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最高裁判所第三小法廷判決平成22年06月01日

【事案】

1.上告人との間で売買契約を締結して土地を買い受けた被上告人が,上告人に対し,上記土地の土壌に,それが土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるものとして上記売買契約締結後に法令に基づく規制の対象となったふっ素が基準値を超えて含まれていたことから,このことが民法570条にいう瑕疵に当たると主張して,瑕疵担保による損害賠償を求める事案。

2.事実関係の概要等

(1) 被上告人は,平成3年3月15日,上告人から,第1審判決別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)を買い受けた(以下,この契約を「本件売買契約」という。)。本件土地の土壌には,本件売買契約締結当時からふっ素が含まれていたが,その当時,土壌に含まれるふっ素については,法令に基づく規制の対象となっていなかったし,取引観念上も,ふっ素が土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるとは認識されておらず,被上告人の担当者もそのような認識を有していなかった。

(2) 平成13年3月28日,環境基本法16条1項に基づき,人の健康を保護し,及び生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準として定められた平成3年8月環境庁告示第46号(土壌の汚染に係る環境基準について)の改正により,土壌に含まれるふっ素についての環境基準が新たに告示された。
 平成15年2月15日,土壌汚染対策法及び土壌汚染対策法施行令が施行された。同法2条1項は,「特定有害物質」とは,鉛,砒素,トリクロロエチレンその他の物質(放射性物質を除く。)であって,それが土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるものとして政令で定めるものをいう旨を定めるところ,ふっ素及びその化合物は,同令1条21号において,同法2条1項に規定する特定有害物質と定められ,上記特定有害物質については,同法(平成21年法律第23号による改正前のもの)5条1項所定の環境省令で定める基準として,土壌汚染対策法施行規則(平成22年環境省令第1号による改正前のもの)18条,別表第2及び第3において,土壌に水を加えた場合に溶出する量に関する基準値(以下「溶出量基準値」という。)及び土壌に含まれる量に関する基準値(以下「含有量基準値」という。)が定められた。そして,土壌汚染対策法の施行に伴い,都民の健康と安全を確保する環境に関する条例(平成12年東京都条例第215号)115条2項に基づき,汚染土壌処理基準として定められた都民の健康と安全を確保する環境に関する条例施行規則(平成13年東京都規則第34号)56条及び別表第12が改正され,同条例2条12号に規定された有害物質であるふっ素及びその化合物に係る汚染土壌処理基準として上記と同一の溶出量基準値及び含有量基準値が定められた。

(3) 本件土地につき,上記条例117条2項に基づく土壌の汚染状況の調査が行われた結果,平成17年11月2日ころ,その土壌に上記の溶出量基準値及び含有量基準値のいずれをも超えるふっ素が含まれていることが判明した。

3.原審は,上記事実関係の下において,次のとおり判断して,被上告人の請求を一部認容した。
 居住その他の土地の通常の利用を目的として締結される売買契約の目的物である土地の土壌に,人の健康を損なう危険のある有害物質が上記の危険がないと認められる限度を超えて含まれていないことは,上記土地が通常備えるべき品質,性能に当たるというべきであるから,売買契約の目的物である土地の土壌に含まれていた物質が,売買契約締結当時の取引観念上は有害であると認識されていなかったが,その後,有害であると社会的に認識されたため,新たに法令に基づく規制の対象となった場合であっても,当該物質が上記の限度を超えて上記土地の土壌に含まれていたことは,民法570条にいう瑕疵に当たると解するのが相当である。したがって,本件土地の土壌にふっ素が上記の限度を超えて含まれていたことは,上記瑕疵に当たるというべきである。

【判旨】

1.原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 売買契約の当事者間において目的物がどのような品質・性能を有することが予定されていたかについては,売買契約締結当時の取引観念をしんしゃくして判断すべきところ,前記事実関係によれば,本件売買契約締結当時,取引観念上,ふっ素が土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるとは認識されておらず,被上告人の担当者もそのような認識を有していなかったのであり,ふっ素が,それが土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるなどの有害物質として,法令に基づく規制の対象となったのは,本件売買契約締結後であったというのである。そして,本件売買契約の当事者間において,本件土地が備えるべき属性として,その土壌に,ふっ素が含まれていないことや,本件売買契約締結当時に有害性が認識されていたか否かにかかわらず,人の健康に係る被害を生ずるおそれのある一切の物質が含まれていないことが,特に予定されていたとみるべき事情もうかがわれない。そうすると,本件売買契約締結当時の取引観念上,それが土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるとは認識されていなかったふっ素について,本件売買契約の当事者間において,それが人の健康を損なう限度を超えて本件土地の土壌に含まれていないことが予定されていたものとみることはできず,本件土地の土壌に溶出量基準値及び含有量基準値のいずれをも超えるふっ素が含まれていたとしても,そのことは,民法570条にいう瑕疵には当たらないというべきである。

2.以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして,被上告人の請求は理由がなく,これを棄却した第1審判決は正当であるから,被上告人の控訴を棄却すべきである。

 

最高裁判所第一小法廷判決平成22年06月03日

【事案】

1.第1審判決別紙物件目録記載の倉庫(以下「本件倉庫」という。)を所有し,その固定資産税等を納付してきた上告人が,昭和62年度から平成13年度までの各賦課決定の前提となる価格の決定には本件倉庫の評価を誤った違法があり,上記のような評価の誤りについて過失が認められると主張して,所定の不服申立手続を経ることなく,被上告人を相手に,国家賠償法1条1項に基づき,上記各年度に係る固定資産税等の過納金及び弁護士費用相当額の損害賠償等を求めている事案。

2.原審の判断

 国家賠償法に基づいて固定資産税等の過納金相当額を損害とする損害賠償請求を許容することは,当該固定資産に係る価格の決定又はこれを前提とする当該固定資産税等の賦課決定に無効事由がある場合は別として,実質的に,課税処分を取り消すことなく過納金の還付を請求することを認めたのと同一の効果を生じ,課税処分や登録価格の不服申立方法及び期間を制限してその早期確定を図った地方税法の趣旨を潜脱するばかりか,課税処分の公定力をも実質的に否定することになって妥当ではない。そして,評価基準別表第13の7の冷凍倉庫等に係る定めが一義的なものではないことなどに照らすと,本件各決定に無効とすべき程度の瑕疵はない。

【判旨】

 原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 国家賠償法1条1項は,「国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が,その職務を行うについて,故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは,国又は公共団体が,これを賠償する責に任ずる。」と定めており,地方公共団体の公権力の行使に当たる公務員が,個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときは,当該地方公共団体がこれを賠償する責任を負う。地方税法は,固定資産評価審査委員会に審査を申し出ることができる事項について不服がある固定資産税等の納税者は,同委員会に対する審査の申出及びその決定に対する取消しの訴えによってのみ争うことができる旨を規定するが,同規定は,固定資産課税台帳に登録された価格自体の修正を求める手続に関するものであって(435条1項参照),当該価格の決定が公務員の職務上の法的義務に違背してされた場合における国家賠償責任を否定する根拠となるものではない。
 原審は,国家賠償法に基づいて固定資産税等の過納金相当額に係る損害賠償請求を許容することは課税処分の公定力を実質的に否定することになり妥当ではないともいうが,行政処分が違法であることを理由として国家賠償請求をするについては,あらかじめ当該行政処分について取消し又は無効確認の判決を得なければならないものではない(最高裁昭和35年(オ)第248号同36年4月21日第二小法廷判決・民集15巻4号850頁参照)。このことは,当該行政処分が金銭を納付させることを直接の目的としており,その違法を理由とする国家賠償請求を認容したとすれば,結果的に当該行政処分を取り消した場合と同様の経済的効果が得られるという場合であっても異ならないというべきである。
 そして,他に,違法な固定資産の価格の決定等によって損害を受けた納税者が国家賠償請求を行うことを否定する根拠となる規定等は見いだし難い。
 したがって,たとい固定資産の価格の決定及びこれに基づく固定資産税等の賦課決定に無効事由が認められない場合であっても,公務員が納税者に対する職務上の法的義務に違背して当該固定資産の価格ないし固定資産税等の税額を過大に決定したときは,これによって損害を被った当該納税者は,地方税法432条1項本文に基づく審査の申出及び同法434条1項に基づく取消訴訟等の手続を経るまでもなく,国家賠償請求を行い得るものと解すべきである。

【宮川光治補足意見】

 行政救済制度としては,違法な行政行為の効力を争いその取消し等を求めるものとして行政上の不服申立手続及び抗告訴訟があり,違法な公権力の行使の結果生じた損害をてん補するものとして国家賠償法1条1項による国家賠償請求がある。両者はその目的・要件・効果を異にしており,別個独立の手段として,あいまって行政救済を完全なものとしていると理解することができる。後者は,憲法17条を淵源とする制度であって歴史的意義を有し,被害者を実効的に救済する機能のみならず制裁的機能及び将来の違法行為を抑止するという機能を有している。このように公務員の不法行為について国又は公共団体が損害賠償責任を負うという憲法上の原則及び国家賠償請求が果たすべき機能をも考えると,違法な行政処分により被った損害について国家賠償請求をするに際しては,あらかじめ当該行政処分についての取消し又は無効確認の判決を得なければならないものではないというべきである。この理は,金銭の徴収や給付を目的とする行政処分についても同じであって,これらについてのみ,法律関係を早期に安定させる利益を優先させなければならないという理由はない。原審は,前記のとおり,固定資産税等の賦課決定のような行政処分については,過納金相当額を損害とする国家賠償請求を許容すると,実質的に課税処分の取消訴訟と同一の効果を生じさせることとなって,課税処分等の不服申立方法・期間を制限した趣旨を潜脱することになり,課税処分の公定力をも否定することになる等として,課税処分に無効原因がない場合は,それが適法に取り消されない限り,国家賠償請求をすることは許されないとしている。しかしながら,効果を同じくするのは課税処分が金銭の徴収を目的とする行政処分であるからにすぎず,課税処分の公定力と整合させるために法律上の根拠なくそのように異なった取扱いをすることは,相当でないと思われる。

【金築誠志補足意見要旨】

1.行政処分が違法であることを理由とする取消訴訟と,違法な行政処分により損害を受けたことを理由とする国家賠償訴訟とでは,制度の趣旨・目的を異にし,公定力も処分要件の存否までは及ばないから,一般的には,取消判決を経なければ国家賠償訴訟を提起できないとか,取消訴訟の出訴期間を徒過したときはもはや国家賠償請求はできないなどと解すべき理由はない。しかし,課税処分のように,行政目的が専ら金銭の徴収に係り,その違法を理由とする取消訴訟と国家賠償訴訟の勝訴判決の効果が実質的に変わらない行政処分については,取消しを経ないで課税額を損害とする国家賠償請求を認めると,不服申立前置の意義が失われるおそれがあるばかりでなく,国家賠償訴訟を提起することができる間は実質的に取消訴訟を提起することができるのと同様になって,取消訴訟の出訴期間を定めた意味がなくなってしまうのではないかという問題点があることは否定できない。
 このうち不服申立前置との関係については,固定資産の価格評価は,法的な側面,経済的な側面,技術的な側面等,専門的判断を要する部分が多く,専門的・中立的機関によって審査するにふさわしい事柄であり,また,大量の同種処分が行われるものであるから,固定資産評価審査委員会の審査に強い効力を与えて,その早期確定を図ることは合理的と考えられ,国家賠償訴訟によって同委員会の審査が潜脱されてしまうのは不当であるように見える。しかし,こうした問題は,取消訴訟に前置される他の不服申立てに係る審査機関にも多かれ少なかれ共通するものであり,同委員会を特に他の不服申立てに係る審査機関と区別するだけの理由はないし,固定資産課税台帳に登録された価格の修正を求める手続限りの不服申立前置であっても制度的意義を失うものではないから,不服申立てを経ない国家賠償請求を否定する十分な理由になるとはいえない。特に,賦課課税方式を採用する固定資産税等の場合,申告納税方式と異なり,納税者にとってその税額計算の基礎となる登録価格の評価が過大であるか否かは直ちには判明しない場合も多いと考えられるところ,前記のとおり,審査の申出は比較的短期間の間に行わなければならないものとされているため,上記期間の経過後は国家賠償訴訟による損害の回復も求め得ないというのでは,納税者にとっていささか酷というべきである。

2.取消しを経ないで課税額を損害とする国家賠償請求を認めると,取消訴訟の出訴期間を延長したのと同様の結果になるかどうかは,取消しと国家賠償との間で,認容される要件に実質的な差異があるかどうかの問題である。

(1) まず,国家賠償においては,取消しと異なり故意過失が要求され,また,その違法性判断について当裁判所の判例(最高裁平成元年(オ)第930号,第1093号同5年3月11日第一小法廷判決・民集47巻4号2863頁等)はいわゆる職務行為基準説を採っているから,この点でも要件に差異があることになる。
 もっとも,こうした要件上の差異が,実際上どの程度の結果の違いをもたらし得るかについては,見方の分かれるところかもしれない。しかし,取消しが認められても国家賠償は認められない場合があり得るということだけは,間違いなくいい得る。

(2) 固定資産税の課税物件は膨大な数に上り,その調査資料を長期にわたって保存しておくことが困難な場合もあるのではないかと思われるので,課税処分から長期間が経過しても国家賠償請求ができるとした場合,立証責任の問題は,より重要かもしれない。
 課税処分の取消訴訟においては,原則的に,課税要件を充足する事実を課税主体側で立証する責任があると解すべきである。・・・これに対し,国家賠償訴訟においては,違法性を積極的に根拠付ける事実については請求者側に立証責任がある。・・・立証責任について,課税処分一般におおむねこうした分配振りになるとすれば,課税処分から長期間が経過した後に国家賠償訴訟が提起されたとしても,課税主体側が立証上困難な立場に置かれるという事態は生じないと思われる。

3.以上のとおり,取消しを経ないで課税額を損害とする国家賠償請求を認めたとしても,不服申立前置の意義が失われるものではなく,取消訴訟の出訴期間を定めた意義が没却されてしまうという事態にもならないものと考える。

 

最高裁判所第二小法廷判決平成22年06月04日

【事案】

1.上告人が販売会社から購入した原判決別紙物件目録記載の自動車(以下「本件自動車」という。)の代金を立替払した被上告人が,その後,上告人が小規模個人再生による再生手続開始の決定を受けたことから,本件自動車について留保した所有権に基づき,別除権の行使としてその引渡しを求める事案。上告人は,本件自動車の所有者として登録されているのは販売会社であり,被上告人は,本件自動車について留保した所有権につき登録を得ていないから,上記別除権の行使は許されないとして争っている。

2.事実関係の概要

(1) 上告人,販売会社及び被上告人は,平成18年3月29日,三者間において,上告人が,販売会社から本件自動車を買い受けるとともに,売買代金から下取車の価格を控除した残額(以下「本件残代金」という。)を自己に代わって販売会社に立替払することを被上告人に委託すること,本件自動車の所有権が上告人に対する債権の担保を目的として留保されることなどを内容とする契約(以下「本件三者契約」という。)を締結し,同契約において,要旨次のとおり合意した。

ア.上告人は,被上告人に対し,本件残代金相当額に手数料額を加算した金員を分割して支払う(以下,この支払債務を「本件立替金等債務」といい,これに対応する債権を「本件立替金等債権」という。)。

イ.上告人は,本件自動車の登録名義のいかんを問わず(登録名義が販売会社となっている場合を含む。),販売会社に留保されている本件自動車の所有権が,被上告人が販売会社に本件残代金を立替払することにより被上告人に移転し,上告人が本件立替金等債務を完済するまで被上告人に留保されることを承諾する。

ウ.上告人は,支払を停止したときは,本件立替金等債務について期限の利益を失う。

エ.上告人は,期限の利益を失ったときは,被上告人に対する債務の支払のため,直ちに本件自動車を被上告人に引き渡す。

オ.被上告人は,上記エにより引渡しを受けた本件自動車について,その評価額をもって,本件立替金等債務に充当することができる。

(2) 本件自動車について,平成18年3月31日,所有者を販売会社,使用者を上告人とする新規登録がされた。

(3) 被上告人は,平成18年4月14日,販売会社に対し,本件三者契約に基づき,本件残代金を立替払した。

(4) 上告人は,平成18年12月25日,本件立替金等債務について支払を停止し期限の利益を喪失した。

(5) 上告人は,平成19年5月23日,小規模個人再生による再生手続開始の決定を受けた。

3.原審は,次のとおり判断して,被上告人の請求を認容した。
 被上告人が販売会社に立替払することにより,弁済による代位が生ずる結果,販売会社が本件残代金債権を担保するために留保していた所有権は,販売会社の上告人に対する本件残代金債権と共に法律上当然に被上告人に移転するのであり,本件三者契約はそのことを確認したものであって,被上告人が立替払によって取得した上記の留保所有権を主張するについては,販売会社において対抗要件を具備している以上,自らの取得について対抗要件を具備することを要しないというべきである。

【判旨】

1.原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 前記事実関係によれば,本件三者契約は,販売会社において留保していた所有権が代位により被上告人に移転することを確認したものではなく,被上告人が,本件立替金等債権を担保するために,販売会社から本件自動車の所有権の移転を受け,これを留保することを合意したものと解するのが相当であり,被上告人が別除権として行使し得るのは,本件立替金等債権を担保するために留保された上記所有権であると解すべきである。すなわち,被上告人は,本件三者契約により,上告人に対して本件残代金相当額にとどまらず手数料額をも含む本件立替金等債権を取得するところ,同契約においては,本件立替金等債務が完済されるまで本件自動車の所有権が被上告人に留保されることや,上告人が本件立替金等債務につき期限の利益を失い,本件自動車を被上告人に引き渡したときは,被上告人は,その評価額をもって,本件立替金等債務に充当することが合意されているのであって,被上告人が販売会社から移転を受けて留保する所有権が,本件立替金等債権を担保するためのものであることは明らかである。立替払の結果,販売会社が留保していた所有権が代位により被上告人に移転するというのみでは,本件残代金相当額の限度で債権が担保されるにすぎないことになり,本件三者契約における当事者の合理的意思に反するものといわざるを得ない。
 そして,再生手続が開始した場合において再生債務者の財産について特定の担保権を有する者の別除権の行使が認められるためには,個別の権利行使が禁止される一般債権者と再生手続によらないで別除権を行使することができる債権者との衡平を図るなどの趣旨から,原則として再生手続開始の時点で当該特定の担保権につき登記,登録等を具備している必要があるのであって(民事再生法45条参照),本件自動車につき,再生手続開始の時点で被上告人を所有者とする登録がされていない限り,販売会社を所有者とする登録がされていても,被上告人が,本件立替金等債権を担保するために本件三者契約に基づき留保した所有権を別除権として行使することは許されない。

2.以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,被上告人の請求は理由がなく,これを棄却した第1審判決は結論において是認することができるから,被上告人の控訴を棄却することとする。

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