政府公表資料等情報

第12回司法修習委員会平成20年3月6日(木)

※意見交換部分のみ抜粋

高橋宏志委員長 本日は,集合修習における指導の在り方,新60期修習生に対する教官から見た印象等,選択型実務修習の結果等,新61期教官派遣の実情,以上4つのテーマで意見交換を行いたい。

1.集合修習における指導の在り方

林道晴幹事 新60期司法修習生を対象とする集合修習のカリキュラムは,14クラス編成で平成19年9月27日に開始され,同年11月16日に終了した。
 新60期集合修習のカリキュラムの策定に当たっては,法科大学院において修得した学識及び実務の基礎的素養等を前提に「幅広い法曹の活動に共通して必要とされる法的問題の解決のための基本的かつ汎用的な技法と思考方法」を修得させる観点から,各教官室においてカリキュラムを厳選した。
 各科目ごとの具体的指導目標等については,幹事である各科目の上席教官にお願いしたい。

田村幸一幹事 新修習の集合修習の基本的な理念を踏まえ,民事裁判科目では,民事実務全般に汎用性のある基礎的な能力,例えば,当事者の錯そうした主張の中から法的に意味のある主張を抽出して整理する能力,あるいは具体的な証拠に基づいて的確に事実を認定する能力のかん養を中心として指導しており,判決書作成等の裁判官固有の専門的,技術的な事項については,法曹資格取得後の継続教育にゆだねることにしている。
 また,具体的な指導方法については,さまざまな工夫を加えている。
 若干紹介させていただくと,まず,取り上げる事案として,実務的によく見られて,かつ応用性が高いもので,法科大学院での基本の習得を確認すると同時に,実務的能力を一層向上させるに相応しい事案を取り上げている。
 主張の整理については,「紛争類型別の要件事実」等の配付教材には記載されていないが実務的によく見られる主張を積極的に取り上げて,単なる暗記ではなく,民事実務家として共通に必要な主張整理の思考力を身に付けさせるようにしている。
 起案事項についても,主張整理について,従来行っていた判決文の事実摘示の形式による要件事実の記載をやめて,要件事実の細かな表現よりも,実体法上の効果の発生要件,実体法の解釈,その確実な理解ということに重点を置いて,何が要件事実となるかということを簡略に記載すればよいことにしている。
 また,民裁科目全体としての指導の比重を要件事実から事実認定に相当程度シフトして,修習記録自体も主張整理用と事実認定用とを全く別の記録とし,事実認定について,より実務に即した適切な教材を用いて指導している。
 起案後の講評では,単に結論を教えるのではなく,双方向,多方向の指導方法により,修習生に活発に意見を述べさせながら,その結論に至る理由を共に考えることに重点を置いており,修習生を小グループに分けた討論など,修習生が主体的に参加する手法をも取り入れて,修習効果を高める工夫を施している。
 以上が,新修習における民事裁判科目の集合修習の概要であり,形式より実質を重視することで,期間が短縮しても質が落ちないよう,さまざまな工夫を試みている。

河合健司幹事 集合修習における刑事裁判科目の指導目標は,司法修習生指導要綱(甲)に定められているとおり,事実認定と訴訟手続の大きな二本柱から構成されている。
 具体的には,まず,具体的な刑事事件に即して証拠を分析検討し,その信用性等を適切に評価して的確に事実認定をする能力,次に,訴訟手続や証拠法等に関する実務的な知識や理解を深め,適切な訴訟手続の遂行の在り方を考える能力,更には,これらの判断過程を文書又は口頭で論理的に分かりやすく説明する能力を習得させることが指導目標である。このような能力は,刑事事件を担当する裁判官にとって必要な能力にとどまらず,検察官や弁護士も含めた刑事実務に携わる法曹にとって共通の基盤となる能力であり,新60期集合修習の刑事裁判科目では,これらの刑事実務全般に汎用性のある基礎的能力のかん養を中心に指導を行った。
 新60期集合修習のカリキュラムの特徴として,まず,即日起案は修習記録に基づいて事実認定を行い,併せて訴訟手続に関する法律問題について解答を求めた。このうち,事実認定に関する起案は,従来は判決書の形式あるいはそれに準じた形式で解答を求めていたが,この点は裁判官固有の領域に属する技術的,形式的な色彩が濃いため,法曹全体に必要とされる基本的かつ汎用的な技法と思考方法を習得させるという司法修習の意義や理念に照らし,出題形式や内容を大きく変更した。具体的には,主文に関しては基本的に主刑のみを問い,法令の適用に関しては,今までのような文章体形式ではなく,処断刑の範囲及びその形成過程を表形式で記載させるといった点などである。
 また,法律問については,日常的に行われている刑事訴訟の諸手続について,その根拠や法的な意味合いを理解させ,他の場面で応用できるように,実務に即した汎用性のある問題を幅広く出題するように改めている。
 次に,問題研究については,平成21年から実施される裁判員裁判を念頭に置き,争点を的確に把握して整理する能力や,真の意味で分かりやすい証拠調べを実施する能力についても向上させる契機となるような新しいカリキュラムを取り入れている。
 具体的には,平成17年11月から導入されている公判前整理手続を念頭に置いて,具体的な事例を題材として,適切に争点及び証拠を整理し,審理計画を策定するために,裁判官,検察官及び弁護人はそれぞれどのような観点から,どのような活動をすることが必要とされるか,基本的な理解を図ることを目標とする問題研究を初めて実施したところである。
 このような争点及び証拠の整理をテーマとするカリキュラムは新60期集合修習で初めて実施したものであるが,刑事裁判においては,裁判員裁判の実施を控え,争点を明確にした上で,争点中心の分かりやすい公判審理を実現していくことが今まで以上に強く求められており,大きな意義があったと考えている。

野々上尚幹事 検察科目の修習は,修習生を検察官の立場に立たせて行うものであり,起案や講義,問題演習等を通じて,以下の点を重点的に指導している。
 第1点は,記録を読み込む能力のかん養である。具体的には,まずは公判で争われることの多い供述証拠を除いてどこまでの事実が認定できるか,いわば事件の外堀を埋めさせた上で,争われることが予想される供述の吟味を行わせている。このように二段階の思考を経て記録を読み込む手法を教えることにより,骨太の事実認定ができる能力を身に付けさせたいと考えている。
 第2点は,法令の適用を行う訓練であるが,これは法的な思考と事実認定を同時併行して行う手法を十分体得させるということである。与えられた事実に基づく法律の適用については,法学部教育,法科大学院教育で十分されていると思われるが,実務においては,前提となる事実関係の確定に苦労することが多いため,そこに重点を置いた記録を用いて訓練をすることとしている。
 第3点は,検察科目固有のものと思われるが,訴因設定の問題を考えさせることである。例えば,強盗か窃盗かという大小関係の問題ではなく,横領で送致された場合に横領自体は処罰しないのが適当だが,別の切り口から見ると詐欺を取り上げて起訴すべきだと思われるようなことが実務では多くあるが,検察官が訴因設定の裁量権を持っていることを踏まえ,ダイナミックに事件をとらえさせることを取り入れるようにしている。
 最後に第4点は,当事者として手続を使いこなす能力を身に付けさせることである。つまり,学説上の争いよりも,条文をしっかり読んで,前提となる事実をしっかり記録から読み取らせるということである。例えば,罪証隠滅のおそれといった場合に,重要な証拠はどこで,どういう罪証隠滅のおそれがあるのかということを十分考えさせることにより,勾留請求,勾留延長請求,接見等禁止,その一部解除あるいは保釈等にどう対応していけばいいのか,記録に即して考えさせることを指向している。

栗林信介幹事 民事弁護科目は,一般の法律相談,裁判外の活動,裁判所を通しての活動と大変広い範囲を扱っているが,どの分野においても,基本的な法律の理解,思考方法を養うことが必要であるという認識を持ってカリキュラムを編成した。
 具体的には,法律相談等に関しては分野別実務修習でも教育されているので,集合修習においては,保全,執行,証拠収集をまず考え,もう一つの柱として起案を考えた。
 まず,保全,執行について,従来は講義形式であったものを,いずれも事例を検討させ,双方向での講義,演習形式で行うことにした。その意味するところは,具体的な事案をどのように代理人として認定し,考え,手続をどう選択するかということを養う趣旨である。
 また,保全,執行を通じて,同じ事件について一つのつながったストーリーとなっているビデオ教材を用意して修習生に視聴させ,それに基づいた議論を行うことも実施した。これにより,修習生が分野別実務修習で一応は見てきたと思われる具体的な手続や現場でのやりとりを,もう一度再確認させるということである。
 証拠収集に関しても,具体的な事例を設定して,適切な証拠収集活動,すなわち裁判外における証拠収集なのか,裁判手続における民事訴訟法に基づく文書送付嘱託なのか,それとも文書提出命令ができるのかといった議論を,修習生にあらかじめ与えた事例で考えさせた上で,演習形式で行った。
 従来は講義型であったものを,演習形式で,具体的事例に即して,しかも多くの事例を扱うのではなく,極めて基本的な事例を与えてカリキュラムを構成したということである。
 起案は3本実施し,いわゆる最終準備書面をすべて出題した。各起案に保全あるいは執行又は証拠収集に関する小問を付し,演習での知識を再確認するとともに,検討した問題点,あるいは検討したが起案に書かなかった問題点というものを含めて記載させ,各個別の修習生の理解度あるいは起案作成に当たっての思考の過程を見て,それを講評あるいは起案の添削の際に参考とした。
 起案の事例は,売買や賃貸借など極めて基本的なもの,しかも実務で頻繁に出てくる事例であり,すべて民法,商法の基本的な条文や判例を知っていれば,正解あるいは正当な主張が組み立てられるものにした。
 講評に当たっては,特に,証拠からどのような主張を導くのか,更に,原告・被告双方にとって不利な証拠,あるいは自分にとって不利な相手方の主張に対し,どのように合理的に反論するのかということについても,かなり力を入れた。
 最後であるが,弁護士倫理に関しては刑事弁護との共通演習があったが,それとは別に,民事弁護科目の最終講義において各教官が自由な発想で講義を行ったが,その中で必ず弁護士倫理について,特に,実務家になるに当たっての最初の心構えといったようなものを講義した。

宮崎万壽夫幹事 既に司法修習生指導要綱(甲)で定められているところではあるが,集合修習における刑事弁護科目の指導目標は,まず第1として,具体的な刑事事件に即して事案を的確に分析し,証拠の構造を理解して,その信用性等を適正に評価すること。第2として,捜査公判の各場面における弁護活動について適正手続の理念にのっとり,被疑者・被告人の人権を擁護するために,より高度な実務能力を身に付けること。第3として,刑事手続における弁護士の使命と職責,弁護士倫理の重要性を理解させること。以上の三点について,総合的・体系的に指導をし,職務の遂行に必要な能力を習得させることが指導目標となっている。
 集合修習で扱うのは,弁護士にとってはもとより,裁判官あるいは検察官にとっても理解しておくべき刑事実務全般に汎用性のある事項であり,弁護活動に固有の技術的又は形式的な事項については,弁護士になった後の継続的な研究指導に期待されているところがあると考えている。
 以上の観点から新60期集合修習における刑事弁護科目のカリキュラムを設定し,基本的には従前行われてきたような修習のレベルを維持するものとしている。
 また,各カリキュラムで取り上げた事案や問題点は,実務上よく生起する汎用性の高いものであり,法科大学院において習得した基礎的事項を確認するとともに,先ほど述べた能力を一層向上させるに相応しいものということで選定している。
 具体的なカリキュラムの内容については,大きく分ければ,講義形式のもの,中心となるものとして起案,そして演習という3つの構成である。
 起案については,従前の後期修習では,いわゆるフル起案として弁論要旨を起案させたものが2本あったが,新60期集合修習においてはこれを維持し,同様の教育をした。
 刑事弁護科目の修習記録は,いわゆる実在した無罪事件あるいは認定落ちの事件等の中から修習に適したものを選別して,内容を整理した上で作成している。起案をさせ,教官が個々に添削評価をした上で講評を加えるという従前の形式を踏襲した。
 演習については2本あるが,一つは,いわゆる勾留の裁判に対する準抗告の申立書を起案させ,また違法収集証拠についての証拠意見を起案させた。
 もう一つは,刑事事件全般についての弁護のエッセンスを盛り込んだドラマ「初めての刑事弁護」というDVDを作成しており,これを上映した後に,弁護人の立場から伝聞法則についての実践的な演習,あるいは反対尋問の技法などを討論を通じて学ばせるということを実施した。

大橋正春委員 裁判科目では従来の判決書全文起案を行わなくなったが,新60期司法修習の弁護科目では主張書面の全文起案を行っており,二回試験でもそのような問題が出されているようであるが,何か特別な理由があるのか。

栗林幹事 民事弁護科目では,口頭弁論終結直前のまとめの主張が非常に大切であり,司法修習において限られた記録を検討する際には,最後の部分で証拠及び双方の主張の最終的な評価をして,それを裁判官に向かってアピールするということが大変重要であると考えている。法律構成や主張の要件事実等も大切ではあるが,表現力ということが極めて重要と考えており,そのために,すべての証拠をどのように評価するのか,自分の主張の方向性をどのように合理的な正当性を持って主張するのかという思考能力,表現能力,判断能力を試すには,やはり最終準備書面の全文起案が最適であると考えている。

宮崎幹事 刑事弁護科目でも,弁護人の活動として主たる点である事実認定あるいは法律の適用について,さまざまな問題が盛り込まれた修習記録を作成し,証拠能力や信用性,事案によっては適切な情状を主張させるという,いわゆる修習の課題とされる要素がすべて詰まった起案形式が弁論要旨であると理解しており,刑事弁護でも,従前と同じような弁論要旨のフル起案を維持している。

吉戒修一委員 民事裁判科目について,従来は要件事実に重点を置いていたものを,これからは事実認定に重点を置くということで,私も,要件事実は大事ではあるが,行き過ぎた要件事実教育の弊害も出ていたと思うので,その方向性は正しいものではないかと思う。ただ,事実認定には社会的な事象についての幅広い知識経験が必要とされるので,適切な教材を見つけるという点で御苦労があろうかと思う。
 また,例えば,ハンコをついた文書があればそれで事実認定をしてしまうというような単純なマニュアル化した認定の手法は良くないと思うので,修習生によく議論させて,いろいろな可能性の中から,客観的に最も相当と思われる認定の結果を導くような指導をお願いしたいという感想を持ったところである。

大橋委員 一部の法科大学院から,刑事実務科目を教えるに当たって,必ずしも裁判,検察,刑事弁護の関係がうまくいっていないという話を聞くことがある。司法研修所では,その三科目を共同して行い,ある程度成果を上げておられるが,何か秘訣あるいは特別な考え方を持ってやっておられるのか。

河合幹事 刑事共通科目においては,三教官室でいろいろ話し合った上で教育しているので,日ごろの意思疎通が比較的図られていることもあり,司法研修所では比較的連携しやすいのかなと考えている。

野々上幹事 修習生の目の前で三教官がけんかするわけにはいかないというのが正直なところで,お互いの立場を尊重することで自然とうまくいっているのではないかと考えている。

宮崎幹事 刑事共通科目では,カリキュラムの設定について事前に三教官室で綿密な打合せをして,教材をどのようなものにするかという最初の段階から,十分な合議を重ねている。したがって,判断者の立場あるいは訴追者,それから弁護人の立場,そういう複数の視点から事案を検討することができるような教材をまず作った上で,演習の実施に際しても事前の打合せ等をして,いろいろな観点から修習生に考えさせるということを討論を通じてやっているので,所期の成果が十分上がっていると自負している。

高橋委員長 法科大学院関係の方で,刑事の三者がうまくいっていないという話があるか。

酒巻匡委員 他大学のことは存じ上げない。私が勤めている大学ではうまくいっていると考えている。必修としての実務科目である「刑事訴訟実務の基礎」については,裁判官出身の方と検察官出身の方に分担していただき,共通の記録教材等に基づいて,事前の緊密な合議,検討をした上で教育していただいている。もとよりその中で,刑事弁護の側面についても,それぞれの立場とは別に,捜査と公判についての弁護の観点からの議論も十分やっていただくようにお願いしている。それに加えて,選択科目ではあるが,刑事弁護の御経験豊富な弁護士にお願いして,「刑事弁護実務」という演習形式の授業を開講している。授業方針等について対立が生じるようなことはない設計である。

鎌田薫委員 私の大学では,法曹三者から実務家教員間で意見の対立があると言われていると聞いてはいるが,例えば,現行の実務を妥当なものという前提で見るか,妥当でない部分があるという前提で見るかによって,教材に何を選び,何を教える内容とすべきかという点で意見が一致しないというのは,ある意味では当然で,特に検察と弁護ではもともと立場が違うから,そこをあえて一致させる必要はないだろうと思う。ただし,学生数が多く,クラスを細かく分けているので,あるクラスでは刑事弁護的観点から実務の基礎を教え,一方では検察的観点から実務の基礎を教えるということのないように,法曹三者それぞれが各クラスで授業を担当して,それぞれの立場を全面的に主張していただくという工夫をしている。ただし,三者あるいは検察と弁護が同時に学生の前に立ったときには,むしろ徹底的にけんかをしてくれているのが現状で,それはそれで一つの意義のあることかとも思っている。

太田茂委員 法科大学院教育について,司法試験の受験科目にウエートを置き,それ以外の科目はウエートを総体的に低くしてしまうような学校もあるかもしれないとの懸念も指摘されているが,前期修習がなくなったという前提で考えて,司法研修所教官の目から見て,法科大学院は最低限の実務教育はやってくれているという印象なのか,あるいは個人の能力,資質の問題に還元されるのか,いかがであろうか。

高橋委員長 今の御質問は,ちょうど次のテーマと重なるので,集合修習との関係を含めて,まず林(道)幹事から概略の説明を,それから各司法研修所教官に補足説明があればお願いしたい。

2.新60期司法修習生に対する教官等から見た印象等について

林(道)幹事 教官や各地の指導担当者から聞いている新60期修習生の印象について紹介する。
 法科大学院を修了し,新しい司法試験に合格して修習生となった新60期修習生は,概して,口頭で自分の考えを述べる能力が優れており,従来の修習生以上に,真面目で熱心に修習に取り組んでいたというのが,教官や各地の指導担当者のほぼ共通した印象であったと聞いている。これは,法科大学院における双方向・多方向授業の一つの成果であり,また,専門職大学院としての各法科大学院において,高い志を有する第1期生の学生を獲得することができた結果であると思われる。
 修習開始直後は,事実上又は法律上の問題点を明晰かつ論理的に分析整理し,その思考過程を説得的に説明し,書面や口頭で表現することに課題を残す者がいたと聞いているが,各地における実務修習を経て,司法研修所における集合修習の段階においては,多くの修習生は,特に事実認定等について成長し,修習開始直後の課題も一定程度改善されており,指導を進めるにつれて,起案等の内容も進歩が見られたという声が多かった。これは,実務修習中における各地の指導担当者の熱心かつ真摯な指導に負うところが大きいことは言うまでもないが,多くの修習生が自覚的に自己研さんに励んだことによる面も大きいと思われる。
 いずれにしても,きちんと指導訓練を行えば一定の成果が現れるという意味において,新60期修習生は,従来の司法修習を経た者と比べて決して遜色があるわけではないという声が多かった。
 しかし,下位層の修習生の中には,民事系,刑事系科目のいずれを問わず,法科大学院における修得が期待されている民法,刑法等の基本法について,表面的な知識はあるものの,その理解が十分でないために,具体的事案に即した適切な分析検討ができず,その結果,水準に達する法律文書の起案を提出できなかったと見られる修習生がいたという指摘があった。このような問題点を克服できなかった一部の修習生は,実務修習・集合修習というプロセスを通じて,結局伸び悩んでいたようである。
 新司法修習は,法科大学院で修得した法理論教育等を前提として,「生きた事件」を素材とした臨床教育としての実務修習を中心に据えているが,事案に即した適切な分析検討等を行うためには,その前提としての基本法の論理的・体系的な理解が不可欠である。この点は,教官等のほぼ一致した認識であり,基本法の理解が不十分なままでは,司法修習で所期の成果を収めることは難しいという指摘が多かった。
 二回試験で「不可」と判定された答案も,基本法における基礎的な事項についての論理的・体系的な理解が不足していることから,これらの理解を前提とした事案に即した具体的な分析,検討ができていなかったり, 事実認定の基本的かつ汎用的な思考が身に付いていないことが明らかであるなどの問題点が複数見られるなど,いずれも,実務法曹として求められる最低限の能力を修得しているとは認めがたいものであったようである。
 いずれにしても,現時点で新しい法曹養成制度について一定の評価をするのは時期尚早であり,法学未修者が3分の1以上を占める新61期以降の修習生の動向を,引き続き注意深く見守っていく必要があると思われる。
 私からの説明は以上であるが,各上席教官から,必要があれば補足説明をお願いしたい。

田村幹事 民事裁判教官からは特に補足するところはなく,林(道)幹事が説明したとおりかと思う。

河合幹事 刑事裁判も同様である。

太田委員 法科大学院教育で本来期待されるレベルに達していない者が少なからずいるということは分かったが,法科大学院ごとの格差は感じられるだろうか。それとも,個々の修習生の問題に還元されるのか。

林(道)幹事 確かに,科目によっては法科大学院ごとにばらつきが見られるという趣旨の指摘もされているが,あくまでも個々の修習生の指導を通じての話であり,実際はどうなのか分からない部分もあるし,法理論教育をしっかりした上で,法科大学院の段階でどこまで実務教育をするのかというのは定見があるわけではなく,議論があるところだと思う。研修所として最終的な修習プロセスを預かる立場として,法科大学院における実務教育の在り方も含めて今後議論をしていかなければならないと考えているし,そういう意味で,新60あるいは新61期の修習生の実情をしっかり見ていきたいと思っているが,まだ第1期生が出てきただけで,人数的にも1,000名程度ということもある。法学未修者については,新61期として初めて修習に入った段階である。今の段階で,太田委員から御指摘があった重い問題に対して,責任を持った形での回答をするのは,なかなか難しい部分があるかと思う。御指摘の問題意識は理解できるので,引き続き検討していきたいと思っているが,まだ結論的に何か一定の評価をするのは時期尚早ではないかと感じている。

高橋委員長 そろそろ法科大学院の認証評価も出揃う頃と思われる。認証評価でどの程度そういう面が浮き彫りになるかは分からないが,太田委員御指摘のような意見が付されたという新聞報道もあるくらいなので,そちらにも期待できるかと思う。

今田幸子委員 ようやくプロセスとしての法曹養成制度が現実のものとして完成し,全プロセスについて見ることができる状況になった。法科大学院の卒業生,司法試験の合格者,二回試験の合格者,そして成績等という一連のデータが出たわけで,それをしっかり収集して,客観的に徹底して分析することが,今必要なことではないかと思う。専門家の先生方が深い知見から問題点を質的に議論することももちろん重要だと思うが,プロセスとしての法科大学院,司法試験,司法修習という非常に難しい制度を作ったわけで,これは各過程が本当に有機的に結びついていないと故障する,他にも影響するという,精密機械のような制度を作ったわけだから,この制度を検証して改良していくことが重要だと思う。そのためにも徹底的にデータを収集,分析していただきたい。また,五者協議会を活発化させて,相互の問題点を忌憚なく出し合って,全体のプロセスとしての選抜をより効果的にできるように,この制度に関する批判もあって担当者の皆様は非常に大変だとは思うが,準備を徹底して改良していくという視点で臨んでいただきたいという希望を持っている。
 ところで,司法修習の不合格者は,次の回に受験して合格しているのか,ドロップアウトしてしまうのか,その数はこれまでの制度とどう違うのか,お聞かせいただけたらと思う。

林(道)幹事 例えば,現行60期の受験者の中には,59期の不合格者も含まれている。また,新60期の二回試験では,現行60期の不合格者のうちの大多数が受験している。傾向だけ申し上げると,7割くらいは次の二回試験で受かっている。その数値をどう見るかという議論はあると思うが,受かるべき人は次の試験で受かっているという印象を持っている。
  したがって,新60期の二回試験で不合格者のうち大多数は,今年の8月に実施される現行61期の二回試験を受験すると思われるが,しっかり勉強すれば,法曹への途につながっていくことが期待できるのかなと思っている。

大橋委員 新司法試験については,単なる法律知識だけではなく,具体的事実を複雑な中から抽出して適用するという問題を作ることを基本とし,それは問題としても優れているという評価がされている。そのような試験を受かった人に対し,実務的な能力の問題は別として,基本的な法律の知識がないという批判があるのはなぜなのか。
 新司法試験が十分に役割を果たしていないということだろうか。

高瀬浩造委員 一般論として,司法試験の不合格者の中には,十分素養があった人がいると考えなければいけないと思う。例えば,医学のように国家試験の合格率が90何%ということなら別だが,合格率が決して高くない状態においては,本来能力がある人が試験で落ちてしまうことは十分あると思われる。
 二回試験の不合格者は現段階では数%であり,すべて能力がないと決めつけるのは難しいが,教育において問題になる人はこの程度と想定していいとすると,一般論としては多くはない数字だと思う。試験という手法によっては,どうしてもそこまで明確には分けられないだろうと思う。大事なことは,今の合格率では,司法試験で本来は能力のある人まで,かなりの数を落としている危険性もあるのではないかと思う。
 私の認識では,法科大学院教育の内容にばらつきがあって,教え方に問題があったりするということは事実だろうと思う。ただ,現行の司法試験によっては,そのばらつきをはるかに越えたところで厳しい敷居を置いているために,結局,それなりに司法修習に適した人が合格しているというのが現状だと思う。
 そういう見方をすると,現行の制度では,プロセスとしては,法科大学院側の問題はあまり司法修習に影響しないシステムと言えるのではないかと思う。私の専門は別分野だが,別分野の試験制度から見ると,あまり問題が起きていないように見えている。

酒巻委員 新制度下の最初の段階の不合格者について,その数字に強い意味付けをするのは,適切ではないと思う。
 それから,新60期司法修習生の印象についても,個別の断片的事象を一般化するのは適切とは思われない。旧試験でぎりぎりで受かってきたであろう人々の法律学についての基本的な素養と,今回の新試験で合格してきた人たちの基本的な素養とを,もう少し長い目で見て比べてみなければいけないと思う。まだ新司法試験合格者についてはデータが少ないので,そういう観点も広く考えに入れる必要はあるのではないかと思っている。
 更に,特定の科目について新旧両試験の答案を採点してきた印象ではあるが,新司法試験の内容及び答案のレベルは,概して,基本的な事柄を深く勉強したことが伺われるものが増加していると感じている。基礎的体系的知見の深い学習という法科大学院教育が意味を持ち出しているのではないかというのが,私の個人的な印象である。もっとも,これも個人的印象ないし採点実感に過ぎず,これを客観化するのは難しい。現段階で法科大学院教育を経た人材や新司法試験の在り方について何か確たることを言うのは時期尚早であると考えている。

高橋委員長 法科大学院の第1期生の中には,酒巻委員も言及されたように,旧司法試験を受けた人がいる可能性も高いわけで,結局,大橋委員御指摘の問題意識を持って,また今田委員がおっしゃったように,もう少し客観的なデータを蓄積しつつ,長期的に見ていくべきかと思う。

3.選択型実務修習の結果等

巻之内茂幹事 私は東京弁護士会所属なので,東京弁護士会での選択型実務修習を中心にお話したい。
 大阪弁護士会でまとめられた「その成功と今後の課題」という冊子の抜き刷りに,「多様で,豊富なプログラム,そして,指導弁護士の熱意」と書いてあるが,東京弁護士会でも,まさにこれそのものであった。
 更に,印象を申し上げると,この冊子の16ページ,「担当者側からの感想」という小見出しの2段落目に,「全体的な感想は,とにかく準備と運営が大変であったということに尽きるようです」と書いてあるが,まさにそのとおりであった。その右側に「今後の課題」という小見出しの上に,「修習生の受講態度については,自ら選択し目的意識をもって参加しているため,全般に熱心であり,教えがいがあったとの評価でした」とあるが,これも共通していると思う。
 東京三庁会でのプログラム及び応募状況については,「新第60期選択型実務修習(個別修習プログラム)応募状況・割付結果」というタイトルの一覧表のとおりである。東京修習は配属が273名で,裁判所提供プログラムの募集人員は全体で428名。募集は第1希望,第2希望を修習生から出させて,第1希望で埋まらなかったところに第2希望を補充していく形で決定したが,第1希望として裁判修習全体で484名,113%の応募があって,最終的に決定されたのが83%の354名。一方,検察庁は260名の募集人員に対し,76%相当が第1希望で応募してきた。決定は55%であった。
 東京弁護士会では373名の募集人員に対して最終決定が58%の215名。第一東京弁護士会は486名の募集人員に対して,最終決定が47%の229名。第二東京弁護士会は399名の募集人員に対して30%の121名が受講した。東京三会を全部合計すると,募集人員が1,258名,これに対して第1希望としての応募が37%の470名に過ぎない。第2希望で補充しても,45%相当しか集まらなかった。この45%相当は,東京配属者数のちょうど200%相当になる。
 このパーセンテージについて,一つの特徴は,弁護士会で提供したプログラムのうち,応募者ゼロがいくつかあることだ。東京弁護士会では,まず,公害環境委員会で設定したプログラムで,時期が9月10日から14日のもの。それから,都市型公設事務所というプログラムで,時期は8月20日から24日のものが,応募者がゼロだった。第一東京弁護士会では,9月3日から7日までのマイノリティの人権,9月10日から14日までの弁護士会ADR,9月18日から20日までの国際交流委員会が応募ゼロだった。また,第二東京弁護士会では,8月から9月にかけての3回の公設事務所体験プログラムが3回とも応募ゼロ,9月10日から14日までの弁護士会における人権擁護活動も応募ゼロだった。
 一方,裁判所提供プログラムは,概ね定員まで達しているか,あるいはオーバーしている。
 以上の動向を見ると,基本を履修したいという志向があったように思われる。やはり制度的に期間が短い中で,自分たちで何を学んでおくべきかを考え,優先して学ぶべきものを基本事項に置くという志向の現れではないかと感じている。ただ,時期の問題を見ると,集合修習あるいは二回試験を意識して,基本から離れたものにはあえて応募しなかったという傾向もあるのかなと思う。
 応募者が極めて少なかったプログラムについても,弁護士会では各委員会にお願いして,多大な時間と労力を費やして準備をしていただいた。その結果がこうであったために,大変申しわけない気持ちで一杯というのが実情であるが,提供する価値がなかったのかというと,そうではないと思う。それぞれの分野の重要性があるわけで,参加すれば大変有意義な修習を送ることができたと思う。ただ,プログラム提供に当たって,どういう重要性があるのかを修習生が知らなかったために,あえて応募しなかったという傾向もあるのかもしれない。
 その一例が,実は模擬裁判である。東京弁護士会の民事模擬裁判A,これは8月6日から17日までのプログラムで募集人員40名に対し,最終決定が23名。民事模擬裁判B,これは9月3日から14日までのプログラムであるが,募集人員40名に対して6名しか参加していない。たまたま,この6名の修習生を模擬裁判で見たところ,大変熱心にやっていたけれども,幹事の数の方がよほど多かった。修習生に対しては有意義な修習を送らせたとは思うが,迎える側としては本当に労が多かったなという感じがした。
 第一東京弁護士会でも,前半(8月6日から17日)と後半(9月3日から14日)で民事模擬裁判を各40名募集したが,最終決定は前半が15名,後半は8名に過ぎなかった。
 第二東京弁護士会では,8月6日から10日にかけて民事模擬裁判を80名で募集し,最終決定は38名だった。やはり,集合修習前に模擬裁判より他にやっておきたいことがあるという修習生の考えがあったのかもしれない。
 更に,東京三会提供プログラムとして,刑事模擬裁判を8月13日から24日まで行ったが,この時期は集合修習や二回試験とあまり関係ない時期であるにもかかわらず,18名の募集人員に対し,5名しか集まらなかった。この応募状況を見て,刑事事件における弁護活動の重要性が日増しに増加し,ことに裁判員制度や公判前整理手続等従来なかった制度がどんどん出てきているにもかかわらず,修習生の興味が刑事裁判離れしているのではないかと,刑事事件をできない弁護士が今後どんどん増えていくのも困るなという危惧をした次第である。
 この模擬裁判,民事については集合修習直前のものが少なかった,刑事については集合修習に関係ない時期であっても応募が少な過ぎたという傾向をどう考えるか,我々も反省するのは,模擬裁判で具体的にどういうことを修習生にやってもらうのか,もう少し知らしめた方がよかったかと思う。民事について言えば,交互尋問の技術だけを教えているわけではなく,弁論準備,事実認定,法律構成,主張,そういった我々が必要不可欠なものを手続の流れに従って,体験的に身に付けてもらうために,弁護士委員たちが必ず付き添って指導する。最後の本番では,民事では裁判官も立ち会って総合的な評価をしていただく。法科大学院を出て,分野別実務修習も済んで,これから集合修習に入る,そのための架け橋としては大変有意義な科目であること,これをまず修習生に理解させれば,もっと応募が増えるのではないかと思う。
 刑事についても,検察官や裁判官の協力を得て充実した刑事裁判ができており,実際に参加した修習生も本当にやってよかったと言っていたくらいではあるが,もう少し修習生が参加しやすいような,意義が分かる提供の仕方をした方がよかったのかなと思っている。
 模擬裁判など是非履修してもらいたいプログラムについては,制度的な問題もあるが,選択型だけではなくて,ある程度は選択必修制にすることも検討の余地があるのではないかということが,現在,弁護士会で議論されているところである。
 このように,東京三会で提供したプログラムについては,個々のプログラムによってばらつきがあり,修習生が何人来てくれるのか,教えがいがあるのかという不安が今後もあるところではあるが,引き続き様子を見つつ,検証しながらプログラム提供をしていきたいと思っている。
 大阪弁護士会も大変熱心にやられている。沖縄弁護士会においても,小規模会ということでプログラム数は少ないが,一覧表等のとおり,基本的なもの,以前の社会修習的なもの,公設事務所への派遣といったプログラムが見られる。小規模会では,もともと分野別修習でいろいろな事件を見ることができるというメリットがあり,大規模会は部分的にしか見ることができないということもある。大規模会と小規模会との選択制での提供プログラム数のばらつきはあまり問題ではなく,基本的なプログラムをいかに修習生にうまく提供していくか,そのあたりを今後,検証していけばいいのかと感じている。
 それから,東京・大阪で全国の修習生を相手に,例えば大規模事務所あるいは知財事務所に派遣するという全国プログラムがあったが,これも充実して行われたと聞いている。ただ,一つ心配されるのは,守秘義務の問題である。ことに知財事務所では,依頼者と話している内容は一切他言無用,これは絶対必要なことである。守られているとは思うが,迎える側としては心配だと,危惧が多いとも聞いている。
 それから,自己開拓プログラムについては,法律事務所修習を認めるか否かという議論が必要かもしれないが,東京ではホームグラウンド以外の法律事務所での修習を不承認としたようである。どこまでが修習の理念に沿っているかどうか,これも含めて今後検討していく課題かと思っている。
 まだ課題は多く,今後何年か見ていかないと,制度的にどうすべきなのか結論は出ないと思うが,以上のような印象及びデータが出てきたところである。

高橋委員長 刑事弁護離れという御指摘もあったが,酒巻委員,研究者の目から見ていかがだろうか。

酒巻委員 刑事が昔から人気がないのは厳然たる事実だと思うが,現在,刑事手続は,捜査の段階も含めて,おそらく戦後最大の大変革期にあり,これから法律家になろうという若い人々にとっては,いろいろな創意工夫の可能性,すなわち,まさに法律家の生き甲斐である基本に立ち帰りつつ新たな法実務を創造する活動や,基本的素養である事実の認定や証拠の評価,あるいは関係者の基本権への配慮・保障といった,法律家として最も大事な仕事の核心部分が含まれているので,このような動きに感応して刑事分野にも強い関心を持って活動していただける潜在的な人材はいると考えている。一方,修習の期間も短くなり,二回試験も控えておりと,まずは目先のいろいろなことがあって,なかなか刑事の選択型にいきにくいということもあったかもしれないが,大前提として,まずそれぞれの分野別実務修習の段階で,刑事に関係のある法律家たちが,現在進行中の刑事手続改革の重要な意味について積極的な指導をしていただいていることを私は承知しているし,そこで刑事に関心を抱いた修習生は,検察や裁判所の選択型プログラムにも参加していると思う。今後も,まずは実務修習の場で,大変革期にあって創意工夫を重ね,努力している本物の刑事実務家たちの姿を修習生に見せるということが大事だろうと思う。そうすれば,必ず志のある人たちは将来刑事分野の仕事にも携わっていただけるのではではないかと思っている。
 なお,模擬裁判を選択する人が少ないということであるが,多くの法科大学院は,カリキュラムの中に,民事及び刑事の模擬裁判を,学校によってはかなり充実した,一学期を使うようなものを盛り込んでいるし,あるいは選択型の前の民事裁判,刑事裁判の実務修習でも,模擬裁判をやっているということも承知しているので,選択型については別の活動を選択したということも考えられるのでないかと思う。

翁百合委員 今回初めて,法科大学院を出た人たちが,非常に短縮されて充実したと考えられるプログラムを受けたことになるが,実際に受けた人たちが全体としてどういう感想を持って,どのような改革の余地があるかということについて,アンケートや意見を聞くということをしているか。今後の検討において非常に重要な参考資料になると思うが,いかがなものか。

巻之内幹事 各単位会とも必ずアンケートをとって,データを収集している。それを整理して次の年に引き継ぐようにしている。

林(道)幹事 翁委員から御指摘のあったアンケートの点も含め,冒頭で紹介した本年5月,6月に開催予定の指担協においては,分野別実務修習と選択型実務修習について,民事裁判,刑事裁判,検察,弁護の立場に分かれて,時間を割いて,実情とそれを踏まえた今後についての議論をお願いしようと思っている。その結果を何らかの形で集約して,指担協の後に整理をした上で幹事会を開き,委員会にも御報告するという形で,より実情を踏まえた形での御議論をお願いできればと思っている。

4.新61期教官派遣の実情

田村幹事 民事裁判科目からは,新61期から始まった導入起案と講評のための出張に関し,民裁教官が実際に何をやったのか,やってみてどうだったのか,その2点を説明したいと思う。
 導入起案では,20ページ程度の修習記録を使用し,主張整理や事実認定のポイントに関する即日起案をさせて,その起案が司法研修所に送付され,各クラスの教官が検討する。その上で教官が各地に出張して講評を行うが,起案の結果を踏まえ,また修習生との質疑応答により,その理解度を確認しながら講評を行った。その中で,民裁修習での心構え,留意点,習得目標等についても併せて講義している。
 導入起案を行った結果の意義については4点あるかと思う。一つは,修習生に対し,修習の冒頭に,民裁修習に取り組む動機付けあるいは勉強の指針を与えることができたこと。2点目は,教官側が,その時点での個々の修習生の力量や全体的なレベル,問題点等を把握することができ,それを踏まえたきめの細かい指導を行うことができたこと。3つ目は,教官が講評のために出張した際に,実務庁の指導担当裁判官と修習に関して意見交換を行うことにより,司法研修所と実務庁がより連携を深めることができたこと。4つ目は,クラス編成が実務庁を基準にしたものとなっているので,出張の機会に教官とクラスの修習生が懇親の機会を持つことができ,それによって修習生の人柄に触れたり,あるいは修習生の側から日々の修習に関する率直な感想,疑問,要望等を聞いて,これに答えることができたことである。
 以上が民裁教官の出張講義の概要であり,1人の教官が複数庁に連続して出張するのは体力的に厳しい面もあるが,それ以上に大きな意義があったと思っている。

河合幹事 刑事裁判科目の導入起案及びその講評についても,基本的な目的,位置付け,実施の方法は,民事裁判科目と同様である。
 導入起案では,従来の裁判記録の形式,いわゆる白表紙記録ではなく,事実認定に特化した50〜60ページ程度の事実認定教材を新たに準備して,事実認定と刑事手続の基本を起案してもらった。問立てについては,必ずしも事実認定に関する十分な予備知識がなくても,自分の頭で考えれば一定水準の起案を作成できるヒントを与えるなどの工夫を行った。
 公判手続に関する問題については,法科大学院で学んだ基礎的な知識の習得度を確認するとともに,実務修習の動機付けとなるような手続の法的根拠や実質的な理由を問う問題を出題し,あまり事実認定に慣れていない,刑事手続をそれほど勉強していない者でも,十分解答できる内容になるよう工夫した。
 導入起案の結果であるが,事実認定について,被告人と犯人の同一性の有無に関し,関係事実と重要な証拠に基づいて指摘できるか,重要な目撃証人の信用性判断が的確に行えるかなど基本的なところを問うた結果,教官が出張して講評した際に修習生からの感想を聞くと,事実認定というのが非常に難しくて,どうやって書いていいか分からなかったが,実際に起案し,教官から講義を受けたことによって,今後の刑事裁判修習に向けてのロードマップを与えられてよかったという感想が比較的多かったように思う。
 教官としても,早期に事実認定に関する理解度,手続に関する習熟度を把握でき,その結果を実務庁に情報提供することにより,今後の指導の基本方針や個別指導の参考にすることができたと思っている。
 各地に出張するということで負担は多かったが,それ以上に,今後,実務修習が重要な位置を占める中で,このような講評を行って非常によかったと評価しているところである。

野々上幹事 検察科目の教官出張は2種類あって,一つは,民事弁護,刑事弁護の教官と同じ日に出張して行う講義である。その時点でどの修習をやっているかにかかわらず全員の修習生を集めて行うもので,その点にメリットがあった。
 もう一つは,検察修習中の修習生を対象として,各クールに1回,出張して行う講義である。つまり,出張が計5回,各修習生が2回教官に会うことになるが,その狙いは,やはり前期修習がなくなったことに伴う諸問題を克服したいということではあるが,前期修習に代わるものという位置付けではなく,基本的に前期修習でやっていた内容は,今後は実務修習地が自ら行うということを前提に,その支援を行うものと位置付けている。
 出張講義の意義は,各地に配属されている検事には経験年数のばらつきがあることなどから,できるだけ修習の水準の均一化を図りたいということと,修習生に対して実務修習と集合修習がどういう関係にあって,最終的にはどういう能力を獲得してもらいたいかという話をするには,最終的に指導を担当する教官が説明しておいた方がいいということである。
 更に,集合修習の雰囲気を味わってもらうため,1度だけ練習で全国一斉の起案をさせて,司法研修所に郵送してもらい,教官が採点して返すということをやっている。
 なお,東京地検の例を申し上げると,実務修習の冒頭1週間,導入教育プログラムというものを実施した。
 幹部検察官による,検察とは何かというそもそも論から始まる講義や,若手の指導係検事による,検察修習ではどういうことを検討しなければいけないか,取調べを行うためにはどういう点に注意が必要か,という実践的な講義をした上で,演習として,同じ記録を全員に与えて,みんなで議論をさせた。まず受理時点の事件記録を渡してどういう補充捜査が必要かを考えさせ,メモを作らせる。その後,補充捜査が完成した事件記録を与えて,どういう処分をしたらいいかを考えさせた。
 また,修習生を検察官役と被疑者役に分けて,模擬の取調べを行う。場合によっては指導担当検事が被疑者役をして修習生を泣かせたりしているようだが,そういうことを1週間ぐらいやって,検察とはこういうものかという雰囲気をまず理解させてから,生の事件に触れさせるということを行った。

栗林幹事 民事弁護科目も,出張講義を前期修習に代わるものという位置付けはしておらず,むしろ集合修習において求められるもの,その方向性を修習生に示すことを基本に考えている。
 そのため,出張講義におけるカリキュラムについて教官室で議論をした結果,先ほどの集合修習の説明と共通するが,答弁書の起案をさせて,それについての講評を行うという内容にした。具体的には,修習開始前に資料を修習生に送り,修習開始日までに答弁書の起案を研修所に郵送させる。それを各クラス担当の教官が見た上で講評に臨むということである。
 資料としては,原告から出された訴状,各書証,被告の代理人となるべき弁護士が被告本人から聞き取った聴取書,手持ち資料といったプリント教材を送り,それを検討して,答弁書,すなわち認否と抗弁,反論を起案させる。更には手持ち資料の中から適切な資料を選択して,乙号証として提出させる。つまり,各修習生が,どの程度,法的な基本を理解し,それを証拠に基づいてどのように構成をし,自らの主張を展開し,また原告の主張についての適切,合理的な反論ができるかということである。事件の内容も,非常に基本的な賃貸借にかかわる解除の事件で,そんなに難解ではない。
 この起案を見た上で出張講義で講評して,集合修習においてどのような能力,そして起案能力,あるいはこれに付随する保全や執行の知識が求められるのかということを説明したところであるが,各教官の印象としては,起案能力自体は新60期あるいは現行型の修習生とそれほど違いはなかったとのことである。事前課題という形であったため,修習生同士が相談をして同じような起案が多数出てくることを危惧していたが,特にそのようなことも感じられなかったということであった。
 体力的には大変厳しい出張講義ではあったが,懇親会も含めて,大変有意義であった。修習生の側としては,一つは二回試験に対する漠然とした不安,もう一つは就職に対して大変な危機感を持っていた。ことに大都市圏ではない小規模庁会配属の修習生は,例えば東京に頻繁に来るわけにいかないので,就職の状況がどうなのかといった情報を非常に欲しがっていた。そういう状況の中,冒頭にクラスの担当弁護教官が出張して,そこで交流が図られるということが,修習生にとっても大変よかったという反応が概ねであったということである。

宮崎幹事 刑事弁護科目の教官派遣講義においては,我々は当事者チームと呼んでいるが,検察と民事弁護と刑事弁護の三教官が1日を使って講義を行った。
 刑事弁護については,9時30分から11時50分までの140分間,この時間をどう有効に使うかということで種々議論し,結論としては講義ではなくて,事前課題を送付して,具体的な事案に基づいて講義を実施するということにした。資料については,従前の修習記録とは別に,内容はやや平易なものであるが,従前のレベルに近く読みやすい形式を整えた80ページ程度のプリント教材を作って事前に送付し,弁論要旨を起案させた。併せて,その記録は殺人未遂被告事件の記録であるが,警察官請求証拠の実況見分調書があったので,それに対する証拠意見などについても,小問という形で起案をさせた。修習生には合議を禁止して,修習生から送付されたものを教官があらかじめ検討し,添削をした上で,現地に赴いて140分間の講義をするということで実施した。狙いとしては他の科目と共通であるが,実際,現地に行った教官の多くが非常に得るものが多かったということで,教官にとっても,あるいは修習生にとっても非常に好評であった。
 従前から指摘されていることとして,分野別実務修習では,刑事弁護では事実認定において争いになるような事件に乏しく,主として情状についての案件が多い。従前の刑事弁護では,主として無罪事件や認定落ちの事件で事実認定について学ばせるという視点があったので,前期修習あるいは導入修習がなくなったことで実務修習と集合修習が乖離するという心配もあったが,修習生は非常に熱心で真面目な受講態度であり,従前の期と比べても,素質や意欲に問題があったり,劣っていたりということはなく,十分優秀な人材がいたという印象を受けた。
 こうして一定の所期の成果は達成できたと理解しており,今後についても継続するのが相当と考えている。

吉戒委員 派遣講義については,修習生が現場で日常的な事件を起案し,教官から同一の記録による均一な講義を受け,客観的な公平な評価がされるという,非常にいい機会ではないかと思う。従来は,教官と実務の指導官との接点があまりなかったが,出張の機会にその接点もでき,連携もより強化できたということで,御苦労は多いと思うが,この制度は続けていただきたいと思っている。

大橋委員 冒頭修習について若干説明したい。
 新61期から集合的な導入修習がなくなったことにより,弁護士会としては,果たして実務修習がちゃんとできないのではないかという不安感を持った。弁護士会では,裁判所,検察庁とは違い,直ちに個別指導担当者に配置されてしまう形となるため,全体を指導する機会が非常に少なくなった。そこで日弁連では,新60期の修習生の配属のある各地の弁護士会に対し,弁護実務修習の最初に弁護士会独自の導入的な修習,これを一応「冒頭修習」と称しているが,これを行うことを提唱するとともに,冒頭修習用の民事及び刑事の記録を作った。この記録については「新61期修習生に対する「冒頭修習」の実施状況調査について」に若干の内容が書いてある。今回の教材の特徴は,教材だけではなく,指導担当者用の解説書を同時に作ったこと,これが非常に特徴的なことだと思う。
 また,日弁連から各弁護士会に対し,冒頭修習についてのアンケートを行った。アンケートの内容は「新61期修習生に対する「冒頭修習」の実施状況調査について」と題するペーパーに添付のとおりである。
 ここからは私の個人的な感想になるが,法科大学院を修了した時点で前期修習終了程度の能力があるということが「前期修習終了程度」という言葉として一人歩きしてしまっている感があり,そのため実務修習担当者は,従前の前期修習終了時のイメージをそのまま引き継いだために,能力について過大な要求,あるいは期待をしていたように思う。一方,太田委員御指摘のとおり,法科大学院の中では,法科大学院は新司法試験に合格させればよく,その先は司法修習に任せればよいという考え方を持っているところがあるようである。制度的に持っているかどうか分からないが,少なくとも学生の中には,そういう感覚で法科大学院の授業を受けている人もいるようだ。これは基本的に違っており,形式的には新司法試験を受かればよくても,実質的,能力的にはそれだけでは不十分であり,継続的な自己研さんが不可欠であろうと思うので,この点を学生にしっかり認識させておくことが必要ではないかと考えている。
 ただ,どこまでが法科大学院で教える範囲なのか,少なくとも最低限どこまでなのか,ここは法科大学院側と司法修習側とで十分議論して話し合って決めていく,少なくとも大筋についての合意をしていくことが今後必要な作業ではないかと思っている。
 司法研修所は,法曹教育の唯一の担当機関として約60年間にわたり,教材の作成方法や指導方法,起案その他の指導方法も含めて,かなりの教育上のノウハウを蓄積してきたと思う。これを法科大学院の教育にどのように移管し,どのような形で提供できるかというのが,今田委員が言われた全体としてのシステムを動かす上で重要なことだと思うが,司法研修所として,何か考えているところがあればお聞かせいただきたい。

林(道)幹事 例えば,裁判科目であれば,法科大学院に教員として派遣されている裁判官たちの使用に耐え得るような教材を作成するとか,実務修習に対する支援の関係についても,先ほど検察上席教官からも紹介があったが,考えていく必要があるだろうと思っている。ただ,現在は新・現行型の修習が併行実施されていて,二回試験の関係でも新と現行型で同一年度に2種類別の記録を作らなければいけないなど非常に繁忙を極めている中で地方にも派遣されるということで,非常に時間配分,労力配分が難しい状況にある。いずれ新修習に一本化していくことを考えると,プロセス全体をにらみながら,法科大学院に対し,教材だけではなく,ノウハウ的なものも提供し,あるいは意見交換をしていくということも重要な課題になっていくだろうと思っている。引き続き,状況を見ながら考えていきたいと考えている。

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