平成22年度旧司法試験論文式
商法第2問の感想と参考答案

【問題】

 A株式会社は,平成16年12月20日,貸金業者であるXから,事業資金として3000万円を借り受けた。その際,A社とXとの間では,@A社は,Xに対し,毎月1パーセントの利息を支払うこと,AXは,A社に対し,約定どおり利息の支払がされる限り,元金の返済を猶予するが,利息の支払を怠ったときは,A社は,Xに対し,直ちに元金全額を返済しなければならないこと,B貸付金の返済を確保するため,A社は,手形金額を3000万円とし,振出日と満期を白地とした約束手形(以下「本件手形」という。)を振り出すことが合意された。また,A社の代表取締役Bは,Xから,A社の取締役Yが手形の支払を保証するよう求められたため,受取人をYとする本件手形を振り出し,Yが拒絶証書の作成を免除して白地式裏書をした本件手形をXに交付した。なお,事業資金の借入れについては,A社の取締役会の決定がされていたが,本件手形の振出しについては,A社の取締役会の承認は受けていなかった。
 その後,A社は,利息を合意に従ってXに支払ってきたが,平成19年5月ごろから資金繰りが悪化してきて,同年8月以降,利息を支払うことができなくなった。
 Xは,平成22年4月9日に至り,本件手形の振出日を同月1日,満期を同年5月10日と補充して,当該満期に支払のため提示したが,支払を拒絶されたので,Yに対して手形金の支払を請求した。Yは,Xの請求を拒むことができるか。

基本的な問題

昨年に引き続いて、今年も手形が出た。
昨年度は、半分商行為、半分手形という感じだった。
今年度は、半分会社法、半分手形という感じだ。
また、手形が偽造され、盗取され、転々流通する等の複雑な事例ではない、という点も共通している。
単純に論点を一つ一つ検討していけばよい。
論点自体も、それほど難しくない。
全体として基本的な問題だったということができる。

書くべき論点は、手形行為の利益相反取引該当性及びその例外。
白地手形該当性と補充権の消滅時効期間及び起算点である。
多額の借財については、書くかどうか悩む。
事業資金の借入れについては、取締役会の決定があったとされている。
これは、多額の借財は書かなくていいという意味に読めなくはない。
また、A社の事業規模等が何ら問題文にないし、金額も3000万円である。
多額の借財は、過去に本試験で何度か出題されている。
その場合には、事業規模等が明示されたり、金額が億単位であった。

(昭和63年度旧司法試験論文式商法第1問、下線は筆者)

 甲株式会社の資本総額は200億円であり、甲会社の内規によれば、10億円以上の借入れには取締役会の決議が必要である。甲会社の代表取締役Aが、甲会社の名において乙銀行と次の取引をしたとき、それぞれの取引の効力はどうなるか。

(1)Aは、取締役会の決議を経ることなく、20億円を借り入れた。

(2)Aは、自己の住宅購入資金にあてるため、2億円を借り入れた。

 

(平成15年度旧司法試験論文式商法第1問、下線は筆者)

 次の各事例において,商法上,A株式会社の取締役会の決議が必要か。ただし,A会社は,株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律上の大会社又はみなし大会社ではないものとする。

1.A会社の代表取締役BがC株式会社の監査役を兼任する場合において,A会社が,C会社のD銀行に対する10億円の借入金債務について,D銀行との間で保証契約を締結するとき。

2.A会社の取締役EがF株式会社の発行済株式総数の70パーセントを保有している場合において,A会社が,F会社のG銀行に対する1000万円の借入金債務について,G銀行との間で保証契約を締結するとき。

3.ホテルを経営するA会社の取締役Hが,ホテルの経営と不動産事業とを行うI株式会社の代表取締役に就任して,その不動産事業部門の取引のみを担当する場合。

(出題趣旨)
 本問は,株式会社の行う取引又は取締役の行為について,取締役会の決議を要求する商法規定の適用範囲に関する問題である。具体的には,事例として挙げられている取引・行為が,多額の借財その他の重要な業務執行(商法第260条第2項),取締役・会社間の利益相反取引(同法第265条)又は取締役の競業取引(同法第264条)に該当するか否かについて,各規定の趣旨,適用対象に関する判例・学説の状況を理解した上で,整合的に論述することが求められる。

 

(平成20年度新司法試験論文式民事系第2問より抜粋、下線は筆者)

 平成19年1月,Aが甲社を代表して丙銀行との間で30億円の融資契約(金銭消費貸借契約)を締結するとともに,Bが乙社を代表して丙銀行との間でこの甲社の債務についての保証契約を締結し,丙銀行の甲社の口座に30億円が入金された。これにより,Eは,甲社の自己資金50億円と合わせて合計80億円の運用を任されることになった。

(出題趣旨より抜粋、下線は筆者)

 保証契約の効力については,甲社が丙銀行との間で締結した金銭消費貸借契約と, これを主たる債務として乙社が丙銀行との間で締結した保証契約は,いずれも, 「多額の借財」(会社法第362条第4項第2号)に当たるものとして,それぞれの会社の取締役会の承認を受けなければならないものと考えられるが,本件では,いずれについても,取締役会の承認を受けていないため,その効力が問題となる。

従って、本問では、少なくともメイン論点ではない。
そう判断してよさそうにみえる。
しかし、理論的には、多額の借財に該当する余地は十分ある。
利益相反の論理は、多額の借財にも同様に当てはまる。
すなわち、手形振出しは、借入れ自体とは別個の厳格な債務を負うのだ。
従って、借入れとは別に、手形振出しにつき再度取締役会が決定すべきだ、という論理である。
こう解すると、手形振出しは原因債務の負担行為とは独立して多額の借財に該当する。
また、3000万円であっても、A社の事業規模等によっては、多額と認定される余地はあるだろう。
だとすれば、一応書いておいた方がいいかという感じもする。
後は、実戦的な感覚である。
現場でこれを書く受験生は、それなりにいるだろう。
また、本問は他に書くべき論点も少ない。
ならば、書いてもいいではないか。
そういうことで、結論的には書いた方が無難と思われる。

手形行為と利益相反取引については、最大判昭46・10・13がある。

(最大判昭46・10・13より引用、下線及び※注は筆者)

 およそ、約束手形の振出は、単に売買、消費貸借等の実質的取引の決済手段としてのみ行なわれるものではなく、簡易かつ有効な信用授受の手段としても行なわれ、また、約束手形の振出人は、その手形の振出により、原因関係におけるとは別個の新たな債務を負担し、しかも、その債務は、挙証責任の加重、抗弁の切断、不渡処分の危険等を伴うことにより、原因関係上の債務よりもいつそう厳格な支払義務であるから、会社がその取締役に宛てて約束手形を振り出す行為は、原則として、商法二六五条(※現在の会社法356条)にいわゆる取引にあたり、会社はこれにつき取締役会の承認を受けることを要するものと解するのが相当である。

(引用終わり)

ほとんどの人が、この判例の立場(肯定説)で書いたと思われる。
ただ、上記判例に付された意見(否定説)の立場も、それなりに筋が通っている。

(岩田誠、村上朝一、関根小郷、藤林益三、岡原昌男意見より引用、下線は筆者)

 商法二六五条の法意は、取締役個人と株式会社との利害が相反する場合において、取締役個人に利益で、会社に不利益な行為が濫りに行なわれることを防止しようとするものである。ところで、約束手形の振出は、売買、消費貸借等の取引の決済または信用授受などの原因関係の手段としてなされる行為であり、それ自体としては、原因関係と独立して、取締役個人に新たな利益を与え会社に新たな不利益をもたらす行為であるとは、いえない。たとえば、金銭債務の履行が金銭の支払いでされる場合に、その支払い自体が債権者に新たな利益を与え債務者に新たな不利益をもたらす行為であるといえないことは、いうまでもなく、しかも、右金銭の支払いのためもしくはその支払いにかえて約束手形が振り出された場合、または信用授受を原因としていわゆる融通約束手形が振り出された場合に、右振出により振出人が厳格な手形上の債務を負担するに至るとしても、原因関係上の債務が金銭の支払いをもつてされるとき以上に、約束手形の振出自体が債権者に利益で債務者に不利益なものとなるとはいいがたいからである。
 したがつて、約束手形の振出は、金銭の支払いと同様、同条のいわゆる取引に包含されるべきものではなく(民法一〇八条但書参照。)、右両者の原因関係が右取引に該当する場合には、その原因関係について取締役会の承認を得れば足りるわけである。もし、これに反し、約束手形の振出自体が同条のいわゆる取引に該当すると解するならば、つぎのような不合理な結果を招くこととなろう。

一、原因関係が右取引に該当しない場合、たとえば、株式会社が取締役から無利息で金員を借り受けた場合に、その返済債務の履行として株式会社が取締役に対し約束手形を振り出すときにも、取締役会の承認を要することとなる。

二、原因関係が右取引に該当する場合、たとえば、株式会社が取締役から不動産を買い受けた場合に、右売買につき取締役会の承認を得たときでも、その代金の支払いのため株式会社が取締役に対し約束手形を振り出すときには、さらに、取締役会の承認を要することとなる。

三、小切手の振出も法律上は手形の振出と本質において異なるところはないのであるから、株式会社が取締役に対し小切手を振り出すときにも、取締役会の承認を要することとなる。

 それゆえ、約束手形の振出が商法二六五条のいわゆる取引に該当することとした当裁判所の見解(昭和三五年(オ)第一一三九号同三八年三月一四日第一小法廷判決、民集一七巻二号三三五頁等)は、これを変更すべきである。

(引用終わり)

この立場からは、本問の場合は、「一 原因関係が右取引に該当しない場合」ということになる。
すなわち、XはA社の取締役でないから、原因関係である事業資金の貸付け自体は利益相反取引でない。
(事業資金借入れに係る取締役会の決定は、利益相反取引の承認とは無関係である。)
それなのに、その決済(及び保証)のために手形を振り出す行為が利益相反に該当するのは不合理だ。
従って、本問の場合も利益相反に当たらないということで何の問題もない。
これはこれで、理論的に一貫している。

他方、多くの人が採る肯定説による場合、この点をどう考えるかである。
上記判例における松本正雄意見は、次のようにいう。

(松本正雄意見より引用、下線は筆者)

 多数意見が「会社がその取締役に宛てて約束手形を振り出す行為は、原則として、商法二六五条にいわゆる取引にあたり、会社はこれにつき取締役会の承認を受けることを要するものと解するのが相当である。」とする見解には賛成である。
 右見解に対して岩田、村上、関根、藤林、岡原各裁判官は、「約束手形の振出は、金銭の支払いと同様、同条のいわゆる取引に包含されるべきものではなく(民法一〇八条但書参照)。右両者の原因関係について取締役会の承認を得れば足りるわけである。」として反対の意見を表明されている。
 しかし、わたくしは、右の各裁判官の意見には反対である。
 商法二六五条は、「自己又は第三者の為に会社と取引を為すには取締役会の承認を受くることを要す」と規定しているが、取締役会の承認の対象となる右の「取引」は多種多様である。ここでは手形と最も深い関係にある売買、消費貸借、信用の供与等を例として検討して見よう。
 売買、消費貸借についていえば、「取引」の内容、契約条件等について取締役会に具体的に示されたものが、すべて、承認の対象になるのであるから、代金の支払方法(例えば、現金、手形、月賦、年賦等)、金銭その他の物を受け取つたものの返還方法(例えば、利息、時期等)等についても承認を得なければならない。例えば、会社が取締役個人から土地を買う場合には、その土地の価額、代金の支払方法等が問題となり、会社が取締役個人から金を借りる場合、あるいは、逆に会社が取締役個人に金を貸す場合には、担保、金利等が重要な問題になるとともに、その返還の時期、方法等も、また、問題となるからである。したがつて、約束手形振出の方法によつて支払がなされ、あるいは、返還がなされる場合には、これらは取引の内容をなすものとして取締役会の承認を受けなければならないことは当然である。
 このようにして、会社が取締役に宛てて約束手形を振り出す場合について取締役会の承認を受けていたときに、それ以後の日において、現実に会社から手形が振り出される際に、重ねて承認を必要としないことはいうまでもない。また、現金で支払うことが承認されている場合に、その後になつて現金または小切手で支払われる際に改めて承認を受けることも必要ではない。けだし、支払なり、返還なりについて既に承認を受けているからである。しかしながら、現金でなすべき支払が承認されている場合に、これを約束手形で支払うことに改める場合は、このときは相手方が承知しないことが多いであろうが、もし、相手方が承知したとしても、手形が信用証券である特質に鑑みれば、このことが常に会社にとつて有利だとはいい難く、取引の内容が変更されたものとして取締役会の承認を受けるべきだと思う。
 わたくしは、前述のような見地から、前記各裁判官が「約束手形の振出自体が同条の取引に該当するならば、つぎのような不合理な結果を招くこととなろう」として、例示して指摘せられる諸点を検討すると、それは全く当らないと考える。すなわち、例示一は、もともと、商法二六五条の取引に該当しない場合であつて、これに関連する債務の履行のための約束手形の振出についても同条の取締役会の承認が不要の場合である(多数意見も「原則として」承認を受けることを要するといつているにすぎない。)。次に例示二について述べる。前叙のように、代金の支払条件は取締役会の承認を受けるべき取引の内客たる事項であるから、約束手形による支払は、明示または黙示の承認の対象となつており、既に承認ずみの約束手形の振出について現実に発行の際、改めて承認の必要はないことはいうまでもない。現金払の承認を約束手形による支払に変更するときは、改めて承認を要すると解すべきことは前述のとおりである。例示三について述べられる点も全然問題になる余地がない。すなわち、小切手は手形とちがつて支払証券であり、小切手振出の経済的作用は現金の支払とほとんど同視せられるものであるから、取締役に対して現金での支出が取締役会において予め承認せられている場合に、小切手の振出について改めて承認を必要としないことは当然のことなのである。

(引用終わり)

上記松本意見のいう例外として、最判昭39・1・28がある。

(最判昭39・1・28より引用、下線は筆者)

 被上告人とD耐火との間の右手形行為は、取締役と会社との間の取引に該当し、商法二六五条により取締役会の承認を得なければならぬに拘らず、被上告人はその承認を得なかつたから無効である旨主張するが、商法二六五条は取締役が会社と取引をする場合、会社利益の犠牲において私利を営もうとするのを防止して会社の利益を保護しようとの目的に出た規定であると解されるところ、原判決によれば、被上告人は右取引の際手形額面と同額の現金を融資してこれを会社に手渡したというのであるから、被上告人は右取引によつて少しの利得をもしていないばかりでなく、会社もまたそれによつてなんらの犠牲をも払つていないことが明らかである。
 このような事実関係の下では、被上告人と右会社との間の右取引には、なんらの弊害をもみられないから、右取引は商法二六五条にいう取引には該当しないものと解するのが相当である。したがつて、たとえこれにつき取締役会の承認を得なかつたとしても、直ちに以て無効とすべきではない。

(引用終わり)

要は、実質的な利害対立がない場合は例外でよい、ということである。
そうすると、本問ではYはA社を保証する趣旨で受取人・第1裏書人となった。
いわゆる隠れた手形保証である。
だとすれば、A社の利益になっても、A社の犠牲が生じるということはない。
むしろ、犠牲になっているのは、Yの方である。
従って、本問の場合も、例外ということでよい、ということになる。
これは、現場でも比較的容易に気付くことができたのではないか。
逆に言えば、ここまできちんと触れていないと、上位にはなりにくい。

なお、上記のような議論をする以前に、Yの利益相反の主張自体が失当ではないか。
そう思った人も、いたかもしれない。
その人は、正しい。
利益相反取引の無効主張は、会社しかできないと解されているからである。

最判昭48・12・11より引用、下線は筆者)

 商法二六五条が株式会社と取締役個人との間の取引について取締役会の承認を受けることを必要とするものと定めた趣旨は、会社と取締役との間で利害の対立する取引について、取締役が会社の利益の犠牲において私利をはかることを防止し、会社の利益を保護することを目的とするものであるから、同条の右趣旨からすると、会社が取締役個人に対して貸し付けた金員の返還を求めた場合に、取締役が同条違反を理由としてみずからその貸付の無効を主張することは、許されないものと解するのが相当である。

(引用終わり)

 

知財高判平22・2・25より引用、下線は筆者)

 取締役と会社間の利益相反取引に取締役会の承認を必要とする趣旨は,会社の利益保護を図ることにあるから,会社が同取引の無効を主張しない場合は,取締役会の承認を経ていないことを理由として第三者がその無効を主張することはできないというべきである。

(引用終わり)

従って、本問では利益相反に該当するかを論ずるまでもなく、Yは利益相反を主張して請求を拒むことはできない。
敢えて利益相反該当性を論じるのは、余事記載ということすらできそうである。
しかし、だからといって、利益相反該当性を書かない、という選択肢はない。
問題文から、明らかにその点を訊いているとわかるからである。
利益相反該当性を落とせば、単純に論点落ちとして処理されてしまうだろう。
この辺りは、受験テクニックということになる。

多額の借財は、前述のように、一応書く、という感じだ。
だから、できるだけコンパクトに書きたい。
手形振出しが借財に当たるかは、利益相反の論証を流用して短く収めればよい。
もっとも、その後の処理が厄介である。
通常は、民法93条ただし書類推で処理する。
ただ、手形の場合には軽過失を保護すべきではないか。
また、振出しの直接の相手方は、Yである。
Yが悪意だと、振出しは無効となってしまうのか。
それは物的抗弁なのか、人的抗弁なのか。
創造説からは、権利移転のみ無効となって善意取得の問題となるのではないか。
手形行為独立の原則との関係はどうか。
そういった問題が生じてくる。
これらの論点には、できれば触れたくない。
実質的な相手方はXだとして、簡単に処理してしまいたい。
なお、ここでもYはそもそも無効主張権者でないのでは、という問題がある。
多額の借財は、コンパクトに収めたい。
そのため、会社しか主張できないとして切ってもよさそうに思える。
ただ、これだと、利益相反の方との平仄が取れない。
また、せっかく多額の借財に触れるのなら、やはり中身の議論を書くべきだろう。
従って、利益相反のときと同様、主張権者で切るべきではない。

白地手形の論点については、補充権の時効がメインである。
ただ、その前提である白地手形該当性の当てはめには気をつけたい。
問題文上は、補充する意思が明示されていない。
従って、AX間の合意内容から、認定する作業が必要である。

補充権の時効については、最判昭36・11・24(小切手の事例)、最判昭44・2・20がある。

(最判昭36・11・24より引用、下線は筆者)

 白地小切手の補充権は小切手要件の欠缺を補充して完全な小切手を形成する権利であること、補充権は白地小切手に附着して当然に小切手の移転に随伴するものであること等にかんがみれば、補充権授与の行為は本来の手形行為ではないけれども商法五〇一条四号所定の「手形に関する行為」に準ずるものと解して妨げなく、また白地小切手の補充は、小切手金請求の債権発生の要件を為すものであり、さらに小切手法が小切手上の権利に関し特に短期時効の制度を設けていること等を勘案すれば、白地小切手の補充権の消滅時効については商法五二二条の「商行為ニ因リテ生シタル債権」の規定を準用するのが相当である。従つてこれと同趣旨で、白地小切手の補充権はこれを行使し得べきときから、五年の経過によつて、時効により、消滅するものとした原判決の判断は正当である。

(引用終わり)

 

(最判昭44・2・20多数意見より引用、下線は筆者)

 満期白地の手形の補充権の消滅時効については、商法五二二条の規定が準用され、右補充権は、これを行使しうべきときから五年の経過によつて、時効により消滅すると解すべきことは、当裁判所の判例とするところであり(最高裁昭和三三年(オ)第八四三号同三六年一一月二四日第二小法廷判決、民集一五巻一〇号二五三六頁、同昭和三七年(オ)第六四五号同三八年七月一六日第三小法廷判決、裁判集(民事)六七号七五頁参照)、今これを変更する必要をみない。

(引用終わり)

 

(最判昭44・2・20大隅健一郎意見より引用、下線は筆者)

 多数意見は、昭和三六年一一月二四日の当裁判所第二小法廷判決を引用して、満期白地の手形の白地補充権は、これを行使しうべきときから五年の経過によつて、時効により消滅するものと解すべきであるとしている。右の判決は、白地小切手の補充権の時効に関するもので、直接白地手形の補充権の時効に関するものではないが、同判決が白地小切手の補充権の消滅時効期間を五年と解しその理由としてあげているところは、すべて白地手形の補充権にも及ぼしうるものであつて、多数意見がこれを援用していることは理由のないことではない(多数意見の引用する昭和三八年七月一六日第三小法廷判決が支持した原判決も、同じく昭和三六年一一月二四日の第二小法廷判決を援用している。)。しかしながら、卑見によれば、それらの理由はいずれも、実は、白地手形の補充権の消滅時効期間を五年と解する見解よりも、むしろこれを三年(白地小切手の補充権については六月)と解する見解を根拠づけるものにほかならないのであつて、私は、右の判決とほぼ同様の理由により、満期白地の手形の白地補充権は、これを行使しうべき時(通常は振出の時であるが、原因関係上の事情から補充権を行使しうべき時期につき別段の合意があると認められるときはその時)から三年の経過によつて、時効により消滅するものと解するのが妥当であると考える。
 前記の判決が、白地小切手の補充権の消滅時効期間を五年と解する理由として掲げるところを白地手形に当てはめていえば、つぎのとおりである。すなわち、(1)補充権授与行為は本来の手形行為ではないけれども、商法五〇一条四号所定の「手形に関する行為」に準ずるものと解して妨げないこと、(2)白地手形の補充は手形債権発生の要件をなすものであること、(3)手形法が手形上の権利に関しとくに短期時効の制度を設けていること、がこれである。まず、補充権授与行為は商法五〇一条四号所定の「手形に関する行為」に準ずるものと解して妨げなく、したがつて、補充権が商行為によつて生じた債権に準じて考えうることは右の判決のいうとおりであるが、しかし、これによつてただちにその消滅時効期間が五年と解されることにはならないのであつて、かえつてこれを三年と解すべきことになると考える。けだし、商法五二二条は、商行為によつて生じた債権の消滅時効期間を原則として五年と定めると同時に、他の法令によりこれより短い時効期間の定めがあるときはその規定に従うものとしているところ、「手形に関する行為」によつて生ずる手形債権(手形の主たる債権)については手形法に三年の短期時効の定め(手形法七〇条一項、七七条一項八号)が存するのであるから、白地手形の補充権授与行為を「手形に関する行為」に準ずるものと解する以上、これによつて生ずる補充権の消滅時効期間も、五年ではなくして、手形債権に準じて三年と解すべきが当然だからである。つぎに、前記の判決が白地手形の補充が手形債権発生の要件であることをあげているのは、補充権は形成権であるが、形成権でもその行使によつて債権が発生する場合にはその債権に準じて時効を考うべきであることを示唆しているものと推測されるが、そうであるとすれば、補充権の行使によつて生ずるのは手形債権であるから、補充権も手形債権と同様三年の時効に服するものと解するのが相当といわざるをえない。そして、手形法が手形上の権利につきとくに三年の短期時効の制度を設けているゆえんを合わせ考えるならば、補充権の消滅時効期間をこれと同様三年と解する見解の妥当なことが、いつそう明らかになるであろう。
 以上のようにして、いずれの点からみても、満期白地の手形の白地補充権の消滅時効期間は三年と解するのが妥当であると考えられる。元来、白地手形の補充権は白地手形行為の当事者の手形外の合意によつて発生するものであるにしても、補充権はその行使によつて生ずる手形上の権利と不可分的な関係にあるのであるから(したがつて、満期の記載のある白地手形については、手形債権と別に補充権の時効を問題とする余地はない)、補充権についてその時効消滅を認める以上、その時効期間は手形債権と同様に考えるのが、当然の帰趨であるといわざるをえない。そして、これを手形取引の実際からみても、補充権がその行使によつて生ずる手形債権よりも長期の時効に服すべきものとする必要は見出しがたいであろう。

(引用終わり)

多くの受験生は、多数意見の5年説に立つはずである。
もっとも、これをどの時点から起算するのか。
すなわち、最判昭44・2・20多数意見の「これを行使しうべきとき」とはどの時点かである。
同判例の大隅意見には、かっこ書で、「通常は振出の時であるが、原因関係上の事情から補充権を行使しうべき時期につき別段の合意があると認められるときはその時」とある。
この「別段の合意」が、本問で問われている。
本問では、いつ補充できるかという点について明示的合意はない。
しかし、AX間の合意をみれば、利息支払いを怠った時だということが読み取れる。
そのことを答案上認定できるか。
おそらく、ここも多くの人がそれなりに書けるはずである。
ここを落として当然に振出時とすれば、上位にはなりにくいだろう。

 

【参考答案】

第1.Yは、本件手形振出しがA社とその取締役であるYの取引(会社法356条1項2号)であるのに、取締役会の承認(同項柱書、365条1項)を欠いたから、本件手形振出しは無効であるとして、Xの請求を拒めるか。

1.約束手形の振出しは、原因債務とは別個に挙証責任の加重、抗弁の切断、不渡処分の危険等を伴う厳格な支払義務を新たに負う行為であるから、原則として会社法356条1項2号の取引に当たる。

2.もっとも、何ら取締役に利得がなく、何ら会社に犠牲が生じない場合はこの限りでない。なぜなら、同号の趣旨は会社の利益を犠牲にして取締役が私利を得ることを防ぐことにあるからである。

3.本問で、Yが手形の受取人・第1裏書人となったのは、A社の保証のためである。YはXへの本件手形の裏書・交付に当たり何らの対価も得ていない。そうすると、何らYに利得はなく、何らA社に犠牲は生じない。従って、本件手形の振出しは会社法356条1項2号の取引に当たらない。

4.よって、Yは会社法356条1項柱書の承認を欠いたことを理由にXの請求を拒むことはできない。

第2.Yは、本件手形振出しは多額の借財(会社法362条4項2号)であるのに、取締役会の決定がないから無効であるとして、Xの請求を拒むことができるか。

1.A社の事業規模等は不明であるが、3000万円が「多額」であるとされる余地もある。

2.また、約束手形振出しが原因債務とは別個の厳格な支払義務を負うものであることからすれば、「借財」に当たりうると解される。

3.もっとも、取締役会の決定を経ない多額の借財は内部的意思決定を欠く点で心裡留保に類似するから民法93条ただし書を類推すべきところ、手形行為における同ただし書の適用は手形取引の安全の見地から、相手方が悪意・重過失の場合に限られると解すべきである。

4.本問で、振出しの形式的な相手方はYであるが、Yは手形保証の趣旨で受取人・第1裏書人となったに過ぎない。実質的な相手方はXである。そして、Xにおいて本件手形取得当時、本件手形の振出しが多額の借財に該当し、かつA社の取締役会の決定を欠いたことにつき、悪意又は重過失であったと認めるべき事情はない。従って、本件手形振出しの効力は否定されない。

5.よって、Yは取締役会の決定を欠く多額の借財であることを理由にXの請求を拒むことはできない。

第3.Yは、本件手形は振出時に手形要件(手形法75条3号6号)を欠いていたから無効手形である(同法76条1項本文)か、一覧払(同条2項)であるが呈示期間である1年(同法77条1項2号、34条1項)を経過して遡求権を失った(同法77条1項4号、53条1項1号)として、Xの請求を拒めるか。

1.手形要件の記載がなくても、商慣習上の白地手形と認めうる場合がある。その区別は外形上なし得ないから、後日補充させる意思の有無で決すべきである。

2.本問で、本件手形は貸付金の返済確保のためのものであるから、後日Xに白地を補充させる意思で振り出されたものと推認できる。
 従って、本件手形は無効手形又は一覧払手形ではなく、振出日及び満期が白地の白地手形である。

3.よって、Yは本件手形が無効又は一覧払であるとしてXの請求を拒むことはできない。

第4.Yは、本件手形の白地補充が白地補充権の消滅時効完成後にされたとして、時効消滅を援用してXの請求を拒むことができるか。

1.約束手形の振出人に対する権利は満期から3年で時効消滅する(手形法77条1項8号、70条1項)。満期の記載された白地手形も同様である。しかし、満期白地の白地手形については、満期の記載から起算点を定めることができない。

2.そこで、白地補充権独自の時効消滅を考える必要がある。時効期間につき、白地補充権は手形債務者に対する請求権ではないから、手形法70条各項には当たらないが、手形に関する行為(商法501条4号)に準ずるといえ、絶対的商行為となるから、5年の時効期間(同法522条本文)に服すると解される。

3.また、消滅時効の起算点は権利行使可能時(民法166条1項)である。当事者間において白地補充可能時が定められたときは、上記時点が消滅時効起算点となる。

4.本問で、AX間の合意A及びBからすれば、本件手形は元金支払を確保するものであり、利息支払がある間は白地補充を行わないという黙示の合意を推認できる。従って、白地補充可能時は利息支払を怠った時である。そうすると、平成19年8月が消滅時効の起算点となる。そして、Xが白地を補充したのは平成22年4月9日であるから、白地補充時において消滅時効は未だ完成していない。

5.よって、Yは、本件手形の白地補充権の時効消滅を主張してXの請求を拒むことができない。

第5.他にXの遡求権保全(手形法77条1項4号、43条柱書、46条1項)を妨げる事情はない。よって、YはXの請求を拒むことができない。

以上

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