(以下「KNOS」という。)との間で,本件施設内の「高松拉麺築港」(高松ラーメンポート)に存在する店舗(ホール棟3階のうち,E306−2区画61.19u。以下「本件店舗」という。)について,以下の内容の定期建物賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)を締結した。

賃貸借期間   平成17年7月25日から1年間

使用目的   KNOSは,上記期間中,本件店舗を次の営業内容のためにのみ使用する。

名称   我聞

営業の種類   飲食

取扱品目   創作ラーメン

賃料   KNOSは,月額賃料として,売上総額(現金,クレジット,売掛,売上金管理規則に定める本件店舗における一切の売上げを指す。ただし,配送料,消費税,地方消費税等の預かり金は含まない。)の14%相当額を,それに賦課される消費税及び地方消費税相当額と合わせて被告に支払う。

売上預かり金   KNOSは,本件店舗における毎日の売上金及び預かり金の全額をレジスターに登録し,登録後の売上預かり金を毎日被告指定の方法により被告に引き渡し,預託するものとする。

賃料の支払方法   被告は,上記によりKNOSから預託を受けた売上預かり金を毎月15日及び末日に締め切り,15日締切分については当月末日,末日締切分については翌月15日に,被告が別途定める商業施設の売上金管理規則に従い,賃料,諸経費その他KNOSが支払うべき金額及びこれらに賦課される消費税等相当額をそれぞれ控除した金額をKNOSに支払って精算を行うものとする。

イ.KNOSは,平成17年7月30日,本件店舗内に「我聞」という名称のラーメン店を出店し,Aの肖像を広告に用いて,その営業をしていたが,平成18年6月4日,同店を閉店した。
 その間,Aは,平成17年12月31日に本件施設において開催された年末年始イベントに出演したほか,本件店舗にも複数回来店し,自ら麺を茹でたり,接客に当たるなどした。

(5) エターナル・ヨークは,平成18年12月18日,Aの実演家活動全般に関するマネジメント業務権(本件専属実演家契約によりアップ・デイトが取得した契約上の地位で,上記(3)のとおり,エターナル・ヨークがアップ・デイトから譲渡を受けたもの)のすべてを原告に移譲し,Aもこれに同意した。
 また,アップ・デイト,エターナル・ヨーク及び原告は,平成21年7月13日,アップ・デイト及びエターナル・ヨークがAとの専属実演家契約期間中に取得した,Aに係るパブリシティ権を含む独占的権利等を侵害されたことに基づく一切の債権(未確定のものを含む。)について,原告がこれを譲り受けることを合意した。

【判旨】

1.被告によるAに係るパブリシティ権侵害の成否について

(1) パブリシティ権について

 人は,その氏名,肖像等を自己の意思に反してみだりに使用されない人格的権利を有しており(最高裁昭和63年2月16日第三小法廷判決・民集42巻2号27頁最高裁昭和44年12月24日大法廷判決・刑集23巻12号1625頁参照),自己の氏名,肖像等を無断で商業目的の広告等に使用されないことについて,法的に保護されるべき人格的利益を排他的に有しているということができる。そして,芸能人やスポーツ選手等の著名人については,その氏名・肖像を,商品の広告に使用し,商品に付し,更に肖像自体を商品化するなどした場合には,著名人が社会的に著名な存在であって,また,あこがれの対象となっていることなどによる顧客吸引力を有することから,当該商品の売上げに結び付くなど,経済的利益・価値を生み出すことになるところ,このような経済的利益・価値もまた,人格権に由来する権利として,当該著名人が排他的に支配する権利(いわゆるパブリシティ権。以下「パブリシティ権」という。)であると解される。

(2) エターナル・ヨークの地位について

ア.本件専属実演家契約は,「第3条(独占的許諾)」として「(1) Aは,第4条によりAが行う歌唱,演奏,演技その他の実演(以下「実演」という。)の録音,録画,放送,有線放送及び衛星放送(以下「録音・録画等」という。)並びにその一切の利用については,アップ・デイトに対してのみ独占的に許諾します。また,アップ・デイトが第三者にAの実演の録音・録画等及びその一切の利用を許諾することを承諾します。(2) アップ・デイト及びAは,Aの氏名(芸名,通称等を含む。),写真,肖像,筆跡及び経歴等についての権利を共有するものとし,その処分や使用については,すべてアップ・デイトの判断と指示に基づいて行うものとします。」と規定しているが,上記(1)項の趣旨は,Aが実演家として行う実演に係る権利について,アップ・デイトに独占的に許諾したものであると解される。そうすると,続く(2)項において,氏名,写真,肖像等の「処分や使用については,すべてアップ・デイトの判断と指示に基づいて行う」とあるのは,(1)項の実演に関係する氏名,写真,肖像等の「処分や使用」について定めたものと解するのが相当である。また,「第6条(権利の帰属)」として,「本契約の有効期間中に前2条の業務により制作された著作物,商品その他のものに関する著作権,商標権,意匠権,パブリシティ権,所有権その他一切の権利は,本契約又は第三者との契約に別段の定めのある場合を除き,すべてアップ・デイトに帰属するものとします。」と規定しているが,上記「前2条」のうち「第4条(Aの業務)」としては,実演(@〜D)のほか,「『取材・撮影,会見』等への出演」(E),「『作詞・作曲,編曲,プロデュース』等の業務」(F),「執筆等の業務」(G),「Aの実演…氏名…,写真,肖像,ロゴ及び意匠等を用いた各種の商品の企画等に関する業務」(H)及び「その他前各号の業務(判決注:上記@〜Hの業務を指すものと解される。)に付随する一切の業務」(I)が規定され,「第5条(アップ・デイトの業務)」として,マネジメント業務等が規定されている。
 したがって,本件専属実演家契約の上記規定内容からすれば,Aがアップ・デイトに独占的に許諾した対象は,Aの実演に係る権利に関係するものであり,第6条によりアップ・デイトに帰属することとされる権利も,上記実演(@〜D)及び実演家であるAの活動に関係する上記E〜Iの業務に関するものをいう趣旨と解するのが相当というべきであり,実演家の活動とは直接の関係を有しない店舗の経営にまで及ぶものと解することはできない。

イ.アップ・デイトは,平成15年3月1日以降,本件専属実演家契約に基づくAのマネジメント業務に係る契約上の地位をエターナル・ヨークに譲渡し,Aもこれに同意したことが認められる。
 しかしながら,上記経緯によりエターナル・ヨークが取得したのは,本件専属実演家契約上のアップ・デイトの地位であるから,その内容は,上記アに説示したものにとどまり,エターナル・ヨークがAのパブリシティ権の帰属主体になったものということはできない。そして,エターナル・ヨークの取得した地位が上記のものにとどまる以上,本件専属実演家契約は,実演家の活動とは直接の関係を有しない店舗の経営にまで及ばないから,KNOSがAの芸名や肖像等を使用してラーメン店を経営したことが,エターナル・ヨークの上記契約上の地位ないし権利を侵害するものということはできない。

(3) Aの許諾について

 また,本件において,Aは,ラーメン店の経営に興味を持ったことから,ラーメン,餃子等を扱う飲食店を全国に展開させた経験を有するB(KNOSの代表者)と共同してラーメン店「我聞」を立ち上げ,自らを「店長」と称し,KNOSの取締役(平成17年12月14日から平成19年4月4日までは代表取締役)にも就任するなど,同店の経営に自ら関与してきたものであり,同店の宣伝,広告のためにAの氏名,肖像等を利用することについては,A自身がこれを許諾していたことが認められる。
 ところで,エターナル・ヨークは,上記(2)に説示したとおり,Aのパブリシティ権の主体ではなく,本件専属実演家契約上の地位を譲り受けたにすぎないから,仮に同契約の効力がラーメン店の経営に及ぶとしても,同契約の効力は第三者であるKNOSには及ばない。そうすると,KNOSがAの許諾を得て,Aの芸名や肖像等を使用してラーメン店「我聞」を経営することは,自由競争の範囲内の行為というべきであるから,これが不法行為を構成するというためには,KNOSの行為が自由競争の秩序を逸脱したような場合に限られるというべきである。
 しかるところ,本件全証拠によるも,KNOSに自由競争の秩序を逸脱した行為があったものと認めることはできない。

(4) 上記(2),(3)に検討したとおり,ラーメン店「我聞」におけるAの氏名,肖像等の使用は,エターナル・ヨークの前記契約上の地位ないし権利を侵害する不法行為を構成するということはできないから,被告が本件店舗にAの芸名,肖像等を使用したラーメン店「我聞」を誘致したとしても,これがエターナル・ヨークに対する不法行為に当たるとすることはできない。
 また,原告は,被告が高松拉麺築港(高松ラーメンポート)のウェブサイトや地元新聞(四国新聞)の記事(PR広告)にAの芸名,肖像を掲載したほか,本件施設内においてAに実演させるなど,本件施設の宣伝のためにも,エターナル・ヨークに無断でAの氏名,肖像を使用したとも主張する。しかしながら,原告が指摘する四国新聞の記事は,同新聞の記者がラーメン店「我聞」等に対する取材に基づき執筆したもので,経済ニュースとして経済欄に掲載されたものであるから,これをもって,被告によるPR広告であると認めることはできない。また,原告が証拠として提出するウェブサイト上の記事は,いずれも被告が作成したものとは認められないから,その記事にAの氏名や肖像等が使用されていたとしても,被告がAのパブリシティ権を侵害したものと認めることはできない。さらに,Aが本件施設内においてドラムの演奏や,調理,接客等の実演をしたことが認められるが,これらはいずれもKNOSの企画に基づきラーメン店「我聞」の宣伝,広告のために行われたものと認められ,被告が上記行為を行ったものと認めることはできない。
 その他,本件全証拠によるも,被告が自ら本件施設の宣伝,広告のためにAの氏名,肖像を利用した事実を認めることはできない。

2.よって,原告の請求は,その余の点について検討するまでもなく,理由がないから,これを棄却する。

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